Review of Merzdiscs 13/50
Material Action 2(N.A.M)
MA plays tapes,junk percussion,electro-acoustical Noise,tape
collage
Kiyoshi Mizutani plays tapes,synthesizer,violin,machine Noise
Recorded and mixed by Masami Akita at Junktion Music Work,Tokyo
sep-Oct 1982
本盤はメルツバウが、始めてLPのメディアでリリースしたアルバム。
まず秋田はさまざまなテープ・コラージュをベースとさせて、水谷がそこにシンセとパーカッションをかぶせる。
さらにキーボードを秋田が、渋谷のジャンクション・ミュージック・ワーク・スタジオでダビング、という手順を踏んで録音されている。
ライナーノーツによれば、パーカッションの音は発泡スチロールとタイプライター(当時に水谷がタイプライター会社につとめていた関係だそう)を使用。
特に本盤の一曲目でこれらの奇妙なサウンドが効果的に使われている。
初のレコード・リリースを迎えて、メルツバウは気負いがあったのだろうか。
このサウンドを聴く限りでは、けっこう「聴きやすさ」とか「わかりやすさ(きっちりとした構成)」を意識したように聴こえてならない。
メルツバウの音楽性が、想定したリスナーへのおもねりによって、替わってしまってるってわけじゃない。
単純に「聴き手が存在することを意識した音作り」になっているって言いたいだけ。
自分自身や楽器の偶発性だけに頼り、好き勝手なノイズをある時間継続させ、任意の瞬間で切り取る。
それも一つの作品の作り方だろう。
だけど、それはなんども聴き返して楽しい作品にまで、完成度を上げるのは難しい。
偶発性に頼ってしまう部分があまりにも多いから。
それよりも、こうして「作品」としての出来を意識したレコードの方が、なんども聴き返すには楽しい。
あ、でもひとつ補足。
このアルバムは、けっして不特定多数の人には薦められません。
そこはもちろんメルツバウ。
さまざまなノイズをふりかけた、ややこしいサウンドを作り上げているので、甘い期待で聴くと、頭がぐしゃぐしゃになると思います。
<曲目紹介>
1.Nil Ad Mirari (22:47)
ごろごろ言うリズムに、遠くから響く奥深いテープのノイズ。
さらに、きいきい甲高いノイズがテンポよく、散発的に挿入される。
まさにエレクトリックノイズ版のジャングルサウンド。
どこまでメルツバウが意識しているかはともかく、はっきりと音から景色のイメージが広がる。
このキイキイ言っている音は、発泡スチロールをひねくりまわしてるのかな。
皮肉なことに、今聴いても過激さは感じられない。
とても落ち着いて、なごんで聴けるサウンドになっている。
ポップさこそないものの、爆裂ノイズは控えめ。
さまざまなサウンドを総合して、一つの音世界を作り上げている安心感があるから。
このメルツバウが提示する、ノイズ密林になじんでしまえば、あとは単純にスピーカーの前で音による異世界探検を楽しめばいい。
もやけた音像をベースにして、左右からさまざまなパーカッションの音がかぶさってくる。
後半になると、サウンドには微妙にシンセの音が目立ってきて、次第に音はスペイシーになってくる。
密林のイメージ一発だけで終わらせず、どこか変化点を盛り込ませずにはいられないあたり、いかにもアイディア豊富なメルツバウだ。
2.Nimbus Alter Magneto electricity
(18:12)
もこもこしたノイズをドローンとして、ごろごろいうサウンドが色を添える。
雰囲気は、ほんのりスリリング。
ベースとなるリズムを提示されていないせいか、はたまたノイズの音色が派手なせいか。
聴いていて、どこに耳を着地させればいいのか馴染めなくて、ちょっと不安になってくる。
(1)よりは、こちらの方がメルツバウの個性が出てるかな。
様々な音色を混ぜ合わせ、複雑なノイズを積み上げていく。
電気的なノイズが、ぶるぶる震えながら降りかかってくる。
サウンドの足元はぐらぐらして、一瞬たりともくつろげない。
メルツバウの提示する音に翻弄されて、ふっと気が付いたらメルツバウの音にどっぷり使っている。
その過程が、とても楽しいんだけどね。
とはいえ、もっと過激さが欲しいな。
次第に盛り上がってくるとはいえ、心臓をわしづかみにされるような緊迫感を感じるまでには昇華されていない・・・残念なことに。
しかし、これは今のメルツバウを聴いた耳だから、そう思うんだろう。
言ってみれば、ぜいたくな悩みってもんか・・・喜ばしいことなのかなあ。