Review of Merzdiscs  8/50

Material Action for 2 Microphones

MA plays condenser microphone,envionmental percussion,scratched sound,tapes,turntable,radio,etc.
Kiyoshi Mizutani plays condenser microphone,percussion,etc.
Recorded live at Mizutani Home Studio,Kasai.July 1981
Additional synthesizer played by Kiyoshi Mizutani
Mixed at Lowest Music&Arts.1981

 本人のライナーによると、この作品のコンセプトは「日常生活で溢れているノイズの収録」だそう。
 当時は身内でこの即興方法を「Material Action」と呼んでいた。

 録音場所は、そのとき水谷が住んでいた葛西の自宅。シンプルに二本のマイクで録音した音を中心に、テープノイズなどをミックスしている。

 この収録時はマイクの感度を思いっきり上げて、小さな音が恐ろしくラウドに響く効果を狙っている。
 紙をくしゃくしゃにしたりする音や木やプラスチックを叩いた音、髭剃りやテーブルランプのばねが産み出すかすかな軋みが、暴力的なノイズに表情を一変させてしまうのはとても面白い。

 本作は1981年に自分のレーベルよりカセットでリリースされた。それ以外は、83年のLP「Material Action 2」の素材としても使われたらしい。

 この作品には、いろいろなポップスや歌謡曲がテープ加工されて、作品の一要素となっている。
 で、この作品は水谷の自宅で録音したわけだ。

 となると、これらのポップスや歌謡曲の音源は、水谷の自宅にすでに存在してたのかな。ノイジシャンのテープ棚に、流行の音楽がそろってるさまを想像すると、微笑ましくも面白い。

 単純に、ラジオからエアチェックした音楽を、テープ加工して使ったって可能性もあるけどね(笑)

<曲目紹介>

1.Hoochie Coochie Scrached Man (25:31)

 混沌としたノイズが、冒頭から溢れ出す。
 金属的な音が、スピーカーで唸りを上げる。
 ビート感を感じさせる、リズムらしいものは何もない。
 ひしゃげた音が、つぎつぎに顔を出しては消えていく。
 
 そこらにありふれたノイズを片っ端から収録しているとはいえ、音楽作品として見事に成立させられる編集能力が素晴らしい。
 単調になる部分はかけらもなく、まさにおもちゃ箱をひっくり返したような奇妙な音が、つぎつぎに積み重なっていく。
 しかも、ミックスの段階でさまざまな音の要素をまぜこぜにすることにより、ノイズによるオーケストラって印象を受ける瞬間さえある。

 テレビかラジオから取ったと思える肉声が、日本語の意味を剥奪されて、単なる「ノイズ」として虚しく響くのは、聴いていてとてもさみしい。
 この作品からは、優しさは伝わりににくいな。
 冷徹な視線がぴいんと作品全体に張り詰めている。

 部屋の中から生まれるノイズを、かたっぱしから吸い取って作品に昇華してやる、って気迫を感じてしまう。
 本人がそこまで追い詰められて、作品を作っていたかどうかは別にして・・・ね。

 後半で顔を出す、テープに取られたクラシックの音楽は、フレーズがほとんどわからないほどボロボロに解体されている。
 普段は心地よく響くオーケストラのサウンドも、そこまで加工されては印象が一変する。
 物を引っかくノイズと肩を並べて単純に、一瞬の間に響く音色だけで勝負している。

 エンディングでは、赤十字社の宣伝カーが流す広告文句がくっきりと収録される。
 それまで無意味の中で漂ってきた耳に、突然突きつけられる日本語は、とても薄ら寒く響いた。

2.Yumin,Non Stop Disco (21:14)

 ぼろいテープを使ったかのようにひしゃげた音楽が左チャンネルから流れてくるのがイントロだ。
 この曲はなんだろうなあ。残念ながら曲目がわからない。
 ひとしきりたつとテープの回転を猛烈にあげられて、ノイズの一要素として大幅に変化する。
 
 この曲はそんな要素ばっかりだ。カセットテープの回転を変えることで生まれるノイズを中心に即興をつくりあげている。
 聴いていて意味を感じとりそうになった瞬間、ノイズに変換していくタイミングがもどかしい。

 タイトルから見て、ユーミンの音楽をテープ操作でめちゃくちゃにした音楽かな、とも思ったけど・・・そこまであからさまにわかるようにはしていない。
 ただ、中盤で明らかに日本語のポップスや歌謡曲を、テープの回転数を変えてノイズとしてまぜこぜにしているので、どこかでユーミンも使っているかもしれない。
 さすがに何の曲を使ってるのかまではわからなかった。

 サンプリングとは違った意味で、すでに存在する音楽をネタにして作り上げた作品だ。
 サンプリングする場合、もとのレコードになんらかの愛情があってネタにする場合があるだろう。
 なのにこの作品では、「モトネタ」に対する愛情は感じづらい。
 悪意・・・といってもいいかもしれない。
 
 ただ、これだけはいえる。
 この作品を聴いていて、聴き手が陰鬱になったりはしない。
 もし「ポップス」の破壊がテーマだとしても、この曲には奇妙なゆとりが感じられる。

 いわゆる「ポップス」がだれでも歩きやすい舗装道路だとしたら、この曲は石ころだらけの山道ってところかな。
 しょっちゅうつまづくけど、けっして退屈はしないで歩ける。  

3.New Acoustic Music No.7 (23:58)

 (1)と(2)の集大成のような曲。なぜNO.7なのか、はよくわからないけれども。
 ごそごそうなる引っ掻きノイズと、早回しの歌謡曲がミックスされて現れるところから始まる。

 ただ、ちょっと退屈かな。
 破天荒さなら(1)がとびきりだし、既成の曲の破壊っぷりなら(2)だし。
 両方のよさをあわせてさらなる魅力を付け加えようとしたのかもしれないが、どっちとらずの中途半端な作品になってしまったように思う。

 一番の欠点は音の薄さかな。もっといろんなノイズを詰め込んで、ぎっしり音像を埋め尽くすようなミックスだったら、ずいぶん僕の印象も変わっていたろうにな。

 中盤ではカットアップとして、いろいろな音楽が一瞬だけ顔を出しては消えていく。
 それらの音楽は、作品全体の音像がうすっぺらいミックスだからこそ、ひときわ切なく感じる。
 なにせほんのわずかな時間に「ひゅっ」と音楽を奏で、ああっというまに消えていってしまうんだから。
 一過性のヒット曲の悲哀を表現・・・ってのは、うがちすぎな聴き方かな(苦笑)

(00/10/24記)

Let`s go to the Cruel World