telのCD購入紀行

興味の赴くままCD買って聴く。日記めいた徒然の感想ページ。

*凡例  1・年間購入の通しNo:ミュージシャン:アルバムタイトル:感想」の順。 
       2・盤の印象は☆5点満点。★はオマケ。ある程度聴くと盤のコメントと星を追記してます。


<過去の購入紀行> 
2016年 2011~2015年 
2010~2006年 2005~2000年  

2015年12月

2015/12/7   注文したCDが到着。

   05年のサントラ・シリーズ。5人編成でジョン・ゾーンがオルガンでクレジットあり。
289・John Zorn:Filmworks Xvi - Workingman's Death:☆☆☆★
   パーカッションとエレクトロニクスを軸に、多彩なアレンジやアプローチで聴かせる一枚。
   思い切りノイズ寄りの(7)からリズム飛び交う楽曲まで幅広い作品群だ。
   サントラの枠を借り、実験するゾーンらしい一枚。

   05年発売の現代音楽なジョン・ゾーン。委嘱でなく自発的な作品を収めた。
288・John Zorn:Mysterium:☆☆☆★
   編成の異なる三つの現代音楽を収めたクラシック。抽象的な室内楽の(1)、
   玄妙な女性ハーモニーがエレガントで美しい(2)、スピーディで前衛的だが静かな余韻を残す(3)。
   それぞれに表情が異なり、複雑で理知的でロマンティックでオカルト趣味なジョン・ゾーンの多様性を、
   コンパクトに味わえる一枚。特に(2)での神秘的な美しさが聴きものだ。

2015/12/1   最近買ったCDをまとめて。

   今年の新譜で71分一本勝負。13年6月にジム・オルークのプロデュースにて東京で録音された。
287・坂田明 & Jim O'Rourke With Chikamorachi & Merzbow:Flying Basket すっ飛び篭:
   メルツバウの音がやたら低くミックスされ、単にサンプリングの要素として
   のみ存在なメルツバウの立ち位置が、あまりに悲しい。坂田明の強烈なブロウが
   轟く楽しみもあるが、ドラムやベースの存在感が低く即興の仕上がりもおざなりだ。
   オルークの趣味性で強く制御された、ノイズ・ドローンっぽい仕上がり。
   どんなに音像が喧しく動いても、奇妙な諦念感が全編を覆う。

   9月頃に山下達郎がラジオで特集してたやつ。ワーナーが所有音源を使ったガール・グループ中心で
   全5枚の単品CDシリーズと、サーフィン&ホットロッド1枚のオールディーズ・コンピを、まとめて入手した。

   ワーナー/リプリーズ、デル・ファイやインディの音源集。(2)、(7)、(22)が世界初CD化。
286・V.A.:PIxie Girl: Warner Girl Group Nuggets Vol. 1:☆☆☆☆
   ガール・グループや女性ポップス、若者向けの"作られた"ポップス集。62-67年までの曲を、時系列で並べた。
   アメリカでの層の厚さを痛感。いわゆるB級ソングやB面曲などマイナー狙いながら、幅広いスタッフと歌手の
   候補がいてこそ、粗製乱造でもこれほど胸に来るメロディや歌唱に仕上がるんだろう。
   商売っ気の楽曲ばかりだが、ビジネスが今ほどシステマチックになっておらず、ペイラインもおそらく低い。
   ローカル・ヒットでもOKなレベルで、どしどし作ったっぽい。だからこそガレージ的な
   勢いある荒っぽさも楽しめる。ブライアン・ウィルソンやジャック・ニッチェら、
   今のポップス視点でも楽しめるスタッフ・ワークを紹介した解説も素晴らしい。
   耳馴染みある楽曲と世界初CDのレア曲、双方を混ぜた幅広視点がメジャー・レーベルらしいコンピだが。
   マニアでもBGM用でもキャッチーなメロディが次々耳に飛び込み、間違いなく楽しめる。

   音源は上記と同様の多様なレーベルの作品集。(2)(4)(7)(19)(21)と(22)が世界初CD化。
285・V.A.:Hanky Panky: Warner Girl Group Nuggets Vol. 2:☆☆☆☆★
   ガール・グループや女性ポップス、若者向"作られた"ポップス集。本盤も62-67年までの曲を、時系列。
   コンピ盤ごとに年代で輪切りせず、レーベルなど緩やかなくくりで縦に抜いた格好だ。
   Vo.1と横断的なコンセプトだが、こっちの方がソフト・ロックな名曲も多くて胸に刺さった。
   有名曲の収録が多い割に世界初CD化も多数。マニアにも聴き始めにも楽しめる。
   (6)は手持ちのリイシュー音源より、抜けが良くなってた。すると全般的にパンチあるサウンドは
   リマスターの賜物なのかも。今回も解説は丁寧で、作曲家やスタッフの功績に目配り効いた記述だ。
   それだけ歌手のほうが一発屋やローカル色強く情報無いのかもしれない。

   こちらも同様レーベルの音源集。(2)、(6)、(12)、(15)、(16)、(17)が世界初CD化。
284・V.A.:What A Guy: Warner Girl Group Nuggets Vol. 3:☆☆★
   (1)のサビに大瀧の曲を連想してしまう。他の曲もみずみずしく、どこか背筋伸ばした
   凛としてるガール・ポップが詰まった。これは気持ちいいコンピだ。中流白人の整った世界観だな。

   NYのディメンション音源を集めた。(6)と(19)が世界初CD化。
283・V.A.:Some Kind Of Wonderful: Warner Girl Group Nuggets Vol. 4:☆☆☆★
   クッキーズやリトル・エヴァを軸に、キュートなポップスを詰め込んだ。
   演奏はときにかなり荒っぽいけれど、滑らかなメロディと毒の無い華やかさが
   どの曲からも伝わってくる。粗製乱造、しかし着実なポップス集だ。

   コルピックス音源集。(4)と(7)が世界初CD化。
282・V.A.:A Boy Like You: Warner Girl Group Nuggets Vol. 5:☆☆★
   まさにシングルを聴き進めるような編集が楽しい。B級ぞろいでどこか華が無いけれど
   スペクター・サウンドを下敷きに瑞々しいポップスが山積みだったんだ、と
   実感するコンピだ。いかにもな時代のリミッターかかった音質だけど
   もっとビビッドなサウンドだと魅力が増してたかもな。楽しい。

   60年代前半、ワーナー/リプリーズ、デル・ファイやその他インディ音源を収録した。
   どれが世界初CD化かは、ライナーから読み取れず。ぼくは詳しく無くコメントもできず。
281・V.A.:She Rides With Me: Warner Surfin' & Hot Rod Nuggets:☆☆☆★
   メジャー系音源をもとのコンピなため、素人臭い演奏はごくわずか。
   しかし流行りに乗って膨大に生まれた、いわば粗製乱造なサーフ・ロックが詰まった
   楽しいコンピレーション。西のブライアン・ウィルソンたちや東のボブ・クリューら、
   才人が関わった故に、荒っぽくてもきらりと光り後年でも聴くに堪える
   輝きを持ってると実感。50年の時を超えた若者のみずみずしいパワーにやられた。
   同時発売のポップスより、大人の事情が少なめに聴こえるような幻想を覚えるせいか。
   個々の感想は割愛するが、ロックンロールの楽しさを味わえた。

   小埜涼子とのデュオでルインズの派生ユニット、13年発売の2nd。吉田隆一が2曲でゲスト参加した。
   吉田達也がNYのブラスバンド、ASPHALT ORCHESTRに委嘱した13年の新曲を本ユニットに
   アレンジした(9)や、短尺インプロ4曲などルインズのカバーを超えた構成を施した。
280・Sax Ruins:Blimmguass:☆☆☆★
   インプロを収録がうれしい。さらに新曲投入もうれしい。これまでルインズの
   派生ユニットと、どうしても色眼鏡で聴いていた。だが全く違うバンドとして
   ルインズのレパートリーも、演奏するバンドと実感した。
   次はインプロたっぷりで、もっとこのユニットならではの音楽を深めてほしい。
   サックスの多重録音は今回も健在。分厚いサックスに載ってアドリブするダイナミズムも良い。

   BB5のカールが81年リリースの1stソロ。91年の再発を最後に廃盤を、今年に米Sonyがリイシューした。
279・Carl Wilson:Carl Wilson:☆☆☆★
   A面のサザン・ロック路線とB面のメロウ路線。屈折と開放の双方が無邪気に詰まった。
   大味なA面と繊細なB面の二面性を内包する、一筋縄でいかない
   カールの五目趣味がうかがえる。共通項は素直なメロディ。ビーチ・ボーイズの
   ブランドやイメージをあまり気にせず、やりたいように音楽を紡いだ。
   突き抜けず中庸に、滑らかなポップスを聴かせる。どっちが好きかと聞かれれば
   やはりB面なのだけど。A面のおおらかさも、明るい日差しを浴びながら聴くのもよい。

2015年11月

2015/11/28   最近買った盤をまとめて。

   GbVがらみの最近の新譜が、ようやく到着。まとめ発注したからなあ。
   過去の未発表音源をCD4枚組で全100曲、蔵出し発表する、スーツケース・シリーズの第4弾。どんだけ音源あるんだ。
278・Guided by Voices:Suitcase 4:

   現在のロバート・ポラードのバンドによる、今年3枚目の新アルバム。
277・Ricked Wicky:Swimmer to a Liquid Armchair:☆☆
   ザクッとしたギター・ロックが詰まった。2曲の全くボブの絡まない楽曲入りだが
   さほど違和感なく聴き流してしまう。個々の楽曲は興味深い箇所もあるが、どうも
   上滑りしてしまう出来だ。

   トバイアス兄弟とのユニットが、1年ぶりに新譜を発表した。
276・Circus Devils:Stomping Grounds:☆☆★
   演奏クレジット無いが、トバイアス兄弟の楽器にボブの歌が基本かな。冒頭からプログレ風に
   ポップな盛り上がりを見せた。ボブの作品と違いメロディのキャッチーさが低いのが特徴。
   コンボ編成とは違う、ヒネッたアンサンブルを投入の印象を受けた。
   アルバム個々の楽曲より全体として盛り上がりを作る感じ。ちょっと冗長かな。
   各楽曲は2分くらいの小品詰め合わせだが。(8)がとてもボブっぽいメロディだ。
   (11)や(15)のようにサイケなポップも置き、決して力押し一辺倒ではない。

   これは伊ピアニストによるCD8枚マラソン・セッションなソロ、第2弾で02年発売。
275・Franco D'Andrea:Solo 2 - Abstractions:☆☆★
   73分みっちりと詰め込まれたフリーな曲集。乱暴さは控えめ、現代音楽のような抽象的で
   不安定な響きが特徴の即興だ。全12曲、無闇に長尺を狙わず次々にアイディアを膨らませた。
   硬質な欧州風のジャズは、ハマると耳に馴染む。

2015/11/19  最近買ったCDをまとめて。

   ジョン・ゾーンの映画音楽集、00年の第9弾。clとピアノのデュオが基本か。
274・John Zorn:Filmworks IX: Trembling Before G-d:☆☆☆
   Bar Kohkbaのバリエーションとも聴ける。小編成でMasadaの楽曲も取り入れた。
   鍵盤とクラリネットのシンプルな編成を軸に、時にじっくり、ときに素早くと
   バラエティ富んだ楽曲を楽しめる。

   日本のファンク・バンドの1stEP、2015年の盤。菊地成孔の私塾出身者らしく、ゲストが豪華。
   JAZZ DOMMUNISTERS(菊地成孔+大谷能生)、フレネシ、真部脩一(ex:相対性理論)らが参加した。
273・Wools:Wools - EP:☆☆
   理性と知性でシティ・ソウルを再解釈した奇妙な志向の盤。歌の線が細い点は惜しい。
   人脈も含めて菊地成孔的な、初期衝動をアナライズの面白さで彩る志向をびんびん感じる
   独特な世界観だ。(2)や(5)のようにエンタメを意識した曲が面白い。

   日本のヒップホップで12年の1stアルバム。なんか気になって入手。
272・Moe And Ghosts:幽霊たち:

   伊のジャズピアニストがテーマを分けて、マラソン・セッションで全8枚の独奏盤を出した。
   これはその第一弾で、スタンダードを演奏。02年の発売。
271・Franco D'Andrea:Solo 1 -Standards:☆☆★
   トラックは5つだが、メドレーでつながる曲もあり実質は8曲。ピアノソロの自由度を
   最大限に生かし、テンポも拍子も自在に変化させる。ロマンティックなタッチを
   基調に、表情はさまざま。時にフリーな展開まで踏み込むかのよう。
   あくまでも曲は素材と位置付け、即興部分は奔放に変化させた。
   スタンダードが本盤のテーマだが、楽曲はオリジナル曲集かのようだ。

   第三弾、フィル・ウッズの作品集。録音は上記と同じ、02年の発表。
270・Franco D'Andrea:Solo3 Woods:☆☆☆★
   グルーヴィなピアノが楽しめる。ウッズとは数枚で共演し、親しみ深いようだ。
   本盤録音後にもリー・コニッツの盤で共演している。
   一曲の尺を長くし数曲をメドレーにする4トラックと、じっくり一曲と向かい合う3トラックを収録した。
   本盤ではオーソドックスなジャズ・ピアノを踏まえ、あまりテンポを揺らさない。
   相応に右手は奔放なアドリブ展開だが、きっちりとグルーヴは維持した。
   スイスイと涼やかな雰囲気と、(3)みたいにガッツリ粘っこさが同居する。フレーズは素早い。
   とはいえアメリカでは無く、欧州の甘酸っぱい空気を吸収したジャズ。

   第六弾はクラシック系の楽曲集か。02年発売。
269・Franco D'Andrea:Solo 6 - Valzer, Opera, Natale:☆☆★
   クラシック集の堅苦しさはなく、穏やかなセンチメンタリズムが漂う粘る
   グルーヴのアルバム。左手と右手のタイム感を微妙にずらし、揺らぎを強調した。
   イタリア的な情感に馴染めたら、より楽しめる盤と思う。

   第八弾は初期のジャズ。ラグタイムなどを集めた。02年発売。
268・Franco D'Andrea:Solo 8 - Classic Jazz:☆☆
   取り留めないピアノ・ソロが詰まった。クラシック・ジャズと言いつつ、素直な
   スイング感は皆無。不協和音や変なリズムは使わないけれど、不安定に漂う
   フレージングが延々と続く。時にブギっぽいピアノがクラシック風か。
   メリハリ無く延々と続くアドリブのため、聴くのにけっこう集中力がいる。

   上記のマラソン・セッション以前、00年のピアノ・ソロ。98年の2day ライブのうち3セットを抽出し、CD1枚にまとめた。
267・Franco D'Andrea:Solo For Chet:☆☆★
   奔放に赴くまま、自由に曲を展開するソロ・ピアノ。スインギーさと硬質さを
   行き来しつつ、しゃっきりしたタッチで奏でていく。ときおりフリーに流れつつも
   ロマンティックさを残すのが、彼の持ち味。

   96年に出たJB周辺の再発機運で発表のコンピで、JBズや周辺ユニットのシングル集。
266・V.A.:James Brown's Funky People:☆☆☆
   JBズやリン・コリンズのシングル集で、周辺メンバーの脂乗った時代を集めてる。もちろん、悪くない。
   レア音源は、今では入門編な位置づけ。当時は貴重な発掘集だったが。
   しかしJBがプロデュースや作曲、アレンジにボーカルと全面クレジットなのに。どこかピントのボケた
   物足りなさを感じてしまう。逆説的にJBの存在感を実感する一枚。
 
   上記の続きで98年発表のコンピ。数曲の未発表曲発掘が売りだった。
265・V.A.:James Brown's Funky People (Part 2):☆☆★
   やはり本盤収録曲も、どっか隙があってぬるい。気楽に聴くにはJB御大盤よりこちらが向いている。
   (4)も延々続くファンキーでも肩の力抜けてるし。だが内容は悪くない。いかに当時のJBがキレキレかわかる。
   本盤として下手にミュージシャン別に並べず、ばらばらに配置することでアルバム全体の
   聴きやすさを配慮してくれたのもありがたい。この手の音楽は
   資料分析的に聴くより、まず楽しみたい。しかし数曲で聴ける、ユーモラスなシンセっぽい音色は何なんだ。

   ブログ用にTZADIKの旧譜を何枚か入手。02年発売、クレツマー・バンドの作品かな。
264・Roberto Juan Rodriguez:El Danzon De Moises:☆☆★
   タイトでさみしげなムードを漂わす、キューバ経由のクレヅマー。ただしバンドでなく、マーク・フェルドマン(vln)らが
   参加した一時的なユニットのようだ。リズムはラテン、メロディはユダヤ系。
   キップ・ハンラハンほどのハイブリッドさは出さず、自らの文化ルーツをフィルターに
   素直なユダヤ音楽への憧憬を表現したと感じた。演奏はばっちり、隙がない。

   未調だった。99年の琴ソロで、NY録音された。セクシーなジャケ写は荒木経惟の撮影だ。 
263・八木美知依:Shizuku:☆☆☆★
   素直に起承転結ある楽曲よりも、ミニマルにかき鳴らす抽象的な楽曲の印象が強い。
   敢えて既存楽曲にも日本文化にも頼らず、西洋文化へすり寄りも無い。自らの音楽を
   ストイックに追求した一枚だ。高速の唸る硬質な弦の響きに圧倒され、惹かれる。
   とっつきは悪いが、おそらく聴くほどに味が出る一枚。
   アンビエントと帯にはあるが、もっと複雑で心惑わす音楽だ。

   作曲シリーズで発売のギター・ソロ。08年発表で2作品を収録した。
262・Marc Ribot:Exercises In Futility:☆★
   アコギ一本で無秩序なギター・ソロが続く。インプロでなく楽曲ながら、テクニックや作曲コンセプトの
   ひけらかしではない。よって非常に個人的な世界を披露となり、かなりハードルが高い。

   ピアノ・トリオみたい。10年発売。
261・Omer Klein:Rockets On The Balcony:☆☆★
   ピアノとローズを使い分け、軽くスマートだが曲ごとに表情を変えるオムニバス盤みたいな構成の
   面白いトリオ・ジャズ。きっちりと指の廻るピアノは上手いと思うが、それゆえにはじけぬ点がもどかしい。
   とはいえ熱さからクールまで幅広い音使いは楽しめる。

   E#による86-96年の弦カル作品をまとめた、08年の盤。
260・Elliott Sharp:String Quartet - 1986-1996:☆☆★
   思い切り前衛寄りの弦カル。ひたすら掻き毟る音が轟く。ただし即興性を重視つつも、根本構造が作曲のため
   スリリングだが無秩序さは感じない。奏者のきっちりした演奏テクニックに支えられ
   奔放に弦のこする音が響いてく。E#はメロディよりもドローン的な連続性や、音程や和音そのものに興味あるようだ。

   初の、完全tpのソロ。01年発売で、作曲を4作品収録した。
259・Wadada Leo Smith:Red Sulphur Sky:
   演奏は楽しいと思うが、聞き手は焦点を見つけづらい。図形楽譜なりで即興した演奏と思われる。
   変則奏法でもいわゆるメロディでもない、中途半端さが続く。
   生きざまの即興でなく、楽譜に沿った形を匂わせ、今一つ盛り上がりに欠ける。

   ここからは非TZADIK。ジャケ買いだ。熱いピアノ・トリオを期待し購入した。
   
   65年頃にブレイキーのメッセンジャーズに在籍。75年頃からソロでキャリアを重ねてきた。
   本盤は84年夏、2週間のカリフォルニア・ツアーから3か所でのライブ音源をまとめた。
   原盤はTheresa。カリフォルニア州コントラコスタ郡エルサリート市のマイナー・レーベルで30枚ほどのLPを残した。
   米Evidenceの再発CD化にあたり、2曲がボートラで発掘された。
258・John Hicks:In Concert:☆☆☆
   基本はピアノ・トリオ。(4)のElis Wood(fl)はツアー・メンバー、(2)のBobby Hutcherson(vib)はゲストかな。
   選曲は全てカバーでオリジナルは無し。3曲がスタンダード、4曲がエリントンやハード・バップを取り上げた。
   流麗で上手いピアノだと思うが、あまり引っかかり無くスイスイと聴いてしまう。
   ミドル・テンポで洗練された、ナイトクラブ・ジャズを目指したか。のびのびとはしてる。
   ほんのり粘っこく迫るノリのマル・ウォルドロン作な(5)がベスト、かな。
   漆黒なスピードが心地良い(6)やファンキーにコロコロと音が弾む(7)もいいな。
   むしろこういう小粋なとこは敢えて抜き、スムースさを抽出したのがLPかも。アウトテイクのほうが面白い。

   94年に英Kentが編んだ、デルフォニックスを輩出したインディレーベル、フィリー・グルーヴのコンピ。
257・V.A.:Deep In The Philly Groove:☆☆☆★
   カメオのプロデューサー、スタン・ワトソンが設立して、初手からデルフォニックス"ララ・ミーンズ・アイラブユー"の特大ヒットを飛ばした。
   トム・ベルやノーマン・ハリスをスタッフに配し、作曲家にはバニー・シグラーの名も。PIRへ繋がる中継点みたいなレーベルだ。
   24曲ぎっしりな本コンピは玉石混交、バラエティに富んでる。選曲ディスコ系から甘いバラードまで幅広く配置して、
   聴き応えある良盤に仕上げた。さすがKent。録音の音質もバラバラ、いなたいなあ。
   なお本レーベル音源はReservoir Media Managementが権利を取得。i-tunes限定でコンピを数枚リリースあり。
   とはいえマイナーなシングルは埋もれたまま。本盤の価値は揺るがないし、貴重だ。

   ジャケ買い。74年に400枚程度プレスのみの、スピリチュアル・ジャズ盤らしい。
256・David Lee Jr.:Evolution:☆☆
   ドラム中心のジャズ。頭でっかちなクラシック寄りのコンセプト・アルバムに聴こえてしまう。
   そこそこドラムはファンキーながら、音楽として熱狂よりもコンセプチュアルな色が先に立った。

2011/11/15  最近買ったCDをまとめて。

   ヴァン・モリソンの初期作がボートラ付でリイシューされた。この調子で中期の作品まで再評価を望む。
   ジャズとソウル、アイリッシュを見事に融合した、初期の大傑作だ。
   ソロ2作目にして、68年の発売。ボートラは別テイク2曲と、フェイドアウト後をロング・バージョンが2曲。
255・Van Morrison:Astral Weeks (Expanded Edition):

   リマスターの効果はこっちの方がくっきり。4thソロで1970年の発売。アメリカ音楽を咀嚼し
   独特なファンキーさを提示した。この盤も渋くていい。
254・Van Morrison:His Band And The Street Choir (Expanded Edition):

   05年発売の小編成オケな現代音楽。オカルト趣味が炸裂したっぽい。
253・John Zorn:Rituals:☆☆☆★
   30分弱と短い尺だ。音楽が変に技巧やコンセプトに走らず、オカルティックなムードの表出に
   軸足を置いたため、奇妙に親しみやすい現代音楽に仕上がった。場面ごとに唐突な変化や
   跳躍有り、全体像は掴みづらい。けれども黒魔術のおどろおどろしさを
   混沌な音楽で描き、女性オペラ歌唱の追加で幻想性を振りかけた、ゾーンのセンスが上手くまとまった。
   88年初演と、譜面ものでも初期作品ゆえに、ゾーンも試行錯誤や荒削りな所があったのかもしれない。

   吉田達也をドラマーに迎えた欧州ライブ盤。2013年に発売だが録音は04-5年にさかのぼる。
252・Painkiller:The Prophecy:☆☆☆
   貴重な三人の長尺セッション音源なはずなのに。ラズウェルと吉田達也の絡みが、何とも相性悪い。
   変拍子の嵐なドラムが、ベースで強引に4拍子へ係留される。なまじポリリズミックな
   展開をラズウェルが意識しないだけに始末が悪い。ゾーンも派手にサックスを
   軋ませるものの、本質的にハードコアなアンビエント路線がちらつく、気長なインプロ路線のため
   今一つ緊迫感に欠ける。おかしいな、貴重な音源のはずなのに。

2015/11/2   最近買ったCDをまとめて。

   ライノの傑作ボックス三部作のデザインを踏襲し、5枚組101曲でレア盤ドゥ・ワップを
   ビリー・ヴェラ編纂でまとめた、2015年のコンピ。
251・V.A.:The Super Rare Doo Wop Box:

   ビル・フリゼールのギターなどトリオ編成で端整なアンサンブルを聴かせる
   ジョン・ゾーンが企画の新ユニット、2012年の1st。
250・John Zorn:The Gnostic Preludes:☆☆☆☆
   ユダヤ音楽にもとらわれず、のびのびと美しいメロディが噴出する素敵なアンサンブル。
   かなりの部分が作曲されてそうだが、アドリブもふんだんだ。隙は無いが緊迫よりも
   寛げる整った演奏に浸る。第一作目にふさわしい、自由な仕上がり。
   ミニマルな要素と、ユニゾンできれいに吸い付く演奏もラウンジの柔らかさに歯切れ良さを加えた。

2015年10月

2015/10/23  ジョン・ゾーンの旧譜を何枚か入手した。

   先鋭音楽の紹介を名目に2014年開始の新シリーズの一環。David Smith(vo,texts)が軸。
249・John Zorn, David Chaim Smith & Bill Laswell:The Dream Membrane:☆☆☆
   David Smithの自作朗読が淡々と漂う、重たい漆黒アンビエントを48分一本勝負で聴かせる。
   ラズウェルのドローンとベースが漂い、ゾーンが角笛やサックスをダビングした。
   低音の美しい響きに酔い、ゾーンのダブ風フレーズに酩酊する。催眠効果も持った
   ひたすらオカルティックでつかみどころ無い抽象サウンドが良い。

   97年発売、ゾーン指揮の小編成アンサンブルか。
248・John Zorn:Duras: Duchamp:☆★
   デュラスとデュシャン、二人の仏芸術家に触発されたクラシック曲。小編成アンサンブルゆえの
   ダイナミズムは希薄で、むしろ奏者は没個性だ。楽曲的にはデュラスがテーマの曲が
   アンビエントな美しさを楽しめる。デュシャンのテーマは69個の
   断片を13分程度で次々にVln,Vc,perのトリオ編成で駆け抜ける、ファイルカードな構造だ。
   こちらは抽象場面が連発し、ちょっと敷居高い。

   映画音楽シリーズ第8弾、98年作。マサダの楽曲っぽい楽想を取り入れた。
247・John Zorn:Filmworks VIII 1997:☆☆☆★
   異物の混合を見事に表現した傑作。前者の映画では中国琵琶とマサダ・ストリングス・トリオを
   軸にしたラウンジ・アンサンブルの融合で、複雑なエキゾティックさと異文化の不安を漂わす。
   後者のゲイビデオ向音楽は、打楽器二重奏で、テンポの硬質な確実性と、緩やかに揺れるリズムの優美さで
   マッチョさと滑らかに吸い付く色気を漏れ示した。
   映画音楽向け、でなく普段のジョン・ゾーンの音楽を自然に映画音楽へ溶かしたアプローチの先駆な盤だ。

   こちらの映画音楽集は05年発売。ウードとパーカッションのデュオで、ゾーンはエレピ演奏でもクレジットあり。
256・John Zorn:Filmworks XV: Protocols Of Zion:☆☆☆★
   ジョン・ゾーンがエレピを全面で弾いた。ドラムとベース、ウードのシンプルな
   トラックの上で。いわゆる即興でなく、きっちり作曲されダビングを施した。
   ベースとウードは同じ奏者、これもダビングだ。リズムと弦楽器のタイトな音楽と、
   わずかに揺れる鍵盤の不安定さ。双方が合致して、素晴らしく緊張感ある響きが仕上がった。

   2010年発売。ロブ・バーガーらの端正な室内アンサンブルかな。
245・John Zorn:In Search Of The Miraculous:☆☆☆☆
   ジョン・ゾーン流ラウンジ音楽の大傑作。"Alhambra love songs"で聴かせた端正さが、
   エレべとビブラフォンの追加で、ますます幻想性を増した。
   テーマ以外はアドリブと思うが、隙や破綻を見せぬ構築度高い演奏は、BGMをはるかに凌駕した
   プログレ的な緻密さとストーリー性を感じさせる。全て譜面かのようだ。
   すみずみまで、美しくも素晴らしい。

2015/10/4   最近買ったCDをまとめて。

    AmazonのMP3ストアで、150曲入り600円の廉価盤セット。
244・Jimmy Smith :150 Jimmy Smith Essentials:☆☆☆☆★
   敢えて『入門編に最適』としたい。すさまじいコスト・パフォーマンスだ。
   LP21枚に及ぶ、たぶん全てブルーノート・時代の音源。細かいクレジットもとめると
   非常に困る。録音順に並ばず、意味不明の曲順なため。しかしまとめて手軽に聴くには、
   本盤は非常に都合がいい。
   18時間に及ぶ、シンコペートぶりばりの強靭なリズム感溢れ、猛烈にスイングするフレージングを
   たっぷり楽しめる。感想や収録LPの一覧は、こちらに書いてみた。

   ブラジルのレーベルから8月に出た、メルツバウの新作。
243・Merzbow:Konchuuki:☆☆☆
   ビート、特にメロディ感あるフレーズをループさせるアプローチを多用した盤。
   リズムからの解放が魅力なはずのノイズで、明確なパターンが支配することで
   奇妙な不自由さを感じさせる。ノイジーなテクノと思えば、問題ないが。
   リズムへ接近やドラム演奏も過去のメルツバウ作品にあったが、本作はそれらとも
   少し違う。硬直化したフレーズの繰り返しを強調した盤だ。

   ウータンのゴーストフェイスがカナダのジャズ・トリオと組んだ今年の発売作。
242・Ghostface Killah & BADBADNOTGOOD:Sour Soul:☆☆☆
   33分強の短さは集中力を保たせる狙いか。生楽器にて不穏なウータン・ヒップホップえお上手いこと仕上げた。
   さらにストリングスなどをダビングするあたり、古めかしいソウルのスタイルを作っていく。
   そこへゴーストの力強いラップで鋭さを出した。本盤は最新鋭でなく90年代のラップ・スタイルだ。
   けれども古びさを狙わず、今の時代に十分な強度を持つ。ポップさと凄みの双方を兼ね備えた。

   25年ぶりの新譜は、タワレコ限定のEP盤。
241・有頂天:lost and found:☆☆☆★
   若者じゃあるまいし、世界に向かって無理にノーを突きつける必要はない。等身大で歳を経て太くしぶとく鳴った有頂天が聴ける。
   繰り返し聴いてるうちにじんっときた。微妙にケラのキーが下がってる気がする。
   有頂天サウンドってなんだろう。シンセとパンキッシュながらポップなメロディ、そして捻って垂れ下がる切ないメロディ。特に後期に向かって。
   その意味では、(5)が最も往年の有頂天っぽかった。とはいえ過去の幻影を探すなら
   当時の盤を聴けばいい。今の、有頂天がこれか。面白い。
   甘酸っぱい(1)はサビ終わりでメロディが畳まれていく。そして歌い上げ。いいなあ。チープな打ち込みの(2)はサイケに弾む。
   "Aisle"時代のみずみずしさを思い出した。
   若干の丸みで縦ノリに炸裂の(3)は年齢を超えたパンキッシュさ。微かなユルみも頂天の持ち味か。
   "団だ弾だ段"ってリズム・リフも、直後の譜割遅さも、独特の味わい。
   (4)の乾いたスネアの4つ打ち連打ビートと、語るような歌も演劇的な要素を盛り込んだ独特の魅力だ。
   そしてドラマティックでポップに炸裂の(5)へ進む。ルールを守ろう、って歌詞がベテランっぽい。もちろんさまざまな意味を込めて。
   
   タワレコ限定再発で、06年に次ぐ再再発。カリフォルニアのインディ・ソウルグループが1980年に唯一残した盤。
240・Heaven Sent And Ecstasy:The Greatest Love Story:☆☆☆
   ファンクネスよりむしろ、ディスコとクワイエット・ストームな洒落たソウルを聴かせる。
   どっか演奏がドタバタ。メロディアスなベースと、歯切れ良いギターは曲によって、耳をそばだてるのに。
   プロデューサーなバーバラ・トロッターが作曲にも大貢献。しかしときどき、
   奇妙に不安定な響きの和音感を聴かせる。上ずり気味な(7)が最たるもの。
   しかし甘いバラードは今でも色あせず、アップでも古臭くないダンサブルさの煮詰め方は素晴らしい。
   インディならではの荒っぽさと、不思議な普遍性が同居するアルバムだ。

   13年に次ぐタワレコ限定の再再発。79年の盤でデビュー前のプリンスが(4)でギターと
   コーラスを担当した、ミネアポリス・ファンク盤。
239・The Lewis Connection:The Lewis Connection:☆☆☆★
   完全な生バンドにこだわらず、時にベースは鍵盤で賄う。ホーン隊入れたり
   シンセ中心のファンクに仕立てたりと多彩なアレンジも才木ばしった。
   プリンスの特大才能とは別次元に、アイディア満載の良アルバムだ。
   インディゆえの荒っぽい演奏を脇に置いても古びてない魅力あり。
   ミネアポリス・ファンクは決してプリンスの独壇場でないと、しみじみ思った。

2015年9月

2015/9/21   最近買ったCDをまとめて。

   90年にA&Mから出たNY ニッティング・ファクトリーでのライブ・コンピ。
   2曲で90/1/16のSlanライブ音源があった。ジョン・ゾーンがE#、Ted Epistein(ds)と
   組んだユニット。公式音源残ってたとは知らなかった。
238・V.A.:Live At The Knitting Factory: Volume 3:☆☆☆☆
   尖ったメロディを整ったアンサンブルで疾走させる。生き生きしたアイディアにヘルシーな演奏を混ぜたのが
   当時のNYスタイルか。どのバンドも張りつめたムードがかっこいい。
   Slanは疾走に軸足を置いた。トリオ編成ゆえの混沌がスッキリしてる。
   この盤で大きく評価されたのは、ブランドン・ロスやメルビン・ギブ(b)、Dougie Bowne(ds)あたり。
   スマートでクールな連中だ。ベスト・テイクも(12)のブランドン・ロス・オーバーフロー。
   のびやかで美しいギターとベースのソロが最高だ。このバンドだけ、2夜のライブ音源を
   収録した。もっとも力を入れた様子が伺える。

   ドイツのギター・トリオらしい。全貌が見えないが84年頃から活躍の
   ベテランらしく、本盤は92年の録音。
237・Sovetskoe Foto:The Humidity:
   ニューウェーブっぽい響きだが、92年ならグランジ路線か?ひりついたギターと、上ずるボーカルが
   乾いたロックを奏でる。アップテンポだけでなく、ミドルでじっくりも。味気ない硬い響きはそのままに。
   2曲でアート・リンゼイが参加。(3)はレノン"コールド・ターキー"を
   ひりついたNYパンクなアレンジでカバー。なお録音はニューヨークで、共同プロデュースがMartin Bisiだ。
   単なるロックのアンサンブルだけでなく、ノイジーな即興風プレイも混ぜてきた。

   03年ポルトガルから発売。tb,vib,ds,bの変則カルテットで、tbとVibでそれぞれ
   河野雅彦,殿岡ひとみが参加した。00年NYニッティング・ファクトリーでの録音と、
   02年にニュージャージーでの録音を収録。
236・Kevin Norton's Metaphor Quartet:Not Only In That Golden Tree...:☆☆
   4ビートノリもあるが、基本はフリー。スピーディに全員がうねり高まる。中心が見えづらいサウンドだ。
   ソロ回しとは無縁の即興で、隙とスペースを互いに探りながら盛り上がる。
   トロンボーンのディレイを使った効果はスペイシーまで広がらず、静かに膨らんだ。

   トム・コラやウェイン・ホーヴィッツが参加した即興バンドが88年に発売、ベルリンでのライブ盤。
235・Curlew:Live In Berlin:☆☆☆☆
   刺激的なリズムとアンサンブルが満載だ。ブルーズやバスキング、ユダヤ音楽に
   ジャズやロック。さまざまな要素を痙攣するNW風の尖ったリズムに乗せた。
   分断っぽくとも楽器間の交錯でつながるグルーヴの流れが堪らない。これは凄い。
   プログレ的な構築度は薄いが、緻密なアンサンブルは相当に練られてる。
   メロディよりもリズムや楽器のせめぎ合いに軸足置いたサウンドが色あせぬ新鮮さ。

   ベルギーの大編成ジャズバンド、らしい。04年の録音。
234・Rêve d'Éléphant orchestra:Lobster Caravan:☆☆☆
   多国籍なポリリズムが特徴。ホーン隊を前に出してビートは攻めず、おっとりした風景。
   全14曲、一曲を短めに次々繰り出し、幅広くアレンジした万華鏡を魅せる。
   決して耳ざわり良さに留まらぬ、ヘンテコ要素もいっぱい。
   寛いだ余裕がもどかしい。強烈にダンサブルさがあれば、DCPRGに通じるフロア対応ビッグバンドの可能性を秘めている。
   頭でっかちな技巧の複雑さに陥らない、ユーモラスな肉体性は音楽から感じた。

   ハンコックらとのカルテット編成で66年に吹き込んだショーターのリーダー作。
233・Wayne Shorter:Adam's Apple:☆☆☆★
   ハンコック作(7)をボートラ加えた87年再発盤で聴いてる。オリジナルは(2)以外、
   全てショーターの作。むしろ(2)でカバー入れたほうが意外だ。サイドメンは他に、
   レジー・ワークマン(b)とジョー・チャンバース(ds)の編成。レジーはブレイキーほか、各種セッションからの馴染か。
   前年末にマイルスのツアーを終え、おもむろに吹き込んだリーダー作。前々作"Et Cetera"で
   尖り過ぎたベースを馴染のメンツに変えた。盟友ハンコックは別にして、マイルス4と差別化を狙いか。
   前作"The All Seeing Eye"の4管コンボから、ぐっとシンプルになった。
   冒頭は若干勇ましいが、そのあとは独特の煙ったクールさが充満したグルーヴが心地良い。
   名作(4)もさることながら、(5)のロマンティックさにしびれた。
   ボートラの(7)は猛烈なジャムのひとときを切り取ったかのよう。

   57年の録音で、2種類のセッションをまとめた。フロント三管とワンホーンの編成。
232・Jackie McLean:Strange Blues:☆★
   ファンの評判は高いらしいが、今一つ馴染めず。サックスが精彩を欠く苦しみを感じた。メンバーを変え
   (1)と(5)でサンドイッチした本盤は、二種類のセッションを収めた。
   主は57年7月12日録音。チューバとトランペットを招いた3管編成で、斬新さを狙ったと思われるが
   今一つ覇気のないグルーヴだ。(4)は悪くないハード・バップだが。
   それを同年2月15日のアウトテイクから2曲引っ張り、アルバムにまとめた。
   この年はブレイキーのメッセンジャーズ参加や自己名義など、多忙だったらしい。その割にサックスは
   今一つダルッとしたタンギングで、溌剌さに欠ける。
   (1)と(5)は1管とpトリオのカルテット編成。顔ぶれ違いを楽しむ盤か。

   ソフト・マシーンのエルトン・ディーン参加に惹かれた。イギリスのサックス奏者4人が
   95年10月6日にオックスフォードでの即興セッションな様子をまとめた。
231・Elton Dean, Paul Dunmall, Simon Picard, George Haslam:Early October:☆☆☆★
   即興と思えぬ整った響きと自由なフレーズ展開が心地よい一枚。各曲が長尺でじっくり楽しめるのも良い。
   異なる音域のサックスの4人が、豪快な猛風を吹き荒らす清涼で複雑な(1)。
   (2)は幾分フレーズ寄りで、波打つ対話の行き来が楽しめる。
   さらに楽曲風にまとまったインプロが(3)となる。4人の端正で、パワフルな紳士のサウンドが詰まった。

   詳細不明だがビートメイカーらしい。一曲でデレク・ベイリーが参加。01年の盤。
230・Panicstepper:Agro Jazz:☆★
   上物はほとんど無く、ビートが中心。ベースが乗ってうっすらと構成を出す。
   ブレイク・ビーツな展開だがダンサブル狙いにしては、抽象的かつテンポ変化が激しい。
   打ち込みとサンプリングに生演奏ビートを混ぜた、リズム実験が目的か。
   ベイリーの競演はリズムにギターがランダムに乗った形で、バンド側がさほど自己主張
   しないおかげで、奇妙な聴きやすさを産んだ。
   耳の視点併せに戸惑ったが、リズミックなノイズ作品として、聴いたら楽しめるかもしれない。

   即興サックス奏者がピアニストとのデュオで、フリージャズ。97年の盤。
229・Nelly Pouget:Le voir:☆☆★
   フリーっぽいアプローチだが緊張感は薄く、むしろ奇妙なエレガンスが漂うデュオだ。
   この淑やかなとこがフランス流だろうか。独特の雰囲気が魅力的なジャズ。
   ビートやグルーヴは希薄なのに、穏やかで緩やかな流れがある。フレーズや、特に
   サックスの軋み交えたフレーズはフリーなとこもあるのに。
   ただし楽曲のテーマはきっちり譜面。(3)が顕著だが、畳み掛ける
   旋律をぴたり揃ってピアノとサックスが同じ譜割で進む。

   デンマークのピアノ・トリオらしい。04年の盤。
228・MOP:54:☆☆
   冒頭からプリペアード・ピアノがはじけ、不穏なムードを醸す。本盤でこそアコースティックだが
   元は電化路線も視野にいれたサウンドらしい。フリー寄りの剛腕アンサンブルが力強く響いた。
   スケール大きく硬質な世界観が心地良い。リズムは希薄で、むしろ小節線を意識させぬノリだ。
   最長が10分。ほとんどが4分前後でメリハリつけて次々と曲を提示した。

   スウェーデンのサックス・トリオ。96年に発売された。
227・Biggi Vinkeloe trio:Claq:☆★
   無機質なフリージャズ。トリオで攻めっぱなしでなく、空白を生かしたソロのパートも多い。
   欧州系の涼やかな硬質さが前面に出て、グルーヴとは違うベクトルだ。
   完全即興では無く、楽曲や構成はうっすら感じさせる。全19曲、小品をずらり並べた。
   Peter Friis Nielsenの柔らかなエレべとPeeter Uuskylaの平べったいドラミングが、フリーキーなサックス/フルートを
   ふんわりと煽った。サックスは指が回ってもあまりテクニカルを披露せず鋭さを狙うかのよう。
   多数のアルバム参加を持つ、二人のベテランを配し、サックスは気負わず立ち向かう。
   逆に二人を御するほどの個性をサックスから感じづらい。

   英Real Gone廉価盤4枚組でウェス・モンゴメリー57-61年のアルバム8枚を収録した。
   超名盤の"Full house"(1962)前夜、にあたるデビュー盤からの軌跡だ。
226・Wes Montgomery:Eight Classic Albums:☆☆☆★
   有名どころからマイナーな作品まで幅広く収めた。
   意外とムラッけある気も。むしろ兄弟に気を使ったか。ソロで自我を伸び伸びのほうが
   生き生きしたアドリブを聴けた。

"Fingerpickin'"(1958) ☆☆
   初リーダー作。サックス奏者らも招き、2種類のセッションをまとめた。
   スインギーからモダン、ビバップまで幅広い選曲だ。(5)のロマンティックなギター・カルテットが真髄か。
   バラエティに富んだ楽曲群の中で、アンサンブルの一員としてギターが活躍する。溌剌だが、さほどギターは目立たない。
   フレディ・ハバードを筆頭に、管が前面に立つ。時々現れるギター・ソロは訥々とメロディを紡いだ。
   モンゴメリー兄弟はモンク(b)はもちろんバディ(vib)も、あんがい地味。
   ただし楽曲はバディが4曲、ウェスが1曲を投入した。他はスタンダードを演奏。
   57年12月30日のインディアナポリスと、58年4月にLAでの録音を収録。34歳での初リーダー作で
   最初にアナログ発売時の題は"The Montgomery Brothers And 5 Others"とある。最初が兄弟グループでデビューか。

"The Wes Montgomery Trio"(1959) ☆☆☆★
   59年にNYで録音、自らの存在感を強烈にアピールした一枚。
   (7)はインディアナポリス時代、ウェスが必ず演奏の自作曲。全9曲中、自作は2曲。あとはハード・バップの楽曲や
   スタンダードを選んだ。ドラムレスはモンク・モンゴメリーに気を使ったか。オルガンとピアノのトリオで
   じっくりとオクターブ奏法を駆使のソロを聴かせる。
   穏やかだがファンキーなグルーヴと、冷静なフレーズ使いが特徴だ。各曲が短く、
   時にフェイドアウトで絞られるのが惜しい。
   オルガンの柔らかな音色と静かなドラムに乗って、凛と響くギターが心地良い。

"The Incredible Jazz Guitar of Wes Montgomery"(1960) ☆☆☆☆☆
   これも名盤で名高い。60年NYの録音で、フラナガン(p)を入れたカルテット。
   1960年1月、マラソン・セッションの二日目と最終日四日目の記録。景気よく"エアジン"でテクニックを披露したあとは
   じっくりしっとりギターを聴かせる。メロディアスでふくよかで、スインギー。拍の裏に吸い付き
   スッと離れるフレーズのリズミカルさがたまらなくかっこいい。訥々とした親指の弦さばきで
   まろやかに粒の整ったピッキングがはじけた。
   ピアノの洗練されたバッキングも素晴らしい。
   ギターのフレーズは洗練されて、泥臭さが少ない。そして強烈にファンキー。
   アンサンブルを邪魔せず、カッチリと支えるリズム隊の兄弟もいかしてるな。

"West Coast Blues!"(1960) ☆☆★
   あえてウェスのリーダー作でなく、サイドメン盤を入れるとこが凝っている。
   Harold Land(ts)のセッションに全面参加した。
   リーダーのtsにtpが加わる2管編成の6人編成。ハードバップ寄りで、いくぶんおっとりな演奏だ。
   4thリーダー作になるらしい。ウェスは本盤で初めてハロルドのリーダー作に参加した。
   "Montgomeryland"(1960)の録音かその関連で知り合ったと思われる。
   LPには収録の"West Coast Blues"が、なぜか本Boxには収録無し。
   Sam Jones(b),Louis Hayes(ds)の流麗なビートを軸に、饒舌で滑らかなジャズ。
   クールで立て板に水なスピードと、破綻しないスマートさが味か。

"Movin' Along"(1960) ☆☆☆
   5thリーダー作。LAでセッション、フルートとピアノを入れたクインテット。
   ウェスは曲によってベースも弾いている。
   落ち着いて洒落た印象が漂う盤。特にフルートが入る曲が顕著だ。穏やかに
   スイングして、寛いでいく。拍を自在に跨いだフレージングのギターが美しい。
   アルバム全部を通して振り返ると、ファンキーに弾む演奏が溢れて楽しい。
   ただし"(I Don't Stand A) Ghost Of A Chance (With You)"の存在感があまりに強く、ライブハウスよりレストランが
   似合いそうなジャズと誤解してしまう。それほど、このスローの破壊力は強い。

"Groove Yard"(1961) ☆☆☆★
   兄弟のピアノ・トリオにドラムを加えた盤。この名義では4thリーダー作かな。
   基本はくつろいだ濃密なブルーズ。アップテンポの曲もご機嫌なグルーヴを聞かせる。
   派手さや突飛な展開はないものの、着実に丁寧なジャズを積み上げた。
   ギター、ピアノ、ベースの三兄弟は特に誰を目立たせることなく、平等に暖かく演奏してる。
   前半がミドル~スロー、後半がアップめの楽曲を比較的まとめた。

"So Much Guitar"(1961) ☆☆
   NYでのセッション。ギター・トリオにコンガとピアノを加えビート性を強調した。
   全体的にバタついたイメージ。特にコンガが入った曲はリズムが揺れて
   落ち着かない雰囲気になった。シンプルなコンボ編成、特にバラードはしみじみだが。

"George Shearing and the Montgomery Brothers"(1961) ☆☆
   モンゴメリー・トリオに何曲かはドラムを加え、ジョージ・シアリング(p)をフィーチュアした盤。
   ピアノとギターが丁寧にメロディを弾く、整ったアレンジのアルバム。破綻が無く
   きれいで穏やかなジャズを演奏してる。シェアリングの意向か、ラテン風味も現れた。
   耳障りはいいけど、ちょっとスムーズすぎかな。

2015/9/19 最近買ったCDをまとめて。

   配信限定と煽ってたが、無事にCDでも発売。プリンスの新譜だ。
225・Prince:Hit'n Run Phase one:☆☆☆☆
   EDM傾向、継続。Joshua Weltonが本作でも大活躍してる。
   プリンスは依然と進歩を狙う。枯れないなあ。本盤で滲む狙いはDJミックスめいた
   コラージュと、コード進行を希薄にしたシンプルなファンク。わずか40分足らずのこじんまりな本盤は
   過去の音源やイメージをあからさまなサンプリングで取り入れると同時に、エレクトロ・ビートを前面に出した。
   もともとプリンスはヒップホップ路線は希薄だ。さらに流行をとりいれるのも不器用。
   むしろ自分で時代を切り開くほうに才能が有ると思う。本盤は一回りして若者の流行狙いを意識し
   自らの趣味を炸裂の盤に聴こえる。EDMを新しいおもちゃとして遊びつつ、ほとんどコード進行の
   感じさせない一小節ファンクを、JBとは全く異なる進行するベクトル感を
   意識するプリンス流で仕上げた。さらに本盤では単音で、ごく少ない音数で浮遊感をさらに強調して。
   本盤ではプリンスのプレイヤーとしての存在感は希薄だ。プロツールを駆使して切り貼りしたかのよう。
   要するに分かりやすいプリンス流のメロディが前面に出るかで、とっつきやすさが変わる。
   本盤は希薄。内に籠り、黙々と音を溢れさせて掻き混ぜてるかのよう。次への一里塚、な印象を受けた。

   クラウドファンディングで出資を募り発売のCD。遅れに遅れたがようやく発売した。
   メルツバウは2011年11月23日の"街づくりセミナー"へ参加したときのライブ。
   このとき講演した宮台真司が、本盤へ描き下ろし文章を寄稿した。
224・Merzbow:Music for Uubanism:☆☆★
   音楽は見知らぬ聴衆を意識した、静かな音像からぐいぐいとハーシュへ変貌する
   緻密でしたたかなメルツバウのライブ構造が楽しめて興味深い。
   しかしメルツバウを素材として扱う宮台やレーベルのスタンスそのものが、いまひとつ共感できず。
   都市論のイベントでメルツバウが呼ばれたらしいが、必然性は?
   こういう意識高い系のリア充イベントは共感できないなあ。
   ということで、音だけで楽しみたい盤。よけいな解釈も解説もいらない。

   岡村ちゃんの新シングルが出た。新曲は2曲あり。
223・岡村靖幸:ラブメッセージ:

   ジョン・ゾーンの映画音楽集で、02年のリリース。
222・John Zorn:FilmWorks XI:☆☆☆☆
   マサダ・ストリングス・トリオの形式を全編に施した。美しくもロマンティック、
   切ないが希望を忘れない。欧州が舞台のはずだがジャズの要素も何気なく投入した。
   即興でなくきっちり譜面化され、ときに弦がダビングもあり。あくまでゾーンの映画音楽だ。
   隅々まで構築され、アドリブっぽい自由さもある。メロディが噴出し、ミニマルな前衛要素も。
   サントラの断片的な多数の曲を収録しつつも、アルバム単独で聴いて過不足ない。
   ジョン・ゾーンの才能を見せつけた傑作だ。

   羽野昌二と河端一/津山篤のAMT勢が共演したユニット。音盤化はたぶん、本盤のみ。
   03年にPSFから発売された。
221・Dare Devil Band:猪武者:☆☆★
   顔ぶれから期待通りの音像で、連打なノービート・ドラムと鋭いサイケインプロなギターの嵐を
   うねうね蠢くベースがのたうつ。津山を中心にヴォーカリーズもあり。
   ドラムが敢えて疾走を控えたため、奇妙な係留感を味わった。
   ギター/ベースとドラムで、別のタイム感を保ってるかのよう。
   長尺の(3)はセッションがうねりながら一体化し、離れていくさまをじっくり伺える。
   (3)の15分くらいで現れる演説か浪曲みたいな場面が、日本的風味で面白かった。

2015年8月

2015/8/29   CDが到着。

    元GbVのロバート・ポラードが解散後に始動した新バンド。今年1stが出たのに、
    早くも2ndアルバムがリリース。このペースは相変わらず凄まじい。
220・Ricked Wicky:King Heavy Metal☆☆★
   ボブの曲、ボブとトバイアスの共作、ニックの曲と混在のためアルバムの出来は
   バラエティに富んだ。まっすぐなロックのニック作品を聴くにつれ、ボブ節の特異さを
   逆説的に実感する。どちらかというとメロウなムードが高い。

2015/8/23   CD買ってきた。

   低迷な72年のブラザー時代2作を2枚組でリマスターした00年の盤。いまさらだと
   ちょっと手が出づらいのを2 in 1で買う気にさせる、意外と良い企画かも。
219・The Beach Boys:Carl & the Passions / Holland:

"Carl & The Passions/ So Tough" ☆☆☆★
   良く聴くと悪くは無いが、やはり素直に聴けない。別のベクトルな内省さだ。
   ブライアンのかかわった3曲から滲む、奇妙な入り組み具合と浮遊感へ、やはり惹かれる。
   決してはじけはしないが、どこかモヤモヤっと積み上がる混沌さが良い。
   新メンバー二人の曲は、大味にしてアメリカン・ポップな要素があまりに強く出過ぎ。
   やはりウィルソン兄弟の血は濃かった。(6)や(8)はデニスの豪放さの裏返しで繊細さが滲み、
   (7)はカールの淑やかな明るさが滴った。カールは素直で無邪気なプライドが滴った。

"Holland" ☆☆☆★
   アルバムとしては散漫、ブライアン色の薄い本編だ。(1)や(9)のけだるげなムードが当時の体調を象徴か。
   ただし各曲は聴きどころ多い。メンバーが張り切ってる。
   サイケ・ポップやプログレめいたアプローチも、繰り返し聴いてるうちに楽しくなってきた。
   浮遊する(2)や(6)とか。組曲(3)~(5)は、"スマイル"に通じるドラマ性もあり。
   (7)のしみじみっぷりも、不思議な穏やかさを誘う。
   ブライアンはオマケEPの製作に注力した。まさに語られる寓話は、とっつき悪いけど。
   夢心地の浮遊感を音にしたような、音楽の酩酊臭が凄まじい。まさにドラッギーな凄みあり。

   英ソフト・ロック・グループの73年3rdと74年4thを,2on1再発の11年盤。
218・Design:Dry of the FOH / In Flight:☆☆★
   トラッド風味のサイケ・ポップ。イギリス風の落ち着いたフォーク調のテンポ感に、全員歌唱の
   穏やかで硬質だが牧歌的なハーモニーが乗る。溌剌さとは少々違う沈鬱さや
   渋みが抜けないのが特徴か。本盤は3rdと4thを収録した。3rdではキャロル・キングのカバー(3)もすっかり、
   彼ら風のモヤけた空気感に塗りつぶしてる。直後の(4)でアメリカンな爽やか曲を演奏するあたり
   彼らの価値観が分からない。この路線でキャロルをカバーすればいいのに。
   本盤で(4)がもっともぼくは好みなだけに惜しい。
   他の曲はメンバーのみの演奏に拘らず、アコースティックでおっとりした音像を描いた。
   4thでは米のグループGroopの(13)、スティーリー・ダンの(16)をカバーした。
   あとは基本、どちらのアルバムもメンバーのオリジナルを収録してる。

   ケンタッキーのガレージ・サイケバンド。01年のリイシューで、70年のアルバムに未発表/未収録曲をボーナス追加した。
217・Oxfords:Flying up through the sky:☆☆☆
   丁寧な仕事のコンピだ。オックスフォーズはケンタッキー州のルイビルで60年代後半に活動したローカル・バンドの音源集。
   LP1枚、シングル5枚に未発表音源を収めた。後に本レーベルから第2弾未発表曲集も発表された。
   ザッパやデッドの前座もこなした。(13)はザッパにインスパイアされた曲という、ひとひねりしたブルーズ・ロック。
   この曲はルイビルのラジオ・チャートでは一位になったそうだ。
   全米ヒットに至ることは無く、華やかな記録はメンバーのキース・スプリングがオックスフォーズ脱退後に、ごく初期のNRBQメンバーだったくらい。
   男女の伸びやかなツインボーカルと、のどかなメロディのソフト・ロック路線を踏まえて
   フルートや管楽器をさりげなくダビングするアレンジのセンスがポップだ。のどかな世界が広がる。
   バンド後期はジャズ・ポップ路線へシフト。メンバーチェンジに伴い、音楽性が変わっていく。
   本盤再発で特筆すべきは緻密なクレジット。バンド・メンバーでVoのジル・デマーシオが、クルクルと変化する
   バンド・メンバーの編成をまとめた詳細なライナーを残した。
   ローカル・バンドへ埋もれさすには惜しい瑞々しさを持つ一方で、このピュアさは芸能界の
   荒波にもまれないがゆえの純度かな、とも思う。ハーモニーはさほど強調ないけれど、良質なソフト・ロックが詰まった。
   フロリダのレーベルGear Fab Recordsはルイビルのローカル・バンドを何枚も再発して、本盤が4枚目。

   TZADIK関係を数枚入手。
   アメリカのメタル・ノイズ老舗ユニットが02年に発表した。
216・Z'ev:The Sapphire Nature:☆★
   神秘的なほどにストイックなメタル・ノイズが入った。アルバム全体を通したトーンは統一され
   おそらく編集や多重録音を施した端整かつ重厚な金属音の連続を楽しめる。
   むしろボリューム下げて環境音楽風に聴くのも心地よい。じっと向かい合って聴きこむには、少々単調かな。
   録音順番や風景を想像しながら聴くと、謎が深まって面白いのだが。

   イクエ・モリとジーナ・パーキンスのユニットが08年発売の2nd。
215・Phantom Orchard:Orra:☆☆☆★
   ゲストを招きリズムの希薄な電子音と、美しく抽象的にハープを操る二人の
   美学を堪能できる一枚。つかみどころ無い前衛性だが、素直に聴ける構築度と繊細さが本盤の魅力だ。

   スイスの女性ピアニストによるソロ。07年の発売。
214・Sylvie Courvoisier:Signs and Epgrams:☆☆★
   内部奏法を大胆に取り入れたクラシカルな現代音楽のピアノ独奏曲集。曲によっては
   電子音楽をダビングしたかと思うほど、メカニカルなプリペアード・ピアノの響きが美しい。
   ハイテクニックを駆使しつつ、乱打でなく歌心あるメロディアスなアプローチのため、音楽へ浸りやすい。

2015/8/22  最近買ったCDをまとめて。

   メルツバウの新譜は最近アナログが多く、CDにてはけっこう久しぶりな感じ。
   エッジの立った各分野の4人が集まってセッションの盤な2枚組。
   先日に録音のニュースは伝わってたが、ようやくのリリースだ。
213・Merzbow, Balázs Pándi, Mats Gustafsson, Thurston Moore:Cuts of Guilt, Cut Deeper:☆☆☆★
   3人が伸び伸びとノイズを出す。グスタフソンはサックスだけでなく電子楽器も操るため、
   ムーアの歪んだエレキギターと相まって痛快なパワー・ハーシュを作った。
   パンディのドラムもテンポ感はぶれないものの、パターンに係留されぬ連打式ドラム。
   音像はメルツバウによる09年の月間"日本の鳥シリーズ"を連想した。

   キップ・ハンラハンが千夜一夜物語をテーマに録音した97年の盤。
212・Kip Hanrahan:A Thousand Nights and a Night:☆☆☆☆
   本盤をきちんと味わえてるとは思わない。しかし緻密な録音とグルーヴ、ユニークなコンセプトに惹かれた。
   アラビアン・ナイトをテーマの3部作の第一弾。語りをふんだんに取り入れたラテン・ジャズ。
   ミュージシャンをシェヘラザードや登場人物に配置し、16曲の小品を収めた。
   演奏よりも語りとの混淆を味わう盤。ライナーでも「一気に聴かず休憩を」と促し
   コンセプトをじっくり味わって欲しい様子が伺える。
   アラブ要素はむしろ控えめ、全編にラテン・ビートが溢れ、時にアフリカンなビートも。
   強靭なリズムの上で、ドン・プーレンのピアノがロマンティックかつフリーに響く。
   言葉を重要視した音楽だけに、歌詞を分からず聴いてるぼくはそうとうに邪道だ。
   けれども流れが分かった瞬間、途端に本盤が素晴らしく魅力的に変わった。
   凄く練り込まれたアルバムだ。ああ、この盤を味わい尽くしたい。それにはやはり全訳が最低必要か?

   E#の98年盤。クレジット無く委細不明だが84/88年に録音した電子音楽集か。
211・Elliot Sharp:Cyberpunk And The Virtual Stance:☆☆★
   チープなテクノ・ビートが特徴の電子音楽。リズミックなビートを常に感じさせつつ
   ダンスでなく混沌や奇妙さを狙う。時にエレキギターのソロを含めた肉体性が
   本盤の陳腐さや稚拙な内省さを、注意深く回避している。少々音質が籠ったデモテープっぽさも
   含めて、本盤は安っぽさが所々に漂う。けれどもアイディアを先鋭性と
   ポップさの共存を含めて封じ込めた、貴重な初期の作品集だ。

   TZADIK盤を色々と入手した。いずれ、日記BlogのTZADIKコーナー用。
   レーベル買いのため、まったく予備知識無いのがほとんど。
   作曲家シリーズで発表の小編成オケ、かな。2013年の盤。
210・David Fulmer:On Night:
   無調っぽい硬質で無機質な音楽がひたすら続く。5楽章構成で、それぞれに
   ソロ楽器と室内楽隊との関係性をテーマにしてるようだ。
   ダイナミズムも希薄にひたすら続く音像は、現代音楽ファン向け。

   ジョン・ゾーンの現代音楽集で、2014年発売。
209・John Zorn:Fragmentations, Prayers And Interjections:☆☆☆★
   再演2曲を含む、オーケストラ楽曲集。どうどうたる現代音楽家の作品っぽい。
   跳躍と超絶技巧、突飛な展開と滲むロマンティシズム。けっしてとっつきやすい
   音楽ではないし、何度聴いても構成が頭に入らない。けれども耳に馴染むと、
   不思議に魅力が伝わってくる。できれば我慢して何度も聴いて欲しい。その価値は、ある。
   ザッパのオーケストラ曲よりも、ずっとゾーンの方がクラシックの伝統を踏まえたように感じた。

   ロック系インスト・トリオ。13年にリリースの2ndで、ゲイリー・ルーカス(g)が1曲でゲスト参加した。
208・AutorYno:Cosmopolitan Traffic:☆☆★
   ギターが弾きまくるトリオ。日本で言うと鬼怒無月のCoilを連想するが、リズム隊が
   いかんせん本バンドはものすごく地味でシンプルだ。テクニックはバッチリだし、
   ブルージーなプログレを求めるならば、本盤は凄く楽しめる。
   ギターの一人目立ちでなく、アンサンブルやアレンジは丁寧に練られており
   たんなるギターのテクニックひけらかしではないから。

   tb奏者がリーダーのクインテット編成なインスト・グループ。14年発売。
207・Deveykus:Pillar Without Mercy:☆☆★
   重厚にじっくり。ドゥーム・メタルでユダヤ・トラッドを演奏した。歪んだギターを野太い
   トロンボーンが貫く、雄大な世界観が気持ちいい。一曲が10分前後と長く、インストゆえに
   メリハリ無く淡々と続く。楽曲ごとにアレンジへ差が無いため、多少単調なのが難点。
   もっともこれはテンポゆえ。アップテンポで同じアプローチなら、素直にカッコよさを楽しめた。

   ジョン・ゾーンのMasada第二弾の第20番目として、有名人のパット・メセニーが
   登場した13年の盤。未聴だった。日本盤を購入、13年の録音。
206・Pat Metheny:Tap: John Zorn's Book Of Angels Vol.20:☆☆☆★
   さすがは、メセニー。ソロ・アルバムとしてきっちり作りこんだ。ドラム以外は鍵盤も含めて
   メセニーの多重録音。たんなる弾き飛ばしでなく、細かなダビングを重ねて厚みある
   フュージョンに仕立てた。もちろんMssadaの熱気を減じもしない。
   隙もそつも無いアルバムだ。毒も無いため、Masada入門編に良いかもね。

   "ディアスポラ"シリーズと銘打ち、インストを発表するスティーブン・バーンスタイン(tp,ex:Sex Mob)の04年作。
205・Steven Bernstein:Hollywood Diaspora:☆☆☆
   聴くほどに良さが滲んでくる。テンポを抑え、バンドの斬り合いも控えた。
   淡々と刻むビートの上で、伸びやかだが渋く抑えたアドリブがじっくりと展開する。
   ピアノの代わりにビブラフォンがカウンター・メロディを噛ませて空気を穏やかに掻き混ぜた。
   熱さや暑さを意志の力でねじ伏せて、茶色の空気を抑えめのテンポで緩やかに表現する。
   そんな強靭な意志としたたかな冷静っぷりが、実に力強いジャズだ。ほんと味わい深い。

   米クレツマー界で活躍のtp奏者によるコンボ・ジャズ。05年の盤。
204・Frank London:Hazònos:☆☆★
   ジャズに男性アラブ歌唱を載せ、野太くも頼もしいサウンドを作った。異化効果は
   十分に働き、奇妙な凛々しさと異世界感が漂う。細かくアレンジや構成を施してるが
   あまりにも流れがスムーズなのと、通底する弱さに雪崩れぬセンチメンタリズムの強さで
   するっと聴き流してしまう。じっくり噛みしめるほどに、美味しい。地味だが、強い。

   ジョン・ゾーン馴染のPer奏者のリーダー作で、02年の作。ゾーンのクレジットもあり。
203・Cyro Baptista:Beat The Donkey:☆☆☆
   ラテンを基調にひたすら打楽器の気持ち良さを追求したアルバム。メンバーは打楽器奏者のみ。
   ゲストをふんだんに招き、歌モノポップスからインプロ前衛まで幅広いジャンルを
   貪欲に一枚へ収めた。テクニック偏重は無く、シロ自らの自己主張も希薄だ。単に打楽器の産む
   心地よいビート感をタイトな演奏で爽やかに披露した、気持ち良い一枚。

   ジョン・ゾーンとも古くから馴染み深い彼の、エレクトリックtpソロ。05年の盤。
202・近藤等則:風狂 -Fukyo-:☆★
   抽象的な電子音楽みたい。音色は色々変えられるみたいだが、基本はトランペットを
   もとにしており、アルバム一枚で少々単調なのが難点。フリージャズの激しさは無く
   ましてやアンビエントな落ち着きも無く。奇妙に前のめりな即興が詰まった。

   Secret Chiefs 3のメンバー。クラシック系の盤かな。12年の発表。
201・Timba Harris:neXus I: Cascadia:☆★
   ドローンとアンビエントを基調に、重苦しく荘厳な現代音楽。かなり聴く人と気分を選ぶ。
   落ち込んでるときには、どんどん気持ちが沈むため向かない。
   逆にこの手の暗い音楽を欲するならば、緻密な作曲術は心地よく感じる。
   単調だがミニマルさが目的でなく、みるみる変化する組曲は飽きない。

   再結成マサカーの1stにして、通算2枚目。98年にリリースされた。
200・Massacre:Funny Valentine:☆☆★
   短い曲を並べて、引き締めた即興を聴かせる本盤がは、今まで聴いたマサカーの中で
   もっとも魅力的だ。ロックの文脈でインプロがこのバンドのテーマらしいが、
   今一つラズウェルのベースで間延びする。しかし本盤はヘイワードのクールでリズムを
   自在に揺らすドラミングが、スリルあって楽しい。そしてフリスのギターはどこまでも自由だ。

   英ベテラン即興key奏者は、映画音楽シリーズでの発売。02年にリリース。
199・Steve Beresford:Cue Sheets II:☆★
   サントラ集の第二弾。インド風の(3)やミニマル前衛の(6)など奇妙な香りの作品もあるが、
   基本は美しいラテンやジャズのミクスチャー。本盤はインプロヴァイザーでなく
   作曲家として、見事な楽曲をふんだんに披露した。

   フランス人作曲家の現代音楽集で、13年の盤。
198・Pierre-Yves Macé:Segments Et Apostilles:☆☆☆
   電子楽器と生演奏の融合を、テープ操作まで視野に操った楽曲群。いくぶん頭でっかちな
   所はあるものの、無邪気な科学実験を見てるかのような音像はハマると楽しい。
   音色を細かく組み立て、テープ操作で一気に変化させる大胆さが持ち味か。

   リーダーはベース奏者。ギター・トリオを前提に、各曲でホーンやギターのゲストを招くアレンジだ。14年の盤。
197・Haggai Cohen Milo:Penguin:☆☆★
   アラブ風味のストレートなジャズ。気負わず、やたらとベースを目立たせず、控えめだが
   穏やかでしたたかなアドリブを聴かせるサウンドを作った。
   ユニゾンでアラビックな旋律や和音を奏でつつ、ときにポリリズミックなアプローチも。
   尖らないが刺激を秘めた、面白いサウンドだ。

   ギター・トリオにサックス奏者を招いた盤。14年の発売。
196・Many Arms:Suspended Definition:☆☆☆☆
   ハードコアの疾走と知性あるパンチ力を備えた、炸裂っぷりが本バンドの魅力。
   フリーキーに吹き鳴らすゲストのサックスも、バンドの味わいをさらに増した。
   アルバム冒頭曲が単調寄りな展開のため、(3)から聴きはじめて頭に戻ることを
   ぼくは薦める。全4曲入り、剛腕まっすぐな2曲と、静かなテンションから駈け上がる2曲を収めた。

2015/8/15  最近買ったCDをまとめて。

   最新リマスター&リミックスに過去の再発盤とかぶらぬボートラ。40周年の決定版が出た。
195・Sugar Babe:Songs:

   英Dirter Promotion発売なメルツバウの新譜。利益は動物愛護Wildwoodに寄付とある。
194・Merzbow:Wildwood:☆☆☆★
   アナログ・シンセを駆使し、音像の精妙さをさまざまなアイディアで表現した。
   緩急を意識的に効かせつつ、剛腕ノイズのダイナミズムは外さない。新奇よりも着実な
   ノイズ操作を見せつけた一枚。ベテランの凄みだ。

   元Men at Workのリーダー、12枚目のソロで新譜。
193・Colin Hay:Next Year people:☆☆☆☆
   またもやコリンの傑作が生まれた。本当にブレず、ダレない。
   録音もコリン自身が担当したパーソナルな作品だが、安っぽさは皆無。綺麗な脂の抜けっぷり。
   英トラッド風味を下敷きに、アメリカのカントリーを描いた本作は、滑らかだが
   塩辛いメロディと、枯れた涼やかな世界を描いた。リズムや前のめりな勢いはない。
   ぐっと一歩引いたアコースティック・サウンド。けれどもノスタルジーな安定は
   狙わない。どこか冷えた視線を感じる。多数のミュージシャンを招きつつ
   つぎはぎめいたサウンドにならない。アレンジの勝利だ。
   (3)でふっとMen at Workを連想するイントロのフレーズを使うのは、ワザとかな?

   藤掛正隆が録音、自レーベルから発売の新譜。15年3月18日なってるハウスでのライブが
   早くもリリースされた。
192・片山広明/太田惠資:K.O.:☆☆☆★野太い片山の咆哮を軸に、バイオリンが奔放に暴れる。二人のセンチメンタルさが
   炸裂しつつも、音像は厳しく冷静だ。全編が即興ゆえに、二人のピントが合うかがポイント。
   その意味で、瞬間を上手く切り取った編集が素晴らしい。
   アルファベット二文字の曲名は、おそらく何かを暗示と思うが意味合いは掴めていない。
   一徹な音色で剛腕に音楽を切り割る片山と、多彩なアプローチで幻惑する太田。
   聴き入るほどに、二人の才能に感じいる。

2015/8/6  最近買ったCDをまとめて。

   アンドリュー・ヒル(p)をいろいろ聴いて見たく、何枚か入手。
   これは63年録音のブルーノート盤、同日セッションのアウトテイク2曲をボートラ収録した04年リイシューのCCCD。
191・Andrew Hill:Black Fire:☆☆☆☆
   ブルーノートで初、自己2ndリーダー作にあたる。自分がリーダーのセッションは約1年ぶりと
   おそらく気負った録音だと思う。若手26歳のJoe Henderson(ts)は本盤録音の2ヶ月に、彼のサイドメンで付き合った。
   リズム隊の二人はセッションでは初顔合わせ。ほぼ同世代でドルフィーと鳴らしたRichard Davis(b)に、
   5歳上で38歳の先輩Roy Haynes(ds)を迎えた。アンドリューは32歳、脂の載ったころ。
   ただし本来はフィリー・ジョー・ジョーンズを予定、スケジュール合わずロイになったそう。
   サックスは伸び伸び吹かせた。つっこみ気味の奇妙なタイム感のドラムに、ランニングに留まらぬ
   剛腕ベースの個性強いアンサンブルをリリカルなピアノでガッチリまとめた。
   この独特なグルーヴは大半がロイのシンバルのおかげだが、偶然の出来事ってわけか。ハードバップを通過して、
   新たな斬新さを狙ったジャズ。ピアノはシンコペートのノリに加え、三連符を上手く使いこなした。

   65年録音のBL盤、07年リイシュー盤。
190・Andrew Hill:Compulsion:☆☆☆
   メロディよりもグサグサ突き刺さるビート感が聴きもの。
   サン・ラのアーケストラからジョン・ギルモアを、フリーに強いセシル・マクビーを迎え
   ビバップからはフレディー・ハバード。ドラムは馴染のジョー・ヘンダース。
   さらにアフリカン・パーカッションを二人配置し、原初的な混沌ジャズを至極まっとうにブチまけた。
   貪欲に様々な音楽を吸収するヒルの、強固で幅広い視野が勇ましい一枚だ。決して安易な
   形式の安易なフリーに流れず、きっちりとアレンジを意識した演奏が鍵。
   複雑なビートを作り、のびのびとフリーなピアノをヒルは叩く。
   ちなみに録音は65年10月8日。馴染のベーシスト、リチャード・デイヴィスは一曲だけ起用されてる。
   本来は2ベース構想が、途中でリチャードがついて行けず破綻したか。馴染のドラマー、ジョーも
   本盤を最後にアンドリューのセッションから外れる。進化する過程のアンドリューが残した一里塚。

   64年録音のBL盤で、94年再発の日本盤を入手。
189・Andrew Hill:Point Of Departure:☆☆☆☆★
   素晴らしく刺激的なジャズだ。ハードバップとフリーを自在に行き来するロマンティシズムが美しい。
   Tony Williamsを初、そして生涯唯一で起用した盤。ドルフィーほか吹きまくりの3管編成で、
   ベースは馴染のRichard Davis。64年3月21日に録音した。なおドルフィーとヒルの邂逅も録音では本盤のみ。
   ドルフィー目線だと本盤は"アウト・トゥ・ランチ"の一カ月後。彼の最後の正式録音がこれ、らしい。
   ベースとドラムも"アウト・トゥ・ランチ"と同一。当時18歳のトニーを紹介はドルフィーかも。
   (1)はベースのフレーズは淡々とあまり上下せず。呪術的なムードを、ピアノが和音感を出した。
   鋭いハイハットにあおられ、フロントが次々ソロを取ってく奇妙な曲。
   つっこみ気味のドラムと、変てこにサックスを軋ませるドルフィーが目立つ(2)は
   ジョー・ヘンダーソンもフリー気味にテナーを唸らせた。不穏な和音をピアノが提示し続ける。
   ドルフィーのバスクラがテーマに奇妙な味わいを出した(3)にて、ピアノのファンキーなソロが聴きもの。
   輪をかけて3管が同時進行で轟き、ピアノが鋭くオブリを執拗に指し込む。凄い。
   (4)は威勢のいいつっこみグルーヴ。ドラムとベースで土台をつくり、ピアノとフロントが自由に短いソロで突いた。
   最後の(5)は甘いピアノの上で、ときおりフリーなソロが鳴る。寛ぎに安住しない姿勢が美しい。

   92年発売で比較的初期のアルバム。未聴だった。グラウンド・ゼロなどのメンバーに加え、
   ゲストが数人。ジョン・ゾーンが2曲でサックスを吹き、斉藤社長が1曲でギターを弾く。
   ベースを1曲で弾く沼田順は、のちのdoubtmusicの人かな?
188・大友良英:We Insist?:☆☆☆
   コンピレーション的な意味合いもあったと、初めて知った。(1)が劇団燐光群、(2)が劇団レプリカント向に
   書かれた曲。(5)ほか9曲がNHK BSの"ベルリン大探検"用に書かれた。
   他が、当時録音で未発表音源と言う。さらに(1)の一部は88年に東京駒場"Noise in X'es-天皇Xディ下の躁音"でライブ録音とあるが
   ターンテーブルでのライブなのか、どの辺が当該箇所かは分からなかった。
   本盤で大友はノイズギターとタンテを操作。ゲストとのコラージュめいた作品を披露した。
   断続だがリズミックで、抽象的でカラッと乾きつつ主張もしっかり。
   確かに本盤は、この後に大友が発表し続けるさまざまな要素が詰まってる。

   TZADIKで二作目の作曲者として発表した01年のアルバム。今度は轟音系。
187・大友良英:Anode:☆☆☆☆
   "互いに反応せず"に拘ったアンサンブル。今も続く大友音楽の美学が純粋に封じ込められた傑作。
   存在しないはずの関係性や起承転結が、不思議と聞こえてくる。(2)や(3)の
   比較的音数少ない作品を聴いてて顕著だ。轟音でもきっちり音を聴き分ける
   分離良い録音とミックスも驚異的。初期の傑作だと思う。

   TZADIK盤をあれこれ入手。
   これは弦3挺とパーカッションの編成で12年の発売。
186・Samech:Quachatta: ☆☆☆★
   予想以上にクラシックと大衆音楽を融合だ。ロマン派なアプローチを多用しつつ、がっつりジャズ。
   敢えてバイオリンを外し最高音を抜いた弦楽アンサンブルは、たくましい整いっぷりだ。
   即興要素はアドリブ・ソロくらい。そのぶん美味しい弦アレンジがそこかしこで味わえる。
   歯応えあるサウンドだが、妙に中域が痩せてるのが無念。

   マサカーが07年発売の4th。
185・Massacre:Lonely Heart:☆☆
   ニカ所でのライブを収めた。ビル・ラズウェルの地味な低音が相変わらずもどかしいが、
   フリスのギターは刺激的だしドラムもスピーディ。即興ロックとして
   ジャズのグルーヴを抜いたインプロを楽しめる。

   08年発売、ホーンが4管体制のビッグバンド編成、かな。
184・Steven Bernstein:Diaspora Suite:☆☆☆★
   複数リズム隊のポリリズムをねっとりと広げ、かっちりまとまったテーマと中間部のフリーの
   落差を激しくアレンジした。テンポは比較的ゆるやかに粘っこいファンクを提示した。長尺でなく12曲に分かれ飽きさせない。
   自由と緻密が併存する強靭なジャズだ。でかい音で聴きたい。
   小さい音だと地味だが、轟音だと凄みが強烈に増す。

   デレク・ベイリーが06年発売のセッション盤。
183・Derek Bailey, Jamaaladeen Tacuma & Calvin Weston:Mirakle:☆☆☆★
   本盤のみの企画だが、とても充実したアンサンブルだ。オーネット組のリズム隊が
   胸を貸した格好か。グルーヴとアバンギャルド、双方の要素をめまぐるしく
   使い分けつつ、基本は強靭なファンクネスを提示した。エレキギターで対抗する
   ベイリーは鋭いタッチで奔放に動くが、リズム隊が実にしっくりと受け止める。
   尖ったフレーズとしぶとく弾むリズムの一体系は、しばしばベイリーもオンビートで疾走するほど。
   特に(3)の一体感が最高だ。

   最晩年の録音でギター・ソロ。
182・Derek Bailey:Carpal Tunnel:☆☆☆★
   病気による手のしびれが進行するさまを、数週間ごとに曲を録音して表現した痛切な一枚。
   曲が進むにつれ、音がシンプルかつポップに鳴っていくさまが辛い。ノン・イディオムを
   意識しつつ、それよりも出音を探る。そんな取捨選択の荒々しさを本盤に感じてしまう。
   いかん、これは音楽の聴き方ではない。なにも予備知識無しに、本盤を楽しみたい。
   その観点では、フリーでビート性は希薄だが、非常にポップな場面がしばしば現れる。

   トム・コラの追悼盤2枚組で99年盤。クレイマーが2曲で参加してたのか。
181・Various Artists:Hallelujah, Anyway - Remembering Tom Cora:☆☆☆☆★
   聴き逃してたのが悔しい。もっと早くから聴いておけばよかった。
   才人トム・コラを多面的に味わえる傑作コンピ。ライブで交流あった日本人も数多く参加した。
   コラ自身の演奏、曲のカバー、独自の音楽で彼への追悼。さまざまな視点の楽曲が
   どっぷり詰まり、多彩で芳醇な味わいだ。ジプシー的な切なさと
   前衛の鋭さを混在させたチェリストの一代記として、これほど見事なコンピは無い。
   当時のNYダウンタウン・シーンのショーケースとしても本盤は成立する。

2015年7月

2015/7/23  最近買ったCDをまとめて。

   メルツバウが1曲で参加。03年のコンピで宇川直宏の初音楽プロジェクト。
180・UKAWANIMATION!:ZOUNDTRACK:☆☆★
   オーガナイズとテクノ・ビートへ傾倒の観点で、二年後に立ち上げるDommuneの萌芽を感じた。
   小品が多いが、多彩なメンツが自由に繰り出すサウンドはもちろん悪くない。
   ショックなのはメルツバウの(3)が、13枚CDセットに膨らんだ「日本の鳥」シリーズへ
   そのまま転載されたこと。ドラムを使用するアイディアは宇川のディレクションだったのか・・・?
   
