読書感想文

最近読んで気に入った本を紹介します。
タイトルがなさけない・・・なにかいいタイトルないでしょうか(^^;)

本を読むのは通勤や移動中。
したがって、帰宅したころには細かい感想を忘れてることがしばしば。

てなわけで、ちょこちょこと地道に感想を書きます(^^;)
☆5つで満点。★はオマケです。


ちなみに、1999年 2000年 1月 2月 3月 4月 5〜7月分です(クリックしてください)


2000年 8月

マイク・レズニック「キリンヤガ」(早川書房):文庫:☆☆☆★

 このところ、まともなSFを読んでなくって。何か面白いのはないかな、と探していて、ふっと手にとった一冊だ。
 表紙にあった、「ヒューゴー賞・ローカス賞受賞」のあおり文句に興味を持った。
 この賞はSF界では「ネビュラ賞」や「ホーマー賞」と並んで、よく見かける。・・・どういう賞なのかは、おはずかしながらよく覚えていないが(笑)

 ストーリーは中篇を積み重ねて進んでいく。
 時は2123年。種族の文化維持を達成したユートピアを夢見た、アフリカのキクユ族らの生活が舞台だ。
 ある小惑星は「キリンヤガ」と呼ばれた。
 そこではキクユ族の文化にのっとり日常が過ぎてゆき、祈祷師である「ムンドゥムグ」の意向がすなわち、キクユ族の神であるンガイの意志になる。

 このユートピアで重要なのは、キクユ族の文化純潔性を守ること。
 他のアフリカ民族の文化や、ヨーロッパ文明を受け入れてはならない。
 なぜなら、それは「キクユ族」であることの否定にほかならないから。

 本書の主人公はキクユ族の文化やしきたりのうち、何が正しいかを判断する役目をになう、ムンドゥムグたるコリバだ。
 コリバはヨーロッパやアメリカの大学で学士を取得し、英語や読み書きも自由自在に操れ、小惑星「キリンヤガ」の気候もコンピュータを通じて自由自在に操作できる権限を有する。

 前置きが長くなった・・・。
 本書のテーマは「保守的な意志をもつことのむずかしさ」がテーマだと思う。
 コリバはもともとヨーロッパ文明の教育を受け、そしてその文明の一切を拒否した。
 考えを同じくするキクユ族の同志と語らい、小惑星の楽園「キリンヤガ」を作り上げた。
 たとえ自給自足を強いられ、野生動物や病気や過酷な労働を強いられる生活であっても、「キリンヤガで暮らすこと」がキクユ族の誇りを持ちつづけられる、唯一の生活だと判断したから。

 だけどそんなプライドを持ちつづけられるのは、コリバと意志を同じくした第一世代の住民だけ。
 世代交代するにつれて、新しい世代の人間はつぎつぎにコリバに難問を突きつける。
 「なぜ、ヨーロッパ人みたいに読み書きをしてはいけないの?」
 「なぜ、毎朝川へ水を汲みに行く代わりに、井戸を掘ってはいけないの?」
 「なぜ、ヨーロッパ人の考え方を否定して、ンガイの教えを信じないといけないの?」

 精神的指導者たるコリバは苦悩しながらも、一族からの質問に答えを出していく。
 そこでコリバが感じるのは「キクユ族の考え」を押しつけるほど、民族としての発展性や活力がなくなること。
 キクユ族のみんなに考えることを停止させ、ンガイと「あるがまま」を受け入れてしまうと、そこから先に一歩も勧めなくなること。
 自分以外のキクユ族のみんなが、ヨーロッパの文明をもとめるのはわかる。
 単純に、快適な生活を約束されるのだから。

 他の文化を取り入れることが、みずからの民族の誇りやアイデンティティをなくすことになるのは、コリバは身にしみてわかっている。
 けれどもキリンヤガで生まれたキクユ一族は理解しないし、理解出来やしない。
 実感がこもってないから。かといって、さらに失敗を繰り返させるわけにはいかない。
 ならばコリバが苦労しながら、ユートピア「キリンヤガ」を作り上げた意味がないじゃないか。
 
