読書感想文
最近読んで気に入った本を紹介します。
タイトルがなさけない・・・なにかいいタイトルないでしょうか(^^;)
本を読むのは通勤や移動中。
したがって、帰宅したころには細かい感想を忘れてることがしばしば。
てなわけで、ちょこちょこと地道に感想を書きます(^^;)
☆5つで満点。★はオマケです。
ちなみに、1999年 2000年 1月 2月 3月 4月 分です(クリックしてください)
2000年 7月
西澤保彦「麦酒の家の冒険」(講談社):新書:☆★
男二人、女二人の四人の大学生が、旅行に行ってガス欠で立ち往生してしまい、まぎれこんだのは無人の山荘。しかも、そこには人が暮らした痕跡すらない。あるのは、一台のベッドとクローゼットに隠された冷蔵庫だけ。しかも、その冷蔵庫の中にはビールのロング缶96本と、ジョッキが13個。
一夜明けて、彼ら四人はなんとか帰る算段をとりつけた。帰る途中に見つけたのは、もう一軒の山荘。
ところがその山荘も人の気配はなく、あるのは一台のベッドと冷蔵庫だけ。
しかも、冷蔵庫の中にはビールがぎっしり。ロング缶が95本詰まっていた・・・。
ストーリーは特にない。上に紹介した奇妙なシチュエーションを、ひたすら登場人物の四人が推理していくだけで、新書一冊がおわってしまう。
といっても、なんだか堅苦しくてややこしいミステリじゃあない。
本書のほとんどが会話ばかりで、テンポよくページがめくられていく。
論理(というか屁理屈)をこねまわす過程を、気楽に楽しめる小説だ。
言ってみれば、コンパの途中で盛り上がった推論を、横で聞いている感じかな。
本書の下敷きになったのは、ハリイ・ケメルマンの「9マイルは遠すぎる」って短編だそうだ。
僕はまだこの短編を読んだことはないけれど。これも読んでみたくなった。(7/19記)
スティーブン・ウォマック「やぶれかぶれでステージ」(早川書房):文庫:☆☆
なんのきなしに図書館で借りたミステリ。こういうアメリカの翻訳物をよむのはひさしぶりだ。翻訳が体に合わないと、なかなかストーリーにのめりこめないのと、淡々とした描写を読んでいると飽きてしまうため。
ところが、これはかなり楽しめた。寝食を忘れて読みふけるってほどじゃないけれど、最後まで次の展開がどうなるのか気になるくらいには楽しめた。
飽きさせない一つが、ストーリーの巧みさにあるだろう。
要求を掲げて武装した犯人グループは、人質たちをつれて篭城してしまう。その施設には、主人公である探偵の恋人が人質としていた。
主人公は彼女の身の安全にやきもきしながらも、まずは目先の小切手を確保して落とさないと、ご飯だって食べられやしない。
そうこうするうちに、友人の元奥さんが殺されて、最有力容疑者として友人は逮捕へ。
無実を証明するために、調査に乗り出した主人公は、その殺人事件の裏を探っていく・・・・。
おおざっぱにストーリーを語るとこんな感じ。
複数のプロットを平行して走らせるが、人物描写が確かなので破綻しない。
おまけに登場人物はだれもかれも、のどかな性格なので読んでいて重厚な雰囲気がなく、気軽に読めるのもいい。
ほのぼのした、肩がこらないミステリ。和みます。(7/9記)
鴻上尚史「ロンドン・デイズ」(小学館):単行本:☆☆☆
劇団、第三舞台の主催者鴻上尚史は、1997年の夏から一年間、イギリスに留学していた。ロンドンの演劇学校で、演劇教育の体系を勉強するために。
この本は、その留学中の一年間を日記形式につづったもの。
当時、鴻上は雑誌「SPA!」に連載を持っており、その中でも留学の様子は書かれていたが、それは非常にエンターテイメントに満ちた文章だった。(「ドンキホーテのロンドン」の題で、単行本化済)
しかし、この本ではギャグが控えめ。とても淡々とロンドンでの日常が書かれている。
英語に苦しみ、文化の違いに苦しみ、ロンドンでの日常にとまどう日々が。
で、あっさりとした描写で書いているからこそ、鴻上のロンドンでのとまどいがひしひしと伝わってくる。
おまけに、さらっと読んでいると読み飛ばしそうな文章のあちこちに、いろいろと考えさせる個所が隠されている。
今後、僕が海外に行く機会があったとしたら、この本の内容はとっても参考になるだろう。
とはいっても、かたっくるしい本じゃない。
気軽に読んで「わっはっは」って楽しめる面白い本です。(7/6記)
有栖川有栖「幻想運河」(実業之日本社):単行本:☆☆★
舞台はオランダ・・・アムステルダム。てなわけで、ドラッグの煙につつまれた、夢心地の雰囲気が全体をつつむ。