   鬼怒無月&鈴木大介のギターデュオ、3rd。2010年の発売。
179・The Duo :シーズンズ~Seasons:☆☆☆
   涼やかなギターが心地良く響く。幅広い楽曲を淑やかなムードで調和させる 
   アレンジ力も素晴らしい。(3)はThe Duoでなく松下隆二のアレンジを採用した。
   オリジナルは鬼怒と鈴木が二曲づつ提供。寛いだテクニシャンのひと時を味わえる。

   四街道ネイチャーのレーベル"首脳組"第一弾の女性R&Bシンガー。2010年の盤。
178・acharu:Nasty:
   メカニカルに語りかける、メロウなラップが中心。つるつるっと流れていく。
   客演も含めて凄みはほとんど聴かせず、ちょっと刺激に欠ける。
   多重録音を多用し、言葉の端々にアクセント強めなacharuのラップが
   好みかどうかで、本盤の評価は大きく変わる。
   トラックはシンセの打ち込み中心で、起伏無く進む。穏やかなテクノ風味だ。
   
   ポンタ関係の盤を何枚か入手。これは98年発売、多数のゲストを招いたソロでデビュー25周年を記念盤。
177・村上"ポンタ"秀一:Welcome to My Life:☆☆☆☆
   多彩なゲストに寄りかかることなく、洋楽憧憬に終わることなく。日本文化や歌謡曲など
   自らのルーツも目配りした結果、とっちらかった選曲ながらも質の高く
   奥深いアルバムに仕上がった。豪華なゲストに負けぬドラミングあってこそ。
   しかも歌伴を邪魔せぬミックスで、やたら自我の強いドラム・アルバムに成る愚も犯さなかった。
   のびのびと等身大の、そして奥深い才能を溢れさせた心地よい盤だ。
   曲によってドラムの音色も、アプローチも違う。凄まじいリズム感とセンス。凄い。

   ピアノ・トリオの盤。97年発売、3rdかな?
176・PONTA BOX:MODERN JUZZ:☆☆
   達郎の"クリスマス・イブ"(歌:佐藤竹善)以外を除き、ピアノ・トリオ。2トラックハーフへ
   ダイレクト録音できれいな音質を狙った。楽曲は全てオリジナルだが、既存の
   ジャズ・スタンダードをどこか連想させる親しみやすいスインギーな旋律だ。
   ハイハットの粒立ちが目立つ録音で、全体に溌剌とした演奏だ。ポンタの手数は
   すごく多いのだが、きれいに音楽へ溶けている。
   なお"クリスマス・イブ"はスキャット形式でフェイクしたアレンジだ。途中でギャグ有り。

   95年発売、1stだと思う。
175・PONTA BOX:PONTA BOX:☆☆☆
   ジャズともフュージョンとも取りづらい。未だにぼくはこのバンドが上手く消化できない。
   音楽は、間違いなくかっこいいのだが。重たさと軽やかさ、矛盾な音楽性が平然と同居する。
   10曲中、2曲が村上の作曲。3曲が水野で3曲が佐山とバランスとれたオリジナルの収録だ。
   ピアノをくっきり際立たせ、ドラムはむしろ奥まった深い響き。猛烈に軽快なドラミングを
   滑らかに太いベースが支えるフュージョン寄りの爽やかなピアノ・トリオに仕上げた。
   手数多いのにうるさく無く、抜けのいいドラムが圧倒的だ。ときおり硬いスネアの響きが
   入る辺り、ドラム・ダビングもあり?アレンジも細かく、キメがびしばし飛び交う。
   高速でカバーした、マイルスのショーター曲2連発な(8)も痛快だ。
   テクニシャン三人の極上なグルーヴを詰め込んだ。やっぱ、すごいなあ。

   91年発売。11thソロで、結果的に彼の最後のアルバムとなった。
174・加藤和彦:BOLERO CALIFORNIA:☆☆
   アレンジがニック・デカロ、録音とミックスがアル・シュミットと豪華な布陣だ。洒脱なアレンジと
   モダンなメロディは確かに心地よい。癖のあるクルーナー風の歌い声がちょっと馴染めないが
   50年代のラテンを洗練させた旋律は耳へ素直に入る。91年の音楽とは思えない。

2015/7/12   最近買ったCDをまとめて。

   元GbVなロバート・ポラードの新譜は2年ぶり。活動停滞では無く、単に別バンド名義のリリースが続いただけ、だが。
173・Robert Pollard:Faulty Superheroes:☆☆☆★
   クレジット見るにドラムを全てケヴィン・マーチに任せたってこと?トッド・トバイアスの
   ワンマン・バンド路線からの変更か。ざくっとした荒っぽい録音に、いがいとポップ寄りな
   曲を並べた。甘酸っぱいロバート節がそこかしこに。ちょっと内省的なアルバムに聴こえる。
   アルバムごとの個性が見えづらい多作さだが、じっくり聴くにつけ印象変わるかも。

   09年のリミックス・アルバム。メルツバウの参加を切っ掛けに入手した。
172・Melvins:Chicken Switch:
   メルヴィンズを知らぬため、楽曲についてコメント不能。電子音楽集みたいな
   感じだが、オリジナルとどう違うのやら。全体的には、とくにジャンルやリズム、構造など
   ルールにこだわらず伸び伸びと楽曲を作った感じがする。

   権切れコンピでフォー・シーズンズ以前の音源もまとめた13年の2枚組。
171・Frankie Valli & The Four Seasons: The Anthology:☆☆☆☆
   "Sherry"大ヒット前、"You're The Apple Of My Eye"のさらに前、の試行錯誤がまとめて聴ける盤だ。
   むしろこの盤は録音順に並べ替えて聴くと、いかにフランキーが下積みを経験か
   良くわかる。そして"Sherry"の斬新さも。歌声すらも若さゆえの溌剌さはさほど無い。
   フランキーは昔から歌が上手く、"Sherry"後にますます魅力を増した。
   著作権切れの適当なコンピではない。丁寧な仕事だ。選曲も気を使ってるな・・・。だが繰り返す。
   2枚組のボリュームで聴きとおす最後で集中力を切らさぬように、録音順に並べ替えて聴いて欲しい。

   ドラマーのハーヴィ・メイソンが多くのミュージシャンを招き14年に発表のソロ。
   自己名義では8thソロとなり、"With All My Heart"(2004)以来、10年ぶりかな。
170・Harvey Mason:Chameleon:☆★
   基本は新旧ゲストのバラエティ感で、自らの栄光回帰。ただしドラムの気持ち良さは
   しっかりなため、心地よいのは事実。若干フュージョン寄りだが曲調がけっこうばらつきあり
   五目味のサウンドだ。BGMには向かないかも。
   シャープなハイハットを筆頭に、柔らかいグルーヴだがタッチの硬いドラムが魅力だ。
   パトリース・ラッチェンのカバー(5)や自作曲(8)の浮遊感と渦を巻くリズムがかっこいい。

   92年のサントラ。聴いたこと無かった。黒田京子(p),仙波清彦(per),吉野弘志(b)らが参加だ。
169・坂田明:Nano Space Odyssey NHKサイエンススペシャル:☆★
   フリージャズでなく、作曲された楽曲。サックスのダビングもあり、鮮やかなフュージョンにも聴こえる。
   坂田によるシンセのパッド音色が広々と広がるせいか。仙波の軽やかな
   ドラミングが、サウンドの重心を心地よく持ち上げた。無闇に明るく無く
   どこか陰りを持った神秘性がアルバムを通底する。
   坂田明の前衛性を期待したら、拍子抜け。

   ジョゼフ・ボウィ(tb)中心のファンク集団が、活動中期の94年に発表したライブ盤。
168・Defunkt:Live and Reunified:☆☆
   前半は焦点の定まらぬまちまちな曲が並び、正直飽きてしまう。面白くなるのは
   昔のメンバーが集まる後半から。一気に音楽が引き締まり、猛スピードのファンクが始まる。
   ようするに強烈な個性と統一感を出し切れなかったところが、このバンドの限界か。

   チェコのピアニスト、ナイ・ポンクが94~97年録音の音源を、99年に限定リイシュー。
167・Najponk:Birds In Black:☆☆
   オーソドックスなピアノ・トリオ。8曲中(5)のみベーシストのオリジナル、あとは
   全て米ジャズのスタンダードを取り上げた。トリッキーさは無く、くっきりした
   タッチで音が転がる。三人とも指は廻るしタイトなので危なげなく
   軽快なスイングするジャズを味わえる。個性を尋ねられたら困るが。

   79年の黒人ピアノ・トリオ。フリーからモーダルまで幅広そう。
166・Horace Tapescott:In New York:☆☆☆☆
   このハードバップは、ロイ・ヘインズ(ds)のツッコミ気味なリズムが奇妙な味を出した。
   拍アクセントを操り浮遊するビートを出す。ベースがランニングで芯を作り
   ドラムと噛み合う独特のグルーヴを作った。ピアノは初手からパンチの効いたフレーズ。
   フリー気味に細かく音符をばら撒くが、基本はコーダルなセンスだ。
   駆け抜ける旋律は洗練と粘っこさのブレンド具合が素敵だ。ドラム・ソロのメロディアスな響きも心地よい。
   タッド・ダメロンの(4)も、すごいダンディズムでじっくり聴かせる。
   ジャズ・スピリチュアルの傑作。時代に色褪せない。

   英のバップ・テナー奏者の廉価盤。CD4枚でLP 5枚とEPや編集盤音源をまとめたみたい。
165・Tubby Hayes:Vol.2☆☆
   ディスコグラフィと見比べる。デビュー当初の56~58年のリーダー作で録音のすべてと、
   Jimmy Deucharのオケに参加した"Pub Crawling"(1955)の音源。
   あとは半年飛んで"London Jazz Quartet"(1959)と"The Jazz Couriers - The Last Word"(1959)用の
   音源を当時のアウトテイク含めて収録した。カタログ的には
   Vol.1でもおかしくないが、たまたま再発した編集の都合か。
   生真面目なジャズをクールに決める。ファンキーになり切れず、しゃっきりと丁寧な演奏は
   アメリカへの憧憬を持ちつつ、はっちゃけきれない。
   むしろ59年のほうがしたたかな青白い冷めたムードを漂わせ個性が光る。
   若者がぐいぐい成長していく様子が、伺えて面白い。
   ただし再発カタログとしてはごっちゃな編集で今一つ流れがつかめず。マニア向け。

 最近ブログで感想書き続けてる、TZADIKの盤を色々入手した。
 
   伊の作曲家によるテープ・コラージュなエレクトロニカで99年の盤。95年の盤をTZADIKがリイシューらしい。
164・G. Di Gregorio:Sprut: ☆★
   アメリカ黒人ジャズメンを中心に、膨大な盤からサンプリングして次々とつなげた
   電子音楽もしくはテープ・コラージュもしくはブレイクビーツ。だがフロア対応のダンサブルと逆ベクトルだ。
   様々な素材を詰め込んだわりに、どこか鷹揚でのんびりした風合いが彼の個性か。
   ノイズとスイングジャズを並列させる無節操さと、フレーズ・ループの小粋なポップさは有るけれど
   どっかマニアの手すさびで終わった。何となくBGMで流して元ネタ想像は楽しいかも。
   きっちりフレーズ抜いた割に聴き分けが難しいから。

   09年発表、前衛音楽に多大な影響を与えたメレディス・モンクの編集盤。声の即興へ音楽を付けたかっこうか。
163・Meredith Monk:Beginnings:☆☆
   66年から80年まで、活動初期からぐいぐいと伸びていく時期をまとめた編集盤。
   ピアノ中心の素朴な演奏に、器楽的に喉を震わせクルクルとスキャットをぶつける
   モンクの綺麗な歌声が聴ける。前衛狙いで音楽的なダイナミズムは希薄だが、
   個々の音楽は端正なアイディアを綺麗にまとめており、ノイズ狙いではない。
   静かに彼女の才能を味わうのに適した盤、か。

   インド音楽らしい。リミックスでビル・ラズウェルがクレジットされた。13年の盤。
162・Suphala:Alien Ancestry:☆☆
   曲ごとにアレンジを変え、西洋/中東音楽の双方をタブラで繋ぐアプローチは心地よい。
   けっこう軽やかで硬質なビート感だ。
   後半2曲でがっつりフロア対応な世界を作り幅を広げるプロデュースも悪くない。
   ただし日本には既に吉見征樹が居るんだよなあ・・・彼の二番煎じみたいに聞こえてしまう。
   師匠筋も一緒だし。いや、Suphalaに何も落ち度はないのだが。

   08年のピアノ・カルテット。サイドメンはグレッグ・コーエンらゾーン人脈だ。
161・Daniel Zamir:I Believe:☆☆★
   マサダのリズム隊にユリ・ケインのピアノをバックのクレツマー・ジャズ。あまり暑く吼えず
   ソプラノ・サックスの揺れるフレーズが、落ち着いて鳴った。タイトな演奏で
   渋いグルーヴィなジャズを聴かせる。アウトするフレーズがわずかに神秘的な雰囲気だ。
   BGMには少々アラビックな個性が強いが、悪くない耳馴染みの盤。

   13年作。Tzadikでは3rd。クラシックでは電子音楽の大家らしい。
160・Noah Creshevky:The Four Seasons:☆☆★
   電子楽器にさまざまな生楽器を足して、多重録音でシンフォニックな印象を漂わす。
   細かで複雑なメロディや音使いだが、どこかぐちゃっと混沌。しかし奇妙にポップな所が味だ。
   電子音楽の歴史を知り尽くしたような、懐深い作曲術に奥深さを感じた。

   クレツマー・ジャズのサックス奏者がマーク・リボーらを招いたセッション、14年の盤。
159・Paul Shapiro:Shofarot Verses:
   妙なリラックスぶりが漂うアルバム。ジャズのグルーヴを離れ、ロックンロールの爽快さと
   ブルーズのセンチメンタリズムを取り混ぜた印象あり。率直に言うと、中央線ジャズに通じる
   親しみやすさを感じた。しかしベースとドラムが今一つ弱く、シャピロの趣味全開を
   突き抜ける普遍性や力強さに欠けた感あり。

   イタリア・ジャズの底力を感じた。ユダヤ文化のクレツマー・ジャズ。13年の盤。
158・Gabriele Cohen:Yiddish Melodies In Jazz:☆☆☆☆
   傑作。妙にちぐはぐな浮遊するアンサンブルが魅力。リードのサックスとエレキギターのリズム隊が
   それぞれ別録りでまとめたかのよう。ポリリズミックと少し違う。
   無作為に平行して取った録音を一つにミックスした感じ。
   過去を大胆に咀嚼し、独自の音楽を作った。菊地成孔のソロに通底するセンスを感じた。

   アコーディオン奏者のアルバム。日本人なのかな?ゲストで灰野敬二や太田惠資が参加の01年作。
157・A Qui Avec Gabriel:Utsuho:☆★
   完全ソロとゲストの音色を足す二種類を交互に響かせた盤。アコーディオンのふくよかな
   響きは時に硬質、時に懐深く鳴った。多才な音楽性を無造作に吸収する柔軟性の一方で、
   ゲストの音がダビングっぽく留まったのがもどかしい。
   もっと艶めかしいセッションも聴きたかった。

   NY在住のヴォイス・インプロヴァイザーなAya Nishinaの13年録音盤。
156・Aya Nishina:Flora:☆☆☆☆★
   傑作。膨大な歌声を重ねて、神秘的で美しくロマンティックで透徹な世界を見事に描いた。
   繊細かつ緻密なアレンジと、厚みある声の揺らぎが素晴らしく綺麗だ。
   大音量で、特にヘッドフォンで聴くとさらに魅力が増す。声がそこら中から降り注ぐ。

   ユダヤ教会で使われる角笛の一種、ショファー奏者による13年の盤。
155・Alvin Curran:Shofar Rags:☆☆☆☆
   角笛の素朴なアンサンブルと逆ベクトル。猛烈な多重録音を仕立てて、電子楽器と混ぜることで
   幻想的で無機質ミニマルな奇妙に浮遊する音楽を作り上げた。
   数音しか出せぬ一本の角笛を駆使し、さらにダビングを重ねて素晴らしく刺激的で酩酊を
   誘う不思議な音楽が聴ける。

   発売は03年のジョン・ゾーンによるサントラ集。本盤はカルテット編成の室内楽か。
154・John Zorn:Filmworks Xiv:☆☆☆★
   切なくシンプルなメロディを、アコースティック・アンサンブルで心地よいラウンジに仕立てた。
   映画音楽を意識した変奏曲集であり、あまりゾーンの音楽的主張は見られない。
   ユダヤ人家族のドキュメンタリー映画へ職業作家として、真摯に音楽を付けた感あり。
   スマートに聴き流してもいいのだが、じっくり耳を傾けると妙にメロディの悲しみに引っ張られてしまう。

   14年発売、ジョン・ゾーンの新作クラシック曲集らしい。
153・John Zorn:Myth And Mythopoeia:☆☆☆
   5曲の現代楽曲を収めた。どれも超絶技巧と冷徹な計算が施された、ジョン・ゾーンらしい楽曲。
   本盤はデザインが良い。ブックレットには各曲の譜面が1ページだけ掲載され
   変てこでムチャクチャな様子が、譜面から何となく伺えれる。
   音を聴いてると、猛烈な軋みとスピードに場面転換の嵐ばかりが印象に残ってしまうため。
   楽曲としてはチェロ独奏でリフとグリサンドの重音を出しまくる(4)がひときわ凄まじかった。

   Masada Book2の14年発売な第21弾はマルチ奏者のEyvind Kangがリーダーな大編成集。
152・Masada Book Two:Book of Angels, Vol. 21: Eyvind Kang plays Alastor:☆☆☆☆
   冒頭からどっぷりアラブ風味。しかし西洋音楽へも振り幅広く、穏やかで美しく緻密で繊細な
   オーケストラ・サウンドを構築した。隅々まで多数のメンバーに目配りし、たぶんほとんど譜面で
   隙を見せぬ音楽を披露する。クレツマーでなく中東のエキゾティックさ、西洋クラシックの
   揺らぎを見事に一枚に封じ込めた傑作だ。

   元は83年、ジョン・ゾーン初期の抽象ノイズなユニット。TZADIKでは改めて97年に再発した。
151・John Zorn:Locus Solus:☆☆☆☆
   改めて聴いて、ゾーンの先鋭性にぶっ飛んだ一枚。確かにとっ散らかって聴きづらいが
   実験性とは何ぞや、と実感できた。5種類のセッションを収めた本盤は
   メンバーをクルクル変えながら、頭の中に渦巻く高速で支離滅裂な創作欲を
   とにかく吐き出したい、ってゾーンの焦りと、自らの先駆性へ確信が詰まってる。
   録音も分離良く聴きやすい。じっくり聴くには向かない盤だが、凄まじいアイディアの宝庫だ、とも思う。
   ここで演奏される音楽は、単なるデタラメではない。猛烈な時間軸と価値観の分裂拡散だ。

   大勢のサイドメンを招いたセッション作、かな。03年の盤。
150・Marc Ribot:Scelsi Morning:☆☆
   面白いけれど。ちょっと歯がゆいもどかしさ。セッションとはちと違う。
   二種類のダンス音楽用に書き下ろした作品群をまとめた。リボーはギターも弾いてるし
   独奏曲もあるにはあるが、本盤では作曲者の立ち位置が強い。弾きまくるギターでなく
   硬質でどこか凄みのある重たい楽曲群を楽しむ盤。

2015年6月

2015/6/21  最近買ったCDをまとめて。

   モータウン時代の音源をCD二枚組で網羅した、Hip-Oの08年リイシュー。
149・Frankie Valli & The Four Seasons:The Motown Years:

   プログレ・ドリームチーム、吉田達也、ナスノミツル、鬼怒無月、勝井祐二、山本精一による
   黄金バンドが12年1月14日のライブを、磨崖仏から300枚限定CDでリリースした。5thアルバム。
148・The World Heritage:Live at Goodman:☆☆☆
   手慣れた雄大なインプロを自由に飛翔させる。すべてが譜面物のように
   調和してしまうのが、変な話、安心してしまう。もっとハラハラするスリルが欲しい気も。
   以下にすご腕同士かって証明のサウンドでもあるのだが。
   長尺で探り合いでなく、それなりに短い分数できっちりまとめる構成力もさすが。
   彼らと同時代に音楽を聴くことができて、心から嬉しい。

   シューゲイザー風だがコーラスの響きが気になって購入。英マンチェスターのバンドで09年の3rd。
147・Low Low Low La La La Love Love Love:Feels, Feathers, Bog And Bees:☆☆★
   シューゲイザーなハーモニー強調のポップス。リズムの硬さが気になってしまうが、
   いったん受け入れ馴染むと、不安定に揺れる彼らの世界に浸れる。
   しみじみとサイケで緩やかな世界観を、厚めのコーラスで飾った。
   けれどもきらびやかな飾りでなく、危なっかしさの残るところが個性か。
   気になって買ったのに、かなりの期間なかなか味わえなかった。イギリス的な鋭さも相まって。

   70年代に一世を風靡したPIRが125枚のオリジナル・アルバムから代表的な20枚を選び
   廉価ボックスにまとめた。2014年のリイシュー。
   手持ちCDと意外とダブって無い。ちゃんとこのレーベルを聴けて無いな。  
146・V.A.:Philadelphia Internationall Records/The Collection:☆☆☆☆
   廉価版ゆえのあいまいさはある。ボートラあるマスターだったり、それ以前のオリジナルLP盤の構成だったり。
   とはいえ生き生きと甘いソウルを始めた黎明期から、PIR色が抜けた整いっぷりをみせた後期まで
   代表的な盤を的確に抜き出したコンピ。作曲スタッフをソロに仕立てた活動もわかった。
   余計な作為を入れず、LP単位でずらっと並べた迫力のボックス。
 
[収録アルバム]
1972;Harold Melvin & The Blue Notes - Harold Melvin & The Blue Notes :☆☆☆★
   煮詰めて甘い弦をかぶせた、シンプルだがグルーヴィなバンド。伴奏を固めて
   甘いメロディをコーラスに歌わせる。その構築性をリード・ボーカルの存在感で突き崩す。
   そんなフィリー・ソウルのノウハウがガッツリ詰まった傑作だ。
   アルバムは"If You Don't Know Me by Now"がむしろ、異端。他の楽曲はもっと泥臭い。
   弦で甘くコーティングされてるが、ゴスペル的なハーモニーと歌の格闘が味わえる。
   隙の無いアレンジと演奏が素晴らしく、全く引けを取らないテディペンの歌声に再びしびれる。

1972;The O'Jays - Back Stabbers :☆☆☆
   PIRへ移籍にて初めて、通算7thアルバムにしてオージェイズ初のヒットした盤となる。
   最初は南部風味もしくはクールに幕を開け、じわじわとPIR流の洗練されたアレンジや明るい楽曲に仕立てる
   逆の盛り上がりを見せたアルバム。豪華な作曲メンバーに囲まれ、バラエティ豊かな楽曲群は
   ストリングスを鋭くも甘くも魅せるアレンジの妙味も楽しめる。
   スマートなハーモニーと、熱いが整ったバリトンの絡みも、PIR十八番の展開だ。
   大ヒット・シングル3曲収録なのに、(4)や(9)みたいなアルバム収録曲へ親しみを感じた。

1972;Billy Paul - 360 Degrees of Billy Paul :☆☆★
   通算4th、PIRでは2枚目のアルバム。先行シングルのタイトル曲を受けた発表だ。
   本Boxではなぜか2002年リイシュー時のボートラである"Me And Mrs. Jones"のライブを含むマスターが使用された。
   アル・グリーン、キャロル・キング、エルトン・ジョンと節操のないカバー曲センスと、
   ぐずぐずに曲を崩し歌うさまは、あまり共感できないけれど。なら、オリジナル曲でいいじゃない。
   しかし大ヒットのタイトル曲を筆頭に、緩急効かせて主旋律のボーカルをいかに艶めかしく
   生き生きとオケへ絡めていくか、の技は素晴らしい。
   線は細いが背筋の伸びた、大人の色気を狙った路線は見事にハマっている。

1973;The Intruders - Save The Children☆☆☆★
   個々の曲を作りこむも、奇妙なB級感が滲む。PIRのヒット方程式をちょっとズラし、
   他の要素を混ぜることで、覇気に欠けるアルバムな気がする。(3)、(6)など良い曲もあるのに。
   ぼくはPIR色が強いB面の方が好み。ギル・スコット・ヘロンのカバーで始まるA面も
   悪くは無い。一番本盤で好きなのは(3)だし。演奏はMFSB、アレンジはボビー・マーティンらと
   PIR選り抜きメンバーでシグマ・スタジオ録音なのに。どうも煮え切らないなあ。

1973;Three Degrees - The Three Degrees ☆★
   華やかなディスコ・ソウルが詰まった。テンポはわずかにゆったりめ。ボーカルは涼しげで
   ストリングスは甘みを抑えた爽やかさ。だが穏やかにファンキーなベースがグルーヴを作り
   しゃっきり刻むハイハットとギターのコンビネーションがうねる。
   どこにも隙が無く、大ヒット曲"When Will I See You Again"も収録。
   逆に売れ線狙い過ぎ、聴き流してしまう。丁寧に作り上げた工業製品みたいなアルバムだ。

1973;The O'Jays - Ship Ahoy ☆☆☆★
   ゴスペル風の野太いハーモニーをどっぷりかぶせ、ストリングスは甘さより涼しげさを出した。
   代表作だが沈鬱なイメージが漂う冒頭2曲の風味が重たくて、正直聴くのに勢いが必要な盤。
   特に黒人奴隷の哀愁を連想する長尺(2)が辛くて。
   今回改めて聴いたが、PIRゆかりの作編曲陣で緻密に作ってるのは分かる。
   軽いドラムへ滑らかに低音をかぶせるアンソニー・ジャクソンのベースも良い。
   サビから大サビへかぶせるキャッチーな(3)以降の、傑作ぞろいな流れなアルバムだと、印象だいぶ変わってた。
   甘さに流れ過ぎず、PIR流を踏みながらサザン・ソウルの野太さを上手いこと混ぜた。
   逆回転フレーズ多用でP-Funkマナーのがっつりファンクな(5)も興味深い。ベースが強力だ。
   (7)の極低音バスでハーモニーかませるアレンジも良いな。

1973;MFSB - Love Is The Message ☆☆
   MFBS名義の2ndでオリジナルはバリバリにディスコなギャンブル&ハフの(2)と(5)のみ。
   (8)もMFBS仲間のBruce HawesとJack Faithの作品だ。
   あとはソウルやジャズをカバーした。豪華な雰囲気を醸し出すBGM狙いか。
   今の耳だとつるっと聴き流してしまう。どこまでシビアに作りこんだのか。
   例えば(7)はダイアナ・ロスの同時代ヒット曲。その場のノリであっさり作ってそう。
   (2)と(5)のホーン隊を中心の華やかさは分かるが。なおもう一曲のオリジナル曲(8)は
   流麗なストリングスと少々ファンキーなリズム隊の妙味が良いイージー・リスニングに仕上がった。
   アレンジは(8)以外ボビー・マーティン。一応、スタメンが作ってるけど。どうにも評価しづらい。

1975;Bunny Sigler - Keep Smilin' ☆☆☆★
   作家活動からソロの機会を得て発表した盤。PIRは意外とこのへん、チャンスを与えるフレンドリーさだ。
   一曲目からいきなりファンク、他もPIRより南部はマイアミあたりのお気軽ソウルを聴かせた。
   あまり気負わず、PIRの仲間内と楽しく作り上げた盤って感じ。
   五目味で気楽に聴くには良い。メロディはきれいな曲だし。

1975;Harold Melvin & The Blue Notes - Wake Up Everybody ☆☆☆★
   PIRの黄金路線が結集したアルバム。ただし少々、大味な感じも。
   マクファデン&ホワイトヘッドがVictor Carstarphenと共作で4曲を投入。残る3曲がギャンブル&ハフ。
   アレンジは4曲がボビー・マーティン、3曲がノーマン・ハリス。残る一曲はロニー・ベイカー。隙がない。
   2曲はSharon Paigeとのデュオを投入、全方位の明るいハッピーなソウルに仕立てた。
   テディペンの歌声も冴えまくり、全米1位の大ヒットとなった。
   ストリングスは涼やかに、ホーンは冴える。ゴージャスなフィリー・ソウルの傑作だ。
   タイトル曲(1)の他に、(4)と(5)もシングルカット。それぞれヒットした。
   ディスコまで行かないが、ダンサブルなアルバムだ。(1)や(4)とアップの曲が好き。

1976;Lou Rawls - All Things In Time ☆☆☆☆
   とびきり頼もしいダンディな歌声が気持ちいい。オケを跳ね返し歌の存在感を出す。
   太さと柔らかさの双方を兼ね備えた、見事な歌いっぷりだ。
   日本の評価は地味だが、ルー・ロウルズは指折りの歌唱力でアメリカだと有名だそう。
   本盤が彼のキャリアで最大の売れ行き、ヒット曲(2)を収録。これも冒頭から低い声の粘りが気持ちいい。
   冒頭はブルージーな曲で始まり、PIRにしちゃ意外にシカゴ風と思いきや。この曲もギャンブル&ハフの曲。懐が深い。
   歌は抜群に渋く、鮮やかだ。(2)もPIR方程式そのままだが、瑞々しいシャウトが穏やかな譜割でも
   存在感たっぷり、ロウルズ独自の世界をくっきりと作ってる。
   (7)で"夢のチョコレート工場"(1971)の曲をカバー以外は、シグラーやAllan Felder、ボビー・マーティンまで
   曲を提供した。全9曲中4曲がギャンブル&ハフのオリジナル。PIR全面展開に
   歌声の確かさが相乗効果で傑作になった一枚。

1976;Dexter Wansel - Life On Mars ☆☆★
   お抱え作曲家のソロ作シリーズ。本盤が自己名義では1stで、PIRには4枚のアルバムを残した。
   1曲を除き自作曲、アレンジも1曲を除き自らが施した。2曲でインスタント・ファンクに
   バックを任せたほかは、スペイシーなディスコ風味のインスト・ファンクを聴かせた。
   鍵盤でソロを取りまくるが、今一つミックスが柔らかくて目立たないのが特徴。
   ホーンなどにも長尺ソロのスペースを与えるため、今一つピンぼけな感じ。
   弦もホーンも施して、ゴージャスな色合いを出す。タイトなリズムがディスコ時代だな。
   (4)のプログレっぽい、突っ込むノリとゴージャスなストリングスとの対比が素敵だ。
   滴るようなバラードにシンセが盛り上げる(5)も良い。

1976;The Jacksons - The Jacksons ☆☆☆
   (3)と(5)が特に良い。アイドル盤、とバカにできぬ。エピック移籍でジャクソンズ名義の初アルバムな本盤は
   ギャンブル&ハフへ大胆にプロデュースを任せた。シンセも使いPIR路線に留まらない
   爽やかなキャッチーさを封じ込めた盤だ。マイケルの初自作曲(5)も本盤で披露。
   弾むメロディがきれいだな。さらにマイケルのしゃくる歌い回しも萌芽が聴ける。
   シンセも使う新しさとストリングスとバンドの混在するPIRサウンドの混在を上手く仕上げた。

1977;Jean Carn - Jean Carn ☆☆☆★
   5オクターブの声域を持つという彼女の1stソロ。若手からベテランまで作曲とアレンジに貢献し
   みんなして彼女を盛り立てた。ギャンブル&ハフの曲提供は3曲と少なめだが、
   プロデュースは5曲を担当の力入れっぷり。ヒット曲(1)が軽やかで抜群だ。
   爽やかにメロディが降り注ぐ(2)の切ない冒頭も愛おしい。
   他のミドル~バラードも聴き応えあるキュートな曲ばかり。アップの曲は少々古めかしいが。

1977;Teddy Pendergrass - Teddy Pendergrass ☆☆☆★
   ソロ第一弾。PIRスタッフの総力戦で、一曲ごとに違う世界を提示した。ブルーノーツ・ファン向けに
   そのままなサウンドを(6)で残すのも忘れない。かゆいところに手が届き、
   アップからバラードまでLP一枚で見事に描いた。テディのシャウトも熱さから
   セクシーな穏やかさまで幅広い。歌の見事さと演奏の緻密さがきれいに整った一枚。
   いちおう(5)と(6)がヒット曲だが、少々小粒。
   (4)や(7)みたいに多重ボーカルな極甘路線のほうに、今は惹かれた。

1977;Lou Rawls - When You Hear Lou You’ve Heard It All  ☆☆☆
   ギャンブル&ハフの作曲/プロデュースは4曲に留まる。ボビー・マーティンのアレンジや、
   その他のスタッフもPIRなりMFSBがらみで、決してないがしろにされたわけでは
   無いと思うが。よりジャジーな小粋さを狙うルーの方向性は、ティーン向けな
   ギャンブル&ハフのノウハウで扱い兼ねたか。んで、次のヒットの方程式を探るべく、
   自由に若手へプロダクションを任せたとか。ルーにとってPIRでは3枚目のソロ。
   甘く闊達な歌に合わせ、洗練された毒気の無いソウルを軽やかに繰り出す。AORの見本だ。
   やっぱソウルと言うより、ジャズクラブで歌われそうな洒脱さが、刺激に欠ける。
   ギャンブル&ハフの(3)を、昔からコンピで聴き慣れており、思い出深い曲。

1978;Teddy Pendergrass - Life is A Song Worth Singing ☆☆☆★
   アップもバラードも行ける、テディペンならではの魅力が味わえた。
   (2)のシングルVer.と(4)のディスコVer.を収録したボートラ版のマスターを使用。
   78年発表2ndの本作は、サウンドがPIRの王道。作曲はギャンブル&ハフの作品を中心とレーベル
   総力体制の製作が伺える。ヒット曲(2)と大ヒット曲(5)を収録した。
   アレンジは3曲でJack Faith、1曲をJohn L. Usry Jr.が担当。当時に冴えてる人のセンスを取り入れたか。
   あとは Dexter Wanselが1曲、Thom Bellが1曲、と硬い線。
   Wikiによると(6)と(7)は"クワイエット・ストーム"フォームの米FM局では定番の選曲らしい。
   A面はアップ中心にぐいぐい押す。鮮やかなホーンとストリングスでゴージャスに仕立てた。
   (3)のミドルが華やかで良いペース・チェンジだ。マクファデン&ホワイトヘッドの軽やかさが光る。
   アルバムとしては、やはり(5)で幕開けなB面のしっとり路線が最強だ。

1979;Jones Girls - The Jones Girls ☆★
   きれいすぎる。するするっと耳を抜けていく。毒も無ければ下手でもない。クオリティをクリアしてるが
   強烈な個性も聴きづらい。何とも評価しがたい。
   隙をみせず整った完成度を、うまく構築した演奏とスタッフワーク。
   とはいえこの滑らかさが上手くいったのが(7)。とにかくスムーズなソウルだ。

1979;Edwin Birdsong - Edwin Birdsong ☆☆☆★
   4thの本作のみでエドウィン・バードソングはPIRを離れてしまう。全曲エドウィンの自作、PIRの必然性は無し。
   洗練されたディスコ寄りだが、がっつりファンキー。むせ返る飽和した音圧が独特な音像だ。詰め込まれ、隙がない。
   メドレーな(2)は、5と4拍子の混合で拍頭がブレる浮遊感が楽しい。
   (3)の中間部でDJミックス風の、揺れる効果も耳を惹く。(7)のトロピカルな気怠さもかっこいい。
   野暮ったいが、明るく突き抜けたファンクネスは、個性的な響きを持つ。

1979;McFadden and Whitehead - McFadden and Whitehead☆☆☆☆
   文句なしの大傑作。瑞々しいメロディと華やかな演奏、なおかつシンセが
   まじっても違和感ない。作曲家チームとしてPIRを支えた彼らの本領発揮、
   ギャンブル&ハフの力を借りずにPIRサウンドの切なさとみずみずしさを見事に
   表現した。捨て曲無し、アップもスローもばっちり。時を超えた華やかさを持つ盤だ。
   PIRのキャリア後期で本盤が発売になったことは惜しい。時代的にはむしろ遅めのサウンドだ。
   あと4年早く、PIR全盛期に作ってたら、彼ら自身がもっと評価されていたのでは。

1983;Patti LaBelle - I’m In Love Again  ☆☆☆☆
   落ち着いたアーバン・ソウルだ。A面がアコースティックで豪華な弦が振り撒かれた
   淑やかなムードで、B面はシンセを生かしたアップテンポ、が大まかな構成。
   さりげなく歌うが、ポイントでは超絶に伸びやかな歌声を響かすパティの歌唱力もさすが。
   名曲(1)と(4)を踏まえたA面が、時代を超えた魅力あり。B面は少々古臭いか。
   作曲家もPIR勢が協力しつつ、外部の作曲家も取り入れた。録音はシグマながら、ここにフィリー・ソウルの
   面影は薄い。一時代を築いた栄光はさておき、新たな普遍性を目指した盤だ。
   すなわちPIRである必然性が、悲しいかな無い・・・。

2015/6/6   ほぼすべてバーゲンで全てジャケ買い、予備知識が皆無。

   伊のエレクトロニカで11年発売。01年から活動のベテランで、14thアルバムかな。
145・Nimh:Krungthep Archives:☆★
   NimhはGiuseppe Verticchioのソロ・ユニット。"Krung Thep"とはタイ語でバンコクを指す。
   本盤はフィールド・レコーディングと電子音を足したノイジーなエレクトロニカだ。
   ほとんどは07年にバンコクで録音。ダビング素材は94年から09年にタイのチャウエンと、ローマで録音された。
   最初の曲がミニマルな路上録音と思わせ、二曲目からぐっと電子音楽度合いが増す。
   アジアの胡散臭さと酩酊っぷりを電化でまとめた。明確なメロディ、リズムで無く
   ループのミニマルさでノリを作る。異文化への憧憬より異化を音楽へまとめた感じ。
   ざらついた音色はパイプ・オルガンにうっすら似て、雑駁さと聖なる雰囲気が奇妙に混ざる。

   限定24枚組CD-Rシリーズを抜粋コンピの第二弾。07年のエレクトロニカ。
144・Ontayso:Selected Work From The 24hour Box Part two.:☆☆☆
   フィールド録音を素材にダーク・ミニマルなアンビエントに仕上げた26枚組ボックスから
   第二弾の抽出曲。各10分、6曲を収録した。曲名はどのCDからどの時間軸を抜いたか、を表現してる。
   おおもとのCD-R箱の情報はこちら。初版45部は売り切れ、第二版35枚は235,5ユーロで現在も購入可能。
   ミニマルさが強いがビート性は曲による。あまりリズムを提示しない曲もあり。
   音色で聴かせる一方で聴き手を寛がせず、切迫さを前に出した。
   どこかスコンと突き抜ける明るさも特徴かな。
   長尺を前提としたコンセプトだけに冗長気味だが、アレンジは聴きどころ多し。
   (2)がさりげなくポップな耳ざわりで良かった。

   米ニュージャージーのインディ・ポップで10年発表。1stらしい。女性の4人組バンド。
143・Ortolan:Time On A String:☆★
   アコースティックな曲調を基調に、時々サイケ。可愛らしいガール・ポップ路線だ。
   60年代アイドル・ポップ風のバンド・サウンドだが、圧倒的にアレンジと歌が拙い。
   (11)くらい突き抜けたアコースティックなサウンドなら聴けるのだが。
   しっかりスタジオ・ミュージシャンとアレンジに気を配って、歌を上手くしたら
   気持ちよさそうな曲が詰まってるだけに、惜しい。

   NYからのサイケ・アンビで11年に発表された。
142・Big Spider's Back:Memory Man:
   緩やかなミニマル・ポップさは、音楽が頭へ充満するかのようだ。静かなエレクトロニカ。
   あまり引っかかり無く、穏やかにするするとアルバムが流れていった。
   音色の美しさをダブ風に表現する。

   サンフランシスコのトリップ・ホップで、08年の作品。
141・R/R Coseboom:Beneath Trembling Lanterns:☆☆☆
   95~08年のシューゲイザー・バンドHalou。その後Stripmall Architecture名義で活動する
   RebeccaとRyan Coseboomコンビが、Halouの3rd的に発表した別ユニット。本名義は05年にEP"Moths + Butterflies"がある。
   このEPのうち2曲は、本アルバムへ未収録。
   エレクトロニカを素材にウィスパー気味の女性ボーカルを載せる。メロディは美しいが
   構造は希薄、ふわふわと漂った。
   バッキング・トラックは声も含めて変質した電子音。潰し汚し輝かす。声も、音像も。
   淑やかだが電子音が不穏さをわずかに演出、緩やかに浮遊させる面白さあり。
   SE的な電子音も込みで忙しない小刻みなビートと、シンセやボーカルの緩やかなノリの多層性が味だ。
   細かく歌声や構成もアレンジされ、丁寧で緻密な作りを感じさせる。

   11年、アメリカのエレクトロ。本作が3rdになる。
140・Low In The Sky:A Shared Rainbow:☆☆
   多数のゲストを招いたエレクトロニカ。太く明るいシンセを中心に軽快かつ
   爽快なインストが詰まった。ビートとフレーズが良い具合でミックスしており、
   BGMにちょうどいい。ゲストのおかげかバラエティに富んだアルバムに仕上がった。

   オーストリアのエクスペリメンタル系で12年の発売。10年越しのプライベート製作とか。
139・Werner Kitzmüller:Evasion:☆☆☆★
   ピアノと生ギターのダビングとハーモニーを元に不思議な世界を作った。
   サイケ・フォーク?丁寧なダビングで複雑で沈鬱な、独特の音世界を作った。ハーモニーへ若干の
   こだわりか。メロディは奥深いが比較的平板、リズムの要素は希薄だ。
   奥深い闇を覗くような、独特の揺れる静けさが興味深い。ぱっと耳に残りづらい
   サウンドだが、繰り返し聴くうちに惹かれてく。

   オーストリアのピアノ・トリオ+エレクトロニクスなジャズ・バンド。03年結成で11年発売の3rdだ
138・Tupolev:Towers Of Sparks:☆☆
   30分足らずのミニ・アルバムは、中間部の"Towers Of Sparks"3部作がクライマックス。
   さり気ない変拍子がそこかしこに散りばめられた。電子楽器役は
   空気に色づける程度の遠慮深い音使いだ。ジャズの構成だが欧州らしくグルーヴ感は希薄、
   端正なフレーズが断片的に響く。ベースがぐぐっと引いた立ち位置のためか。
   カタルシスより停滞する静かな空気の表現が印象に残った。
   "Towers Of Sparks"3部作では音響系ノイズを全面に出したり、アルコ弾きベースで荘厳さ漂わせたり。
   ストーリー性や構成を意識した、プログレ的な展開で盛り上がる。

   12年のジャズ。ギター、オルガン、ドラムのファンク系か。
137・Will Bernard Trio:Outdoor Living:☆☆★
   ギターとオルガンにドラムの王道トリオ。ただしリーダーがギターらしく、オルガンは
   若干控えめな立場。タイトなドラミングとロックなオルガンもジャズよりジャムバンドをっぽい。
   Internet Archiveにはやはり彼の音源ページがあった。
   キメはあちこちにあるが、タイトな整合性よりダルッと揺らがせるグルーヴは、やはりジャズ仕込。
   ブレイクビーツ風の(4)みたいなノリも、さすが今ならではの選択肢だ

   11年発表の女性SSWの盤。ベルギー出身で本作が5thだ。
136・Half Asleep:Subtitles for the Silent Versions:☆☆☆★
   暗い雰囲気のサイケ・フォーク。女性コーラスにエコーをどっぷりまぶさず、
   ちょっとドライな響きで奥行を多数のダビングで出す手法が、ちょっと意外で気持ちいい。
   呟きともつかぬ歌声が、はかなく暗い世界を描く世界は、乾いてて耽美さは希薄だ。
   個々のメロディよりアルバムを流し続け、音像に浸る方が楽しい。
   伴奏もギターと鍵盤を上手いこと使い分け、バラエティを出した。
   (11)の荘厳なアカペラ・コーラスも良いなあ。

   米Abandon Buildingのレーベル・コンピ。ヒップホップとある。06年盤。
135・V.A.:Assemblage Sessions 2:☆★
   基本はエレクトロニカ、時々ヒップホップ。ビートが効いてるのとループ聴かせるのと、
   フロア対応とホームユースがごちゃまぜ。明るいサンプリング・シンセが
   気持ちを浮き立たせる一方で、どの曲もテンポは少しばかり重ためだ。
   バラエティさまざまな楽曲が詰まったコンピで、ビートやノリの統一性は無いがあれこれ楽しめた。

   仙台の女性Voがエレクトロ系のサウンドで発表した盤らしい。08年発売。
134・CHIHIRO:Voice:☆☆★
   軽いテクノビートに乗った女性ボーカルは、(4)でいつの間にか楽器の一つと鳴っていた。
   サンプリングされ素材の一つで軽やかに響く。この展開が新鮮だった。
   ウィスパーでさりげなくトラックに溶けてく声が基本。ふわふわと浮遊が心地良い。
   展開は控えめ、ミニマル要素が強い。

   ジャズ、かな。05年にアメリカでの発売。
133・Patrick Cress' Telepathy:Meditation, Realization:☆★
   幕開けは捻ったバスキング風の味わいだ。高速4ビートでくきくきとフレーズが上下する。
   (2)は一転してフリーのイントロから抽象的なジャズになる。さまざまな前衛を盛り込んだジャズらしい。
   メンバーは飾り文字で上手く読めないが、Patrick Cress(sax),Tim Bulkley(ds),Aaron Novik(cl),の三人に
   ベース(メンバーが結成時と変わってるようだ)が基本で、本作が3rd。
   本盤ではアコーディオンや声でゲストが数人参加した。
   サン・ラ風の混沌があちこちに漂うも、全体的に頭でっかちな印象。ちょっと堅苦しい。もっとグルーヴが欲しい。

   04年、アメリカのエレクトロニカ。本ユニットのデビュー作だ。
132・Proptronix Presents:Pigeon Funk!:☆☆★
   メインのビートはゆったり、上物が細かく多層レイヤーのリズムを作るエレクトロニカ。
   ダンサブルだが、どこかさみしげな一人手遊びの孤独さあり。凝ったサウンドは
   フロアと部屋のどちらでも楽しめる。揺れる音色選びはキュートでユーモアを感じさす。
   ノイジーさが漂っても、あくまで味付け。基本はポップ。騒音で抽象度は狙わない。
   各曲は3~4分程度。どんどん進む16曲入り。単調ゆえに音楽へ酩酊する。

   アフリカはマリのアフロビート系。デビュー作で12年の発売。
131・Ben Zabo:Ben Zabo:☆☆☆★
   アップテンポのアフリカン・ファンク。キレが良く上手い演奏だ。ハーモニーは軽快で、持続するノリも心地よい。
   丁寧過ぎるくらいまとまっており、非常に聴きやすい。歌モノに留まらず
   楽器のソロもふんだんに盛り込んだこのバンドは、歌も演奏もバランス良く取り込んだ。
   西洋音楽の要素をたっぷり吸収したうえで、アフリカン色を決して減じない。
   ついサラッとグルーヴに乗ってしまうが、このサウンドは深そうだ。

   米の3ピースバンドで05年発売の2nd。
130・Mass Shivers:Ecstatic Eyes Glow Glossy:☆☆★
   パンクとアフリカンな要素の混在。スピード感や爽快性は薄いが、妙にざらついて乾いた 
   前のめりさがあり。ニュー・ウェーブに通じる硬い鋭さもあり。
   上手いがわずかな覇気のなさが、奇妙な怠い雰囲気を醸す。不思議なロックだ。

   1000枚限定。01-07年に活動した米フロリダのレーベルMerckが、03年に発売のエレクトロニカ系コンピ。
   ノルウェーのMiasmahレーベル関連を集めた。Miasmah主宰のErik Knive Skodvinは、個人別名義のSolitaire AlbreadとXhale、
   バンドのMiasmah Quartet名義で、併せて13曲中5曲を提供した。
129・Ssense:Miasmah:☆★
   ミニマルなフレーズがくっきりしたダンス・ビートに乗って提示される。上物はメロディより
   単音や響きの積み重ね。時に緩やかなテンポやひねりいれたフレーズもあるが、
   根本は素直なリズム構成だ。DJ素材っぽい。少しヒップホップっぽい楽曲もあり。
   聴きやすいのでオシャレ気分のBGMに良いかも。中盤から暗めの曲が続くが。

   10年に日本ツアー時の名刺代わりな宣伝の盤。3バンドを収録したコンピ。
128・V.A.:That It Stays Winter Forever:☆☆☆★
   たぶん3曲とも本盤のみでのリリース。重たくも繊細なドローン系の編集盤だ。
    (1)は密やかなアンビエント・ドローン。煌めく呟きが、うねりと相まって美しい。
   もとはSubine Burgerとの音響インスタレーション用の作品とクレジットある。
   (2)は00年の録音。細かく揺らぐ電子音の積み重なりが精密な霧となり、
   ポエトリー・リーディングの呟きが乗った。エンディングでじわじわ迫りくる。
   (3)はアコギの多重録音で波打つ世界を表現した。幾本ものギターはフラットでなく音量の大小を
   明確につけてミックスされ、奥行を出した。切なく美しい。
   やがてエレキギターに音が変わって、どんどん雄大に広がる。凄い楽曲だ。

   08年の電子音楽で、仏人と日本人のコラボ。
127・Lionel Marchetti/村山政二朗:Hatali Atsalei:☆☆★
   厳粛で幻想的な電子音楽と声の抽象的なノイズ。ノービートながら、声のせわしなさに気がせき立てられる。
   超高周波から低音まで録音域も幅広そうだ。単調でおどろおどろしく
   どこか田舎っぽい。都会でなくさびれた風景が脳裏をよぎる。
   ここで音源は配信もされていた。寛ぎでなく、緊張が先に立つ。全部で33分強の短いアルバムだ。

   Merckレーベル最終リリースとなったエレクトロニカ。奏者はシカゴ出身、ソロ・プロジェクト。
   本盤の音源をBandcampでフリー配布中。7th,07年の盤。
126・Proswell:Bruxist Frog:☆☆☆★
   チップチューンに近いチープな音色へうっすらリバーブかけ、雄大な風景を描いた見事なエレクトロニカ。
   リズミックで綺麗な旋律を持ち、一曲をそれほど長くせずに多彩な世界を提示した。
   後期YMOの陰りあるポップさを連想する。ビート物からアンビエント寄りまで幅広く、
   テクノの王道を見事に作り上げた傑作だ。

   "南印のカルナータカとカメルーンのフュージョン"らしい。トリオ編成、2014年発表。
125・Etienne Mbappe, Ranjit Barot, U.Shrinivas:Bombay Makossa:☆☆☆
   リーダーはドラム。全般的にきっちりアレンジされ、即興のダイナミズムは希薄だがアドリブはいっぱいあり。
   しょっぱなからタブラのボウルをへビーにまとめたロック・スタイルで戸惑う。
   フュージョン風の音数多いエレべを軸に変拍子を決めまくるドラムがアフリカ寄りで、
   エレキ・マンドリンがインド寄りか。ミクスチャー・ロックの土台で
   滑らかな聴きやすさを意識したポップ。凄腕三人のテクニックひけらかしとも取れるが
   根本でグルーヴィさなため素直に聴けた。かっちり洗練された硬い音は好みが分かれる。
   ぼくはもっと泥臭いほうが好きだが。面白い異文化交流の意味でフュージョンだ。

   独ギタリストの3rdで、日本人女性voと組んだ06年の盤。
124・Guitar:Tokyo:☆☆
   日本風味のメロディと日本語の女性のウィスパー歌が入った、静かなエレクトロニカ。
   エキゾティックで繊細な風味を日本文化へ求めたかな。起伏少ない美しい流れ。
   琴のような響きを全面に出している。小さい音だとヒーリングにも良いだろう。
   ただし音楽に力あるため、ボリューム大きく浴びるほうが楽しい。
   無国籍なオリエンタリズムでなく日本に寄り添ったとこが、キッチュさが無く素直に聴けた。

   英グラスゴーのエレクトロ系みたい。1st、2011年に発表。
123・VVV:Across The Sea:

   英のトランペット・カルテットの4thで、前衛寄りなジャズ。09年発売。
122・Zukanican:The Stumbling Block:☆☆☆
   前のめりなビートはメカニカルだが生演奏、かな。ジャムバンドっぽいグルーヴだが
   リード楽器がトランペットなため、奇妙なミクスチャーな香りが漂う。モヤけたフュージョンだ。
   リズム隊がテクニックへ走らぬため、グルーヴが前のめりでもギクシャクと係留感が残る。
   顕著なのが(2)。打ち込みと交錯するふわふわした打ち込みビートと、生演奏コンボの合体が
   居心地悪い密やかなダンサブルさを演出した。
   キャッチーなメロディをフロントが提示したら親しみやすいと思うが、混沌のままアルバムが進む。
   ところどころ豪快なシーン・チェンジあるが、エレクトリック・マイルスのスリルは薄い。
   むしろミニマルな展開を無造作にブロック・テープ編集っぽい、大胆さ。

   男性Voのエレポップ。08年に英から発売された。
121・Moira Stewart:Sweetness, Yes!:
   猫なで声で柔らかなポップスを聴かせる。やたらリズムやリフのシンセが賑やかな
   アレンジが奇妙な古臭さだ。60年代ぽかったり、メロディのセンスは悪くないが
   いかんせんアレンジの塗りつぶし方が野暮ったいなあ。
   (9)はポール・ウィリアムズのカバー。映画"ダウンタウン物語 "(1976)の曲らしい。

   ピンク・フロイドとは同姓同名の別人ギタリスト、12年の盤。ベースがChristian McBrideだ。
120・David Gilmore:Numerology - Live At Jazz Standard:☆☆
   二楽章の組曲形式。ジャズ形式だが強固にアレンジされてる。張りつめたチェンバー・プログレと聴けば悪くない。
   特に第二部の締まり具合がよかった。ギターとサックスの吸い付く変拍子ユニゾン・フレーズを、
   タイトなリズム隊が支えた。アドリブ要素はソロ以外ない。ドラムと、パーカッションが重なり賑やかなリズム。
   全てコントロールゆえの不自由さは有るが、演奏は上手くスッと聴ける。
   瞬間を切り取れば、端正なハードバップのカタルシスはある。

   英ロックで06年の盤。本盤が7thだ。
119・The Big Eyes Family Players:Do The Musiking:☆☆☆★
   トラッドやカントリーをベースにした素朴なアコースティック・サウンド。29曲もの
   大量な作品は、まるでデモテープ集のようだ。インスト、歌モノ共にざっくり
   作られていて、それでいてどこか光る。音質はやっつけではない。
   素朴でアイディアを煮詰めず、どんどんと録音したかのよう。こういうスタンスは大好きだ。

   07年発売、6人編成のジャズ。フロリダ出身で本盤が1st。録音はNYの洒落た響きだ。
118・Theo Croker Sextet:The Fundamentals:☆★
   トランペットの多重録音で幕開けの本作は、基本がっつりなハード・バップ。演奏がタイトな分
   泥臭さが減じており惜しい。微妙に拍頭をずらすシンバルと、強打するスネアの一打が
   対比的なドラムがかっこいい。トランペットはスムーズなフレーズ使いで少しくすんだ音色。
   聴き進めると妙にスケった風合いの物足りなさを感じるのは、ベースがシンプルすぎるせいか。

   05年米のサイケ・ロック。本作が1stの3ピース・バンドだ。
117・Apothecary Hymns:Trowel & Era:☆☆☆★
   アレックス・スティメルが作曲演奏録音プロデュースとクレジットされた。もっとも
   この段階ではワンマン・バンドのようだ。07年の再デビューで3ピースになったらしい。
   Webの更新も2010年で止まっており、おそらく今は活動停止。このWebで
   2ndアルバムの完成告知あるだけに惜しい。今アレックスはソロ活動らしいが。
   ほんのりラウドなサウンドは素朴なリズムと、ギターのオーバーダブで密室性を増した。
   穏やかなメロディは滑らかで、わずかにカントリーっぽい。弾きっぱなしじゃなく
   アレンジにも凝った味付けを施したさまは、手作り感溢れて楽しい。
   一人多重ながらバンド的なドライブ感あるサウンドを作れる手腕も高評価。

   03年に仏のレーベルEffervescenceが出したがっつり20曲収録の濃密なサンプラーだ。
116・Domotic:Effervescence Manifeste:☆☆☆★
   弾き語りの穏やかなフォークで幕を開ける、エレクトロニカと素朴なSSWが詰まった良質なコンピの仕上がり。
   シューゲイザーな楽曲などバラエティに富んでるが、通底するムードは変わらない。
   たるっと揺れる本盤のような世界観は大好きで、とても楽しく聴けた。
   馴染めない、でもにじみ出る。密室ポップ創作の才能持った人って大勢いるなあ。

   ベルギー人Ernesto Gonzalezの電子音楽。12年にリリースされた。
115・Bear Bones, Lay Low:El Telonero:☆★
   素朴なエレクトロニカなシンセの響きが全編を覆い、安っぽいリズムボックスの音が味を添える。
   ビート強調でなく、あくまでおまけのようなリズム。メインはドローンぽい響きだ。
   だが宅録テクノに留まらぬ、ギターのダビングで途端に本盤は、さらなる変てこな
   うろつくグルーヴとモコモコしたサイケな風味を付け加えた。
   掴みづらく個人趣味の追求な音楽が詰まって、奇妙な魅力を強烈に漂わす。
   ポップでもないし強烈な特色も無いが、なんか惹かれた。

   2010年のロック。アフリカ大陸サハラ砂漠西部に住むトゥアレグ人のバンドらしい。
114・Tamikrest:Adagh:☆☆
   淡々としつつ、祭囃子みたいな粘っこさが味。歌が今一つ野暮ったく、泥臭いのは狙いか。
   きらきらとエレキギターが響くが、リフは重たくリンガラの明るさは無い。
   ちょっとアラブ風味も感じるな。グリオの切なさと、バンドゆえのグルーヴが混在した。
   緩やかなグルーヴにハマれば楽しめる。

   ポーランドの作曲家/ピアニストPiotr Zabrodzkiが、Zdzislaw Piernik(tuba)と共演した08年の盤。ジャズかな。
   Piotrは吉田達也と共演盤"Karakany"(2007)の人だった。
113・Piotr Zabrodzki:Namanga: Zdzislaw Piernik Plays Compositions Of Piotr Zabrodzki: ☆☆★
   サイケなおもちゃ箱みたいで面白い。ほとんどが2分弱の小品、15曲が入った。
   実際はPerとvlnが加わったカルテット編成で、きっちりアレンジされたチェンバー・プログレ風味のジャズが聴ける。
   チューバが切ないメロディや特殊奏法まで幅広い音を出し、他の楽器が補完した。
   アンビエント風味から複雑でタイトなフリーまで楽曲はバラエティに富んでいる。

   仏のエクスペリメンタル系ロック、06年発売の1st。
112・Passe Montagne:Long Play:☆☆
   2分ていどの短い13曲が並ぶ25分のミニアルバム。重たいノリで変拍子を混ぜたプログレっぽい
   アンサンブルだ。インストで畳みかけるサウンドは、アドリブよりもアレンジに軸足か。
   ソロではなくドラムやギター、ベースのキメが目立つ。
   ChevreuilのJulien Fernandez(ds)がリーダーと言う。そういわれると、ドラムが引っ張ってる
   ように聴こえるな。爽快さより沈鬱さを優先か。もうちょい覇気があると好みだが。

   05年発売の独エレクトロニカ。本盤が2ndかな。
111・You Dee:Through The Tulips:☆★
   柔らかな音色でミニマルに流れるエレクトロニカ。ビートがきっちりあるので
   メロディ要素は薄いが、素材としてならいいかも。寛ぎつつも単調な世界。

   豪メルボルンの3ピース・ロック。2ndで97年の盤。
110・Ricaine:The Clarity of Distance:
   パンキッシュなハードロック、か。吐き捨てるようなボーカルと歪んだギターを前面に出した
   サウンドは、力押し一辺倒でなく時には緩やかなうねりでアルバムにバリエーションを出す。
   しかしあえてこの盤を推すまでの個性を聴き取れない。
   サイケ・ロック好きならもしかしたら楽しめるかも。
   語りっぽいボーカルの曲はルー・リードを連想するが、ならば僕はルーを聴く。

   03年仏のエレクトロニカ。本作が1stか。
109・The Berg Sans Nipple:Form of...:☆☆
   ノイジーな電子ビートと穏やかなエレクトロニカを絶妙に混ぜた。おもむろにドラムが登場する(2)が
   ドラマティックでかっこいい。トランペットが現れる(4)もいいな。
   インストだけでなく気怠い女性ボーカルの(5)もあり。全10曲、バラエティ意識した構成だ。

   独の女性Voな4人組ロック・バンド、07年の発売。
108・Hellvar:Bat Out Of Hellvar:
   (7)くらいからじわじわとアルバムの世界に耳が馴染んできた。ただし全編でアレンジがピンボケ。
   打ち込みエレクトロとハードなギターが混在し、一本調子の女性ボーカルが乗る。
   どれかを深めたら個性だが、現状は出来のいいデモテープに聴こえた。本盤は05-07の二年をかけて録音された。
   そのせいか、楽曲はハードからポップまで奇妙な振り幅ある。軽い電子ビートに
   エレキギターがハマるキッチュさ狙いなら、(7)は若干成功。不思議なゴシック感が滲み、
   ハイトーンのボーカルも軽やか。ケイト・ブッシュの劣化版だが。(8)は鈍く太いベースや単調で
   不穏なシンセは今一つ不自然。途中でシャウトするし故意のアレンジか。
   フィリップ・グラスが作曲者クレジットある(11)も、ミニマルなギターや伸びやかな歌声がポップで良い。
   だが単調なドラムがもどかしい。とはいえ(11)が本盤で一番聴きもの。

   仏の3ピース・バンド。13年の発売でバンドキャンプにて本作が9thのようだ。
107・Marvin:Barry:
   轟音だとごまかされるが根本で今一つ覇気が無く、たるっと聴いてしまった。
   ギター・バンドだがボーカルをエフェクタで潰すのが個性か。力押し一辺倒でなく
   テンポを途中で変えスピード感を演出などアレンジにも気を配ってる。
   演奏もベースが電子音っぽい響きや、ギターがシャープな変拍子リフを繰り出し、テクノ・プログレな要素あり。
   ただしテクニックひけらかしでなく、シンフォニックな味付けなとこがポイント。
   曲によってはエモだったり、ニュー・ウェーブな乾きもあるな。つまりバラエティ豊かがテーマ?

   テキサス出身。Nautilis名義で99年にCD-R"Delofasht"を発表。数年置いて02年から
   Nautilis名義が続き、05年に本名義でCDを2枚発表したうちの、1stが本作。その後、地元バンドのShapes Have Fangsに参加し
   ギターを弾きつつ、Nautilis名義で断片的にリリースを続ける。
   そんな中間的活動名義で、もっともヒップホップに寄った時期の作品らしい。
106・Malcom Kipe:Breakspiracy Theories:☆☆★
   ヒップホップ風から始まり、後半ではノイズや電子音楽っぽい域まで幅広く
   音楽性が広がるエレクトロニカ。ザクッとした荒い肌触りが心地良い。

   上のミュージシャンによるヒップホップ。本作が同じ05年の2ndにあたる。
105・Malcom Kipe:LIT:☆☆
   踊りとも凄みともくつろぎとも違う。ちょっと不健康で緩やかなウネりが詰まった盤。
   けだるげなテンポのブレイクビーツは、少しひしゃげたウエザリングをほどこした。ラップがそのまま
   載っても不思議じゃない。ときおりスクラッチやサンプリングの挿入が、洒落てるが尖らない。
   全20曲、数分の曲が次々変わり、滑らかにアルバムが進行した。テンポ感はさほど変えずに
   サンプリングの音色やパンチ力でムードを変えていく。ゆるやかなDJミックス風で聴けるかも。
   ダブ風効果が、夢心地さを適切に表現した。

   マンチェスター出身ロックバンドSimianのメンバーが08年発表のソロ。
104・GARDEN:Round And Round:☆★
   ネオアコ調の静かなポップスを基調だが、アレンジ嗜好がちょっと変てこで面白い。
   リコーダーみたいなフルートの響きは何なんだ。全体的にミニマルな香りもする。
   打ち込みが主流だが生楽器の色合いを全面に出したサウンドは、寛ぎのフリした
   緊迫感が常に漂う。ネオアコにある一本調子なメロディに留まらず、曲によっては
   起伏ある洗練さを狙ってる。か細い声と音楽の奥底に潜む闇を呑みめれば、本盤は決して悪くない。
   ネオアコ路線なら(1)、ポップスなら(10)が良かった。

   57年録音の米ジャズ。ダビングをアンサンブルの主軸に置いた。
103・Leroy Vinegar:Presenting Oscar Moore With Leroy Vinegar:☆☆☆
   ギターはリズム録音し、さらにソロをダビングする構成。ベース演奏どのタイミングか読みづらい。
   三人バラバラにも聴こえるが、リズムとベースをデュオでいったん録音かな。
   ジャズとしてちょっと手が込み過ぎ。でも無骨なスインギーさがフレーズのはしばしから滲む
   強いタッチは心地良い。あと30年後の録音だったらギターは、ディストーション効かせて派手に演奏してそうだ。
   サウンドのタッチは甘いが、アドリブ旋律に強い意志あり。
   ベースは単なる伴奏に留まらず、うねりを巧みに加えた。

   西海岸ジャズ。リーダーはピアノで、Vibやギターが加わるトリオ編成の57年録音。
102・Marty Paich:Jazz for Relaxation:☆☆☆★
   洒落たスピーディなスイング感が詰まった。シンプルに刻むリズムの上で、ギターがピアノがヴァイブが
   気持ちよさそうにアドリブを疾走させる。キメの部分でアンサンブルがドタバタしがちだが
   他は丁寧でクールな演奏だ。全編を包む涼やかな空気が良い。
   (5)の冒頭でほんのり複雑な和音の響きも気持ち良かった。

   米西海岸クール・ジャズ。サックスがリーダーで57年の作。
101・Richie Kamuca:The Richie Kamuca Quartet:☆☆★
   スリルは無いが、心地よいジャズだ。
   柔らかな音色で粘らず流麗なサックスが鳴り、8分を刻み続けるハイハットを中心のアンサンブルが支えた。
   アドリブは短めに繋いでく。ひとつながりのフレーズを一息に吹きぬかず、数度に分ける印象だ。
   洒落たスイング。メロディを巧みに崩し、ゆったりと盛り上がる旋律選びがかっこいい。
   サックスの腕前が図抜けてる。ピアノ・ソロの途端にグルーヴがヘタッた。
   CD-Rでジャケット裏のピント甘いなど、再発の作りはチャチ。音には関係ないが。

   tp+tbのジャズ・カルテット、2010年盤。独の出身かな。
100・Nils Wogram Root 70:Listen To Your Woman:☆☆
   ちょっとフリー寄りに線が細い感じするが、オーソドックスなブルーズのアルバム。
   ハード・バップの熱さでなく、もっと理知的なサウンドだ。丁寧なソロと複雑じゃないが整ったアンサンブル。
   きれいにアレンジを施し、雑味なくスッキリ仕上げた。好みの問題だが
   確かに気を配った仕事だと思う。ジャズなら、もうちょい歪みも欲しいが。
   例えば後半、(10)みたいなの。たぶん類型化を嫌い、本盤の仕上がりだろうけど。
   録音に気を使った。ビンテージ・マイクでアナログに2chダイレクト録音。
   卓のエフェクトなし。11曲中7曲は1stテイクとある。

   伊のヘビメタ。12年リリースで3rdだそう。
99・Lento:Anxiety Despair Languish:☆★
   変拍子を取り入れたゴシック・メタル。シンフォニックなプログレをハードなエレキギターに
   変えた、とも聴ける。ボーカルは無く、インストでゆったりと捻ったフレーズを並べた。
   ぐいぐい押す低音リフやデスコアっぽいムードはあれど、シンプルなドラムが逆にグルーヴを抑えた。
   爽快さはなく、むぐむぐと蠢くメタルの重たさを楽しむ盤か。
   難しい演奏なはずだが、スピードは強調せずテクニックもひけらかさない。

   英ブライトン出身のエレクトロ・ポップ・デュオの3rdで2015年の新譜。
98・Grasscut:Everyone Was A Bird:☆☆★
   メロウな旋律が美しい。基本は一人で打ち込み、鍵盤とベースを相方が足すだけだが
   あんがいバンド的なダイナミズムが伝わる。多数の弦がゲストなせいか。
   エレクトロニカといいつつ効果的な弦も相まり、深みある温かいサウンドにか細い歌声のハイトーンが特徴。
   イギリス風の重たさを引きずりつつ、甘く浮遊する味わいが良い。全部で40分足らずのLPサイズなアルバム。
   (5)のロマンティックなハーモニーから始まりる、詩的でクラシカルな要素を深めた後半が特に聴きもの。

2015/6/2  最近買ったCDをまとめて。

   第二期デートコースが再びバンド名を変え、がっちり構築のラテン風味スタジオ盤を
   新譜でリリースした。元プロデューサーの高見の楽曲まで取り込む、菊地成孔の懐は深い。
97・dCprG:フランツ・カフカのサウスアメリカ:☆☆☆☆
   ラップと大胆に接近しエンタメ路線を全面に出した前作から、ストイックな演奏ぶりを聴かせた本作。
   リズムの複雑さは、菊地のインタビューを読む限り、ぼくはまだ理解しきれていない。
   ポリリズムをポップに仕立てた本作は、"構造と力"の立ち位置をなぞるかのよう。
   シェイクスピアを引用した衒学趣味と、ミュージシャンで無かった高見の楽曲を大胆に採用する
   奔放な創作力は、本盤でも健在だ。クリーンでヘルシーな演奏が詰まった。

   唐突に発表されたミケランジェリの初回限定プレス、廉価盤14枚組Box。詳しい曲目はこちら
   ただしこのディスコグラフィーとイマイチ一致しない。どれが正確だろう。EMIとCetra音源集らしい。
   目玉は初出音源で、シューマン「ウィーンの謝肉祭の道化」より第1~3曲[1972年9月27日、パリ録音]。
   たしかに上のリンク先のディスコグラフィーに記述は無いな。
96・Arturo Benedetti Michelangeli:ワーナー録音全集:

[Disc 1]☆☆☆★
   LPとの復刻具合を調べるも上手くいかず。録音の列記に留める。
   バッハ BWV 1004(48年/ロンドン)、スカルラッティ ソナタKK9とKK11(42年/ミラノ)、
   Galuppi Sonata B-Flat(19?/ミラノ)、ベートーベン ピアノソナタ No.3(41/ミラノ)、
   ショパン マズルカop.68,スケルツォop.31,ワルツop.69(42年/ミラノ)を収めた。
   初期のミケランジェリ録音集だ。冒頭の4曲は全般的にテープの劣化か、籠った音質が否めない。
   タッチが強く整った演奏。瑞々しく音がはじけ、走る。
   ロマンティックに歌わせるのはガルッピの曲。溌剌と鳴らした。
   ベートーベンは幾分、録音のエッジが気忙しく立った。演奏も素晴らしい。厳かに、熱く奏でた。
   ショパンでまた音質が籠る。凛としたピアノなだけに、惜しい。
   スケルツォop.31で凄みと繊細さが両立するタッチの美しさが良かった。

[Disc 2]☆☆☆
   40年代に録音のさまざまな小品をまとめた。まず収録曲を羅列する。
    49年録音:ブラームス"パガニーニの主題による変奏曲"op.35から8曲。
    43年録音:グリーグ"叙情小曲集"からop.47 no.5と、op.68 no.5。
    43年録音:イサーク・アルベニス"Rumores de la caleta,op.71 no.8"
    41年録音:ドビュッシー"映像"第1集 : 1.「水に映る影」
    43年録音:エンリケ・グラナドス"12のスペイン舞曲op.37" No.5:Andaluza
    43年録音:モンポウ"歌と踊り第1番"、
    43年録音:アンドレ=フランソワ・マレスコッティ"Fantasque"。
   溌剌としたタッチは伺えるが、いかんせん録音が古い。エッジがぼやけて少々辛いかな。
   演奏はロマンティックな涼やかさがあふれ出る。ブラームスの最後の曲、"Book 1-8&9"で
   聴ける、"サンタ・ルチア"っぽい旋律を派手なダイナミズムで歌い上げるシーンに惹かれた。
   グリーグの2曲では、じっくり旋律を歌わせながら繊細なピアニッシモも良い。和音が柔らかいな。
   ドビュッシーは滴る美しさなので、当時の荒い録音が本当に惜しい。

[Disc 3]☆☆☆
   モーツァルト集。53年11月29日ナポリ録音のピアノ協奏曲13番(K.415)、51年6月26/27日ミラノ録音のピアノ協奏曲15番(K.450)、
   53年11月ナポリ録音のピアノ協奏曲23番(K.488)の三曲を収録した。
   最初のK.415は弦の柔らかで可愛らしい響きが聴きもの。ピアノも軽やかに鳴り、独奏部分では
   たっぷりとまを生かして美しく響かせる。
   K.450はいくぶん気高さが増す。弦のふくよかな鳴りは、よどみなくきれいだ。ピアノもしっとり。
   古い録音でエッジがボケてるぶん、なおさら古めかしい落ち着きを感じた。
   最終楽章のオケとピアノは涼しげに凛々しく鳴った。
   K.488は奥まり度が強い。淑やかな弦の響きが特徴か。するすると演奏が陰り無く進んだ。

[Disc 4]☆☆☆☆
   1957年3月4日イギリスのライブでシューマンの『ウィーンの謝肉祭の道化』と『謝肉祭』。
   ミケランジェリには得意のレパートリーだったらしい。
   『ウィーンの謝肉祭の道化』ではフォルテでの力強い響きが、まず胸をわくわくさせる。
   激しいダイナミズムで密やかなピアニシモから、一気にフォルテへ駆け上がるパワー、と一転して
   柔らかに鳴らす静かなタッチへの落差の双方がかっこいいなあ。
   『謝肉祭』にて華やかなタッチは加速する。緻密な楽曲を、大胆かつ繊細に弾いた。
   楽曲そのものも美しく耳をわしづかみにする旋律と和音が一杯。改めてこの楽曲の
   魅力的な響きを実感した。しかし感傷的にならず、タッチはあくまで元気いっぱい。
   繊細な柔らかさを保ちつつ、くっきりエッジの立った音色を強く響かせた。

[Disc 5]☆☆☆
   57年3月4日ロンドンでのライブ録音。けっこう盛大に観客の咳払いが聴こえる。オフィシャル発売だよな、これ。
   本箱Disc 4と合わせ、96年に発掘音源でリリースの盤らしいが。
   演奏曲はドビュッシー"映像"第2集「荒れた寺にかかる月」と「葉ずえを渡る鐘」、同第1集「ラモー賛歌」「水に映る影」。
   ショパン"幻想曲 ヘ短調op.49","バラード第1番 ト短調op.23"に"ワルツ第14番ホ短調"
   、モンポウ"歌と踊り第6番"から「踊り」の抜粋。どれも硬質なタッチでロマンティックに奏でる
   ミケランジェリを堪能できる。だからこそ、ヒスノイズ交じりの音質と観客ノイズがウザい。
   おまけとしてサウンド・チェックのリハーサル音源が32分あり。しゃべりはイタリア語で全く歯が立たず。
   神経質にチェックする様は伝わるが、よほどのファンでないと退屈。ただし断片的な演奏で、響きの美しさは格別だ。

[Disc 6]☆☆☆☆
   57年3月7~10日に英アビー・ロードで録音の、ラヴェル"ピアノ協奏曲"と、ラフマニノフ"ピアノ協奏曲第4番"を収録。
   オーケストラはイタリアのエットーレ・グラチス指揮フィルハーモニー管弦楽団とあり。
   ラヴェルのほうは、躍動的で様々な要素を持ち込んだ明るい楽想を、あっさり華やかに仕上げた。
   転がる玉のようなピアノの切れが美しい。オケもむやみに盛り上がらず爽やか。
   影を持つスピーディな場面で、鋭くスマートに弾む響きが抜群だ。
   第二楽章でのしっとりしたピアノ独奏は一転して、たっぷり凛々しく感情を込めた。
   時に不穏な空気漂う鮮烈で淑やかな世界を、ピアノは雄大に進んでいく。
   重厚さを保つラフマニノフの作品では、オケと溶けつつたっぷりした存在感をピアノがかもしだす。
   こちらのほうも演奏は素晴らしい。3楽章の揺らぎが心地よかった。重ための楽曲を、じっくり優美に演奏した。

[Disc 7]☆☆☆
   ハイドンのピアノ協奏曲を2曲。第11番と第4番を収録した。75年スイスで録音。
   共演はドモン・ド・シュトウツ(指揮) チューリッヒ室内管弦楽団だ。
   弦は涼やかな響きが心地よい。ピアノが軽やかな一方でズシンと深く低いとこも鳴らした。
   歯切れ良い旋律を、ピアノはたっぷり溜めて凛々しいタッチで奏でる。鋭利な美しさが良い。
   第4番のほうが、より柔らかなタメをオケともども感じられてよかった。

[Disc 8]☆☆☆
   75年にスイスで録音のシューマン「謝肉祭」と「子供のためのアルバム」より38,37,39番、
   さらに本Boxで初出音源という72年にパリでのシューマン:「ウィーンの謝肉祭の道化」より第1~3曲を収録した。
   「謝肉祭」は得意のレパートリーなためか、ひときわ安定している。
   じっくり聴くと冷静な解釈で無闇に情感を煽らない。メロディも歌わせ方が理知的で
   起伏もむしろ抑えめ。やたら感情を前面に出さず、冷静なタッチだ。だからこそ、鋭く鮮やかな風景が素敵だ。
   「子供のためのアルバム」はトーンを穏やかなアプローチはそのままに、冒頭から
   ダイナミクスを繊細に上下させた。この作品の音源は、これだけらしい。
   何だか慎重に探ってる気がする。響きが繊細だ。時々跳ねる不協和音の場面が、鋭く鳴った。
   「ウィーンの謝肉祭の道化」も今回の音源以外、収録の履歴はないようだ。
   こちらはむしろ淡々と指が回った。ちょっとこもった音質のせいか温かさが物足りない。
   優美にフレーズを揺らしながらも、硬質な肌触りだ。

2015年5月

2015/5/10  ライブの物販で購入。

   デュオ2作目、14年に発売。耳馴染みある楽曲を中心に演奏した。
95・喜多直毅+黒田京子:愛の讃歌 Hymne à l'amour:☆☆☆☆
   二人の生真面目な真摯さと、センチメンタルな詩的の要素が上手い具合に絡み、
   しとやかで繊細な楽曲集になった。バイオリンが切なく軋み、ピアノは優美に鳴る。
   そして二人の呼吸がゆるやかに広がった。寛ぎよりも緊迫を求める
   張りつめた美しさを描いた。だから聴くほうもつい、構えてしまう。心穏やかよりも透徹さ問われるかのように。
   本盤ではユーモラスな要素を控え、整った面持ちを見せた。