 その苦しみながら考えるコリバのありさまが、とても刺激的だ。
 僕のつたない文章力のせいで、堅苦しい小説かと誤解してしまうかもしれないけれど。
 抑えた筆致で淡々と描写された小説世界を、見事に読みやすく翻訳している。

 コリバは最後まで、自分の意志を曲げない。その意志の強さと、まわりの環境との意識がずれていくところがスリリングで、ぐいぐいストーリーに引き込まれる。
 保守的であることで、どういう代償を要求されるのかが伝わってくる。

 通勤途中に読んでたけど、退屈な電車の中にいる時間を忘れて読みふけるにはぴったりだった(笑)
 寓話につつまれた物語の裏から、いくらでも深読みできるメッセージが伝わってきた。(8/28記)


栗本薫「青の時代〜伊集院大介の薔薇」(講談社):ソフトカバー:☆☆☆

 今年の初めに出版された、伊集院大介シリーズの一冊。このところ本シリーズでは竜崎晶をめぐる「舞台」や「役者」にこだわって作品が進んでいる。
 本書では番外編的に、その登場人物の一人である女優の若かりし頃を舞台にして、事件に伊集院がからむ推理小説になっている。

 とはいえ、栗本の推理小説は厳密な意味でミステリーになっていない。
 トリックを楽しむのではなく、主役はあくまで人間模様・・・というより、「小説」だ。
 登場人物のモノローグを語りたいがゆえに小説世界を設定し、商品として成立させたいがために、推理小説のストーリーを作り上げている。そんな気がしてならない。
 つまり、栗本にとって重要なのはストーリーや小説設定ではなく、ましてやトリックなどでもない。
 あくまで人間の独白を描きたいがゆえに、小説を書いていると感じる。

 本書のテーマも、最近の諸作で栗本がこだわっている、「才能のある人が、自分の才能を肯定することで、孤独を受け入れる」ものだ。
 一見いやみになるテーマだけれど、小説の天才(つくづく僕はそう思う)である栗本の手にかかると、実に自然に最後まで読ませてしまう。
 
 ただし、描きたい主題がストーリーやトリックにないために、エンドシーンになると犯人があまりにも矮小に感じ、とってつけたようにまとめる印象がするのは否めない。
 とはいえ、ひとときの物語に吸い込まれる快感を味あわせてくれる小説は、そうそうない。
 もっとも僕が本当にこの快感を実感できるのは、グインを読んでるときなんだけどね(笑)(8/17記)


松山晋也 監修「プログレのパースペクティブ」(ミュージックマガジン社):ムック(新書):☆★

 この本は、MM社が数年前から散発的に出版している「CDベスト100」シリーズの一冊。
 音楽評論家がテーマを決めて、それにまつわる小論数本と、レコードレビュー(未CD化作品も含む)100枚分をまとめて作り上げたムックだ。
 今までに本書を入れて13冊出版されていて、そのうち僕は9冊持ってる。
 だから、僕はこのシリーズが気に入ってる・・・と言いたいところだが、読んでみるたびに、不満が募ってくる。

 不満の理由は「選者の個性が見えにくい」ってところだ。
 レビューされている100枚は監修者が選んでるようだけど、紹介文は複数の評論家による文章だ。そのために、論点の統一感が欠けてしまっている。
 数本ある小論も、複数のライターのペンによるものなので、監修者のピントがボケてしまうのが否めない。
 出版までの作業を考えた場合、複数のライターを使うのはやむをえないことなのかもしれないけど・・・。
 もし、とことんやるなら監修者一人に、すべての文章を書いて欲しいもの。

 なのに、僕がこのシリーズを何作も買うのは、読んでいて刺激を受けるからだ。
 当然、このムックで紹介されている音楽すべてを知ってるわけじゃない。
 聞いたことがない音楽を、レビューをもとにあれこれ想像するのはとても楽しい。
 テーマによっては「このCDをこの文脈で選ぶかぁ?」って疑問が生まれるけどね。
 とはいえ、そんな考えの違いがあるから面白い。完全な「名盤百選」だと、毒にも薬にもならずに終わっちゃうもの。

