読書感想文
2000年 1月
清涼院流水「ユウ 日本国民全国参加テレビ新企画」(幻冬舎):新書:☆★
この欄で紹介した「エル」シリーズの続編。
といっても、ストーリー的な連続性はあまりない。登場人物の一部が同じ、小説世界のテーマが類似、小説作法が同様手法というところにシリーズとしての同一性がある。
大人気テレビ番組「ゴールデンU」。その番組は、一般視聴者が15秒の間、自分自身をアピールする「CM」をひたすら紹介する番組だ。木村彰一はそこで自分が出演している「CM」を見た。そんな番組に応募した覚えはないのに・・・。
本書は前作同様、中間部に頭から終わりまで連続的に読む(著者いわく「Iターン」読書)のではなく、ある特定の章を飛ばして読み、最後まで読み終わった後に飛ばした章をはじめて読む(「Uターン」読書)を推奨している。
前作「エル」を読んだ時は「Iターン」で読んだけれど、今回はせっかくなので「Uターン」で読んでみた。
著者は「Uターン」の後で「Iターン」の読み方がまた楽しめ、「一冊で2度楽しめるように設計されている」という。
個人的には、逆に数度読まなければわからない書き方をする物語は、パズルとしては面白いが、小説としての完成度は首をかしげる。だから、正直再読を強いるような本書の書き方は好みじゃない。
けれども、単純なハッピーエンドのメインストーリーに、同じストーリの裏で描かれるもうひとつのストーリーは、それなりに楽しめたので紹介することにした。
人物描写や具体的なエピソードを意識的に排除してるので、小説を読んでいるというより、あらすじを読んでいる気がするのはいつものとおり。だけど、アイディアが面白い。「わらっていいとも」を彷彿とさせる「ゴールデンU」の設定や、ラストのどんでん返しとかね。こういうパズルチックな小説がお好きな方にはおすすめかな。(1/27記)
宮部みゆき「パーフェクト・ブルー」(東京創元社):文庫:☆☆☆★
宮部みゆきの処女長編作。犬の一人称による、ひねったスタイルで書かれている。
元警察犬マサが、現在の飼主である探偵事務所の女性調査員と、高校野球の名ピッチャー殺人事件の謎にせまっていく。
とにかく全体の構成がうまい。キャラクターも魅力的でもっともっと書き込んで欲しいくらい。
設定の乱暴さに苦笑するところもあるが、ストーリーの魅力と軽やかな文章に引きつけられ、次の展開が楽しみでどんどん読んでしまう。読後感も気持ちいい。
とてもデビュー作とは思えない。宮部みゆきの才能が炸裂した見事な小説だ。(1/25記)
清涼院流水「エル 全日本じゃんけんトーナメント」(幻冬社):新書:☆☆
じゃんけんに勝ち抜いてトップを目指す全日本じゃんけんトーナメントの戦いがシンプルに記述されていく。
要約すればそれだけ。ただし、これがめっぽう面白い。
著者もあとがき触れているが、ヤングマガジンで連載されていた(まだ連載中かな?)奇想天外なギャンブルの駆け引きを描いた漫画、「カイジ」との類似性はある。
だが「カイジ」にどこか陰鬱さや暗さがあったが、こっちは小説世界の根元のフットワークが軽い(小説が能天気一辺倒って意味じゃありませんが)。
この著者は小説の構造そのものをぶち壊すような乱暴さが魅力のひとつになっている。
だから僕はのめりこめるものと、まったく受け付けないものとまっぷたつに評価が別れてしまうのだが。こいつは僕の好みに合っている。
細かい小説世界の背景に対する描写はほとんどなし。全編を通じて、ただじゃんけんをしてるだけ。なのにおもしろい。
ラストの落ちも気が聞いてて、楽しめます。(1/25記)
立石洋一「インターネット「印税」生活入門」(メディアファクトリー):ソフトカバー:☆★
トランスベスティズム(異性装)がテーマの小説を、HPでオンライン販売している著者による、エッセイのようなもの。
いかにしてオンライン販売を選択したか、オンライン販売をするまでの試行錯誤、著者なりの小説をオンライン販売することに関する心構えなどが書かれている。
帯に「文章を「読む気にさせる」ホームページの構造」とあるのを見て、手にとった。
HPでの僕が書く拙い文へのアドバイスにならんかな、程度の軽い気持ちだったんだけど。