   4度目の入院で肝硬変から復活の片山が新譜を発表した。
   この顔ぶれだと湊雅史の演奏をあまりぼくは聴いたことが無い。
94・片山広明・石渡明廣・早川岳晴・湊雅史:HAPPY HOUR:☆☆☆☆
   全員が自分の音色を持っている。色気ある渋いジャズをじっくりと。
   まだまだ枯れずに、躍動的な傑作をぶちかましてきた。
   片山のテナーはフレーズが短く、太く伸びてきた。がっつりロマンティックな早川、
   淑やかに広がる石渡、シャープだが粘る湊。全員が優しくたくましい。
   先鋭でなく円熟したスリルを詰めた。片山の曲は共作入れて二曲。早川の曲や、やり慣れた
   レパートリーを並べ、気負いなく伸びやかなアドリブを聴かせる。
   腰を据えたグルーヴはテンポが一定でもノリは揺らぎ続ける。その独特なスイングっぷりが美味しい味わいだ。
   アップの曲で疾走するドラムとベースの絡みもすごい。

   着実にFull Designレーベルでリリースし続ける主宰の藤掛正隆が、2007年から早川岳晴と続く
   "崖っぷちセッション"ユニット、Edge。今回の新譜は辰巳光英と佐藤帆を迎えGokのスタジオ録音と
   横浜ストーミー・マンデイでのライブ音源を収録した。
93・EDGE:Quartet Edge:☆☆☆★   
   セッションの凄みを見事に封じ込めた傑作。編集で一曲を短くし、9曲詰めた
   構成も正解だ。ダレることなく刺激的にアルバムを聴き進められる。
   たぶん、すべて即興。頼もしいリズムと奔放なホーン2管の、存分なフリーを味わえた。
   あえてジャズ文脈を避け、極太で強靭、頼もしいサウンドを作る。
   テンポの縦線も気にせず演奏する様が、時にポリリズミックな刺激も作る。
   だが全員の凄腕で、リズムが全くぶれない。驚嘆するグルーヴの海だ。

2015/5/8  最近TZADIK盤を色々と買った。

   ゾーン名義だが演奏は無く作曲と指揮のみ。ゾーンゆかりの人脈によるカルテット、
   Nova Expressの3rdとあるが("Nova Express"(2011),"Dreamachines"(2013))、
   "At the Gates of Paradise"(2011)も同じメンツ。コンセプト違い?本盤は2014年発売、(8)でゲストにイクエ・モリが参加した。
92・John Zorn:On Leaves of Grass:☆☆☆☆
   隙の無い4人のアンサンブルに聴きほれる傑作。コントロールされてない全員の
   インタープレイが、まるで譜面のようにビシバシ決まる。ラウンジっぽい
   寛いだ響きだが、弛緩は欠片もない。ぴいんと整った極上のアンサンブルが決まる。
   ピアノが比較的、前に出るかな。甘く軽いヴァイブが音楽へ甘やかな響きを強調させた。
   ドラムとベースのさりげないフレーズ、それぞれがめっちゃかっこいい。

   97年のVol.1に続く、藤枝守がTZADIKから発売した08年の2nd。琴が二張に笙とVlnを使用した、編成違いの組曲5作品を収録した。
91・Mamoru Fujieda:Patterns Of Plants, Vol. 2:☆☆☆☆★
   "植物電位変化の音楽化"をテーマに藤枝が作曲するシリーズの、TZADIKで二作目。
   理知的な現代音楽だが、和楽器の使用で不思議に寛げるエキゾティシズムが漂う好盤となった。
   たとえそれが、バイオリン独奏曲ですらも。穏やかなメロディと、透徹な楽曲構造の融合が
   寛ぎながらも緊張を保つ、凛々しい雰囲気をたっぷり味わえる傑作。

   98年発売。鍵盤奏者のリーダー作で、マーク・リボー他のゾーン周辺ミュージシャンによる
   10人編成の演奏になる。ゾーンもAsでクレジットあり。
90・David Shea:Hsi-yi Chi:☆☆★
   カンフー映画サントラをイメージしたコラージュ集。断片を集積しつつ、あまりスピード感無い。
   ジョン・ゾーンのファイル・カード音楽から緊迫感を抜いた感じ。
   生演奏とコラージュが混在して散漫なのと、日本とアジア各国を混ぜた音楽スタイルに
   違和感感じるが、西洋人によるアジア憧憬を楽しむには良い盤かもしれない。

   自作弦楽器の奏者による、97年の盤。現時点でTZADIKからは本盤のみのリリースだ。
89・Ken Buller:Voices Of Anxious Objects:☆☆☆★
   変幻自在の即興力と、自作楽器ならではのプラスティックな響きを生かした構成の
   双方が見事なジャズ流サウンドに仕上がった。アジアン風味からグルーヴィ、
   ミニマルな展開など全9曲、それぞれ8分前後の時間を全て濃密に埋め尽くす。
   全て一日で、ダビング無し一発録音とあるが、素晴らしく驚異的な仕上がりだ。
   脇を固めるベーシストやパーカッション奏者のテクニックも隙が無い確かな仕上がり。

   フロントがgとtsのカルテット編成で96年の盤。2ndは別レーベルから98年に発表した。
88・Bible Launcher:Bible Launcher:☆★
   廃盤、Tzadikの歴史から抹消のレア盤だった。ハードコアなビートに次々とサンプリングの声が乗る
   サンプリング音楽。前衛めいたややこしさより、ロックの盛り上がりを優先っぽい。
   乱雑で猥雑なテーマを1分足らず30曲収録した、闇鍋みたいなサウンドだ。

   シアトルが拠点のVln奏者による96年の盤。
87・Eyvind Kang:7 Nades:☆☆☆
   ビートや雰囲気が重たいためとっつき悪いが、ジョン・ゾーンの映画音楽やファイル・カード音楽に通じる
   多様性を滲ませた前衛ノイズ作品。管弦楽の生演奏と電子音楽をふんだんに混ぜ、
   作曲家の実力と幅広い"響き"へのこだわりを見せた。スピード感が希薄さが、最ももどかしい。
   しかし美しいノイズの(6)を筆頭に、聴きどころがいくつもある。じっくり腰据えて聴く一枚。

2015/5/1   最近買ったCDをまとめて。

   佐藤通弘の1stかな。ジョン・ゾーンがコーディネート、そうそうたるNY即興メンバーとの
   セッションを纏めた89年のアルバム。HUT HUTからの発表。
86・佐藤通弘:Rodan:☆☆☆☆★
   インプロの才人たちが津軽三味線の特異性を真っ向から面白がり、即興で対峙した傑作。
   長尺に流れず短くまとめたジョン・ゾーンのセンスもさすがだ。残響が少なめで
   ばちで同音を繰り返しはじく手法と、繰り返しのテンポの揺らぎやアクセントの
   不規則性が持つ独特な三味線の響きを、相対するインプロバイザーは自らの楽器で
   時にマネし、時に相反させる。まさに異文化の対決が興味深い。

   11年にTZADIKから発表のクリスマス・アルバム。クリスマス・ソングも取り上げた。
85・John Zorn:John Zorn's A Dreamers Christmas:☆☆☆☆
   毒やスリルは廃し、ラウンジ色前面の穏やかで寛いだクリスマス・ソング集。
   アルバムが進むにつれアレンジに複雑さを増してく気がした。
   ドリーマーズ軍のタイトに滑る、抜群の演奏力が炸裂した素敵な盤だ。
   派手なクリスマスの盛り上げはいったん横に置き、スレイベルの賑やかさはグロッケンの落ち着きに変えて。
   しっとりと豊かな心で休日を過ごす。そんな大人の世界が広がった。捻くれた心は無し、素直に楽しみたい。
  アドリブもいっぱいだが、基本は整ったアレンジの楽曲だ。
   ただし所々ポリリズミックに、あちこち捻った箇所もある。このへん、凝ってる。
   ジョン・ゾーン未聴な普通の人に自信持ち薦める一枚。その人が次の盤を聴きたがったら、困るけど。

   英サックス奏者がジャズ・コンボ編成を基本に南アのper集団Amampondoと共演の99年盤。
84・Alan Skidmore featuring Amampondo:The Call:☆☆
   アルバムとしては中途半端に鍵盤とベースが入り、妙に聴きやすい寛いだ盤に仕上がった。
   あまりアフリカっぽい印象は無し。どっちつかずの盤だ。南ア風のあでやかさは有る。
   アフリカン・ビートの奔流と、がっつりテナーの斬り合いは回避し朗々と歌い上げる趣向。
   アランの意向でなく、鍵盤のColin Townsがプロデューサー権限を出したのかも。
   どこか祝祭的な牧歌性を見せるAmampondoの、細やかなビートがアルバムを埋め、テナーが滑らかに吹いた。

   ハーヴィ・メイソンとチャック・レイニーのリズム隊を基本に73年発表の盤。
83・Donald Byrd:Street Lady:☆☆☆★
   ジャズ・フュージョン耳で聴こう。当時のソウルとは違う前のめりなグルーヴだ。
   楽器のエッジを立てみっしり詰め込みつつ、分離良いミックスも素敵。
   バードのペット・ソロはオマケ。ほとんど存在感が無い。
   たぶんバードは場の作りとアサインに専念か。楽曲もアレンジもプロデュースも
   ミゼルならば、バードのアルバムである必要もない。
   サウンドはリズム隊のしゃっきり濃厚な刻みで、ぐいぐいグルーヴする心地よさ。
   隙が無い一枚だ。繰り返すが、ジャズの文脈やバードの存在感で聴くと戸惑うが。
   バードの味は(3)や(5)での鋭いペット、かな。マイルスほど緊迫しないのが。

   上記と同じリズム隊で、サイドメンを変えた75年の盤。
82・Donald Byrd:Places and Spaces:☆☆☆☆
   隙が無く良い曲ぞろいのアルバム。ヒップホップ回帰で(4)にグッとくる。
   ダンサブルで洗練ジャズと聴けば、本盤の仕上がりは抜群だ。
   レア・グルーヴって表現、良い価値観の転換だと思う。柔らかなリズムは
   モタって聴こえるほど。さりげなくバードもトランペット・ソロを所々に埋め込む。
   ハッピーなラテン系だけにとどまらず、ぐっとファンキーな(6)の曲調も混ぜた。
   最後は(9)テンプスのカバー。ハーモニーを抜き出しtpソロをたっぷり。転調が心地良い。
   意外とこういう盤は、大音量で響かせた方が痛快だ。

   ブラジルのレア・グルーヴ盤らしい。75年に伊録音のper奏者の盤。
81・Mandrake Som:Sombossa:☆☆
   タイトル通りギター・ボッサにパーカッションでサンバ風味を加えた。tsやpの大らかな音色が色気を足す。
   小刻みなperのビートで空間を埋め、上をメロディが動く構成だ。
   アップテンポでも、どこか寛いでる。フュージョンほど洗練無く、むしろジャズ寄りか。
   ソロ回しでなくアンサンブル志向ながら。サックスやピアノに女性ボーカルと、曲ごとに
   主役を変えアルバムのトータル性も意識した丁寧な仕上がりだ。
   最も長尺の(7)をソロの途中でフェイドアウトするあたり、ソロの我を通さぬスタイルが顕著だ。
   ちょっとパンチに欠けるアルバムかな。フロアでは(2)が有名らしいけど。

   63-66年まで在籍したPrestigeから、最後のアルバム。tb/bsにピアノ・トリオの変則編成をバックに歌った。
80・Jimmy Witherspoon:Blues For Easy Livers:☆☆
   複数回のセッションで録音の12曲はスタンダードばかり。クラブ向けの落ち着いた雰囲気を、朗々と歌い上げる。
   深みあるジミーの声に合ったつくり。ミドル~スロー・テンポで、バックは曲間に穏やかなムードでソロを取った。
   Bill Watrous(tb)の挿入するアドリブが小粋で良い。

   95年TZADIKから発表、本ユニットでは2ndかな。
79・New Klezmer Trio:Melt Zonk Rewire:☆☆★
   時にエレキベースに持ち替え、トリオ編成だが多様な表情のアンサンブル。ハードコアな曲調と
   クラリネットのフリーキーな鳴りが頑なな音イメージだが、タイトなリズムの上で
   影を持った民族フレーズを、不協和音的に吹きまくるコンセプト。テクニカルが基本で
   力任せのフリーじゃないのが鍵か。バンドは解散したが、Ben Goldberg(cl)は今もKenny Wollesenと共演の仲。
   音楽性以外にも、Dan Seamans(b)がベイエリア拠点で活動も、本バンド解散の一因かも。
    かなり初期のキャリアとしてKenny Wollesenがds叩いてる。本バンドの1st"Masks and Faces"(1991)を
   切っ掛けにジョン・ゾーンが"Bar Kokhba"(1996)で抜擢、のパターンか。
   音盤で確認の範囲だと、たぶんゾーンと初録音がSteve Beresfordの"Signals for Tea"(1995)。
   ("Bar Kokhba"の初セッションが94年8月。"Signals for Tea"が同年4月)

   鍵盤奏者の96年TZADIK盤。
78・Anthony Coleman:Selfhaters:☆☆★
   木管のドローンを強調した抽象的な音楽。酩酊を誘う揺らめきと、軋む緊張感がスリルを強調した。
   完全即興ではないが、構造が読めない。繰り返し聴くほどに、じわじわと良さが分かってくる。

2015年4月

2015/4/18   最近買ったCDをまとめて。

   81年に日本のYLEMレーベルから限定千枚のコンピ。日本初期の地下エレクトロ集として有名だったらしい。
   凝った構成を生かして(本物のローリエの葉つき!)11年にCD再発された。
   メルツバウ/のいづんずり/成田忍に、今や正体不明のミュージシャンらが参加。
   つまり極初期のメルツバウ作品が聴ける、貴重なアルバムだ。
77・V.A.:沫 Foam

   いちばん危なっかしかったブライアンが、もっとも活動活発と言う歴史の不思議さ。
   新譜は新曲群をまとめ、旧友ゲストと多彩なプロダクションだ。
   2曲ボートラ入りの日本盤を入手。解説は萩原健太で嬉しい。
76・Brian Wilson:No Pier Pressure:☆☆☆☆★
   なんか冷静に聴けないな。カントリー色が強く、鍵盤のパッド音色もいまいち馴染めない。
   嗄れた歌声もゲストやバック任せのボーカル・アレンジも何だかなあ、だ。
   でも年齢かさねキャリアを踏まえて、存在してくれてるだけで良い。
   だが自家薬籠の手腕をどぷどぷ放出する、独自性は驚嘆する。ここまで聴き応えある
   新曲群が並ぶと思わなかった。(3)の甘さ、(7)の切なさ。73歳の爺さんが
   こんな甘酸っぱい曲をやるなんて。永遠のエヴァーグリーンを体現してる。
   (10)は"Summer Means New Love"(1965)のビーチ・ボーイズをセルフ・カバー。実に50年ぶり…って現実に呆然とする。
   さらなるボートラは(17)が1965年発表曲を75年にデモ録音。(18)が88年発表曲を
   ピアノと薄いシンセに、コーラス隊を載せたデモめいた曲。これも23年ぶりか。
   歌はけっこう揺れるけど、歌ってくれてるだけで良い。
   ブライアンのベストとは言わない。しかし久しぶりの充実した新曲群だ。"That Lucky Old Sun"(2008)で
   打ち止めでも良かったのに。あとは余生や引退でも良かったのに。
   まさかブライアンが一番長生きして、今でも瑞々しい新譜を出すなんて。30年前には信じられなかった。
   世の中、悪いことばかりじゃない。

   The Ghostの馬頭將噐が、同バンドつながりの荻野和夫と岡野太、さらに吉田隆一とヤンを招いた
   サイケ・ロック・バンドの1stが出た。CAN"Tango Whiskeyman"カバーも収録。
75・Silence:The Silence:☆☆★
   吉田隆一の参加で惑わされたがジャズでなく、サイケ・プログレ路線の盤。
   日本語なまりの英語に馴染めぬ場面もあるけれど、重厚でふくよかなオルガンとギター、
   サックスが吼える渋い盤に仕上がった。華やかな盛り上がりよりパワフルな歩みへ。
   むしろテンポ鋭いスピードよりも剛腕で緩やかなイメージあり。

   ライブの物販で入手。08年6月15日に那覇の小学校とバーで録音したライブをCD化。
   亀島良泉(グンデル)、コウサカワタル(三線)、坂元健吾(b)が基本。
   さらにゲストで(ダラブッカ)や坂田学(カホン)らも参加した08年の盤。
74・グンデルサンシントリオ:円◯満:☆☆☆★
   沖縄音楽を下敷きのほのぼのした音楽性かもしれないが、前半はやたら小学生の声が大きく
   ミックスされ、シュールな環境音楽っぽい様相が面白い。リボン・コントローラーと
   思しき電子音がひよひよと空気を揺らした。エレキギターはだれの演奏だろう。
   エキゾティックで幻想的な、民族音楽めいた、サイケデリックな世界。

   坂元健吾とsakura(per)のユニットが、ピアノとフルートのゲストを招き2010年に
   坂元のレーベルStar&Sky Musicより発表したアルバム。
73・喜八:よろこび、末広がり:☆★
   ゆるやかなフュージョンみたいなサウンド。(2)のトロピカル・ラテンも心地よい。
   あまり左右に揺れず、ピアノのコード弾きを軸で、素直にメロディが紡がれる。
   穏やかな空気感とシンプルなアレンジが柔らかく明るい世界を描いた。
   あまり沖縄風の旋律を使わず、さりげない風味に留めて、さわやかな寛ぎを演出する。

   EUのIntense Mediaからの廉価盤ボックス。CD十枚組でLP15枚を収録した怒涛の内容だ。
   時間軸は時系列でもなく、意外といいかげん。この辺はご愛嬌か。14年の発売みたい。
72・Oscar Peterson:Oscar Peterson Songbooks+:☆☆☆☆
   選曲や選盤に多少の難はある。今一つ中途半端でコンセプトが読めない。
   せっかくなら、当時のソングブック・マラソン・セッションすべてを収めた箱にすればいいのに。
   音質も盤起こしっぽいところあり、あまり目くじら立てない人向け。
   ただし。演奏は素晴らしい。きっちりとアレンジされ、短い尺で次々に弾きまくる。
   とびきり洗練されたスインギーなジャズが詰まってる。抜群で溌剌なピアノだ。

[Disc 1]
 "Oscar Peterson at the Stratford Shakespearean Festival"(1956) ☆☆☆☆★
   レイ・ブラウン(b)とハーブ・エリス(g)で同年のライブ盤の、有名作。
   スピードとテクニックを駆使しつつ、ロマンティックな雰囲気を崩さない。鉄壁のトリオが
   見事なライブを繰り広げた傑作。どこにも隙や弛緩無い。かっちりしたギターが
   ピアノと疾走する場面、ゆったりとバラードを紡ぐ瞬間、どちらも美しい。
   ベースは弓引きで強靭なグルーヴを作る。アルコで軋ます(3)も好き。
   もちろんピアノも快調そのもの。軽やかに鍵盤が駆け回る。何度聴いてもすごい。
   2曲の発掘音源があるも、本盤には未収録。

[Disc 2]
 "Oscar Peterson at the Concertgebouw"(1957) ☆☆☆
   上記と同じ編成でシカゴでのライブ録音。
   全体的にブルージー。オスカーの"Eurev"含め、同時代のジャズ曲を演奏してる印象だ。
   近しい録音時期の発掘音源な5曲は、本ボックスへ未収録。
   本盤は初めて聴いたが、いくぶん籠った音質だ。その割に質感は生々しく、オスカーと思しき
   息遣いや足踏みまで聴こえる。ギターのけれんみも強く(3)など数曲でパコパコとノイジーなピッキングも。
   小粋で流麗、スインギーで寛いだ演奏。ギターとピアノのテクニック披露合戦は控えめだ。

 "The Jazz Soul of Oscar Peterson"(1959) ☆☆☆
   同年夏のマラソン・セッション盤。ドラムがエド・シグペンに変わり黄金トリオ。
   溌剌と指が回るピアノが聴ける。スタンダードにガレスピー、仏のレオ・ドリーブの曲など、
   ソング・ブックほど、まとまらぬ作品集ってとこか。スリリングな演奏が詰まった。
   甘さとパワフル、相互の要素をはらんだムードの(2)が好き。

[Disc 3]
 "On the Town with the Oscar Peterson Trio"(1958) ☆☆☆★
   なぜか時は戻りレイとハーブ編成での同年ライブ盤がLPサイズで。ボートラは未収録。
   トロントの"Town Tavern Club"で58年7月5日録音。演奏に混じり、かちゃかちゃと食器の音が聴こえる。
   たぶんちょっと懐メロのスタンダードやビバップ曲を並べた。涼やかなギターのソロを筆頭に、トリオが柔らかくまとめる。
   装飾音符が付きまくりのアタック強く奏でるピアノ、高速フレーズを容易くばら撒くギターを
   着実なランニングでベースが支える。うーん、かっこいい。単なるソロ回しでなく
   アンサンブルの掛け合いも美味しい。雑に流さず、丁寧な演奏だ。

[Disc 4]
 "Jazz Giants '58"(1958)☆★
   57年録音。Stan Getz, Gerry Mulligan, Harry "Sweets" Edisonをゲストにドラム入りで7人編成。
   基本的にジャム・セッションのソロ回しが続く。スイング感は気持ちいいが、
   さらりと聴き流してしまった。特にオスカーはバッキングがメインだからなあ。
   ジャズのBGMには良いが、スピーカーに向かい合って聞く盤とちょっと異なる。

[Disc 5]
 "The Modern Jazz Quartet and the Oscar Peterson Trio at the Opera House"(1957)☆☆
   57年のMJQとのスプリット盤をなぜか収録。これならマラソン・セッション盤を
   選盤のほうがコンセプト統一されると思うのに。本ボックスDisc2収録"~Concertgebouw"の
   ボートラでリリースされた音源が、本盤収録のライブ。
   おっとりしたMJQに対し、パンチ力あるスイングを聴かせるオスカーの手腕が楽しい。
   オスカー側のメンツはHerb Ellis(g),Ray Brown(b)のトリオ。ベースが軽やかに刻み、
   ぱちんとギターがはじけてカッコいいアンサンブルだ。ピアノも快調にアドリブを膨らませた。

 "Swinging Brass with the Oscar Peterson Trio"(1959)☆☆
  レイにエドのトリオと、Russell Garciaがアレンジしたオケの共演盤。
   ピアノ・トリオに後かぶせで金管中心のオケを載せたか。リフのみ賑やかに盛り上がりは
   確かにカッコいいけれど、ちょっと中途半端。でも"Little Pea's Blues"はasの
   長尺ソロもある。スペース作って先にトリオ録音したの?
   オケとリアルタイムで共演なのかなあ。今一つ、乗り切れない。ピーターソンにオケとの
   豪華さを求めてないためだ。ピアノ・トリオのみで成立するサウンドが過剰に聴こえてしまう。
   演奏は可も不可もなく。ピーターソンの演奏で知った"Con Alma"をオケ付で聴くのはちょっと新鮮だった。

[Disc 6]
 "Oscar Peterson Plays the Duke Ellington Songbook"(1959)☆☆☆☆
   同年夏のマラソン・セッション盤で52年と57年(エラと共演)に次ぐ、3回目のエリントン曲集。
   もう一枚LP入るだろうに、なぜかLP1枚分のみ収録なCDだ。この辺の中途半端さが本ボックスの謎。
   なぜか本Boxの曲順がLPと異なり、めちゃくちゃに並んでる。マトリクス番号順かな。
   ダンディなエリントンの香りを硬軟混ぜて快適に演奏した盤。
   バラードはたっぷりと甘く、アップテンポでは軽快にグルーヴィ。
   あまりアレンジを掛けず、スマートにどの曲も料理した。
   コロコロとフレーズ転がるアップも良いが、本盤の魅力はスローでの甘やかなピアノ。
   丁寧なタッチでフレーズが緩やかに崩され、アドリブへ流れる。

[Disc 7]
 "Oscar Peterson Plays the George Gershwin Songbook"(1959)☆☆☆
   同年夏のマラソン・セッション盤。52年盤に続く曲集だ。
   前半はグッとテンポ押さえて、静かにスイングする曲を集めたイメージ。じわじわと
   演奏を重ね、(7)で軽やかな明るさで盛り上げる。ガーシュインで有名曲は(10)まで
   演奏を控える選曲のニクさ。淑やかなメロディが出てきたとき、耳が急に惹かれた。
   (11)でテンポアップ、小粋に進める。
   むしろ地味だが構成を考え、じわっとピーターソンの手腕が滲む良いアルバムだ。

 "Oscar Peterson Plays the Harold Arlen Songbook"(1959) ☆☆☆☆
   同年夏のマラソン・セッション盤。54年盤に続き、当時の現役作曲家の曲集となる。
   一曲がくいくい小気味よく進む名盤。穏やかで溌剌なスイング感に満ちている。
   楽曲アレンジに加え、アルバム構成も考えられた一枚。ピアノ・トリオの一体化が素晴らしい。
   キュートに右手で高音鍵盤のみ叩く(1)はフェイドアウト、見事なイントロだ。
   そしてブルージーな(2)で緩やかにムードを盛り上げた。この曲"Georgia on my mind"かと思った。
   軽やかな右手の鍵盤を中心にシャッキリ聴かせる。シンプルなリズムによる抑えもばっちり。
   名曲"Over The Rainbow"は敢えてピアノ・ソロのみでしっとり聴かせた。
   マスター起因か、全体的にヒスノイズの目立ちが残念。

[Disc 8]
 "Oscar Peterson Plays the Jerome Kern Songbook"(1959)☆☆☆★
   同年夏のマラソン・セッション盤。ジェローム・カーンは45年没のミュージカル作曲家。
   同時代の感覚的には、一世代前の懐メロ集って雰囲気の吹き込みか。
   "Smoke Gets in Your Eyes"の作曲家か。冒頭から軽やかに粋なジャズが詰まった。
   各曲とも丁寧にアレンジされ、いわゆるセッション的な雑味が無い。
   流麗なピアノがコロコロと優しく弾む。洗練とキュートな魅力が詰まった素敵な盤だ。
   細部まで細かく気配りされた演奏が素晴らしい。

 "Oscar Peterson Plays the Cole Porter Songbook"(1959)☆☆☆★
  同年夏のマラソン・セッション盤。ポーターは64年没。現役作曲家の位置づけかな。
   確かなメロディ展開に支えられ、ピアノのアドリブがはじけた。着実なリズム隊もしっかり。
   しゃっきり粒立った押せ押せノリと、ロマンティックなバラード曲の双方が、絶妙なバランスだ。
   派手さは無いが、聴くほどにしみじみとオスカーのピアノに惹かれてく盤。
   (2)や(4)でのアンサンブル一丸な抜き差しの妙味、(5)でのリズム隊引き連れたピアノの小粋なダイナミズム、
   (7)での生き生きしたバランス良いスイングっぷりなど聴きどころが一杯だ。

[Disc 9]
 "Oscar Peterson Plays Porgy & Bess"(1959)☆☆☆☆
   手なりの弾き飛ばしアルバムでなく、力のこもった名演が詰まった。
   マラソン・セッションの数か月後の10月に録音、ガーシュイン作のミュージカルが題材だ。
   1分前後の曲が2曲に7分位の曲が3曲。両極端の収録時間曲を上手く並べてトータル41分のドラマティックで
   アルバム構成にメリハリをつけた全10曲入り。録音の渋い響きのせいか、全体に落ち着いたイメージだ。
   高速アドリブからロマンティックな世界まで幅広く表現した。共通するトーンは地味目のブルージー。
   (2)が美しい。 "サマータイム"は軽やかにスイングした。バラードのイメージあったので新鮮。
   (5)はつっこみ気味にピアノが弾き、ハイハットが宙ぶらりんに刻む音像が楽しい。
   同セッションで"Scarborough Junction"は未発表。発売時期は不明だが、Verveがサンプラーで発売した
   3枚組LP"The Greatest Names In Jazz"に収録が、そのテイクかな?

[Disc 10]
 "A Jazz Portrait of Frank Sinatra"(1959) ☆☆☆★
   同年5月、レイとエドと録音で、シナトラのレパートリーを録音した。
    歌心溢れる、ごつっと粘っこいピアノがたまらない。特にこの盤は(1)でのパンチあるタッチから
   グリスに流れる演奏の瞬間が、すごく好きだ。
   テーマとアドリブが混在しつつ、あっさりと次々弾きこなす。カクテルピアノっぽい
   アプローチだが、確かなタッチと小粋で強烈にスイングするフレーズの連発が
   本盤を一味違う傑作ジャズに仕立てた。

 "Anita Sings the Most"(1957)☆☆☆☆
  本ボックスのボーナス扱いで収録。ドラム二人のクレジットで、ハーブにレイのトリオで歌伴のLP。
   1957年1月31日だけで録音。なぜかドラマーのクレジットが二人有る。(3)だけジョン・プール、
   あとはミルト・ホランド。ただしドラムのいないギター・トリオな演奏もあるが。
   ちょっとハスキーでタフながら可愛らしい歌声を、オスカーとハーブ・エリスが
   彩りよく飾り、ベースがしっかり支えた。アップテンポでスルリと滑り込む
   スピード感が良い。ボーカルを目立たせつつ、演奏も隙無い張りつめっぷりだ。
   ジャズ・ボーカルは苦手だが、これは良い。

   戦意発揚を目的に第二次世界大戦中、戦場にプレイヤーごと撒いた米軍のV-Disc集。
   4枚組で06年にJasmine recordsから出た。前から気になっており、ようやく入手。
71・V.A.:Swinging On A V Disc:☆☆☆☆
   IAで今はV-Disc音源が聴けるとはいえ、この大ボリュームでバラエティに富んだ選曲盤は
   他にない。さらにブックレットにミュージシャンのクレジットも載せたとこもポイント高い。
   レコード会社を超えたセッションも含まれるため、戦前のスイング・ジャズ入門編としても機能する盤だ。
   しかしアップテンポで押しまくると思ったら、しみじみしたバラードや小唄もあり。
   けっこういろんなパターンを吹き込んでたんだ。

2014/4/9   最近買ったCDをまとめて。

   GbVがらみ。02年に米Sprite Recordingsから出たコンピで、ボブとトビンが一曲づつ
   提供している。ちなみに、本盤でしか聴けない。他にはロン・セクスミスのなもある。
70・V.A.:Single Wish:☆☆
   全体的に暗めでサクッと録音した感じのロックがコンセプトで、マニア向け。
   内省的でほんのりサイケな香り。あまり予算はかけて無さそう。
   ボブは潔くエレキギターの弾き語りで、モロにデモの音質だ。
   他の楽曲もシンプルなアレンジが目立つ。しかしスッキリと録音のため、素直に聴けた。
   GbV視点では(5)のトビン、(8)のボブに加え(1)もあった。(1)はNick Kizirnis名義。
   つまりトビンのeyesinweaselのメンバーだ。さらに本テイクはdsでJim Macphearson,
   bがTodd Robinson、録音にJohn ShoughとGbVがらみの顔ぶれが参加した。

   御大ヴァンの新譜はセルフ・カバーをデュエット仕立て。ヒット曲をあえて外した選曲もポイント高い。
69・Van Morrison:Van Morrison Duets:☆☆☆★
   いわゆる企画盤だが歳相応に鷹揚な作りで楽しく聴けた。無用にゴージャスに走らず
   バンド風のあっさりした演奏に、ドライな風味のボーカルを載せる。
   それなりに非常に豪華なデュエット陣だが、ヴァンのキャリアゆえに誰が来ても格負けしない。
   もちろん歌声もむしろ、ヴァンの存在感がばっちり。

   難波弘之が打ち込みビートも使った08年のソロ・ユニット。プログレで無く
   ヒーリング的なアプローチのようだ。上野洋子や土屋正巳がゲスト参加した。
68・Eden:eden:☆★
   難波の円熟した寛ぎ路線か。可愛らしい雰囲気の盤。
   メロウなシンフォニックさを穏やかな音色のシンセで積み上げた。打ち込みと手弾き、双方の
   ニュアンスを漂わせながら。ヒーリング音楽の面持ちが前面に出た。
   例えば姫神みたいな和風風味が漂っても、根本はプログレの香りがする。
   特に変拍子びしばし強調なアレンジではないが、使うフレーズの味わいとか。
   シンセの音色をいじるだけで、かなり印象変わる盤と思う。本盤での音色は、とにかく優しい。

   ベースメント・テープ時代でディランの未発表"歌詞"へ、コステロらが自由にメロディを付けた
   プロジェクトで14年発売。せっかくなので曲目の多いデラックス版を入手した。
67・V.A.:Lost on the River - The New Basement Tapes (Deluxe):☆☆★
   つまりは詞先のオムニバス。ディランのメロディを意識は、皆してない。ベースメント・テープスの
   統一感のみ想定してバンド風に録音のようだ。企画の勝利で、コステロは
   どこまでもコステロだな、って印象だ。生とエレキがごく馴染むアレンジを
   ほとんどの曲は取り上げた。録音技術が発達のおかげで雑多な音世界を当時より自然に作れてる。
   個々のミュージシャンのファンなら楽しめる一枚。変にディランは意識しない方がいい。
   ディラン流のスピードや鈍く光るサウンドは無く、重たいカントリー・ロックな趣き。
   くつろぎよりもヒリヒリと殺伐な空気が先行した。

   NHKのドラマを大友が担当した09年の盤。ゲストはフレッド・フリスや鬼怒無月のサルガヴォたち。
66・大友良英:白洲次郎 オリジナル・サウンドトラック:☆☆☆☆★
   サントラだが単独のアルバムとして十二分に聴ける傑作。豪華なオーケストレーションと
   素朴な独奏。エレクトロの硬質さと生楽器のダイナミズム。相反する要素が
   見事で緻密なアレンジで詰まった。6曲演奏のサルガヴォ(楽曲は全て大友作)も
   無国籍なムードをむしろ本盤に加えている。聴いてて、洗練だがどこか孤独な空気を感じる。
   甘えを受け入れられぬ、かみ合わない寂しさを。楽曲はどれも、素晴らしく美しい。
   録音クレジットや本人解説のライナーが緻密で、CDとしても丁寧な作りが素晴らしい。

   シミ・ラボのメンバー、Mariaが13年にドロップした、1stソロ。
65・Maria:Detox:☆☆☆★
   丁寧に声を重ね、ぐいぐいと揺れるフロウで緻密なノリを作り上げた。重たいグルーヴへ
   まくしたてるラップは、楽曲によりスピードや譜割を自在に変え刺激的だ。
   各曲はあまり長くアウトロを引っ張らず、次々に移っていく。どの曲もフックの言葉や
   うっすらのメロディ込めたフレーズ作りが凄く魅力的だ。
   ナスティな女性を演じつつ、じわりと脆さを滲ませる。
   トラックはOMSBがWAH NAH MICHEAL名義も使い、16曲中6曲を担当。Earth No Mad(a.k.a QN)も3曲を提供した。
   他はSimilab以外のメンバーかな?上手く調べられない。
   ラップの客演は4曲に留め、Mariaのキャラクターを全面に出している。

   山下達郎がたまにラジオでかける黒人ソウル歌手。本盤は3rdにあたる。
64・Colonel Abrams:About Romance:
   うーん。ちゃかぽこした打ち込みハウスが古臭くて、どうにも聴くのがつらい。ぼくは本盤の
   魅力をわかってないようだ。(6)や(9)のスローは、まだ楽しめる良い曲だが。

   09年発売、ワシントンのヒップホップ。2ndにあたる。
63・KOKAYI:Robots & Dinosaurs:☆☆★
   打ち込みテクノっぽいリズムと、ほんのりジャンクで親しみやすいトラック。凄みより捻った
   したたかさを強調した。バラエティに富んだ楽曲上で畳み掛けるラップは
   聴きやすい。捻くれた楽しさが詰まった盤だ。ft.はレーベル仲間のSubstantialや、レーベル主のTonedeffなど。

2015年3月

2015/3/29   最近買ったCDをまとめて。

   4thソロで84年の発売。当時の未発表音源をボーナス・ディスクに、2枚組の決定版な再発。
62・坂本龍一:音楽図鑑 -2015 Edition-:☆☆☆☆★
   アイディアに満ち溢れる多彩な楽曲が詰まった傑作。長い時間をかけ、曲を次々
   録音した。その様子を生々しく実感できるのが、Disc 2の未発表テイク集。
   山下達郎がボーカルでここまで参加してたとは。さらにリズム・トラックだけの
   まさに録音過程まで開放してくれた英断が嬉しい。たしかにDisc 2は未完成ゆえの
   荒々しさがある。だからこそ、Disc 1での完璧な作りこみ具合が、非常によくわかる。

   藤掛正隆のレーベル、フル・デザインのライブ新企画"REC THE FULLDESIGN"の第一弾。
   合羽橋なってるハウスで14年に2daysで行われた、アコースティク/エレキの即興ライブ音源から、
   アコースティック盤が発売された。2015年の新譜。
61・太田惠資×加藤崇之×坂本弘道:ACOUSTIC:☆☆☆★
   真摯な即興世界が繰り広げられた。おちゃらけは無し。だが三人の持つサービス精神が
   むやみな緊張を強いらせず、クールだがしなやかなインプロになっている。
   とはいえメロディより特殊奏法が多いくらいのバランスで、耳を澄ませて
   三人がそれぞれどんな丁々発止かを、聴きとる必要ある。そのうちに、ずぶずぶと
   この音楽世界へ没入してしまう。敢えてライブ丸ごとでなく、7つのトラックに
   再編集したことで、垂れ流しせず集中できる音盤になった。

   酒井泰三のバンドが12年1月に高円寺Showboatでのライブ音源で、13年の発売。
   メンバーが豪華で、嶋田吉隆、佐野康夫、今堀恒雄、太田恵資、ナスノミツルの顔ぶれ。
60・N.O.Mad:Live at Shoeboat 2012:☆☆☆★
   ジャム・バンド好きに聴かせたいな。なるたけデカい音で。個々の楽器を聴き分けつつ、
   塊ごと味わうために。フェイド・インで始まる辺り、ライブからブロックで芯のみ切出しの雰囲気。曲中の編集は無さそう。
   祝祭的なエンターテイメントながら、考えさせる一枚。ロックなリフのダイナミズムに浸るも良し、
   呟く詩の置き方と剛腕ロックの対比を楽しむも良し。太田や今堀が"異物"と"寄り添い”が
   じわじわ変化する演奏で、バランス感の妙味を聴き抜くも良し。むろんライブの勢いに浸るも良し。
   複雑で難しい構成で幻惑もしくは酩酊の道を選ばず、酒井は骨太な勢いを選んだ。共演者の音楽を貪欲に呑み込み、収斂させつつ。
   一曲のロング・セットでアルバム化せず、敢えて10分以上の長尺を並べCDにどっぷり詰め込んだ。

   tp奏者のハード・バップ。4枚のLPを2枚組CDに収めた14年の再発。
59・Ted Curson:Four Classic Albums:☆☆★
   珍しい盤をまとめて聴ける点で本盤は便利だ。当時のライナーを復刻したブックレットも丁寧な作り。
   演奏はB級を超えないので、入門には向かない。ハードバップ好きなら楽しめるかな。

"Plenty of Horn"(1961) ☆☆
   1stソロ。ピアノ・トリオに管をゲストに招いたクインテット編成が基本、2曲でエリック・ドルフィーが参加した。
   3人のドラマーを使い分け、ベースはジミー・ギャリソンで固定。(3)や(7)のロマンティック路線と、
   (5)の熱いハード・バップの幅広さ。荒っぽいが、がっつり叩くドラミングを
   ベースがしっかり支え、ペットが吹きまくる趣向。アルバムは雑多な魅力ある。

"Fire Down Below"(1963) ☆★
   前作とメンバーをガラリ変えた。Montego Joe(per)+ピアノ・トリオに、テッドの1管編成。
   ライブ演奏でのレパートリーや雰囲気をそのままLPへ封じ込めたか。先鋭性より慣れを優先っぽい。
   コンガと小刻みなハイハットでラテン風味を、熱っぽいコード弾きのピアノが拍車かける。
   だが時に鳴り方が淡々としすぎてて、逆にコンガがアンサンブルの重しになった。
   選曲もスタンダードを並べ、親しみやすさを狙ったはず。(2)や(4)はまっすぐなジャズで、LPコンセプトに統一しない。
   爽やかで曇りないアドリブは耳馴染み良いが、引っかかりは薄い。
   数曲でフェイドアウトする終わり方も、なんか投げやり。プロデュースはプレスティッジのOzzie Cadena。

"The Tenor Stylings of Bill Barron"(1961) ☆☆☆
   "Plenty of Horn"より前の録音。同作に参加のテナー奏者1stソロへ、テッドは全面参加したクインテット編成の盤。
   がっつりハード・バップ。テナーの音色は過剰に柔らくヨレヨレだがフレーズは固い。
   リズム隊も強靭でブレない。そのせいかトランペットは、抑え気味だが勇ましい演奏を見せた。
   (2)での煙ったファンキーさも味わい深い。ピアノのオスティナートが酩酊感を誘う。
   テッドはよほどリーダー作より凄みを増しており、本盤は双頭リーダー作ともいえそう。
   その意味で本コンピへ本LPを選んだ慧眼を評価する。
   伸び伸びした演奏と、着実なタイトさの双方が自然に混じった演奏だ。

"Live At La'Tete De L'Art"(1962) ☆★
   62年のライブ盤で原盤はレアらしい。1管カルテット編成、テッドは5曲中4曲で吹いている。
   現地のカナダ人とセッションか。穏やかな曲はともかく、アップだとトランペットの疾走に
   ついてけない様子も伺える。テッドの格が一枚上か。ピアノは高速フレーズで
   食いついてくが、ドラムやベースが少し野暮ったい。ベースのチャーリー・ビドルは名を遺した人らしいが。
   テナーはまずまずだが、アッサリ気味。演奏のベストは(2)。

   ポリスターから98年発売の日本人エレクトロニカのコンピ。細野晴臣が1曲提供。
58・V.A.:pop goes on electro:☆☆★
   テクノとエレクトロ・ポップが混在するコンピ。BGMには、ちょっとテーマがつかみづらい。
   ノイジーさやビート強調、ミニマルなアプローチはほぼ無く、むしろポップ寄りを
   意識したのかもしれない。気楽に聴くのに良い盤。
   そして最後の細野晴臣のみ、8分越えの静謐なアンビエント・テクノを聴かせる。
   これは静かな迫力が凄い、良い曲だ。この曲のために本盤を買う価値有り。

   06年アカデミー賞受賞のアニメ映画サントラ。プリンスが主題歌"Song of the Heart"を提供、
   06年ゴールデングローブ賞主題歌賞も受賞した。他ミュージシャンのマッシュ・アップや
   カバー曲が聴けるのも本盤の売りらしい。
57・OST:Happy Feet:☆☆☆★
   ビーチ・ボーイズとジア・ファレル以外は有名曲のカバー。ジアは2ndシングルのタイアップだから、当然だが。
   いかにもミュージカルらしく、ヘルシーに明るくラテンに
   アレンジされた楽曲は、マンボとタップとゴスペル・クワイア風味がハマって実に爽快だ。
   楽しく聴ける好盤。情感が分かりやすくメロディに載せられ、大胆に盛り上がる。
   しかし主題歌のプリンス曲は素晴らしい。"3121"(2006)の時期に、キュートなポップスを
   書いてたなんて。プリンスは描けても、やらないだけなんだろなあ。
   最後は音楽監督ジョン・パウェルのインスト。楽曲の雰囲気からして、エンディング・クレジット曲かな。

2015/3/21  最近買ったCDをまとめて。

   菊地成孔と大谷能生のジャズ・ドミュニスターズ、2013年の1stが再発。
   通販主体だった初版2千枚を売切り、2曲を入れ替え、夜電波のラップ再録をボーナス収録した。
56・Jazz Dommunisters:ドミュニストの誕生:☆☆☆☆★
   日本語ラップの金字塔だ。ギャングスタ系でもギャグでもなく、音程とリズムのアイディアは膨大にある。
   再発にあたり前作からトラックを一部弄って、より聴きやすくした。具体的には(1)を差し替え2分から9分に拡大。
   タイムが微妙に違うトラックが数曲有り、細かく弄ってもいそう。(7)も朗読だった曲を消し、ラップに変えた。
   さらに菊地のラジオで流れたラップ曲を再録してボートラとした。
   ギャグめいた挨拶(1)を思い切り長尺にするあたり、敷居低くしつつも大胆な展開と思う。
   ユーモアとクールさが違和感なく同居し、多くのゲストを招いて今のラップシーンと
   滑らかにつながった。トラック・メイカーも他人を使って菊地と大谷はラッパーの立ち位置だ。
   言語と音楽、譜割とラップの関係を見事に音楽に昇華した、大傑作。

   女優の菊池凜子がRinbjo名義で14年に、菊地成孔プロデュースで1stをリリース。
   歌モノでなく菊地流のどっぷりとしたヒップホップな仕上がり。
   ラップ客演は菊地成孔の作品では馴染のSIMI LABのメンバーやICIに加え、
   さらにQNの参加が目を引く。トラックは菊地の他にDJ TECNORCHらが参加した。
   Clare And The Reasonsの3rd"KR-51"(2013)から"The Lake"のカバーを収録。
55・Rinbjo:戒厳令:☆☆☆☆☆
   大傑作。まさに女優ならではの多様なキャラクター性を利用して、菊地成孔流の
   ロマンティシズムやユーモアを存分にぶち込んだ。ついでにスパンク・ハッピー流の
   プラスティックな美意識も。トラックはすべて菊地ではないが、そんなことは全く気にならない。
   隅々まで成孔イズムで仕上げてる。凛子だからこそ演じられたが、逆に凛子である必然性も薄い。
   そのくらい、成孔の色がどっぷり出た。ある意味、オーバー・プロデュース。
   だからこそ、本盤はやっつけの「女優が歌ってみた」を超えた、至上のヒップホップ盤に仕上がった。
   エレガントと病的な価値観が自然に溶け合う、揺れるフロウをたっぷり込めたグルーヴも素晴らしい。
   そして最後の"lake"が絶品。なんと美しいバラードだろう。歴史に残すべき一枚。

2015年2月

2015/2/28  最近買ったCDをまとめて。

   元GbVのロバート・ポラードがトッド・トバイアスらと新バンド組んだ。新譜にして1stアルバム。
54・Ricked Wicky:I Sell the Circus:☆☆☆★
   甘めの仕上がり。ハイトーン控えたせいか。(8)とか、こじんまりまとまってる。
   1曲を除きボブの作曲。きっちり作曲されてるが、アレンジはGbVと同様に
   リフだけ決めて自由に演奏してるっぽい。ただしアコースティックや鍵盤も入れ
   アルバムとして作りこまれた。ボブのソロと差別化は良くわからない。
   サウンドの統一性、かな?逆に(7)だけボーカルも変え、違う色を入れる必然性が謎。
   甘酸っぱいボブのメロディは、かなり落ち着いた印象あり。

   暖かく整った世界観の英女性SSWによる2年ぶり、4thのスタジオ・アルバム。
   14年発売、デビュー10周年だ。
53・Pally Paulusma:The Small Feat of my reverie:☆☆☆★
   1stでの生々しいフォークっぽさを、改めてじっくり味わえる好盤だ。
   3rdアルバム"Leaves From The Family Tree"の姉妹作な位置づけで、収録曲をアコースティックでセルフ・カバーした。
   鍵盤やギター、シンセや多重ボーカルを施した丁寧なアレンジや演奏で
   デモ集っぽい粗さは無い。録音やミックスもポーラ自身が行っている。
   本盤収録16曲中5曲が本盤のみで聴ける曲。これらも"Leaves From ~"と同時期の作曲だそう。

   聴き洩らしてた。上の歌手がデビュー直後にリリースした、04年のライブ盤。
52・Polly Paulusma:Cosmic Rosy Spine Kites:☆☆☆☆
   いきなり弦カルの響きが溢れ、嬉しい驚き。04年6月7日に録音の4曲を二曲づつ
   アルバムの前後に置き、7曲をはさんだ構成。後者はベースとドラムのみ迎え
   ポリーがピアノかギターを弾きつつ歌う。同年3月8日のライブから。
   本盤にて1st収録全曲を演奏した。いわば、裏1stアルバム。
   弦カルはポリーのアレンジで、あまり派手に鳴らさず荘厳な旋律を緩やかに動かし
   歌を惹き立てる。ぴんっと張った緊張感を演出した。
   後者のトリオ編成もしゃっきりしたスイングっぷりが心地良い。もともとシンプルなアレンジが似合う
   楽曲を歌うが、本盤ではひときわ魅力が引き立っている。聴き逃せない傑作だ。
   切なく溌剌なメロディを、時に高らかに時にそっとポリーは歌いかける。

   2010年頃からミックステープで話題呼んだNYラッパーのメジャー1st新譜。
51・Joey Bada$$:17 Living Souls:☆☆☆☆
   確かに今後、折に触れ何回も聴きかえしそうな盤だ。ウータンみたい。
   90年代連想の不穏な黒さと、最新鋭のEDM要素を混ぜたトラックの上を、たどたどしさを
   漂わせつつも、実はカッチリ制御なラップを載せる。ゲストはアルバムの真ん中で数人を呼んだのみ。
   自らのキャラクターをしっかり確立したアルバムだ。歌詞を眺めながら聴いてたら
   丁寧なフックを作り、キャッチーな仕上がりと、改めて気が付いた。曲ごとにプロデューサーを変え
   バラエティに富んだ音作りは、全方位マーケット狙いか。ならば成功してると思う。
   むしろ90年代がリアルタイムだった世代としては(その時代のラップを山のように聴いてはいないが)
   古臭くも、馴染み深い世界とも思える。今のNYのリアルは分からない。しかしこのラップが
   ちゃらちゃらしてないとこが、奇妙に耳へ馴染む。いまさらギャングスタの現実を実感できるとは思わない。
   けれども、幻想な現代のハードボイル臭を、本作で嗅いでファンタジーに浸れる。

   英黒人シンガーで7年ぶり4thアルバム。2014年に発表された。
50・Shaun Escoffery;In the red room;☆☆☆☆
   どの曲も魅力的で、古めかしさは無い、カラッと乾いたノスタルジー。
   カーティス・メイフィールドの香りふんぷんな(1)から、70年代ソウルを打ち込みの
   クールさを使い、さらに洒落た世界に落とし込んだ。生演奏でも粘っこさは恐ろしく聴こえ無い。
   この辺のタイトさがUK風か。ファルセットを武器に、線は細めだが歌い上げた。
   軽やかに聴くソウルとして、心地よい。
   共同プロデュースで共作曲やベーシック・トラック録音も担当のGil CangはTuff Scout All Starsのメンバーのようだ。

   ハードバップ時代のtp奏者が59-62年にBLで出した、10枚のアルバムをCD5枚に詰めた廉価盤。
49・Donald Byrd:The Definitive Classic Blue Note Collection:☆☆☆
   慎重にサイドメンを変えながら、ハード・バップの地へ安住せずに流行の演出を試みる
   試行錯誤の様子が伝わるボックスだ。マイルスと異なり、音楽的な先鋭性よりも
   観客への親しみを、サウンドのクオリティ落さず模索する印象を受けた。

Off to the Races (1959) ☆☆★
   BL初吹き込み。6曲中4曲、ペッパー・アダムズとジャッキー・マクリーンを招き3管体制。他はtpカルテット編成だ。
   シンプルに疾走するリズム隊、高速に吹きまくる木管。その中でtpが伸びやかに響き渡る。
   自らのアピール・ポイントを的確に理解の上で、ハードバップの魅力を明確に提示した。
   アップの勇ましさとミドルのキュートさを全面に出し、わずかに揺らぐ抑揚の
   鮮やかなtpが光る。軽々とテンポ変換するリズム隊のテクニックでビートも安定だ。
   ジャッキーは所々、フレーズを区切りつけて吹く。だからこそ、ペットの滑らかさが引き立った。
   一曲を短めに抑え、聴き手の集中力もさほど必要としない。
   マーチング・ドラム要素も入れ、切れ目なく叩き続けるアート・テイラーのたくましさも良い。

Byrd in Hand (1959) ☆☆
   サム・ジョーンズとアート・ペッパーのリズム隊はそのままに、ピアノをウォルター・デイビスJrに変更。
   ペッパー・アダムズとチャーリー・ラウズによる、全編3管編成の盤。
   前作ほどキャッチーさは無く、一曲をじっくり聴かせる。試行錯誤の感じも。
   まずtpのソロから始まるイントロは前作と同じ。だが前作からサックスの音域を下げ太さを強調した。
   pも流麗なケリーから穏やかなスイング感のデイヴィスに変え、よりサウンド焦点をtpに絞らせる。
   さらに大人っぽさも狙いかな。このプロデュース視点が上手い。
   デイヴィス作も2曲採用、ピアニストに留まらぬパートナー狙いだったのかも。結果は本作のみだったが。
   ソロ回しの切れ目で、ガッと風景を変えるアレンジがドナルドの特徴だろうか。
   tpは本盤でも、フレーズの節々を揺らし歌心を出した。

Fuego (1959)☆☆☆
   リズム隊もすべて変更、ジャッキー・マクリーンとの2管で録音された。
   全体的におっとりした印象だ。端正なモダン・ジャズ。
   誰のソロも、ぬぺっとフレーズを伸ばすかのよう。まず(2)のスピード感が聴きもの。
   アドリブ交換はお行儀良く、滑らかにつながった。スローだとハイハットがモタる気が。

Byrd in Flight (1960)☆☆☆☆
   しゃれっ気がテーマか。熱さより洗練さを狙った気がしてならない。サイドメンにがっしり支えられ、
   トランペットが素晴らしく鮮やかに響く。
   前作"Fuego"から二ヶ月後の60年1月。バードは管の相方をマクリーンからハンク・モブレー(ts)に変えた。
   アンサンブルの重心下げが狙いか。同じ顔ぶれで同月の翌週に、再録音する。
   これらのセッションでは涼やかなテナーが鳴りまくる、スピーディなハード・バップに仕上がった。
   だがバードは今一つ納得いかなかったのか。同年7月、再びマクリーンを招いた。
   今度はベースをダグ・ワトキンスからレジー・ワークマンにして。これが本盤収録セッションの流れだ。
   最後のセッションでは、いくぶん落ち着いた仕上がりな感がある。演奏より選曲からの印象だが。
   アルバムの曲順は録音時期をまぜこぜ。バードの意志よりレーベル側のバランスみた選曲かも。
   エコーがうっすら乗った甘い響きの録音が心地良い。

At the Half Note Cafe (1960) ☆★
   ペッパー・アダムズとの2管編成で行われたライブ盤。
   地味だが当時の雰囲気が伝わる一枚。LPのVol.1とVo.2を併せた構成だが、
   CDで発掘ボートラの5曲は未収録。本盤はNYの"Half Note"で60年11月11日に
   4セット分が録音された。本盤での曲順は特にセット毎の流れを気にせず、LPの曲順をちょっと弄ったかたちだ。
   ソロ後の拍手は若干あるが、あくまでジャズ・クラブでの演奏みたい。
   演奏は溌剌、ぐいぐいくるハード・バップだ。フリーキーさは控え、聴き安さもばっちり。
   バリサクが勢いよくブルージーに吹き、ペットが上品に甘く決めるパターン。

The Cat Walk (1961) ☆☆★
   ドラムがフィリー・ジョー・ジョーンズと初共演。ペッパーとの2管は変わらずだ。
   がっつり熱いハード・バップ。きれいに盛り上がる。新鮮味よりもファンキーなノリを意識か。
   そしてバードは本作のあと、新たな音楽の風景を模索が始まる。
   本ボックス収録の諸作のなかで、本盤が最もしっくりと僕の好みに合った。
   張りつめて高らかに響くテーマ、スピーディに刻むビートとめまぐるしいアドリブのフレーズが聴ける。

Royal Flush (1961) ☆☆☆
   ペッパーとの二管で、ハンコックをメンバーに加えた。リズム隊を変え、時代の流れを横目に試行錯誤かな。
   ハード・バップを基礎に、よりクールで洗練さを狙った一枚。
   気心知れたペッパー・アダムズ以外、若干21歳のハンコックを筆頭に20代前半の
   リズム隊で固め、たぶん若さの訴求効果を図った。バードはこのとき、29歳。
   ただしサウンドはむしろ落ち着いた印象だ。静謐なピアノを筆頭に静かなグルーヴを聴かす。
   象徴が(2)のバラード。朗々とバードはペットで長く美しいソロを取る。ピアノの合いの手も素敵だ。
   全6曲中、1曲がスタンダード。1曲はハンコックの作品だ。他4曲はバードの自作だが
   この時点でハンコックを高くかっていそう。跳ねるピアノの(4)に才気を感じた。

Free Form (1961) ☆☆☆★
   リズム隊は前作と同一。管の相棒にショーターを起用した。上手く時代の移りを取り入れてる。
   "Royal Flush"からサックスもショーターに変え、どんどん洗練さに軸足置いてきた。
   だが5曲中1曲がハンコック、あとは自作。この辺がなりふり構わず他人の才能を貪欲に取り込む
   マイルスと異なる。先見の明はあるが、自我も出す。よってショーターの神秘的なムードは控えめ、
   穏やかでファンキーなハード・バップに仕上がった。リズム隊の野暮ったさも拍車をかける。
   ハンコック作品(2)の涼やかなムードの新鮮さはさすが。バードはブルージー差を残す
   作風だが、(5)では意地を見せ次世代風のフレッシュさを展開した。

A New Perspective (1963) ☆
   コーラスを入れ、編成を増やした新規性を取った。洗練されたBGMを意識かな。
   ただし迷走な盤。アレンジされ過ぎで、ジャズのダイナミズムは薄い。曲構成の合間にアドリブがある感じ。
   さらにハーモニーが妙な覇気無いそぶりで、上滑りしてしまう。
   フロアの生演奏だと迫力あると思うが、盤だと今一つピントがボケてしまった。

2015/2/15    最近買ったCDをまとめて。

   96年発売、クリントンの名を冠しファンカとパーラを融合したアルバム。
48・George Clinton & The P-Funk All Stars:T.A.P.O.A.F.O.M.:☆☆☆★
   ファンクは成熟し、自己昇華を始めた。過去の栄光にすがらず、時代へ寄り添いもせず
   地味だが強靭なグルーヴを基礎に、穏やかな凄みを見せた盤。
   若手や外部の力をふんだんに投入し、P-Funkブランドを鈍色に磨いた傑作だ。
   鮮やかなメロディも派手なテンションもない。しかし無闇にヒットを狙わず
   しなやかに円熟したゆとりを感じた。ヒップホップ色は抑え、70年代回帰の印象だ。
   じわじわと良さを感じる一枚。多数の録音クレジットだが、ツアーの合間に収録?
   ゆったりなテンポと少ない音数の上で、多数のボーカルが彩った。

   77年録音、81年リリースのピアノ・トリオ。ボートラ3曲入りの盤を入手した。
47・Bill Evans:You Must Believe In Spring:☆☆☆☆☆
   透徹なピアノのタッチをドラムとベースが邪魔せず、ロマンティックに仕上げる。
   残響に包まれた響きを、生々しい低音がグッと引き締めた。シンバルは
   密やかに空気を揺らす。ミキシングが凄いな。さすがアル・シュミット。
   エコー感のセンスは、共同プロデュースのトミー・リピューマのセンスか。
   むしろ甘めに傾きがちなスタッフに囲まれ、ビルは強めのタッチで音を引き締めた。
   ぽおんと跳ねる音色が溢れるアドリブの時、リズムは煽らずむしろ支える位置関係も美しい。

   02年のシングルで"Universal Truths and Cycles"からのカット。
   併収の2曲はEP"The Pipe Dreams of Instant Prince Whippet"でも聴ける。
46・Guided By Voices:Back To The Lake:

   13年発売、ボストンで活動する日本人が多重録音で吹き込んだファンク。
45・monolog:17 Living Souls:☆★
   サンプリングやエディット無しの生楽器多重録音のアンサンブルは、予想よりグルーヴして
   密室的なたどたどしさは無い。しゃかしゃか溜め気味に刻むドラムと相対するのは
   ベースかギターか鍵盤か、掴みづらいとこあるけれど。
   有機的に結合させず、個々の楽器を積み上げ志向か。
   多数のゲストを招いたことで、オムニバス風の賑やかさもある。
   流麗すぎて聴き流してしまいそう。主人公の顔がもうちょい見えたらいいのにな。

   96年に日本ソニーから発売のアヴァン系コンピ。大友良英が2曲で参加した。
44・V.A.:BALLS TO THE WALL MAGENTA:☆☆☆★
   10分越えのインキャパ以外は5分程度の作品が並ぶ、エレクトロ・ノイズ系のコンピ。
   本盤向けの新曲群、だろうか?ビートや轟音と静寂、あらゆる趣向を詰め込んだ。
   のちに異なる方向性へ向かうミュージシャンらの初期作品をまとめた、貴重な盤だ。
   まだループ系は少なく、アナログで手弾きのダイナミズムが漂う。
   キュレーターはHEAZの佐々木敦と原雅明。しかし東京の他に大阪もきちんと目配りした人選だ。
   約20年後の今聴くと過激さより荒削りさが、いとおしい。
   無秩序を狙いながら、どっかポップだ。インキャパも高音強調の涼やかなノイズ。

   01年、相米慎二監督の映画を大友良英が担当した。単なる音楽集では無く
   セリフも交えて演劇的なアルバムに仕上げている。
43・大友良英:風花 Original Cinematic Track:☆☆☆
   セリフをふんだんに使いつつ、変にストーリー仕立てにしないぶん素直に音楽作品として聴ける。
   日本語のセリフなぶん、意味合いが耳についてしまうが・・・。
   左右のチャンネルに飛ばされたセリフは、イヤフォンで聴くと生々しいスリルあり。
   アコギの爪弾きと、笙や電子音の怜悧な響きが対比しあう幻想的で素朴な世界が広がった。
   滑らかでわずかな旋律が、ふっくらと広がる。音楽だけで聴いて見たい気もしたな。

   99年に米Chamelで発売のコンピ。日本人作品集でAMTや灰野敬二、I.S.O.らが参加した。
42・V.A.:Land Of Rising Noise Vol. 3:☆☆★
   ノイズ中心ながら、ハーシュ一辺倒ではない多彩なアプローチの作品が楽しめる。
   I.S.O.らの若かりしノイズを聴くよりも、時代性を意識した、どこか空虚で
   どっか切迫した空気感をアルバム丸ごとから吸収して当時のノリを空想するって楽しみも悪くない。

2015/2/7   最近買ったCDをまとめて。

   元エルドンなピナスとアンバーチのデュオ名義。
   ゲストにメルツバウが参加した14年のアルバム。
41・Richard Pinhas,Oren Ambarchi:Tikkun:☆☆☆
   重厚な肌触りのメカニカルな音。しかし肉体性を常に感じる。CDの方は楽曲ごとにゲストを招いたか。
   ドラムが強調のワイルドな他2曲に対し、メルツバウ参加と思しき(2)は、ドラムと鮮やかな
   エレクトロの美しさも感じた。
   DVDの方は強烈なドローンの嵐。持続音のパワフルさが詰まった。

   デビュー20周年盤。7年ぶり、14年発売の6thアルバム。
40・Wu-Tang Clan:A Better Tomorrow:☆☆★
   悪くは無いが生存確認のほうが強い。功成り名遂げた王道路線は変わらず、ヒリヒリ感が薄い。
   生演奏と軽やかな打ち込みビートを共存させつつ、不穏なウータン独自のムードは健在。 
   1stのハングリーな凄みは当然消え失せてるが、これはこれであり。
   マイクリレーよりオムニバスな印象だ。拍頭を強調した畳み掛けるビート感に
   半歩ずらしグルーヴを出すラップ。拍裏からフラットに並べる譜割か。
   つぎつぎ変わるラッパーで、わさわさっと雑駁な空気は嬉しい。
   基本のトラックはもちろんRZA。リック・ルービンの話題作りプロデューサは
   別として、(7)でMathematics、(8)に4th Disciple、(11)をSelwyn Bogard(Killarmy)と、
   中盤に仲間へ委ねる。相変わらずコミュニティの結束は固い。

   "By Way Of The Drum"(2007)ぶりかな?14年発売のファンカ名義新作は3枚組のボリューム。
   録音時期が不明だが、新旧メンバーそろい踏みで曲ごとに顔ぶれバラバラなあたり、
   過去収録音源も入っていそう。ボーカルなどで数曲、スライ・ストーンが年金保障みたいにがっつりと参加。
39・Funkadelic:First Ya Gotta Shake the Gate:☆☆☆☆
   いわば、玉手箱。往年のP-Funkスタイルと、テクノを通過した新しいアプローチが混在する。
   良い曲もあるが、いかんせん3枚組は長い。たぶんクリントンはコンセプトを絞って
   まとめるより、蔵出し放出を狙ったのでは。聴き手を挑発よりも歳相応の鷹揚さがにじみ出た。
   録音年のクレジットあったら、興味深い解釈ができたと思う。
   録り溜めた楽曲群を、とにかく詰め込んでばら撒いた感じ。
   もっと聴くほどに、魅力はにじみ出てきそうだ。

   河端/津山/東に、ゲストで夘木英治(ds),小埜涼子(sax),Nao(vo)を招いた06年スタジオ作。
38・Acid Mothers Temple & The Melting Paraiso U.F.O.:Have You Seen the Other Side of the Sky?:☆☆☆☆★
   良く練られた傑作アルバム。AMTのさまざまな音楽要素を丁寧に詰め込んだ。
   全曲へ津山の作曲クレジットあり(一部は河端らと共作)、サイケ・トラッド色も強い。
   全6曲。うち1曲が30分の大作で、1曲は15分。あとは数分の小品を4曲集めた構成だ。
   みっしりつまった濃密な音像は、オーバーダブを重ね奥深く仕上げた。
   猛然たる疾走とフルートの涼しさが両立する(1)から、アコギ弾き語りにシンセが載る美しい(2)へ。
   (3)もムードはそのままなだれ込み、エレキやダビングでエコーの深い混迷を演出した。
   耳を貫くハイトーンのシンセが心地良い。けだるげなムードを引き締める。
   静かなフルートも味わい深い。中盤からセクシャルに盛り上がっていく。
   剛腕炸裂の突進な小品(4)を経て、酩酊な弦楽器の爪弾きが積み重なる(5)に。
   最後の長尺は、実際のところ組曲だ。淡々と空気が揺れる静かなイントロが最初の部分。
   AMTらしい骨太かつミニマルなアンサンブルの曲へ繋がり、津山の唸りがじっくり響いた。
   やがてギター・ソロを堪能する流れへ沈んでいく。がっつり味わい深い。

   吉田達也と佐藤研二のユニットに、河端一が加わったライブ盤で、
   伊Vivoから08年の発売。07年10月の東京と神戸の音源から選曲された。
37・石窟寺院+河端一:Sekkutsu Jean + Kawabata Makoto:☆☆☆☆
   カツカツなハイピッチのスネアを強調し、ベースやギターとくっきり分離良くしたミックス。
   バスドラの要素は奇妙に低い。5分前後のインプロが11曲並ぶ構成で、アイディア一発で疾走する分
   きりよく次々と曲が進んでいく。長尺のダイナミズムも一曲くらい聴きたかったが。
   メロディアスな展開が厳かに立ち上がる(6)が名演。基本的にスピーディな斬り合いが
   メインなだけに、こういったドラマ性は鮮やかに強調される。
   アルバム全体のトーンは剛腕ギターも含めて、三人がフラットに暴れまわる即興だ。
   そこかしこに構成美のバランス感が見えるのも興味深い。石窟寺院の勢いがさらに加速した。

   Jディラの死後、09年に彼の母親がプロデュースし発売された未発表曲集。
   ミックスとアレンジをピート・ロックが担当という豪華な構成だ。
36・J Dilla:Jay Stay Paid:☆☆
   思ったより軽やかなビートとムードだ。するりと聴き流してしまった。
   改めてJ-Dillaの諸作を聴いてから、味わうべき盤かな。いまひとつピントが掴めない。

   03年発売、細野/高橋によるスケッチショウの3rd。ゲストで坂本龍一の名も。
35・Sketch Show:Loophole:☆☆☆☆
   派手さは無いが、素晴らしくスリリングな一枚。プチプチ細かく泡立ちはじけるビートをぎっしり詰めた。
   上物は穏やかな欧州風味ながら、リズムは刺激満載のテクノ。
   ミニマルさも激しく、なのにポップなとこが凄い。(3)や(5)の歌モノが産む
   穏やかなスリルは、彼らならでは。

   ベネディッティ=ミケランジェリ(p)の、メンブラン盤の廉価10枚組ボックス。Aura音源のライブ録音集かな。
34・Asturo Benedetti Michelangeli:10CD set:☆☆★
   廉価に彼のライブ音源を楽しむには良いかと思うが、玉石混交で入門編には不向き。
   観客ノイズが予想以上に多く、マナーの悪さが目だつものが何枚も。
   もしかしたら観客ブートかと思うような音源もある。ただし楽曲によっては
   怜悧なミケランジェリのピアノを堪能できる場面も、もちろんあり。

Disc1 ☆☆★
    モーツァルトのピアノ協奏曲No.15(KV 450)とピアノ四重奏(KV 493)を収録。
   前者はスイスで74年録音のエドモン・ド・シュトウツ指揮、後者はWallez/Joubert/Darielと共演、72年の録音。双方がAura Music原盤。
   前者は観客の咳払いが邪魔くさいが、落ち着いた雄大な演奏だ。伸びやかに弦が広がり、ゆったりとピアノが響く。
   第三楽章後半でのパンチの効いた強いアタックも良いなあ。
   後者は録音が酷い。観客の激しいノイズに加えマイクが吹いている。食器らしい音もするがサロン演奏か?
   "Croisiere Pacquet 'Renaissance'"の録音らしいが、ルネサンス号のクルーズ演奏ならば、吹いてるのは外の海風か。
   演奏はおっとりと整ってる。破綻は無いが、今一つピンとこない。

Disc 2 ☆☆☆
   ショパン集。85年録音のスケルツォ2番、バラード1番にアンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ作品22。
   62年録音からは"子守歌"Op.57とワルツ第15番を収録。
   68年録音よりソナタ第2番"葬送"、67年録音は3つのマズルカOp.59から第38番 嬰ヘ短調を収めた。
   録音のせいか、1985年の演奏は細部がモヤけてる。(1)は低音から駈け上がるフレーズのスピード感が凄いな。
   (2)のスピード感と(3)の繊細さ、双方の要素が滑らかに溢れだす。
   ピアニッシモからフォルテへの高低差が魅力だ。(3)の降り注ぐ中盤のフレーズが沁みた。
   硬質に響くタッチが美しい。にしても、観客ノイズは凄い。
   (4)は、ふっくらした音色の浮遊感とサクサクした響きの名演だ。優雅さでは(6)も甲乙つけがたい。細部が聴きづらい音質で惜しいな。
   寂しげな(7)の乾いたロマンティックさも良かった。(8)からは比較的マイクが近い録音。跳ねるとこが聴きものか。

Disc 3 ☆☆☆☆
   シューマン集、"謝肉祭"(73年録音)と"ウィーンの謝肉祭の道化"(68年録音)が収録。
   静かだがエッジの鋭い演奏が心地良い。凛と張った緊張感が美しい。ロマンティックな楽曲も
   どこか涼しげに響く。ボリュームあげて聴くほどに、しみじみと音が沁み込んだ。
   跳ねる音がしゃっきりと次の音へ繋がる。雑味の無い音色が良い。
   前半はオーディエンス・ノイズも無く、存分に演奏へ浸れるライブ音源だ。
   だけど後半のほうは演奏良いけど、少々客席のノイズ有り。残念。

Disc 4 ☆☆★
   ベートーベン集。ソナタ11番と12番(それぞれ81年録音)と、32番(90年録音)を収録した。
   垂直に切り落とすような、しゃっきりした演奏。音が潔く立ち上がる。涼しげな解釈でコロコロと
   音符がつながった。和音の粒立ちが鋭くて心地よい。11番では1楽章がひときわ鋭く、
   2楽章は穏やかだ。極端に落差ある演奏が見事で、2楽章の美しさが加速した。
   12番は同日の録音だが、いくぶん平板であっさりした印象。
   ただし第4楽章の加速っぷりにはグッと来た。
   時代を経た32番はメカニカルさを減らし、大胆なフレーズ揺らしに来た。グイグイ煽るカッコよさ。

Disc 5 ☆☆☆☆
   ブラームス集の73年録音。4つのバラードp.10とパガニーニの主題による変奏曲Op.35をまとめた。
   後者は第一部の全曲と、第二部で9と11変奏を除き、順番変更で演奏のプログラム。
   このBOXは観客ノイズが無いかを真っ先に聴いてしまうな。本盤は意外と静かだ。
   たまに咳ばらいが聴こえるくらい。演奏は素晴らしい。硬質なタッチでまっすぐな演奏は、
   むしろ感情表現抑え目と思うのに。溢れる音楽は流麗で佇まいが凛々しい。
   くっきりと音の粒が鳴り、静かに消え去っていく。比較的まともな録音だ。
   特に"パガニーニ変奏曲"での演奏が格別だ。はじけ飛ぶフォルテ、スマートに転がるピアニッシモ。
   隙が無く、美しい。

Disc 6 ☆☆☆☆
   ドビュッシー集。子供の領分(68年録音)、映像第一集と第二集(双方87年録音に、抜粋版の前奏曲(77年録音)が入った。
   溌剌とした演奏。凛としたタッチ、涼やかなメロディ展開、隅々まで美しい。
   特に同じフレーズを繰り返すところの確からしさが、ミニマルの強靭さでひときわ良かった。
   タイトで流麗、ミケランジェリのドビュッシーは冷徹な響きが愛おしい。
   幻想的な和音の連発が、すごくシャッキリと鋭利に響く。

Disc 7 ☆☆☆☆
   オムニバス。バッハのシャコンヌBWV 1004(73年)とイタリア協奏曲BWV 971(43年)、スカルラッティの7つのソナタは、
   それぞれ異なる年の演奏をまとめた変則的な編集だ。
   K.96(43年),K.29(52年),残る5曲が69年の録音。ガルッピはPresto in B flat(41年)、ソナタ5番(62年)の録音。
   録音もまずまず、観客ノイズもほぼ無い。バロック曲が。かくも肉感的なダイナミズムの
   心震わす演奏になるとは。柔らかく冷徹なタッチがグイグイと旋律をばら撒く。
   盛り上がるバッハ、しっとり迫りくるスカラッティ。硬軟使い駆け抜けるグルッピ。素敵だ。
   がっつり音量上げて聴きたい。

Disc 8 ☆☆☆★
   再びショパン集。これも各年度をまとめた編集が施された。曲と録音年を羅列する。
   スケルツォ第1番とマズルカOp.33が90年、幻想曲とマズルカ第43番が85年。3つの華麗なる円舞曲から第二番が88年、第一番が62年。
   告別とマズルカ第47番も同じ62年録音だ。他に67年録音で3曲。マズルカ第49番、第29番、第19番を収めた。
   粒立ちのくっきりした情感に陥らぬ、凛としたショパンが聴ける。複数の録音で
   ピアノの音が曲によって異なるのも味だ。解釈を超えた楽器の違いが
   伺えるかのよう。フレーズを歌わせ、力強く叩く。ダイナミズムの幅広さも素晴らしい。

Disc 9 ☆☆☆☆
   62年4月284日のバチカン演奏会を収めた。演奏曲はシューマンのピアノ協奏曲Op.14と
   リストの死の舞踏、ベートーベンのミサ・ソレムニス"グローリア"。
   録音こそ潰れ気味だが、恐ろしく迫力ある演奏だ。尻上がりにテンションあがっていく。
   流麗なのに硬質なタッチが鋭さを増すシューマンは、オケとの調和も素敵だ。
   重たい凄みと、華やかな繊細さも魅力なリストで、寛ぎながらも蕩ける。
   クライマックスがベートーベン。猛烈な炸裂する歌声の爆発で、豪快さを出す。金管とコーラスの爆発が痛快だ。

Disc 10 ☆☆☆
   音質さえよければ、☆がもっと増えたのに。演奏は抜群だが、音質が酷い。
   三箇所のライブ音源をつぎはぎした。48年のシューマンのピアノ協奏曲Op.54、49年のフランクの交響的変奏曲、
   42年のグリーグのピアノ協奏曲Op.16が入っている。フランクは、これがミケランジェリが残した唯一の録音か。
   シューマンはテープの劣化が酷い。音は揺れるしヒスノイズもすごいため、完全にファン向け。演奏はふくよかで良い。
   オーケストラの炸裂っぷり、瑞々しいピアノと抜群の溌剌さだ。いい音で聴きたかった。
   逆に何故、この酷い音質でも収録したかが良くわかる名演だ。素晴らしくロマンティック。
   フランクも相当に劣化した音質で、怜悧なピアノの様子はうっすら伺えるが
   オケ側がかなり奥まった響きなのが難点。貴重性で聴くべき音か。演奏は良いんだけど。
   グリーグも音質は低めだが、本収録盤の中で一番まとも。しっとりしたピアノがオケへまとわりつく
   柔らかで美しい世界がふっくら広がる。これも良い演奏だ。

   オーストリア出身の歌手/作曲家、ジスバーグがTZADIKから95年発表。室内楽集かな?
33・Gisburg/Chiappetta:No Stranger Not At All/Imagina:
   不思議と退屈なポップさだ。聴き手に感情の動きを廃させる音列が狙いか?
   決してノイジーでない。メロディもリズムも否定しない。
   だが不思議と、印象に残らない。ミニマルな前衛性を狙ってるような気がする。

   19世紀後半に活躍したブゾーニの作品集。スイスのピアニストVintschgerの演奏だ。
   82年録音で、スイスのJacklin Disco盤。
32・Isabel und Jürg von Vintschger:Ferruccio Busoni - Das Komplette Werk Fuer Zwei Klaviere:☆☆
   曲芸的なフレーズ展開やリズム感は希薄で、むしろ気難しい真面目さの印象だ。
   メカニカルで硬質なサウンドはメロディに色っぽさが無いせいか。
   古典な世界観へ頑強に足場を固め、知識と手癖で曲を作ってるかのよう。
   ただし聴いてると、しだいに酩酊を覚える奇妙な親しみやすさもある。
   突飛な展開が無いため、音像への慣れが既視感を誘発するのかな。
   特に(4)"対位法的幻想曲"は無機質な音列が整然と並び、ロジカルさが全面に出た。

   20世紀のハンガリー人作曲家、ライタ・ラースローによる弦楽四重奏全曲集の第4弾。
   弦楽四重奏第二番と、ピアノ入り五重奏を収録した。2011年ハンガリーのHungaroton盤。
31・Auer Quartet:Lajtha: Quatuors À Cordes Intégrale, Volume 4:☆☆☆★
   弦楽四重奏:第二番が幻想的で美しい。旋律が滑らかに上下し、浮遊する和音感が心地良かった。
   第一楽章は丁寧に紡がれるアンサンブルが隙の無い緻密さを漂わす。
   涼やかで軽い古典風味の第二楽章がスピーディに雰囲気を変えて、
   寂しげな穏やかさが第三楽章の基調で鳴る。第四楽章は透徹な緻密さが戻る。波打つミニマル感も。
      ピアノ協奏曲は1トラックで37分越えのボリューム。協奏曲のように
   ピアノの独奏を弦が雄大に包み込んだ。しだいに絡み合う合奏は荘厳さ漂う揺らぎへ向かう。

   アンナー・ビルスマ(vc)中心の弦楽アンサンブルが94年に録音したブルックナーの室内楽集。 
   弦楽五重奏曲 ヘ長調(WAB112)間奏曲 ニ短調(WAB113)、弦楽四重奏のためのロンド ハ短調、
   弦楽四重奏曲 ハ短調(WAB111)を収録した独ソニー盤。
30・L'Archibudelli:Bruckner: String Quintet In F, Intermezzo In D Minor, Etc.:☆☆☆★
   アルバムを通すと暖かい演奏の印象が強い。細密な楽曲を丁寧に隅々まで響かせ作り上げた快演と思う。
   ゆったりと複雑に包み込む弦楽室内楽を、のびのびと美しく奏でた。
   五重奏 ヘ長調(WAB112)では弦の煌めく響きがドラマティックに響く。重厚で優雅だ。
   楽曲も長尺でキメ細かく構築された楽想と、ふくよかな旋律の絡みが素晴らしい。
   派生する間奏曲 ニ短調(WAB113)では、繊細なタッチでメロディが踊る。柔らかく、ふうわりと。
   一転してロンド ハ短調は楽想のせいか、涼やかな印象だ。情感に溺れすぎずスマートに弾く。
   ハ短調(WAB111)は古めかしくカッチリ。楽想の折り目正しさを丁寧に表した。
   それゆえに第二楽章の切なさが、一際引き立つ。第三楽章は軽やかにバロック的な香りも。
   第四楽章はスピーディに流れた。五重奏ヘ長調に比べコンパクトだが、キュートな一曲。

   20世紀前半に作曲家/指揮者で活動したオーストリア人のツェムリンスキーの室内楽集で、
   弦楽四重奏の第1番(1896年)と第4番(1936年)、"弦楽四重奏のための2つの楽章"(1927年)を収録。
   98年にチェコ共和国のPragaから発売された。
29・Pražák Quartet:Zemlinski - String Quartets 1 & 4:☆☆★
   第一番は楽器間の交錯よりも譜割を併せて一気に突き進む荒々しさが全面に立つ印象。
   明るい響きできっちり空気を鳴らしている。シンプルにして純朴。
   二楽章の弦カルも同様。いくつかの旋律が絡みながら、一気に収斂する
   ダイナミズムが魅力だ。どこか聴き覚えあるメロディへ固まった瞬間がかっこよかった。
   しかもすぐさまメロウに流れる潔い構成だ。
   第四番だと響きや旋律の絡みが複雑に変化した。初期の勢いも耳を惹くが、音楽としては
   こちらの方が奥行の深さが面白い。古典的なダイナミズムで前衛要素は無い。
   ところどころ、同じ譜割でガシガシ鳴るあたり、作曲の好みが鮮やかに滲み出る。
   おどろおどろしく、冷静さを保つ世界観の響きだ。

   アメリカ人ギタリストが02年発売のCD-Rで完全ソロのサイケ・ドローンらしい。
28・Mason Jones:The Crystalline World Of Memory:☆☆☆☆
   これは非常に気持ちよく、面白い盤。静謐かつドラマティックだ。
   8分音符ディレイでミニマルなリフを作り、重厚なうねる味わいにオブリを足す。複数の音色を
   少し歪んだ音色で足し、リバーブも使い分け幻想性を演出した。
   5分前後の曲が8曲、それなりにじっくり聴けて、かつ冗長性も避けた。
   同種の類似コンセプトの他ミュージシャンと比較して、本盤の独自性は
   ストーリー性を持たせてるそぶりを感じるところ。手癖や雰囲気一発に留まらず
   曲ごとに一枚の絵を描いた印象を受けた。即興性は強い。だが編集が美味いんだろうな。

   19世紀前半のハンガリー人作曲家、フンメルの作品2枚組。ベートーベンらと同世代人だ。
   ピアノ三重奏を7曲収録した、89年録音の独MDG盤。
27・Trio Parnassus:Hummel:ピアノ3重奏曲全集:☆☆☆★
   あえて作曲順に並べず、CDとしてのダイナミズムを意識した構成が嬉しい。
   演奏はピアノの華麗さが全面に立ちつつ、弦のふくよかな響きも美しかった。
   トリオ編成と思えぬ、奥行深いミックスも楽曲の優美さを強調に一役かった。
   ピアノvs弦の構成を基調ながら、作曲は細かく練られてる。押し引きや、同じ譜割で疾走と
   対比構成を自在に使い分ける構築美が素晴らしい。
   毒や苦悩、前衛性とは無縁。あふれ出る情熱を、ぐっといったんタズナ引締め整えて
   洗練された美しい楽曲に仕立ててる。
   ただしどうしても一本調子さが否めない。全6曲、キーはEsが4曲、Gが2曲でEが1曲。
   調性が似かよってるせい、だろうか?