ストーリーはたわいない。ある一人の日本人がアムステルダムで、知り合いがバラバラ殺人の犠牲者になる。その犯人探しをするのが主なストーリーだけど、およそミステリにありがちの緻密感はない。
ぶらっと感情の赴くままに過ごしているうちに、いつのまにか周辺の状況が変化していく感じだ。
ラストシーンの謎解き(なのかな?)シーンで、急にシラフになる気がして、興ざめしてしまうほど。
それほど、もわっとした感触を読んでいて味わえる。
とはいえ、本物の幻想小説のような曖昧さはない。
あくまで読みやすいミステリ。とくに大げさに褒めちぎるようなもんじゃないかもしれない。だけど、ラストシーンで感じる、雲の中に頭を突っ込んだような、ぼおっとした読了感は捨てがたい。(7/1記)
2000年 6月
田中芳樹「巴里・妖都変」(光文社):新書:☆☆★
最近は田中芳樹も、すっかり筆が重くなっちゃって残念。たまに出版されると中国の歴史ものだし。
そんななか、今年の頭に出版された「ドラよけお涼」シリーズ第三段。
どっか説教くさい田中節も健在で楽しめた。
ストーリーそのものは、それほどこってない。道具立てや舞台をそろえて、そこで登場人物がばたばたって暴れまわる感じ。
ただ、このそこはかとない脳天気ムードがうれしい。
ほのかなラブストーリーの妙を心得てるんだよね。(6/21記)
西澤保彦「ストレート・チェイサー」(光文社):新書:☆★
この著者は、SF仕立てのミステリーがお得意らしい。SFミステリそのものは、以前からいくつかあるはず。ぱっと思い浮かぶのはアシモフかな。
ところが、この作者は「現代を舞台にSFの道具立て」を使ったミステリがお得意のようだ。
僕自身は、別にSF風味のミステリは否定しない。
ただ、小説の冒頭に「この小説は、こういう設定の物語なんだよ」ってお約束の説明を、描写して欲しかったな。
ネタばれをさけるために詳細は伏せるけれど。
このミステリでの密室トリックは、はっきり言ってアンフェアだろう。
普段、僕はミステリのトリックを推理しながら小説を読んだりしないけども、それでも「これはないだろう!」って、電車の中で読みながらつっこんでしまった。
舞台そのものも、なぜアメリカにしたのかって必然性が今ひとつ感じられない。
てなわけで、もろ手を上げて推薦は出来ないけれど。
読み終わったときの読了感がすがすがしかったから、紹介してみました。
ちょっとした息抜きに読むにはいいかも。(6/21記)
平田順子「ナゴムの話」(太田出版):単行本(ソフトカバー):☆☆☆★
この本は、ナゴムの話だ。そのまんまだけど。
ナゴム。僕の世代で、邦楽のインディーズ・シーンに興味を持ってた人なら、ぜったいに覚えているはず。有頂天のリーダー、ケラが主宰していたレコードレーベルだ。
当時、雑誌「宝島」を中心にインディーズ・シーンが盛り上がっていた頃。インディーズ御三家のウィラード、ラフィン・ノーズ、そして有頂天。
YBO2のトランスギャルと並び称された、篠原ともえの元祖ともいえるファッションでライブに通ってた(悪名高い)ナゴムギャル。
「イカ天」でバンド・ブームが盛り上がりまくり、たまやミンカ・パノピカ、グレイト・リッチーズらのレコードを出していたことでも有名になったナゴム。
そしてなんといっても、有頂天はもちろん、筋肉少女隊や電気グルーヴ(当時は「人生」)、ばちかぶりを輩出し、カーネーション(グランド・ファーザーズ)やカステラも所属していたレーベル。
あの80年代前半から90年頃にかけて、邦楽シーンのアンダーグラウンドを語るときには欠かせないレーベル、それがナゴム。
この本は、ケラにはもちろんナゴムにかかわった36バンド全ての関係者にインタビューし(一部は連絡が取れなかった人はいるけども)、とても目配りの聞いた本だ。
あくまでナゴムを内部、あるいは外から体験した人たちの意見を尊重し、筆者の思い込みなどはほとんどない。気楽な装丁だが、ドキュメンタリーの基本を忠実にまもった労作になっている。
しかも、資料関係もとても充実。ナゴムの全ディスコグラフィーのレビューに、当時の宝島に掲載されていた広告を全て収録(ちょっと字が小さくて、読みづらいのが難点だけど)している。
これがどんなに凄いことか、当時を知っている人はピンと来ると思う。
限定数百枚しかリリースしないソノシートやEP、LP。ビジネスとして構築されていないから、まともな客観的資料はないに等しい。
なのにここまで・・・すばらしい。
強烈なケラの熱意に押されて集まったミュージシャンらのスタンスは、どこかのどかなところがある。そんなほのぼのとした雰囲気のおかげで、読んでいて静かな元気が出てくる素晴らしい本だ。(5/15記)