読んでいていろいろ考えてさせられた。
著者の言う「ニッチマーケット」だからこそ成立しうる、ネット販売の有効性(返本リスクからの開放)に対する可能性が興味深い。
”読み手尊重”を実現する為のさまざまな筆者のトライアルも考えさせられた。
ちょっと僕もHPの構造を見直さなきゃな。でも、いつのことになるやら・・・。ううむ。(1/25記)
栗本薫「タナトス・ゲーム」(講談社):ソフトカバー:☆☆☆
伊集院大介シリーズ。
ヤオイサークル主催者の殺人事件をめぐっての物語。栗本薫の場合「物語」って言葉をどうしても使いたくなる。白っぽい小説が多い時代から、栗本薫は饒舌に物語を語りつづけていた。新本格派が流行りだしたころから、日本のエンターテイメント小説の文字面はだいぶ黒っぽくなってきたように思う。そしていま、栗本薫の小説を読むと、舞台を見ているかのような長台詞に絡め取られていく。
ヤオイは僕自身としては共感しづらいジャンルだ。小説世界の意見には正直同意しかねるところもあるのだが、栗本薫の文章に翻弄されてのめりこんでいく。
「仮面舞踏会」のころは、インターネットに触ったこともなかった。
そしていま、僕はこうしてインターネットを利用していて、HPすらもっている。今現在の僕の視点で読むからこそ、見えてくるものもあるなあ、と思いながら読んでいた。
(1/23記)
大沢在昌「毒猿」(光文社):新書:☆☆★
言わずと知れた、新宿鮫シリーズ第2弾。過去に僕は読んでないみたい。
新宿御苑に無性に行きたくなった(笑)身近な新宿を舞台にしてるから、親近感が持てる。つまり、ニューヨーカーがニューヨークを舞台にしたハードボイルドを読むのはこんな感じかなってこと。(1/23記)
中島らも「永遠も半ばを過ぎて」(文藝春秋):単行本:☆☆☆
突然押しかけ居候をきめこんだ高校の同級生の相川は、詐欺師だった。写植で生計を立てる波多野は、いつのまにか詐欺の片棒を担がされるはめに・・・。
伏線が見事に絡まりあい、次から次へと場面が変わっていく。人物描写があっさりと書かれているので、登場人物に感情移入こそしないが、ストーリーが二転三転していくから、次の展開にわくわくさせる。何の気なしに読み始めたが、ぐいぐい物語世界にひきこまれ、土曜日に山手線をぐるっと回って、一気に最後まで読み上げてしまった。(1/22記)
若竹七海「遺品」(角川書店):文庫:☆☆★
角川ホラー文庫の書き下ろし。
キュレーターの女性が赴任したホテルには、過去自殺した女優のコレクションが。そのコレクションの整理をまかされたものの、つぎつぎに不思議な現象が・・・。
ホラーといいつつ、ユーモアたっぷりの会話に吹き出しそうになってしまうことしばしば。この作家は、会話の描写が抜群に魅力的です。ストーリーもひきつけられます。
だけど、エンディングがちょっと僕の好みとそぐわない。
幻想的に終わらせずに、とことんホラーでつっこんでくれてもいいのにな。(1/18記)
中嶋博行「違法弁護」(講談社):文庫:☆☆☆
解説によると、現役弁護士である著者の「法曹3部作」の2作目らしい。
横浜を警ら中の警察官と税関署員が射殺された。捜査途上に浮かんだ企業「アゼック社」には、巨大な法律事務所「エムザ」が顧問として控えていた。そしてエムザに勤務する女性弁護士は、アゼック社の担当を命ぜられる。女性弁護士は、アゼック社の陰謀に気づくが・・・・。
ストーリーは練られている。うまいぐあいに切り替わっていく視点も巧み。法律用語や警察業界をじっくりと説明する、黒っぽい文章の割にすいすい読めるところもいい。
この本もエンディングがあっけない。さんざん盛り上げたストーリーを、あっというまに収束させる演出を好きな人は、この本の評価が上がると思う。
僕は、せっかく膨らませたストーリーは、閉じるにもじっくりページをつかってほしい、というのが最近の好みなもので。とはいえ、読んで楽しめることは間違いないです。
でも、さらにこのあとの3作目「司法戦争」が抜群におもしろいらしい。
この本よりおもしろいとは。ぜひ読まねば。(1/18記)
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