   Christine Bard, Jim Pugliese, Michael Evansのper奏者3人がAvanから97年リリース。
   おそらく本盤が最初で最後の録音。
26・EasSide Percussion:Esp:☆☆☆
   基本はオーバーダブ無のライブ録音で、エコー処理を掛け幻想的なムードを強調した。
   打楽器が主体だがビート性は薄く、サイケな即興っぽい路線だ。
   数分単位の短いトラックが並び、アンサンブルのダイナミズムで無く
   演劇的な構成を狙ったか。主人公は敢えて立てず群像劇な趣き。
   厳粛なムードは有るが重苦しく無く、かといってスリルも薄い。
   ライブでは映えるが録音だと、音の連なりに、ストーリー性を見出し没入できるかで本盤の価値は変わる。
   (10)や(12)での連打のありさまから、なんだか凄みを感じて楽しめた。

   58年プレスティッジ盤のピアノ・トリオ。
   サイドメンはWilbur Little(b)とElvin Jones(ds)。
25・Tommy Flanagan:Overseas:☆☆☆☆☆
   J.J.ジョンソンのツアーメンバーと録音のてい、らしい。ウィルバーとは本作のみの絡み。
   エルヴィンとは59年録音"Lonely Town"(1979)や"Eclypso"(1977)ほかでも共演あるが。
   一曲目から瑞々しい旋律が飛び出す軽やかなピアノ・トリオ。
   タッチが柔らかくて溌剌だ。ドラムはブラシながら賑やかに鳴り、ベースはしっかりビートをキープする。
   破綻無く心地よいスインギーっぷりが味わえる。ジャズの色っぽさが優雅に滲みでた。
   とにかくドラムが凄い。型にハマらぬリズム感とフィルの嵐だ。
   曲のほうは(4)や(7)の軽やかなメロディが強烈に耳に残った。
   録音では"The Cats"(1959)が4か月早いが、出たのは本作が先。
   ボートラ3曲はLP収録曲の没な初期テイク。
   ピアノのフレーズにかぶさる喋りはトミーだろうか。ずっと小さくマイクにかぶってる。

   英Ain't All Thatが12年に発表したコンピで、11年頃のクラブ系ソウル集のようだ。
24・V.A.:Jump Start Music 3:☆☆
   レーベルの拡販企画で無く、DJ選曲っぽい位置づけか。日本を含む世界各国から選ばれた
   基本はクラブ対応のソウル。したがってテンポ感がほぼ同じで淡々と感じてしまい、部屋で聴くには少々辛い。
   しかし選曲は練られておりミックスCDを聴いてるかのよう。ジャズやファンク、ラテンまでを視野にジャンルを
   左右に寄り道しながら、通底するムードは変わらない。軽快にアルバム一枚が構成された。おしゃれなBGMに良いかも。

2015年1月

2015/1/25   最近買ったCDをまとめて。

   GbVがらみ。Boston Spaceshipのメンバーが(ロバートを除いた二人)結成、昨年秋に発売の1st。
23・Eyelids:854:☆☆★
   リズムの躍動感が薄いパワー・ポップ風。予想より甘酸っぱい旋律が並び予想外だった。
   ライブ映えとは、ちょっと違う方向性だ。もしこれが二人のやりたい方向性ならば、
   たしかにロバート・ポラードと合わなかったろう。
   これはこれで悪くは無いし、むしろギャラクシー500あたりが好きな人に
   あんがい刺さるかもしれない。綺麗にまとまってる。

   アメリカのSPコレクターが1909〜1960年代のアフリカ音楽を集めた良質なコンピ。
   4枚組で丁寧な装丁と解説本をつけて、11年に"Dust to Digital"から発売の本盤、ようやく入手した。
22・V.A.:Opika Pende:

    独の前衛音楽祭、ドナウエッシンゲン音楽祭の一環とし、05年のライブ音源。
21・大友良英 / Axel Dörner / Sachiko M / Martin Brandlmayr:Donaueschinger Musiktage 2005 Swr2 Nowjazz: Allurements Of The Ellipsoid:☆☆☆★
   たぶん全て即興、静謐なノイズを構築した。ドナーのトランペットもブレス・ノイズを多用し
   全体的にメロディ感は希薄だ。完全空白も含めた抜けのいい音像だが、気が付くと意外に濃密な音が交錯してる。
   緊張感が演奏中にあったとしても、本盤から伝わるのは伸びやかな空気。無秩序を美学に変える。
   耳を大らかに開き、ゆっくりと音を吸い込みたい。ドラムがあまり派手に手を出さないため、
   電気仕掛けのアンサンブルに最初は聴こえる。
   Sachiko Mと大友のターンテーブル以外は
   楽器を使った演奏なのに。大友/Sachiko Mと中村としまるの"Good Morning,Good Good night"や
   I.S.O.に連なるコンセプトとも聴けるが、本盤はもっと肉感さと形而上性を感じた。
   知性を腕力でねじ伏せ、空白や非メロディを音楽化するような。
   個人的には、もう少しユーモアや余裕、無邪気さがにじみ出ると嬉しい。これらの違いを明確に
   文章定義は出来ない。ほとんど感覚、へたすりゃ聴いてる気分で印象変わるが。
   しかし本盤を何度か聴いてるとき、常に硬質な真面目さを感じ続けてはいた。

2015/1/1  年末に買ったCDをまとめて。

   明田川荘之の新譜は13年10月に函館でのライブ音源。当地のサックス奏者と共演2曲あり。
   オカリーナCD"風の人"収録が一曲と、オリジナルの代表曲"African Dream"の他には
   スタンダードが2曲と、意外に珍しい構成かもしれない。
20・明田川荘之:Live in 函館「あうん堂ホール」:☆☆☆☆
   ツアー先での音楽を見事に封じ込めたアルバム。観客によるフリーのイメージをどっしり受け止めつつ
   自らの音楽性を全く崩さない。明田川はフリーに行かずロマンティックな演奏を弾きつつも
   フリーなサックスと違和感なく調和する。その間口の広さが本盤の魅力だ。
   たっぷりとセンチメンタルにピアノ・ソロを聴かせる(3)も圧巻。
  
  河端一とJ. F. Pauvrosのエレキギター・デュオ。99年録音、01年発売。
19・Kawabata Pauvros:Extreme-Onction☆☆☆★
   重厚なドローン大会。ノービートで重たく覆いかぶさる様な重厚さが河端で、爪弾く感じの
   ディレイがPauvrosか。メロディ要素は控え残響たっぷりの音色で攻める形と、
   わずかに旋律感を残した形の二つが絡み合う。
   スペイシーで混沌とした河端流の世界を、Pauvrosがさらに拡大した印象だ。

  ジョン・ゾーンの旧譜をまとめて入手。
  13年の月刊ゾーンより11月発売、現代音楽作品で 表1にダリ、ジャケ中にゴヤをデザインした超絶技巧の室内楽集。
18・John Zorn:On the Torment of Saints, the Casting of Spells and the Evocation of Spirits: ☆☆☆★
   ジョン・ゾーンの現代室内楽に苦手意識持ってる人の、認識を変えるのに良い盤ではなかろうか。
   ゾーン風のゴー/ストップやコラージュ的な急速な場面展開はあるが、切なげなムードが匂い立つ全容は、意外と聴きやすい。
   (1)はシェイクスピアの最終作をテーマしたfl/cl/perの変則編成。
   フリージャズ的なアプローチを打楽器が場面によっては、木管が舞うようにメロディを絡ませる。
   浮遊した旋律をドラムが後押しと係留、相反する風景を場面ごとに演出した。
   続く(2)はvln/va/vcの弦楽三重奏。小節数をシェーンベルクとウェーベルンに合わせた。
   ライナーによると第一楽章が193小節、第二楽章が65小節。構造的にウェーベルン弦楽三重奏と小節数を合致させ、
   最終楽章は35小節。全楽章合計の293小節数をシェーンベルク作と併せたとある。
   さらに音楽のテーマは"魔女のハロウィン"。ロマンティックなメロディとハーモニクスと思われる超絶技巧が交錯する。
   最初はとっつき悪いが、繰り返し聴いてたらジワッと艶めかしいスリルが伝わってきた。
   第一楽章終盤で全休符のやたら長い空白有り。
   (3)は特異な中世芸術の偉人(ボッシュ/ブリューゲル/ミケランジェロ/フラ・アンジェリコ等)をテーマに小編成なピアノ協奏曲。
   副題が"ピアノと9つの楽器による、13の御守的アンティフォン"。
   アンティフォンとは左右交互に詠唱するキリスト教聖歌の隊形の1つで、日本語訳は無いのかな?
   ピアノが重たく歯切れよく叩く鍵盤を、文字通り左右から楽器が包む。
   ヘッドフォンの方が効果が伝わるが、配置まで配慮した作曲術の妙味を味わえる。
   楽想は断片的な旋律を鋭くまわしてく形。抽象的に聴こえるが、スピードに振り落とされず
   メロディをつかむと、練られた楽想に面白さを感じてきた。9分弱があっという間。

  13年12月発売。女声五重唱の作品。08年に書かれ、録音は10年に終わっていた。
17・John Zorn:Shir Hashirim☆☆☆★
   30分強の短いアルバムだが、しっとりと味わい深い響きに浸れる。
   "Mysterium"(2005)収録の"Frammenti Del Sappho"に続くクラシカルなアカペラ曲は、
   中世ムード漂う、少々トリッキーだが荘厳で神聖なムード。ゾーンの衒学趣味やオカルト傾倒が全面に出た。
   和音の涼やかで厳粛な響きと、スピーディでくっきりなメロディは、埋もれた中世教会音楽かのよう。
   もっともタイトルの邦訳は"ソロモンの雅歌"でヘブライ聖書での聖典の一つ。茶化さず、真摯にユダヤ文化と向き合った。
   織り込みの凝ったジャケットに使われた絵画は、仏の彫刻家でもあるロダンの作品。

  10年6月発売、ロブ・バーガー中心でゾーン周辺ミュージシャンによるセッション。
  本盤へはマーク・リボーらが参加した。
16・John Zorn:The Goddess:Music for the Ancient of Days:☆☆☆☆
   つい聴き流してしまうけど、細部の構築性は脅威的な完成度。凄まじい。
   ロマンティックで流麗なラウンジ風のセッションに聴こえても、隙などどこにもない。
   アレンジは隅々まで譜面で固め、各人がソロを載せる構成。ミニマルに旋律の連続がコンセプトか。
   凄腕ぞろいでアンサンブルは欠片も破綻無く進む。素晴らしい演奏技術と作曲。
   明瞭なリフが執拗に繰り返され、各人のソロは滑らかに展開した。
   帯の記述から見て、ゾーンがファイルカード的な指揮を取ってるのかも。
   ただし音楽を聴く限り、継ぎ目やカットアップの要素は薄い。
   "In Search of the Miraculous"(2009)の続編で、魔術と儀式による神話時代の、女性讃歌がテーマ。 
   近藤聡乃のジャケット写真も美しい。

  14年2月発売、現代音楽シリーズ。弦楽四重奏と女声三重唱を一曲づつ収録。
15・John Zorn:The Alchemist☆☆☆★
   双方とも荘厳さとオカルティックな複雑さを、幻想的に表現した。厳粛ながら混沌がそこかしこから滲む。
   (1)は弦楽四重奏。超絶技巧が頻出するが、どこか古めかしい響きが全体を包む。
   疾走するボウイングと退廃ムードが並列した。英16世紀の錬金術師ジョン・ディーに
  amegin 着想受け作曲したという。帯の記載に錬金術の蒸留/焼成/結晶化/昇華/精製/循環を踏まえ
   数秘学的な祈祷と複雑な対位法フーガを備えたあるから、かなり数値的に複雑な構造を持っているのかも。
   スピーディな旋律がめまぐるしく交錯するゾーン流のため、細部は全く分からないが。
   (2)は英ニューグレンジ御岳への古代ケルト聖典に音楽を付けた女性三重唱。
   トリッキーな展開や構成ながら和音の響きは荘厳で、他のゾーンの女性歌唱と同様なスタイル。

  Bill Frisell, Carol Emanuel and Kenny Wollesenのトリオで2nd、13年4月の発売。
  The Gnostic Trioとユニット名もあるが、なぜかジョン・ゾーンのソロ名義だ。
14・John Zorn:The Mysteries☆☆☆
   丁寧な譜面を基本としつつ、伸びやかなフリゼールのギターは芳醇なアドリブの
   フレーズがふんだんにある。かといってギター・インストでなく、トリオ演奏なのが特徴。
   穏やかで広がりある、豊かなラウンジ・ミュージックだ。
   サイケな箇所ではほんのりとゾーン流のオカルト要素も感じられる。
   前衛要素をほぼ消して、涼しげなサウンドを追求した美しいアルバム。

  同ユニットが14年8月に発表の4thアルバム。
13・John Zorn:The Testament of Solomon☆☆☆☆
   緻密な芸術だ。本バンドのアルバム中、とりわけグッとくる美しさ。
   BGMで聴き流しそうな流麗なアンサンブルは強烈なテクニックのたまもの。
   書き譜とアドリブが滑らかにつながり、破綻無いタイトで寛いだ響く。
   ハープとギターに、ビブラフォンが穏やかで高潔な雰囲気を作った。
   マサダ風のメロディを短い曲でどんどん披露していく。Book of Angelsにしないコンセプトが
   どこかにあるんだろう。この三人の長尺インプロも聴いて見たい。
   本盤の美しさは、ゾーンの作曲とアレンジにそうとう支配されてそうだから。

  12年1月の発売。オカルティックなコンセプトに基づき作曲を、ゾーンゆかりの
  ミュージシャンで演奏した盤のようだ。39分弱1本勝負。
12・John Zorn:Mount Analogue☆☆☆★
   最新鋭なゾーン流組曲の傑作。38分強の一本勝負で、ミニマルな揺らぎが全編を覆う。夢幻的なサウンドが気持ちいい。
   Brian Marsella(p)とKenny Wollesen(vib,etc.), Cyro Baptista(per)の動きが軸足で、
   Shanir Ezra Blumenkranz(b,etc)とTim Keiper(ds,etc)が彩り役の印象だ。
   グルジエフ、ダリ、ルネ・ドーマルへの思いが足場、ピーター・ブルック監督の映画"注目すべき人々との出会い"(1979)を下敷きに
   ジョン・ゾーンが作曲した。まず61の断片を三週間で作曲。ファイル・カードは使わず
   魔術的な直感で一曲にまとめた。一発録音で無く、睡眠時間2時間で3日間スタジオに籠り
   紡ぎあげたのが本作。たぶん頭から順に録音してる。
   エキゾティックなユダヤ風メロディが幻想的に絡み合う、聴き安さと抽象性を並立させた。
   各パートは無秩序のようでいて、不思議にひとつながりの進行性あり。

 ナイジェリア盤がどっさりあった中古の棚から適当に5枚抜いてみた。CD盤もジャケも 荒っぽくて汚いつくりだ。
 バラエティ富ませ買ったつもりが、結局同じバンドのCDを何枚か買っていた。

   ナイジェリア出身1932年生まれ、2008年没のミュージシャンによるハイライフ。
   ディスコグラフィから見て72年LPを05年CD化か。各面、1曲づつの大雑把なCD化。
11・Orlando Owoh:Ire Loni:☆☆
   左右でギターのタイミング違うのは、わざとかポリリズムか?
   チャカポコの軽快なリズムをベースに各面、メドレー式に曲が進む。
   どこかゆるいアンサンブルが特徴かな。B面のほうが溌剌な印象を受けた。

   80年代に発売と思しきLPのCD化。やはり各面、1曲づつのトラックだ。
10・Dr. Orlando Owoh:Kennery De Ijo ya:☆★
   ゆるいファンクネスが詰まった。LP内で明確な曲の切れ目は無く、メドレー的に曲が進んでいく。
   B面でのクラベスっぽい、ちゃちなリズム・ボックスとパーカッションの絡みが粘っこくて良かった。
   決して鋭く突き刺さらないが、したたかにグルーヴが続く。
   穏やかなギター・リフと、ハーモニーの上でドスの効いた声を載せた。

   同じく80年代に活躍かな。委細不明。ジャケット表記は7曲で、なぜか8曲トラックある。
9・Douglas Olariche:Ederi Nwa Olariche:☆☆
   びりびりと潰れるラフな録音。演奏も縦の線が少々ずれるけど。シンプルだが柔らかいベースと歌の
   組合せが産む揺らぎは気持ちいいのが不思議だ。強靭なノリがある。
   数本あるギターが、どれも微妙にピッチ違ってる気が・・・。
   曲調もテンポもほぼ一緒、アルバムとしてメリハリは少ない。もともとダンス用かな?

   70~90年代に活動したDr Sir Warrior率いるバンドのアルバム。
   イグボ文化とハイライフを合体させた、ナイジェリアで有名グループらしい。1975年の作。
8・Oriental Brothers International Band:Nwa Ada Di Nma:☆☆
   シンプルなギター中心のアンサンブルでしぶとくグルーヴする。違いを上手く聞き分けや説明が
   できないけれど、本盤は一つのテーマを素材にしつつも途中でテンポやムードが変わる
   変幻っぷりも楽しめる、と思う。

   こちらは同じバンドの1977年アルバム。
7・Oriental Bros:Ugwu Madu Na Nwanneya:☆☆★
   B面の方がいくぶん、躍動感が強い。演奏が始まるにつれ締まるが、なんだかグダグダな
   アンサンブルがしだいにまとまっていく辺り、どうにも生々しい。
   基本は単一テンポ。アレンジもほとんど変わらず、腰を据えてグルーヴさせていく。
   調子はずれなエレキギターのピッチが気になるし、脇の甘い演奏と思うが
   どこかしたたかで、ライブ感溢れる演奏だ。

   トルコの弦楽器中心のマルチ奏者が、94年発表の7thソロ。
6・Omar Faruk Tekbilek:Whirling:☆★
   盟友らしい、アメリカ人プロデューサー、ブライアン・キーンのプロデュース。ブライアンはシンセやエレキギター/ベースも弾いている。
   収録曲はスーフィのトラッドが(1)。あとはオリジナルを持ち寄った。オマールが3曲、他は参加ミュージシャンら。
   かなり西洋化されたイスラム音楽の印象を受けた。ネイの音色こそ涼やかだが、響くシンセが
   少々邪魔くさい。特に(9)はニュー・エイジかヒーリング的な穏やかさだ。
   若干インプロ要素があり、かつシンセを密やかに白玉で鳴らした(3)みたいに極端なアレンジなら楽しめるが。
   ウード奏者の作曲(4)は、ウードの即興からダルブッカとネイのアンサンブルに流れる構成が美しい。
   オマール自身も(7)のように生き生きしたアラブ音楽の演奏や作曲もできる。
   無理にアメリカ人の好みに寄らず、自文化尊重路線の方が好みだな。

   モロッコのvln奏者/歌手によるソロ、09年のアルバム。
   有名な人だそうで、伝統音楽とオリジナル双方を収録してる。
5・Mourad El Bidaoui:Bi Sbabek N'ti:☆☆☆★
   3拍子を基調にリズム楽器とユニゾンで、きめの多いアレンジをビシバシ決める演奏が溌剌としてる。
   比較対象が少ないので上手く言えないが、歌声も生き生き聴こえた。
   ブレイク多用しながらバイオリンがビートと疾走するさまが、単純にカッコいい。
   これはもう少し、聴きこんでみよう。ストリングスがわずかに和音的なムードを出すが、
   音構造はバイオリンと笛にリズム楽器。シンプルな音色で厚みを出し、柔軟なテンポの揺らぎすらも
   ピタリ揃ったアンサンブルが産み出しドライブ感を強調する。

   鍵盤トリオでジャムバンド界隈でも語られるM,M&Wの02年,10thアルバム。
   曲ごとにあれこれのゲストを招いた。
4・Medeski, Martin & Wood:Uninvisible:☆☆★
   ダブにスクラッチと生演奏で不可能な要素を、オルガン・ジャズで表現した。
   ホーン隊も加わり、豪華なアレンジ。アルバム全体のムードは、奇妙に沈鬱なファンクながら。
   つまりDJ要素が強い印象を受けた。実際、複数のタンテ奏者が参加してる。ソロやアンサンブルの妙味より
   グルーヴとクラブ対応に軸足置いた作品か。MM&Wの作品なはずなのに、
   リミックスを聴いてる気分。まあ、気持ちいいけど。
   ただし02年の時点だと、この方向性は間違いなく先鋭だった。ある意味、時代で古びた作品だ。
   ひしゃげた音色に不穏な空気。カチカチの音色なドラムが刻み、ベースはミニマルに回る。

   ハイラマズ結成前にショーン・オヘイガン参加バンドが85年発表の3rd。
3・Microdisney:The Clock Comes Down The Stairs:☆☆★
   中期ビーチボーイズを連想するハーモニー感が随所で聴ける。ドラムのパンチ効いた音色もかっこいい。
   歌の音域を低めに設定して重たく感じられるが、穏やかでサイケなポップスが詰まった。
   複雑な和音の響きが醸し出すムードや、さりげないメロディアスなベースが独特で良い。

   英プロデューサーでTommorow(YesのSteve Howeが在籍)を担当、サイケ・ポップらしい。
   本盤は英RPMが01年リイシューの2枚組で、彼のキャリア総括かな?64年から72年の音源を収録。
2・Mark Wirtz:The Fantastic Story of Mark Wirtz and the Teenage Opera:☆☆☆★
   2-(11)を筆頭にDisc2が、今でも楽しめる。「ティーン向けオペラ」に拘った男の一代物語、風のコンピ。
   Disc1はソフトだがローティーン向けに聴こえてならない。つまり整ってる一方で
   スリルや破綻があまりにも少なく、時代を経た今聴くと古臭さが先に立つ。
   子供だまし、と言っても良いが。瑞々しさを超えた普遍なポップさが少なく物足りない。
   ティーンに背伸びを促すより、慈愛に満ち見守る感じ。NHKのみんなの歌みたいに。
   ところどころ、気になる瞬間は有るのだが。
   あと、ドラムが根本的に杭打ちでリズムに乗れないのもいまいちな理由の一つ。
   しかしDisc2からサイケ色が濃くなり、どんどん刺激が増してくる。後半のとっちらかりが見事だ。
   時代のあだ花として聴くのに、面白いコンピだと思う。

   日本編集の女性ボーカル版ソフト・ロックのコンピ。Honey Ltd.を8曲収録した。
   70年前後の楽曲を23曲詰めたハーフ・オフィシャル盤で、96年発表。
1・V.A.:A Taste of Girls:☆☆★
   B級の毒のない甘いポップスは数度聴いてるうち、じわじわ良さが来る。
   ほんのり野暮ったいところも味か。女性ボーカルを全面に出した曲集で、BGMだと心地よい。
   ハーモニーが洗練されてるなあ。本盤目玉のHoney Ltd.はほんのりとサイケな風味も。

2014年12月

2014/12/27   最近買ったCDをまとめて。

   元GbVのロバート・ポラードと、トバイアス兄弟によるユニットの新作。1年ぶりのリリースで12thアルバム。
293・Circus Devils:Escape:☆☆★
   インストが4曲。アルバムとしてまとまってるが、ロバートとトッドの役割分担が
   グッと極端になった気がする。サイケなメモっぽいメロがトッドの作品かな。
   その合間にロバート節の楽曲が挿入される感じ。ロバートがどんどん素材感を増す。

   ソロ名義だと1年ぶり、コラボのシングルからは半年ぶりのシングルが出た。
292・岡村靖幸:彼氏になって優しくなって:☆☆☆
   作品を重ねるごとに、声を上手く復活させてる感じ。楽曲アプローチは別にして。
   (1)は三連の譜割が印象深いファンク。ごちゃっと混ざるミックスで太さを強調した。
   声も張りがありアグレッシブだ。かなり近いマイキングで歌が生々しい。
   一通り歌った後、第二部の盛り上がりが岡村ちゃんの魅力だが、この楽曲ではぎりぎりまで歌が前に出てくる。
   (2)は静かなフォーク。数本のアコギを重ね、エコー感が薄めの切々さ。
   やがてスティックをスネアのリムに叩き付けるドラムとベースが加わった。
   過去はこの手の曲でも、どこか気取りを入れてたが。これは四畳半フォーク色がどっぷり。

   以降、Studio Weeの諸作をまとめて。
   今年5月の発表。立花秀輝が率いるユニットの、本レーベルから6年ぶりの2作目になる。
291・AAS:Song 4 Beasts:☆☆☆★
   ガッツリ男気溢れるジャズ。骨太なメロディのハードバップだが、フリーな要素が振り撒かれ
   単なるソロ回しで終わらぬスリルがある。着実なベースがアンサンブルの肝。
   ともすれば荒ぶる他の三人を、ベースがきっちり締めた。さらにピアノはロマンティックさを滲ませ、
   ドラムは燃えたつ勢いをはじけさす。全てをリーダーのサックスが
   剛腕で振り回すイメージ。以前より本盤のほうがフリーキーさとメロディアスさの
   調和度合いに磨きがかかったと思う。むやみに長尺にせず各曲7分前後の
   9曲入り。バラエティに富んだジャズが詰まった。

   本レーベル特有のオマケCD-Rで、これはライブ・テイク。
290・AAS:Kazabana:☆☆☆★
   がっつり丁寧なソロ回しだ。長尺でのびのびとアドリブを紡いでいく。
   骨太なフレージングはフリーな行き方をしても、頼もしく聴ける。
   特にドラム・ソロで実感。着実なビートを刻んでる。果てしない連打のフレージングの確かさよ。
   ボートラだが決して聴き逃すことなき、かっこいい演奏だ。

   2012年のリリース。林栄一のユニットで、アケタの店で同年5月21日のライブ音源をCD化した。
289・Gatos Meeting:Gatos Meeting:☆☆☆☆
   林の過去レパートリーも含め、全て自作曲を演奏。林流のオーケストラ、かもしれない。
   ソロ回しでなくリフを踏まえつつ全員即興の面持だ。
   バリサクががっちりアンサンブルを支え、2ドラムで煽る。だが渋さと異なり
   あくまでもコンボ編成の香りが残る。茶色くしたたかでヒリヒリするグルーヴが心地良い。
   スピーディでスリルあるアレンジが鈍く輝いた。ソロ回しが主軸じゃなさそうだが、
   あくまでもジャズ。複雑なリズムの上でフレーズのアクセントは奔放に漂う。
   "ナーダム"もうねりあるアレンジが波打つノリを強調して良い。ノービートの管バトルから
   じわじわとテーマへ雪崩れ、ドラム・デュオへ。構成が素敵だ。フェイドアウトが惜しい。
   ベストは(5)。スリルあるフリーと整然たる演奏技術による斬り合いが、抜群の味わいだ。

   ガトス・ミーティングのボーナスCD-Rはアルバム未収録の音源。
288・Gatos Meeting:North East (GATOS Version):

   早川岳晴の剛腕リーダーバンドの通算5作目、2012年のアルバム。
287・HAYAKAWA:MUJIGEN (non-dimension):☆☆☆☆
   剛腕一辺倒でなく、生ベースの骨太さも聴ける豪華な一枚。くっきり左右にメンバーを
   配置した極端なポジショニングのミックスは、細かくプレイの妙味を聴き分けるにも最適。
   もちろん豪快なグルーヴに身をゆだねるも可能だ。
   サイケな要素とうねりが混在とし、ベースががっつりと縛り付ける。

   ボーナスCD-RはCDに入っていない音源。"Hone"(2004)収録曲の再演、か。
286・Hayakawa:900 Ton:

   同レーベル"愛しあうことだけはやめられない"に続く不破/つのだ健とのトリオ編成、
   本作は数曲で加藤崇之まで参加した。ベテランに囲まれた山口のジャズが聴ける11年作。
285・山口コーイチ・ トリオ:Circuit (回路):☆☆☆★
   意外とつかみづらい。がっつりボリュームあげて聴きたい。
   熱さと端正さが曲によって変わる、ゴツッとしたジャズ。ピアノの涼やかな響きが双方の
   アプローチをごく自然に弾き分ける。つの犬の猛烈なドラムと不破の骨太なグルーヴは
   どこまで行っても、素晴らしく気持ちいい。
   雄大なスケール感とスピーディさが味。加藤の加わったセッションでは
   軋むギターのスピードが、ぐいぐいと前へ前へ音楽を振り回し爽快だ。

   ボーナスCD-Rは"Vocalise"のライブテイク。"愛しあうことだけはやめられない"の
   ボートラも同じ曲だったが、これは別の日の音源らしい。
284・山口コーイチ・ トリオ:Vocalise (Alternate Live Version):☆☆☆★
   グイグイ揺れるベースとピアノの絡みが、素晴らしくかっこいい。ドラムはオフ気味の
   録音だが、手数多くはたきかけ、グルーヴが加速していく。
   メロディでなく、くきくきと上下するフレーズ感が全編を覆った。抽象の美学だ。

   ベテラン勢に囲まれた立花秀輝のスタンダード集で2012年の発売。
   サイドメンが強力で板橋文夫/池田芳夫/小山彰太が努めた。11年5/10に千葉Candyでのライブ。
283・立花秀輝Quartet:Unlimited Standard:☆☆☆★
   スタンダードをがっつり叩き付けたフリー・ジャズ。ベテラン勢に囲まれた立花は
   のびのびとサックスを吹き散らす。板橋と小山の奔放さも、ベースが懐深くまとめてる。
   スタンダードゆえの穏やかさやロマンティシズムは色が薄く、猛然と咆哮する
   足掛かりとし楽曲が存在するかのよう。ただしハードバップ的な斬り合いや疾走感は薄い。
   瞬間的な炸裂のほうか。全体的に重心が軽やかだ。
   (2)でのフリーなピアノ・ソロからスインギーにドラムソロへ向かうシーンが面白かった。
   美しいピアノから尖ったサックスにアドリブがつながる(6)も良い。
   どの曲もアドリブから唐突にテーマへ戻るスリルが聴きもの。

   ボーナスCD-Rはライブ・テイクを収録した。同日の音源かな。
282・立花秀輝カルテット:Autumn Breeze:

2014/12/7   最近買ったCDをまとめて。

   没後初のベスト盤でレーベル横断の企画が今年発売された。初回限定で純カラ盤がボートラ。
281・大滝詠一:Best Always:☆☆☆☆★
   天才の所業。概覧できるベスト盤で、なおかつマニアックを両立させた。
   あと、マスタリングのせいか特に笛吹時代の音質感がクリアに抜けて感じた。
   きれいに整えられ、ざらついた密室感が磨かれた印象。聴き間違いかな。
   聴いてて「あれも足りない、これも足りない」と思ってしまう。濃密でおなか一杯なボリュームなのに。
   今回、カラオケの緻密なメロディアスさに、ぶっ飛んだ。歌が無いのに耳が離せない。
   歌に埋もれてた新鮮なオブリやパターンが一杯。大滝の強靭なアレンジ力に吸い込まれた。
   咀嚼し自分の味に仕上げて、なおかつべらぼうに美味くて緻密。いやはや、素晴らしい。
   二十年間を一気にまとめて聴くと、大滝の骨太さが伝わる。
   大滝の意志がどこまで関与されたか不明なため、★半分残すけど。詰まった音楽は、どれも何もかも素晴らしい。

   アメリカのハードコア・バンドがメルツバウと共演の新譜。日本盤のみライブ音源のボートラが7曲追加されている。
280・Full Of Hell & Merzbow:Full of Hell & Merzbow:☆☆
   スラッシュメタルとの親和性は良くわかる。メルツバウ色が比較的出た楽曲はともかく、
   メタルへの知識がぼくは足りないため、今一つ単調に聴こえてしまう。

   AMT関連を何枚か。これは06年の北米ツアーCD盤。河端/津山/東/小泉がメンバー。
279・Acid Mothers Temple & The Melting Paraiso U.F.O.:Power House of Holy:☆☆☆★
   ライブで定番2曲を収めた。(1)が04年6月6日のLA公演、(2)が同年10月30日の英公演より。
   分離は良いがラフな録音だけど、じわじわ来る熱気は伝わる。
   (1)が15分、(2)が25分あまり。いわば名刺代わりのツアーCDか。
   長尺シングルみたいなもの。最初のAMT体験に薦めにくい盤だが、ある意味この
   無造作さも含めて典型的なAMTの盤だ。
   なお演奏そのものはどちらも爽快。延々とリフが繰り返され、おもむろにギターソロが長尺で炸裂する。

   河端/津山/東/志村/Kitagawa Haoの顔ぶれで06年夏のスタジオ録音盤。
278・Acid Mothers Temple & The Melting Paraiso U.F.O.:Myth Of The Love Electrique:☆☆☆★
   轟音ギター・ソロの剛腕AMTに囲まれ、トラッド・ドローン風の(2)を配置することで
   バラエティに富んだ良盤となった。ボーカルはアクセント程度、本質はインプロにある。
   サイケにどっぷり。ただし力任せで無く緩急の柔軟性がスタジオ版ゆえか。
   混沌さとAMTらしい勢いが詰まった良盤。さらに"Pink Lady Lemonade"の再演も含み
   親しみやすさもあり。意外に初心者へ薦めやすい盤かも。
   ちなみに本盤の"Pink~"はショート・ディレイのギターが波打ち畳み掛けるさまが心地よい。
   各曲20分前後で全4曲、ちょうどLP二枚組の構成だ。じっくりと曲世界に浸れた。

   河端/津山/東/志村による09年のスタジオ盤で、米Importantより発売された。
277・Acid Mothers Temple & The Melting Paraiso U.F.O.:Dark Side of the Black Moon: What Planet Are We On?☆☆☆☆
   轟音とトラッド的なアプローチ、双方をコンパクトに詰め込んだ名刺みたいな一枚。
   曲も10分越えが二曲に10分以下が3曲。盛り沢山な一方で、長尺ドップリ派には物足りないかも。
   重厚なテンポでフィードバック・ギターが吼え、津山の歌が幻想的に響く幻惑サイケな(1)から
   唐突にテンション高い(2)へ繋がった。アレンジやムードは類似だが風景は異なるもの。
   (3)はアコースティックとエレキが絡む構成だ。密やかに奥深く響く。トラッド風味が全面に出た。
   (4)は一転してアップテンポな剛腕疾走だ。左右でシンセとギターが蠢くさまが刺激的。
   アルバム最後の(5)はミドル・テンポの轟音系。スペイシーな世界観でギターのストロークがアコギとエレキで
   厚みだしながら響き、奔放なギターソロが舞った。本盤中、最大の聴きもの。
   スタジオ作ならではの分離の良さと多重録音の複雑さが整然と立ち上った。

   黒人女性ジャズVln奏者が今年リリースの9thリーダー作。
276・Regina Carter:Southern Comfort:☆★
   黒人バイオリニストの南部ルーツ探究がテーマな盤。するとブルーズか、と短絡するが
   彼女が選んだのは白人カントリー。いわゆるアパラチアンから始まる西部開拓を基礎に持つサウンドだ。
   少々意外だが、これもまた一つの選択か。トラッドを軸に、比較的最近のカバー曲はハンク・ウィリアムズにグラム・パーソンズ。
   白人ケイジャン系Vln奏者のDennis McGeeも一曲。およそ白人文化の象徴だが、音だけだと
   違和感なく聴ける。曾祖父まで黒人の彼女だが、ジャケットの写真見る限り富裕階層の家族みたい。
   嫌味なく滑らかにアラバマ州で彼女の先祖が聴いたであろう、とするカントリー音楽を奏でた。
   丁寧な演奏は即興要素を控え、ジャズのスイング感は希薄だ。のどかで滑らかにバイオリンが響いた。
   (10)からいきなりエレキギターが鳴るロックな展開に。これまたサザン・ロック風味と
   ゴスペルを足した大味な白人文化へのオマージュ。
   最後に隠しトラックで、黒人ゴスペルなアカペラが一節。これがレジーナ流のルーツ探しか。

   オルガン・ジャズで有名な人らしい。プレスティッジから73年発売の盤。
275・Charles Earland:Leaving This Planet:☆☆☆★
   ハーヴィのドラミングとオルガンが醸し出すグルーヴがまず、素晴らしく聴きもの。
   しかしコンセプト・アルバムでフュージョン的なアプローチと、前時代のハード・バップな管のソロが
   なんともアンバランスな落ち着きの悪さを出した。
   中途半端さがプンプン漂う奇妙な盤に、今となっては聴こえる。演奏はかっこいい。これは強調する。

   ハーモニカ・ジャズの第一人者トゥーツ・シールマンスが本名名義で発表のリバーサイドより58年の盤。
   サイドメンがPepper Adams/Kenny Drew/Wilbur Ware/Art Taylor。
274・Jean Thielemans:Man Bites Harmonica:☆☆★
   妙に左右バランスを強調したミックスだ。バリサクとハーモニカ、ある意味対極な
   ボリュームの楽器だが、ダイナミズムはさほど違和感ない。軽快なハーモニーを
   重厚なバリサクが強調した。トゥーツの自作曲は2曲、あとはモダンからスタンダードまで
   バラエティに富んでいる。あまりややこしいこと考えず、ハッピーな仕上がり。
   なお3曲でトゥーツはギターも弾いている。ハーモニカと同じように軽快なソロ回しだ。

2014年11月

2014/11/24   最近買ったCDをまとめて。

   まだ持ってなかった。13年発表。SFへの愛情を込めた、吉田隆一率いるBlacksheepの3rdアルバム。
273・Blacksheep:∞-メビウス-:☆☆☆☆
   親しみやすくてマニアック、ロマンティックで深いアルバムに仕上がった。未知との遭遇やルパンなどを
   生演奏でサンプリング変奏した(2)を筆頭にきっかけを作り易い本盤は、じわじわと魅力を末永くにじませる。
   メロディはどの曲も、吉田流の雄大で滑らかなもの。息音を効果的に挿入した(3)の耳をひく実験性に
   本盤の複雑さへ気づき、ソロ回しとは違う平行即興やポリリズミックな展開へ好奇心をくすぐられる。
   いったんアルバムを聴いたあと、吉田のライナーを読むと改めて違う視点で本盤と向き合いたくなり、
   SFを読みたくなる。トリオ編成のシンプルな構造は、和音の綺麗なアンサンブルの妙味から
   スピーディでスリリングなやりとりまで多様な魅力が詰まってる。
   吉田の趣味が全開した盤だが、バンドとしてもきっちり成立。いやはや奥が深い。
   ドライブするファンキーさからフリーな構造まで、贅沢にアレンジを押し詰めた。
   本盤ではバリサクの豪快さから骨太さまでいくつも吹き分けている。トロンボーンは柔らかく
   まっすぐに鳴らしてる。ピアノは繊細に力強く惹かれてる。やはり多様だ。

   吉見征樹/鬼怒無月/佐藤芳明/久野隆昭によるインディ・ロック・・・かな?14年の新譜、1st。
272・Nada:走る人:☆☆☆☆
   録音・ミックスも吉見が努めた本盤は構築性高いインストで、即興要素あってもインプロではない。
   7曲中3曲を鬼怒が提供し、吉見のバンドだがサウンドは鬼怒が大きい役割を果たした。
   エスニックな風味をパーカッション二人がだし、アコーディオンの柔らかなうえでエレキギターが
   駆け抜ける。サル・ガヴォとの共通性もあり。スリリングなアンサンブルだが、凄腕同士のどこか鷹揚な余裕がアルバムを包む。

   滋賀の女性二人組ポップスで、3rdにして最後のアルバム、04年発売。
271・月下美人:ナチュラルポワゾン:☆☆☆☆★
   傑作。新機軸よりも、音楽性を煮詰め昇華させた方向性だ。本盤が最後で、本当に惜しい。
   おっとりと、切なく。穏やかだが芯の有るメロディが詰まった。歌うベースも、涼やかなハーモニーもばっちり。
   ドラマティックな風景をシンプルなアレンジで構築する手腕が素晴らしい。
   リフレインをしたたかに繰り返し、酩酊する美しさを演出した。
   うねるビブラートの歌声と、平板で半音の旋律連打は、強く耳に残って癖になる。
   作曲は山本だが、一曲だけ加藤隆生(Robopitcher)の作品を取り上げた。この曲も良い。

   ロスを拠点のデュオが13年発売の1st。白人ソウル、かな。
   カナダのマイク・ミロシュと、デンマークのロビン・ハンニバルのデュオ。
270・Rhye:Woman:☆☆☆★
   フェイドインの魔術。録音とミックスも基本的に自らが行い、アレンジだけでなく
   録音技術の妙味まで吟味した魅力づくりが素敵だ。
   シーケンサーと鍵盤を自演し、上物にゲストの管や弦をかぶせるアレンジ。多重ボーカルと
   低目の声域が産む滴るような繊細さと、孤独なムードが涼やかな味わいを産んだ。
   ささやくような歌声と揺れるメロディはぐいっと迫ってくる。
   線の細いナイーブさを歌声が緩やかに、強靭に固めていくかのよう。

   BLACK SMOKERから発売のDJ灰野敬二、第一弾。トラック切りは無く1本勝負。13年発表。
269・灰野敬二:Experimental Mixture: ☆☆☆☆
   ロング・ミックスだがスッキリした印象あり。微妙にエフェクト操作を重ねつつ、
   個々の盤は滑らかに続く。常にビートをタイム感ずらしつつ残したのが特徴か。
   この盤の後に出したDJ灰野の盤を聴くにつけ、本盤はピュアなDJスタイルが楽しめる
   逆説的な見方もできる。熱狂的な音楽の情感を灰野のフィルターで透過した一枚。

   Mark Dresser/Jim BlackとのNYトリオ第三作、98年の録音。
268・藤井郷子:Toward "To West"(どんひゃら):☆☆☆★
   怒涛の30分にわたる(1)が分岐点だ。ここで彼女の音楽へ馴染めぬ者は振り落とされる。
   ワクワクしつつ聴きぬいたら、怒涛の組曲めいたフリーな上下振幅のひと時へ、耳がもう馴染んでる。
   あえて抒情を抑えたハードで奔放な(1)があってこそ、その音楽に浸ったからこそ、(2)からの畳み掛ける熱い情感が、ひときわ温度高く感じる。
   埋め塗り尽くすように鍵盤を叩く藤井のピアノは、緊張を聴き手に感じさせる。
   決して苦行ではないし聴くことの爽快感もあるが、聴きはじめるまでの瞬間が、どこか襟を正せと感じさせる。それがこの音楽の特徴だ。
   ベースとドラムは過不足なく藤井と対峙する。そう、違和感や営業っぽさは皆無。ただ、音で斬り合う。
   アルコを時に持ち出しタイム性を振り抜くマークと、スイングさをランダムに提示するジムが、
   フリーとコード感を自在に行き来する藤井のピアノとスマートかつ粘っこく絡んでいく。
   ぐるりと聴き終わり冒頭の(1)へ戻ったら、耳が馴染んで親しみやすく聴けることに驚く。

   ブラジルのシンガーが96年発売の盤。アレンジで坂本龍一が参加した。
   他のゲストも豪華で、アート・リンゼイ、シコ・ブアルキ、カエターノ・ヴェローゾの名があり。
267・Vinicius Cantuaria:Sol Na Cara:☆☆☆
   ソロでありながら、優雅に人の中を踊ってるようにも聞こえる。
   穏やかで寛げるポップス。アコースティックとエレクトロニカが滑らかに融合した。
   坂本龍一の関与度は予想より多かった。アレンジ全面参加、(7)と(9)は楽曲提供まで。
   弦とパーカッションは多分ヴィニシウス自身。坂本の色はサンプリング・ビートや薄い鍵盤の音像で
   幻想さを加味に軸足、あまり前面に出てないが。
   呟き気味の伸びやかな歌声が軽やかに響く。
   (6)がジョビン。共作者とし(8)がアート・リンゼイ、(1)、(2)、(5)、(10)に
   カエターノ・ヴェローゾ、(4)がシコ・ブアルキと、人の才能を貪欲に吸収もいとわない。

   トルコのジプシー音楽を現代解釈したブルハン・オチャルのバンド
   イスタンブール・オリエンタル・アンサンブルの97年発表の2nd。
266・Burhan Öçal & Istanbul Oriental Ensemble:Sultan's Secret Door:☆☆☆☆
   ワールド音楽のプロデューサー、クリスチャン・シュウォーツとブルハンで共同プロデュースの本作は、
   94年出版のRoswitha Gostが書いたハーレムの歴史書を元にシュウォーツがストーリーを構築、
   ブルハンが音楽化した作品のようだ。テーマはハーレムを持つスルタンのパーティを描いた一幕。だいたいの流れが
   ブックレットに書かれている。9曲中伝承歌が5曲。3曲がバンドで、1曲がブルハンのオリジナル曲だ。
   最後にギリシャのレンベーティカを足したとこが、一ひねりか。
   per二人にウード/クラリネット/バイオリン/カーヌーンの編成は、西洋音楽に毒された耳だと中途半端に見える。
   だが本盤の音楽は芳醇だ。重なるリズムが奥深い世界を作り、次々にソロを取る上物の流麗さに蕩ける。
   ミックスが素晴らしくサウンドの荒々しさは皆無で、とろりと甘いふくよかさが広がった。
   緩やかなストーリー性を素晴らしい即興と、精緻なアンサンブルでつづった傑作。

   こちらは同じバンド名義で3rd、00年リリース。
265・Burhan Öçal & Istanbul Oriental Ensemble:Caravanserai: ☆☆☆☆
   旅隊商の様子を音楽で表現した一枚。伝統的な楽器で正当なアプローチながら
   どこか捻ってハイブリッドな新しさを出している。演奏は素晴らしく流麗で
   隙が無く暖かい。民族音楽を十分に咀嚼し、新たに構築したサウンドだ。
   オリエンタルなスリルもいっぱいだ。細かい響きまできれいに聞き取れる録音が嬉しい。
   11曲中トラッドは1曲のみ。8曲がオチャルのオリジナルで、残りも参加ミュージシャンの曲。
   中東風にてジャズ的なアドリブを交換するアプローチは、プログレとも聴けるか。

   チェコのフォーク・シンガーで現地では非常に有名な人らしい。94年に44歳で没。
   これは69年発表の1st。00年にCD化された。
264・Karel Kryl:Bratříčku zavírej vrátka:☆☆☆
   基本はアコギの弾き語りでシンプルなアレンジのフォーク。歌詞が分からないが、
   音楽の印象は素朴で力強く、ほんのり切ないメロディーが印象に残る。どこか溌剌さが特徴。
   喉は張るが特筆するほどキーが広かったり、は無い。カレッジ・フォークの印象を受けた。
   滑らかで素直なメロディで、まず(2)が印象に残る名曲だ。

   こちらは70年、3rdアルバム。Wikiに記事あるが、翻訳かけてもいまいち全貌が良くわからず。
263・Karel Kryl:Maškary:☆★
   アコギ一本は変わらぬが、アルペジオやストロークの使い分け、ハーモニーの導入など
   シンプルながらアレンジの工夫が見られる。その一方で歌は語りかけが多く
   芝居けを取り入れるなど、歌詞を聴かせたいようだ。言葉が分からないと、いまいち伝わらず。
   伸びやかな歌で、ディランほど音楽的に面白みは無いため。

   イギリスのジャズ。リーダーは鍵盤奏者で71年発表、たぶん2nd。
262・Michael Garrick:Troppo:☆☆★
   最初は暗いイメージ受けたが、ボリュームあげて聴くと印象が変わる。どうもミックスがのっぺりだ。
   アメリカ的なグルーヴは希薄で、むしろソフツみたいにプログレ的な聴き方を最初はした。
   だがボリュームあげるとバップを英国的な秩序に落とし込み、単一グルーヴで無く
   つんのめるメカニカルなシンバルワークに誘われて、ホーンの野太い雰囲気に耳が馴染んでいく。
   熱狂をいったん知性のフィルターに通し、慎重に構築したかのよう。
   じわじわ来る面白さだ。

2014/11/17  注文してたCDが届いた。

   まずはGbV関連とし、名プロデューサー/エンジニアのトッド・トバイアス関連盤。
   作曲から録音まで全て自分でこなした2014年のソロ。
261・Todd Tobias:Impossible Cities:☆☆☆
   イタロ・カルヴィーノ"見えない都市"(1972)に触発された多重録音のインスト。
   ロック調を基本に置いた。ボブのソロほどとっ散らかってはいない。
   幻想的ながら、ロック・アレンジゆえに親しみ持てた。
   ギターが主旋律取る場合もあるが、基本はミニマルな仕上がり。よってカラオケ的な中途半端さは無い。
   けれどもどこか空虚で、何か足りないもどかしさあり。
   バンド・サウンドに拘っては無いが、一人アンサンブルの構築性は本盤でも健在。
   5分ある(12)を除き、数分の曲群がさまざまなアレンジで並んだ。
   切っ掛けの本に倣い場面と曲調をそれぞれ変えている。

   Steve Fiveが歌と歌詞、トッドがバッキングをつとめたデュオ形式で2014年の発表。
   ロバート・ポラードのプロデュースで、トッドが馴染のパターンだ。
260・Brother Earth:Positive Haywires:☆☆☆
   ポップさは漂うが、基本は混沌なサイケ。GbV的作りっぱなしの放埓なアプローチが楽しい。
   ちょっと重たい雰囲気を出した。トバイアスの演奏は相変わらず、多重録音ながらバンド風味ばっちり。
   歌ものロックながら、軸足は演奏寄りかな。プログレ的小作品集、のイメージが近いか。
   瑞々しいメロディの曲も、暗めにアレンジされて開放感無いのが残念。
   サウンドはギターよりも鍵盤を多用した印象を受けた。

   なぜかトッドの名を立てたサーカス・デヴィルズ名義で2013年のリリース。
   自主制作DVDのサントラらしい。2013年の発表。DVDも出てるが、ぼくはCDを入手。
259・Todd Tobias and Circus Devils:I Razor:☆★
   過去作も混ぜたオムニバス、かな。全曲まだ由来を調べてない。サイケなインストが
   次々に現れる、取り留めのない電子音楽集な印象だ。その合間にボブの
   ボーカル曲が挿入される。ただでさえとっ散らかったサーカス・デビルズの作品でも
   ひときわ混沌を全面に出した一枚。

   トバイアス兄弟のバンドに、Nick Crossが加わった編成で2011年に発表された。
258・Clouds Forming Crowns:Allowing Thunderhead:☆☆★
   ティムの歌とギターをトッドがサポートする形式。曲もティム。ニック・クロスはピアノ担当だが
   ほとんどめだたない。ティムの歌がイマイチで、瑞々しいメロディをドライに置く印象だ。
   ギター弾き語りに足す形で無く、きっちりと丁寧なアレンジが施された。
   そのため滑らかで、どこか一捻りなサウンド。メロディアスなベースが良い。
   この点、トッドのテクニックは強固だ。しかし組むメンバーによってトッドのサウンドがガラリ変わる。
   楽想で弾き分けか、相方のセンスを極力尊重のどっちだろう。

   こちらは2010年、メンバーは同上。基本双方とも、ティム・トバイアスの曲を収録してる。
257・Clouds Forming Crowns:Ouija board taxman:☆☆
   ほんのり脱力ロック。メロディはゆるやかに、バンドサウンドっぽいギター・ロックに載せて歌われる。
   ライブ・サウンドでも似合いそうだが、あくまでも分離良く端整な仕上がりだ。
   ほんのり上ずる声質のムードは、じわじわと癖になりそうだ。
   強烈なメロディの迫力があれば、と思う。

   ジョン・ゾーンのネイキッド・シティが発表のスタジオ盤を、5枚組Boxにまとめた05年のBoxセット。
   Naked City (1990)/Torture Garden (1990)/Grand Guignol (1992)/Leng Tch'e (1992)
   Heretic (1992)/Radio (1993)Absinthe (1993)の全音源を収録した。
256・Naked City:The Complete Studio Recordings:☆☆☆☆★
   一部重複する音源リリースだったため、まとめて整理し聴けるのがありがたい。
   ジャケットやブックレットも凝っており、見て楽しめる。
   ただし外箱の紙接着が甘く、はがれかけてきてる。作り方がちょいと大雑把。
   音楽的には猛然と駆け抜けハードコア・ジャズの規範を作り、パラダイム・シフトを作った傑作
   (ジョン・ゾーンとしては一要素)を堪能できるボックス。

"Naked City"(1990)☆☆☆☆★
   録音は1989年。88年からライブを重ね、満を持した1stとなる。ゾーンのフリーキーなサックスが
   前面に出るが、根本はフリー要素は希薄でガッチリとアレンジされたハイテクニックなアンサンブルが詰まった。
   時に数秒で終わる26曲もの収録はファイルカードの連続性、すなわち急速なゾーン流の転換概念を
   "バンド"で実現かつ+αの一体感狙いと推測する。つまり主役はゾーンでも、アンサンブル総力戦の妙味で追求はかる狙いでは。
   さらにジャズを超え映画音楽なども取りこんだ選曲でルーツの模索の意味合いも、今ならば付与できる。
   すなわちMASADAでユダヤ文化回帰を行う助走期間、として。
   サウンドはタイト&シャープ。生演奏でこの構築度を容易く達成する腕前に驚嘆する。
   ゾーンの軋んだサックスがむしろ、ステレオタイプなイメージで余計かも。
   この後の代表作的にはPainkillerが91年から平行し活動。"KRISTALLNACHT"(1992),MASADA 1st"ALEF"(1994)と続く。

"TORTURE GARDEN"(1990)
   23分あまりで42曲。ミニアルバムの規模でかつ、どの曲も1分未満ばかり。
   コラージュをバンドで実現、のコンセプトを著す冗談みたいなリリースだ。
   前作はエレクトラ、本盤はクレイマーのシミー・レーベルから発売された。
    (2,6,7,18,24,26,36,37,39)は1stの再収録、他の楽曲は続く"GRAND GUIGNOL"に再収録。
   すなわち架け橋としビジネス的な模索で発売の盤かもしれない。本稿では本盤でのコメントは割愛する。

"GRAND GUIGNOL"(1992)☆☆☆☆
   (1)が17分越えの大作、続けて各種クラシックのカバー。そのあとに"TORTURE GARDEN"で予め発表された1分未満の曲が33連打。
   "Naked City"から変化のコンセプトは、アンサンブルの深化とハードコアな寸断。スタジオ作の視点は既に変わってる。
   (1)は曲構造あるものの、たぶん各フレーズは即興混ぜている。もっとも連続演奏で無く、
   複数セッションを編集もしくは連続録音かもしれない。場面毎の転換は、ふっと空気が揺らぐ。
   サックスもさほど目立たず、むしろSEや演劇的な場面からサントラ的な立ち位置っぽい。コラージュな曲構成部分が、ジョン・ゾーンらしさ。
   なお本boxでは(1)へマイク・パットンが声を足したverがボートラ。
   そのバージョンでふんだんな前衛声が入った途端、"Naked City"が強まる。恥ずかしいことに
   聴き比べるまで分からなかった。ようはきっちりアンサンブルに前衛要素が乗るだけで、違うのか。
   クラシック曲のカバーは後年のラウンジ路線を彷彿とさせ、凶暴性は全くない。演奏の確かさは実感するが。
   "TORTURE GARDEN"楽曲は、初期路線から情緒を抜き、勢いと一発ネタのみ連打される。秒単位で変化のスリルが聴きもの。
   とっ散らかった混沌な意味で★一つ少ないが、ある意味"Naked City"を大づかみに最適かも。

"Heretic"(1992)☆☆☆
   トリオもしくはデュオによるSM映画のサントラ。即興要素が強まった点で、好評価を過去に受けたらしい。
   短時間にめまぐるしく音が飛び交うが、シンプルなアンサンブルゆえに見通し良く、
   互いの斬り合いがはっきりわかる。散漫と取るより多彩と聴きたい。
   作曲性は薄く、瞬発力を生かしたサウンドが詰まった。
   ゾーンの錐揉みサックスとEYEのシャウトが類型さを強調は否めないが
   スピーディな即興のぶつけ合いは確かにスリルがいっぱい。

"Leng Tch'e"(1992)☆☆☆★
   30分強の長尺。組曲的な構成だが、スピードとハードコア一辺倒でなく重厚でノイジーな
   アプローチを見せた。もとは日本のみで発表のアウトテイク。
   完全即興で無く、かなり構成が決まっていそう。フリージャズやソロ回しとは異なる。
   "凌遅刑"がテーマゆえに、じわじわと死に至る過程を表現か。
   前半はドローン気味にじわじわと盛り立てた。16分位で山塚アイのシャウトがダブ気味に
   挿入され、凄惨さを増す。壮絶なテーマが音楽で、あまりに明瞭な響きだ。
   20分辺りから、ゾーンのハイトーンなサックスが切なく轟いた。

"Radio"(1992)☆☆☆☆
   カラッと明るく、ジョン・ゾーン流のコラージュ・オマージュ集。
   19曲はそれぞれ、さまざまなジャンルの別々な新旧ミュージシャンに触発されたミクスチャー。
   音楽だけでなく数曲は映画などもあり。しかし幅広い。これを全部聴いてるのか、ジョンは。
   短い曲もあるが、基本はきっちり数分単位で演奏されるため、タイトル通り
   バラエティに富んだラジオ番組を聴いてる趣きか。
   全二作の沈鬱さを拭い去り、ライブでのスピーディな楽しさを封じ込めたアルバム。

"Absinthe"(1993)☆☆☆★
   スタジオ最終作はがらりと方向性を変えたミニマル・ノイズ作品。
   あえてネイキッド・シティ名義で演奏の必然性が不明だが、何らかのコンセプトか。
   機械的でミニマルな作品群はエレキギターがわずかにメロディ性を持つが
   起伏する構成とは違う。もっと単調さを狙った。敢えて無闇に長尺化せず各曲5分程度にまとめ、全9曲収録の
   盛りだくさんさが、彼ら流のスピード表示かも。また、わざわざ人力でメカニカルな雰囲気を
   狙うあたりも、スパイスが効いている。ネイキッド・シティと聴くには違和感ある
   音像群だが、ノイズとしてはコンパクトで集中した作品だと思う。

2014/11/16  最近買ったCDをまとめて。

   CD屋の店内で流れており、すごく気になって購入。サイケでテクノなブレイクビーツ、かな。
   11年の1stアルバムで、豪で育ち今はLAが拠点らしい。LAのレーベルStones Throwから発表した。
255・Jontti:Twirligig:☆☆☆☆★
   ハイラマズ meets YMOのヒップホップなエレクトロニカ。ハイブリッドな魅力を
   幻想的にまとめた。不安げに響くハーモニーが、安っぽいエレクトロ・ビートの上で舞う。
   たるっとけだるげな風景でビートはさほどきつく無い。
   甘く柔らかく深く酩酊した気分を、見事に封じ込めた傑作。

   吉祥寺のライブハウスPLANET Kが主宰の、若手ロックバンド15曲を集めた無料コンピ。
254・V.A.:PLANET K \0 COMPILATION ALBUM:

   復活ビーチボーイズのすごく充実した、最終盤とも言える内容。12年発表。29thで20年ぶり(!)のスタジオ作。
253・The Beach Boys:That's Why God Made The Radio:☆☆☆☆☆
   デヴィッド・マークスを迎えたBB5が自らのイメージの海と、きっちり落とし前をつけた一枚。
   50周年を踏まえ、最終曲での幕引きは本当にドラマティックだ。ここまで見事に壮絶な人生と音楽業界のドラマを作るとは。
   サウンドはジェフリー・フォスケらに手厚いバックアップを得た。だが老醜をさらさず、かつリアリティを持った自らの様相を
   ポップスの文脈できちんと仕上げたことを絶賛する。本盤はBB5の最高傑作ではない。
   しかし本盤はBBの歴史を真正面から、ビジネスのしがらみを超え、瑞々しく仕立てた重要作だ。
   本来ティーンエイジャー向の使い捨て音楽をそれ以上の何かに昇華させ、かつ結成50年にして同じ価値観で聴かせるのが凄まじい。
   サウンドじゃない、生き様として本盤は本当に素晴らしい。

   77年作。ゴールドディスク取得の売れた盤らしい。
252・George Duke:Reach For It:☆☆
   テクニカルな鍵盤フュージョンのみならず、その先へ。ソウルやラテン要素も詰めた
   五目味のアルバム。売れ線を探るマーケット・ツールのような盤だ。
   基礎となるファンキーさはガッチリ、本盤のみでオムニバスを聴いてるかのよう。
   トータル性は薄いが、バラエティさでBGMに最適な一枚。

   インプレッションズのメンバーでもあった彼が、エレクトラで発表の82年8thソロ。
251・Leroy Hutson:Paradise:☆☆★
   甘く柔らかいシカゴ・ソウルな(2)や(3)が、色あせぬ魅力あり。滑らかな歌声だ。
   生演奏と打ち込みっぽいサウンドが混在する。アップな曲は今聴くといまいち抑え気味。
   でも(6)はシャープなファンキーさが良いな。
   基本は自作曲、(2)が妻のネイトやWispersのNicholas Caldwellと共作、(3)がHaven & EarthのRodney Massy,Lawrence Hanksの
   コンビに加えImpressions繋がりなJerry Butlerの提供曲。ディスコからスイートな曲までバラエティに富んだアルバムだ。
   鍵盤とドラムの一部、ホーン・アレンジもレロイ自身のクレジットあり。

   82年の5thソロ。当時のスタジオミュージシャンをずらり並べたAOR。
   時代が二回りして、逆にこういうのも聴きたくなった。当時は忌避してたが。
250・Leon Ware:Leon Ware:☆★
   生リズムでゴージャスに盛り上げたAOR。隙の無い演奏は曲ごとにミュージシャン変わり
   統一感は無いけれど。ハイトーンで線の細いレオンの歌声をきっちり支えてる。
   凄腕ミュージシャンの奔流に揺られ、滑らかなメロディが耳を通り過ぎていく。
   盛りだくさんで微妙に多彩な曲調を詰め込んだ。かっこいい曲は他にもあるが
   奇妙に(3)が耳へこびりつく。

   スイスのニューウェーブなデュオが発表した、85年の4th。
249・Yello:Stella:☆★
   ズシンズシン鳴るシンプルなビート感に馴染めるか、が鍵か。今一つ単調に聴こえてピンとこなかった。
   大音量向のダンス・ミュージックかな。涼しげでキメが多いアレンジはテクノに近い。

   88年の映画"Chocolat"のサントラで、音楽をアブドーラ・イブラヒムが担当した。
248・Abdullah Ibrahim:OST To Claire Denis' Film "Chocolat:☆☆★
   五目味のアルバム。南アフリカ音楽とロマンティックなオケが並列し、ブランドのピアノも
   どこか甘い。柔らかなタッチを強調した。映画音楽ゆえに毒を抜いたのかもしれない。
   ブランドの代表作とは言わないし、全面的に推薦もしづらいが。
   流して聴いてると、これはこれであり。

2014/11/11  最近買ったCDをまとめて。

   日本の前衛ミュージシャンが集まったフェスとして、今年2月に英のライブ音源集、7枚組。詳しくは11/11の日記を参照ください。
247・Multipl Tap#1:Multipl Tap#1:☆☆☆☆
   貴重な記録。しかし大味に感じてしまうのはなぜか。レコーディング・ライブでなく同録記録、な趣き。
   観客ノイズもふんだんに混ぜ、臨場感ある。中域が太そうな、もったり鈍い音の色がする。
   つまんで編集して2枚組にしたら、録音作として猛烈にスリリングな盤に仕上がったかもしれない。
   しかしそこで「全貌が聴きたい」の要求が溢れるのも間違いない。
   何度も聴いて、自分で編集盤作ればいいのか。
   音像は無機質な電子ノイズか、肉体性前面のパワーノイズが主軸。コラボの妙味より個々の個性が強い。

   北海道で活躍するサックス奏者が97年10月11日に、西荻アケタの店でカルテット編成にて
   ライブの音源から5曲を収録した、98年の盤。
246・奥野義則スペシャル:Live In アケタ:☆☆☆★
   やたら観客が盛り上がる中央線ジャズを味わえた。つまりハード・バップを下敷きにビートを効かせた
   ファンキーさ。メロウなサックスが全編を覆い、箱みたいに下へ長い響きのドラムと、明るい鳴りなギターのアケタ・サウンド。
   ベースは控えめボリュームのミックスで支える。斬り合いじゃなく、対話しあう明るいセッションだ。
   奥野のサックスは時に軋みませつつも明るい。音色は林栄一を連想した。フリー要素は低く、オーソドックスなジャズを聴かせる。
   勢い一発だけでなく、スローもあり。(2)でギターの響きを基調にロマンティックなサックスを響かす、静かな音像や、
   穏やかに漂うサックスが美しい(5)も聴きもの。

   1stソロで87年の盤。イアン・デューリーとブロックヘッズを中心に録音した。
245・忌野清志郎:RAZOR SHARP:☆☆☆☆
   センチメンタルに屈折した素直なアルバム。でかく整いすぎたRCのブランドでやれぬ
   アレンジ、楽曲をひとり異国で実験した。重たく鋭いエレキギターが不要で、
   英経由のホワイト・ソウルがアレンジのベースになる。(6)は当時のRCでも演奏が
   不思議じゃない。だが乾いたドラムとニューウェーブなミックスを清志郎は試したかったのでは。
   この曲で左右にパンする音像がいかにも時代を感じさせ、古びてキュート。
   1曲を除き、ホーン隊も現地調達。ざらりとドライな音に包まれつつ、歌声はまっすぐで伸び伸び。
   RCは"HEART ACE"(1985)からミニアルバム"NAUGHTY BOY"(1986)とビジネス的にはモロに煮詰まってた頃の話だ。
   (8)が清志郎の当時の苛立ちを表現した、とはうがちすぎか。
   本盤収録曲には、作曲年がクレジットあり。新曲のうち、(1)と(10)はG2らとの共作。
   RCでのボツ曲だろうか?なお(4)と(9)はそれぞれ69年、71年の作品。過去のレパートリーを
   清志郎は大切に、他の楽曲と違和感なしに詰め込んだ。
   アルバム全般で感じるのは、異様なメロウぶりを無邪気に滴らす彼の自由さだ。
   36歳の挑戦を見事に封じ込めた一枚。本盤でツアーも行い、RCとソロの使い分けを吹っ切った
   清志郎は、二年後にタイマーズへ雪崩れこむ。

   マルコシアス・バンプの佐藤研二(b)と吉田達也のデュオで、磨崖仏からのライブ映像DVD。
   '08年高円寺SHOW BOATと'06年東高円寺UFO CLUBのライブ、合計約70分を収録した。
244・石窟寺院:Sekkutsu Jean DVD:

2014/11/4  最近買ったCDをまとめて。

   仏映像作家Audrey Ginestetの作品"Spring Yes Yes Yes"に合わせた2012年のギター・ソロ。
243・河端一:Shade Of Burning Snow:☆☆★
   ループを利用した河端流のひとり多重インプロ。ひとつながりの作品だが、浮かんでは消えるように
   一曲の中でいくつかメリハリがある。前半は静かに、後半から賑やかになるけれど
   全体的には隙間多く静謐な印象を受けた。

   津山篤と河端一のデュオが00年にCD-R100枚限定リリースの90年代後半のライブ音源集。
   復刻盤のこれは、03年のライブ音源をボートラで3曲収録した。
242・Zoffy:Live!:☆☆★
   「ロック名曲をカバー」の宣言を3曲目でひるがえす、ゾフィー流のグダグダさを詰め込んだライブ盤。
   "Acid Mothers Temple Gold Disc Series"のオリジナル盤は100枚限定CD-Rだった(未所有)。
   一曲ごとに録音場所を変え、ライブでのダイナミズムよりゾフィーのショーケース的なアプローチ。
   ヘニャヘニャな"天国への階段"を執拗に収録し、合間にサイケな中世音楽風のインプロをはさむ。
   ルインズのカバーは思ったよりまともでカッコいい。直後に本家が登場するテイクだ。
   津山のユーモアが強烈に出たバンド。河端一は一歩引いた感じ。

   13年リリースのギター・ソロ。弓弾きのドローンらしい。
241・河端一:We’re One-side Lovers Each Others:☆☆☆
   密やかなドローン。超高周波が右chで鳴ってるような・・・気のせいだろう。
   リズムは無く波のようにエレキギターの弓弾きがディレイとリバーブにまみれて漂う。
   (1)は40分もの美しき電子的な響き。荘厳で幻惑する河端の真骨頂だ。
   (2)は約11分、ノイジーなフィードバック寄り。深いエコー感で洞窟のような効果を作る。
   ほぼ半々の時間で対象にせず、あえてアンバランスな構成が特徴の盤だ。

   doubt musicから09年に発売、800枚限定。高円寺のGallery45-8で「with records」展を
   開催中に販売音源で、マッツのBsソロ"it is all about"のLP盤上へ尾関幹人が
   塩化ビニールの切り絵を付与。その盤を大友良英がtt演奏したもの。
240・大友良英+尾関幹人+マッツ・グスタフソン:with records:☆☆★
   断片的なノイズにサックスがダブのように被さる。商品が3つとコンパクトな構成で
   カットバックと無秩序に奔流のうちに終わってしまう。
   針音のノイズが全編にわたり、ランダムに巻き散らかされた。

   デミ・セミのエミ・レオノーラと勝井祐二のユニット。96年に発売、たぶん唯一のアルバム。
239・Royal Squeezit:O.P.:☆☆☆★
   これは確かにバンドだ。世界観はエミが全面に出した。デカダンとアングラなロマンティシズムが
   流麗なピアノで描かれ、野太く歌う。そこへ勝井らしい軋みながら上下する
   フレーズがくっきりと楔を打った。バイオリンをダビングで無く、一体化して。
   クラシカルなエミの世界を勝井の弦が見事に、くっきりと輪郭を描いた。
   4分以上が6曲、2分前後が7曲、1分くらいの小品が7曲。コンセプトとし多数のトラックを
   詰め込んだため、斬り合うダイナミズムより雑多な世界観を味わうコンセプト・アルバムな形か。
   そもそも本盤、映画「ARIA」のサントラとある。その映画が誰の監督なのか、情報が見つからない・・・。
   インプロ要素が強くエミの歌声もふんだんな本盤を、どう使ったのか気になる。

   06年の初ソロ。ゲストに大友良英、芳垣安洋、植村昌弘他、多数参加した。
238・大島輝之:into the black:☆☆☆☆
   芳垣と植村の2(か、+イトケンの3)ドラムを基軸に多彩なゲストを招いた本作は、
   複数ビートで痙攣するグルーヴで、独特のジャズを楽しめる。
   即興ソロをちりばめつつ、根底は隙の無い作曲だ。インダストリアルな
   空気を迸らせ、ノイズと音程が同じ価値観で噴き出す。
   例えばリズム、あるいはメロディの連続性を追求せず、配置や重なりを俯瞰して新鮮な空気を作った。
   混沌と構築のスリル、双方が楽しめる傑作。寛がず、好奇心がくすぐられる。

2014年10月

2014/10/30  最近買った盤をまとめて。

   肩書で言うとDJ、ジャンルだとブレイクビーツになるのかな。
   前評判がやたら高い、5thソロが今月に発売された。
237・Flying Lotus:You're Dead!:☆☆☆☆
   DJヒップホップながら、生演奏っぽさが本盤の魅力か。繰り返し聴いてるうちに、
   独特の切羽詰ったグルーヴが肌にしみこんできた。急き立てるケンドリック・ラマーの
   ラップが凄まじい。ジャズが切り刻まれ、つんのめる。浮遊する不安定さが
   編集処理でつながった。機械仕掛けの人間臭さ。めまぐるしくメカニカルな香りをふんだんに。
   ファンクっぽさもあるが、薄味。むしろ、ジャズ寄りか。

   新譜。DJ盤の3rd、本レーベルからは2nd。複数枚同時掛けで、独自の世界を作る。
236・灰野敬二:The Greatest Hits of the music:☆☆☆☆
   世界各地の音楽を多層ミックスするDJ灰野敬二の真骨頂。今回は各トラックを数分の短さに抑え
   エッセンスのみ抽出する志向を取った。全21曲、東と西、北と南、過去と現在。
   対比を意識しつつ重なる音楽は、ぱっと聴きだと2~3楽曲が同時進行する。もっと重なっているかもしれない。
   だがすっきりとミックスされ、表層の2~3音源がくっきり目立って聴こえる。
   ここではドラムマシンの重なりや、グルーヴ性、スクラッチや特殊操作のトリッキーさは薄い。
   むしろ魅力は既存音楽の同時進行による新鮮さだ。たとえばフリージャズとクラシックを重ねる
   異形を全面に出し、強烈なポリリズムと貪欲な融合をスマートに表現した。
   その根底は、膨大な音楽を咀嚼した灰野の手腕にある。猛烈に刺激あるミックスを誰もができるわけじゃない。
   たとえば(6)で、ジャズを重ねた猛烈な疾走感が凄まじい。さらにスマートなジャズ・コーラスが一瞬重なり、再び混沌へ。
   たとえば(18)でインド風のビートとタイの女性ボーカルの堆積による酩酊感。瞬間的に浮かび上がる別のモノ。
   これらのミスマッチな重奏が産む、奇妙に鋭い音楽性は見事だ。
   個々の音楽への新鮮な聴き方、重なることでの不可思議さ。仮にDJミックスが既存の音源へ
   新しい意味を持たせる仕事ならば。DJ灰野敬二は平然と、その役割を突き抜けている。

   全面的にスティーヴィー・ワンダーがプロデュースした74年の2nd。
   スティーヴィーのソロで言うと"ファースト・フィナーレ"のころ。脂乗り切った時代だ。
   一時期は入手困難だったが、今回廉価盤1000円シリーズで再発。
235・Syreeta:Stevie Wonder Presents Syreeta:☆☆☆★
   溢れんばかりの才能で、なおかつ少々一軍落ち。そんな微妙な純A級ソウルを聴かせる。
   モータウン色バリバリの(1)で幕を開け、ロマンティックなスティーヴィー節のワルツ(2)では
   テープ速度上げたスティーヴィーっぽいコーラスも。伴奏を当時の
   スティーヴィー組で演奏ゆえに、タイトだがドロッとした、スティーヴィー臭のグルーヴは薄い。
   とはいえメロディから歌い方から、スティーヴィーの存在感は凄まじい。どんだけスティーヴィーって書くんだ、と思うくらいに。

   同じく廉価盤1000円シリーズで再発。77年3rdでスティーヴィーは提供1曲に留まる。
   メイン・プロデューサーはマーヴィン・ゲイの仕事でで名高いレオン・ウェア。
   77年をマーヴィンで例えると"I Want You"(1976)の翌年となる。
234・Syreeta:One To One:☆☆☆★
   ソウルとして、耳ざわりは良い。
   まずスティーヴィーの作品で暖かなポップ・ソング "Harmour Love"ありき。アルバム録音へ向かう時、
   "Songs in the Key of Life"に没頭でスティーヴィーの手が離せぬため、シリータがリオンを雇いプロジェクトが始まった。
   ここで後にシリータの夫となるカーティス・ロバートソンが共同プロデュース/g&b演奏で全面参加。
   7曲中5曲に作曲クレジットもあり。リオンはあくまでプロデュース、カーティスとの蜜月アルバムだ。
   カーティスが弾かぬ楽曲のベースは、チャック・レイニー。滑らかな低音をデイヴィッド・T・ウォーカーやジェイムス・ギャドスンといった
   有名スタジオ・ミュージシャンで固めた。隙の無いストレートなAOR路線は伸びやかなボーカルが楽しめるものの、
   むやみに歌声を立てず演奏と一体なミックスで、あくまでシリータが素材の一つとも言える。

2014/10/21   最近買ったCDをまとめて。

   ハングルのクレジットで良くわからぬが韓国のたぶん民族音楽グループと、
   板橋文夫、斉藤徹、沢井一恵の共演盤。96年発売のようだ。
233・Eurasian Echoes:The Dawning [Live]:☆☆
   構成はインプロが一曲、板橋文夫と斉藤徹の曲が一曲づつ。朝鮮の伝統曲が3曲に、モンゴルの伝統曲が1曲。
   さらに日本の伝統曲とし八橋検校"乱れ"(17世紀の曲)を収録した。
   ジャズ色は薄く、板橋はずいぶん抑え目の印象だ。むしろ雅楽やそれに類する
   伝統音楽と、ピアノやコントラバスなど西洋楽器の即興的な共演、の位置づけが強い。
   違和感ある雰囲気が常に続く一方で、破綻な要素は無い。なんとなく現代音楽を聴いてる気分。

   サックスとno imput mixing boardの共演。2012年4月7日に別府でのライブ音源で
   30分強の1曲仕立て。限定500枚、2012年にこの手の専門レーベルFtarriから発売。
232・山内桂 / 中村としまる:浴湯人:☆☆☆★
   サックスの深いウネリある響きが、No-imput mixing boardと音が混ざり、抽象的な空気を作った。
   前半は静かに空気が掻き混ぜられ、しだいにテンションがあがる。
   サックスの金属的な軋みと電子音なのに、奇妙に雅楽的な緊張が現れた。二人も意識してそう。
   そこから切り落としで、ノイズの持続と素早いサックスに雪崩れる。この冒頭8分あまりの序破急が
   最初の本盤のハイライト。その後、唸りを挙げるハードなノイズとサックスのバトルが始まった。
   強気一辺倒でなく、途中で静かな工事現場風に向かう場面も。
   ライブらしいストーリー性のある、ドラマティックなノイズ作品。

   オクラホマのファンク・バンドがサンタモニカで70年代に録音したアルバム。
   唐突に発掘音源とし発売されたらしい。ミルウォーキーのLotus Landより。
231・Darwin's Theory:Darwin's Theory:☆☆★
   どっか野暮ったいけど、生演奏ならではのタイトなグルーヴが味わえる。
   メロディもキャッチーだし。なのに中途半端さが漂った。
   基本が爽やかなファンク。AOR路線狙いだが、パシャパシャ鳴る溜めるドラムが
   足枷を作った。所々、録音テープがドロップするコンディションだ。
   適度さが無く少々の過剰がポイント。象徴的なのが(7)後半のサイケな展開、もっと短くてもいい。
   (4)以外は当時未発売、楽しみのために録音かな?怪しいムードの(11)みたく良い曲あるのに。

