Review of Merzdiscs  9/50

Yantra Material Action

Composed&Mixed by Masami Akita
MA plays tapes,junks,Noise,percussion,radio,drums,guitar,etc.
Kiyoshi Mizutani plays percussion,guitar,keyboards,synthsizer,tapes,etc.
Recorded at various locations
Mixed at Junktion Music Works,1981

 この音源は、リリースまでに紆余曲折あったようだ。
 もともとは、雑誌「フールズ・メイト」主宰のレーベル、Eastan Worksからリリース予定だったもの。
 ライナーをフレッド・フリス(カセットでこの音源を聴いて気に入ったとか)に頼む予定が、LPリリースそのものがぽしゃってしまう。
 
 半年後に同レーベルから再度、リリースのオファーを受けたときには、別の作品を提供してしまう。(「Material Action 2(N.A.M)」:本boxの13枚目に収録)

 本作は没った「Material Action」のテープを、秋田が再編集したもの。
 録音は81年だが、83年には秋田の個人レーベル「Lowest Music & Arts」からカセットでリリース。のちに同じく秋田の個人レーベル「ZSF」からもリイシューされた。
 さらにアメリカでは93年にAnomalousrレーベルからも発売された模様。

 この作品はリリースを意識したのか、過去の秋田の作品を思い出させる様々な手法をとった小品が収録されている。
 そのため、ここまでのメルツバウの代表作としても聴けそうだ。
 
 とはいえ、全体的に小粒なので地味に感じてしまうのは否めない。
 ちなみに、なぜかひさびさに「作曲:秋田昌美」のクレジットあり。
 演奏を聴く限り、ほとんど即興だと思うが・・・。
 上に書いたとおり、後にテープ編集を全面的に加えているから、それを「作曲行為」としてとらえたのかな。
 秋田が好きなフランク・ザッパの方法論を意識して。

 そのわりに、曲目クレジットがないのが残念。
 例え謎めいて象徴的なタイトルだったとしても、秋田がそれぞれの作品に込めた、自己主張を感じられて興味深いのに。

<曲目紹介>

1. (11:25)

 いきなりメカニカルなノイズが直線的につっこんでくる。
 かぶさってくるのは、もごもごとデス・メタル風に喋る男の声。
 ビートは特になく、思い出したようにパーカッションが浮かび上がっては消えていく。
 派手さはなく、淡々と音が流れていく。「OM Electriqe」を思い出すなぁ。 
 今回のドローンもハムノイズ。ハム・ノイズに耳の焦点を合わせて聴いていると、少々気持ちが悪くなってくる。
 だから小物の金物を、にぎやかに叩くノイズへ気持ちをずらせばいいのかな。
 すると、性急にからころ泳ぐリズムが楽しい。

 あと一つ忘れちゃいけない効果が、ドローンのハム・ノイズ。
 単なるバックで終わらずに、時に前面へ顔を出して自己主張する。
 まるで鯨の呼吸みたい。

2. (2:52)

 エレキ・ギター二本の爪弾きを絡み合わせた即興曲。
 ナイロン弦のような甘味のある音で、ゆとりをもって響く。
 特にテーマのない完全即興なので、聴き所をみいだすのが難しい。
 だから3分くらいの短い時間で、テープを止めたのは正解かな。

3. (1:48)

 今度もたぶんエレキ・ギターの即興だと思う。
 前曲とは打って変わって、エコーのまるでない鉄板ギターの音色だ。
 こんどはパーカッションを意識的に目立たせて、日本のお祭りのようなビートを提示する。
 かといって祭囃子のパロディを狙ったかのような思想性は感じられない。
 単純に、叩いてて面白かったから音を重ねてみたんじゃないかな。

4. (4:37)

 前CD「Material Action 2 Microphones for」のような、物が擦れる音を集めたノイズ。
 マイクの感度を思いっきり上げて、日常生活で様々に流れるノイズを轟音で広い、ミックスしているのではないか。
 リズム隊は特にいないのに、「ごおっ。ごおおっ」っと響くノイズが、微妙にビートを感じさせる。
 
 ほとんどの音が、深いエコーを伴って鳴る。
 聴いていて感じる僕のイメージは、洞窟の中で一晩過ごした時の、夢で見た世界を音像化した・・・ってところ。

5. (1:06)

 ヴァイオリン・ギター・ドラム・金物パーカッションなどが、気ままに現れては消えていく小品。
 やさしく音が弾んで穏やかな雰囲気の本作は、耳障りなノイズ作品の合間で、いいインターミッションになっている。

6. (8:40)

 バイクのエンジンのような音が、豪快に唸りをあげる。
 こういうノイズ作品は、排気音好きな人には受け入れやすいんじゃないかな・・・そんなことをふと思った。
 メルツバウを何度も聴いていれば、精神の回転数はがんがん上がってハイになれるしね(笑)
 ワイルドに咆哮するノイズが、とても力強い。
 SF映画のワープシーンみたいなところに使っても、ぴったり似合いそうだ。

7. (7:26)

 録音レベルは低め。水谷のオルガン即興をコアにして、秋田がパーカッションやギター、金属的なノイズなどをかぶせていく。
 どうも盛り上がりに欠けてしまう。
 ヴォリュームをあげて聴けば印象は違うのかもしれない。
 でも、小さな音で聴いても、心がどきどきする過激さが、メルツバウの魅力だと思うけどな。

8. (4:35)

 ラジオパルスを編集した作品。
 チューニングするときのノイズと、瞬間的な肉声がクロスフェイドでつながっていく。
 2:45くらい経って質感が加速したあたりから、俄然おもしろくなる。
 ハイスピードで転がる金属音は、テクノの文脈で聴いても楽しめるはず。
 これをベースにダンス・サウンドすら作れそうだ。
 この作品こそ4分半といわずに、延々と聴いていたかったな。

(2000/10/28記)

Let`s go to the Cruel World