 今回のテーマは「プログレッシブ」だ。選盤は大胆なことをしている。いわゆる「プログレ」は4割くらいかな。残りは名盤ロックやソウルミュージックからも選ばれている。「表現技法における革新性」をプログレッシブの定義としてあげているせいだろう。
 だけど、このくくりにすると、テーマがボケやすい。監修者も序論で述べているが、ポップ・ミュージックは多かれ少なかれ革新性を持っているから。
 もっと選者の趣味に走って、いわゆる「名盤」を全部なくしたらおもしろくなったろうに。

 そんなわけで、選者の無節操さは、今ひとつだ。おまけに選ぶミュージシャンも選ぶ盤も、かなり僕と趣味が合わない。
 今、日本で最も刺激的なアンダーグラウンド・プログレ・シーンを、想い出波止場以外はほぼ無視したのも気に入らない。

 僕の定義するプログレは二種類。いわゆるシンフォニック・ロックと泥臭さを払拭して、かつインプロ中心で長尺な演奏を売りにした音楽だ。
 かといって、PHISHをプログレに入れる気はさらさらない。あのバンドの演奏は泥臭さを多少感じるから。他にも理由はあるけど、長くなるので別稿に譲りたい。

 だから、この本そのものは僕にとっては、あまり楽しめなかった。
 なのになぜ紹介したかというと。本稿の冒頭で挙げた「読んでいて刺激を受けた」ことたことには間違いない、ってなちょっと皮肉っぽい理由だ。
 それともうひとつ。この本に岸野雄一というライターが、レビューや対談で参加している。
 この人の意見が、いい意味でとても刺激的だった。僕がこれまで考えなかった側面からの、レビューをばしばし読んで楽しませてくれた。
 
 岸野雄一という、新しいライター(もっとも、かなりのベテラン・ライターだけど)による分析への魅力を気づいたことで、この本を買った価値がある。(8/12記)


谷村志穂・飛田和緒 共著「お買い物日記2」(集英社):文庫:☆☆☆

 この本は、二人の著者がお気に入りの物を写真入りで紹介したエッセイだ。
 ちなみに、当然「1」もある。僕はまだ、手にいれてないけど・・・。

 数百円の雑貨から、それなりのブランド物衣服や化粧品にいたるまで。
 暮らしの必需品から、生活に彩りを与える小物などを、カラー写真つきで46点紹介している。
 谷村の文章は、語尾に「〜である。」を多用して、ちょっと堅苦しいところもあるけど。
 基本的には読んでいて、うきうきする文章だ。
 それに飛田和緒のほのぼのしたキャラクターも楽しい。

 読者のターゲットは、きっぱり女性。たぶん、初出は女性誌じゃないかな。
 だから男の僕が紹介するのは、いまいちふさわしくないんだよね・・・。
 それに、この本を読んでいて喜んでいる僕は、雑貨や部屋の飾りにはあんまり興味がなくって。洋服の趣味もシンプルだし。いたって無頓着。
 だから、この本を読んで「あ、あれ買おう」とは思わない。
 
 とはいえ本から漂う、のんびりしたムードのエッセイは、読んでいてリラックスできること請け合い。女性の人が読んだら、もしかしたら紹介されてる商品を買いたくなるのかもしれない。
 
 もともと僕がこの著者を知ったのも、谷村の小説を読んだのがきっかけだ。
 「アクアリウムの鯨」って小説を読んでみたら面白くて、彼女のエッセイも何冊か手にとっていた。
 ざっくばらんでワイルドなキャラクターの、谷村のエッセイは爽快感があった。
 谷村と、元バレリーナの料理家の飛田は、コンビを組んで何冊かエッセイ集を出している。
 これがまたどれもこれも、とびきり面白い。「1DKクッキン」って料理エッセイも、とてもおすすめ。
 薄い文庫本だし、写真はカラフルだし。
 気楽に読めるから、ふっと息抜きしたくなったときに手にとって欲しいな。(8/9記)

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