   ジャケ買い。メンフィス拠点の黒人ブルーズ歌手で、96年の1st。
230・Alvin Youngblood Hart:Big Mama's Door:☆★
   数曲でタジ・マハールが参加した。カントリー風味のデルタ・ブルーズ。どろどろの弾き語りだが、どこか洗練。
   歌声は渋めだがガラガラまで行かず。すっきり、聴きやすくは有り。2chの一発録りでさくっと録音したそうだ。
   オリジナルと既存曲は半々。トラッドの"France blues"、"Gallows Pale"を演奏。他にチャーリー・パットン"pony blues"、
   ウォルター・ヴィンソン"Things 'Bout Coming My Way"と Livin' In A Strain”と2曲を。
   レッドベリー"When I Was a Cowboy"、ウィリー・マクテル"Hillbilly Willie's Blues"をカバーした。
   特に"When I Was a Cowboy"のドライブ感がかっこいい。

   AOR系の黒人歌手で92年の7thアルバム。
229・Carl Anderson:Fantasy Hotel:☆☆★
   朗々なバラード中心の路線な盤。強靭に歌い上げるデヴィッド・フォスターの(2)で
   パワーにまず耳が惹かれる。ソウルフルさより白人流のあっさり路線だ。
   涼やかで硬質なムードが漂う盤。寛ぎを演出しつつ、破綻は無い。
   ブルージーさを匂わす(5)も、アプローチはスティーリー・ダン風。
   前半でしっとりはじめ、中盤にアップ気味の曲を固める。
   しっとりと畳み掛ける(7)もいい。最後の密やかなゴスペル風バラードで、静かにアルバムを締めた。
   中盤の大味さに少々めげるが、前半と最後は緊張感を保ってる。

   01年のクワイア系NYゴスペルのコンピ。日本資本の録音かな?
228・New York Harlem Gospel Singers:Amazing Grace:☆☆☆★
   微妙に奇妙な和音感が右チャンネルから聴こえる。整った綺麗なゴスペル・クワイアだが
   荒っぽいけど味のある演奏と歌が詰まった。定番曲が並ぶし、クワイア入門に良いかも。
   安っぽい鍵盤や、食い気味のシンバルで賑やかに叩くドラム、素朴なクワイアの
   歌いっぷりなどツッコミどころはあるけれど。アカペラとゲスト招いた伴奏曲を交互に置き構成にメリハリつけた。
   ゲスト曲ではファルセット効かせまくるキュートな(6)や、シャープに飛ばす爽快っぷりの(8)が楽しい。
   雄大な(10)も。ゲスト歌手はゴスペルでは知れた人たちらしい。
   アカペラではドライブする(9)や交互にリードとコーラスが歌う(11)がシンプルに良かった。

   テキサスのクワイア系ゴスペルでは有名どころの彼が、06年発表のコンピ盤。
227・Kirk Franklin:Kirk Franklin Presents: Songs For The Storm, Vol. 1:☆☆★
   現代的要素をほんの少しだけゴスペル・クワイアにふりかけ、いい塩梅の少々しゃれた雰囲気を作る
   カークの巧みさが絶妙に味わえるベスト盤。新曲を一曲、投入した。シングルは敢えて外した?
   選曲は時間軸を考えず、大きな流れをつくる形を取った。
   前半から長尺でとっつき悪いが、(4)は問答無用で燃える。
   そこからだんだん、本盤に惹かれる。(8)のロマンティックさも豪華で良い。
   新曲はハッピーな打ち込みビートが特徴のキャッチーな作品だ。濃厚なクワイア連発のあと、
   クールな世俗歌タイプにある意味、ほっとする。
   冒頭の"Don't be afraid to be grown."って言葉が耳に残ったが、慣用句だろうか。

   フェラ・クティはもう、ボックスじゃなくチミチミと買うことにした。
   Box買って聴かないのもなんだし。本盤は77年のアルバムを2in1した再発盤。
226・Fela Kuti:J.J.D(Johnny Just Drop)/No Agreement:☆☆☆
   (1)はラフな演奏だがじわじわと熱狂を積み上げるファンクネスが良く伝わる。
   観客を煽るフェラ、時々ばらつくも強靭なグルーヴが聴きもの。ベースが凄いな。B面は収録時間の都合か、カットされた。
   (2)や(3)はぐっと演奏がタイトになった。リズムの着実さと降り注ぐホーンのリフ、フェラのサックス・ソロが吼える。
   淡々とフレーズが連続し、上物のソロが移り変わった。綺麗に纏まってる。
   (2)と(3)にはゲストでAACMのレスター・ボウイも参加。

   60年代アメコミ風ジャケだが、98年の盤。ザディコのアコーディオン奏者の7th。
225・Beau Jocque & The Zydeco Hi-Rollers:Check It Out, Lock It In, Crank It Up!:☆☆★
   リトル・リチャード"Keep a Knockin"、アーチー・ベル&ドレルズ"Tighten UP"、Champs"テキーラ"。
   オールディーズのカバーをはさみつつ、ブルーズ感覚滲ませた陽気なパーティ・バンドな風情をアルバムに封じ込めた。
   あまり新味はないが、ライブの様子をスタジオでカッチリまとめがコンセプトの名刺的な盤か。
   ドラムが軽やかでタイトが嬉しい。ダルに流れがちなアンサンブルをきっちり締めた。
   ライブの楽しみをクリアな分離の録音で味わうには良い盤かも。
   最後にほんの短いボツのVoテイクを足し、親しみ持たせる工夫も施した。
   サウンド的にはアコーディオンにオルガンも足して、温かい響きが全面に出てる。
   数曲でのヒップホップな要素は浮きがちなのに。タイトなドラムのためか、さほど違和感なく楽しめる。

   Womack & Womackはあまり聴いてない。ボビーの弟とサム・クックの娘による夫婦デュオ。
   本盤は91年発売、本名義では5thかな。
224・Womack & Womack:Family Spirit:
   アルバムの構成はそうとうごった煮。アコースティックの穏やかなファンク構成の曲から
   急にキャッチーな曲へ繋がり、一瞬ドキッとした。曲ごとにアレンジの方向性は違うが、
   基本は多重録音のこじんまりしたサウンドだ。シンセは目立つが生演奏な味わいが基調となる。
   大味で淡々とした曲調で今一つ退屈。盛り上がりより一つのフレーズを繰り返すイメージが強い。
   根本的に大人しいな。ブルージーな(7)やアフリカンな(8)も至極まったりと爽やかに料理した。
   どの曲か不明だが、ボビー・ウォマックもギター参加のクレジットあり。
   妙に性急な畳み掛けのリズム感がユニークな(5)が面白かった。

2014/10/15   新譜が到着した。

   元GbVのロバートが多重録音で全楽器を吹き込むユニット、TGの2ndが出た。
223・Teenage Guitar:More lies from the gooseberry bush;☆☆☆
   マニア向け。ローファイでラフな演奏で、コラージュめいた場面も織り込みアルバムを構成した。
   意外に多彩な楽器やアレンジだし、そこかしこに凝ったこだわりを感じる。
   ただ、綺麗なメロディは控えめで勢い一発のボブ節が詰まった上、音色も
   大雑把な印象が強いため、ファン以外には少々辛いかも。
   逆にマニアには完全ラフに向かった時の叩き付けとは少々違う、若干は丁寧な多重録音ポップスが楽しめる。

   ソロをはさんでSpecial Sauce名義で5年ぶりの新譜が、今年の春先に発表された。
222・G. Love & Special Sauce:Sugar:☆☆☆★
   原点回帰で、塩っ辛く炒めたブルーズ風味のロック。ヒップホップ色は薄い。
   基調トーンは統一だがオリジナルにこだわらず、ジョン・リー・フッカーのカバーや
   仲間の曲、共作とバラエティに富んだ選曲だ。さらにアンサンブルも要所へゲストを招き
   アルバム全体を単調にならぬ工夫を丁寧に施した。この辺がベテランの手腕だ。
   トリオ編成のがっつり生っぽい演奏ながら、音色はカチカチでメカニカルな香りを漂わす。
   へこたれずしぶとく、過去にしがみつかず大切にする。複数の要素を平然と並立させる、Gラヴらしい
   古めかしいプラスチックな味わいが美味い盤だ。

201/10/7   最近買ったCDをまとめて。

   時の流れは早い。8年ぶりに再結成ライブの記録が新譜でリリースされた。
221・UA x 菊地成孔:cure jazz reunion [Live]:☆☆★
   前半3曲に不思議な緊張感が漂う。圧するようなUAのボーカルが重たくのしかかる。
   ソプラノを吹く菊地のソロも紳士的で冷静、破綻しない。クールでスタイリッシュなジャズを
   丁寧にやった印象だ。テナーが軋む(4)あたりから親しみを覚えられた。
   (5)でのポリリズミックな言葉の応酬が、菊地らしいアプローチだ。
   だが全編にわたりUAの冷徹さは変わらない。

   11年結成、製作期間1年をかけてリリースされた、日本人ジャズ中堅メンバーによる1st。
220・Rabbitoo:national anthem of unknown country:☆☆☆☆
   幻惑的なミニマム、かつクールなジャズ。ドラムの淡々っぷりが、タイトなアンサンブルを
   奇妙に揺らぐグルーヴに変貌させた。ソロ回しよりもフレーズを重ね、じわじわと迫る。
   猛烈に格好良い。一曲を6分程度に短く絞り、次々と曲を重ねた。
   サイケな風景に向かいそうな場面でも、ガッチリとドラムが冷静に係留し、浮遊感を巧みにコントロールした。
   すとんと足元が不安定になりそうな、独特の酩酊感が癖になる。

   ギター・ジャズの名盤と名高い62年のライブ盤。ユニバーサルから先日発売の廉価盤で入手。
   ボートラ2曲を収録した全9曲。ライナーも書き下ろしと丁寧なリイシューだがリマスターかは記載無し。
   LPからは"Come Rain or Come Shine"と"S.O.S."の2曲、別テイクを追加した格好。
   07年リイシュー時のボートラで見ると、"Born to Be Blue"と"Cariba"の別テイクが抜かれ、2曲減。
   契約の関係と思うが少々ややこしい。録音は62年6月25日のみだが、別テイクってことは複数セットあったってこと?
219・Wes Montgomery:Full House:☆☆☆☆★
   演奏面で見ると、爽快なスイングとしみじみなジャジーさが良い具合のバランスだ。
   ジミー・コブの無骨にばらつくドラムを、ケリーとチェンバースが上手いこと転がしてく。グリフィンのサックスも元気ある。
   あくまで主役はギターだがアンサンブルが穏やかに纏まってて、気持ちいい。前後のアルバムで完全に同じ
   リズム隊のアルバムは見当たらない、ツアー・バンドで無くセッションだろうか。
   ギターのアドリブは緩急をロマンティックに展開する。エフェクターの味付け無く、うっすら軋む甘い音色で速く、時に穏やかにメロディを紡ぐ。
   "Born to Be Blue"の渋み、"S.O.S."のスピード感、そして"I've Grown Accustomed to Her Face"での温かさ。かっこいいなあ。

2014/10/2   最近買ったCDをまとめて。

   "20ten"(2010)年ぶり、久しぶりにリリースのアルバム。
218・Prince:Art official age:☆☆☆☆★
   充実。ポップやロックは3rd eysに回したか、本盤は内省的なファンクが詰まった。
   打ち込みビートとぬぺっとしたシンセが印象深い。ファルセットがきれいに響き
   密室的なグルーヴが煌びやかに唸る。隙の無いアレンジで次々楽曲が投入され
   ドラマティックな大曲を聴いてる気分になった。
   まだまだプリンスは現役一直線を、強烈にアピールした一枚。

   同時発売で、女性ユニットとのバンド名義な盤。
217・Prince & 3RDEYE GIRL:PLECTRUMELECTRUM:☆☆☆☆★
   ベースとドラムが微妙に拙いが、全部プリンスの多重録音かもしれない。たっぷりとギター・ソロを
   フィーチャーして、バンド・スタイルのキュートで骨太なファンク・ロックをたっぷり聴かせる。
   そう、ファンクとソウル、ロックのミックスを本盤のテーマとした。
   ただしメロディはさほどポップなものを採用しない。
   楽曲として分かりやすくキャッチー、ライブで映える曲ばかり詰めた。同発盤に比べ、まずとっつき安いのがこちら。
   聴いてるうちに、アレンジへ丁寧に凝ってるのもわかる。一発録音でなく
   スタジオ作業を重ねた。グッとガッツある録音なのも良い。とても充実した盤。

   76年発表のアルバムをタワレコが独自リリースした。
216・The Dells:No way back:☆☆☆
   バラードやメロウを数曲に留め、洗練されてるが前のめりの柔らかなファンクを詰め込んだ。
   本再発盤はクレジット無いのが残念。調べるとディスコ/ファンク・バンドのThe Rimshotsがバックを担当。
   オール・プラチナム/スタングと、ニュージャージー系で活動を始め、のちにスタジオ・ミュージシャン集団になったらしい。
   ディスコが今聴くと古臭いが、時代の波へ乗ろうとデルズが踏ん張った様子が伝わる盤だ。
   演奏は妙にヘタだが味もあり、曲も悪くない。だが手放し褒めには、時代へ寄り添った香りが邪魔をする。

2014年9月

2014/9/20   最近買ったCDをまとめて。ECMが結構多い。

   スイス人女性Voの3rdソロで13年の発売。
215・Susanne Abbuehl:The Gift:☆☆★
   (1)でアルヴェ・ヘンリクセンを連想した。ハルモニウムが広がりを作り、フリューゲル・ホーンが
   緩やかなカウンターを入れる。ドラムも漣のようにスティックを震わせ、ビートは希薄だ。
   そこへ静かに、女性ボーカルが乗る。
   (2)からはドラムやピアノがスイングする曲もあるが、全体的には浮遊する音像の印象が強い。
   歌はジャジーだがトリッキーさは無い。バックの特異な雰囲気が、スペイシーさをサウンドに付与した。
   酩酊と脱力を、洗練で味付けした不思議な空気が漂う。

   ギター奏者とオケの共演盤かな。03年と09年の録音をまとめ、13年に発表のECM盤。
214・Terje Rypdal:Melodic Warrior:☆★
   前半はエレキギターとオーケストラ/合唱との共演。クラシカルで両者がオラトリオみたいな盛り上がりを見せた。
   ダイナミズムがガッツリ録音されており、大音量の方が凄みは良くわかる。オケは奥行を作り
   合唱が意外に存在感強い。不協和音がミチミチと空気を詰まった。清廉な個所と濃密な混沌が交互に現れる。
   ギターソロはディストーションかかり、メロディアスに歌い上げた。だがハードロックほど綺麗じゃない。
   組曲だが曲繋ぎは滑らか。凝った構成と思うが、正直仰々しさもあり。
   後者はオケが、ぐっと前に出た。緻密な作曲は、こちらの方が好み。
   純粋に、メロディが分かりやすいって面もあるが。エレキギターもこちらのほうが、オケに馴染み必然性も強い。

   ベテラン木管奏者による07年のライブ音源。08年ECM盤。
213・Charles Lloyd:Rabo De Nube:☆☆★
   タイトル曲はキューバのラテン系歌手、シルビオ・ロドリゲスの79年ヒット曲。チャーリー・ヘイデン&LMOが
   "Dream Keeper"(1990)に取り上げており、ロイドは本テイクを参照かもしれない。
   端正なピアノがまず耳を惹く。ロマンティックな着実さからフリーのスピードまで幅広く弾いた。
   ロイドのサックスは、ちょっと線が細め。ふよふよとフレーズが漂う。(2)の切ないソロがきれいだ。
   ドラムはタイトかつ粘りを漂わす、しぶといビート。かっこいい。
   ベースは強固にノリを支える着実で頼もしいプレイ。
   アルバムはライブ盤だけあり、冒頭のスリルから最終曲のバラードまで緩急を見事に作った。
   ベストとは言い難いが、練られたライブの様子を伺うには良い盤かも。
   きっちりとコンボを作るトリオへ、ロイドが異物と解釈されてる様子が伝わる。

   ts奏者のカルテット編成。ECMで彼の5thとなる97年の盤。
212・Charles Lloyd:Canto:☆☆☆☆
   全体的にはまとまったアンサンブルをじっくり味わえる傑作。
   ただ(1)はピアノ・トリオとサックスの相性がイマイチ。タイトなオスティナートのベースを、ドラムは鋭くシンプルな刻みで支えた。
   ピアノもアタックがしっかりと硬質な響き。朗々とサックスが入った瞬間、少々ダレる。
   フレーズ終わり部分が、拍からタレ気味なため。16分もの長尺を支える異物感が耳に残った。
   逆に(2)や(3)はスマートなバラード。サックスの不安さをリズム隊が支え、ロマンティックを見事に演出した。
   シンバルが拍頭を微妙に外すセンスが、クールだ。(3)伸びやかなサックスへシンバルの絡みがキュート。ふわっとしたエコーがECMだなあ。
   (6)での緊迫した雰囲気も秀逸だ。満を持して呪術的なサックスが切り込んでくる。

   英Sax奏者が96年に吹き込んだ97年のECM盤。
211・Evan Parker Electro-Acoustic Ensemble:Toward The Margins:☆☆☆
   参加ミュージシャンが楽器を持ち替えは、トラック毎に変更か。基本、一発取りの即興に聴こえる。
   ドローン気味にノービートのフレーズが蠢き、重なる。重厚な奥行を出した。くるくると微妙に風景が変わった。
   漆黒の闇で多数の囀りを聴くかのよう。混沌に陥らず秩序保った音像は、時にクラシカルな
   響きを持つが、暗黒フリーと溶けっぷりは良バランス。SE風電子音で複雑さを強調した。
   完全即興でこの整合性ならすごい。ノイズや音響文脈で聴くと楽しめる。いわば、酩酊した緊迫。
   人力演奏ゆえの緩やかな変貌が、無茶な力技で無く綺麗だ。
   (4)のひらひらフレーズの交錯するさまが高くまとまっている。

   97年にpとvc奏者のデュオでECMから発売。
210・David Darling/Ketil Bjørnstad:Epigraphs:☆☆☆★
   静謐なチェロとピアノの対話。テンポを揺らし、いわゆる「歌う」演奏でクラシカルな面持ちも。
   奥行深いリバーブが整った印象を強調した。どちらかと言えばチェロが伸び伸びと弾いた。
   ピアノは小節性を支える役割を担ってるようだ。
   ものすごく雄大なチェロのフレーズを、ピアノが包み込む。残響の加減か、低音と高音で
   多重録音の幻想を幾度も感じた。そしてアルバムが進むにつれ多層構造が前面に出ていく。
   たんなるデュオを想像したら、足元をすくわれる雄大な音像だ。
   アタックやアクセントの薄いチェロの厳かな響きと、柔らかいがしっかりとタッチされる鍵盤の対比が美しい。

   ジスモンチのカルテット編成ECM盤で91年盤。チェロがモレレンバウム。
209・Egberto Gismonti:Infância:☆☆☆☆★
   尖った先鋭の疾走と、親しみやすいメロディが驚異的に両立した傑作。チェロがふくよかに響くと
   深みある懐が広がり、猛烈なフレーズを温かく包んだ。超高速フレーズは
   網のように空気を包み、揺さぶる。ハイテクニックのジスモンチを盛り立てるべく
   他の3人の演奏が高まるスピード感が堪らなく素晴らしい。
   隙が無く、魅力的な空間がここにある。

   As奏者がリーダーかな。カルテット編成で89年のECM盤。ECMでは2ndだ。
208・First House:Cantilena:☆☆☆
   ピアノのリバーブにごまかされるが、根は強いフリーの匂いがする。
   ビートは小節感が希薄で、ベースが構造をさりげなく担った。サウンドの熱さは
   ピアノがテナーホーンに持ち替えた(3)が突出してる。浮き立つ(6)も。
   だが全体を覆うのは密やかなムード。繰り返すが、残響のロマンティズムで隠されつつも
   けっこう尖ったことをやっている。拍を食い続けるドラム、駆け抜けるサックス。
   サックスが朗々と歌い上げる最終曲も、ピアノの和音や流れはどこか奇妙な進行を出す。

   ジスモンチとガンバレク、ヘイデンで組んだトリオ、80年のECM盤。
207・Jan Garbarek, Egberto Gismonti & Charlie Haden:Magico:☆☆☆★
   じわじわ来る、味わい深いトリオ・アルバム。
   ぱっと聴きの主役はヤン・ガンバレク。つらぬく鋭いサックスが、すべてを持っていく。
   ヘイデンは、まだいい。さりげなく低音の杭を打ち込み、存在感を出す。
   いかんせんジスモンチが・・・細かいアルペジオをばら撒く背景になってしまってる。
   もちろんジスモンチの見せ場も十二分にあるが・・・。
   ヤンのサックスは手数多く無い。高らかに強く空気をかきわけてく。
   (2)の途中でアルペジオをそのままに、柔らかなアコギ・ソロが入る。ソロのみダビング?
   それともジスモンチはこれを生演奏で弾いてるってこと?
   それにしても(3)は格別だ。壮烈で厳粛。静かなピアノの和音、削るベース。サックスが舞う。素晴らしい音像だ。
   (4)での涼やかなギター・ソロの背後で、静かに弓弾きのベースが支える頼もしさも聴きもの。
   和音の響きが幻想的なジスモンチ作(5)で、ピアノが軽やかに舞うさまったら。
   鍵盤からふわっと指を浮かせ音を切る瞬間のスリルも、たまらない。

   08年の独ジャズ。インスト中心のコンボで今のところ、唯一の盤みたい。
206・Stereo Lisa: Anno Onno Monno:☆☆☆
   フリー要素が強く、細切れなビート感を互いにぶつけ合い、じわっと硬質なノリを作り上げていく。
   アンサンブルとフリーがクルクルと入れ替わり、中心を探しつつ螺旋状に進む。
   でもフレーズが所々ユニゾンになる辺り、きっちり譜面も平行使用っぽい。
   猛烈に細密なChristian Marienのドラムが聴きもの。音量上げたら、溢れんばかりの奔流を味わえる。
   女性ボーカル二人は妙に整った雰囲気のコーラスで、サウンドに奇妙な洗練要素を加えた。

   12年発売の廉価版4枚組で60-61年のリーダー作7枚をまとめた。
205・Horace Parlan:Seven Classic Albums:☆☆☆★
   アルバムごとにばらつきあるものの、パーランの魅力をまとめて手軽に味わえる好都合な廉価盤だ。

"Movin' & Groovin'"☆☆☆
   ブルーノートで1960年に発表のピアノ・トリオ、初リーダー作。自作は1曲に留めた熱い演奏をした。
   ごつごつなサム・ジョーンズ(b)をアル・ヘアウッド(ds)が軽快なシンバルワークで彩る。
   ピアノはくっきりした和音に明るいアドリブを繰り出した。転がるフレーズをリズミカルさが惹き立たす。
   独特のタッチで粘っこいグルーヴが良い。リズムがピアノを急がせるかのよう。
   派手さは無いが腰が軽く、じわじわとノリを撒いていくピアノだ。(5)のミニマルや(6)の和音感も不思議な味。

"Us Three"☆☆☆★
   前作から約2か月後に録音の、次なるリーダー作。パーランで一枚と言えば、これか。
   重厚なベースからピアノが転げ出す。ベースがジョージ・タッカーに変わり、鉄壁トリオが産まれた。
   (1)のアップから(2)のバラードへ落下に象徴される、ドラマティックで潔いアルバム構成も良い。
   前作より洗練と熱感が増したように思う。(6)に代表されるクールさも抜群だ。

"Speakin' My Piece"☆☆
   黒っぽいが、スマート。前作から約3か月後。リズム隊は固定、パーランにとって初めてホーン入りのリーダー作。
   この1か月前にスタンリーの"Look Out"録音メンツにトミーを加え、人脈はつながっている。
   訥々なブルーズ(1)で幕開け、軽やかな(2)へ。柔らかなハイハットと無骨なベースに
   着実なピアノが乗る。タレンタイン兄弟を前に出し、ピアノはぐっと引いた印象だ。
   のびやかで無邪気なテナーと、たどたどしいペット。不器用な二人を盛り立てるかのよう。
   パーランの自作、三曲を踏まえてタレンタイン兄弟各自のオリジナルを1曲づつ。
   残る1曲はLeon Mitchell(p)を一曲と、身内で固めたオリジナル色が強い一枚。彼らのジャズを自信持って届けた。
   熱さを敢えて抑え、スマートで凝っていながらさりげなく聴ける一枚。

"Headin' South"☆☆☆
   意外とバラエティに富んだ一枚。先鋭さより親しみ安いダンディさを追求した。
   馴染のb/dsとトリオ編成に戻った本盤は、数曲のゲストでRay Barretto(Conga)が参加。おかげでシンバルのハネもラテンっぽく聴こえる。
   和音感でちょっとした濁りを漂わせつつ、軽やかなピアノをリズムがカッチリと支えた。
   破綻無い安定したアンサンブルを楽しめる。パーランの自作は2曲のみ。
   鈍いアルコで始まる(4)の渋いアグレッシブなノリが愛おしい。
   ただしミニマルなピアノが延々と続く(5)は別。凄く奇妙でスリリングだ。

"On the spur of the moment"☆☆☆
   テンポは緩やかでも、中身は熱いジャズ。
    鉄壁リズム隊は変わらず。パーランはよほど二人を信頼か。フロントにタレンタイン兄弟(ts,p)を招き
   ホットなハード・バップを繰り広げた。オリジナルは冒頭の1曲のみ。
   どの曲もサクサクとソロ回しでコンパクトな仕上がりだ。二管は好調に伸び伸び吹いている。
   (2)はノリノリでシャウトまで飛び出すありさま。フェイドアウトが惜しい。
   奇妙に不安定な(4)でのピアノ・ソロも聴きもの。

"Up and Down"☆☆☆
   前作から3か月後の録音。フロントをBooker Ervin(ts)とGrant Green(g)に変えた。ギターの洒脱さを狙ったか。
   正直、一本調子のテナーに辟易する場面多し。(4)でミニマルなフレーズを(ミス込みで)弾き続ける
   お茶目なギターは楽しいがのに。アンサンブルはがっつりグルーヴィ、ピアノも熱っぽく煽る。
   ギターもタメやメロディアスなど聴きどころ多いが、力任せのテナーが少々本盤を軽々しくしたかな。

"Doin' Allright"☆☆☆☆
   デクスター・ゴードンのリーダー名義だが、リズム隊も含めパーラン・トリオな点も踏まえ本盤を収録か。
   ペットにフレディ・ハバードを加えたクインテット編成で、"Up & Down"の一か月前に録音された。
   スケール大きく揺れるテナーと、端正なペットの対比が聴ける。サウンドから穏やかなダンディズムが滲む。
   ルーズに拍へフレーズを垂らせるテナーと、しゃっきりしたペット。対比が絶品の名曲な(2)。
   長尺ソロで互いが曇る空気をしみじみ奏でる。ブラシの響きも渋い。
   他の曲もばっちりブルージーで密やかに熱い空気をばら撒く。

   28年生まれの黒人ピアニストが晩年の02年に吹き込んだジャズ。トリオ編成かな。
204・Gil Coggins:Better Late Than Never:☆☆★
   穏やかなファンキーさが心地良いジャズだ。テクニックに走ったり、むやみにブルージーさを
   強調もしない。スムース・ジャズばりばりではないが、聴きやすさに軸足置いたジャズだ。
   だが寛いだ雰囲気と、わかりやすい響きのアドリブは素直に楽しめる。
   無骨に揺れるノリも、どことなく上品な面持ち。

2014/9/13    最近買ったCDをまとめて。

    ソロ名義だと"Wild life"(2005)ぶり。黒田京子とデュオ・ライブがきっかけか、
    カバー演奏に軸足を置いた14年発表のアコギ・ソロ。
203・鬼怒無月:My Back Pages:☆☆☆☆★
   正確な切れ味でソロも全て書き譜と間違えそう。寛ぎと鋭さが同居した、稀有な一枚。
   伴奏とソロをダビングの構造で、いわゆる独奏と異なるアプローチ。合奏で無く多重録音による
   リズム癖の統一を狙ったか。前衛要素は控え、柔らかく心静かなアプローチが目立つ。
   ハードなソロを取る一方で、こういったセンチメンタリズムも鬼怒の持ち味だ。
   テーマを丁寧になぞり、じわじわとフェイクさせるが即興的なアプローチは少なめ。
   カントリーっぽい泥臭さや、一曲の短さから凡百のイージー・リスニングに分類されそうだが、
   凛とした演奏の凄さが、明確にBGMと一線を引いている。
   エレアコの奥深く甘い音色が心地良い。

   78年のクリシュナ意識国際協会によりつくられた、ある意味ゴスペル。
   当時ヒットらしいが権利関係の困難さで未CD化を、日本のレーベルが14年にリイシューした。
202・Rasa:Everything You See Is Me:☆☆
   管はランディ・ブレッカーにジョージ・ヤングと一流どころを集めた。新興宗教ならではの
   スピリチュアルさは薄く、普通の鍵盤系AOR。しかし歌と同時にドラムを叩いてるリーダー格な
   ユージン・マクダニエルズの息子のリズム感で、ちょっと奇妙な空気感を醸し出した。
   ちょっとモタるシンバルと、ネパッと粘るキックはバックビートが薄くノッペリしたムードが漂う。
   全般的に悪くないメロウさなだけに、ドラムが惜しい。まあ自分で叩けるなら
   あえてスタジオ・ミュージシャンに任せる必然性も無いが。
   歌は鼻歌風に軽やかさを演出するタイプ。
   なおWebb Thomus(ds)のクレジットもあり。なんとなく(8)が、違うドラマーな気もする。
   ベースはRandy Covens。"s"付だが、スティーヴ・ヴァイらと共演歴あるRandy Covenのことだろうか。
 
   80年のソウル。レア盤らしいが、13年に日本のレーベルがリイシューした。
201・Kenny Mann With Liquid Pleasure:Kenny Mann With Liquid Pleasure:☆★
   歌や弦のピッチが微妙な揺らぎを作った。全般的にヨレてる気がするなあ。
   テクニックで無くアレンジで聴かせるタイプか。アンサンブルが下手でノリが薄い。
   妙な不安定さで、中途半端な盤。なぜもてはやされるかは分からず。
   良いとこ探しはもちろんできるが、他に良い盤がいっぱいある。
   ただし(6)の寂しげな雰囲気をファルセットで歌いっぷりは、ぐっと来た。

   インディ・ソウル界ではオリジナルがレア盤らしい。再発で入手が容易になった03年の盤。
200・Loot:RooLL with it:☆☆☆★
   バリー・ビーの打ち込み、作曲を基本に全22トラックの大作。ラップを踏まえた90年代ソウルを
   丁寧にアルバム全体で表現した。突出する曲もないが、あからさまな捨てもない。
   じわっと標準以上のクオリティを達成した。ファルセットまできれいに使う
   声域で、滑らかな歌いっぷり。地道ながら味わい深い一枚、か。
   隠しトラックが思わぬ成果。クールなメロウ・ソウルをがっつり聞かせる。

   イギリスの黒人女性歌手が13年に発表のデビュー盤。
199・Laura Mvula:Sing To The Moon:☆☆☆★
   自らの多重録音による密室的な音と、オケをバックにクラシカルな荘厳さ、双方が違和感なく一枚に収まった。
   和音選びの上品さと、奥行あるエコーの静謐さが魅力の基本。象徴する名曲が(5)だ。
   さらにアフリカンな躍動感と整ったコントロールも同居する。複数の要素をガップリと混ぜる
   力量と包容さ、双方を持ち合わせた稀有なサウンドだ。
   根本はコントロールされた丁寧な作り。歌声を張ってもトラックやハーモニーは細かく計算されている。
   ただし聴き手を寛がせるつもりは無く、きっちり自己主張する新人らしい芯の強さも、
   そこかしこから伝わる。ぶっちゃけ、意外と暑いアルバムだ。
   ローラ・マヴーラの今後が楽しみだ。ぐいぐいと力強く活動を広げて欲しい。
   実際は翌2014年に本作をオケとのライブ盤"with Metropole Orkestconducted"をリリース、
   既に自作の改編に興味あるようだが・・・やはり新作が欲しい。

   世代的なものか、「うる星やつら」の主題歌作曲者、のイメージが抜けない。
   81年発表ソロで、タワレコが12年に自社限定でリイシューの一枚。
198・小林泉美:Coconuts High:☆☆
   ラテンを基調のフュージョン。中間部でサイケな展開魅せるとこが新鮮かも。
   タイトだがカチカチにアレンジを固めず、もやっとグルーヴをつなぐとこあり。
   華やかな歌モノも彼女の魅力だが、2曲しかないのが残念。
   ホーン隊がタワー・オブ・パワー勢で、演奏は高中正義やペッカー、田中章弘ら日本人勢と
   ハーヴィ・メイソンらアメリカ人勢の混在だ。曲ごとにセッション違いか、クレジットから
   読み取れないのが残念。シンセを多用した。ちょっと揺らぐトロピカルが個性か。

2014年8月

2014/8/31   ちょっと気になったCDを何枚か買った。

   ハワイアン・ギターの名手で有名なソル・フーピーのベスト。Rounderが77年に編んだ。
   本盤では1926-30年の音源が16曲収められている。   
197・Sol Hoopii:Master of the Hawaian Guitar Vol.1:☆☆☆☆
   素朴だが高度に洗練された音楽が詰まった。
   ディキシー・ジャズからハワイアンにブルーズ、など。当時のポピュラーを軽々と横断し
   鋭くも温かいハワイアン・ギターで演奏するさまが凄まじい。スライド・ギターと思えぬ正確さと
   スライドゆえの震える音程の美しさが両立した。SP盤の音質割れもあるが
   スクラッチ・ノイズを低減し、エッジの鋭い音質に立てた。
   穏やかなムードだが、スリリングな演奏に耳が引っ張られる。100年近く前の演奏だが、
   今でも十二分にリアルな響きだ。トレモロの柔らかさも美しい。

   同じくRounderのベストで87年発表。こちらは27-51年音源が16曲収録。
196・Sol Hoopii:Master of the Hawaian Guitar Vol.1:☆☆☆☆
   SPのノイズを過剰に消さず、音の太さを生かしたマスタリングだ。
   温かく穏やかな風情が彼の個性。なおかつ流麗なギター・テクニックと
   絶妙のスイング感が今聴いても楽しい。ハワイアンの穏やかさに
   本盤ではジャズ寄りに選曲のようだ。小粋さが素晴らしい。チョーキングの滑らかな揺れも気持ちいいな。
   スリルではなく洗練された端正さで魅力を作る。

   オランダのサックス奏者(キャンディの実父)が94年発表、たぶん4th。
   キャンディも2曲にアルトで参加した。本盤から何曲も日本のテレビBGMに使われたらしい。
195・Dulfer:Big Boy:☆☆
   ダルファーはフロント奏者の立ち位置で、バックのホーン隊や打ち込みビートに載せ、野太くサックスが吼える形式をとった。
   エコーで奥行出し、重たいビートが重厚さを煽る。自らのソロを前面に出しつつ
   ジャズに拘泥しない。4つ打ちにディストーション・ギターで刻む(2)が典型だ。
   インスト・ギターロックのアプローチに近い。刹那的だが、たしかにキャッチー。
   しかし妙に普遍的な響きを持つのはメロディを基本的に崩し続けるアドリブが前面に出たせいか。
   楽曲によってはリフ一発で最後まで抜ける潔さも。この単調さがBGMかダンス音楽っぽい。

   米米CLUBのホーン隊が91年発(メジャーでは)1st。共同プロデュースを萩原健太が。
   バーケイズ"Soul Finger"をカバーした。
194・Big Horns Bee:BHB1:☆☆☆
   (1)の最後でハーモニカ風にホーン隊を使うセンスが新鮮だった。スタイリッシュなファンクがテーマか。
   歯切れ良いビートにスマートにブラスが見得を切る。P-Funk的な雑駁さと強靭さを整理し
   ころころ風景変わるアレンジで勇ましいスピードぶりを演出した。
   インストを中心に、数曲で米米のメンツが色を添える。スピンアウトのオマケでなく
   骨太で洒落たアルバムに仕上がった。

2014/8/24   最近買ったCDをまとめて。

   ラジオ番組"Girl Girl Girl"に関連企画で小西康陽、窪田晴男、桜井鉄太郎が94年に
   行ったライブを収録した。サックスで菊地成孔が参加。
193・Wildjimbo"Great"Rhythm Section:WILDNIGHT at SPEAKEASY:☆☆☆
   からっとクールなソウルが詰まったアルバム。全編にわたりサックスが轟く。菊地ファンにもお薦め。
   作曲家クレジット無くオリジナル不明な曲がいくつか。
   バンドはシャープなアンサンブルで、小西がベース弾いてる。歌の合間にフレーズ入れるような立ち位置で
   サックスと相まって非常に賑やかなアレンジだ。
   基本はタイトなドラムとシンプルな白人的ベースの、硬いサウンド。そこへオルガン風の鍵盤と熱いサックス、ギターが絡む。
   逆にBobby Hebbの"Sunny"をデカダンな女性ボーカルで歌わすあたり、小西っぽい。

   和太鼓奏者の彼が05年発表の3rdソロ。太田惠資が参加した。
192・レナード衛藤:Blend:☆☆★
   3曲のスタジオ作(うち1曲が太田と共演)、5曲が04年4月24&25日の草月ホールでライブ音源を収録した。
   後者は熊谷和徳(タップ)スティーヴエトウ(重金属打楽器)、レオプロ(太鼓アンサンブル)と共演。
   リズム感に強烈な和を感じる。嵐の奔流がアルバム全体を支配した。
   太田ファンのひいき目もあるが、E-Vlnとの涼やかな疾走が味わえる(3)がベスト。タイトル通り別世界だ。

   ここからはまとめ買いした盤が色々。
      リーダーは伊ts奏者、00年録音の2管p無しカルテットで詳細は良くわからず。
191・Ettore Martin quartet:Natural Code:☆☆★
   コルトレーン風のテナーを軸に、フリーにも寄りかかったソロを聴かせる。リーダーはテナーのみだが
   サイドメンが曲ごとに楽器を持ち替え音色に変化有り。ベースと管のアンサンブルのみの
   希薄なコード感が、逆にスリルを煽る。予想以上に面白い盤だ。
   曲によってはドラマティックな展開を示し、アルバム全体でもバラエティに富んだ構成を作った。

   MJQが74年に発表したバッハをテーマのアルバム。作曲はオリジナルだが、
   バッハのメロディを織り込んでるらしい。
190・Moderen Jazz Quartet:Blues on Bach:☆★
   バッハの楽曲アレンジの間に4曲のブルーズをはさむ。それぞれキーの頭文字で"BACH"を並べ、
   クラシックとブルーズで多層サンドイッチ構造を取った。
   MJQはお行儀良すぎピンとこなかったが、久しぶりに本盤で彼らを聴いて、十分ブルーズしてると実感。
   やはりブルーズ・サイドのほうが素直に聴ける。ハープシコードが導くバッハ・サイドは
   カッチリなビートがかしこまり過ぎ。
   とはいえアルバム全体で聴くと、妙な諦念や退廃感が否めない。溌剌さは無い。

   94年NY録音、tsサックス奏者。フュージョン系かな、しいて言えば。
189・Mark Johnson:Mark Johnson:
   打ち込みビートのちょっと前のめりなスムース・ジャズ。あんまり真剣に聴くものでもない。
   ストリングス系のシンセでスケールの大きさを表現してテナーが朗々と鳴る。
   BGMだと少々喧しい。店舗でトロピカルに賑やかしとか、に向いている。

   こちらは95年に発売のスムース・ジャズ。
188・Mark Johnson:Daydream:
   打ち込みで一通り作った曲もあれば、ベースや鍵盤、ギターにミュージシャン呼んだのと二種類あり、
   コンセプトが今一つ読めず。冒頭は派手だが基本はミディアム~バラード。
   シンセと打ち込みドラムで賑やかに盛り上げ、ぶりぶりサックスを聴かせた。
   カバーはプリンスの"When you were mine"とテンプスの"The Way You Do the Things You Do"、ソウル寄り。
   BGM狙いだろうから評価云々で言わないが、ドンスカなリズムがうるさい。
   ゲストでJames "Crak" Robinson呼んだ(7)が全面歌モノ曲が、メロウ・ソウルとしてまずます聴ける。

   93年の録音でサイドメンはトミフラやデジョネットら。51作目のリーダー作。2曲は金管オケも従え
   ゴージャスに響かすが、基本はコンボ編成だ。
187・Sonny Rollins:Old Flames:☆☆☆★
   スリルとは無縁。しかし寛ぎつつ、ソロの音使いには耳をそばだてるジャズが詰まった。
   単なるBGMジャズに堕さない、ベテランならではの味を見せた。ロリンズの代表作とは言わないが、好盤だ。
   サックスとピアノ二人のソロは長めにスペースが置かれ、せわしなく無いのも良い。
   ロリンズの魅力がフレーズ作りにあると、実感した一枚。

   89年のリーダー作。3種類のセッションを纏めた。
186・Sonny Rollins:Falling in Love with Jazz:☆☆
   傑作とは言わないが、悪くは無い。
   フュージョン&スムース・ジャズの時代性を、モダン時代の意地と折り合いながら
   落としどころ探った一枚と聴ける。ゲストをふんだんに招き、話題性を狙いながら
   ちょっとか細いテナーはメロディアスにアドリブを取った。セッションは3種類に分かれた。
   ブランフォード・マルサリスを相方に、ピアノは盟友フラナガン。しかしエレべを採用のクインテット編成が、セッション1。
   このエレべ奏者をエレキギターに起用し、ディジョネットをドラムに招いたセッション2。ピアノはMark Soskinだ。
   セッション3はMark Soskinにピアノとコルグを弾かせ。リズム隊はそのまま。フロントにClifton Anderson(tb)を招いた。
   全編エレべの艶めかしさを、スインギーなドラムで彩った。

   Vib奏者のオケ編成によるバカラック集。68年にLAで録音された。
185・Cal Tjader:Sounds Out Burt Bacharach:☆☆☆★
   元は多分BGMジャズ狙いの企画盤。だが、ひねったポップスの味わい含んだ仕上りだ。轟音でオーケストレーションを楽しみたい。
   Alan Foust,Gary McFarland,Mike Abeneの3人アレンジャー体制でバラエティ持たせる。
   ドラムはジム・ケルトナーを起用しロック・テイストも忘れない。
   ベースがクレジット無し。誰だろう。バカラック提供のオリジナルと思しき曲を羅列すると
   (1)カジノ・ロワイヤル(1967)、(2)ジャッキー・デシャノン(1965)(3)ディオンヌ・ワーウィック(1963)、
   (4)ディオンヌ・ワーウィック(1962)、(5)ジェリー・バトラー(1962)、(6)Love(1966)、
   (7)ディオンヌ・ワーウィック(1967)、(8)ディオンヌ・ワーウィック(1964)、(9)ディオンヌ・ワーウィック(1964)。
   ディオンヌ多用はメロウでジャジー狙い故の重なりとして。67年発表本盤で、ごく近作を採用と分かる。
   本盤のアレンジは主役がビブラフォン。ドラムをタイトに効かせ、ベースがリズミックに動く。
   オケはさほど目立たず、ソロも無し。ゴージャスで寛いだ盤。だがバカラック特有の豪華な響きと
   スピーディなビブラフォンが、一ひねりしたスマートさを図らずも演出した。

   独の女性org奏者の99年吹き込みで、多数のゲストを招いた。
184・Barbara Dennerlein:Outhipped:☆☆☆
   資質はクール・ビューティーなオーケストレーション。
   12曲を詰め込んだ本盤は曲ごとに方向性を変える。オルガンは伴奏よりも金管を連想する
   アプローチを多用した。つまりノイジーなフラジオの木管や、和音連発の鍵盤楽器の方向より
   ビバップな激しく上下するフレーズが目立つ。
   ぱっと聴き、とっ散らかった印象だが聴きこむほどに丁寧なアレンジと多様な音楽性に唸った。
   ほとんどが5~6分の曲で、アルバム全体をつかむのに苦労する。20分以上の長尺も
   聴いてみたい。彼女がどんなふうにアレンジするだろう。

   こちらは95年の盤。NYのパワー・ステーションで録音された。
183・Barbara Dennerlein:Take off!:☆☆☆★
   曲ごとに表情を変える上、大編成でもごちゃつかないアレンジセンスも心地よい。
   聴きやすくサクッと仕上がった。凝った構成の曲を、さまざまな編成のコンボが軽やかに奏でる。
   分離良くスッキリした録音の成果か。バーバラは自らのソロにこだわらず、
   共演者へふんだんにスペースを与える。もちろん自らはソロに伴奏に弾きまくり。
   粘っこさとは無縁。スマートでクールなオルガン・ジャズだ。

   ミンガスのサイドメンなどをつとめたts奏者による79~81年の録音を集めた。
182・George Adams:Ballads:☆★
   ドン・プーレンとのグループやアダムスのソロ名義アルバム、79~84年までに吹き込んだセッションから
   バラード的なものを選り抜いた日本編集のベスト盤だった。
   破綻もないがスリルも無い、が正直なところ。ジャズ風BGMでなく、BGMにしかならぬ
   毒も薬も無いジャズ、な印象だ。普通に聴き流す分には良いが。
   当時"新伝承派"なる言葉があったが、言い得て妙。もろに伝承しただけ。新しさが見当たらない。
   ただし"Paradise Space Shuttle"(1979)収録の(5)は耳をひいた。
   さえずるように高音をフリーに遊ばせるフレーズを飾りに、ロマンティックながら滲む透き通った冷静さが良い。

   スウェーデンのジャズかな。92年録音。saxのリーダー作でサイドメンはb,Voice,dsと変則的な編成だ。
181・P.A.Nilsson:Random Rhapsody:☆☆
   主役のニルソンがコンピュータでリズム作りssとbsをダビング。さらにゲストで
   ベース、ボイス、ドラムを招いた。
   サックスはきっちりアレンジされてるが、フュージョン的な爽快さは皆無。
   むしろ重たいテクノ風の印象だ。抽象的な浮遊したインプロが本盤の魅力か。
   コラボの必然性は薄く、ソプラノ・サックスのスピーディなソロに耳が行った。
   ここで本盤の解説が読める。
   ベースと対話がスリリングな(4)もいい。
   全体的に派手な即興の斬り合いでなく、静かな音の積み上げだ。

   独のセプテット編成で00年の録音。3rdアルバムかな。
180・Swim two birds:Sweet Relief:☆☆
   コンボ編成だがビッグバンド風に聴かせる箇所も。ラテンやビバップなど
   さまざまなジャズを咀嚼し、低音でクールな歌を載せる。
   ファンキーだがグルーヴせず、白っぽい鋭さを常に漂わせるとこが個性だが
   個人的にはもう少しねちっこいほうが好み。いわばアシッド・ジャズみたいな違和感あり。

   02年のアシッド・ジャズで4thアルバム。
179・Liquid Soul:Evolution:
   ソロ回しよりフレーズ繰り返しでタイトさを出すアプローチは、打ち込みファンクやソウルのカラオケっぽい。
   テクノやヒップホップ、ジャズまでバラエティ広さを狙いは分かるが、上物が欲しくなる。
   BGMやクラブのベース・リズムに良いかも。
   (5)や(11)のように明確なソロある曲のほうが、すんなり聴ける。

   のちに03-4年にストーンズのツアーメンバーをつとめた、ts奏者が94年発売のソロ。
178・Tim Ries:Imaginary Time:
   徳間ジャパン傘下のMOOから発売の本盤は、日本スタッフの企画盤のようだ。
   Joey Baron/Scott Colleyのリズムを軸に複数のセッションを纏めた。
   アンサンブル的にはBen Monder(g)が支え。逆にFranck Amsallem (p)が入るとギターが抜けた。
   コード楽器を使い分けるとこが、彼の拘りか。音楽性はストレート・アヘッド。
   けっこうサックスが青白く響く。録音のせいもあると思うが。
   どのセッションも基本は複管の編成。飽きぬように工夫したか。
   あっさりした印象で、(4)や(6),(7)みたいにロマンティックなアレンジが耳を惹く。
   アップでも粘りは薄く、涼やかに駆け抜けた。

   as奏者の91年盤。ブラッド・メルドーの録音デビュー作が本盤だそう。エンジニアがルディ・ヴァン・ゲルダー。
177・Christopher Hollyday:The Natural Moment:☆★
   いわゆるアグレッシブなハード・バップで、休まず吹き、叩き、疾走する。カラッと明るいノリ。
   スポーティとは言わないが猛り続けるプレイだ。サックスの音色が金属質で、ちょっと薄い。
   テンション上げたい時に良いかも。

   65年欧州でカルテット編成ライブをLP化したもの。
176・Wes Montgomery:Twisted Blues:☆☆☆★
   ガッツある太い音色、オクターブ奏法の深み、あふれ出るアドリブ、スピーディなムード。
   冒頭からスリルいっぱいのライブ演奏を楽しめる。晩年の頃だが歳自体はまだ若く、溌剌な演奏を聴かせる。
   セミ・ブート音源のようだ。詳しいクレジットは見当たらない。ここから推測するに、
    65年3/27、パリ"Theatre Des Champs-Elysees"でのライブ音源だろう。もし正しいなら、曲順は
   6→2→4→1→3→5。さらに同日ライブ音源から2曲カットした盤になる。
   だが普通に聴いてて、ライブを無暗に弄った印象は無い。ダンディなウェスのギターを堪能できる一枚だ。
   録音も特にノイズは気にならない。ちょっと籠ってるくらいかな。

   スティーヴィー・ワンダーの同年アルバムを取り上げて、fl奏者が95年に発売。
175・Najee:plays Songs from the key of life:☆☆★
   曲順も同じでほぼすべての曲をジャズ風にアレンジ、CD一枚にまとめた構成を評価する。
   アドリブにもこだわらず原曲イメージを最大限生かし、さりげなくソロを挿入する感じ。
   BGM風アプローチだし、原曲を超えてるとも思わないが、なぜか本盤には惹かれる。侮れない。
   たぶん"消化"にこだわったアレンジが魅力なんだろう。インタビューを混ぜた"Sir Duke"が特によかった。
   ジョージ・デュークがプロデュース/演奏の本盤はミュージシャンも豪華。レイ・パーカーJr.(g),チャック・レイニー(b)を筆頭に
   さまざまなスタジオ・ミュージシャンが参加した。
   原盤に参加のマイケル・センベロやググレッグ・フィリンゲインズの名も。
   なぜ95年本盤を?は解せないが、一聴の価値有るフュージョンの盤だ。

   p&Vib奏者がさまざまなゲストとデュオした盤。94年にテデスコ・スタジオで録音された。
174・Karl Berger:Conversations:☆☆☆
   捻った顔ぶれとの共演が興味深い。ジェイムズ・ブラッド・ウルマーやマーク・フェルドマン、
   デイヴ・ホランドなど。フリー寄りだが聴きやすい。リズム楽器無い分、奔放に演奏は広がる。
   斬り合いより互いに紡いでいく感じ。そのぶん、ふわっとピントがボケたか。

   詳細不明、13人組。伝統曲とオリジナル、双方を演奏した。ブラジル・ジャズかな?90年の発売。
173・ILE AXE:BRAZIL CALYPS'O SAMBA:☆★
   初手からサンバ・パーカッションが10分。ラテン・パーカッションを基調にボーカル曲とインスト、
   双方の要素が詰まった。とっ散らかった印象もあるが、ビートを主軸に考えたら良いか。
   アップテンポでもスリルより、寛ぎを感じさせるサウンドだ。

   ベテランのNYラテンper奏者が満を持して05年に発売の1stソロ。グラミー賞ノミネート作らしい。
172・Sammy Figueroa & his Latin jazz explosion:...Sammy Walked in:☆★
   かっちり隙無い出来で、ラテン・フュージョンな面持ち。コンボ編成で正確なパーカッションを基軸に
   Michael Ortaのピアノが全編を弾ませる。悪くは無いが、毒もない。サルサやマンボも混ぜて、バラエティには富ませた。
   粘っこいファンクな(7)やハングパンを叩きながら歌う(10)が聴きどころか。

   NYのラテンper奏者、7thソロで04年吹き込みのジャズ。
171・Ray Mantilla:Man-Ti-Ya:☆☆☆★
   ラテンはあまり聴かず、比較基準が自分の耳に無い。だが本盤は楽しめた。
   軽快でハッピーなラテン・ジャズ。耳馴染み良い上に、じっくり聴くとリズムの細かな重なりが刺激的だ。
   曲調もバラエティに富んでいる。テンポもムードも構造も。
   ドラマーを別にたて、レイはパーカッションへ専念した。たっぷりのソロまわしで疾走するアンサンブルが本盤の中心だ。
   アレンジは他のメンバーに任せるあたり、レイは構築や独自性より、グルーヴの提示が主かも。結構メリハリあるアレンジだが。
   ホーンのアドリブもリズムや譜割を弄りつつ、スピーディに疾走する。シャープなビートの集成な(4)が秀逸。

   70年代結成のブラジルのボーカル・グループを、日本編集の96年アルバム。
   "Dançando pelas Sombras"(1992)と"Americana"(1995)収録曲の編集盤。前者はマルコス・スザーノ(per)が参加、
   後者はナナ・ヴァスコンセロス(per)の参加が特徴だそう。
170・Boca livre:O vento que Brilha:☆☆☆
   しゃくしゃくと小刻みなパーカッションを土台にアコギを前面に出し、爽やかなコーラスが広がる。
   所々で複雑に響くハーモニーはあるけれど、基本は同様の和音でユニゾン的に広がる開放感を選んだ。
   だからこそ倍テンでメロディが駈ける(3)や緩やかにハーモニーが絡む(5)、
   急速に和音が変貌するアカペラ(6)などが、一際引き立つ。

   アフロ・ラテン系グループが89年発表。
169・The Jazz Renegades:Freedom Samba:
   スイングからハード・バップ、ラテンに歌モノにクールとバラエティに富んだ・・・と言えば聞こえがいいが。
   小器用にオムニバスっぽくまとまった気がする。

   英ウェールズはペンブルックシャーのドルイドストーン・ホテルにて99年4月24日のライブ盤。
168・The Brasshoppers:Live!:☆★
   ピアノ無し、6管にds+perの特異な編成で、ディキシー風のジャズをハッピーに演奏する。
   ただしビートやリフのフレーズは粘らず、拍ジャストで刻む辺りが今風、か。
   カバー曲中心でパーティ・バンドのイメージが強い。個性までは至らない、かな。
   サウンド自体は気持ち良く、BGM向き。さほどソロも強調せず、アンサンブル志向だ。

   伊ジャズで95年に唯一残したアルバム。クラブ系で人気盤らしい。
167・Fez Combo:Follow the spirit:☆☆☆★
   爽やかなラテンジャズは女性ハーモニーも入り、ルパン三世のサントラ聴いてる気分に。
   スマートでスピーディを基調に、次々曲を奏でてく。ライナーには曲への
   こだわりも色々書かれてるが、基本はすんなりと聴ける。だがBGMにはもったいない。ガツンと
   音量上げたら、3管コンボ・ジャズの迫力も滲む。ようはマスタリングが平板なきらいあり。

   伊のアコーディオン奏者が99年発表の盤。
166・Gianni Coscia Quartet:A Kramer Piaceva Cosi:☆☆★
   ピアノ・トリオにアコーディオン編成な本作は、イタリア要素は控えめでオーソドックスなジャズを聴かせる。
   ただし楽曲は30-50年代頃に活動した伊のジャズ・ミュージシャンのGorni Kramer曲集であり、自文化に着目した盤だ。
   小粋で滑らかなメロディを丁寧にアドリブで膨らませていく。
   渋い、イタリアのジャズ。アコーディオンが温かく響く。刺激は無いが、こういうのも良いな。

   たぶん現在に至るまで唯一な、tb/p奏者のリーダー作。David Liebmanが参加の96年盤。
165・The Greg Waits Group:...and into the light:☆★
   オーソドックスなジャズで地道に活動らしい。本盤は時折、モダン時代のマイルスを思わせる
   ムードが漂う。ときどき、奇妙にフリーっぽい要素を混ぜた。とはいえコンパクトできれいにまとまったジャズ。
   サロンのBGMに留まらず、もう一歩熱狂が欲しくもある。

   ビッグバンド編成かな。tb奏者による99年の盤。
164・Paul McKee:Gallery:
   メンバー変えた複数のセッションを纏めた、コンボだった。テーマのユニゾンで
   捻るところもあるが、基本はストレートなジャズ。スムースなほどに引っかかりが無い。
   上手い人がジャズをお勉強的に演奏した感じ。トロンボーンはさすがの上手さ。
   参加ミュージシャンでクオリティ変わる。2曲で参加のMike Kocur(p)の演奏が耳を惹いた。

   tpdsのハーパー兄弟によるバンドの2ndで90年発表。
   NYはVillage Vanguardの89年9月のライブを2chデジタル録音した。
163・The Harper Brothers:Remembrance: Live at the Village Vanguard:☆☆☆
   NYスタイルの前のめりなハード・バップ。派手さは無いが、いい。ある意味、地元感溢れるライブ盤だ。
   ベースの北川潔は本盤が世界デビューらしい。tp/asの二管編成で骨太のグルーヴィな
   ジャズを聴かせる。凝った編曲や作曲無しでも、演奏から滲むパワーにガッツリ惹かれる。
   曲調は意外なほどバラエティに富んだ選曲だ。

   英b奏者のリーダー作で05年の録音。3rdかな。
162・Alec Dankworth:Spanish Accents:☆☆☆
   スペイン人ドラマーMarc Miraltaを招き、b,Vln,sax,g,バグパイプの変則6人編成。
   スペイン風味を漂わせつつも基調は欧州ジャズ。数曲で女性ボーカルも招いてる。
   アレックのオリジナル曲は少なく、カバー曲はチック・コリアやガレスピー、パット・メセニーなど。
   つまりガリガリのスペイン憧憬ではない。イギリスの伝統を踏まえつつ、欧州センチメンタリズムを振りかけたジャズ、か。
   ゆったりしたムードで滑らかに音楽が紡がれる。(4)の弦や(5)でギターとサックスの重なり合うさまなど、
   アンサンブルの調和が聴きもの。ひたひたと、密やかにグルーヴする。

   90年のライブ盤でビッグバンド編成、ts奏者がリーダー。
161・Bob Belden Ensemble:La cigale(Live in Paris):☆☆
   大歓声のライブ盤だが、妙に大味な気がするビッグバンド・ジャズ。
   フリー系の要素強いのかな。ドラマティックなオケの上で、力任せに軋ますソロが目立つ。
   ただし(3)以降の雄大さに耳が馴染むと、面白みある。でも、ソロはいまいち。

   ピッツバーグのギタリストによる94年の2nd。
160・Ron Affif:Vierd Blues:☆☆★
   50年代初期にミドル級世界8位のボクサー、Charley Zivic(Charley Affif)を父に、ジョージ・シアリングやシナトラと
   共演歴あるギタリスト、Ron Anthonyを叔父に持つRon Affifが出した2ndは、マイルスのモダン時代の楽曲を取り上げた。
   一曲だけ、マイルスに捧げたオリジナルも収録。
   共演は上記のRonも含んだ2曲と、コンボ編成の8曲。Brian O'Rourkeの温かいピアノが
   全編を支え、ブライトで穏やかなRonのギターをたっぷり聴ける。流麗なギターは
   決してフリーに行かず滑らかにアドリブを紡いだ。何回か聴いてるうちに、すとんと耳に落ちた。
   オーソドックスだが着実なギターは、さりげなくも確かなテクニックに支えられてる。
   つい聴き流しそうな耳馴染み良さを持ちつつ、惹きつけるフレージングだ。

   ギタリストとドラマーのコンビによる双頭リーダー・グループの04年盤。
159・The Frank & Joe Show:33 1/3:☆★
   Dr.ジョンやジャズ・ボーカルのジェーン・モンハイト、マンハッタン・トランスファーのジャニス・シーゲルを
   ゲストに招いたラテン風味のスインギーなスタンダード・ジャズ。
   鳴りのいいエレキギターの軽快さが浮き立つ。基本はインスト、アップテンポで華やかに盛り上げた。
   新しさより古き良きジャズを丁寧になぞったギターが美味しい味わいだ。畳み込む勢いが良い。
   一曲だけギルバート・オサリバンの"アローン・アゲイン"あるとこが、選曲的にずれてるが
   音的に違和感はない。
   いわゆるラウンジ・ジャズとも聴ける。ギターが素晴らしくスピーディだが。

   スイングに至る前のジャズにて名tp奏者と称えられたビックスの1924-29年音源を集めた、01年ナクソス盤。
158・Bix Beiderbecke:Riverboat Shuffle:☆☆☆★
   ビックスのソロは自在な拍跨ぎのメロディが良い。旋律の即興性と構成力が特徴か。
   100年近くたった今でも古びない。(7)で彼のピアノソロも聴ける。
   比較的初期の音源を集めたコンピ。ビックスは楽団の一員とし参加の場合が多そうだ。
   ソロ回しの尺は比較的短い。スイング感を滴らせつつ、楽団ごとにバラエティに富んだ
   アレンジが当時から行われてたことを実感した。
   刻みっぱなしのリズムで無く、ブレイクや楽器アレンジで場面を変える曲もあり。
   無いのはテンポの揺らしとアグレッシブな破綻さ。本盤では上品さが常に漂う。
   ドン・マレイのクラリネットも良いソロがいっぱい。
   スイングからビバップまでの期間は、形式にジャズが硬直化された気がしてならない。
   本盤で聴けるジャズのアレンジは、すごく自由だ。

   94年に行われたVerve50周年記念イベントのライブ盤。出演者に山下洋輔の名も。
157・V.A.:Carnegie Hall Salutes the Jazz Masters:☆☆★
   豪華なゲストを招いたお祭りの一夜を封じ込めた盤。ジャズの優美さと豪華さを強調した
   サロン風の盛り上がりながら、多様なアプローチとベテラン勢の優雅な演奏集は楽しめる。
   猥雑でパワフルなムードを、板の上で金持ち相手の商売に仕立てた、ある意味Verveらしい盤。
   贅沢だが熱さは薄く薄められている。若者で無く中年向け。
   所々面白いセッションも確かにある。全部を受け入れず、多様さから抽出狙いか?

   蘭Challengeレーベルが00年発売のセッション盤、かな?
156・V.A.:A-Records All-Stars Edition 2000:
   レーベル5周年の記念ライブ。いわゆるお祭りで無難なプレイが続く。
   欧州風のクールで丁寧なジャズだ。曲は参加ミュージシャンの自作かアレンジ曲で、
   誰かを立てずフラットな関係でセッションした。
   どこか上品でロマンティックな所が味か。

   40年代のエリントンと同世代な4バンドの演奏を集めたコンピ。
155・V.A.:The Fabulous Ellingtonians:☆★
   整ったビートとアンサンブルに、エキゾティックなムード。エリントン同世代の4楽団集だった。
   バンドによってはエリントンゆかりのミュージシャンも参加してる。本盤で発掘音源の収録が、当時は話題か。
   細かく聴くと凝った場面はもちろんあるが、意外にサクッと聴き流してしまった。
   ロマンティックなムードが強まるほどに、エキゾティックが薄れていく。
   逆にエリントンの普遍性とメロディの美しさ、構築美が強調される格好か。

   96年封切り仏米合同なギャング映画のサントラ盤。音楽監督はハル・ウィルナー。
154・OST:Kansas City:☆★
   現代のミュージシャンでスイングを構成したアルバム。
   観客ノイズなども盛り込み、雑駁な当時の様子を活写する狙いか。
   ソロはスインギーだが、どこかフリーキーさに現代性も感じる。当時の様子は当然知らず
   思い込みによるが。詳しい人なら違う感想も持つだろう。
   変にきれいにまとめず、パワフルさを漂わす演奏は純粋に楽しい。
   綺麗な録音ゆえに個々の楽器もきちんと聴き分けられるのも、なんかいいな。
   疑似的な生々しさが漂う。なりきったこそのリアリティを感じた。

   58年録音、映画のサントラかな?
153・Gerry Mulligan:The Jazz Combo From "I Want To Live!":☆☆★
   東京のジャパン・ジャズクラブなるレーベルによる94年の復刻。現在ではOST含む09年の再発盤あり
   希少性は無いが、当時だと貴重だったのかも。本盤は6曲入り、マリガン・コンボの楽曲のみ収録した。
   ダンディでさみしげでスマートなコンボが楽しめる。バリバリ感が希薄なバリサクが
   金管群とスムーズにつながる響きが堪らない。

   英Sounds of Yester Yearが編んだ1946-47年ライブ音源の編集盤。
152・Buddy Rich and his orchestra:Just a sittin' and a rockin':
   ノイズ交じりの籠った音質だが、クレジットや録音期日はきっちり記載の良スタンスな盤。
   46-47年にかけ5種類のラジオ用音源から抽出した。ハイテクニックなドラムを売りに
   丁寧なビッグ・バンドジャズを聴かせる。音楽は悪くないが、あまりのノイズ多さに点は低い。
   ただこのノイズは、CD盤そのもの起因っぽいが。

   98年発売、イージーリスニング・ジャズでリーダーはts奏者。
151・Denis Solee:Sax and Romance:
   プロデュースとアレンジはtb奏者でもあるクリス・マクドナルド。テナーはデニス・ソリーが努めた。
   Adair-Solee Quartetのメンバーで、多数のスタジオ作に参加してる。
   楽曲はスタンダード。狙いはあくまでスムース・ジャズで楽曲の出来やソロを云々言う代物ではない。
   だがオケやリズムを全て生演奏、ゴージャスに仕上げた方向性は評価したい。
   98年作とはいえ、シンセでごまかすことも可能だったはず。録音は全てナッシュヴィルで行われた。
   甘い弦に覆われた静かなアンサンブルを、のびのびと太いテナーが歌う。

   97年に32 Jazzレーベルが権利を持つ音源で編んだモンクへのトリビュート盤。
   レーベルMuseとLandmark録音で、ベテラン群によるモンク曲カバーのコンピ。
150・V.A.:For the love of Monk:☆★
   基本はどれもコンボ編成。洗練かつ流麗にモンクを料理した。ブルージーさは控え、ハッピーな前のめりを強調で。
   本盤はあくまでコンピで、過去の音源集で録音は77年から92年までバラバラ。
   これを手がかりにそれぞれのミュージシャンへ深堀りしてく手か。
   モンクのテイクと弦楽四重奏を強引につなげたクロノス・カルテットの解釈が何とも奇妙だ。
   どれも演奏は悪くない。

   50年代ブルーノート音源を全9曲、マイケル・カスクーナが96年発表のコンピ。
149・Miles Davis:Ballads & Blues:☆☆★
   最初は安易な企画盤かと舐めてたが、選曲がきれいですんなり聴けた。
   収録曲は"Birth of Cool"から1曲、キャノンボールの"Somethin' Else"から2曲。
   あとは"Volume 1"と"Volume 2"収録曲でまとめた。録音時代も幅があり、
   コンセプトも違う。だがごく滑らかに聴き流せた。
   ロマンティックでほんのり不穏なサウンドに焦点を当てた一枚。

   ケン・バーンズ監督のドキュメンタリー・サントラとして編まれたベスト。
   サヴォイからヴァーヴまでレーベル横断で編まれた00年の盤。
148・Charlie Parker:Ken Burns Jazz:☆☆★
   時系列に16曲、パーカーの録音を並べた。レーベルも跨いで概覧には良いかも。
   弦との共演もいくつか有り、ちょっとゴージャス感を演出した選曲だ。
   盤起こしは仕方ないが、曲ごとの音質はそれなり。
   まだぼくはパーカーの偉大さがストンと耳に落ちていない。もう少し、聴き込もう。
   しかしガレスピーとのセッションは本当に、曲芸みたいなすさまじさだ。

   日本編集のワゴン盤かな。クレジットなにも無し。ベンソンは聴いてなく、ちょうどいい。
147・George Benson:Greatst Jazz:☆☆☆
   たぶんライブ盤の"Jazz On A Sunday Afternoon Vol. I"(1981)全曲に、同"Vol.2"(1981)から"Oleo"と
   同"Vol.3"(1982)から"All The Things You Are"を入れた編集。ずいぶん中途半端だな。
   録音は73年の4月29日、ニュージャージー州PlainfieldのCasa Caribeにて。
   音はブート臭い籠った響きだが、演奏は素晴らしく熱い。猛スピードで疾走するギターを筆頭に
   ファンキーさを保ちつつテクニカルなアンサンブルは脅威だ。
   スタンダードの並ぶ曲順に惑わされるな。凄い演奏が詰まった。

2014/8/16   最近買ったCDをまとめて

   花代の肩書はパフォーマーでいいのかな。95年発売のシングル。タイトル曲を菊地成孔がアレンジして、
   ミュージシャンとし秋田昌美(Merzbow)が参加した。菊地のセンスかと思いきやここの記載で
      「1992- ・メルツバウの秋田昌美と暴力温泉芸者の中原昌也らとバンド「マスカッツ」を始める。」とあり驚く。知らなかった。
146・花代:Dang Dong:☆☆
   歌はそうとうに下手くそ。菊地がアレンジの(1)で、メルツバウは味付け程度ながら
   きっちりハーシュを鳴らしてる。ポップスに埋没したノイズってのも奇妙で面白い。
   第一期スパンクスのポップで尖った感じが、ドスドスするドラムで響いた。
   (2)はまっとうな歌謡ポップだが、逆に歌声が滑らかに聴こえてしまう。
   時代を超えた魅力は薄いが。作曲は松村基樹。
   ハイポジの松前公高が作曲/打ち込みした(3)は初期YMO的なテクノ・ポップ。
   突き抜けた個性の(1)と逆に、ある意味、一番普遍性がある。
   本盤3曲中、どれを選ぶかと聴かれたら問答無用で(1)なのだが。

   大友良英が担当した09年のサントラ。
145・OST:ウルトラミラクルラブストーリー:☆☆☆
   訥々とメロディが紡がれ続け、サイン波やノイズ、パーカッションが彩りを付ける。
   映画は未視聴だが、単独で聴くとミニマルとも音響派とも違う、奇妙に持続性ある
   静かな音楽で面白い。メロディの脈絡が時に揺らぐかのよう。寛げそうで緊張をはらむ。
   不穏のムードをあおるのは、ディストーションの効いたギター。
   素朴なメロディとノイズが並列かつ自然に存在する、大友らしい作品だ。

   06年に期間限定で活動、本盤のみを残した。メンバーは朝日美穂、もりばやしみほ、川本真琴。
144・ミホミホマコト:ミホミホマコト:☆☆★
   ハーモニー回しで味わえるとは言え、コラボと言うより企画ユニットの印象が。
   (1)はSavannah Churchillの1947年ヒット曲、(2)は63年のピーター・ポール&マリー。
   オリジナル曲も含めて、全般的に60年代ポップスを下敷きのアレンジで、キュートに仕上げた。
   川本ファンには(5)の元気な唄が嬉しい。契約の都合か、名義は変名だが。
   歌い出し一発で川本と分かる節回しがさすがの個性だ。
   ユニットっぽさを強調かもしれないが、もっと三人の個性を強烈に聴きたかった気も。
   いずれにせよミニ・アルバム一枚の瞬間的な作品だ。

   03年の1stソロ。客演で松任谷由実やキリンジ、畠山美由紀、ハナレグミが参加した。
143・冨田ラボ:Shipbuilding:☆☆★
   多くのゲストを招いて豪華さを出しつつ、ホーンや弦以外は全て打ち込みの内省的なメロウ・ポップ。
   ティンパン的な切なさが全開だ。生演奏っぽいドラムの打ち込みがカッコいい。
   
   きめ細かで仮想グルーヴを楽しむ、密室的な魅力あり。最たるものが(10)。熱く疾走する鍵盤とドラムのバトルを
   全て打ち込みで表現した。鍵盤は一部、手弾きかも。
   コード進行の富裕さもきれいだ。じわじわと聴き進み、複雑な構造に親しんでいきたい。

   水野正敏(b)のバンドで村上秀一や仙波清彦、梅津和時ら、大勢が参加した07年の盤。
142・The Method:Vector音律:☆☆☆☆
   どっしりガツっと重たいドラムの上で、濃密なアンサンブルが繰り広げられる。
   構成だけ決め、あとはミュージシャンのセンスに任せたっぽい。リズムは仙波が切れ味鋭く
   全編にわたって味付けた。古川初穂の鍵盤もダイナミックだ。
   フュージョン風の立ち位置ながら、奏者のごった煮なほどに多様で多彩なアプローチが
   ぎっしりおなか一杯の密度で詰め込まれた。かっこよさいっぱい。

2014/8/6  注文したCDが到着

   ヴァン・モリソン12枚目のソロで80年の発売。
141・Van Morrison:Common one:☆☆☆☆
   とっつきづらいがコクがある。アイリッシュと黒人音楽を融合さす、ヴァンの真骨頂だ。
   さらに本盤では彼流のプログレ要素も出た。15分ものドラマティックな構成の
   大作2曲を収録した、全6曲。ホーン二管とストリングスが分厚く鳴る。
   ライムっぽく歌う箇所は、ラップに通じるスピード感だ。素朴で牧歌的で一本気なムードがアルバムを包んだ。
   柔らかく迫ってくる名曲(4)も聴きもの。

2014/8/3   レコ屋に寄ってきた。久しぶりに新宿行くと、いろいろあるな。

   ここ数年、ソロを毎月のようにリリースするゾーンの諸作をまとめて入手。本盤は12年8月発表の、
   小オーケストラを組んだアンサンブルで仏詩人アルチュール・ランボーに捧げられた。
140・John Zorn:Rimbaud:☆☆☆
   高速フレーズと落差あるダイナミズム、冷徹な現代音楽のアンサンブル。そこへひよひよと
   奇妙な音が微かに乗る。鋭く跳躍する旋律は小節感を伺わせず、めまぐるしく疾走した。
   ゾーンらしい混沌とハイテクニックを混在させた楽曲は、細かいオーケストレーションが
   緻密な音像で鮮烈に空気を震わせる。聴きづらいが、聴きこめる。
   独特のハーシュな室内楽。(1)は生楽器、(2)は電子音が比較的前面に出た。
   (3)はピアノ、(4)がすべての集大成で、仏語の朗読が乗る。

   13年2月発表、バイオリン・ソロもしくはデュオをテーマに書かれた楽曲を収めた。
139・John Zorn:Lemma:☆☆
   超絶技巧を無暗に要求するゾーンらしい現代音楽。情緒や余裕は、ほぼ無く全編で疾走と
   特殊奏法を要請される。おそらく忠実に再現する奏者のテクニックに呆然とし
   たぶん譜面見たら面白さが倍増するはず。通して聴いてると、性急な弦の響きに
   圧倒されつつ、少しは寛ぎも欲しくなる一枚。スポーツ的な速弾きで無く、
   突飛な音列の連発が続くため。だが観念に向かわず音楽の立ち位置をズラさぬところもゾーンらしい。

   10年10月のリリース。99年の作曲でチェロ三重奏やバイオリン協奏曲といった
   現代音楽の立ち位置な作品を収めた。
138・John Zorn:What Thou Wilt:☆☆☆
   どれも尖った作品だが、聴き応えは有る。実験性と聴きやすさが同居しており、意外に現代音楽好きにはお薦めかも。
   アルバム表題はラブレー/クロウリーの概念"汝のなす事を"より。収録曲はどれもオカルティックな
   題材に数学的な構成を持った楽曲と思う。聴いてるぶんにはゾーン流のめまぐるしい
   場面展開と速くテクニカルなフレーズが交錯する抽象的な作品にしか聞こえないが。
   (1)は仏語で"おとぎ話"。ゾーンが滅多に受けぬという委嘱曲でマサチューセッツ州のEOSオーケストラから受けた管弦楽曲だ。
   09年8月の録音へ、ミックスと編集を2010年に施した音源だ。ライナーに曰く"音程の魔術"の技法で作曲され、
   独奏バイオリンのモチーフとオケの旋律が、構造的に前後へ入り組みつつ再現し合う手法らしい。
   聴きやすいが混沌とし、抽象的だがメロディの冷徹で繊細な響きが全編を覆う。気持ちいい。
   (2)はピアノ独奏曲で08年6月の録音。"Canty"(1991)に続くピアノ曲で、表題はここから取られた。
   20分以上もの大作で旋律にクラスターなどのノイズも加わる。ロマンティックだが
   抒情に溺れず、クールな響きを常に保つ。テクニカル一辺倒ではないが、やはり聴くのに緊迫感は常に必要だ。
   (3)はチェロの三重奏。数霊術を意識した作曲で複雑な拍子の変化に意味を持たせてる。
   一部をライナーでゾーンが解説してるが、譜面無いと分かりづらい。2010年3月の録音で6分の小品。
   軋み音が全編にまたがり、スピーディに三人が疾走する。一聴、無作為な響きの連発に聴こえるが
   これを細かくわかったら構造の精妙さに唸るんだろうな。

   10年5月の発表。韓国の芸術家テレサ・ハッキョン・チャのための楽曲と、
   ユング"赤の書"にインスパイアされた作品の2曲を収録した。
137・John Zorn:Dictée/Liber Novus:☆☆☆
   前半の"Dictor"は製作経緯のわからない作品。コラージュを中心に韓国語のナレーションが乗る
   "New Traditions in East Asian Bar Bands"(1997)系列のコンセプト作。
   朗読を入れ4人の奏者のうち「ケニー・ウールセン(vib,etc.)のスタジオで構築とある。
   ゾーンが作ったベーシックに、ケニーがダビングということか。
   楽曲は構築性を伺わせつつも、聴いてるだけだと読みづらい。ブロック的な構造がありそう。
   独特のエキゾティックなテープ音楽な印象だ。尺八を入れたのはゾーンの故意と思うが、なんか妙な居心地の悪さも。
   "Liver Novus"はウールセンの打楽器にメデスキのオルガン、ステフェン・ゴスリングのピアノを基調に、
   デヴィッド・スラサーがサウンド・エフェクトを重ねた。ゾーンは独語ナレーションと良くわからぬ役割だ。
   作編曲と指揮もゾーン。アンサンブルっぽさとコラージュの取り留めの無さが混在する不思議なムード。
   "Dictor"と異なり地域的な音要素は薄く、むしろ鍵盤乱打を織り込みつつ幻夢な雰囲気が味わい。
   どちらもじっくり分析しても楽しめそうだし、BGMで聴いても(寛げはしないが)良い作品だ。

   09年4月の発売。ジャズ・ピアノトリオ向けに書き下ろした作品集。
136・John Zorn:Alhambra Love Songs:☆☆☆
   クールで跳ねないが、メロディやリズムは粘っこい。薄く濁った風合
   一曲ごとに誰かに捧げる形式を取った流麗なピアノ・トリオ。ときおり和音の不穏さはあるが
   どこまでも美しく静かに奏でられる。捧げられた相手は多彩で時代やジャンルがバラバラ。列記すると、
   Vince Guaraldi(60年代活躍の西海岸ジャズ・ピアニスト),Mike Patton(元Faith No MoreのVo),
   Harry Smith(同名多数で誰指すか不明),Paul Canales(不明),
   Lyn Hejinian(米の詩人),Clint Eastwood(俳優/監督),Elissa Guest(米の絵本作家),Willie Winant(米の打楽器奏者),Mo Siegel(不明),
   Terry Riley(作曲家),David Lynch(監督)。ユダヤ系、って共通項?
   シャープな音数少なめのアレンジは、タイトだが無暗に連打やハイテクに走らない。
   ただしスムース・ジャズに陥らぬスリルが本盤を魅力的に響かせる。
   しかしゾーンの本作に至るコンセプトが良くわからない。各曲に数理や計算が隠されてるのだろうか。
   ただしテーマのメロディはマサダに通じる、クレツマー的な響きはしっかりある。

   キップ・ハンラハンが88年に発表したキャブ・キャロウェイをテーマの盤らしい。
135・Conjure:Conjure: Cab Calloway Stands In For The Moon: ☆☆☆★
   がっつり大人な音楽。ボーカルよりもリズム、ノリが主軸だ。隙が無い。
   ごった煮の構成だが、通底するビートが芯を貫き一気に聴かせる。
   単なるキャブウェイのカバー集で無く、ジャズメン混成部隊による重たいブルーズ・ファンクが詰まった。
   作家イシュマエル・リードの詞を多く採用した。モダン・ジャズ系のSteve Swallowに乾いたベースを奏でさせ、
   アラン・トゥーサンとミーターズのレオ・ノセンテリのニューオリンズ勢に
   キューバ系のドラムを併せる。ラテンと黒人音楽のミクスチャーを得意とするキップ一流のグルーヴだ。
   跳ねるビートで粘っこい空気は、どこか苦い香りを漂わす。これがNYスタイルか。
   生々流転の歴史を見据えた、しぶといサウンドはニューヨーカーだったキャブの洒脱さより
   翻弄される流れの勢いを連想した。

   こちらは84年のソロ名義で3rdにあたる。
134・Kip Hanrahan:Vertical's Currency:☆☆☆★
   どっぷりと無気力な諦念が漂うラテン。したたかなビートのしぶとさが薄闇の危うい魅力を作った。
   マレイのロマンティックに軋むサックスが不穏な空気をかぶせる。
   ポリリズミックな混沌が粘っこい空気を漂わせた。聴いてて心浮き立たぬのに、
   なぜか惹かれる。不思議な吸引力を持つ盤だ。繰り返し聞くうちに、このもどかしさを
   表現する言葉が頭に浮かぶかもしれない。
   ところどころで、がたっと引っかかるリズムが刺激的だ。

   黒人音楽の発掘会社な英Funky town groovesが13年にリイシュー、83年作。
133・Peaches & Herb:Remember:☆☆☆☆
   とにかく聴きどころ満載。当時にアルバム204位と不振のため、活動停止に至って無念。
   ブカブカしたシンセに時代を感じるが、サウンドの質は高い。全体的にヨレた気がするのはテープ状態ゆえか。
   作曲家を曲ごとに変えた本盤は、ミドル~バラードは時を越え魅力を放つ。
   キャッチーなサビの落差がブルージーな(2)や、プリンスに通じるロマンティシズムの(4)。
   脇が甘いがカッティングとシンセ・ホーンが決まった、転調がきれいな(5)。(6)や(7)は切ないムードで歌い上げる。サックス・ソロもいい。
   他の曲も光るところを色々詰め込んだ。
   (8)~(10)はアレンジが隙無く煮詰まった傑作が続く。

   12年にリイシューの本作は79年発表な、ワシントンDCのファンク・グループの盤。
   ボートラにシングル音源もいれた、英Vocalionの丁寧な発掘盤だ。
132・Fathers Children:Father's Children:☆☆☆
   (7)のリフがズレる感覚が奇妙で面白かった。前半はラテン・リズムと金管を前面に出したアップなディスコ、
   後半がメロウさを強調した曲が続く。アフリカっぽい要素も強いな。
   ビートへこだわりありそうなのに、どこか外した感じが個性か。
   小気味よくシンプルなアレンジで、ダレることない良いソウル。
   切なく静かなミドルな(6)も耳に残った。

   13年に英デーモンがリイシューした81年のソウルで、タブー・レーベルの音源。
   ボーナス5曲入りで2曲はアルバム未収録曲と、丁寧な仕事だ。
   Woods Empireはカリフォルニアのコーラス・グループで作品は本作のみ。
131・Woods Empire:Universal Love: ☆☆★
   ギターの鉄板カッティングが耳に残るブギー・ファンク。基調はディスコで、今は古めかしさを否めないが。
   それとボーカルが少々弱い。だが全般的には明るくシャレたソウル。
   がっつりタイトな人力演奏のスタジオミュージシャン勢で、(5)のベースはジェームス・ジェマーソン。
   B面がミディアム~バラードになるベースと寄り添うようシンプルなアレンジで歌を聴かす(8)が良い。
   未発表曲はミディアムの(14)がキュートで楽しかった。

   こちらも上と同じ13年のリイシュー、ファンク・バンドのタブー2ndで83年作。
   本盤のボートラはシングルやインストなどを収めた。
130・General Caine:Dangerous:☆★
   Groove Time Records時代の方が語られるバンド。taboo移籍後2作目が本作となる。
   数曲のサックスでGerald Albrightがゲスト参加した。
   ほぼ全曲をLeon Ndugu Chanclerがプロデュース、カッティング・ギターとシンセが絡むアレンジはタイトだが、さすがに時を経て古びた。
   本盤の魅力はReggie Andrewsがアレンジした2曲。シンセと生演奏のミックスが上手く溶けている。
   それがミディアムで野暮ったいクールさの(4)と、甘いシンセによるバラードで和音がきれいな(8)。特に後者が良い。

   76年作のソロでAverage White Bandのカバー"A Love Of Your Own"を収録した。
   コーラスを甘茶グループ、モーメンツが努めてる。
129・Millie Jackson:Lovingly Yours:☆☆★
   地味だが、悪く無いアルバムだ。
   各曲ごとに作曲家を変えDavid Van DePitteとTom Tom Washingtonでアレンジを分け合った。
   一曲だけJames Mackがアレンジを施してる。セールス的には"Feelin' Bitchy"(1977)と"Get It Out'cha System"(1978)に挟まり、パッとせず。
   曲調が個々に異なり五目味な印象だが、パワフルな歌声で統一感を出した。
   (4)/(9)、(6)/(5)が本盤からのシングルになる。
   シングルのプロデュースはどちらもBrad Shapiroがプロデュース。アルバム全体も彼かな?

   委細不明な伊ジャズ・コンピ。ただし寄せ集めで無く、90年代前半の各地ライブ音源をまとめた
   意外に貴重な盤かもしれない。伊語が残念だがブックレットも細かい記載だ。
128・V,A.:Sicilian Jazz Collection Vol.2:☆☆☆★
   スイングからハードバップ、フュージョン、フリーから歌モノまで、様々なジャンルを
   ごった煮に混ぜ込んだ一枚。当地のジャズシーンを幅広く概観には似合いのコンピかも。
   全般的に王道路線で気持ち良く聴けるがスリルとは少々違う方向性だ。

2014年7月

2014/7/31   注文したCDが到着。

   独ハルモニア・ムンディ音源を使い「地中海にまつわるバロック以前の音楽」がテーマの
   10枚組廉価版クラシックの箱。70~00年代録音の幅広い録音時期をまとめた。
127・V.A.:Mediterranean Music Edition:☆☆☆☆
   西洋とアラブの並列で焦点絞りづらく、とっつきは悪い。しかし視野を広げる切っ掛けに適した箱だ。
   文化が入り乱れる躍動性と、奥深さの片鱗を容易に味わえる。
   そして箱を聴きとおしたとき、さらに深く聴きたくなる。思うにとっつき悪さは、既存の盤を10枚まとめたゆえの重厚さゆえ。
   とことん編集し枚数減らせば、本箱の音楽が持つ独特性が強調されたろう。
   もっとも強引な箱化なアプローチのおかげで、たっぷりまとめて当時の音楽へ触れられるわけだが。

Disc 1 ☆☆☆
   77年の録音で8人編成の弦中心なモロッコ音楽。Disc2と2枚組編成になっており、本盤は組曲の4曲中2曲が収録された。
   各曲はさらに7~8曲に分割されるが、本盤はディスク1枚で約48分、1トラックのみ。
   途中から敢えて聴けない構成になっている。音像がダイナミック。エッジの甘い空気が、生々しい奥行を出した。
   楽曲は中近東のゆったりしたリズムで、器楽の合間に歌声が色を添える。ソロ回しでなく
   譜面っぽい構成だが、どこか自由なスペースを感じる。33分位所でアクセントの位置がずれる場面が新鮮だった。

Disc 2 ☆☆☆
   Disc1の続き。長く聴くほどに、整った印象が強まる。全てがコントロールされているような。
   西洋音楽とは違うダイナミズムや和音構成、曲展開のために、もっと聴きこまないと感想を表現できない。

Disc 3 ☆☆☆
   ヴィオラ・ダ・ガンバ一人とバロックギター二人のアンサンブルで88-00年の録音集。
   作曲家7人の作品を取り上げており、スペインの舞曲集らしい。
   穏やかなタッチで柔らかく紡がれるサウンドは、クラシカルで
   破綻の無い演奏。せっかくの舞曲ならもっと荒っぽく聴きたい気もするが
   これはこれで寛げる。ガンバが入った途端、音像がいきなり情感と深みを増す。

Disc 4 ☆☆☆
   イタリアの初期バロックを集めた。ジラーモの祝祭的な同一曲で前後を固め、付点音符を生かした
   躍動的なムードを演出する曲構成だ。中身は器楽曲より若干、歌曲が多いかなってバランス。
   神様から人へと目線変わり、情感をダイナミズムと付点の双方で表現する。穏やかだが
   みるみる音楽での感情表現が洗練してきたように思う。

Disc 5 ☆☆★
   再び時代は戻り、古代ギリシャ音楽へ。紀元前7~6世紀にサッフォーの恋愛詩に関する譜面を
   現代に再構成、演奏したものが本盤となる。Conrad Steinmann主宰なEnsemble Melpomenが08年に演奏。
   深胴太鼓っぽい響きの弦楽器リラと、ドローンめいて鳴るダブルリード楽器アウロスが伴奏だ。
   あとは僅かなパーカッション。歌手は朗々と歌い上げる。笛はイントロ以外ほぼ変化なく、
   時に歌旋律に絡む程度。非常にシンプルなアレンジだ。
   旋律そのものは美しいが、フレーズの妙な間を置く構成が今の時代と大きく違う。
   もっと時間感がゆったりしてる。余裕ある盛り上げ方で、じわじわと迫るようだ。
   無伴奏っぽい場面も多く、トラッドに通じる雰囲気有り。

Disc 6 ☆☆★
   独の民族音楽アンサンブルサラバンドが94年に吹き込んだ15世紀あたりの民衆歌を集めたものか。
   ネットの本盤説明には「セファラード(スペイン系ユダヤ人)の伝承音楽とひとくくりだが。
   ここの曲紹介によると、色々な地方の音楽が入ってるふうにも見える。
   全体的に歌モノが中心で、起伏が少なくタルッとした中東風味のサウンドに
   しとやかで情感たっぷりの旋律が絡んでいく。
   奥底の熱さと表面的な穏やかさ、双方の要素を取り入れる奥深さ。そんなサウンドが楽しめる一枚。

Disc 7 ☆☆☆★
   「古来の東洋及び西洋における即興」とあるが、ジャズ的なインプロで無くきっちりアレンジされている。
   断片的なフレーズをアンサンブルにアレンジした、の意味だろうか。
   ソロ回しのわずかな要素が長尺10分にわたる(13)でいくぶんみられるが、
   あとはユニゾンを多用し、構築された合奏だ。アラブ世界の抑揚と
   フレーズがいくぶん脂っけを抜かれ、優雅に奏でられる。
   14世紀頃の伝承歌をイタリアやスペイン、ギリシャといった地方から取っている。
   バラエティに富んでるはずだが、アルバムを通奏する穏やかな味わいが心地良い。

Disc 8 ☆☆☆
   タイトルは「イベリアの声I~カリクストゥスの写本による使従聖ヤコブの音楽」で1989年の録音。宗教音楽集?
   男性コーラスのリバーブたっぷり、厳粛で荘厳な空気が広がった。
   ぱっと聴きは二声と感じたが、実際はもう少し複雑なハーモニーだ。
   一曲ごとは数分と短く、22曲も収録されている。 白玉に見せかけたが、旋律は滑らかに上下に動く。ビブラートと和音、揺らぎを同時に表現した。
   ラテンっぽく情熱的なメロディが滲む。曲によって持続音中心のドローンも入った。
   聴いて楽しむより、捧げるかのような曲。

Disc 9 ☆☆☆
   タイトルは「ラス・ウエルガスの写本~ブルゴスのウエルガス修道院の音楽」、同じく89年録音。こちらは明確な教会音楽だ。
   混声でなく女性か男性のコーラス集で、Disc 8と異なり数声ハーモニーを全面に出した。
   清廉で涼やか、雑味を廃した。だが和音は時々、静かに濁る。
   歌い方で無く、曲構造で軋みや複雑さを表現する、この二面性が鍵か。
   全体的に淡々としたムードが全面に出て、集中力を意識しないと聴き流してしまう。

Disc10 ☆☆☆
   タイトルは「イベリアの声III~賢王アルフォンソV世の音楽」で91年の録音。
   荘厳な多重唱の楽想と、躍動感ある繰り返し多い単旋律の頌歌(カンティガ)が混載構成のアルバム。
   教会音楽と大衆歌の双方かと聞いてて思ったが、両方宗教音楽かな。
   まさに欧州とアラブ文化の混在が味わえる一枚だ。

2014/7/29   最近買ったCDをまとめて

   映画のサントラ、全曲英詞でカバー多数でCM"I love you"収録。企画盤ながら
   充実した仕上がりな84年アルバムをボートラ7曲入りでリイシュー。
126・山下達郎 :Big Wave (30th Anniversary Edition):☆☆☆☆★
   学生時代に繰り返し聴いた盤、冷静には味わえない。
   もう30年か、と音楽の変わらぬ瑞々しさに眩暈いがする。本盤は溌剌とポップに
   夏を演奏した。既に夏のイメージに辟易していようとも、本盤では爽やかで鮮やかな日差しを
   明確に提示した。作家っぷりが素晴らしい。さらにほとんどの曲は
   達郎の多重録音。パーソナルな雰囲気と開放感を並列させた手腕にも驚嘆する。
   アウトテイクも嬉しい。今回初めて聴いた、テクノ仕立ての(13)がやはりうれしい。
   トロピカルながら全面エレクトリック。なるほどねぇ。
   あとはファン向けの蔵出し音源だ。細かな音を聴きこむのに最適。

   手持ちに無いヴァンの盤をまとめて仕入れた。
   本盤は8thソロで74年の発売。·ニューカレドニア·ソウル·オーケストラとツアー後に寛いで録音したアルバム。
125・Van Morrison:Veedon Fleece:☆☆☆☆
   ブルーズやジャズは奥へ沈め、ルーツのアイリッシュ色をポップに仕立てた。
   バッキングは新顔となじみ深い顔を混ぜた、ごった煮。バンド要素より気の赴くまま
   複数のセッションを行って仕立てたアルバムかも。アンサンブルは揺らぎながら舞う。
   ヴァンの歌声もシャウトからハイトーンまで奇妙なレンジを使った。
   どこか異物感を残す多彩な要素が、吹きすさぶ嵐のように色合いを複雑にする。そして胸を締め付ける切なさを表現した。
   9分近い(5)がA面のクライマックス。草の匂いがするオケと、歌の絡みが壮絶だ。
   最終曲の"Country【Fair】"と1曲目の"【Fair】play"が螺旋のようにつながる。

   79年の11thソロ。ピーウィー・エリス(ts)やライ・クーダー、ザキール・フセインらゲストを招いた。
124・Van Morrison:Into The Music:☆☆☆☆★
   生楽器を中心に管や弦を絶妙に投入、ニューオーリーンズとケルトの融合を見事に達成した。
   楽曲ごとにブレンド比率を変え、単一テーマでバラエティ豊かな世界を作る。
   例えば(2)を筆頭にロックンロールな楽曲も、カントリー・タッチで穏やかに表現する。
   当時ヴァンは34歳、既に円熟な盤だ。個々の音量バランスがまちまちな楽器を混在させる、PAでこそのミックスは細かく各楽器の
   音量上下がダイナミックに施され、大音量で聴くほどに丁寧な仕事へ惚れる。
   当時ヴァンのドラマーだったピーター・ヴァン・フックの弾むドラミングも心地よい。
   (9)のカバーは唐突な気もするが、見事にヴァン節の崩した歌いっぷり。

   82年13thソロ。キリスト教に傾倒したころの一作。
123・Van Morrison:Beautiful Vision:☆☆☆
   リマスター時の加工か不明だが、やけにハイハットを強調した奇妙なミックス・バランスを持っている。
   そのドラマーはトム・ドリンジャー。前後数枚のヴァン作品で叩く、ハウス・ドラマーだ。
   3拍子と4拍子のダイナミズムが効果的な(1)をはじめとして
   ばしゃばしゃ訥々と鳴るハイハットを元に、ゆったりしたグルーヴが全編を包む。
   3種類のセッションが行われ、数曲ではマーク・ノップラーが参加した。
   決して洗練せぬ色合いを持ちつつ、ケルティックな厳かさを味わえる一枚。
   最終曲はインストで、ほのかな宗教的雄大さを表現した。
   作曲は全てヴァン。3曲の歌詞でエンジニアのヒュー・マーフィーが共作クレジットあり。その一方で、
   ヒューは1曲しかエンジニアをつとめていない。ちょっと一貫性の無い録音体制だ。

   83年14thソロ。これもキリスト教に傾倒した作品。インストが強調された。
122・Van Morrison:Inarticulate Speech Of The Heart:☆☆☆
   ふわっとシンセに刻むギター。リバーブたっぷりの幻想的だがポップな幕開けに最初は戸惑う。
   ヴァンはマーク・アイシャム(key,tp)へかなり自由に任せたようだ。
   そのわりに2曲目からアイリッシュ・トラッド色が強まる。エコーの強さは変わらず、妙にシンフォニックな楽想だが。
   アイリッシュ勢ではArty McGlynnとDavy Spillaneが本作に参加した。
   スペシャル・サンクスにSF作家ロン・ハバードの名が。作品よりサイエントロジー寄りか。
   つまり宗教性とルーツ探しの両要素を、まとめて詰め込んだアルバムと言える。
   インストのトラッド曲と、歌モノのヴァン流ゴスペルにて。
   語りかけるヴァンの説教(5)はラップ的な聴き方もしてしまう。

   90年21thソロ。ジョージー・フェイムも参加、ヴァンがひときわ充実した時代の作品。
121・Van Morrison:Enlightenment:☆☆☆☆
   バンド志向と逆ベクトル。ゴージャスな弦やホーン隊を混ぜて
   スタジオ音源として煮詰めた。弦音色のシンセと軽いスネアの音色で全体に明るい。
   アメリカ音楽への憧憬と清涼な瞑想の双方が絡む、孤高なヴァンの世界観が炸裂した。
   伴奏は練られており、アレンジは緻密。魅力的なフックもあちこちに。
   しかし曲想はシンプルなメロディを執拗に繰り返す構成であり、ヴァンの歌が主役で、
   歌唱力こそで成立し、ヴァンの独自性を強烈に喧伝する傑作だ。
   脂が乗ってぐいぐい突き進む骨太さと、涼やかな枯れっぷりの味わいが凄い。

   今更ながら入手した。ベーシスト&ボーカルで次世代を担うと期待の彼女による2ndソロ、2012年作。
120・Esperanza Spalding:Radio Music Society:☆☆☆☆
   創造力を力いっぱい詰めてぶっ放した傑作。
   アナログ録音っぽい詰まって膨らむ音像に、まず惹かれる。構造も和音も奔放に振り回しつつ、
   メロウなポップさを残すセンスが凄い。次々に要素を混ぜつつ、混沌は整理されるアレンジ力もすごい。
   どこか懐かしい鳴りだが、瞬間の響きは違和感ある新鮮さ。
   問答無用で詰め込まれた楽器が、次々に現れる鮮烈さが素晴らしい。
   この取捨選択の巧みさゆえに(8)のごとくシンプルなアンサンブルも映える。まあこの曲も
   繊細なホーン・アンサンブルが細かく入った複雑なアレンジだが。

2014年6月

2014/6/28   最近買ったCDをまとめて

   GbVが本盤のために新曲を提供した01年のコンピ盤。詳しい背景は不明のため、こちらをご参照のほど。
119・V.A.:Colonel Jeffrey Pumpernickel: A Concept Album:☆☆
   自らのバンドとGbVでサンドイッチした構成。オハイオだけでなく西海岸まで
   バンドをあつめ、いまひとつつながりが分からない。
   ローファイな打ち込みや多重録音など内省的なバンドを集めた印象あり。
   爽快感やグランジ風味は薄く、淡々とアルバムが進んでいく。

   ラジオ番組用で86年に録音、98年発表のTZADIK盤。
118・John Zorn:The Bribe:☆☆☆
   ブロックごとに世界が変わるコラージュのアプローチをとった。本作はテープ・コラージュで
   時代の趨勢やアナクロニズムも表現してるような。単にクリスチャン・マークレーのブロックってこと?
   抽象的なフレーズ断片がクルクル変わるが、スピード感はむしろ控えめ。混沌さが先に立つ。
   一つ一つのブロックが数分有り、じっくり聴けるのもいいところ。その分、同種のアプローチ作より親しみやすい盤だ。
   フリクションのRECKもギターで参加した。

   蜂谷真紀の初リーダー作で、加藤崇之とデュオ。08年作。
117・ミクロマクロ:Dream Vision:☆☆
   なってるハウスで08年のライブ2回分の録音から抜粋してアルバムにした。ノービート、構成無しの即興で
   無機質な加藤のギターへ蜂谷のピアノとボーカルが重なる。相当に前衛だがどこかユーモアが
   残るのは、蜂谷のおかげか。残響を排除したギターの爪弾きは猛烈にグルーヴィ。

   90年代に活躍の声優5thソロで99年作。作曲陣に種ともこや保刈久明、新居昭乃に並び
   今掘恒雄が3曲を提供した。菊地成孔は本3曲+1曲の作詞、今堀の3曲にsaxでも参加。
116・白鳥由里:ニコル:☆★
   メタリックなエレクトロ・ポップ。歌い方がキンキンと激しく煌めく透明さのため、
   今一つ楽曲が印象に残らない。マスタリングも硬いなあ。時間をおいて聴きかえしたい。

2014/6/21    ジャケ買いでジャズ系を色々入手。

   CD-R。92年録音でBassTp奏者を筆頭の3管クインテットの、イリノイ州で2トラ録音。
115・Damon Short:Third Prize!:☆☆☆
   重心低いファンキーさだ。ハードバップでなく、むしろ志向はフリーなスイング。
   まともに刻まず転がるドラムに誘われ、硬質で繊細なアンサンブルを聴かす。
   カバー曲はエリントン"Mood Indigo"にバーンスタインの"Somewhere"と王道スタンダードを選んだ。
   前衛に向け疾走しないが、王道ジャズでもない。立ち位置を探るようなスリルが魅力だ。

   Richard Ormrodが仕切りのインプロでPaul Hession(ds)がゲストのカルテット編成、11年発の英盤。
114・Home Of The Brave:Do Easy:☆☆☆
   もろにアメリカン。バロウズの短編集"Exterminator!"(73年)のテキストを引用の、カントリー風コンボ・ジャズ。
   AMラジオのチャンネル回しっぽい編集トラックを冒頭に、演奏は砂煙漂う、カラッと暑いサウンドだ。
   バシャバシャとせわしないビートに、サックスがフリー気味に軋む。ギターのクールに煽る演奏も良い。
   ライブ録音だがアルバムは楽曲ごとに区切られ、キッチリ構成のトータル性ある仕上がり。

   tb+pトリオでドイツ録音のジャズ。91年発表。
113・Lucas Heidepriem:Voicings:☆☆☆
   冒頭にシンセの被る音像でフュージョンっぽい甘さを見せるが、本質は繊細なヨーロッパ・ジャズ。
   さらに耳ざわり良さだけを追求せず、フリーな場面も顔をのぞかせる。
   多様な世界観を楽しみつつ、基調は柔らかなピアノと無造作でふくよかに鳴るトロンボーン。
   BGMに留まらぬ、どっか引っかかる個性が興味深い。

   これはサルサ。2002年のライブ、ピアニストがリーダーで奏者10人のクレジットあり。
112・Wayne Gorbea:Live From New York:☆☆
   がっつり長尺ソロが聴けるサルサ。彼らはブロンクスのクラシック・スタイルで活動、
   数枚のアルバムも発表済。プロフィールはここここにあった。
   暖かなファンキーさが味わいかな。熱くても、どっかホッとする。意外とピアノが変なフレーズのアドリブで面白かった。

      96年のサルサでコンガ奏者のアルバム。ベネズエラで活動らしい。
111・Gerardo Rasales:Venezuela Sonora:☆☆☆★
   2ndソロの本作はゲストを多数招いた。パーカっしょニストも構わず招き、例えば(9)で
   同じベネズエラのOrlando Poleoにコンガを叩かせてる。このページが分かりやすい。
   本盤のサルサは穏やかなムードが漂う。曲ごとに強調される部分が異なり、オムニバス盤風かつ、
   充実した内容だ。全編に強靭で軽快なコンガが響き続ける。
 
   エレクトリック・チェロ奏者の9thソロ。99年にバーモント州のレーベルから発売だ。
110・Gideon Freudmann:Hologram Crackers:☆☆☆
   多重録音でピチカートのビートや白玉をディレイ・ループで載せ、深いリバーブでメロディを弾く。
   スイングや前衛、テクノな要素もちらり見せつつ、基本は穏やかなインスト。
   楽器に振り回され少々詰めが甘い。E-Celloの大道芸から一歩抜けた即興まで昇華を望む。
   本盤は聴きやすいが、若干のエフェクタを足しても音色は無闇に変調せぬため、逆に飽きる。
   電子音楽として聴いたら、打ち込みで無い揺らぎが心地よい。素朴で朴訥だが、ちょっと冒険。そんなイメージ。

   gとdsのデュオを基本に、gとbanjo奏者を招いたインプロで、97年のカナダ盤。
109・Vertrek Ensemble:Another Idea Of North:☆☆
   アコギのソロからノイジーな集団即興へ。轟音一辺倒でなくメリハリのダイナミズムが良い。
   12~25分の長尺3品を3曲、合間に数分台の作品を3曲。交互に並べた。
   メロディは希薄で全体ストーリー性も無いため、音だけだと少々単調さは否めない。
   各人のソロへ彩りを加えるようなアプローチで、緩やかな関係性をジワリ詰めていくスリルある。
   ギターのソロだと爽やかでリズミックな要素もあるのに、集団だと一転し小難しくなる。
   ギター・ソロのセンスで一枚聴きたかった。

   99年の発売、per奏者がリーダーで、dsとデュオが基本。カナダの盤かな。
108・Steve Ferrais:Percussionistic Paintings:☆☆☆★
   基本は二人のパーカッショニスト。アフリカンなグルーヴをふんだんに出し、パターンや
   テクニックひけらかしの面は恐ろしく希薄だ。
   楽曲ごとに目立たす打楽器を変え楽しげに熱っぽく、しかしテンポは緩めに
   じっくり聴かせて楽しい。数曲でサックスやピアノがゲストに入る。
   サックスはフリー気味に吹き鳴らし、青白い感じもアフリカ風だが少々タンギングが甘く
   長く聴いてると飽きてくる。むしろ抽象的なフレーズをビシバシ挿入する、ピアノのほうに惹かれた。
   楽曲はマイルス"All Blues"やショーター"Footprints"も取り上げるが、あくまでも素材。
   打ち鳴らす太鼓やシロフォン系の乾いた打音にまみれた爽快な盤だ。
   ニューハンプシャー州Lebanon市のThe Bean Galleryで、4回に分けライブ録音された。

   カリフォルニア州はオークランドで00年に録音。オリジナル中心で、オーネットの"Lonely Woman"を取り上げた。
107・Good For Cows:Good For Cows:☆☆☆★
   Devin Hoff (b,元Nels Cline Singers) and drummer Ches Smith (ds:元Mr Bungle) のデュオ。00年から継続で本作が1st。これまでに
   "Bebop Fantasy"(04),"Less Than or Equal to"(03),"10th Anniversary Concert"(08),"Audumla"(10)をリリースした。
   Ches SmithはSecret Chiefs 3も参加、ジョン・ゾーンがらみで"Xaphan: Book of Angels"(10)もあり。
   音楽性はオーソドックスなジャズの印象あり。ベース一本でメロディアスさを出すアレンジが良い。
   フロントを立てぬ理由は分からぬが、リズム追求よりもアンサンブルの純度を上げるアプローチか。
   聴いててデュオと忘れる瞬間があるほど、練られた演奏だ。

   スイスで01年収録、ドラムとターンテーブルのデュオ。Fredy Studerが主体でRobyn Schulkowskyと"Duos 1, 2"(1998),
   Jin Hi Kim,Joëlle Léandre,Dorothea Schürchとの"Duos 3-13"(1999)に続く本盤、の位置づけ。
   ちなみに本盤の後、吉田アミと"Duos 21-27"(2005)までこのシリーズは続いたみたい。
106・Fredy Studer / DJ M. Singe:Duos 14-20:☆★‎
   スイスのスタジオで二日間にわたり録音された。ランダムな打楽器の上にDJコラージュが乗る。
   リズミックでも、ダンサブルとは違うベクトルだ。小刻みに小物を混ぜスピードを載せるフレディに
   スクラッチとコラージュをDJが彩る。音色が少々地味だが
   エレクトロ的なランダムな電子音とパーカッションの交錯、DJミックスでの即興音楽の加工具合など、細かい聴きどころがそこかしこに。

   オランダのサックス奏者が90年代に発表したプライベート・レコーディング集より。
   各盤、500枚のみのプレスという。トリオ編成の長尺1曲勝負。
105・Luc Houtkamp: X-OR FR6 Live in Canada '97 ☆☆☆★
   予想以上に美しく整った、鋭い即興が聴けて驚いた。ひりひりした空気感が堪らない。録音もまずまず。
   ピアノの冷徹なソロを軸に、残る二人が緩やかな絡みで魅せる。テンポはフリー。
   混沌ながら流麗で淡々たるピアノへ、ノイジーな音色の他楽器の構図だ。
   だがノーリズムにとらわれず、おもむろにシンプルなドラム刻みの場面も。自由で、伸びやかだ。
   共演者はFred Van Hove(p)とGert-Jan Prins(per)。
   フレッドはベルギー生まれで、欧フリー開祖の一人。Peter Brötzmann Octetの"Machine gun"(1968)に参加した。
   ゲルトはオランダ生まれ。いわゆる音響系とも交流し、映像/音楽機材の開発にも携わる。

   本盤は98年、ユトレヒトのライブで、リュック自身は参加せず。
    Anne La Berge(fl,electronics)Gert-Jan Prins(electronics)のデュオ。
104・Luc Houtkamp:FR 8 Live in Utrecht '98☆★
   フリージャズよりノイズの文脈な即興で、全編をフィルター・ノイズの断片が飛び交う。
   フルートもリアルタイムで電化処理らしく、メロディはほぼ皆無。
   ひたすら切り刻まれ、ひしゃげた音色のフルートだ。すぱっと切り落とす効果を多用するが
   ビート感はあまり無い。もやっとした前のめりなスピードを通底させつつ、終わりない混沌を描いた。
   フリージャズとしてはあまりに救い無く、ノイズとしては暴力性に欠ける。

   92年のギター・トリオでNY録音みたい。アルバムは本盤のみらしい。
103・The Timbers:Parts And Labor:☆☆
   テープ編集風の雑味が彩りの尖ったジャズ風味ロック。ラウンジ・リザーズ的な青白さと、ニューウェブの鋭さが混在する。
   どこかぎこちないアンサンブルが不安定なスリルを産んだ。はパンクの要素もありか。テクニックより勢いが主で、
   東海岸な不条理ムードででたらめなスピード感を作った。
   英80'sギターバンドのBlue Orchids"Bad Education",マイルス"Move"のカバーやヌスラットにインスパイアされた"A passage from Pakistan"など
   ごった煮さが本バンドの特徴だ。選曲バランスがめちゃくちゃで取り留めないが、奇妙な無秩序さに惹かれるものはある。

   6人編成のカリフォルニア録音1st。80年の音源を00年にリマスター再発らしい。
102・Affirmation:Lost Angeles:☆☆
   メンバーはThom Teresi(Key),Joe Gaeta(g),Jimbo Ross(vc,vln),Tom Fowler(b:元ザッパ・バンド),David Grigger(ds),Mike Fisher(per)。
   8曲中5曲の作曲に絡み、プロデュースも担当のThomが78年結成のバンド。その割に音が目立つのはJimboだが。
   なお残る3曲はJoeが提供した。Thomの経歴は良くわからぬが、本盤は活動初期のアルバムっぽい。
   テンポはさほど攻めず、テクニカルだがおっとりしたムード有り。弦と打楽器でエキゾティックさも。
   場面ごとに凝ってる感じはとてもするが、聴き流してしまうな。
   弦のソロは聴きものと思うが、エレクトリック特有のダイナミズムが薄いヌメッとした耳触りが惜しい。

   ベテランtp奏者が楽曲ごとにミュージシャンを変え吹き込んだ06年の盤。
101・Bobby Lewis:Instant groove:☆☆
   基本は二管、ほんのりラテンっぽい、いやシンセの入りはスムースジャズ?スイングやモダン的なアレンジも。
   コンセプトやキャリア概観の凝ったアプローチは取らず、楽曲ごとにコロコロとスタイルを変え
   全体として聴きやすいコンボ編成のジャズを披露した。小編成でもビッグバンド的な奥行も意識してる。
   トータル性の無いごった煮の大雑把さだが、毒が皆無なスマートさがベテランっぽい。

2014/6/3  注文のCDが到着。

   今年二枚目のアルバムが早くも発表された。
100・Guided by Voices:Cool Planet:☆☆☆★
   ボブのソロ風とバンド・アレンジが混ざった。所々、歪みというか変な和音感が漂うのも最近のGbVっぽい。
   疾走感は薄めで、じっくりと一筆書きしたボブの味わいが楽しめる一枚。
   構成をきっちり意識し、やっつけローファイぶりはきれいに無くなった。妙な作りこみ感も皆無だが。
   録音スタジオのおかげか、すうっと奥行ある音像も迫力あってカッコいい。

2014年5月

2014/5/28  最近買ったCDをまとめて

  DJ灰野敬二が13年にリリースした3枚組。クレジットなにも無いな。
99・灰野敬二:In the World:☆☆☆☆
   ヒップホップまで飛び出した。ダンサブルさを気にしなければ、多様な音楽を聴いていれば、
   ここまで自由に音楽を混ぜられるんだ、って楽しみの見本となる。
   既存音源を元なため灰野流の不定形ビートは無く、むしろ聴きやすい混沌っぷり。
   ブルーズと民族音楽を基調に比較的、個別の曲が聴き分けられる。しかしロングミックスや
   飾り程度のスクラッチ程度な甘いことを、DJ灰野がやるわけもない。
   唐突に異物が混ざり、リズムが振り落ち、エフェクタ処理も。けれども、既存の音楽は決して
   美しさを減じない。この絶妙なバランスと、自由度の共存っぷりが灰野の真骨頂だ。
   Webで使用曲一覧も見たい。元の音楽も聴きたいから。「自分で探せ」と灰野に言われそうだな。

  吉田達也+内橋和久の超即興が三柴理を加え、12/7/6に江古田Buddyでのライブ。
  磨崖仏から12年に発売、録音/ミックス/マスタリングももちろん吉田。
98・内橋和久・吉田達也・三柴理:堆積と浸食:☆☆☆
   ダイナミックなピアノが加わり、スリリングな即興の奥行が拡大した。インプログレと異なり
   生ピアノゆえの硬質でシンプルな音色が、トリオ編成を強調する。三柴のピアノは
   激しく鍵盤を打ち鳴らし、リズムとメロディ双方を行き来した。
   内橋と吉田の息の合った超反応速度の即興ぶりは、隙が無い。空気を埋め尽くしテンションを
   ひたすら高らかに舞い上げる。三人が音を聴きあい、下がる部分は呼応しあい構築性が強調された。
   ミックスはピアノを明確に前へ置き、ギターとドラムはむしろ背後を支えるイメージだ。
   ミニマルにフレーズを交錯するところが、本トリオの醍醐味。
   (6)など静かめの曲はあるが、基本はハイテンション疾走系だ。

2014/5/5   最近買ったCDをまとめて。

   梅津和時が参加していた(本盤は非参加)のサックス限定楽団の93年4th。
97・The Six winds:Anger Dance:☆☆
   冒頭の10分越え以外は、数分の小品が続く14曲入り。楽曲ごとにアレンジのパターンを変える多彩さだ。
   リズム隊無しのアンサンブルを逆手に、白玉のうねりでグルーヴを出す。
   敢えてキッチリ揃えず、ずらずらと揺らぐサックス群の響きが重苦しい風のよう。和音のずっしり感が独特だ。

   79年結成の伊ピアノトリオが06年発表、10thアルバムかな。
96・Amato Jazz Trio:Time Pieces for Piano:☆☆☆★
   凝ったピアノ・トリオだ。ファンキーさは皆無だが、クラシックの素養を踏まえて
   楽曲ごとにアプローチやアレンジをくるくると変える。
   フレーズのスピーディさと滲むメロディのセンスで、最初はとっつき悪いが
   しだいにじわじわと実力が伺えた。"ボレロ"を下敷きな(4)のアドリブも面白い。
   うっすらとフリーな要素もあり。アマト(p)の自作集で(2)のみピアソラの"リベルタンゴ"を引用した。

   90年録音、ENJAから発表のカルテット。
   本盤が1st。このバンドは2nd"Ass Bedient"(1995)を発表し、解散のようだ。
95・Association Urbanetique:Don't Look Back:☆☆☆
   今もFelix Wahnschaffe(sax)、Rainer Brennecke(tp)は活発な活動のようだ。Horst Nonnenmacher(b)は近況が不明、
   Rainer Robben(ds)はスタジオ運営が主業っぽい。独ジャズは不案内だが、フロント二人の若き記録としても聴けそう。
   音楽性はフリーへも踏み込む展開で、テーマやリフはしっかり譜面表記のジャズ。スイング感は希薄で
   グルーヴよりもドライブ感。ただしそうとうに頭で構築を考えたジャズって雰囲気だ。
   個々の演奏はアグレッシブだがひりひりするスピードには物足りなさも。ただし型にハマらぬ
   熱っぽさをぐいぐい感じるアルバム。生真面目だが堅苦しさ無い躍動感が味だ。

   ミンガスを二枚。こちらは57年録音のアトランティック録音。
   "ハイチ人の戦闘の歌"と"ラブバードの蘇生"収録で有名な盤、らしい。初聴。
94・Charles Mingus:The Clown:☆☆☆
   "直立猿人"の約1年後な2ndリーダー作。ハードバップ文脈で雄大な世界を描いた。
   (1)でじっくり無伴奏bソロを聴かせるのが、いかにもミンガスの自身を示すかのようだ。
   寄せ集めのメンバーで録音らしいが、アンサンブルは所々粗さが残る。
   ソロ回しから一歩踏み込み、楽想の統一でストーリー性が狙いか、と思わせる。
   最後の(4)は敢えて白人的なナレーションを選んだのでは。"直立猿人"の粘っこさを抑え、若干洗練された盤。

   60年にアトランティックより発表の本盤は、マクリーンなど大勢を招いた
   オーケストラ編成か。98年再発盤で、別テイク4曲がボートラだ。
93・Charles Mingus:Blues & Roots:☆☆☆★
   "スイングしてない"との批評家へ反発も含めて、前作に続く大編成でスインギー&ブルーズに挑戦した一枚。
   上物はスイングするがリズム隊は恐ろしくクールだ。本人のライナーによると
   楽曲もロジカルなアプローチを取っている。ブルーズやスイングとジャズには
   耳慣れたアプローチをとりつつ、深い世界へ沈んだ一枚。派手なメロディは無いが
   じわじわと良さが滲んでくる。自作曲を並べてミンガスならではのスイング。

   ブルーノートから63年発表、たぶん4thリーダー作。
92・Charlie Rouse:Bossa Nova Bacchanal:☆☆☆
   モンクのサイドマンを長く務め、本盤は"Monk's Dream"録音の最終日から数週間後、
   62/11/26に録音された。だが音楽性はモンクと逆ベクトル。それが肝。
   ラテン系打楽器の奏者を3人招き、選曲はラウズが丁寧に選んだラテン曲群。
   バックはウッドベースと、ケニー・バレルとシャンセイ・ウェストブルックのギタリストと変則的なアレンジを採用する。
   ドラムはNY出身でブガルーに強いウィリー・ボボ。Patato Valdesはコンガ構造の特許も持つ名プレイヤー。
   シェケレのGarvin Masseauxは同年にブレイキーの"The African Beat"録音に参加。経歴不明だが、やはりNY近辺で活動する奏者のようだ。
   つまり完全に現地奏者でなく、あくまでアメリカを経由したとこがミソ。
   アイディアも編成も考え抜き、ボサノヴァへ安易に寄りかりは避ける試みを見せたが、サンバやボサノヴァは劇薬みたい。
   強烈な存在感を見せて、ジャズとの混ざり合いは曲ごとに違う。正直、速いテンポ曲はラテンへ
   呑み込まれ気味。(2)や(6)みたいにジャズ寄りの方が、時を超えて聴かせる。
   ラウズはかすれ気味の音色で、たっぷりソロを取りまくり。楽しそうだ。
   (6)での混沌とリフを続けるスリリングなとこも良い。

   70年代から多数のリーダー作を発表のts奏者が82年に発表、ベースがセシル・マクビー。
91・Chico Freeman:Tradition In Transition:☆☆
   テクニックはあるしキメの多い楽曲やソロ回しの工夫もある。だが妙におとなしく感じる。
   フリーキーな場面もはじけず、端正な構成美を狙うかのような。
   ごく短い曲をインタルード的に入れたり、最後を美しいテナーのソロで締めたりの構成も良い。
   だが、ちょっとノレない。スリルか豪快さにかけ、物足りない。

   シカゴ出身のブルーズ・ピアニスト、3rdソロで98年のリリース。
90・Detroit Junior:Take Out the Time:☆★
   聴いてて、隙が無い楽しさだ。ローカル・ヒット狙いって気がする。
   R&B寄りのシカゴ+ルイジアナ・ブルーズでバンド・アレンジ。手堅い演奏と歌声だ。自作は3曲、残りは有名曲のカバーと
   耳馴染み良いアルバムに仕上げた。バックビートが効いてドライブ感が気持ちいい。
   かすれ気味の声でしみじみ歌う、ベテランの手腕でカッチリまとめた。
   本盤で叩いてるニューオーリンズ出身のドラマー、Mike Mcgeeはビリー・ジョエルの"Cold Spring Harbor"にも参加。へえ。
   ギターはリーダー作も数枚ある、シカゴ出身Maurice John Vaughn。ゲストでシカゴのEddie "Guitar" Burns(Harm)を招いた。
   ジャケに"Dance and Party record"とあえて銘打ち、気軽に聴く宣伝スタンスを取った様子。

   3rdソロでECMより83年に発表。バンドネオンやフルートで独奏した盤、
89・Dino Saluzzi:Kultrum:☆☆☆
   奔放なおっさんだ。打楽器を乱打にスキャットをかぶせる風景は、抽象的だがラテンの香りを
   うっすらと漂わす。おもむろにバンドネオンが主軸となっても自由度は変わらない。
   身に沁みついた付点音符のフレーズが頻出しても、フリーな印象はどこまでもまとわりついた。
   楽曲を奏でながら、空白多く響く無伴奏バンドネオンは時にミニマルなフリーさも。
   逆に、大音響で聴きたい。寂しさを倍増させるために。

   ベルギーの1ホーンカルテット。録音は83年だが92年リリースらしい。
88・Etienne Verschueren Quartet:Early Spring:☆☆
   50年代の録音かと。アナクロ趣味、と最初は思った。が、リーダーの
   サックス奏者は1929年生まれ、ロリンズの一歳年上だ。つまりベテランがゆったりと
   吹き込んだアルバムってことか。線の細い音色で奏でるアドリブはスピーディな
   フレーズでも、どこかゆったりしてる。バッキングもミドル・テンポが多い。
   ハードバップをベルギーで同時代体験した奏者の、寛いだ演奏となる。
   いわゆる先駆性は無いが、着実な酒場ジャズと言えるかもしれない。
   なお鍵盤はチャールズ・ルース(1951年)、サックスと双頭リーダー作のように目立ってる。
   ピアノの他にローズも使用し、70年代フュージョンの香りも少々。彼もリーダー作が複数あるベテランのようだ。
   そのルース作(7)が、オシャレ。ほかのがっつりモダン・ジャズと比べて、ぐっと目立つ。軽やかなサックスも含めて。

   キューバン・ジャズの文脈で良く話題に出るピアニストの10thソロ。
   ルバルカバをしっかり聞くの初めてかも。93-94年のライブから抜粋の盤。
87・Gonzalo Rubalcaba:Imagine / Gonzalo Rubalcaba In The USA:☆☆☆
   クルクルと回る指で綺麗な音色のピアノを聴かせる。確かに上手い。アフリカンなタッチのフレーズも良かった。
   ソロ・ピアノをじっくり提示し、おもむろにバンド・アンサンブルをタイトに決めるアレンジもばっちり。
   あくまでピアノが主役だが、ソロとバンドの使い分けが見事だな。
   もうちょい毒あるアプローチが好みだが、流麗でダンディなジャズが聴ける。
   静まり返って演奏に耳を傾けつつ、腕組みして考え込ませる緊張感は無い。コンサート・ホールで聴きたいサウンドだ。

   81年1st発表のユニットが89年リリースの3rd。クインテット編成が基本だが
   本盤は6曲中4曲でサックス奏者が参加した。
86・Hal Russell NRG Ensemble:Generation:☆☆☆★
   面白い。他のアルバムも聴いてみたい。
   ビブラフォンをアンサンブルに組み込んだ本バンドは、構築されたチェンバー・プログレ的な
   アレンジを基本に歪んだエレキギターやフリーなサックスがかぶさる独特のアプローチだ。
   重たいが素早く、鋭く練られた楽曲はスリリングで楽しい。テクニックを無暗に追求せず
   硬質なスピード感を表現した。

   Tb奏者のリーダー作で93年発表、サイドメンでJohn StubblefieldやHamiet Bluiettが参加した。
85・Craig Harris:F-stops:☆☆
   前半と後半でアプローチ異なるため、全体的には散漫な印象が。
   前半の組曲はファンクネスは控え、クールで構築に軸足を置いた。厳かなシンセと
   浮遊感あるフレーズで緊張を演出だが少々単調かな。前衛を追いつつ、聴きやすさを意識してる。
   (10)はアレンジ路線をそのままに、ロマンティックに仕上げた。密やかなBill White(eg)のワウが幻想性を強調する。
   tbのグルーヴィなソロを聴くなら(11)。この路線なら好みだが。

   伊のピアニストが94-95年に録音した盤。
84・Luca Flores:For Those I Never Knew:☆☆☆☆
   ルカの最終アルバム。94-95年の3セッションが収録され、最も新しいセッションは自死の10日前に録音された。
   美しく繊細で、うねる旋律がふんだんに詰まったピアノソロ(一曲だけ、女性voの歌モノ)。
   柔らかなタッチが残響をまとって響く。頻繁に複雑な和音を使いこなして。
   内省的につむぐメロディは中心点をつかませず浮遊する。それでいて耳触りの良さを失わない。
   与える音像は深みを持ち、ときにグルーヴィに燃える。凄いピアニストだな。

   75年Black Jazzで発表。2人鍵盤のカルテット編成となる。
83・Roland Haynes:2nd Wave:☆☆☆★
   極上のファンキー・ジャズ。エレピ2台のどちらをリーダーのヘインズが弾いてるか不明だが、
   勢いよく疾走するリズムの上を鍵盤が走り抜ける。テクニカルながら譜面化せず
   手癖的に奏でる演奏が、すごく心地よい。エレピゆえのフュージョン性は、剛腕のアドリブ・ソロで
   生々しく肉体化される。耳ざわりは良いが、そうとうに凶暴な演奏だ。
   しかしきっちりコントロールされた整合性もある。執拗にフレーズを重ねるベースと
   タイトに刻み続けるドラムの相性もばっちり。

   6thリーダー作でブルーノートより62年発表。tsのワンホーン・カルテット。
82・Stanley Turrentine:That's Where It's At:☆☆☆
   整ったストレートなサックスが耳に残る、怜悧なジャズ。レス・マッキャン(p)とNYのVillage Gateで
   61/12/28にライブ共演し("In New York"、Les McCann名義で発売済)、そのまま本盤のレコーディングへ
   雪崩れた格好か。本盤の録音は62年1月の1日と2日に行われた。ドラムとベースの選定理由は良くわからない。
   少なくともHerbie Lewis(b)はタレンタインやマッキャンと録音記録が、本盤以外に無さそうだ。
   滑らかな空気な分、ドラムとリズム感の揺れが微妙に気になる。タイトなサックスやピアノに比べ
   妙にちぐはぐなハイハットに聴こえる。全体には安定して、スルッと聴ける丁寧なアルバムだ。

   黒人ソウルで93年の2nd。この後、アルバム発表はしてなさそう。
81・Art Madison:Into The A. M.:☆☆☆
   ファルセットで切なげに語りかける、マーヴィン・ゲイのストレートなフォロワー。
   打ち込みビートでこの手の歌い手は浮遊感が気持ちいい。
   カラオケ2曲投入で10曲入りだが実質8曲。特筆する個性は見えないが、セクシーに語りかける
   多重録音の歌声は、単純に心地よく聴けた。

   オークランド出身で元Tony! Toni! Toné!。ソロに転身し11年の5thソロ。
80・Raphael Saadiq:Stone Rollin':☆☆
   60年代ジャケットそのままのノーザン・ソウル路線。ノスタルジー色をどう評価するか。
   現代ならではの分離良い録音を踏まえ、逆に上手いことコンプかけている。
   破天荒な60年代のボーカルより、ぐっと洗練され落ち着いた歌声も、良いのか悪いのか。
   なまじ歌声が今一つ細く、ノーザン60年代と比較だと物足りぬ。
   音楽性はビンテージ、演奏の上手さと隙の無い録音は現代。このキメラで破綻無い構築美を楽しむ盤か。
   丁寧な作りと思うが、ぼくはこれなら60年代の盤を聴くなあ。

   独のアンビエントで07年の発表。別名義はkrill.minimaやFalter。本作はドローン系らしい。
79・Marsen Jules:Golden:☆☆☆★
   ドローンというよりギターのミニマル・アンビエントテクノ。フレーズを重ね、処理していく。どの曲も穏やかで
   繰り返しゆえの冷徹さ、ときおり滲むロマンティシズムが溢れた。
   特にカウンターでピアノなどがソロを取る楽曲だと、彼の特徴が分かり易い。
   すなわち世界観をきゅっと固めて、ふっくらと愛でる俳句みたいな彼の魅力が。
   一曲は7分前後。じっくり浸るには十分な長さで、退屈するほど長尺ではない。
   聴いてるうちに、楽曲の中で柔らかに進行するストーリー性を彼は意識してる、と分かる。

2014/5/3   ジャケ買いで色々と入手。ほぼすべてが予備知識無し。

   98年録音でカルテット編成、アイルランドのジャズかな?
78・Green Gates:Green Gate:☆☆
   奇盤。フュージョンとも違う、リラクゼーションやヒーリングのBGMを連想するジャズ。
   穏やかなシンセ交じりのオケに木管が柔らかくメロディを紡ぐ。スリルとは無縁で、
   どこかエスニックな色合いも載せた。生演奏へあくまでこだわりが特徴か。
   アドリブもあるが、個人的にはあまり興味無い分野だ。
   ちなみに寛ぐにも向かない。妙に整った演奏や歌が入るためか。
   盤の後半ではフリー要素も盛り込む。全体的にはとっ散らかった構成だ。

   6人編成、93年の盤。スイスのバンドでこれが1stのようだ。
77・Sei-Lieb:Le Chauffeur:☆☆★
   ムードは、ほんわか。ジャズを経過した室内楽。アドリブもあるが、基本は練ったアンサンブル・アレンジにある。
   時に抽象、時にコラージュ。やたらテクニックに走らないが、独特の凝った響きの追求が楽しい。
   現在まで残した盤は、この1枚のみのようだ。キメの多い楽想はけっこう楽しいのに。
   サックス2本にペット1本、その割に分厚さでなく、青白いしなやかな感じ。

   スムース・ジャズの系譜らしい、黒人アルトが02年に発売した。
   バックは打ち込みビートにアコギと、いかにもなアレンジっぽい。
76・Mike Phillips:You Have Reached Mike Phillips:
   うーん、中途半端。スムース・ジャズ一辺倒でなく、ヒップホップ色を漂わす楽曲も織り交ぜ、
   アルバムの統一感が薄い。サックスは今一つ単調なため、そのぶん上滑り感が増す。
   楽曲としては(11)みたいなポップ寄りだと素直に聴ける。
   そのあとのスムース路線が、本盤の売りかもしれない。前半はアップ気味で後半バラードなあたり
   ソウル歌モノと同じ構成論理だ。妙に自己主張強いのでBGMには向かないかも。
   同じレーベルでTony Rich Projectの名前見て、なんとなく路線が想像できた。
   耳ざわり良いが、主張もぬぐわないという。打ち込みビートに甲高いサックスの音色はクール・ソウルと思えばいいか。

   ベネズエラのfl奏者が94年に発売。MIDIからの邦盤で、現地録音だが日本企画かも。
75・Pedro Eustache:Strive For Higher Realities:☆☆
   むせび泣くフルートが印象に残る一枚。タイトな演奏で聴かせるが、ちょっと
   あっさりな出来で聴き流してしまう。毒やスリルよりクリーンにまとめたオケへ
   自らのフルートで色を付けるコンセプトか。

   豪出身の英で活動なギタリストのバンドで、パーティ・ジャズかな。90年の盤。
74・Tony Barnard:Tony Barnard's All Hat Jazz:☆★
   自作やメンバーの作が7曲。あとはビリー・ホリデイを1曲にミュージカル"Iceland"から
   "There Will Never Be Another You"をカバーした。綺麗に纏まったレストラン・ジャズだ。
   75年にサイドメンで録音デビューし、たぶん本盤が初のリーダー作。
   ギターを弾くトニーはあまり前面に出ず、バンドを引き締め役っぽい。
   軽やかなAlan Daveyのラッパが目立つ。この小編成で歌モノ3曲。でもVo専属メンバーって凄いな。
   比較的、米西海岸のスイング色が強い。熱さより、小粋を追求した。
   甘くペットが歌い上げる(4)がきれいだ。トニーはアルペジオを弾きつつ、ギター・ソロをダビングした。
   続く(5)の2管インタリュードをはさみ、ペット2本編成に変わる。
   クライマックスは(7)。たっぷり軽快なソロ回しを聴かせた。
   最終曲はピアノをメインとした密やかな小品。トニーのリーダー作のわりに、実に奥ゆかしい構成だ。

   カッワーリーの聴衆を増やした立役者、ヌスラットの盤。インサートは裏無しペラ紙のみ。
   クレジット無いプレスCDでTimelineより発売。Vol.3とあるが詳細は一切不明だ。
73・Nusrat Fateh Ali Khan:Punjabi Geet:☆☆☆
   全9曲、8分前後の作品を集めた。各地のライブ音源をまとめた編集盤っぽい。
   さらに熱狂カッワーリーでなく、静かにしみじみとヌスラットの独唱がコンセプトか。
   シンプルにper、オルガンと時に弦楽器。伸びやかに冷静に歌うヌスラットを楽しめる。
   最後は蛇足のように、シンセ打ち込みパキスタン・ポップな曲。こんなのも吹き込んでたんだ。

   ヌスラットをもう一枚。91年の英Oriental Star Agencies盤、91年録音とある。
   Vol.9とあるから他の盤も出たんだろうな。
72・Nusrat Fateh Ali Khan:Dam Dam Ali Ali:☆☆★
   録音年が正しければ88年に西洋音楽へ紹介後の収録になる。どの楽曲も一部分を切り取った編集で、
   アルバムとしては少々安易な印象を受けた。ヌスラットのテンションはまずまず。
   パーカッションが生々しく響くが、全体像はうっすら甘い音像だ。
   (1)がベスト。ポップなリフをしゃにむに繰り返し、酩酊を誘う22分弱の長尺曲。フェイドアウトが惜しい。
   続く(2)はいくぶんメロディック。ウネリを強調する打楽器を軸にヌスラットとコーラスが対話を重ねた。
   前曲とタッチは似ているが、ほんのり陰ある(3)は女性ボーカルが良いアクセント。
    最後で思い切り切ないコブシを揃ってまわしてゆく。楽曲切るタイミングはきれいだな。
   ヌスラットとの応答をくっきり目立たせた(4)はテンポを揺らす。カッワーリーのダイナミズムには
   甘いが、ヌスラット独特の節回しを楽しむなら本曲が良い。
 
   前衛デュオだろうか。98年にリリースされた。英ASCより発売。
71・Franco Degrassi/Gianni Lenoci:Franco Degrassi/Gianni Lenoci:☆☆☆☆
   ある意味まっとうなノイズ作品。ピアノの乱打で始まり、しだいに抽象的な音が混じる。
   電子音っぽいが、金属的な倍音かも。演奏手法が読めない。
   どこまでも抽象的で、ときおり金属が軋む生理的に辛い音まで混じる。
   カタルシスは無く、とろっと淡々と無秩序に、しかし冷静かつ端正に音が展開する。
   ストーリー性もコンセプトも読めない。だが、あきらかに偶発性強くとも意図的なノイズと分かる。
   そうとうに理知的で、猛烈に自由な音楽。キイキイ言う音が無ければぼくはハマったと思う。
   率直な所、あの音は鳥肌立ちそう・・・。

   ホルンを持つ黒人男性の1stソロでカルテット編成。89年のNY録音だ。
   リーダーのチャンセイは70年代から活動を始め、サン・ラやレスター・ボウイ、
   デヴィッド・マレイやカーラ・ブレイなどそうそうたるメンツと競演歴も有り。
70・Vincent Chancey:Welcome Mr.Chancey:☆☆☆
   抜けのいいホルンだ。トロピカルな(1)のアプローチが新鮮で良かった。どうしてもコモる音色で
   逆にエキゾティックさを演出した。(2)は一転、穏やかなテンポでロマンティックなジャズを吹く。
   以降の曲も尖りや雄大さを、間を生かして使い分け、穏やかさとスリルの共存なアンサンブルを披露した。
    シャンセイは本盤の後に"Vincent Chancey and Next Mode"(1996)、"LEGenDES Imaginaires"(2000)と
   リーダー作を発表。他の盤も聴きたくなる。
   なおギターのデヴィッド・ギルモアはM-Base系の彼かな。

   ギター・トリオで現在まで15枚以上のアルバムを発表している。
   本作は米Music And Artsより99年発売の3rd。
69・Scott Fields Ensemble:Disaster at sea:
   ワウでひねりながらのフレーズ弾き倒しギターへ、ドラム乱打とチェロのかきむしりな疾走系フリー。
   音だけだと一本調子さは否めないが、ライブでのスピード感は楽しそう。
   20秒ほどの小品と数分のセッションが交互に現れる構成で、楽曲によってはアンサンブルが
   成立している。完全即興ではなさそうだ。
   しゃくるギターを中心にうねりを楽しむ盤。

   オランダの電子音楽家による00年の盤。
68・Huib Emmer:Full Colour Ghost:☆☆★
   へんてこミニマルな電子音楽。ビートに抽象的な短い上物を載せるテクノなアプローチだ。
   妙に古めかしい音作りは、覇気が無いわりに奇妙な親近感を覚えた。
   フロア対応には抽象すぎるが、音量上げたら蠢く電子音は意外に響きを大切にしているとわかる。
   (3)の長尺が、音世界へ浸りやすい。中盤からのリズムは軽快に鳴った。

   伊の作曲家が比較的キャリア初期に発表した盤で、1920年の無声映画
   "Der Golem,wie er in die Welt kam"の伴奏で演奏を収録とある。
67・Visna Mahedi Ensemble:Unintentional beauty:☆☆
   人力のはずだが、生々しさをほとんど感じさせぬ。奇妙な浮遊感が魅力だ。
   インド密教みたいなエキゾティックさとダーク・アンビエントなメカニカルさが混在する。
   ジョン・ゾーン流のコラージュにも影響受けていそうだ。あまりメリハリ無く
   淡々と音楽が漂うアプローチは、いまひとつ盛り上がらない。思い切りボリュームあげて
   じわっと来る奔流に身を任せるべきか。

   サックス・カルテットの2枚組、カリフォルニアで02年録音。
66・Dale Fielder Group/Force:Howling Monk:☆★
   双方ともホットなハード・バップを聴かせる。ファンキーさはまずまずだが、どうにも演奏が荒い。
   Disc1(7)のリードミス連発なサックスには背筋がそそけだった。
   Disc2の組曲もアカデミックさは皆無。普通のジャズに聴こえるし、
   ソロもサックスだけでなく他の楽器へふんだんにスペースを与えた。
   まとめると耳馴染みは良い。だが野暮ったいC級感が拭えないかな。

   同じ奏者が04年発表の盤で、打ち込み二管編成。宗教的な趣きだ。
65・Dale Fielder:A devine union:
   奇盤。カリフォルニアで1986年設立のキリスト教系な新興宗教Agape international spiritual centerの主催者が
   4曲を提供した、スピリチュアルなジャズ盤だ。奏者が信者かな?
   リズムが打ち込みでキーボードが乗るアレンジで、サックスはそうとうにモタったタイミングで吹く。
   生ぬるっと耳馴染み良い楽曲が続きは宗教的熱狂よりは、寛ぎを演出か。みょうに演奏が拙く聴こえる。
   ピッチが奇妙な不安定さを醸し出した。

   黒人as奏者の53-54年録音をまとめた。21曲入り中15曲が未発表音源だ。
   97年、米イリノイのDelmarkがリイシュー。
64・Tab Smith:Top'N'Bottom:☆★
   スイング時代より活動し、ベイシーやラッキー・ミランダ楽団などの経歴もあり。
   自作のヒットは"Because of You"(1951)。本盤ではオケをバックのゴージャスなセッションが主軸だ。
   サックスの音色は甘く伸びやかだ。曲によってリバーブをどっぷりかぶせる場面に驚いた。
   突出する派手さより、着実な安定で聴かせるタイプだ。ときおりロングトーンをはさみつつ、丁寧に旋律を紡いだ。
   本盤で発掘音源の出来も、決して悪くない。発表のタイミングを逸しただけ?
   突出した楽曲の特徴は無く、ざらっとアルバム単位でBGM風に聴いてしまった。

   黒人ピアニストで本盤が1st、発売年不明だが90年代後期か?
63・Lafayette:The art is life:☆☆☆
   がっつり粘っこいファンク・ジャズを聴かせる。2tp1euphで厚みだすフロントを
   ピアノトリオがぐいぐい押した。コンセプトが読めてないが、和音変化をあまり出さず
   強靭に低音をキープし、ポップ性を廃した突進するファンクが狙いか。
   タイト狙いながら、どっかゴロッと野暮ったいノリも魅力。

   06年の発掘音源で二管のコンボ編成。本ライブでドラム叩くトニー・レヴィンの
   自主レーベル"Rare Music"より発売で、リーダーはas奏者。レギュラー・バンドでなくクラブの地元メンバーとセッションか。
62・Joe Harriott:Live at Harry's 1963: ☆☆
   フリージャズ開祖の一人らしいが、本盤ではライブであり客受けを狙ってか
   ストレートなビバップを中心の演奏。スピーディで熱い演奏で飽きさせぬ構成だ。
   録音状態はAUD。補正あるも、さすがに細部は甘くノイジーさは否めない。
   雰囲気を味わうファン向け音源かも。だが当時のライブの様子を伺える貴重な盤である。

   NYの作曲家がCD-Rで発売した95年の盤。3rdかな。
61・Joseph Benzola:Reflections:
   シンセとドラムの自己多重インプロか。小刻みフレーズで抽象ムードを醸す、ザッパ的なアプローチだ。
   爽快感は無いが、先の読めぬ細かい展開は楽しい。(3)や(4)ではシンフォな音色で
   即興旋律を吹き流す。テクノやノイズ性は薄く、構築性も低い。奔放な即興っぽい。
   シンセとドラム、どちらを先に録音かも興味ある。まるきりムチャクチャでもなさそうだし。

   E-Vibe奏者のリーダー作でタイトル通り4作目。クレジット無いが01年の作。
   97年結成で、本盤が最後のアルバムになった。リーダーのビル・ウェアのバンド、JAZZ PASSENGERESのリズム隊が派生したバンド。
   本盤はボーカル(ブロンディのデボラ・ハリー(!))やChris Theberge (per)やJay Rodriguez(winds)がゲスト参加した。
   後者の二人はGroove Collectiveより。ビルも同バンドのメンバー、そのつながり。
60・Bill Ware III:Vibes 4☆☆★
   最初は構築性高い冷徹さかと思ったが、
   繰り返し聞くうち素直なスイング感が味、と印象に変化あった。
   コロコロ鳴るビブラフォンは、むやみにスピードを上げず音符をねじり上げていく。
   どの楽曲もかっちりとアレンジされてるが、テクニック志向でなく、むしろこじんまりで小粋なアンサンブルだ。
   時々、もやっと煙るサイケ気味な雲が、このバンドの個性と味わい。

   NYで07年録音。コンガを叩く黒人男がジャケットだがラテン系かな。
59・Terry "Doc" Handy:Kinfolks:
   怪盤。ラテン・ジャズコンボで、トランペットをフィーチュアしたサウンドだが、
   リーダーのパーカッションぶりが実にヘンテコ。奇妙なリズム感でドタバタするのはまだしも、
   ほぼ全曲でアクセントに入る、杭打ちな低音コンガの響きが耳へこびりつく。
   4拍目に二つ打ちが悪夢のごとく耳へ残り、ようやく次の曲へ移ると
   無意識に低音のコンガを耳が探してしまうという。トラウマのように。

2014年4月

2014/4/2  最近買ったCDをまとめて。

   5年ぶりの新譜は菊地の唄へさらに重心を置いたアルバム。
58・菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール:戦前と戦後:☆☆☆☆
   退廃感の舞台を昭和に持ってきた。若かりし頃の雑駁さを冷静に俯瞰してる感じ。
   菊地の歌声は感情をそぎ落とし、笛のように響いた。
   ヒップホップもクラシカルな響きも歌謡曲もタンゴもすべて混ぜて美しく仕上げる
   ペペの本領は今作でもばっちり。強靭なポリリズムの上で響くのはか細いしたたかさ。
   カバーの妙味というよりある種、懐メロを古き良き時代への憧れ、的に磨いたセンスが良い。

   30周年盤。このあと、リイシューが一切無いと大滝は語っていたが
   やはり最後の盤なんだな、としみじみくる。二枚組で純カラオケを初収録した。
   カラオケのレイクサイドが、大エンディングver!
57・大滝詠一:Each Time(Final):☆☆☆☆☆
   歌入りの最新リマスターは心なしか、エッジがくっきりと明るいイメージ。ロンバケよりぐっと世代上がった
   ボーカリストの大滝詠一を堪能できる傑作だ。発売当初は大人っぽくて馴染むのに時間かかったっけ。
   歳を経るごとに、良さを噛みしめられる。
   だがそれもカラオケの瑞々しさには及ばない。"夏のペーパーバッグ"を聴いて狂喜した。
   オリジナルLP盤のカラオケだ。サックスソロは、やっぱこのほうがいい。
   ハーモニーも一切ない、サウンド・トラックのカラオケ。アレンジの緻密さに
   改めて唸った。だがレイクサイドが大エンディングだけに、フィヨルドにつながるのはちょっと・・・レイクでしめて欲しかった。
   アルバムは本当に素晴らしい。隙のない隅々まで目の行き届いたポップスだ。至上にして至高。

   スタジオ・アルバムとしては"Love is the way"(2009)ぶりの新譜。友人と寛いで収録したようだ。
56・Eddi Reader:Vagavond:☆☆☆☆★
   ビリー・ホリデイらが歌ったジャズ・スタンダード(1)で幕を開ける本作は、カバーをふんだんに取り入れた。
   自由に音楽的興味の羽を伸ばし、ルーツを掘り下げる。のびのびした傑作だ。
   エディ単独作は2曲、夫ジョン・ダグラス他との共作が6曲。カバーやトラッドのアレンジが5曲で、最後は盟友Boo Hewerdinenoの曲でしめる。
   共作曲の中で(3)は英詩人John Masefieldの詞、(7)が米作家Alice Rileyの詞に歌をはめた。
   トラッドのカバーは(10)がゲール語、(11)はスコットランドのもの。前述の(1)と、
   他にそれぞれSSWの作品で、アイルランドのDeclan O'Rourke作(4)、スコットランドの故Michael Marra作(8)を歌う。
   雑多なベクトルやバラバラな地方/時代の要素を、バスキング風アレンジの柔軟な温かさでしたたかに包みこんだ。
   ジャケットに似合う和らいだライトが似合うアルバムだ。情緒に満ちて、勘定に流されない。
   エディの盤はどれも粒ぞろいだが、本作は特に充実した演奏と歌が楽しめる。

   13年発売、09年9月にビルボードで収録した来日ライブの音源。
   フェアグラウンド・アトラクションズ時代も含め、日本公演をリリースは嬉しい。
55・Eddi Reader:Live in Japan:☆☆★
   このときは三日間6公演で、ほぼ同じ曲順の模様。収録日は記載なく、全日本公演から良テイク選り抜きか。
   曲順もライブの時と少々入れ替えてる。観客の拍手も程よく、臨場感あり。
   "Love Is the Way"(2009)ツアーの位置づけが強く、12曲中6曲が同盤から選曲した。
   あとはFG時代から3曲に、ピアフのカバーと、日本ならではの"うさぎ"カバー。
   むしろ"Angels & Electricity"からの"Bell, Book And Candle"選曲がひときわ目立つ。
   少々硬い音色の録音だが、寛ぎつつも伸び伸び安定した歌いっぷりを楽しめる一枚。ファン向けかな。

   タワレコ限定発売の一枚で、ソロ名義3作目、77年のアルバム。
   マッスル・ショールズがリズム隊で、コーラスにカート・ベッチャーが売りという。
54・Bob Crewe:Motivation:☆☆☆★
   AORだがディナーショー風の地に足が付いたゴージャスさを感じた。
   リゾート的な爽快感でなく、具体的に豪華で優雅なポップス。楽曲は少々大味だが
   どれもクリュー本人が作曲に参加している。フォーシーズンズより上の世代を狙った印象。クリューの歌はうまいな。
   ドラマティックな展開の(2)が強力だ。他にも心地よい響きの楽曲が多い。(5)や(6)も良い。

   こちらは76年。時代を尊重しディスコ路線のアルバム。
53・The Bob Crewe Generation:Street Talk:
   A面はとにかくゴージャスなアレンジで、逆に印象に残らない。バラエティに富んだB面が
   今となっては気軽に聴ける。ある意味職人芸の詰まった盤。
   あえて一曲選ぶなら最終曲の落ち着いた曲の(8)かな。

2014年3月

2014/3/13   最近買ったCDをまとめて。

   GbVの新譜が出た。だが既に次の新譜"Cool Planet"の発売予告と、さらに次の
   アルバム録音が示唆されている。いかにもGbVらしい。
52・Guided by Voices:Motivational Jumpsuit:☆☆☆☆
   五ヵ所のスタジオにて仲間内で取った素材を集めてる。熟練しない職人の貫録だ。
   バンド・アレンジを巧みに施した。ボブらしい世界観をつぶさず、なにげに豪華なサウンドが凄い。
   ベテランならではのバランス感覚だ。初期のスピード感を手慣れた素早さに置き換えた
   本盤では、いまだにザクッとしたローファイな瑞々しさをを残し続けてるボブの
   大雑把で多彩さを上手いこと封じこめた。トビンは5曲を提供し、別の価値観をさりげなく与えた。

   アコースティックにこだわった録音という、ベックの新譜。
51・Beck:Morning Phase:☆☆☆☆★
   録音の勝利。ストリングスやキーボードでデジタル的に奥行ある、心地よい響きを全編で味わえる
   煙った荘厳なカントリーと、形容矛盾な世界がベック流のメロディとコード感で表現された。
   テンポを押さえゆったりと歌われるサウンドは、素朴ながら緻密にアレンジされ
   親しみやすくも孤高の完成度を見せた。とてつもなく作りこまれつつ、さらりと聴かせる極上の一枚だ。

   死後も発表が続くザッパの発掘音源集。これは2012年発売の2枚組で、72年に
   ザッパが発売を予定したタイトルとの触れ込み。YCDTOSAなどで既発音源もあるが、
   60~70年代ライブ音源をまとめたもの。
50・Frank Zappa:Finer Moments:☆☆
   69年以降、後期マザーズのライブが主。楽曲よりユーモラスで雑駁な即興が多い。この時代はさほど思い入れ無いため、低評価となってしまう。
   テクニカル志向前のアンサンブルゆえの混沌と杭打ちリズムで、独特の骨太さが当時の魅力となる。
   ここで分析あるが、音源は細かく編集あり。既発音源も編集が異なる。この編集はザッパ自身の別編集かな?
   数曲はザッパの前衛的なスタジオ録音。選曲の基準が分からぬため、いまいち構成が散漫だ。
   ポップ性やロック的なダイナミズムとベクトル違う曲が多い。
   聴き応えある"Uncle Meat"や"King Kong"の長尺アドリブ部分もあるが、メンバーのソロ回し。
   伸びやかに可能性を追求した、この当時のザッパの様子が良くわかる。
   ただし明らかにマニア向の盤。もっとも今や、ゲイルのターゲットはファンのみか。

   佐藤通弘(津軽三味線)とゾーンが84年に録音した"巌流島"音源。
   TZADIKの98年再発盤で入手、数曲のボートラあり。
49・John Zorn:Ganryu Island:☆☆★
   日本人ゆえの愉しみも聴ける一枚。西洋人が覚えるエキゾティックさはなく、ゾーンの異物性が強調される。
   ゾーンはマウスピース演奏で対峙した。おそらく自らを武蔵に、三味線が小次郎に見立てと思う。
   三味線はなじみ深いフレーズを小刻みに重ね、ゾーンのパルス・フレーズは小鳥のさえずりとも聴ける。日本人ゆえのなぞらえか。
   断続するグルーヴには、間を意識する。二つの文化が対峙した、興味深い一枚。
   楽曲的な構成を三味線に与えず、いわゆる手馴れの三味線にゾーンがかぶさった。
   三味線はいわゆる自由即興じゃない。そこへ無作為なマウスピースの金属的な単音が襲う。

   チャーリー・パーカーのソロを複数のサックスで再現する、トリッキーな
   コンセプト・バンドのデビュー作で73年の発表。
48・Supersax:Supersax Plays Bird:☆☆☆
   サックスの一糸乱れぬアンサンブルが飛び出した瞬間の痛快さが凄い。
   ある意味で曲芸だが、単なる腕自慢に終わらぬグルーヴィさが聴きもの。
   サックス隊の分厚さがパーカーの鋭さを柔らかく包み、野太く弾けさせた。
   まずパーカーを聴くべきだが、本盤も奇妙な面白さがある。
   あえてサックスのソロ回しをさせず、金管にソロを取らせるアレンジも愉快だ。
   ビッグバンドの豪華さとコンボのスピード感を上手いこと混ぜ合わせた一枚。

   87年作で当時のスーパー・グループ。DIWが日本で製作した。このCDはLPより1曲多い。
47・George Adams/James Blood Ulmer/Sirone/Rashied Ali:Original Phalanx:☆☆☆
   ドタバタしたリズムと、小節線からはみ出しそうなギター、ぶいぶい唸るベース。
   独特のリズム感が当時の時代性と、三人の個性だ。鉄板みたいにシビアだが厳しさを薄めた
   上ずるサックスが乗って、アンサンブルが出来上がる。グルーヴよりスピード感を、
   ダンディさよりクールさを狙った時代のジャズ。
   曲を演奏だが、まったくフリーみたいなヒリヒリさが味わい。好みな人にはたまらない仕上がりだ。
   流れの盛り上がりで無く、尖った瞬間が持続する。
   サックスが無い3リズムの時が、このユニットの特徴が分かり易い。

   最近、急にピチカートへ興味がでた。当時は無視しており、完全後追いだ。
   これは97年に自レーベル"*********record's tokyo"を立ち上げ、先行シングル
   "イッツ・ア・ビューティフル・デイ"を発表、数か月後にリリースした発売の10thアルバム。
46・Pizzicato Five:Happy End of the World:☆☆
   ロングDJmix風にリズムだけで伸ばす構造を多用した。妙にひしゃげた響きのトラックへ
   生々しい野宮の歌声が乗る。古めかしい盤を回すイメージなクラブ志向のポップス・アレンジ。
   うっすら諦念が浮かび、形骸を弄るかのように。プロデュースに福富幸宏、リチャード・キャメロンがゲスト参加するあたり、
   ピチカートへ新風もしくは人任せを狙った。個々の楽曲は瑞々しいが、アレンジが硬い。
   当時の小西による本盤キャッチフレーズは"Happy Charm Fool Dance Music"。アルバム一枚がけっこう長く、BGM的に聴きたい盤だ。
   m-floの中期アルバムに、本盤の影響を感じた。

   94年発表の編集盤で、細野晴臣のノン・スタンダードで録音した作品集。
   ただし8曲中3曲が飯尾芳史のRemix、2曲は未発表曲、1曲は新edit。
   この辺が別アレンジを大量生産したピチカートらしい。
45・Pizzicato Five:Pizzicatomania!:☆☆☆
   スカスカでも温かみある残響持ったシンセのフレーズが、細野晴臣の色を強く感じる。 
   熱狂しないポップスが詰まった一枚。後に向かうピチカートの方向性へブレは無い。
   ボーカルの囁き具合とシンセ一色に染まったチープなオケは、古びながらもアレンジの妙味で美しさを減じない。
   楽曲よりもアレンジのほうへ耳が強烈にひきつけられる。

   で、遡って、野宮がボーカルをつとめたバンド。87年の3rd。
44・ポータブル・ロック:ダンス・ボランティア: ☆☆★
   87年の時間軸だと十二分に時代を先取りしてる。打ち込みビートと女性ボーカル、
   ポップで非日常性をオシャレに彩る本盤は、のち20年間有効な方法論だった。
   溌剌なメロディと涼やかなムード、肉体性を極力排除したプラスティックなイメージは
   繰り返し聴くうちに面白くなってきた。時代を経た今聴くと、若干アレンジが大味かな。
   ただしメロディはさまざまな小技が凝っている。
   しかし埋もれさすには惜しい盤だ。結局、ドンスカいうドラムの音色が古臭いだけ。当時は最先端だったが。
   打ち込みと言いつつ、軽やかなギターやベースの演奏は十分、バンド・サウンドだ。
   NWのひりひりした切迫感が皆無、A面は一歩高みから見下ろす大人のムード有り。
   B面は幾分、聴き手に寄り添う感あるポップス。今の耳で聞くならA面の路線がお薦め。

   今度は時を経て04年のソロ。この時点で菊地成孔(1曲を作詞)の名がアオリとして帯にあり。
43・野宮真貴:DRESS CODE:☆★
   ピチカート時代の冷ややかなオシャレっぷりが緩和され、整ったレディ・ポップスに仕上がった。
   m-flo&クレイジー・ケンの"Cosmic Night Run"も収録、ベスト盤みたいなゴージャスさだ。
   バブリーだが無闇な派手さは無いのが救い。ラテンやボサノヴァ風味も変わらない。

2014/3/6   最近買ったCDをまとめて。

   セネガルのユッスー・ンドゥールがレゲエに接近した2010年の作品。
42・Youssou N'Dour:Dakar-Kingston:☆☆☆★
   複雑な入れ子構造によるボブ・マーリーとレゲエにアプローチしたアルバムだ。
   まず楽曲はユッスーの楽曲が中心で、"Eyes open"からのセルフカバー"Survie"を収録。
   演奏は基本的にユッスーのバンド、かな?ウェイラーズからはEarl "Chinna" Smithが参加した。
   ビートはレゲエよりテンポは早め、スカの痛快さは薄いが、裏拍を強調したセネガルの音に仕上がった。
   ただしアレンジは全て元ウェイラーズのタイロン・ドウェイン。
   つまりレゲエを意識したユッスーの音楽を、さらにウェイラーズのフィルターを通しつつ
   アフリカンな要素を足す。この入り組んだアプローチは、ワザとなのか。あんがい、なにをやっても
   ユッスー色に染まっただけなのかも。収められた音楽は、どちらつかずの中途半端さは無い。
   あくまでレゲエの色合いを咀嚼したアフリカ音楽だ。

   Moonchild系の第5弾とし、マーク・リボーを前面に招いた2010年のアルバム。
41・John Zorn:Ipsissimus:☆☆☆★
   根本は楽曲仕立てだがふんだんな即興要素を投入し、演奏のスリルを増している。
   サウンドは安定しつつ刺激を失わない、熟練したテクニックを魅せた。
   どの曲も7分程度、コンパクトにまとめてテンションが落ちない工夫を施した。
   冒頭の疾走ぶりから力任せのインプロと一瞬誤解するが、聴いてるうちに奥深さを実感した。
   リーボーのギターは抽象的な旋律をふんだんにばら撒きつつ、メロディ感を失わない。
   ロックのダイナミズムとジャズの自由度を混ぜ込んだ傑作だ。

   タイトル曲がニコニコで高再生を踏まえてデビュー。
   再生から消失までトータルアルバムにまとめた2010年の盤。
40・cosMo@暴走P Feat. 初音ミク:初音ミクの消失:☆☆
   「人間に歌えぬ音域とスピード」を使い、独特のポップスを作った作者の手腕は賞賛する。
   アルバム一枚をコンセプチュアルに仕上げたセンスも素晴らしい。
   その一方でレーベルサイドの安易さとマスタリングの工夫が今一つ。
   中域ノペッとカチカチな音作りは電子性を強調しすぎ、聴いてるとくたびれる。
   もう少し、アナログ的な響きを取り入れて欲しかった。

   足利出身の大編成プログレらしい。何となく面白そうで入手した。2012年発表。
39・Daimon,DaimonOrchestra(大門,複数大門):Vega.の催涙雨:☆★
   とても同人的な耳ざわりだ。各トラックがドライで分離強いミックスなのと、ボーカル処理が
   リバーブ薄いせいで、よけいに。一ひねりした拍子を使うプログレポップで、
   テクニックひけらかしで無くシンフォニックなアプローチのわりに乾いた音。
   プロデューサー立ててアレンジと歌のピッチを馴染ませたら、もっと好み。
   熱意は伝わるが、パンキッシュな仕上がりに戸惑った。

   ガッドとゴメスをリズム隊に、ファレルをフロントに招いた91年の代表作。
38・Chick Corea:Friends:☆☆☆☆
   隙のない寛いだアンサンブル。アレンジをごく大枠のみ決めておき、
   あとはセッションの対話で作り上げたか。名手ぞろいの安定感と、丁々発止の
   ゆったりとインタープレイを楽しめる曲から、スリリングに斬り合うソロの連発まで
   隅々まで良くできた盤だ。ローズを使うのが時代か。でも、気持ちいい音なの間違いない。

2014/3/2   注文したCDの第一弾が到着した。

   なんとなくカンタベリーを聴きたくAmazon検索で見つけた。2013年発売の
   4枚組で初期のさまざまなセッションを収録した。
37・V.A.:カンタベリー・サウンドの誕生~Canterburied Sounds:☆☆☆☆★
   これは前・原点である。「カンタベリー・ミュージック」という"ジャンル"を作ったミュージシャンは
   そう多く無い。今でもファンやフォロワーを産む強度の音楽を作った一翼の人々が活動初期の"前"を記した4枚組だ。
   収録でなく記録、ゆえに音質は時に低調だ。率直な所"音楽"とし面白くない点も多々ある。
   それは登場人物が無意識に音楽を作っていたためだ。原石や試行錯誤は「理想」があって成立する。
   だが本盤では無邪気に音楽と向き合う様子が伝わってくる。
   デモテープ以前の記録集なため、はっきりとマニア向きだ。正直ぼくはカンタベリー系を
   ほとんど知らず、入門編代わりに買った。この点で、後悔している。しかし聴けたことは大満足する。
   本盤はライナー片手に聴き進む盤である。時代背景と周辺環境を横目に見つつ、こののちに才能を開花する
   ミュージシャンらの作為や完成への集中力をかなり廃した、素朴な音楽集が味わえる。
   過去の発掘音源が馴染むジャンルゆえに出た盤だからこそ、このピュアな音楽集は貴重だ。
   個々の楽曲は玉石混交だ。ほとんどが石。けれども一聴を、強く薦める。

   コステロがヒップホップに寄りザ・ルーツと組んだ13年の盤。
36・Elvis Costello & The Roots:Wise Up Ghost:☆☆☆☆
   音楽性はコステロ寄り。これはブレない。バンド・スタイルで全編にわたりザ・ルーツのメンバーと組んだ、な意味合いだ。
   もともと言葉が多く譜割の細かいコステロの詞に、ヒップホップが似合うと改めて分かった。
   だがコステロはほぼ全編で楽器も演奏、ブレイクビーツは要素であり本質ではない。
   頑固で強引なコステロらしい仕上がりだ。
   楽曲もメロウなコステロ節が全開、ホーンやストリングスの加わった曲はロマンティックなヒップホップ風味で
   たしかにこのテイストは新鮮だった。とはいえ"コラボ"と銘打つには躊躇う。アラン・トゥーサンを食い散らかした"The River In Reverse"を連想する。
    ゲストのVoはさりげない人選だがメキシコ系LAのバンドLa Santa Ceciliaのvo、Marisol "La Marisoul" HernandezやSSWのVo,ダイアン・バーチ。
   ミュージシャンではホーン系は新しくしたみたい。他には英ブルース・ロック系ベーシストPino Palladinoが数曲で弾いている。
   自作のサンプリング的な使用も試みており、"Pills & Soap"や"Satellite"も顔を出す。
   コラボの味わいで聴き始めたはずが、ふと気づくとコステロのソロだと思い知る仕様だ。
   乾いたヒップホップの味わいが、ヌルさで無く枯れた空気を良い感じに出している。
   カントリーや力技ロックより、よっぽどダンディで年相応のスリルを味わえた。じっくり聴きたい。

   下北沢のライブハウス440で09年のギター中心なライブ・コンピ。14曲収録で
   鬼怒無月が一曲で参加した。
35・V.A.:ギター触人 Live At 440(Four Forty):☆☆
   アルバム全体のトーンはフォークやブルースの弾き語りっぽくて、ちょっとぼくの趣味と違う。
   歌が主であり、ギターはツールとしてのみ存在する。
   (7)あたりからだんだんギターの必然線が増す。もっともストロークが多く
   いわゆる速弾き路線ではない。
   だから鬼怒無月は非常に本盤で座りが悪い。もっとも彼のブルーズ感が
   演奏からにじみ出て、楽曲は素直に溶け込んでるけれど。
   鬼怒は涼やかなエレアコのインプロ。パーカッションの共演者はクレジット無し。
   そういえばアルバム全体に、録音年とか無い。映像とCD、双方で楽しめる企画は嬉しいが。

2014年2月

2014/2/12   最近買ったCDをまとめて。

   伊のピアニストが06年発表のジャズ。絶賛の一方で入手困難が続いてたが、ようやく入手した。
34・Nico Morelli:Un (Folk) Ettable:☆☆☆☆
   コンセプトはジャズとイタリアのタランテラを融合。だが安易なごちゃまぜでなく、あくまで
   じっくりと取り組んだ印象が素晴らしい。スマートなジャズから、じわじわとイタリア要素に
   変貌していくさまが、本盤の聴き応え。ジャズだが単なるジャズで無く、
   いわゆるジャズじゃないが、ジャズだ。

   数年前から大量に出てる8in4のEUボックス。
33・J.J. Johnson:Eight Classic Albums:
   音質的にはボケた感じだし発表年順にもなってない。サイドメンの記載すらない。
   だがネットで録音情報を補完しつつ、とにかく音を安価に聴きたいって廉価版の趣旨へ
   適切に沿った盤だ。個々の盤への感想は、以下の通り。

Disc 1:Album A:The Eminent Jay Jay Johnson Volume 1(1954):☆☆★
   ビバップを中心にムーディからハードまで幅広い楽曲選びだ。3管編成の分厚さが丁寧にアレンジされ
   端正な雰囲気が隅々まであり。がっつり早くてもスマートだ。

   :Album B:J Is For Jazz(1956):☆☆★
   幾分、ごつっと迫力を増したかな。端正な面持ちは変わらず。
   誰もが着実なテクニックで破綻無く、すごく滑らかに演奏を繰り広げる。2管編成、複数回のセッションを纏めた盤。

Disc 2:Album A:The Eminent Jay Jay Johnson Volume 2(1955):☆☆☆☆
   ウィントン・ケリー、ミンガス、ケニー・クラークとモダンごりごりメンバーを揃えて、
   数曲で彩りにサブ・マーチネスのコンガが入る編成。まず、トロンボーンの鮮やかな音色に惹かれる。
   硬軟取り混ぜたアルバム構成も良い。隙がなく充実した演奏だ。

   :Album B:The Great Kai & J. J.(1960):☆★
   2トロンボーン体制で穏やかな印象。ピアノがビル・エヴァンス、ドラムやベースも
   濃い面子が揃ってる割に、印象はどこまでも柔らかく素直だ。さらっと聴ける。

Disc 3:Album A:Blue Trombone(1957):☆☆☆☆
   Tommy Flanagan/Paul Chambers/Max Roachのコンボ編成と、がっつりモダン・ジャズ。
   だがどこか古めかしいスインギーな上品さを漂わすのがJJの美学か。独特の煙った影は無く
   明朗快活にトロンボーンが歌う。高音部の軽やかと、中低域のまろやかを同一楽器で自在に行き来するテクニックが肝だ。
   ミュートを使った渋い音色も良い。抜群のスムーズな音色とフレージングに隙は無い。極上のジャズだ。
   楽曲ごとにJJはキャラクターやアプローチを変えてる気がする。

   :Album B:A touch of satin(1961):☆☆
   60年発表の本盤はスイング感溢れる、時代を考慮すると相当に古臭い作品だ。演奏は抜群だが。営業的な企画だろうか。
   同い年のSam Jones(b)に20代の若手Victor Feldman(key)とLouis Hayes(ds)を招いた。
   安定した柔らかなジャズだ。アップの"Flat Rock"すらも、どこか甘い。
   強いベースに着実なドラムの刻み、軽やかなピアノに奔放なトロンボーンが載った。
   スリルよりもムードを、荒々しさより洗練さを追求した作品。

Disc 4:Album A:J.J. Inc.(1960)☆☆
   聴きやすいが、のめり込めないアルバムだ。
   スインギーで整ったところが、60年の録音にしては古臭い気がする。
   流麗でタイトなアンサンブルはクールさとも違う、背伸びした熱さを狙ったような。
   サイドメンもどこか煮え切らない。

Disc 4:Album B:First Place(1957)☆☆☆★
   Paul Chambers、Max Roach、Tommy Flanaganを招き、初手から張りのある仕上がりだ。
   9曲と短めのテイクが並ぶ中、J.J自作が3曲と、あとはスタンダードを選曲。そこへさりげなくロリンズの(2)を
   混ぜリアルタイム世代へも目配りした。どの曲も勢いに任せず、おっとりと演奏がJ.J.の個性か。
   逆にバラードでも情緒に流れず、小粋さとも違うあっさりさを聴かせる。
   J.J.がコントロールしつつ、ところどころ勢いを抑えきれぬリズム隊へJ.J.が逆に引っ張られた箇所も伺え楽しい。

   川本真琴がインディで06年発表のシングル。
32・タイガーフェイクファ:山羊王のテーマ:☆☆☆
   異形のポップスだ。アコースティック・バンドっぽいアレンジを主体でコミカルな歌詞を
   川本流の伸びやかでスケール大きなメロディで歌う。
   実質3曲入り、川本の1stで顕著なストーリー性は影を潜めシュールなイメージが舞う。
   60年代ポップスを90年代コラージュで再評価したようなアレンジはグルーヴやヒット曲狙いとは
   別次元、たまたま気に入った曲をまとめ、さくっとリリースした印象を受ける。
   甘酸っぱいハイトーンは健在、歌を楽しみ活動を続けてくれてることを感謝する盤、か。

   キップが06年発表の自薦自作のコンピ盤。
31・Kip Hanrahan:Drawn From Memory:☆☆☆
   未発表ライブ録音の10分をおまけに編まれたコンピは時代も流れも自由自在に選曲された。
   したたかで強靭なリズムが吼え、伸びやかなグルーヴが味わえる。
   漆黒のジャケットにふさわしいノリが、実にかっこいい。
   本盤はあくまでショーケース的な位置づけだが、収められた楽曲はそれぞれに魅力を放つ。

2014/2/9   最近買ったCDをまとめて。

   ライブ物販で購入。基本はギターソロでブラジル音楽を中心にバッハやモンクもカバーした。13年の作。
30・助川太郎:This Is Guitarist:☆☆☆
   統一したタッチでおっとりと丁寧につむがれるギターは、ふくよかなエコーに包まれ
   優しく響く。テクニックを悟らせず、淑やかに流れるフレーズに寛げる一枚。
   鋭い曲調も、独特の穏やかなムードに溶け込ませてしまう。

   勝井祐二が2曲で参加した、ドラァグ・クイーンのエミ・レオノーラ率いるバンドが、
   ホッピー神山のゴッドマウンテンより94年発表のアルバム。
29・Demi Semi Quaver:Demi Semi Quaver:☆★
   基本はグランジ気味のギター・ロック。蓮っ葉に伸びるエミ・レオノーラの歌声を軸に、
   機械的な彩りを足す(ギターかな?)プログレっぽいアレンジが基調となる。
   トランス状態のボーカルが畳み掛ける勢いが魅力的だ。演劇的なボーカル世界に負けず
   ザクザクと切り裂き、成立させるバックの演奏も良い。

   スティーヴ・ガッドとエディ・ゴメスをサイドメンに迎えた85年スタジオ作。多分本作をきっかけに
   同メンツのアルバム、"Amorphism"(1985)とライブ盤"Double Exposure"(1988)につながる。
28・佐藤允彦:As If...:☆☆☆★
   あまりに滑らかな音楽観で、逆に引っかかりがないという。
   毒要素は控え、スムーズなリズムに無骨なベース、棘をうっすら
   感じさせるピアノが転がる。スリルは整いすぎて不穏さより輝きを魅せた。
   オリジナルの合間にジャズ・スタンダードをはさむ構成で、
   ガッドもゴメスもスタジオ・ミュージシャン的なカッチリのアプローチだが
   凄腕三人が揃った完成度はきっちり味わえる。

   この人のピアノは好きだ。アフリカ的なアンサンブルも、特に。
   80年に発売で、アメリカ人とアフリカ人を併せ12人編成で録音した。
   ブランド名義の本作は鍵盤の他にソプラノ・サックスのクレジットも。
27・Dollar Brand:African Marketplace:☆☆☆★
   イブラヒムの落ち着いたプロデュース力が炸裂したトータル・アルバム。
   基調は南ア独特のタルッと穏やかなオスティナートが続くアンサンブルで、中間と最後にイブラヒムのソロが入る。
   ソロ名義の作品だが、決してイブラヒムが前面に出ない。だがアルバムを聴き終えると強烈にイブラヒムの色が頭に残る。
   アドリブで言うと、全方位ではない。カルロス・ワード(sax)を徹底的に前面にだし
   他のメンバーはリフに留めた。これが良いメリハリを作ってる。
   (4)のピアノ・ソロはアフリカ風味のジャズ、(8)でイブラヒム流の激しく上下する和音弾きの強調で
   クライマックスこそ高まる味わい深いアルバムの流れを作った。

   イブラヒム名義の97年作で、南アフリカはケープタウンの97年ライブ音源より。
   3曲でアフリカ人tp参加以外はピアノ・トリオ編成だ。
26・Abdullah Ibrahim:Cape Town Revisited:☆☆☆
   ライブだがダイナミズムは希薄。クラシックのコンサート風景のようだ。アレンジはがっちり
   コントロールされ、リズム隊とのせめぎ合いもない。ただ、イブラヒムの世界観を
   アルバム一枚かけて、しっかり提示した一コマ。独特のグルーヴはほぼ、無い。
   ピアノが流麗にしっかりと鳴る。だが、これはこれで、良い。かなり上品な客層相手のショーな気分だ。
   高級クラブの客層、ではなく、いわゆるアパルトヘイト寄り"上流"階級向のような。
   とはいえイブラヒムの色はきっちりある。粘っこく無くても、鈍く輝く色が。

2014年1月

2014/1/22   最近買ったCDをまとめて。

   13年発売の盤。互いに音源送付し1年かけて作った模様のスタジオ作。
25・Merzbow,Scott Miller,Lee Camfield:No Closure:☆☆☆★
   シンプルなリフのハードでミニマルな世界へ、メルツバウの電子音が密やかに蠢き
   やがて世界は混沌の電子音へ沈む。背後でわずかに響くオルガンの白玉が幻想的に揺らいだ。
   後半の曲は混沌へ沈んだ後、ギターの重いディストーションが轟く。
   この鏡面性ストーリーが本作の軸か。

   12年に発表、ゾーンがラズウェルらとカルテット形式で録音した。
   元はポーランドの現代劇用サントラで、テーマはドラキュラ。本盤はブラム・ストーカー没100年にも因まれている。
   ゾーンはサックスの他、ピアノなどもクレジットあり。
24・John Zorn:Nosferatu:☆☆☆
   音楽の方向性は拡散し、倍音強調のノイズから綺麗なアンサンブル、突き抜けた
   ハードコアまでバラエティに富んだ曲が並ぶ。どの曲もパルスやミニマルさを内包し、
   なんらかの繰り返しを強調した。サックスがフリーキーにオーバートーンを
   響かす曲すらもビートは常に一定だ。ケヴィン・ノートンのビブラフォンが全編を通底し
   バンド的なダイナミズムは希薄だ。不安げに揺れる空気感が、本盤の味わい。

   梅津和時他の6人編成サックス・アンサンブル。99年欧州ツアー音源を抜粋した盤がこれ。
   本ユニット何枚目かはよくわからず。(1)が梅津の"ベルファスト"だ。
23・Zes Winden (The Six Winds):Number 6:☆☆★
   ここ情報だと6windsは、ドイツのAd Peijnenburgの4windsを母体に「欧州初のサックス限定アンサンブル」とし"76年に結成。
   その後6人編成に拡大、18年の活動でLP2枚、CD4枚を発表した。Discographyは、
   "Live at The Bim and more"(1986):LP
   "Elephants can danc"(1998):LP
   "Man met muts"(1990)
   "Anger dance"(1993)
   "Manestraal"(1997)
   "Number Six"(1999):本盤
   "Komoro"(2002)
   "Maihama"(2004)
    本盤のメンバーは梅津和時(as),Ad Peijnenburg(bs),Klaas Hekman(bs)Mariette Rouppe Van Der Voort(ss),Dies LeDuc(ss),Andrew White(ts)。
   だが上記ページによればBill SmithやJohn Tchicaiがメンバーだったこともあるそう。
   全般的に陰を持った響きで、ソロ回しとともに低音を生かしたふくよかな連打で
   ハーモニー強調のクラシカルなアレンジを採用した。曲の持ち寄りで統一性は低いが
   おおまか、欧州ジャズを基調でメロディアスなフリー寄りアプローチか。完全即興でなく全て楽曲だ。
   ソロの妙味よりサックス多重奏が産むふくよかさに惹かれた。

   買いそびれてた。01,02年オカリーナ祭りの音源を元に大工哲弘をフィーチュア。
   さらに03年5月のAKETAトリオ音源4曲足した、03年の盤。
22・明田川莊之:2つのオカリーナ祭りから~大工哲弘と西都古墳:☆☆☆
   涼やかなオカリーナにスポットを当てた前半と、アケタ流のグルーヴを見せた後半の構成。
   大工哲弘が沖縄八重山島唄をぐらりぐらりとコブシ効かせ、オカリーナの合奏が風にそよぐ。
   録音はアケタの店だが、開放感がすごい。一曲、小学生による合奏(6)は組曲で、"わっぺ"~"西都"~"西都戦慄輪廻"と
   明田川のレパートリーをまとめた。最後の曲は本機会への書き下ろしか。
   終盤できっちりクラスターへ雪崩れるあたり、明田川はどんな舞台でもブレない。しかも背後でオカリーナが白玉吹くシュールな編曲を施した。
   最後の明田川セッション4曲は基本が児玉安浩(ds)とデュオで、2曲に榎本秀一(ts)が加わる。
   11分に及ぶ"マック・ザ・ナイフ"がクライマックスか。
   ドラムがスイングせずフュージョン的に叩くビートなため、ノリがいつもの明田川と微妙に違う。
   最後は"アケタズ・グロテスク"でテンション高く突っ込んだ。

   芳垣安洋/太田恵資/立花泰彦のTOYが98年発表の1st。
21・Toy:ふたりでおちゃを:☆☆☆
   非常に奇妙な耳ざわりのアルバム。立花がリーダーっぽいがイニシアティブは強烈に取っていない。
   ライブを重ねた上で録音と思われるが、芳垣のtpや、太田のギターなど持ち替えも多い。
   ダビングを施しスタジオ・ワークに凝った印象も受ける。
   ソロ回しやアンサンブル志向より、豊富なアイディアを強引に収めた作品っぽい。
   芳垣、立花が2曲づつ、太田が1曲を提供。他にカバーでミンガスとスタンダードの"二人でお茶を"、
   中山晋平の晩年作"ゴンドラの唄"、キューバのSSWシルビオ・ロドリゲスが80年ヒット"シルビオ・ロドリゲス"と多彩だ。
   その分、本バンドの個性は正直見えづらい。個性で弾き倒す一方で色合いが散漫なためだ。
   芳垣の萌芽としても本作は聴ける。ヴィンセント・アトミクスで再演する"眠れぬ夜のために"の提供、
   Emergency!でもカバーした"Better get hit in your soul"を取り上げた点で。

   10年かけた驚愕の個人製作アニメへサントラで参加した11年作品。ミュージシャン多数が参加した。
20・坂本弘道:緑子 Original Soundtrack:☆☆☆☆
   サントラゆえに音楽のみで語るのは変だが、素晴らしい。ストーリー性ある展開に、しびれた、
   多重録音サックスや弦の音圧もかっこいいな。旋律は切なく、中盤からごくわずかな一節が、
   間をたっぷり持って繰り返される。ミニマルさが、不安定さと寂しさを表現した。
   アドリブっぽいフレーズを楽しめる箇所もあるが、根本は整った繊細なアンサンブルが聴きもの。

   沖縄で同名ラウンジを今も経営する歌手、与世山澄子が南博をバックに吹き込んだ05年の盤。菊地成孔が数曲で参加した。
19・与世山澄子:Interlude:☆☆
   アタックの強い、癖のある渋い歌声だ。そうとうに好みが分かれる。場末感がどっぷり。
   南のロマンティックなピアノと合うか不思議だったが、奇妙な浮遊感を産んだ。
   むしろ下世話なブルーズ性が薄い、南ゆえの色彩感かもしれない。
   菊地はサブトーンをたっぷり含んだ音色で彩りを付ける。
   不安定なコードを巧みに提示するベースとピアノが相まって、影のある幻想性が美しい盤に仕上げた。

   ホーヴィッツが99年から活動のユニット。別バンド"Zony Mash"のアコースティック版が当初の狙い。
   現時点で4枚のアルバムを発表、本作は2ndにあたる01年の盤。   
18・Wayne Horvitz:Sweeter Than The Day:☆☆☆★
   端整で美しいアンサンブルが詰まった。ピアノはぐっと立ち位置を下げ、フロントはギターの
   芯の詰まった音色が切なくも凛々しい旋律を奏でる。
   かなりフリーな要素もあるが、根本がメロディアスなためすべてが構築に聴こえる。
   優雅で穏やかな音楽に浸れる。心地よい。

   ストレート・アヘッドの中堅ベーシスト、マクブライドが05年にNY Tonicで2daysライブ音源を
   3枚組にて06年にリリースした。基本はカルテットで、2ndステージで多くのゲストを招いた。
17・Christian McBride Band:Live At Tonic:☆☆☆
   一回りしてジャズからジャズ・プログレへの回答、な感じも。タイトで泥臭さは脱ぎ去り
   タメたジャズでもいわゆるスイング感は薄い。むしろプログレ的なアプローチもちらほらと。
   時の流れをジャズに咀嚼というより、ごく自然対で4ビートのハード・バップを経年変化した感じ。
   アドリブの妙味とアンサンブルのスリルが同居する。3枚組のボリュームでバラエティに富んだ
   本ライブ盤は、ある意味で先鋭さがあると気づかされた。懐古趣味はまるでない。
   Disc3での長尺ジャムが最もスリリング。整った楽曲演奏のDisc 1よりも。
   スピーディにソロを回すテンポ感が小気味よい。

   スウェーデン伝統音楽バンド"ラーナリム"のソフィア・サンデーン(vo)が
   当時の若手フィドラー6人を招いて、ダーラナ地方のトラッドを演奏した盤。99年。
16・Kurbits:Volksmusik Från Dalarna vol.1:☆☆☆★
   ダーラナ地方はスウェーデン中部に位置する。音楽的にも歴史ある街らしい。
   本盤はvln合奏のむせび泣くインストと、歌入りが交互に現れる。ケルティックな響きだが
   情感を抜き、すっきり冷徹にまとめた感がある。
   歌入りよりも、弦が降り注ぐようなインストのほうが本盤の魅力をシンプルに味わえた。
   簡単な英語のライナーはあるが、楽曲説明やクレジットは全てスウェーデン語が残念。
   歌は無伴奏、バイオリンも楽曲によりソロ演奏あり。一曲数分と短く31トラック入りのボリュームで
   コンパクトながらたっぷりと味わえる。涼やかなバイオリンの音色が心地よい。

   50年代後半にハリウッドの小メーカー、オメガが発表したテープがオリジナルで
   当時はコレクターズ・アイテムという。原盤はアラディンで、本盤は87年に東芝EMIが
   アラディン音源リイシューの一環でリイシューした。録音は57年。
15・Art Pepper:The Art Of Pepper:☆☆☆★
   流麗で小粋なスイング風味のモダン・ジャズ。少々ひしゃげて曇った音色のサックスに、
   パンチの利いたピアノが寄り添う。ベースとドラムは目立たずさりげないサポートだ。
   ドラムが少々野暮ったいかな。ベースは無闇に走らず、鷹揚に低音を奏でる。
   ピアノとサックスが探り合ったり、ぎこちないとこもあるけれど。基本は
   サックスとピアノの絶妙な柔らかいパワーを味わえる。一丸となって転がる(6)が良いな。

   オルガン・ジャズ。米UAのサブ。レーベル、ソリッド・ステートに68年録音した。メンバーは9人と大勢だ。
14・Jimmy McGriff:The Worm:☆☆★
   大雑把な出来のアルバムだ。勢いあるから聴かせる。フェイドアウトも多く、数日のセッションを無理やりまとめたっぽい。
   あくまで主役がジミー。他のメンバーにもスペース与えるが、とにかくソロはたっぷり取る。
    メトロノームのイントロからファンキーへ。(1)はメカニカルさとグルーヴの両立をたやすく披露した。
   (1)からしてホーン隊のソロは添え物。いわゆるアドリブ・ソロはorgだけが取る。
   そのわりに(1)はorgソロの途中でフェイドアウト、傍若無人な構成だ。リハじゃあるまいな。
   (2)も長尺org。ようやくtpソロが出るが、力出すにジミーのセカンド・ソロに食われた。しかもこれもフェイドアウトだ。
   ベストは(3)。野太いメロディをtpが高らかに吼えた。雪崩れるソロはorgを軸だが、管のカウンターも的確に入る。
   アレサ・フランクリンのカバー(4)は少し集中力が甘い。だがテーマのノリは抜群のカッコよさだ。でもフェイド・アウト。
   (3)と同日録音な(5)だとテンポを少々落したブルージーさを決めた。要はこの日が、冴えてたらしい。
   鍵盤押さえ続けロングトーン響かすジミーがカッコいいな。
   甘く仕上げた(6)もorgは粘っこくメロディをねじる。
   (7)のファンキーも悪くない。tpソロもつややかだ。エリントンの(8)できれいに締めた。

   E#は作曲/ダブルネック・ベース/ギターを担当、弦アンサンブルと共演した92年作。
13・Orchestra Carbon:Abstract Repressionism: 1990-99:☆☆☆
   弦楽器の擦過音に着目した作品か。譜割がどれも共通性あり、一つのアイディアの変奏かも。
   痙攣する弦の軋みが波うつ。メロディ要素は希薄で抽象フレーズが
   細断され折り重なる印象だ。コード感がうっすら有り、多少の決まりを元に即興的な演奏かも。
   ある場面ではユニゾン気味に弦のかきむしりが疾走した。ドラムが加わってもビートでなくユニゾンの連打に留まった。
   曲によりE#の無秩序に吼えるエレキギターがかぶさる。寛ぎと逆ベクトルで
   不安定なうねりが続く。ただし楽曲的な感触は残り、現代音楽のスリルは味わえた。
   (4)が最も楽曲としてまとまってるかな。
   ドラムやでメロディを刻むイントロから弦の大量雪崩に突入する(6)もかっこいい。

   70-74年にCTI録音などを日本編集したコンピ。9曲中6曲がフレディ、残るは日本の
   エレクトロニカ系twothによる数分の小品が3曲挟まれた、少々変わった構成だ。06年の盤。
12・Freddie Hubbard:Vision: Redescription of his story 1970-1974:☆☆☆★
   ハード・バップの馴染んだ顔ぶれから、若手を呼んでフュージョンへ近接。
   中間部を狙ったか、粘っこいジャズ・ファンクも視野に入れてみる。バラバラだ。
   アルバム単位で時代の親和性と音楽性のバランスを試行錯誤するフレディの模索度合いを
   コンパクトにまとめた一枚。3曲入る"最新型"エレクトロニカが違和感なく凄い。ひっそり場面展開の役割を果たし滑らかに時をつなげた。
   吹っ切ったストレートなフレディのトランペットは、どんなバックでもきれいに聴こえる。
   しかし生きにくいジャズの変遷だ。まさにバラバラな音楽性がそうそうたるメンツで繰り広げられた。
   楽曲ごとの盤をまとめておく。(1)は"Red Clay"(1970)、(2)は"Keep Your Soul Together"(1973)、(4)が"Polar AC"(1975)で
   (6)は"Sky dive"(1972)、(7)が"In Concert Volume Two"(1973)、(9)は"Straight Life"(1970)。
   このように一枚=1曲を守りつつ時系列は避けて、ある流れを意識した編集を採用した。

   98年発表、ピアノと声で即興演奏を編集無しで記録したアメリカ人のデュオ。
11・Dori Levine Michael Levy:Koo-Koo:☆☆
   朗々とほんのりのヒステリー性を感じさす歌声へ、静かに和音載せるピアノの(1)で幕開けの本作は、
   そうとうにとっつき悪い。さらに(2)でコール・ポーターを低い声で歌い、アルバムの方向性はさらに迷う。
   スキャットのグルーヴと音程や声質を楽器と扱う発声の、双方を操るドリ・デヴィンの唄は確かに個性的だ。
   ピアノはむしろ控えめ、音をやんわりと包み込む。
   アルバムとしては正直、散漫な印象あり。楽曲ごとに味わうほうがいいかも。

2014/1/15   最近買ったCDをまとめて

    着実にインディで活動する庭野孝之がsonny+starcutsの堀口謙、佐山武と組んだ13年発売の1st。
10・Dennis Denims:Dennis Denims:☆☆☆☆
   さまざまな揺らぎが詰まったアルバム。電気とアコースティック、音色の響き、音域の使い方。
   特に高周波帯を強調したセンスにやられた。(5)のアプローチが最も顕著かな。超高音がキンキンと耳を貫く。
   楽曲間で音素材を共用か、似たような音色が浮かんでは消える。リミックスともちがう。
   足し引きよりフィルター加工で素材の耳触りを変え、新たな楽想に仕立てた。
   常に心をゆらゆら揺さぶり続ける、ダーク・アンビエント作。周波数帯域の振動を楽しむために
   スピーカーで聴く方が、魅力をより味わえる。

    買いそびれてた。庭野孝之が沢田拓也と06年より活動するユニットが、11年発表の盤。
    ゲストの即興音源を庭野が加工/編集したミニマル音楽だ。
9・metaphoric:initiative sense plans:☆☆☆☆
   アンビニエント・ノイズを巧みに進化させた一枚。生演奏を編集して
   ミニマルな肌触りながら、浮遊する自由度を揉み込んだ。
   テクノ的なアプローチも即興風の不安定さをまとうことで、奥深い味わいを作り出している。
   ポップなフレーズが抽象の構成と展開に溶け、不可思議な魅力を産んだ傑作。

    13年発売。横浜未来演劇人シアターの野外ダンス演劇公演「市電うどん」のOST。
    打楽器奏者の栗木健も楽曲を提供した。小森慶子らが参加している。
8・坂本弘道 / 栗木健:市電うどん オリジナルサウンドトラック:☆☆☆★
   チンドンの安手で埃舞い散る切なさ、商店街のミニマルな日常と、躍動する寂しさを見事に表現した一枚。
   (1)のタイトなビートと柔らかいフレーズの繰り返しで、音風景が一気に変わる。
   ドラマティックで好奇心をくすぐる。リズムは基本が打ち込みだが、じわり温かさ有り。
   基本はパーソナルな製造手法ながら、どこか親しみやすさが滲み出る。チェロの豊かな響きが愛おしい。

    名古屋で活動する2ドラム編成のインスト。変拍子ビシバシらしい。12年の作品。
7・Egoistic 4 leaves:Aluva:☆☆☆★
   変拍子だがテクニックに走らず、鮮やかな生演奏のダイナミズムを見事に封じ込めた一枚。
   がっつりした録音は音像を無暗に分離させず、ダブル・ドラム+perの複層リズムを
   温かいグルーヴに仕立て上げた。かっこいいな。
   エレクトロニカ的なタイトさとフュージョン経由の洗練さが、太いビートとしなやかに馴染む。

    モータウン/ポリドールから83年の唯一ソロ、AORだそう。アレンジでEW&Wのアル・マッケイの名があり。
6・Finis Henderson:Finis:☆☆★
   ファルセット多用の歌声と小刻みなフレーズをドライに連ねる、AW&F風味AOR。爽快な仕上がりだ。
   キャッチーだがシンプルな楽曲が多く、FMで爽快に流れる環境を想定かな。
   (2)の転調にグッと来た。豪華なスタジオ・ミュージシャン集める一方で打ち込みビートを使うあたり
   手なりで終わらせぬアル・マッケイの意地かも。ファンキーな(6)のアレンジもいい。
   (8)はスティーヴィ・ワンダーの提供曲。変にスティーヴィー節にこねくり回さず素直に歌った点がポイント。
   前半はアップ、B面でスローの典型的なソウル風構成な盤だ。ハイトーンがきれいで歌は上手い。

    "Live from Lotusland"(2005)が良くて、なんか気になるカナダのギタリスト。
    98年リリース、サイドメンはBill McHenry (sax), John Stetch (p), Joe Martin (b), Jorge Rossi (ds)。
5・Mike Rud:Whyte Avenue:☆☆☆☆
   見方によってはB級感。だがこの耳ざわりはとても柔らかく愛しい。
   基本はストレート。クール寄りでロマンチックだが、スムース・ジャズほど洗練は無い。
   だがサウンドの奥からじんわりと、滲む味わいが美味しい。
   最終曲の穏やかなセンチメンタリズムが、最高だ。ギターは流麗ながら熱くならず
   スマートだが、どこか訥々と語りかける。本盤の魅力は、まだつかみきれた気がしない。
   だが、惹かれる。

   10年発売、加藤崇之がポップ系のミュージシャン、松下誠と組んだ異色作。
4・ズールーズ:ファースト:☆☆★
   ブルーズ早弾きロック的なギタリストと加藤のハイテク変則ギターの違和感が半端無い。
   "皇帝"ほか3曲を提供し単なる加藤の特異な音楽性に尻馬乗った盤じゃなさそうだが。
   オーソドックスなアンサンブルに加藤の鋭いギターが乗るストレンジさを楽しめる一枚。
   素朴なフレーズでもグルーヴするスリリングな加藤のギタープレイを改めて味わえた。

   某氏のブログで気になり購入。知らなかった。09年4月20日に横浜エアジンの
   ライブ音源を、Heinz Geisser主体で10年に英LEOより発売された。
3・Heinz Geisser / 林栄一 / 加藤祟之 / さがゆき:On Bashamichi Avenue:☆☆☆★
   2chゆえのノペッとしたダイナミズムのマスタリングが惜しい。ブート的な印象だ。
   メンバー全員が奔放に動くため、メリハリ激しいがテンション挙げっぱなしで
   疾走な感触だ。ソロ回しでなく全員が前へ出る。ポップさは狙わずストレートな即興が、
   ある意味ストイックな、エアジンらしい音だ。

   メルツバウ参加で購入。89年活動開始したハードロック・バンド、ワイルドハーツの
   主要メンバーであるジンジャーのソロ・ユニット。
   クラウドファンディングサイトPledgeMusicでファンの出資を元に13年製作/発表。
2・MUTation:Error 500:☆☆
   ハードコア・プログレ。アイディア詰め込みでめまぐるしく場面展開する。
   根本がハードロックなため少々ぼくの嗜好と違い、残念でならない。
   良さは十二分にわかるが、いかんせんアレンジが好みと違う。
   ミキシングもえらいモコモコだ。これも抜けが良かったら好みなのにな。
   メルツバウは(5)で参加。歪んだギター・ポップにハーシュをわずかにばら撒いた。
   共演というより、あくまで一要素で加わった印象だ。

   ニコニコ/Youtubeで膨大な再生数を誇る"初音ミクの消失"を制作したボカロPが
   メジャーから12年に発表した2nd。ボカロ曲でオリコン9位だそう。
1・cosMo@暴走P:星ノ少女ト幻奏楽土 Feat. 初音ミク・GUMI:☆☆☆★
   ミク曲で辛いのはマスタリング。カッチカチの音質はどうにかならんか。
   本盤はプログレ的な四方八方の展開で、到底人間の歌えぬバラエティさで豪快に
   突っ込むところが魅力。歌詞カード見ながらじゃないと言葉を拾えず世界観を
   十分に味わえぬ。隅々まで丁寧にアレンジされたドラマティックな展開は、たしかに凄い。
   しっとりさをあえて排除し性急でスピーディな勢いがいっぱいだ。
   打ち込みとエレキギターのディストーションが上手いことハマってる。


2013年12月

2013/12/31   年末にかけて購入した盤をまとめて。

   オーストラリアで12年に出演したフェス音源のCD。アナログは500枚、CDも500枚の限定盤。
372・Merzbow & Oren Ambarchi:Cat's Squirrel:☆☆☆★
   "Cat's Squirrel"とはリスの一種でクリームの同名曲があり。メルツバウの動物愛護とロック・マニアのダブルミーニングっぽい。
   吹き荒れる電子嵐と鈍く挿入する低音が第一印象、さらに奥で和音感やメロディっぽさを
   感じさせる多様性が本作の特徴だ。厚いハーシュのベールをめくりたくなる。
   大音量にするほどハーシュは強まり、なかなか果たせない。もどかしさを演出した作品だ。

   非常階段が再メジャー化のきっかけな一枚で、2013年の4曲入りEP盤。
371・非常階段 starring 初音ミク:初音階段:☆☆☆
   歌モノがしだいにノイズへ浸食されていく構造を取った。ノイズ部分は妙にスッキリと
   分離良い録音が新鮮だ。高音がきれいに溶けて、ハーシュの中域は少々穏やかな感じ。
   非常階段のコラボ相手として+αを出すよりも、非常階段の幅を広げるアプローチだ。
   ロック的なダイナミズムより、エレクトロな透徹さを追求した。

   日本プログレ界のスーパー・グループが06年に発表した盤。未聴だった。
370・The World Heritage:ICOMOS:☆☆☆☆
   充実したアルバム。即興巧者らが、気心知れたスリリングさを魅せた。緩急含め綱引き役はおらず
   誰かのアイディアに反応して展開か。(8)のみ吉田の作曲で"The World Heritage's theme"。
   今回は全9曲、3つのセッションをまとめた。(1),(2),(7)が06/8/4東京で山本が不在。(4),(5),(8)が同年8/8大阪で勝井が不在。
   二つのライブ会場で、マイナスワンによる、さらに緊密なアンサンブルを披露した。
   (3),(6),(9)が同年10/10のスタジオ録音、全員が集合。吉田達也のマスタリングは3音源の音質を丁寧に合わせる。
   分離良くくっきりとエッジ立てたドンシャリのミックスが炸裂した。
 
   04年に細野晴臣がPROGRESSIVE FORMに発表のmixCDで自作以外の曲も使っている。
369・V.A.:Mix Form:☆☆☆
   小刻みなビートが交錯するテクノが詰まった。いわゆるDJ的な小細工は無く
   淡々と曲が流れていく。細野自作曲とし、各2分くらいの小品だが2曲も収録された。
   響きとリズム、双方を追求する細野らしいテクノ選曲の一枚。ヘンテコポップなテクノが楽しめる。

   ナイジェル・ゴッドリッチがプロデュースした06年のアルバム。未聴だった。
368・Beck:The Information:☆☆☆★
   ベックのアルバムでも売れなかった一枚。むべなるかな。地味なヒップホップ咀嚼の
   独特なスタイル。ドラムに Harvey Mason/James Gadsonの名が新鮮だ。馴染みのJoey Waronkerも参加。ナイジェルは
   リズムに気を使ったか。あっさりミックスされてるが、音像は凝っている。"グエロ"をはさむ難産盤らしいが
   ひねり過ぎて混沌に至ったかも。だが、奥は深そうだ。この点、ベックらしい。もっと聴きこもう。

   11年にSHM-CDで再再発されたが、これは99年の名盤探検隊で世界初CD化の盤。
   マドンナ"Papa Don't Preach"(1986)の作曲者が78年にソロとし発表したAOR。
367・Brian Elliot:Brian Elliot:☆☆★
   西海岸凄腕メンツに固められた演奏はさすがのタイトさ。密室さより気楽なラテンっぽさが透けて見え、
   煮詰めたポップスとは逆ベクトルだ。ほんのり切ないメロディが、彼の味わい。
   真夏に気楽なBGMで聴くタイプかな。(2)や(5)が耳に残った。全体的には少々大味か。

   2010年のサックスがフロントなトリオ。パリで録音された。
366・Daniel Humair:Pas De Dense:☆☆★
   即興で空気を作り合う。テンション煮詰めるよりも、場を縫っていくアンサンブルだ。
   全編で緊迫しつつスペースの多い場面が目立つ。むしろ音響的なアプローチを感じた。
   サックスのフレーズは軋むように揺れて、耳馴染み良いメロディは丁寧に外してく。
   はたくようなドラムへ、ベースが緩やかに巻きついた。ライブで映えそうなフリー・ジャズ。

   ルイストンが現地録音したチベットの仏教音楽で、72年の作品。
365・Gyuto Tantric College:チベットの仏教音楽2~歓喜成就タントラの伝授:☆☆
   多数の僧による無伴奏な唱和。ユニゾンでなく低音パートを明確に設定し、うっすらとハーモニー感がある。
   同じ譜割でぐいぐい進むさまは凄みあり、文化的にも興味深い。
   音楽として聴くには、そうとうにシチュエーションを選ぶが。
   BGMで寛げる酩酊さと違う、荘厳さだ。デスボイスのバラッドを想像してもいい。

   橋本徹が選曲し、一世を風靡したアプレ・ミディ・シリーズ。今まで聴いたことなかった。
   これは00年にユニバーサルから出たものの一枚。
364・V.A.:Cafe Apres-midi Rouge:☆☆☆
   ボサノヴァやブラジル・ポップを軸に、時たまジャズやポップスを混ぜて空気を換える。
   独特の選曲センスを楽しめる一枚。テンポ良く、まくしたてる印象もあるな。これってラテン色かな。
   選曲はさすがのツボを押さえつつ、そう簡単にまねできない視野の深さを感じさせた。

   こちらは同時期00年に東芝EMIから発売した。
363・V.A.:Cafe Apres-midi Ecru:☆☆☆★
   統一のようで全く、とっ散らかった選曲が選者の特徴だ。時代もジャンルも横断し瑞々しい音、をキーワードに選ぶ。
   DJ的に。奏者のベストか否かは忖度せず、あくまで響きのみで選ぶ。ある種残酷な選曲だ。
   本盤でもボサ・ノヴァ風を主軸に置く一方で、ペイル・ファウンテンズやゲイリー・ルイス&プレイボーイズが無造作に入る。
   いわゆるネオアコも60年代英国ポップもブラジルの洒脱な音楽と無造作に混ぜた。
   選曲センスやミュージシャンは音楽ファンのツボを押さえつつ、二段階上を行く。うるさ型の音楽ファンなら同じことが
   出来そうで、届かない。数曲似たように選べても、アルバム一枚を突きぬく統一性は選べない。
   今までこのシリーズは、なんとなく胡散臭く思え遠ざけてきた。時代を経て今、選者の凄さが分かる。
   前置きが長くなってしまった。本盤は洒脱さをほんの数℃ずらした、ひねった楽曲が並ぶ。おしゃれだが、BGMに留まらない。
   音楽聴きとし羨ましくも悔しい選曲眼の凄さにも、しびれる。

   96年から09年まで米キャピトルから発表のコンピ・シリーズ。こちらも何枚か入手。
   リマスターはすべてBob Norberg、選曲はBrad Benedictが行った。
   本盤の選曲テーマは深夜にひとりでバーにいるシチュエーションらしい。96年発。
362・V.A.:Ultra-Lounge, Vol. 4: Bachelor Pad Royale:☆☆☆
   ジュリー・ロンドン、キング・カーティス、マーティン・デニーしか知らない。丁寧なマスタリングで
   ファットな感じを漂わせ、しょぼさは全くない。曲目もオリジナルのレコ番や
   作曲者クレジットもしっかりあり。英文ライナー数ページで各曲を大雑把に紹介してるようだ。
   有名曲を織り交ぜつつ、あまりメジャーで無いミュージシャンへスポット、がコンセプトだろうか。
   聴けるのは56-65年のジャズ。BGMにも新たな掘り下げきっかけにも使える、良コンピだ。

   同じく96年、指でリズム取りながら聴くクールなボーカル曲、とある。
361・V.A.:Ultra-Lounge, Vol. 5: Wild Cool & Swingin:☆☆☆
   毒は無し、ほのぼの&クール。批評性を考えず、単に小粋なスイング感に浸りたい。
   歌声はクルーナー、張らずに淡々と歌う。おしゃれBGM集としてももちろん使える。
   てか、そっちがメインの目的なコンピと思う。これを手がかりにジャズボーカルの道しるべにもなるな。

   97年の14作目はボサノヴァがテーマらしい。
360・V.A.:Ultra-Lounge, Vol. 14: Bossa Novaville:☆☆☆
   他の同シリーズ・コンピとかぶるミュージシャン多し。手持ちの音源が限られるためか。
   いいんだけど、ちょっと興ざめ。ただし楽曲のパンチあるリマスターと奥行ある複雑な
   アレンジは今回も健在、楽しめる。けっこう有名曲が並んだ。

   ハード・バップを改めて聴こうかと、リー・モーガンを手始めに何枚か入手した。
   これは56年、サヴォイよりの2ndリーダー作。2ホーンのクインテット。
359・Lee Morgan:Introducing Lee Morgan:☆☆☆★
   リーダー・コンボで初録音は56年11月4日。夜はガレスピーのオケ仕事を終えて翌日、11/5に3曲録音。
   そのまま夜はずっとガレスピーの仕事を続けて11/7にまた4曲。ハイペースで吹き込んだモーガンを収めた一枚。
   11/5,/7ともハンク・モブレー(ts)がリーダー名義なためサヴォイ発売なのか。アドリブはリー以上にハンクが目立ってる。
   両日の録音すべてを本CDは収録だが、11/7録音のうち3曲が当時は未発表だった。
   両日を比較すると11/5に溌剌さが、11/7は一息ついた印象あり。当時は22歳と若手のダグ・ワトキンス(b)が丁寧に
   演奏の一方で、リーは小気味よいアドリブを連発する。鼻っ柱強そう。
   バンドはハンク・ジョーンズ(p)が38歳とベテランが支え、モブレー28歳を筆頭に若手ばかり。
   その意味ではモブレー2曲に並ぶワトキンス2曲提供はさすが。リーは演奏に徹した。

   翌57年にブルーノートより3rdリーダー作。テナーのハンク・モブレーはそのままに
   リズム隊をがらり変えてクインテットで吹き込んだ。
358・Lee Morgan:Lee Morgan Sextet:☆☆☆★
   ゴルソン作が4曲、オーウェン・マーシャル2曲。ゴルソンはガレスピーのオケで共演つながりか。マーシャルは経歴不明。
   一か月と立たぬうちに粘っこいグルーヴ出てるのは、楽想も多く影響してそうだ。
   ゴルソン不参加でもこれほど多くの曲採用は、よっぽど気に入ったんだろう。本セッションはリー名義。
   モブレー参加ながら、あくまでアンサンブルの一因だ。asの音色は蒼くて少々キツい。
   20代の溌剌なサイドメン集めて生き生きと跳ねるジャズは、まだ洗練とスマートさもあり。ファンキーへの予告っぽい。
   なおasのケニー・ロジャーズはリーと本盤のみの競演。どういう人脈だろう。ヘルプ役?

   6thソロ。共演ホーンはbsのペッパー・アダムスを迎えた。57年の録音。
357・Lee Morgan:The Cooker:☆☆☆★
   当時三十代半ばのベテラン、フィリー・ジョーのdsと、一回り上の当時27歳ペッパー・アダムス(bs)を迎えた、
   リー19歳のアルバム。オリジナルは2曲、残る3曲はスタンダード。ハード・バップを追求しつつ
   聴きやすさに配慮を狙った(制作側に求められた?)一枚。この2か月後、リーは"Candy"の録音を始める。
   リーの曲想は独特のフレーズ感があり、ペッパーも探りつつ吹いてる感じ。逆にbsはスタンダードだとブリバリ鳴る。
   ペッパーも同年にレコード・デビューしたばかり。ある意味がむしゃらな時期か。
   ベストは(4)。tpとpで音数減らすイントロから強烈なクールネスの風が吹く、美しい一曲だ。

   ソロ15th。録音は64年だが発表は81年に発掘まで倉庫に保管されていた。
   ジャッキー・マクリーン、カーティス・フラーとの3管でドラムがブレイキーとJM色が強い一枚。
356・Lee Morgan:Tom Cat:☆☆☆☆
   オクラいりが全く理由不明の素晴らしさだ。
   ブレイキーが叩きすぎず、小粋に仕上げたジャズ。ミディアム・テンポでしっとりグルーヴする。
   トランペットは爽やかにソロを紡いだ。マッコイ・タイナーのピアノも
   コロコロと涼しげに鳴って洗練されつつ、カクテル・ピアノと明確に
   一線を引いた鋭さを保った。これは良い。

   リーダー作とし17th作、65年録音で、ショーターとのクインテット編成。
355・Lee Morgan:The Gigolo:☆☆☆☆
   溌剌としたハード・バップが楽しめる。ばしゃばしゃと賑やかにシンバルが鳴って
   邪魔くさいが、それを押しのけた双頭ホーンによるアドリブの瑞々しさにやられた。
   特に(3)でドラムもコミでユニゾン気味に譜割が疾走するテーマからのアドリブが良い。
   勢い一発に乗らぬ寛ぎをどこかに漂わせつつ、クールな熱気が香った。
   65年6/1(2)でメンバーを試し、7/1に残る曲を吹き込んだ一枚。とはいえ次の盤"Cornbread "で
   顔ぶれはまた変わる。5歳上なショーターの胸を借りつつ、比較的同世代で
   音楽の違いを試したのかも。流麗なピアノがまず耳につき、熱さ一辺倒のハードバップから
   移行を予感させる。ショーターの音色は少々青白く、キツイ。
   6曲中5曲がリーのオリジナル。滑るようなグルーヴが良い。手慣れてる。

   25thソロで67年の録音。ショーターやハンコック、ロン・カーターらマイルスバンドの顔ぶれがそろってきた。
354・Lee Morgan:The Procrastinator:☆☆☆
   リーのデビュー早いため勘違いするが、本盤は同世代のメンツと吹き込んだ盤になる。
   火のつく導火線よりも、一歩引いたクールさを持つサイドメンらの色に染まった盤だ。
   作曲を見ても、ビバップ的な自作と幻想性あるショーターの作品と両極を見せた。
   ショーターの揺らぎをハンコックとハッチャーソンが滑らかに支え、リーは導かれてゆく。
   リーとショーターの価値観がヒッソリとせめぎあうため、本盤はピントが少々ずれている。

   27thリーダー作は録音が68年で、実際は80年に発掘音源で発表となった。
   やはりテナーを入れたクインテット編成だ。
353・Lee Morgan:Taru:☆☆☆
   甘いなー。ハード・バップの勢いはすっかり息をひそめ、小粋なジャズに仕立てた。
   モーガン30歳、同世代を集めた面子でフロントは数歳下の若手ぶりぶり。当時、いくつもの
   セッションで腕を磨いてた若かりしジョージ・ベンソン(g)がさりげなく気を吐く。
   スリルとは無縁、整いっぷりはむしろドラムのバタつきが足を引っ張る。
   同時期のジャズと比較をできてないが、ブルーノートが発売躊躇ったのも
   わかる気がする。きれいにまとまり耳ざわりは良いが、手なりで演奏っぽい。
   (4)とかハード・バップな味も残すがモーガンより、もう一人のフロント、ベニー・モウピン(ts)の方が熱い。
  
   07年に発表のインディ・ソウルで、たぶん本作が2nd。
352・Lil' Fallay:Just For The Ladies:☆☆
   自主制作らしくシンプルな作りだが、幅広いアレンジで五目風味に仕上げた。
   小粋な歌い方とサザン・ソウルを混ぜたスタイルで、聴き応えあり。
   楽曲としてこじんまりまとまった感あるが、(7)みたいに淑やかな味わいが心地よい。
   インディの層の厚さを実感する一枚だ。

   ドラマーのリーダー作で2013年の発表。編成はtsのカルテットだが、アフリカ風を期待し入手。
351・The Kahil El'Zabar's Quartet:What It Is!:☆☆☆
   面白いが、ちょっととっ散らかって狙いがつかみづらい盤。
   ハードバップな(1)はテナーのブロウもさりながら、グルーヴィにリフを繰り返すのも良い。
   テナーはメロディより凶暴に吼えるコルトレーン・スタイルだ。
   実際に(2)と(5)はコルトレーンをカバーした。あとはリーダーのカヒル・イルザバーの作品。
   だが(3)や(4)は、よりアフリカへ寄った混沌なファンクへのめり、アルバム後半はフュージョン的な
   柔らかさも漂わした。不穏な(6)もフェイドアウトでうっすら終わる。

2013/12/27    最近買ったCDをまとめて。

   Futarriから年末の贈りもの。08年4月/10年9月のFutarri主宰フェスの音源から
   19曲を抽出した7枚組ボックス。全300セット限定でついに発売。
   参加ミュージシャンは本レーベルと親和性高い、大友良英や杉本拓、中村としまる達に加え、
   海外よりJohn ButcherやAxel Dornerらも参加した。
350・V.A.:Ftarri Collection:☆☆☆☆
   どの盤もじっくりと無機質で非構築かつ雄大な、音響アンビエントが聴ける。
   Futarriのコンセプトを凝縮しつつ、のびのび聴ける濃厚な音楽が詰まった良質なボックスだ。
   周波数を美しく聴かせる音楽を好む、本レーベルらしい傑作。

Disc1☆☆☆★
   30分弱の大作が3曲。共通項は、中村としまる。2,3,1の順で聴き応えあり。特に(2)は傑作テイクだ。
   (1)はオペラ南十字星で、単音連続と朗読/映像の表現のミックスを狙った。
   メンバーは宇波拓/中村/杉本拓に、飯田克明の散文詩朗読となる。音だけだともどかしい。
   不条理に空白が続く。電子音が飛び出したときに、妙な安心感も。たるっとした空気だ。
   (2)は中村と秋山徹次がジョン・ブッチャーを迎えた。
   むせび泣く無機質なサックスに、柔らかなセンチメンタリズム持ったアコギが寄り添う。空間のツナギは中村の電子ノイズ。
   どんどん抽象性は増し、空気はざらついて無闇に震える。それでも、優しさはある。ノイズと音楽性が無造作に交錯した。
   大友良英/中村/リュウ・ハンギルのトリオな(3)で、小音ノイズの応酬。
   大友のttがかろうじてビート感を浮かべても、しょっちゅうテンポは宙に溶ける。
   誰がどの音かを判別は難しく、たぶん意味も薄い。高い周波数のうねりが空虚に響いた。

Disc 2 ☆☆☆★
   (1)はNoid(vc),Kai Fagaschinski(cl),Axel Dorner(tp),宇波拓(comp,g)の08年4/20セッション。抽象的な音像が密やかに続く。
   メロディはほぼ無く、断片的なフレーズがよどみなく紡がれた。
   はじまりも終わりも展開も盛り上がりもない、冷徹な即興が味わえる。楽器が入れ代わる絶妙さもポイント。
   宇並のコンピュータと思われる、小刻みな響きがわずかにビート感を与えた。
   (2)はEddie Prevost(per)とSachiko M(sinewave)のデュオ。10/9/19のライブで、強烈にストイックだ。
   サイン波が野太く支配する。逆に遠慮深く、金属を軋ます音でエディが加わる。
   ときおりSachiko Mは電子音や別のサイン波を足してるかもしれない。30分以上ものアンビエント。だが緊張が漂い続ける。
   一瞬聴いても全貌はつかめるが、全編聴かねばスリルは実感できない。本盤の両曲ともに、哲学的な時間の経過を強烈に意識させた。
   電子ノイズの中で、観客と思われる咳ばらいの音も、我に返ると面白い。ノイズの中の、ノイズなのに。静寂も音楽とする日本人的発想か。

Disc 3 ☆☆☆☆
   (1)、(2)は大蔵雅彦率いるgnu。グルーヴィ連続の(1)と極端なスタート&ストップ/空白を
   取り入れた(2)の対比を味わえた。それぞれ10分程度だがもっと長尺で聴きたくなる。
   双頭とも08年4月20日、スーデラでのライブより。
   (3)は吉田アミのVoiceソロ。約18分にわたり抽象ヴォイスが響く。無伴奏でひたすら
   軋む声が金属質に。ストイックで悲鳴っぽく、音だけだと感じてきた。08年4月19日の音源。
   (4)はTim OliveとAnthony Guerraのギター・デュオへ大城真が自作楽器でノイズを加える。
   密やかなドローンとミニマルなノイズの饗宴だ。重たく鈍い低音がフレージング不透明に鳴る。2010年9月20日のライブより。

Disc 4 ☆☆☆☆
   Klaus Filip(ループ)/Kai Fagaschinski(cl)(08年4月東京)、西川文章(g) / Tim Olive(g) / Haco(electronics)(08年4月京都)
   山内桂(as) / 石川高(笙) / 齋藤徹(b)(10年9月東京)の、3曲を収録した。
   (1)は電子音の交歓に聴こえる。歪む電子音に単音で密やかにクラリネットがまとわりついた。
   サイン波のうねりを体験してるかのよう。ロングトーンだけでなく電子パルスも漂う。
   中間部での、耳にへばりつく異様に生々しい音が本演奏の醍醐味だ。
   (2)はギター二本と思えぬ、抽象の度合いが強い楽想。コラージュ的に音が展開する。
   HACOの電子音がアクセントか。生ギターの弦を爪弾きも、深い残響で夢幻の味を出した。
   しかしこの曲も、がっつりと強い音圧がすごい。
   途中で激しくなる場面もギターというより、ハーシュノイズ寄りっぽかった。
   (3)は、ゆったりした波打ちに揺られるかのよう。
   笙のふくよかな周波数と、asの無造作かつ幅広い響き、ベースの特殊奏法による打音が交錯する。
   中盤から激しくなるのは、完全即興らしい盛り上がり方。だがすぐさま水が引くように密やかに
   戻るのも、即興巧者の三人らしい。聴き応えある30分の長尺。 

Disc 5 ☆☆☆☆
   (1)は宮本尚晃のギターソロで21分にもわたる。(2)は向井千惠(er-hu, voice, percussion, dance)のカルテットで37分以上もの即興。
   メンバーはTOMO(hurdy gurdy, ss)、Cal Lyall(g,synth,per),ノブナガ・ケン(ds,per)と変則的なセットだ。
   双方とも2010年9/20のスーデラ音源より。
   (1)はメロディなし、エレキギターの倍音とフィードバックを操った。うねりがびりびりと空気の表情を変えていく。青白い揺らぎの美しさ。
   対照的に(2)だと微妙な旋律感はある。だが抽象なインプロの交錯は幻惑した無秩序さで
   やんわりと酩酊を誘っていく。最初の古めかしさが、しだいにうっとりと耳へ馴染んだ。
   ビート性は希薄で、ランダムな打擲が空気をかきまわす。

Disc 6 ☆☆☆☆
   30分越えの作品を2曲収録した。どちらも10年9月19日のスーデラで収録。
   前半は畠山地平(computer)と元メルツバウの水谷聖(electronics)のデュオ。
   サウンドスケープ作家な印象の水谷だが、本曲ではミニマル・ドローンを中心に電子音が蠢く。
   それぞれの出音や効果は不明だがビート性を消し、不安定な音像のきらめきが美しい。
   中盤で押し寄せる音の真綿に、首を絞められるような圧力を感じた。
   おそらく現場では轟音な軋みが密集の中、ゆるやかに輝く音が深く挿入する、23分辺りは痛快な展開だ。
   後者はHello名義のユニットで川口貴大(作曲、b),山口晋似郎(g),神田聡(b)がメンバー。
   現代音楽寄りのアプローチか。メロディよりフィードバックが密やかに対話する。
   弦を叩く重厚な響きを基調に、フィードバックのレイヤーが重なった。
   連続する低音に高音がまとわりつく構造を繰り返し、しだいに複雑な響きに変化した。
   緊張感を保ったまま押していくサウンドは、不思議に心地よい。

Disc7 ☆☆☆
   3曲入り。(1)は山本精一と梅田哲也(fan)のデュオで08年4/13に京都のライブ。
   ぱらぱらとばらつく鈍いノイズが、梅田のファンか。ランダムに音が滴り、漂う。弦の爪弾きも
   フレーズは希薄で、無造作に弦をひっかいてるかのよう。抽象的な即興群が、しだいに高まる4分以降のスリルが聴きもの。
   終盤で少々ハードに雪崩れ、金物を打ち付けるファンとのインダストリアルな展開に。
   (2)はVOIMA(鈴木康文/安永哲郎)のコンピュータ・デュオ。08年4/19の東京ライブより。
   高周波の響きを基軸にミニマルなフレーズが揺れ、ランダムなノイズが加わる。
   電子音の多層レイヤーが穏やかでアンビエントの空気を作る。
   緩やかな曲構成はあるが、全体通して静やかな印象を受けた。
   (3)は秋山徹次(ag)/ユタカワサキ(synth)/山内桂(as)のセッション。08年4/20東京ライブより。
   冒頭は隙間の多い音像で秋山の密やかなギターが軸だ。高次倍音を響かす
   サックスと、滲む電子音がしだいに重なっていく。シンセはぶつぶつ鳴る断続的な響きで
   空気を擾乱した。柔らかなギターと異物の対比が興味深い。

   ようやく入手、ポールの新譜。色々バリエーションあるが、普通の米版を入手した。
349・Paul McCartney:New:☆☆☆☆
   したたかで前のめりな現役感に驚き、感嘆する一枚。
   声は衰え、声域も狭くなった。だが作曲の才能でカバーし、声質は激しく電気加工する。
   いっぽうで安易なセッションや手すさびに流れず、現役のプロデューサー群から生気を吸い取り
   多彩なアレンジをばら撒いて単調さを全く伺わせない。
   その上でポールならではの魅力を注ぎ込む。声が出ずともドライブ感は残り、
   甘酸っぱいメロディは楽器の響きで美しく彩る。
   恐ろしいベテランだ。安楽に座ってるつもりが無い。手持ちの武器を的確に使ってる。

   ポールがらみの一枚で、季節外れてしまったが。12年にmplレーベルからのコンピ。ポールも1曲で歌ってる。
348・V.A.:Holidays Rule:☆☆★
   地味だが丁寧な盤。コンボ編成のアレンジだがサウンドの質感がとてもきれいだ。
   選曲もメジャー曲を外し、カバーでも渋いところを持ってくる。
   ポールのカバー曲が顕著だろう。あっさり録音っぽく聴けるが、実は凝っている。

   78年のフュージョン・セッションの音源に当時のスタジオ盤から3曲を追加して
   96年に再発の盤。参加は村上秀一、渡辺香津美、松武秀樹ら。
   なお本音源は2010年にBlu-Spec2枚組で完全再発された。   
347・Angel Dust:Angel Dust:☆☆☆★
   ホーン風のシンセ音色はいかにもフュージョン的な時代性を感じるが、
   ドラムの粒がそろった軽快さは、それを超えて余りあるグルーヴを楽しめる。
   リズムのキュートさがこんなにもかっこいいとは、と実感できる心地よい一枚。

   ハイチのジャズ・バイオリニストが07年に発売した。坂本龍一も2曲で参加。
346・Daniel Bernard Roumain:etudes4violin&electronix:☆☆★
   テクニカルでクラシカルの素養あるようだが、テクニックのひけらかしや
   前衛に走らず、ミニマル・アンビエント的なアプローチな耳ざわり。だからフィリップ・グラスと共演曲(6)もあるのか。
   坂本龍一とのコラボはセッションっぽいが、斬り合いよりもテクスチャを重ねるかのよう。
   ビート感はリズム楽器に加え、ピチカートやフレーズの繰り返しで作るセンスがかっこよかった。
   豪かなゲスト交え本人の色は見えづらい。他流試合集って感じ。
   切ないバイオリンが響いても、ゲストの色が強すぎる。
   完全多重録音な自作(5)を聴くと、メロウな楽曲志向もありそうだが。

   ハーモニカ奏者で有名な彼の音源を聴いてみたく入手。
   本盤はレイ・ブライアントのトリオと共演で1959年の録音になる。
345・Toots Thielemans Trio:The Soul of Toots Thielemans:☆☆☆
   録音時、トゥーツは既に37歳。当時20代後半の溌剌なピアノ・トリオを招いた格好か。
   2ヶ月かけて録音してる辺り、ある程度丁寧に作りこんだと伺える。
   トゥーツのギターはハーモニカと異なり、甘いがどことなく訥々としてる。
   やはり爽やかなハーモニカの方が耳へ柔らかく馴染む。
   全体的に静かな雰囲気、ダンディにジャズを仕上げた。9曲中、トゥーツ自作は2曲。

   フュージョンでは有名な盤らしい。74年にフライング・ダッチマンがリリースの3rd。
344・Lonnie Liston Smith & The Cosmic Echoes:Expansions:☆☆☆★
   アレンジそのものが主眼のサウンド・アイディアが興味深い。アドリブ・ソロが脇役であり、
   主役はアンサンブルのパターンだ。心地よいグルーヴが箱で存在し、ソロは一要素で埋め込まれる。
   テクニック追求とも違う。フュージョンよりむしろダラー・ブランドやアフリカ音楽的な強靭さを連想した。
   サウンドは軽やかだが、どことなく切ない。

2013/12/22   最近買ったCDをまとめて。

   デュオ名義だが、実際は02年に代々木オフサイトでの月例即興演奏シリーズ「Meeting at Off Site」を抜粋の6曲を収めた。
   ゲストは江崎将史 (tp)、ホーコン・コーンスタッド (sax)、o.blaat (power book)、Sachiko M (sinewaves)、オーレン・アンバーチ (eg)、
   杉本佳一 (eg)、ポール・フッド (GP3, etc.)、ギュンター・ミュラー (electronics)。, selected drums)。
343・秋山徹次 & 中村としまる:Meeting At Off Site Vol. 3:☆☆☆
   全般的に静かな即興が続く。ひたひたと時が過ぎていく。トラックは6個あるが、
   淡々と聴いていたら継ぎ目も分からないほど。時折、高周波が鳴る。風のように。
   静謐な時間を過ごせる、一枚。

   05年にアクセルの宅録で、トランペットとノーミキシング・ボードの共演。
   30分弱の作品が2曲入り。ftarriから07年に発売された。
342・Axel Dörner / 中村としまる:Vorhernach:☆☆☆
   軋む電子音にバズ音中心の金管がうっすらと入る。偶発性の即興だが持続音が
   漂う音像へ、無意識にストーリー性を探してしまう。中村は電子ノイズだけでなく
   ハイトーンのサイン波っぽい音も操る。ドゥナーの響きは金属質で中村の音に混ざり、
   たゆたう酩酊性を表現した。

   香港のレーベルから00年に発売、録音は99年の東京にて。 
   ゲストにSachiko-M、大友はtt、CD-J,harddisk recorderを演奏してる。
   Filament(1stは98年発売)と似た構成だが、本盤はラウドな場面もあり。
341・大友良英:Music For DanceArt Hong Kong's "memory disorder":☆☆★
   香港のディクソン・ディーを共同プロデューサに招くが、実際は大友とSachiko Mの共作。
   1分ほどの短い音響ノイズ作が続き、最後に長尺のまとめでしめる。
   小音からハーシュまでバラエティに富んだ小品群に振り回されつつ、組曲みたいに聴き進める。
   長尺と小品群の音源は互いに関連あると思うが、今一つ聴きこめていない。
   小品群の音素材で、長尺を構成かな?作品コンセプトを理解できたら、別の視点で聴いてみたい。

   スティーヴ・ガッドがスタッフのあと、初めて組んだ自分のバンドが、86年発売の2nd。
340・Steve Gadd:The Gadd Gang:☆☆★
   メンバー全員が曲を持ち寄る民主的な選曲だ。凄腕メンバーに加えホーン隊も豪華。
   ディランのカバーによるブルーズから幕を開け、中盤には(5)でマーチング・バンド的に抽象的な曲も。
   この(5)、クレジット見たらやはりガッドの曲だった。
   五目的な選曲をスマートな演奏で一枚へ押し込めたアルバム。リチャード・Tのキーボードを
   全面のスムース・フュージョンか、ブルージーさか。どっちかに寄り添わないのが個性だろう。
   そのぶん、ガッドのドラムは重たいグルーヴから軽やかな叩きまで、双方聴ける。

   以下はすべてジャケ買い、予備知識無し。

   抽象的なジャケットが気に入った。ロバート・ヴァン(Key)を中心のコンボ編成ジャズみたい。カリフォルニアより97年の発売。 
339・Robert Vann:Penumbra:
   基本はフュージョンのアプローチ。ヴァンがプライベート・スタジオで録音も行った。
   複数のセッションで組み上げ、若干の順列組合せはあるもののバンドっぽさを狙っていそう。
   2曲で参加のデヴィッド・リブマンは多分、アリゾナ州のブルーズ・バンドSugar Thievesのメンバー。
   洗練なサウンドに彼が参加した文脈は今一つわからない。
   サックスやキーボードのソロはあるものの、スムースな世界観を狙った。BGMっぽい。
   (1)と(7)はちょっとドラムを重たくし、AOR的な盛り上がりを見せる。
   ラストはジミヘン"Little wing"をピアノ・バラードでカバーという微妙なセンスだ。

   ドイツの即興音楽家のようだ。エレクトロニクスとtp,bのトリオ。
   何となく抽象的な電子即興が楽しめるかな、と手に取った。99年録音。
338・Klapper, Ulher, Morgenstern:Momentaufnahmen:
   見て楽しむ即興。ひよひよとノービートで断片的な音が交錯する。
   互いに寄り添わぬスタンスで、ごくたまにうねるようなアンサンブルも。
   基本的に盛り上がりの無く無秩序なサウンドなため、音だけだとつらい。
   何らかの予備知識が必要で、ミュージシャンのファン向け。
   どちらかというと電子音より生音が耳に残った。

   サン・ラみたいな安っぽいイラスト・ジャケが期待をそそる。
   00年録音でドラムと鍵盤のデュオ。
337・Krall & Hennen:Space Blues:☆☆☆★
   あまり深く考えずに楽しんだほうが、味わえるアルバム。
   しょっぱなからフリーのデュオ。オルガンが妙な厚みを出し、コンボくらいのノリを感じた。
   ピアノ演奏だとわかるが、ストイックでフリーな方向性が持ち味かもしれない。
   だがシンセだと尖ったところが上手いことマスクされ、実にグルーヴィーな
   味わいが前に出る。まさにサン・ラ風味の混沌ジャズだ。

   最近は意外に黒人ジャズ奏者ってアンテナに引っかからない。
   本盤はテナー抱えて粋がった男に希望を託そう、と買った。
   サックスとピアノ・トリオにperを加えたクインテット。01年にカリフォルニアの録音。
336・Dale Fielder:The Hipster:☆★
   93年に1stソロをリリース、7thにあたる。がっつりバップと思いきや、スムース的な側面が漏れ見える。
   本盤でデイルはas,ss,tsを使い分けた。ブロウは丁寧だが速いフレーズだと少々破綻もあり。
   特にソプラノだと吹きまくり過ぎって印象を受けた。
   流麗なピアノを奏でるダニー・グリセットと、ロバート・ホワイトJrのラテン風味なperが支える格好だ。
   むしろピアノ・トリオにホーンがゲストって面持もあるくらい、ピアノが美味しいところを持っていく。
   楽曲は(2)のみカバー。リー・モーガンの演奏で有名な曲らしい。あとはデイルのオリジナル曲。

   なんか珍盤臭い。ユゼフ・ラティーフの自主レーベルから04年に発売で、15曲にもわたる無伴奏で
   宗教曲をラティーフが歌ってるっぽい。ジャケの男はハズラット・ミルザ・グラーム・アハマド師。詳しくはこちら
335・Yusef A.Lateef:Psalms of Hazrat Mirza Ghulam Ahmad of Qadian:
   奇盤だ。うっすらリバーブかけた無伴奏で男性歌唱や朗読が延々続く。男がラティーフか。歌詞は英語、
   ほんのりアラビックなメロディの作曲は誰だろう。ラティーフが即興的に作ったのかも。
   宗教的な荘厳さを抜き取ると、道端で淡々と唸るホームレスを見てるかのよう。
   熱狂も押しつけがましさも無く、静かに低く、男は歌い続ける。聴き手を意識せずに。
   メロディは丁寧にアレンジしたら綺麗っぽい曲もあるが、低音で唸り気味のため単調さが際立つ。
   曲の構成はぱっと感じられない。好意的に解釈すればラティーフ流のバラッド的アプローチとも聴ける。相当無理あるが。
   せめて伴奏有れば聴きようもあるのにな。

   抽象画ジャケットだと、まず手に取る。次いで、編成を見る。
   両方で興味を持った。サックス+オルガン+ds,bのカルテット。オルガンがファンキーだといいな。
   01年の盤。リーダーはデンマークの女性サックス奏者で3rdリーダー作にあたる。
334・Pernille Bévort:Who's Blue?:☆☆☆★
   面白い。インテンポのモダン・スタイル。オルガンが入りぐっとファンキーな仕上がりだ。
   硬質なリズムを2ホーンのアレンジで盛り立てるサウンドは、冷静な熱さ。
   だが衒いの無いジャズの提示が、鮮やかなスイング感を出した。
   どのソロを切り取っても熱く燃えないが、全体はグルーヴする不思議な感触だ。
   頭でアレンジされたジャズだが、グッとくるのは彼らの演奏ゆえか。
   もう少し聴き進めて、理由を探ってみたい。

   象徴的な写真ジャケも惹かれる。編成はeg,ds,b。ハードなジャズかと想像した。03年、ドイツで発売。
333・Dynamix:We See Us In The Next Future:☆☆
   コンピみたいに、音楽性がとっ散らかったアルバムだ。
   ベテランのケン・ハイダー(ds)を招きジョン・ドウビー(g,sax,voice)がセッション。ベースのScipioは経歴見つけられず。
   ベースが前に出ると重たいフリージャズ風のムードを醸すが、基本はインプロ集か。
   サックスはおどろおどろしく軋ませ、ドラムはビートをキープしつつも自由に叩く。
   ギターもサックスも両方、きちんと成立している。ドラムがもうちょい、派手ならなあ。
   ジョン・ドウビーはSonicphonics、2near2far、B-Shops For The Poorのバンドにも
   参加してるらしい。場を変えつつアレコレ表現してるようだ。

   ジャズの棚にあったがソウルだろう。恰幅良い女性黒人シンガー、04年。 
332・Marlena:Make Me Feel Real Good:☆☆
   バックの打ち込みはレーベル・オーナーのHerschel Dwellinghamが行い、上物のソロに何人か
   ゲストを招いた低予算な作り。いかにもローカル・レーベルな作りだが一発屋じゃなさそう。このレーベルから何作もリリースしてる。
   アルバム全体は肝っ玉セクシー路線っぽいが、いかんせんアルバム全体のトーンや歌い方がまちまちで
   散漫な印象がぬぐえない。作曲は全てDwellinghamかな。(6)と(10)のメロウなバラードがグッと来た。

   ウィーンの奏者らしい。ピアノとギターのデュオ。03年録音で組曲設定だ。
331・Thomas Pernes:Perndorff:☆☆☆★
   綺麗なピアノの打音で幕を開け、ギターとピアノのフリーなデュオが始まる。
   短い作品を多くはさみ、こまかく展開する楽想は明確なメロディがしだいに
   フリーへ溶けていくかのよう。ノービート、拍子感が薄い曲も多い。
   明るいムードとさりげないスピード感が爽快な、涼しげなフリージャズが楽しめる一枚。

   電子音響家のトムとギタリストのブルースによるインプロ。09年作。
330・Tom Hamilton/Bruce Eisenbeil:Shadow Machine:
   編集やパンチイン無しと断るほど、断片的なフレーズが連発するデュオ。
   ギターはベイリー的に無機質なアプローチでNY流の乾いたムードが漂う。
   根本的にスリルが無いため、少々単調だ。電子音のほうはたまに気の利いた音色出すが。

2013/12/19   メルツバウ関係のコンピを二枚、入手。

   01年録音のジョン・ウォーターマン作品を、アスムス・チェチェンズ、RLW、
   MERZBOW、FREIBAND(FRANS DE WAARD別名義)がカバーした追悼盤。
   オランダのレーベル KORM PLASTICSから06年に発売された。
329・V.A.:Epitaph for John:☆☆☆
   ASMUSのみ小品の連作だが基本は10分程度の尺を提供した。メルツバウのみ5分程度と短くて惜しい。
   メルツバウは95年に"Brisbane-Tokyo Interlace"で共作のつながりになる。
   密やかな深海を連想する、静かな電子音の連綿が基調だ。ビートよりも音色と緩やかな変化が味と言える。
   しとやかなチルアウトに使える曲だ。

   Banned Productionから85年にでたカセット音源を、2010年に同レーベルがCD-Rで再発
   メルツバウ以外はノイズ系かな?知らないミュージシャンばかり。
328・V.A.:Out of Context:☆☆☆★
   充実したノイズ・コンピでやっつけ感や古めかしさはない。見かけたら、ぜひ。
   カタログNo17とレーベル初期の発売で、カセット版より数曲落し1枚に敢えてまとめた。
   今でも聞き入る、しっかりしたコンセプトのノイズ曲がちらほらある。
   疑似的サウンドトラックをテーマに、楽曲はどれもインダストリアルやコラージュ色が強い。
   んこのテーマはここ"見ても、そもそもレーベルの嗜好に沿った音楽性のようだ。
   ハーシュっぽさとコラージュの混沌が幻想的に響くイメージのアルバムだ。。10分の長尺を2曲、軸に構成した17曲入り。
   メルツバウは残念ながら3分程度と、小品のほう。本レーベルとのかかわりは本盤がたぶん初めて、
   のちにレーベルオーナーのAMKやHatersとのコラボ作や、単独名義の盤を数枚発表(Merzboxに収録)した。
   これは音構造は抽象的だが音色が生っぽく、後年の凶悪ハーシュ色を薄めた即興音楽だった。
   極初期のメルツバウらしい作品。

2013/12/18   GbVのロバート・ポラード関連盤の新譜群が到着。

   今年2枚目のソロ。本作を最後に音楽活動停止のうわさが流れてる。
327・Robert Pollard:Blazing Gentlemen:☆☆☆☆
   前半が比較的へヴィ、後半がポップ。だがどの曲も捻くれたアイディアがいっぱい。
   トッドは単調にならぬようアレンジに工夫してるとわかるが、一聴して地味が難点だ。
   ドタバタしたドラムがガレージ的な味ながら、上手いドラム入れるだけで楽曲印象が
   ガラリ変わると思う。4拍子でも奇妙なアクセントつけた浮遊感が漂う盤だ。
   とにかく、ロバートの変てこポップがそこかしこにばら撒かれた。
   楽曲というより1フレーズのアイディアを積み重ねる、俳句集みたいな趣が有り。

   ロバートとトバイアス兄弟とのバンドが2年ぶりに新作、アルバム2枚を同時リリースした。こちらは17曲入り、42分。
326・Circus Devils:My Mind Has Seen The White Trick:☆☆
   全曲歌モノ。同発の"When machines attack"がインスト有と対照的だ。ロバートのソロと異なり、
   少しばかり演劇的で整ってるのが個性か。奇妙さとカッチリしたアレンジが混在し
   ロバート流のとっ散らかった楽曲アイディアがほんのわずか端正にまとまっている。
   中途半端なとこもあるが、冷静に聴くとどこもかしこも捻くれてる。
   歌声はサウンドに埋め込まれ気味、統一感を狙ってるようだ。

   こちらは19曲入り、40分。2枚分から2~3曲落し33曲入り一枚、にしないとこが、いかにも。
325・Circus Devils:When Machines Attack:☆★<
   前後を同じ曲ではさみ、よりトータル・アルバム性を強調した。こちらも芝居がかった構成が多い。
   楽曲は小粒にまとまってるぶん、ロバートの破天荒さが減じてて惜しいが。
   同発の"MY Mind~"がサイケっぽさに軸足ならば、本盤は微妙にプログレめいている。
   テクニックとか変拍子とかでなく、奇妙な世界観の点で。

2013/12/12  最近買ったCDをまとめて。

   AMTが3枚組のベスト盤をリリースした。膨大なアルバムある中から、少々偏ってる気が。
   後でじっくり調べてみよう。もちろん、レアテイクや初出音源もあり。
324・Acid Mothers Temple:A young person's guide to:☆☆☆☆
   まず収録曲の整理から。2曲のライブをのぞき全て海外のレーベルからリリースされたもの。
   ライブの2-6は09年ザッパナーレ、3-5が13/4/26のオースティン公演より。双方ともIAで聴けぬ音源で、全貌発表も期待したい。
   なお前者は河端のGにMani Neumeier(GURU GURU)、Daevid Allen(GONG)、Guy Segers(UNIVERS ZERO)のセッションで、厳密にはAMT U.F.O.では無し。
   後者はSimeon(SILVER APPLES)が参加してる。
   律儀に U.F.O.のみで、他ユニットは収録せず。既発は2001~7年と比較的に初期を選び、入手困難性の解消狙いか。
   希少性でいうと、1-4がコンピに収録、1-5が7"で発表と、アイテム的にも珍し目の盤。
   なお既発曲の収録盤も以下のごとく偏りあり。当時は他にも膨大なリリースあったのに。
    1-1,1-8,3-1  "NEW GEOCENTRIC WORLD OF ACID MOTHERS TEMPLE"(2001)
    1-2,3-3    "Does the Cosmic Shepherd Dream of Electric Tapirs?"(2004)
    1-3,2-4    "Nam Myo Ho Ren Ge Kyo"(2007)
    1-6,2-3    "Univers Zen ou de zero a zero"(2003)
    2-1,2-2    "Acid Motherly Love"(2007)
   なお楽曲は流れが練られておりバラエティに富んでいる。トラッドを貪欲に咀嚼し
   サイケにまぶしたAMTの魅力を的確に提示した。もちろん果てしなく舞い上がる場面も一杯。
   綺麗なマスタリングでエッジが強調された本盤は、まさにAMTのガイドになりうる。
   とはいえ本3枚組でも、初歩の入り口の序の口ではあるのだが。

   今年リリースの新譜で5種類のセッションからまとめた1枚。
   3.11で店が流された岩手のジャズ喫茶「クイーン」に捧げるアルバム。
323・明田川荘之:いそしぎ:☆☆☆☆★
   震災への鎮魂と追悼を基調に、明田川流のセンチメンタルな名演が詰まった大傑作。3曲の初CD化音源も嬉しい。
   リズム隊をほぼ固定し(一曲のみ、ベースが吉野弘志)、グルーヴは統一した。今の明田川トリオ盤、ともいえる。
   ピアノ・ソロを2曲入れて流れに変化を持たせる工夫を施した。
   さらに次世代のピアニスト石田幹雄との共演も入れ、タスキを渡すかのよう。
   さまざまな意味で、過去の流れを一枚のCDに封じ込めた一里塚のような盤だ。
   そして演奏もばっちり。滴るような明田川のピアノを、朴訥なリズム隊が支える独特のグルーヴが詰まった。

   発売は2011年。片山広明(ts)を招いたトリオ編成で2010/8/31にアケタの店でのライブ・アルバム。
322・明田川荘之:My one and only love:☆☆☆☆★
   壮絶な、ジャズだ。すごい。
   絞り出される片山節が静かに絶叫する。鈍く鋭いノイジーなテナーの音色が、こんなにも切なく響くとは。
   当日の片山は、かなり体調悪かったらしい。豪放さは軋みに変わり、音数少なく厳しく吼える。
   明田川のトリオは静かにグルーヴして、テナーと混ざっていく。

   活動は長いが、ようやくアルバムが今年にリリースされた。吉野弘志のユニットで、
   ゲスト扱いかと思ってた鬼怒無月がメンバーとしクレジットされた。他のメンバーは太田恵資と吉見征樹。
321・彼岸の此岸:Feeling the other side:☆☆☆☆★
   ひきょうなくらい、飛び道具だらけ。個性的なミュージシャンを3人集め、悪いはずもない。
   楽曲もオリジナルを軸にしつつ、さまざまなカバーを取り入れバラエティを強靭に取った。
   アレンジはベースでキーを提示しつつ、ギターやタブラが微妙に和音感だすが
   ソロイストはどんな方向へも向かえる。その自由さが、多様な音楽性を包含した。
   構成の基本はフロント二人のソロ回し。タブラやベースがおもむろに存在感を出す。
   すなわちバンド的なダイナミズムに加え、ソロふたりの即興パワーが存分に加わった。
   録音も素晴らしい。ライブのはずだが歓声は聴こえず、すうっと余韻が消える。生々しさが凄い。
   どこを切り取っても、良くなる要素しかない。しかも結成から7年、ようやく聴けたって
   期待感までおまけつき。この贅沢さはもう、たまらない。アジア要素を軸に、ヨーロッパへ。音楽は自由に世界をはばたく。

   未聴だった02年のアルバムで歌モノらしい。
320・灰野敬二:まずは 色を無くそうか!!:☆☆☆★
   密やかな呟きのイメージ。リバーブまみれの音像で、静かにエレキギターの爪弾きと灰野の呟きが交錯する。
   ギターはフレーズ・ループを混ぜて厚みを出すが、独特のリズム感で小節線は希薄だ。
   短い曲と30分にわたる長尺の双方をまとめ、アルバムとしてのダイナミズムも味わえる。

   99年の作品。傑作と噂を聞くが、ようやく入手できた。
319・坂本弘道:零式:☆☆☆☆★
   素晴らしいアルバムだ。自らの即興録音を分析し楽曲へ仕立てたという本盤は
   ハードコアな色合いは息をひそめ、ロマンティックで滑らかな旋律が強調のセンチメンタルな
   音楽に仕上がった。自らの多重録音が紡ぐ音像はシンプルで力強い。
   寂しげな不安感が通底するのが特徴か。とても内省的な音楽だ。
   しかしジャケットイラストも坂本の手によるものらしい。多才だ。

   以下はジャケ買いのマイナー・ジャズで、詳細は不明。

   Bernard Trontin, Christian Graf, François Chevroletのジャズ・ユニットで
   本盤が2ndにあたるようだ。97年の発売。
318・Double Jeu Trio:Mobiles:☆☆
   ジャズと言うより洗練の足りないプログレっぽい。キメの多いテーマに続き
   同時進行のソロに雪崩れる。全体的に軽いが、ギターがリフを刻みサックスがソロ、
   ドラムが跳ねる感じで叩くのが基本スタイルか。前衛さは抑え聴きやすい仕上がりだ。
   (4)くらいワイルドなほうが好み。(6)の硬質ロマンティックさも良い。ただ、全体的に覇気が無い。

   01年のジャズでElectornicsと木管楽器のデュオ。アメリカのレーベルから発売。
317・Mark Trayle/Vinny Golia:Music For Electronics & Woodwinds:☆☆★
   基本はサックスの抽象的なフリージャズ。ノイジーにめったやたら吹きすさぶタイプで
   正直かなり緊張を強いられるタイプだが。電子音が妙なユーモアあって、一周して
   ノイズ音楽的な爽快感を味わえるサウンドに仕上がった。
   リズム性は皆無。サックスのブロウが産むグルーヴと電子音の
   ランダム性は全くかみ合わない。だが二つの音が混ざることで、微妙な揺らぎが産まれてる。
   くつろぎには向かないが、緊張を和らげつつスリルを保った不思議な一枚。

   独のレーベルから92年に発売、p,tp,dsの編成ジャズ・トリオ。
316・Joel Futterman/Raphe Malik/Robert Adkins:To The Edge:☆☆
   シンプルな斬りあいのフリー・ジャズ。ピアノの左手が執拗にうねり続けるあたり
   そうとうなパワー/テクニックの持ち主だ。ノイズでなく疾走系のフリーで、
   鍵盤が乱打されてもどこか聴きやすい印象あり。ちょっとヌケが悪い気がするため、
   大音量で聴いたほうが楽しめる。ライナーに曰く、「フィルターやコンプ、
   均質化やノイズ取り、マルチ録音やオーバーダブなど一切なし」。
   生の凄みを録音したと強調する。このピアニストは79年レコード・デビュー、現在も活動を続けてる。11枚目のソロ。

   99年にアメリカの発売。いかにも手作りなパッケージだ。g vs as/pのデュオ。フリーかな。
315・Justin Yang/Jesse Kudler:2-Part structures:
   ミニマル人力を狙いか。単音の付点フレーズが淡々と続き、ときおりサックスがピアノへ持ち替える。
   アルト・サックスが少々拙いため、聴いてて音の濁りがつらい。
   ノイズ狙いで構築性と人力のあいまいさを行き来するコンセプトか。
   即興をぶつけ合うよりも、透徹さを狙ったようだ。

   95年にハワイのスタジオで一発取りとある。ds vs keyのデュオ。
314・Joe Gallivan & Brian Cuomo:Night Vision:
   主役はドラムだが恐ろしくピアノとデュオの必然性が無い。ノービートではたくようなperと
   軽やかにフリーなピアノが狙いのようだ。富樫/山下"兆"をポップにした如く。
   カンタベリー系セッションもあるというdsだが、ここではあくまでフリージャズを演奏した。

2013年11月

2013/11/26   注文のCDが到着した。

   オーストラリアのレーベルから、メルツバウの新譜が出た。
   書籍タイプのデジパック仕様で、12年5月にシドニーでのライブ盤。
313・Merzbow:Kookaburra:☆☆★
   じわじわと音像が変化していく。多層よりも縒りあげた太いロープが変貌するさまを聴いてるかのよう。
   剛腕ノイズが淡々と、持続する一枚。

2013/11/24  最近買ったCDをまとめて。ほぼ全部、ジャケ買い。

   伊ピアニスト、ダンドレア目当てで入手。88年にローマで録音した。
312・Franco D'Andrea/Giovanni Tommaso/Roberto Gatto:Kick Off:☆★
   ピアノの指がクルクル回る、耳触りの良いピアノ・トリオ。妙にドラムとベースのグルーヴが
   つんのめる場面多く、それがアクセントになっている。単なるリズム刻みっぱなしでなく、
   無伴奏や完全ソロ回しを取り入れ、場面に幅を持たせた。
   それが効果的かの問いには、奇妙な味わいになってる気はすると答えるが。

   Vln,p,vcの順列組合せデュオ、クラシック寄りらしい。ジョン・ゾーンの3曲を
   収めた、TZADIKの01年盤。
311・John Zorn:Love, Madness & Mysticism:☆☆
   どれもすべてか、もしくはほとんどが譜面だろう。即興っぽい抽象的なフレーズが続く場面でも、
   楽曲の縦線構成にブレや混乱はない。なぜかゾーンはバイオリンだと高音を強調する。
   だから(2)のチェロ独奏が最もストン、と耳に届いた。
   一発録りかは不明だが、短いフレーズを繋ぎ合わせたような煌びやかなゾーン節が堪能できる。
   (3)のゆったりした幻想性も良い。
   散漫で中心の無い不安定な美学を追求した、ゾーンの独自性が味わえるアルバム。

   映画音楽シリーズの一環で06年に発表。ゾーンはピアノや親指ピアノを演奏し、ギター中心のカルテットとセッションかな。
310・John Zorn:Film Works XVII - Notes On Marie Menken/Ray Bandar: A Life with Skulls:☆☆☆★
   アルバム全体の構成を考えた仕上がりで、聴きやすい。
   "Notes on Marie Menken"(2005)はJon Madof(g)を中心のエキゾティックでメロディアスな楽曲。
   だが曲によってはゾーンのサックス吹き鳴らしのアバンギャルドな面もある。
   "Ray Bandar: A Life with Skulls"は盟友シロ・バティスタ(per)と、ゾーンの親指ピアノのデュオ。
   どちらかと言えばミニマルで抽象的な仕上がり。二つの要素を、並べずにアルバムの中で
   ごちゃまぜに並べることで、アルバムとしてはバラエティある良い流れが生まれた。
   譜面が中心と思われる"Notes on ~"と、即興っぽい"A Life with Skulls"、ゾーンの二面性がコンパクトにまとまった一枚。

   89年のアルバム。初めて聴く。B.J.トーマスのディスコグラフィってよく知らなかったが、
   wikiみるとコンスタントにリリース続けてるとわかった。
309・B.J. Thomas:Midnight Minute:☆☆
   前後のアルバムはMCAから発売だが、本作のみピョコっとRepriseからリリース。契約で苦労が伺われる。
   どかんと轟くドラムと水っぽいシンセ、大仰なギターに時代を感じるが、歌声はぶれていない。
   打ち込みでなく生演奏が救い。ならばもっとアコースティック狙いが望まれるが、当時の流行りでは無理な話。
   プロデューサーはカントリー畑の作曲家、スティーブ・ドルフとカーペンターズの作詞家、ジョン・ベティス。
   怒涛のAORを狙いつつ、どこか大味な出来は否めない。したがって声が出てるのに薦めづらい、惜しい盤となった。
   楽曲ならば(5)、(7)、(9)あたりはアレンジを練れば、時を超えた良い曲だったろうに。

   01年のサザン・ブルーズ。本作を吹き込み後に彼は他界した。
308・Freddie Waters:One Step Closer To The Blues:☆★
   オーソドックスなモダン・ブルーズですべて生演奏、タイトで暖かなグルーヴを楽しめる。
   層の厚みをしみじみ。あちこちでこの手のブルーズが夜な夜な演奏されてるんだろな。
   楽曲はバンマスでキーボードのフレッド・ジェイムズの曲を中心に、
   ダン・ペン"It teas me up"、"I'm living good"やStaple Singers"Tend to your business"などカバーを盛り込んだ。
   正直、好みの音楽ではないが、しっかりした演奏で聴かせた。

   80年代インディ・ソウルでレア盤扱いらしい。
307・Stage Coach:Playing Games:☆☆
   いわゆる80年代シンセ・ファンクの路線だが、(6)の甘いバラードのみで今も評価されてるらしい。
   アルバム全体は淡々とパーティ・ファンクが続いて食傷するが
   たしかにバラードの切なさは愛おしい。70年代の滴りを保ちつつ、すっきり抜けたアレンジの妙味が良かった。

   ボルティモアのソウル・グループで、02年発表の2nd。
306・Fertile Ground:Seasons Change:☆☆★
   コード進行は気持ちいい、ジャズとヒップホップを混ぜたソウル。だが、
   リズム・アレンジが微妙に物足りない。ここで叩いて欲しい、ってとこが
   ふっと抜けて前後に鳴る。このセンスが自分の好みと合えば、すごく良い盤と感じたと思う。
   アレンジのセンスは70年代フリー・ソウル的なカテゴリー。生演奏を
   生かした、柔らかで切ないムードがいっぱいだ。

   82年のマイナーなソウル。ジョルジオ・モルダー人脈の欧州系ディスコらしい。
305・KID:Fine Time Tonight:
   徹頭徹尾、ディスコ。ダンス用のアルバムであり、今聴くと逆にとっつきづらい。
   中盤(6)あたりからのプリンスに通じるテクノ風のアレンジや、コード進行に
   耳を惹く場面もあるが・・・少々、ぼくには単調。

   プリンスのバンド、THE REVOLUTIONのベーシストが82年発表の1stソロ。
   とはいえプリンスは特に参加してない。
304・André Cymone:Livin In The New Wave:☆☆☆☆
   才能のきらめきを感じさせるデモテープ的な一枚。プリンスは同年"1999"を発表、比較したら見劣りは否めないが。
   全て自分で演奏、とスタイルは全くプリンスと同じ。アレンジもシンセ多用のニューウェーブ・スタイル。
   だが根本的に違うのは、アンドレの方が下世話だ。聴いてて、親しみやすい。時代を突き抜ける
   先鋭性の代わりに、着実なポップさを持っている。ミディアム~バラードが時代超えて
   今も聴けるが、アップも悪くない。だがリズム感がイマイチとろい。ドラムをだれか
   迎えたら、シャキッと締まったろう。音質も妙に安っぽい。これがデモテープ的なゆえん。
   とはいえ隅々まで目配り効いた、良いアルバムは間違いない。プリンス周辺は多士済々だな。

   ヒップホップのブレイクビーツ、かな。03年、カナダで録音された。
303・Moka Only:Lowdown Suite:☆☆☆☆
   wikiみると膨大なリリース量。前年は7枚、この年も本盤以外に1枚。翌年は1枚だが、
   その後も毎年(時に複数枚の)アルバムをリリース中。
   ある曲では超低音のベースがさりげなくミックスされ、音に厚みを出した。サウンドは乾いた空気感で
   性急さや押しつけがましさ無く、クールに展開する。(7)のつんのめるビートも楽しい。
   ラップはダブ風に揺らぎ、不穏さを表現した。トラックも決してやっつけじゃない。
   メロウで歌うようなラップが、彼の特徴か。

   ヒップホップ。ザ・プロカッションズのメンバーの1stソロで07年の盤。
302・Mr. J. Medeiros Feat. 20syl of Hocus Pocus:Of gods and girls:☆☆☆★
   エコー掛けた奇妙な酩酊感が本盤の特徴。歯切れ良いラップとトラックの対比が心地よい。
   スクラッチも良いアクセントだ。むやみにネタへ頼らないブレイクビーツっぷりが清々しい一枚。
   トラックでビートを作り、ラップは緩やかなグルーヴを演出した。だが、時々入る奇妙なセンスが味。
   きちんと聞き取れてないが、曲間のセリフでトータル・アルバム性を出してるかも。

   NYラッパー、タリブ・クウェリの4thで11年のリリース。Ft.はスキー・ビーツ、オー・ノー、アウタサイトなど。
301・Talib Kweli:Gutter Rainbows:☆☆☆★
   多彩さと多様を狙いつつ、非常にバランスとれた一枚。ダンサブルさを保ちながら
   トラックの丁寧に作られた構成に耳を惹かれた。
   小刻みにハタくような
   リズム感が基調にあり、サンプリングとリズムを細かく重ねて
   グルーヴを穏やかで緩やかな波に仕上げた。これは良い。さっそく、あれこれ彼のmixtapeを探そう。

   ジャマイカ系NYのラッパー、1st。07年発表時にビルボード4位までヒットした。
300・MIMS:Music Is My Savior:
   西海岸と思ったら、NY出自とは。「音楽がオレ救った」と、のし上がり主張が教育上ポジティブは一般受け狙いか。
   少なくともサウンドは、さほど斬新に感じず。のっぺりと積み上げる
   スローなノリのラップも、いまいち退屈。トラックは複数のプロデューサーを立てたわりに
   あまり多様な感じはせず。シンセ中心のビートは、たまにリズム的に
   奇妙な響きが耳を惹くも、総じて単調だ。流行りを追ったっぽい。
   冒頭のコケ脅かしな盛り上がりに興味出たが、不穏気味に賑やかな(8)以外は、乗れず。

   Little Brotherのメンバーがリリースのラップ,11年の1stソロ。
299・Phonte:Charity Starts At Home:☆☆☆★
   歌モノとラップ、双方に強みを持つスタイルを見事にまとめた一枚。
   Little Brotherでの9th WonderをメインPro.に据え、S1やFatin '10' HortonにもPro.を委託した。
   ダルッと引きずるノリを基調にNY風の緊迫した頭打ちビートを混ぜた揺れるトラックへ、ぷちぷち弾けるラップを載せる。
   あまりライムはうまくないが、隙も無い。
   (4)のスリルが堪らない。ゲストのElzhiがか細く畳み掛けハーモニーが断続的に乗るさまが良い。
   後半はメロウな歌モノの印象が強まる。語りかける(8)がマーヴィン・ゲイ直系のかっこよさ。

   キューバの女性シンガーが俳句をテーマで08年に発表。ほぼジューサの多重録音だ。
298・Yusa:Haiku:☆☆☆★
   密やかなグルーヴが楽しい盤。多重録音とバンド演奏が上手いこと調和し、
   語りかけるような柔らかい歌声が弾む。メロディよりも楽曲全体で聴かせる感じ。
   柔らかく、穏やかでのどかな世界だ。

   女性ソウル・トリオの70年代アルバム4枚をCD2枚にまとめ、さらにレア曲も
   取り込んだ、英EDSELの2010年リイシュー。
297・Honey Cone:TAKE ME WITH YOU + SWEET REPLIES...PLUS + SOULFUL TAPESTRY + LOVE, PEACE & SOUL...PLUS:☆☆☆★
   最後のシングルも含めて全キャリアを包含できる編集は嬉しい良再発だ。音楽的には何とももどかしい。
   迷走したユニットって感が否めない。だが短い期間に伸びてくダイナミズムを味わえた。
   ちなみにリードVoのEdna Wrightはソロ"Oops! Here I Go Again"(1976)を発表、今も懐メロ路線だが歌い続けてる。

   "Take me with you"(1970)☆★
   野暮ったさが先に立ち、どれもモータウンの劣化コピーに留まる。唯一(11)の切なさが耳を惹いた。

   "Sweet Replies"(1971)☆☆☆★
   がぜん溌剌で魅力増した。だが、どこか一要素足りない楽曲が多い。
   歌がショボかったり、ベースが平板だったり。リズムがモタったり。楽曲によってはシンセを派手に使い
   テクノ的アプローチで魅せる。当時は先取りしすぎ、今は中途半端なサイケさで古びてるのが惜しいが。
   ばっちりハマったのが(12)。音が弾んでる。ただし(20)の未編集テイクと比較し音にあちこち歪みあり。
   マスターの劣化か。当時のシングルのみ曲(21)や(22)も、キュートなノーザン・ミドルだ。
   この2曲が次アルバムへ未収はたぶん、ダンサブルさで売る戦略のせい。読み違いだな。メロウさが彼女らの時代を経た魅力だろう。
   ちなみにこのあたりの楽曲、ジェマーソン風に歌うベースのフレーズがいっぱい聞ける。

   "Soulful Tapestry"(1971)☆☆☆☆ 
   最も上り調子で、一枚ならこれを選ぶ。歌も伸びやかでゴージャスなアレンジもハマった。
   前作のシンセ路線は消える。メロウな(1)で幕を開けた。無骨なベースが惜しい。
   どの曲も生き生きしてる。テンポの若干遅い点のみ、時代を経て物足りないくらい。
   ノーザンの涼やかさにサザンの温かさを上手いこと溶け込ませた。

   "Love,Peace and Soul"(1972)
   いきなり成熟した一枚。スモーキーのカバー(10)はボーカルが妙にドライで、逆に惹かれた。
   穏やかな世界観でゆったり聴ける。しかし今一つ華というか、個性が無い。
   リードvoの方向性はノーザンよりゴスペルやサザンがハマりそう。
   アップやミドルが多くアダルト路線には中途半端。スロー気味の(16)に惹かれた。
   このあと、彼女らはレーベル消滅に伴い解散。76年のシングル一枚(20)/(21)はディスコ狙いかな。うーん、アレンジが甘い。

   作曲がジム・ウェッブ、演奏はレッキング・クルーによる"マッカーサー・パーク"収録の、リチャード・ハリス68年デビュー盤。ビルボード4位のヒットを記録した。
296・Richard Harris:A Tramp Shining:☆☆☆★
   ゴージャスでドラマティックな展開が素敵な一枚。こういう盤こそ、音が良い環境で
   じっくり聴きたい。ワザとか不明だが、かなりコンプされてる印象あり。
   朗々と歌うハリスの声は、ロイ・オービスンやB.J.トーマスに通じる毒が無く懐深い
   印象を与える。しかしクラシカルなオケにハルのドラムは妙なインパクト与えるな。

   ファンクと思ったらフュージョン・バンドらしい。89年リリース、6th。
295・Pieces Of A Dream:'Bout Dat Time:☆☆
   聴いてみたらやっぱりソウル。なぜフュージョンに分類だろう。
   基本は80年代風のシンセ強打ファンク。アップはさすがに古臭いがミドル~スローは聴ける。
   中途半端に整った感がイマイチ。いなたい野暮ったさを甘酸っぱさに見立てて聴く。
   だが(8)あたりのさりげないキュートさが沁みた。プロデューサーのセンスかな。

2013/11/21   最近買ったCDをまとめて。

   70年発表アルバムのセッション音源をどっさり詰め込んだリイシュー。せっかくだから4枚組盤を入手した。
294・Van Morrison:1970_Moondance [2013 Remastered]:☆☆☆☆
   ファン向け。難しい再発だな・・・。発掘は嬉しい。しかし、ってとこ。
   一発録りとは知らなかった。テイクを重ねるセッションの様子は、きっちりアレンジを構築済み。あくまで磨き上げるさまを生々しく追体験できる。
   だから逆に言うと、不完全で不十分なものを延々と聴かされる。これはファンでもしんどかった。
   名曲ぞろいのセッション音源を聴いてて、改めて細部を聴き漏らしてたと気づく。その意味で、OKテイクの魅力をより輝かせた。
   しかしMoondanceの初期テイクが無くて残念。

   ピアニストの現名義はshezoo。90年のアルバムで20世紀初頭に活躍した画家であり作曲家の
   ベルギー人、アンソールのピアノ曲を志津が編曲/演奏した盤。どのへんが編曲だろう。
293・前田志津:ラ•ガム•ダムール—愛の調べ—:☆☆☆★
   ある種グロテスクなアンソールの絵とは真逆に、ここでの音楽は温かい。滑らかでシンプルな旋律が
   クルクルと舞っては広がる。タイトル曲のメロディはどこかで耳に馴染んだ気も。
   メロディは淡々と重なる。時にミニマルに。だが、美しさは常に漂う。

   編曲を坂口博樹に任せ、オカリーナを演奏した。盤としてはリラックス音楽の位置づけ。
   明田川のオリジナルも4曲収録あり。94年の作品。
292・明田川荘之:風の詩:☆☆
   明田川のソロ名義だが実際は素材的な意味が強い。企画はリラクゼーションのアプローチだ。
   元ヤマハ音楽院講師の肩書を持つ坂口博樹が、すべてのアレンジを施した。
   弦カルにシンセとアコギが基本で、その上にオカリーナが乗る。シンセの透明感を
   生かした響きが多い。ピッチがピタリ合ったオケに、ときおりかすかに震える
   肉声のようなオカリーナが響く。しみじみ鳴るオカリーナは、口笛のようだ。
   明田川の即興を楽しむよりリラクゼーションを狙った盤。
   寛ぐ、でなく心穏やかへ似合ってる。細かく聴くと、アレンジは色々凝っている。

   仕切りは早坂かな?NY/セネガル/東京の文化を混ぜた05年の盤。
291・早坂紗知,黒田京子,永田利樹,フェローン・アクラフ,ワガン・ンジャエ・ローズ:beat beat Jazzbeat!:☆☆☆
   スタンダード集だが奇妙なとっ散らかり振りが楽しい盤。全9曲中、モンクが2曲で
   オーネットが4曲。"My favorite things"もまあ、ジャズに混ぜてもいい。
   だが残る曲がバーデン・パウェルにゴードン・ジェキンズと、ラテン/スタンダード曲が混じる。
   さらに残1曲はセネガルの民族歌。文化の違う世界を強引に一バンドに詰めて
   聴きやすいながらもどこかこぼれるようなミックスが産まれた。
   フェローンと黒田が比較的自分の世界を持ち、あとのメンバーはあちこちをさまようかのよう。
   パウェル曲でのフュージョンっぽいノリも面白かった。
   アンサンブルの集約っぷりはモンクの曲が最も顕著だ。一曲選ぶなら、ピアノが美しい(9)を。

   佐藤博をまともに聴いたことなく、何枚か入手した。レイ・ハラカミといい、なぜ逝去後に興味持つんだろう、俺は。
   これは傑作の呼び声高い82年の4th。2曲で山下達郎がギターで参加した。
290・佐藤博:Awakening:☆☆☆☆
   打ち込みグルーヴィなリズムがまず、この盤の魅力。さらにスケール大きな鍵盤も良い。
   気どって声を作ったボーカルが、たぶん好みの分かれ道。南佳孝みたいに
   本当に歌がうまいタイプでもないため。女性ボーカル曲のほうが素直に聴けるかな。良質のAORだ。
   達郎の参加はアンサンブルの中に溶け、見事な演奏を聴かせた。
   ほぼ多重録音とは思えない、バンド的なサウンド構成力がすごい。

   90年の10th。ベーシックはLA録音かな。ギターがEW&Fのアル・マッケイ。
289・佐藤博:Good Morning:☆☆★
   打ち込みリズムと生ビートが混在し、違和感ないグルーヴづくりの真骨頂。
   西海岸の爽やかなポップスが詰まった。惜しむらくはボーカルのパンチが弱いこと。
   ハイトーンもきれいだが甘いピッチや線の細さが、頼りなさを感じさせた。
   B面はAORを突き抜けたパワーポップ路線。一曲選ぶなら、時を経て古びないバラードの(10)か。全編生リズムだが。

   別人だった・・・佐藤Gwan博の名で活躍するフォーク歌手が76年発表の1st。
   しょうがないじゃん、間違えても。数曲の編曲で坂本龍一が参加してて、
   参加ミュージシャンのクレジットに細野晴臣や村松邦男もあり。
288・佐藤博:青空:☆☆☆
   スタイルはカントリー・フォーク。素朴で大らかな歌声をアコースティックでカントリーにアレンジし
   バタ臭さを施した。坂本龍一は予想以上に全面参加し、ほとんどの曲でピアノを弾いている。
   坂本のアレンジは4曲。斉藤ノブのperと小原礼でファンキーにきめるか、吉田健のベースでほんのり重たさを演出した。
   坂本アレンジはカントリーからちょっとズレた洗練っぷりを魅せる。この辺が、才能か。
   アルバム全体でみると統一性薄いが、歌声で強引に一気通貫する。
   とはいえ坂本のエスニック風味なアレンジを聴ける興味深い盤だ。細野は一曲のみでアコギを弾いている。

   ジャケ買い。前衛Vln奏者が05-09年録音した電子ドローン作品らしい。
287・C Spencer Yeh:1975:☆★
   無機質な電子ドローンが延々と続く盤。1曲が5~8分で終わり、そのたびに音色が
   変わっていく。アイディアを録り溜め、まとめたアルバムな印象を受けた。

2013/11/9   最近買ったCDをまとめて。

   菊地成孔と大谷能生がインディで発表した新譜はラップとガップリ組み合った。
   ゲストはSIMI LABからMARIA、OMSB、DyyPRIDE、MOE&GHOSTSのMOE、覆面ラッパーのICIら。
286・Jazz Dommunisters:Birth of Dommunist:☆☆☆☆★
   ラップに留まらず、朗読へも視野を伸ばした意欲的な「口頭芸能」追求の一枚。
   菊地流"フロウ"のパターンやバリエーションも多彩で、さすがのクオリティと多様性だ。
   ミュージシャンならではの和音感覚も良い。詳しくは、13/11/14の日記に書いた通り。

   92年発売のソロ。約60分一本勝負で、91年12月30日、東京のGospelのライブ音源を収めた。
285・灰野敬二:慈:☆☆☆★
   エレキギターと灰野の歌。密やかに始まり、中盤で轟音に変わる。だがむやみな
   テンションあげは皆無。大きなうねりのように、轟音だろうと小音だろうと
   灰野の佇まいは全く変わらない。ただ、ギターへのめり込む。
   フレーズはほとんどなく、淡々とギターが鳴らされては歪み沈んでゆく。淡々と。
   トラックが一つしかないため、場面ごとに聴けないのが難点。灰野としては流れを
   味わってほしかったと思うが。あくまでスピーカーと対峙し、つまみ食いをしたいが、本盤は許さない。

   90年発売の3rdソロだが、のちにユニット名へ。本盤で灰野はG/Vo/perを担当、松岡隆史(p)が参加した。
284・灰野敬二:滲有無:☆☆☆
   爪弾きと歌 / リバーブ効いた金属ノイズと打音 / 金属の弓弾きと歌 。酩酊と神秘感を強調した作品。
   ストーリー性は薄く、ひとつながりの即興を無造作にアルバム化した感じ。
   場面が変わるが、トラックは一つ。ブロックごとにトラック信号は入れて欲しかった。
   ざくっとした金属音と生々しい歌声の対比が、本盤の聴きどころ。

   05年にNYで収録。オリジナル/インプロ/スタンダードと各種方向性の作品。
283・KO Project 菊地雅章 With Greg Osby:Beyond All:☆☆
   硬質でストイックな即興だ。初手からソプラノ・サックスが涼しげに鳴る。
   リズミカルと対極に静かなフリーがデュオで編まれた。
   菊地のピアノが主体へ向かうと、柔らかな温かさを感じた。(1)から(2)への穏やかな展開が味わい深い。
   間を生かした抽象的なせめぎ合いは、妙に雅楽的な色も覚えた。
   基本は二人のデュオ。カバーの"ラウンド・アバウト・ミッドナイト"やマイルスの
   "スウィング・スプリング"でこそ、本アプローチの奇妙さが強調されて面白い。
   なおマイルスのこの曲、たぶん"Miles Davis and the Modern Jazz Giants"(1959)の収録曲。渋いとこから持ってくるな。

   公式Webでは42thリーダー作。82年独メールスでのピアノ・ソロを収め、同年発表された。
282・佐藤允彦:Apostrophe:☆☆☆
   ステージ背後に書を吊るしてインスピレーションを得ながら即興したという。
   数分単位の曲が続く、ライブ・ステージを丸ごと収録した一枚。
   佐藤独特の、凛としたリリシズムとタッチの涼やかなジャズが味わえる。

   杉丸太一(p)がリーダーのvo+pトリオ。07年結成で本盤は11年発売の1st。主戦場は名古屋らしい。
281・p-4k:In a special way:☆☆
   端整な世界観が持ち味と思う。ボーカルも嫌味が無く、透明感ある世界の深化に貢献した。
   惜しむらくは録音があまりに素直すぎること。もっと毒を出していい。
   リバーブをきつくするか、ダイナミズムを強調するか。ピアニシモとフォルテの強弱が少々甘い。
   全員が音数を上げず、上品に演奏する。さらにバトルなアンサンブルでもいいな。

   アンビエントのようだ。no.9こと城隆之が04年発表の2nd。
280・no.9:蟲の響/Mushi-No-Ne:☆☆★
   どうも全貌がつかめない。no.9はJoe Takayuki & Wakiの二人組で、本盤は01年に日本のレーベルから発表。
   それをシカゴのレーベルLocusmusicが再発、のようだ。 
   蟲の響とはユニット名でもあり、パーティ・オーガナイズもやってるらしい。関係Webはこちら
   本盤はエレクトロニカを基調で、リズムがあってもダンスとは違うベクトルだ。
   耳に柔らかく穏やかな響きから幕を開け、しだいに混沌と不穏さを漂わす。一筋縄ではいかないアンビエント。
   コラージュ感とサウンドスケープが混在し、リズムが酩酊に溶ける。不可思議な電子音楽が心地よい。

   和歌山のブドウ園"まる壱ぶどう園"が95年に喫茶店JALAN-JALANをオープン。
   レーベルを作り08年に発売の1枚。メンバーは清野拓巳(g),浜村昌子(p),Jeremy Stratton(b)。  
279・Blue Willow Trio:Trees:☆☆☆☆
   とても魅力的な盤だ。オーソドックスなジャズだがスイング感より欧州的な透明感が強い。
   ドラム・レスのためか小節感も希薄で、むやみに音数を増やさぬ
   メロディアスなフレーズが柔らかく揺れる。ギターの確実でテクニカルな響き、ピアノの
   柔らかく丁寧な音色、ベースの穏やかで安心できる響きが極上のアンサンブルを作った。

   デンマークのピアニストが、02年発売の1stソロ。
278・Carsten Dahl:The Butterfly Dream:☆☆★
   膨大なアルバムを出してる有名な人という。不勉強で知らなかった。
   流麗でリリカルな演奏だが、ほぼ即興かな。残響を確かめつつ、手なりに弾いてる印象だ。
   速いフレーズもクラシックへの影響を感じる、いわゆる欧州ジャズ。黒っぽさは皆無だ。
   耳触りは良いが、テンポはぐいぐい揺れるためBGMには向かない。
   内省的なムードに浸りたいとき、良いかも。フレーズや音選びには、閃きがいっぱい。

   露のVln奏者が自らのバンド名義で03年に発売した。
277・Alexei Aigui:L'Ensemble 4:33: MIX:☆☆☆★
   コンパクトなインストが詰まった(一部、ボーカル曲もあるが)。毒のない室内楽プログレかな、が初印象。
   何度か聴くうちに(5)のミニマルなポップスがストンと耳にハマった。
   即興要素もあるが斬り合いは目指さない。綺麗なメロディだがセンチメンタルに堕さない。
   洗練されつつひねったところを混ぜる。通底するのは上品さ。
   スパッと場面が変わる、アレンジの妙味も楽しめる盤だ。

   04年5thソロ。ブルーズのグラミー賞を受賞した。
276・Keb' Mo':Keep It Simple:
   そつがなく、ちょっときれいすぎ。泥臭い=ブルーズってのも類型的な偏見だが。
   メロディは丁寧で演奏もかっちり。ドラマーが同じでサウンドの一体感もある。
   BGM向きな印象だった。

   米ウィスコンシン州出身の彼はBad Plusを結成する前に、別のドラマーと組んだ
   トリオ編成で、99年5月のライブを収録してる。
275・Ethan Iverson:The Minor Passions:☆☆
   不穏とオーソドックスの間をふらふらと行き来するジャズ。微妙な不安定さだ。
   ほんのり浮かぶロマンティックさが個性か。ピアノのタッチは硬質で、無骨ながら
   流麗な相反する要素もあり。ドラムのハイハットが小気味いいな。

   豪ピアノ・トリオの03年デビュー盤。オリジナルの他にコルトレーンやエリントンをカバーした。
274・Daniel Gassin Trio:Roundtrip:
   基本はクールなヨーロピアン・ジャズ。ときおりロマンティックさを魅せる。
   スリルはたぶん、ライブや瞬間のきらめきで出しそう。アルバム通しては
   端正で整った印象が先に立つ。破綻はほぼ、無い。
   リズム隊も無難にまとめたなあ。シンバルが軽快に鳴った。

   米のピアニストで、スキンヘッド・トリオのジャズ。06年に発表された。
273・John Esposito:Down Blue Marlin Road:☆☆★
   良く指の回るピアニストと、はたくようなスピードを持つベース/ドラムの対話はスリリング。
   フリーに行かず、ストレート・アヘッドながらBGMに留まらぬ。
   ヨーロッパ的な硬さを持ちつつ、性急なNYスタイルだ。
   ドラムとベースが隙を見ては自己主張し、ピアノは構わず弾き倒す。
   この強引っプリが魅力。音世界はどこまで行っても、破綻しない。

   NYのBs奏者が63年に吹き込んだ。これは蘭盤、ボートラに65年吹き込みの音源を1曲追加した。
272・Gerry Mulligan:Night Lights:☆☆☆★
   構成面で非常に力のこもった作品だ。6曲中マリガンの作品が3曲。
   1曲はショパンのプレリュードをマリガンがカバーした。
   タイトル曲は2バージョン。1曲はマリガンがピアノを、もう一曲は10人編成の弦をバックと変わり種。
   さらに後者のドラムはハル・ブレインとポップ寄りにもアピールする。
   バリサクのロマンティックな仕上がり、甘いアドリブをバッキングが着実に支える。
   特にジム・ホールのギターが格別な味わいだ。クールで滑らかなジャズを堪能できる一枚だ。

   独のジャズ・クインテットで2nd、05年の盤。2曲でMunich Jazz OrchestraのVoMerit Ostermannがゲスト参加した。
271・Hipnosis:Carrousel:
   クラブ系でも注目されたって記述が良くわかる。微妙にお洒落で破綻が無い。
   カッチリとタイトだが、どっか野暮ったい。そんなジャズ。リフをユニゾンで決めるときも、微妙にモサってる。
   指は回るがメロディよりフレーズ上下にこだわるピアノをシンプルなリズムが支える。
   彩りつけるのはホーン隊か。情感たっぷりの歌あり(1)で幕を開け、ストレートな
   モダン・スタイルで決めた(2)の流れが良い。ドラムがきっちり真面目なビートを固めた。
   モダンからフリーめいた曲まで幅広さが逆に小じんまりとした感あるが、メンバーそれぞれ提供曲がすべて
   色合い変わっており興味深かった。きっちりアレンジされたロマンティックな(5)が好み。ちなみにベーシストの曲。

   仏のポップ歌手で71年から活動してる。本盤はタイトル通り00年のライブ盤。
270・Jacques Higelin:Live 2000:☆☆☆★
   ギター、ピアノなど多彩な演奏しつつ唄った一枚。ダンディで、喉を絞るような声が特徴か。
   シアトリカルな曲想を堂々と歌い切るあたり、さすがのキャリアだ。
   吟遊詩人っぽいムードを弦を多用したアレンジで展開する。楽曲よりも歌手の存在感が滲む、実に渋い音楽が詰まった。
   10分くらいの長尺が、彼の魅力が良く生きるな。

   仏01年コンピで、仏でのファンクを集めた盤のようだ。公式PRページはこちら
269・V.A.:Funk De Luxe:☆☆
   少々賑やかなサウンドが多いけれど、BGMに良いかも。
   ある意味、雑種音楽がいっぱい。妙に軽いボトムの感じは時代、か。
   妙なフュージョン風味の音楽だ。ファンクどっぷりと思ったら、妙にエレガント。
   キメの多いインストがあるあたり、黒人音楽だけでなくプログレも選曲されてそう。
   ただでさえ見づらいライナー・デザインの上、仏語で全く歯が立たず。
   70年代の作品で13曲にミュージシャンのダブりはない。不勉強で知らない人ばかり。
   ちょっと検索したら、情報は出てくる。例えばEdition Speciale"Mr. Business"は仏DJの必須曲らしい。あんま好みじゃないけど。
   よく調べたら、意外に定番曲のコンピかもしれないな。

   06年にNYのCD屋"A-1 RECORDS"のバイヤーがミックスしたCD。
268・Citizen Kane:Adult Section:☆★
   全24曲。ボサノヴァ、AOR、フュージョンからテクノ系まで。無造作に楽曲がつながっていく。
   フロア対応と思えぬほどのどかな場面もあれば、きっちりビートが強調のときも。
   全般的にはリズムが明確に提示されているが。妙な浮遊感が味わいの盤。

   ノルウェー出身、初期Atomicのメンバー。本盤ではts/bs/flに加え、ループも使って
   一人多重の音像を構築するスタイル。11年に発表。
267・Hakon Kornstad:Symphonies In My Head:☆☆★
   初期Atomicのメンバー。タンギングやキー/タンポ・ノイズもまぜて一人多重ループ・アンサンブルを即興的に組み、
   そのトラック上でアドリブを取る。アドリブは切ないムードの旋律を使い、全体はノイジーな抽象性という両極を混ぜるスタイルだ。
   密やかなクールさを持ち、テンポ遅い曲でも奇妙な緊張感を感じさせた。
   繰り返しよりもとうとうと流れる物語を聴いてる気分になる。

   NY拠点のas奏者。本盤はJardi Gopalnath(as)を招いた双頭バンド編成。07年発売。
266・Rudresh Mahanthappa:Kinsmen:☆☆☆☆★
   インドのカルナータカ音楽ではベテランのAS奏者を招いた一枚。短いインタリュードを
   いくつかはさみつつ、根本はがっつり長尺のソロ合戦。
   ジャズの形式を取りつつ、グルーヴはインド寄り。だがインドの音楽とは全く違う。
   異文化の強靭な顎で咀嚼し、見事に昇華した独特のジャズが聴ける快作だ。

   伊ミラノのVln奏者が11年発表、生楽器の上にスムース・ジャズっぽく演奏らしい。
265・STEFANO ZENI:PASSAGGI CIRCOLARI:
   立ち位置が掴み兼ねるフュージョンだ。チェンバー的なアレンジだが、曲によっては
   ポップさやアンビエント風、ムーディっぽさとバラエティを狙った選曲群になっている。
   アンサンブルは整っており不安定な揺れはないので、きれいに聴きたい時に良いかも。

   94年録音の本盤は伊ミラノのレーベルから発表された、ギターとパーカッションの対話。
264・EUGENIO CATINA:Folias:
   最初はアコースティック感強く、しだいにMIDIを使ったシンセ・ギターの
   比率高まりスペイシーになっていく。耳ざわりは基本的に優しい。
   軽快でスリルが無い。フュージョン的な仕上がりで、BGMに良いかも。
   パーカッションはアフリカンなイメージだが粘っこさは無く、あくまで柔らかくギターへ絡む。
   合奏のダイナミズムより、ギターを彩る飾りとしてパーカッションは動いた。

2013年10月

2013/10/20   最近買ったCDをまとめて。

    芳垣安洋/水谷浩章/竹野昌邦を迎えバンド名義に向かったカルテットの1st、02年作。
263・南博:Go There!:☆☆☆☆
   今でこそ、の味わい深いアルバム。ジャズ史的には南や菊地や大友が、芳垣/水谷のリズム隊で
   順列組合せのごとく次々に、傑作を繰り出した嚆矢といえる。
   南のキャリア的には、格別のエレガンスに加え、本盤あたりからゴツッとした凄みを加えてきた。
   音楽的にははたき込むようなドラムをベースがグルーヴさせ、ピアノとホーンが歌う
   独特のサウンドを作り出した。正直、当時は本盤的なサウンドを上手く咀嚼できなかった。
   フリーやいわゆる中央線ジャズとも、アメリカ伝統のスイングやビバップやクールとも違う文脈だ。
   ストレート・アヘッドだが鋭さを持ち、親しみやすいが凛とした緊張もある。もちろんフュージョンやスムース・ジャズとも全く違うアプローチ。
   10年以上たった今、彼らは独自のサウンドを、本盤で噴出し始めたと実感する。いっさいの模索や試行錯誤無しに。
   ふわっとしたエコーがきらびやかさを演出する。美味しく、噛みしめられるジャズ。

   鈴木大介と鬼怒無月のユニットが08年リリース。2ndかな。カバーに加え、オリジナルも一曲づつあり。
262・The DUO:Cinema Voyage:☆☆☆
   ソロよりもサウンド全体の心地よさを味わう盤。メロディがしたたり落ちる。
   むしろBGMが似合う。ふと気づくと聴き覚えのある曲が耳に入る。
   気持ちを寄せるたびになじみ深い旋律が。そうこうしてるうちに、一枚が終わっている。 

   未聴だった。08年のアルバムで7th扱い、でいいのかな。
261・Rovo:NUOU:☆☆☆☆
   スタジオ作とし、がっつり盛り上げるパッケージの盤。ライブのカタルシスを録音で精密に追い込んだ。
   ミックス/マスタリングの勝利だ。ダビングを重ねた楽曲は、対話がそこかしこで聴こえる。
   二人のリズムがずれては寄せ、重なっては離れるのを筆頭に、フレーズが曲の中で
   楽器同士や場面そのものと浮かんでは揺れていく。
   各曲に10分ほどじっくりかけ物語を作る一方で、5曲でトータル的なメリハリも付けた。
   ベテランならではのしたたかさを、強烈に見せつけた一枚。
   シンバルの多重リズムが織りなすきらめきが、たまらない。

   エリントン楽曲をユニットで取り上げた"エッセンシャル・エリントン"、05年発売。
   渋谷/峰/松風/関島のカルテット編成に、ゲスト扱いで林速しと外山が参加した。
260・渋谷毅:Island Virgin:☆☆☆☆
   関口のtubaが温かく低音をふくらませ、外山のドラムは空気をワイルドにかき回す。
   フロントの管が奔放にアドリブを決め、ピアノが穏やかにまとめた。
   野太く分厚いアンサンブルが心地よい。まず和音、次にフレーズ。独特のムードだ。
   カッチリとアレンジされつつ、寛いだサウンドが同居するのが凄いとこ。

   ジャケ買い。アルゼンチンのピアノ・トリオで66年吹き込み。曲によって管が加わる。
259・Baby Lopez Furst Trio:Jazz Argentino:☆☆☆
   タッチは強く熱っぽいが、どこか洗練された面持ありなモダン・ジャズ。
   スイングしつつ、ぱあんと鍵盤を叩く瑞々しさが魅力だ。
   粗削りながらシャキッとしたドラムもいいな。ベースは着実にグルーヴさせる。
   メロディアスでロマンティックなジャズだ。録音が少々荒い。
   だが特に2管加わったリバーブたっぷりの(5)が絶妙だ。

   ダンドレアがピアノ・トリオ編成で92年発表の盤。カバー中心かな。
258・Franco D'Andrea/Giovanni Tommaso/Roberto Gatto:Airegin:☆☆☆
   思ったより音圧強い盤だ。スタンダードをおしゃれにきめて聴き手をひきつけつつ、
   しだいにオリジナルを含めた独自の世界へ向かう。
   ピアノは手数が多く鳴り、ドラムとベースはオーソドックス。
   噛みしめるほどに味わいが美味しい盤。

   03年発売のライブ盤からのプロモ盤。5曲入り。曲はすべて市販盤と同一。
257・Paul McCartney:Back In The World Live:☆★
   音楽はアルバムで聴けるため、グッズとしての価値のみ。ライブ演奏はタイトだし溌剌と思うが
   大幅にアレンジ替えは無いため、物足りなさも。ただしアップテンポの"Coming up"は単純にかっこいいな。

   67年にポールがテーマ曲"Love In The Open Air"を作り、ジョージ・マーティンが
   オーケストレーションを施したサントラ盤。これは11年の再発盤でボートラに
   当時のシングル音源も収録。オリジナル・マスターからリイシュー、が売りだった。
256・Paul McCartney:The Family Way:
   バロック的なライト・クラシックとサイケ・ロックの二極に振られたアレンジだ。
   楽曲やアレンジはあっさり。切ないメロディを提供したポールと、それをサントラに
   仕上げたジョージの空気感を味わう作品。

   93年の傑作"Off the ground"の2ndシングル。CDシングルは2種類出たが
   本盤は4曲入りのほう。タイトル曲以外の3曲は、当時アルバム未収録だった。
255・Paul McCartney & Wings:C'mon People:☆★
   上手いことロック調にアレンジだが、本質はポールらしい説教バラードなんだな、とタイトル曲聴いて改めて思う。
   カップリング曲は弾き語り小品っぽい小粋な(2)。カントリー・ロックに仕上げ、サビがキャッチーだ。
   (3)は場面が変わってくパッチワークみたいな曲。ちょっとけだるげ。
   (4)はバスキング風の寛いだムード。セッションっぽい。だがサビのメロディはさすがにポール節。
   ともすれば退屈気味な曲群を、どれもドラミングのうまさで見事にロック・バンドしてる。
   やはりウイングスよりぼくは、この時期のポール・バンドが好きだ。

   2010年にビーチ・ボーイズのアル・ジャーディンが発表したソロ。BB5のメンバー以外に
   ニール・ヤング、デヴィッド・クロスビーらも参加した。
   これは"Waves of Love"、"Sloop John B"のボートラ2曲入り。
254・Al Jardine:A Postcard From California:☆☆☆★
   ベテランの手すさびアルバムではあるけれど。参加メンバーはさすがニクいところを突いてくる。
   ゲスト・ボーカルはBB5関連からグレン・キャンベル、カールにブライアン。マイクにブルース・ジョンストンの名も。
   友達としデヴィッド・クロスビーやニール・ヤングなどだ。演奏は生演奏も生かしてる。しょぼいシンセの弦もご愛嬌だろ。
   楽曲はアルのオリジナルがほとんど。BB5のカバーもあるが、安易な懐メロに流れぬ点は良し。
   手堅くハーモニー強調の爽やかなアルバムで、アルの底力を十分に楽しめた盤だ。
   むやみに我を出さず、ゲストに埋もれない。目を見張る新奇性を狙わず、ポップさは外さない。
   (9)、(11)など名曲もあり。

2013/10/14  最近買ったCDをまとめて。

   二年半ぶりのシングルは、映画とドラマの主題歌("コンポジション")を収めた。
253・山下達郎:光と君へのレクイエム:☆☆☆☆★
   橋本茂昭をオペレータに、双方とも達郎の多重録音。打ち込みビートが甘くにじむ、独特のふくよかさを
   楽しめる二曲に仕上がった。(1)はハーモニー多めだがあくまでさり気なく響いた。
   "Wouldn't~"のあと出る声が、急にドライな感じなるアレンジも良い。
   カラオケ聴くと凝った構成が伺える。小刻みに畳み掛けるキックの軽やかなノリが気持ちいい。
   バラードの(2)はエコー成分をバッサリ切り捨て、生々しい歌声が楽しめる。
   改めて思うが、達郎の最近の楽曲はどれもリズム楽器の音色がキュートで素敵だ。リズム・パターンが
   多層的で、個々はシンプルでもまとまると輻輳するノリがグルーヴを産む。
   双方とも内省的な楽曲だ。この楽想でアルバムにまとまる日が楽しみ。

   27thシングルで07年"はっきりもっと勇敢になって"以来。新曲2曲が入った。
252・岡村靖幸:ビバナミダ:

   ロシアのバイオリニストと共演で12年12月4日にモスクワで録音された。
251・Alexei Aigui+太田恵資:Caprice Portament Island:☆☆☆☆
   左が太田で右がアイギかな。アコースティックのみと太田はストイックなアプローチ。
   太田は(7)で一言、つぶやいて(8)でアラビックな喉を響かせる。甘さやユーモアは敢えて秘め、
   淡々と美しいインプロが続く構成だ。けれんみや計算は何もなし。
   音は全く止まず、次々にあふれ出る。リズムもビートも無く、オスティナートへ
   即興が被る。ミニマルさとメロディを行き来する流れで。どちらかが主導権、でなくフラットな立ち位置の演奏だ。

   上記のアレクセイの作品で08年発表。英の劇作家Patrick Marberの同名ドラマ音楽らしい。
   ソロ名義だが演奏は彼のユニット、4'33"による。
250・Alexei Aigui:The Closer:☆☆☆
   端正な弦楽アンサンブル。どこかリズミカルなくっきりしたメロディが特徴だ。
   即興でなく譜面か。隅々まで破綻無い綺麗な世界が提示された。

   ドイツの作曲家/ピアニストと共演名義で、ゲストを招き、15世紀~現代曲までの
   クラシック室内楽を演奏か。2012年の発表。
249・Alexei Aigui+Dietmar Bonnen:Anonymous:☆☆☆
   アレンジ盤とは思えぬ多彩な仕上がり。即興とも伴奏ともつかぬ、自由なバランス感でバイオリンが
   踊り、鍵盤はピアノにこだわらず、さまざまな楽器を使い分け大きなスケールを演出した。
   トラッド的なアプローチをとりつつ、ムードはクラシカル。きちんと背筋が伸びた感じ。
   真面目で、その上にゲストも多数招いて堅苦しさはなくしてる。咀嚼するほどに味わい増える。

   アレクセイのユニットが04~05年のライブを集めて、05年に発表。
   千枚限定でDVD付verもあり。DVDボートラでザッパの"The Sheik Yerbouti Tango"をカバーした。
   本盤はCDのみ。11曲中6曲を、既発3枚のCDから選曲。残る5曲が本盤初録音、すべてライブ音源だ。
248・Ensemble 4'33":Live @ Loft:☆☆☆★
   05/4/1のライブが基本で、(2),(3)のみ04/9/27の音源。場所はどちらもケルンの"Loft"にて。
   7人編成でギター以外はすべて生楽器。ホーン主体のアンサンブルだが
   ソロ回しよりチェンバー的なアプローチが目立った。かっちりアレンジされている。
   ロシア流の抒情性はあるが、全体的にクールな印象だ。無駄や中途半端を省き
   丁寧なスリルを感じる。夾雑物を廃しつつも、前のめりなアグレッシブさは失ってない。
   毒気を抜いた疾走感が味わいで、無骨さが色合い。バルカン的な臭いも感じた。
   ジャズ風のグルーヴやロック的な無機質さは希薄。

   モスクワ室内オーケストラとの共演を含む、12年の作品。作曲はすべてアレクセイの自作。
247・Ensemble 4'33":Hard Disc:☆☆★
   端整かつシンフォニックな構成で破綻無く奏でられるサウンドは、大きな組曲のよう。
   クラシックよりもプログレ寄り。綺麗な演奏だな。強くうねるスリリングな流れが全編を覆う。

   68年仏ポップスで、当時の米ソフト・ロックに影響受けた盤らしい。00年再発、ボートラ3曲入り。
246・Margo Guryan:Take A Picture:☆☆☆★
   Spanky & Our Gang"SUNDAY MORNING"の作者だったか。自演版でアルバムの幕を開ける。
   ゆっくり迫るノリのメロディが魅力。アイドルっぽいウィスパー・ボイスがキュートに響く。
   数曲でダブル・トラックあるが、コーラスよりSSW的なアプローチを取った。
   バッキングは誰だろう。流麗なベースと、無骨なドラムをガッサリした弦などが飾る。
   "ペット・サウンズ"のルール気にせぬ自由さに影響受けたか。整ってるが、
   エンディングの形やアレンジの構成で、所々に妙な詰めの甘さを感じた。
   全般的には、聴きやすく穏やかサイケの素敵な作品だ。

2013年9月

2013/9/26   注文したCDが到着。

   GbVのキーメンバー、トビンが2010年に自主制作盤。
245・Tobin Sprout:The Bluebirds Of Happiness Tried To Land On My Shoulder:☆☆☆☆
   甘酸っぱいメロディとポップなアレンジ、ざらついたノリの三拍子そろった傑作アルバム。
   ほぼすべての演奏を多重録音したサウンドは、手作り感満載なうえに
   独特の流れを作ってる。キーボードを上手く使った、煌めきっぷりが愛おしい。

2013/9/23   注文したCDが到着。

   渋谷慶一郎とコラボした、ミニアルバムで2010年発売。。
244・相対性理論+:渋谷慶一郎:アワーミュージック:☆☆
   渋谷慶一郎のピアノソロ"ATAK015 for maria"収録曲,"our music"と"sky riders"のバンド篇とp&vo篇を収録。
   さらに同盤収録"Blue"やくしまると渋谷、Hildur Guonadottir(vc)のアレンジ、それぞれの曲の
   リミックスを収録したマキシ・シングル。
   どのアレンジでもやくしまるが色を塗りつぶす強烈な個性を漂わせつつもバンドというより
   打ち込みっぽさが先に立つアレンジは、明確に相対性理論と一味違う。
   強烈にオンマイク、ブレスが耳ざわりなほど。これは敢えて、のプロデュースだろうなあ。
   ぺたりと床へ沈む、しっとりした世界が狙いか。アルバム楽曲の色合いがバラエティに
   富んだだけに、アンビエントなBGMにはちと似合わず。

   内外の先鋭ベテラン勢がミックスした11年の編集盤。やくしまるはオヤジ殺しだ。
243・相対性理論:正しい相対性理論:☆☆★
   やくしまるの声をダーク・アンビエント気味にアレンジした楽曲が多かった。
   新曲はあまり目立たず。淡々と沈鬱な響きをどこまで楽しめるか、だが
   バラエティ富んではいる。独自の世界をあっさりと描いた坂本龍一の手腕が凄い。
   コード進行でイメージをガラリ変えたコーネリアスも耳に残る。菊地やアート・リンゼイ、
   フェネスは自分の世界観へグッと引き寄せ、大友やスチャダラ、鈴木慶一は素材と
   彼女の声をとらえてる印象を受けた。

2013/9/21   最近買ったCDをまとめて。ほぼすべてがジャケか表記で買い。
   
   "六大"以外にシンセ・ソロあるとは知らなかった。89年の録音。
242・菊地雅章:オーロラ:☆☆☆★
   絶妙なジャズ・アンビエント。すべて手弾きと思うが、メカニカルな小走りフレーズが
   淡々と走り、人間臭さが全くない。高音と低音、エレピ一台で弾いてるかのよう。
   クレジットによれば数年かけた録音のようだが、全4曲どれも同じテイストだ。
   時折聴こえる、ごくミニマルな呟きみたいな電子音が飾るサウンドは、
   無機質なのに生々しく、メカニカルで血の通った感じがする。
   不思議なスリルに満ちた作品。なまじのエレクトロニカより燃える。

   バルトーク本人の演奏も含む、50年代の音源を中心に集めた廉価版10枚組Box。
241・Béla Bartók:Classicist of the modern age:☆☆☆☆
   古い録音ゆえのエッジが甘いところは有るものの、バルトーク本人の演奏も含めて
   貴重かつ当時の雰囲気を手軽に味わえる意味で良質なボックス。
   もちろん廉価でCD10枚分のバルトーク作に触れられることもポイント高い。

disc 1 ☆☆★
   "管弦楽のための協奏曲"(1943)を収録。ラファエル・クーベリック指揮ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団で1959年の演奏だ。
   第一楽章の激しい咆哮でいきなり熱く燃え、最後まで疾走する。

disc 2 ☆☆★
   "弦楽器と打楽器とチェレスタのための音楽"(1936)と"舞踏組曲"(1923)を収録した。
   前者はフリチャイ・フェレンツ指揮で52年、後者はイーゴリ・マルケヴィチ指揮の54年録音だ。
   "弦チェレ"はぴいんと張りつめた緊迫感が心地良い。引き絞るようにじわじわと音楽が進んでいく。
   シャキシャキしつつ、弦のピチカートが甘く響く対比も素敵だ。
   後者は温かい甘さと、ざくっと鋭い勢いが同居のメリハリが利いている。
   がっぷりマルッと突き進むダイナミックさが魅力だ。

disc 3 ☆☆☆
   "ピアノとオーケストラのためのラプソディ"(弦楽版)と"2台のピアノと打楽器のためのソナタ"を収録。
   前者は51年の録音でハンガリーのAndor Foldes(p)、指揮はフリッチャイ。
   後者は40年の録音、バルトークがピアノ演奏もした。共演者は妻Ditta(p)とハリー・ベイカー、エドワード・ラブサンが打楽器。
   "ピアノ~ラプソディ"は昔の録音ゆえの劣化で詰まった感あるも、滲むスリルは健在だ。
   じわじわっと弦が温かく支える一方で、ピアノが強く叩かれ続けた。
   ゆったりテンポのところは、間が妙に柔らかくてユーモアを感じる。
   エンディングの硬質な盛り上がりは至極まっとうで、古典的な響き。
   後者はぐっと前衛的。詰まった響きの和音と炸裂するパーカッションで、いきなり緊張する。
   楽曲の構成うんぬんより、これはもう響きだ。でもノイジーさは無い。跳ねる、跳ねる。インパクトある曲だ。

disc 4 ☆☆☆★
   ピアノ協奏曲 2番(Sz.95)と3番(Sz. 119)を収録。両方とも53年の録音で、
   奏者は前者がアンダ・ゲーザ(p)とフリッチャイ指揮で、当時主席を務めたRIAS交響楽団にて。
   後者がジュリアス・カッチェン。(p)とアンセルメ指揮と、彼が創設したスイス・ロマンド管弦楽団による。
   2番は1楽章で管のみ、2楽章で弦のみの凝った楽想で、パーカッシブな響きが特徴。
   二楽章で密やかに抒情を増し、3楽章で炸裂する勇ましい曲だ。
   3番はザッパ88年でカバーされたピアノのソロが幕開け。滑らかな愛おしさが、より増した。
   スピーディにメロディが疾走する。
   双方とも古い録音ゆえの詰まった感じが残念だが、スリリングな名演と思う。

disc 5 ☆☆☆☆
   全て54年録音の弦楽四重奏で、第二番(1917年)、第三番(1927年)、第四番(1928年)を収録した。
   オドロオドロしい凄みの強調とともに、行き過ぎた情感を逆にそぎ落とす。古い演奏ならではのフィルターがかかって聴こえた。
   つかみどころ無い幻想的だが硬質な世界に浸れる一枚。

disc 6 ☆☆☆★
   ディヴェルティメントSz.113(1953年録音)と無伴奏ヴァイオリン・ソナタ Sz.117(1947年録音)を収録。
   後者は献呈されたメニューヒン自身の演奏による。
   前者は緊迫したシーンが間をおかず繰り出され続け、第一楽章の後半で急に牧歌的に弛緩する瞬間が聴きどころ。
   さらに第二楽章は地を這う旋律のスリルが継続した。第三楽章のザクザク刻む弦の迫力もすごい。
   後者は凛とした複弦音が沁みる一曲。第二楽章のハーモニクスっぽい響きは譜面か。
   ピチカートが淡々と鳴る。

disc 7 ☆☆☆★
   本盤は"ミクロコスモス"抜粋で後半曲を並べた。ユニークなのは奏者を変えて同じ楽曲を
   複数回収録したところ。38トラック中31トラックがバルトークの自演で40年の録音。
   ここへジュリアス・カッチェンの52年演奏で後半7曲を収める(140,144,147-149,151,153)。この7曲をバルトーク版と聴き比べの趣向だ。
   バルトーク版は音質劣化でヒスや割れも頻繁だが、歴史的自演の観点で貴重な音源。
   バルトークは肩の力を抜き妙な揺らしを入れず、メカニカルに淡々と弾いてる印象だ。
   カッチェンのほうも音がビビり気味の音質な録音が残念。いくぶん溌剌と、跳ねるタッチで表現した。

disc 8 ☆☆☆★
   53年録音のVln協奏曲2番(Vlnはメニューヒン)と59年録音の"管弦楽のための2つの肖像"(Vlnはスタリック)を収録。
   派手でロマンティックでほんのり野暮ったい。だが性急で尖ったバルトークならではの楽曲だ。
   前者はダイナミックさが目立ち、後者の作品はしっとりと弦が滴る印象を受けた。
   滑らかで穏やかな楽想が心地よい。

disc 9☆☆☆
   アンダ・ゲーザ(p)"子供のために"(1954年録音)と、Cl/vln/p三重奏曲"コントラスツ"(1940年録音)を収録した。
   後者はベニー・グッドマン(cl)、ヨーゼフ・シゲティ(vln)とバルトーク自身のピアノ。初演時の録音か。
   前者は冷静でシンプルな印象をまず受けた。コンパクトに次々と曲が進み
   あっさりとした感じ。曲が進むにつれ影をまとった深みも漂わせる。
   演奏はダイナミズムの大きさに迫力あり。ボリュームあげて聴きたい。
   後者はジャズよりも幻想的でクラシカルな響きが先に立つ。"子供のために"とは逆に
   ストーリー性を感じさせつつ大陸の雄大さを混ぜたドラマティックな仕上がりだ。
   録音は少々高音がこもるけれど、溌剌としたクラとバイオリンの響きが良い。ピアノは一歩引いた感じする。

Disc 10 ☆☆☆
   唯一のオペラ作品"青ひげ公の城"で58年、フリッチャイの指揮。
   青ひげをフィッシャー=ディースカウ、ユディットをヘルタ・テッパーが歌った音源。
   ダイナミックで力強い。楽曲も断片的なメロディの背後でぐわっと盛り上がる、しぶとい脈動を感じた。

   2枚組12年の盤で、ペンデレツキが指揮もした2枚組の作品集。
240・Krzysztof Penderecki: Polish Radio National Symphony Orchestra, Krakow Philharmonic Chorus:Penderecki: Orchestral Works:☆☆☆★
   この歳になってようやくクラスターや不安げな現代音楽の響きを「良いねえ」と
   分かったふり出来るような気がする。くそまじめに響く展開や硬質な鳴り、
   情感を排除した旋律から浮かび上がる緊迫と弛緩。かっちり演奏ゆえの
   透徹さが魅力か。まとめて聴くと、決して聴きやすい音ではないが、じわっと来るものを感じた気がする。
   選曲は当時の器楽曲をほぼ網羅。ほとんどが76年前後の録音で、時代の空気をCD2枚へ見事に収めた良コンピだ。
   収録曲は以下。
   Disc1が"アナクラシス"(1959)、"広島の犠牲者に捧げる哀歌"(1959)、"フォノグラミ"(1973)"、"デ・ナトゥーラ・ソノリス第1番"(1966)
   "奇想曲"(1967)、"合唱曲『ソロモンの雅歌』"(1970-73)、"デ・ナトゥーラ・ソノリス第2番"(1971)、"ヤコブ目覚めし時..."(1974)。
   Disc2は"放射"(1959)、"パルティータ"(1971)、"チェロ協奏曲第1番"(1972)、"交響曲第1番"(1973)、"3つの小品:cl,pf"(1956)。

   M-BASE一派、コールマンやオズビーのユニットが89年に発表の1st。
239・Strata Institute:Cipher Syntax:☆☆☆★
   今の耳では"当時の先鋭性"より、尖りの鈍り具合が聴くポイントとなる。
   その点で本盤は水準をクリア。フュージョンを消化しジャズへ回帰させた視点は今でも有効だ。
   不安定なビートをタイトに連続させ、複雑なフレーズをめまぐるしく連発する。
   イントロと逆にアドリブが昔ながらのジャズ方法な場面はいまいちだが、
   ユニゾンでフレーズ疾走などは今もスリリング。安定を捨てグルーヴを生かし、
   スイングを薄めることで、ダンサブルさより腕組みして聴く志向を感じた。

   アトランタ出身のスコット・ヘレンによるエレクトロニカ・ユニット。二枚組で07年に発表された。
238・Prefuse 73:Preparations & Interregnums :☆☆☆★
   音遊びが楽しめる一枚。Disc1はヒップホップやエレクトロニカをベースだが
   一筋縄で行かぬビート感が楽しい。フロアと部屋の双方で成立する、凝りながらリズムを失わぬサウンドだ。
   ループに留まらず変貌し、心地良さを保ちつつ先鋭感はしっかりあり。
   Disc2は一転、生楽器オーケストレーションの連続。
   だが所々のDJ的展開や密やかに停滞するムードが、単なるアンビエントと一線を画した。
   このジャンルは全く知らなかったが、聴かなかったことを悔やめる。つまりさらに楽しめるってことだ。

   今は亡き英サイケトランス・レーベルの02年コンピ。
237・V.A:Inca-Nations:☆☆★
   ひさびさに聴くと上がるなあ。サイケトランスがてんこ盛り。若手のコンピかな。
   強烈ビート一直線から妙にノイジーなモノ、バリバリに回転や音色変えたDJmix風など
   バリエーションが予想以上に多彩だった。>

   エレクトロニカ。鶴見健太のソロ・プロジェクトで08年の発売。
236・Tree River:Over There:☆☆★
   ラップトップとギターのアンビエント。だが単なる安寧に満足せずノイジーでざらついた、
   綱渡りのバランス感覚を演出した。フロアより陽のあたる外で、ゆったり聴きたい盤。
   メカニカルな音の連なりで妙にアコースティックな香りを漂わした。
   ループはいつしか変貌し、ビートはフレーズの連なりで表現する。
   コンパクトにまとまったサウンドは綺麗な音のすぐ横にノイズをかぶせ、
   一筋縄で行かぬ世界を表現した。2013年現在、続報は見当たらず。コツコツと
   作品造り続けてるといいな。不安定と無造作こそが世界って視点で。

   PASTELSのメンバーらしい。07年の2ndソロ。生楽器のブレイクビーツかな。
235・Pedro:You, Me & Everyone:☆☆
   リズムの遊びが楽しい一枚。冒頭のつんのめるビート感で幕を開け、フリージャズ風ダブに。
   アナログシンセっぽい混沌シンプルとフリージャズの無秩序が、すこんと抜けた
   ビートで統合される。ダンス性から軸をわずかにずらし、刺激的なBGMなイメージだ。

   ノルウェーのSax奏者の96年ソロ。トータルアルバムっぽいつくりか。
234・Karl Seglem:Sogn-A-Song:
   ノルウェー西部の古楽をベースに作った楽曲で、ジャズと言うには整いすぎ。BGMに良い。
   アドリブはあるが、ケニー・Gとかフュージョンを連想した。ゆったり切ないメロディを、かっちり
   コントロールされたアンサンブルで奏でた。耳ざわりは良いし、エキゾティックな
   スリルも味わえる。だが、ぼくの好みとかなり違う。
   後半にノイジーな音を上手く取り入れたり、面白いこともやってるが。

   インド女性歌手ショバ・グルトゥが90年に発表。なぜかジャズの棚にあった。
   バッキングもハルモニウムとサーランギにタブラとインド音楽のようだが。
233・Shobha Gurtu:Shobha Gurtu:☆☆★
   確かにジャズ・ボーカルめいたアルバムだ。本盤が彼女の西洋デビュー盤だという。
   伝統曲1曲、ラーガに歌詞をつけたのが3曲。あまり癖のない歌い方で素直に聴けた。
   基本は滔々と流れる節回しをエキゾティック・アンビエント風に楽しんでしまったが
   ところどころの器楽部分で聴けるスピーディなソロも良い。
   録音は印ボンベイ。そのせいかボーカルがやたら前に出るミックスで器楽は
   背景の一つに溶け込んでいる。どうせなら、ぐっと楽器も前に出してほしい気も。

   ユゼフ・ラティーフが00年発表の作品。共演者は多数の楽器がクレジットされており、多重録音かも。
   いちおうユゼフのサックスにper,g,dsのコンボ編成か。ユゼフの自主レーベルYALから。
232・Yusef Lateef:A Gift:<☆★
   イメージより抽象的なフリージャズだった。ドラムはビートよりも無造作に叩く場面が多く、
   ギタリストもシンセを混ぜて不穏な空気を作る。そこへユゼフのソロが
   奔放に切り込む感じ。ソロ回しより主役をユゼフときっちり立てた。
   全13曲、場面がばらけるのは有難い。あまり薦めにくい、ユゼフの趣味炸裂な盤だ。
   (7)みたいに三人の呼吸が合うと、極上のフリーになるんだが。/p>

   47年マサチューセッツ州出身のsax奏者が95年に発売。ジャケ裏に
   「スタジオでノンストップに2chで録音」のラフさに惹かれて手に取った。
231・Greg Abate:My Buddy:
   妙に素人くさい盤だ。歌ありスイング有りモダン有、ムーディ・ジャズ有。
   幅広い曲調を一日で録音って、腕に覚えあるみんなが一気にスタジオへ雪崩れたのでは。
   ドラムはスタジオ・ミュージシャンらしいが。アップテンポで強烈に
   アンサンブルへ違和感あり。ずれてるのか、揺れてるのか。
   ピアノとテナーのデュオが一番、安定してる。(9)がベタだけど綺麗だった。

   アフリカ人のビッグバンド編成かな。90年の英盤、委細不明。
230・African Jazz Pioneers:African Jazz Pioneers:☆☆☆★
   同名バンドの再結成アルバム、らしい。
   するめみたいなジャズ・バンド。アフリカンな香りを魅せつつ、整ったジャズ編成は
   南アの文化特異性かと思った。だがカッチリ刻み続けるドラムの奥で
   ベースはグルーヴィにフレーズを遊ばせる。この強固で自由なノリが
   独特の爽快なムードを表現した。上物のソロ・フレーズでなくアンサンブル、特に低音が肝だ。
   この辺が白人文化に取り込まれぬしたたかさを伺わせる。
   上ずるような高音の響きも、独特だな。パターン一発で一曲を十二分に持たせ心地良い。

   ダンドレア(p)がコンボ編成で97年に録音、伊S.I.A.Eより発表した。
299・Franco D'Andrea Quartet:Jobim:☆☆☆★
   ジャケにメンバー記載の無い大雑把さ。Andrea Ayace Ayassot(as)、Aldo Mella(b),Alex Rolle(ds)が
   サイドメンらしい。ジョビン曲集でボサノヴァ要素を漂わせつつ
   自由なビートとグルーヴ感をまとわせる、非常に捻ったコンセプトだ。
   ピアノが主役だがふんだんにサイドメンへ見せ場を与える。均一ビートや
   パターンを外したリズムに、フリー要素をそこかしこに漂わすアドリブ・ソロ。
   奇妙で小粋さを突き抜けたアレンジが素晴らしく面白い。

   リーダーのジム・アルフレッドソンはハモンドB3を演奏。今の時代にどんな
   クラブジャズだろう、と期待で購入した。ジャムバンドかも。05年の盤。
298・Organissimo:This Is The Place:
   オルガンジャズはスモーキー、って先入観を外さねば。本盤はクリアな録音でクールに
   演奏を決めている。基本、3ピースのシンプルさ。ギターも明るい音色できざに極めた。
   (3)でドラマーがハーモニカと両方演奏してる部分はダビングか。
   アップテンポの曲でもグルーヴィさは控え、じっくり聴かす印象あり。なぜだろう。
   熱さよりテクニックの丁寧さが先に立つ。ジャム・バンド的なたるっとした空気も薄い。
   ベストは浮遊感が心地よい(7)。ザッパ"Peaches en regalia"のカバーは、この編成だと音圧が薄い。

   白人奏者だが演奏楽器がストリッチ、マンゼロ、コンノ・オ・サックス。
   カークのフォロワーかな。面白そう。ピアノレスで管とb,dsのみ。
297・Michael Marcus:Here At!:☆☆
   サイドメンはベテランぞろい。テッド・ダニエル(tp)、スティーヴ・スウェル(tb)、フレッド・ホプキンス(b),ウィリアム・パーカー(b),
   デニス・チャールズ(ds)、サディク・アブドゥ・シャヒッド(ds)。
   大勢の即興は一曲のみ、あとはトリオかカルテット編成だ。
   詳細不明だが、ベテランとさまざまな即興を楽しんだ一枚、か。楽曲はすべてマイケルのオリジナル。
   特殊なサックス系楽器を使ってるが、変に構えず楽器を素直に演奏してる。
   性急なフリーがほとんど。あまりゆとりはないが、いわゆるフリージャズのスリルを味わうには良いかも。

   名盤の評判名高いが、未聴でした。62/63年の録音で、ベースはチャック・イスラエル。
   三日間のセッションでまとめ、アップテンポはアルバム"How My Heart Sings!"にまとめた。
   (5)を62/5/17に録り、5/29で(1),(8)をOKテイク、さらに6/2セッションで残る曲を吹きこむ。
   意外に手間をかけている。新ベーシストとの呼吸を探りつつセッションを重ねたのかも。
296・Bill Evans Trio:Moonbeams:☆☆☆☆☆
   何が違うのか。オーソドックスなピアノ・トリオと思わせつつ、いつの間にか
   フレーズに弾きこまれていく。はたき込むスティック使いのドラムと、
   無造作に低音が躍るベース。ピアノは優しさと強さを併せ、丁寧に鍵盤を叩く。
   センチメンタルにピアノが軽く盛り上がる瞬間がグッとくる(2)、(4)の
   小粋なスイング感もたまらない。聴きどころいっぱいのバラード集だ。鮮烈だが、親しみやすい。

   00年ボストン録音の本盤は、ピアノとテルミンと声とバイオリン、perの競演。なんだこりゃ。
295・Dan DeChellis:Chamber Music:
   これは、解説のいるフリージャズだ。ぼくは真意をつかめない。
   ノービートで抽象。ピアノがリーダーだが流れを作るでもなく、淡々と
   個々のミュージシャンが音を重ねていく。寄り添わず、ひそやかに表れる長尺作品は
   グルーヴと別ベクトル。現場にいるか狙いが分かれば、聴きどころわかるかもしれない。
   ぼおっと聴いていると、この不安定かつ危うい響きに、胸が不安でむずむずする。
   こういう感情を呼び起こす意味では、面白いアンサンブルだ。

   独のds奏者らしい。03年発売で、Wave drumのソロのようだ。
294・Christoph Haberer:And What About ... Time?:☆☆☆★
   MIDI制御のフレーズをドラムと同期か。ジャストで小気味よく、テクニカルかつ抽象的な
   ビート感がかっこいい。フュージョンっぽい音作りだがリズム・パターンは鋭く
   刺激的だ。無機質に向かわず、どこかポップなサウンドはテクノにも通じる。
   シンフォニックなアプローチだがソロ演奏ゆえの小規模さは常にあり。

   オランダのエレクトロニクス奏者のソロ。93年発売でジャズ寄りかな?
293・Gray Matter:Gene Carl:☆☆
   現代音楽寄りの盤だった。ピアノ独奏が基本コンセプトで、抽象的だがあまり激しく無く、
   断片的なメロディがひたひたっと流れる。メロディより響きや譜割そのものにこだわってる印象だ。
   (6)がシンセ。楽想は変わらずとも、電子音だと急に親しみ安さとポップさが増すのが不思議。
   ただ、ちょっと単調かな。最後のMIDI曲がメカニカルなだけに、テクノとし聴けるかも。
   だがアルバム全体だと現代クラシックから電子音楽まで幅広いだけに、少々散漫さもあり。

   カナダ発のエレクトロニカ。03年の2nd。
292・Manitoba:Up In Flames:☆☆★
   ジャストのビートでサイケ・ポップのインストを並べる。BPMは一定でも
   つんのめるビート感の曲もあり、楽しい。リズムがくっきりなのでチルには向かないが
   楽曲のムードは華やかで穏やかさを狙ったもの。聴く場面に困るが、
   個々のトラックは凝ったつくりでソフト・ポップな展開もいっぱい。
   良くできたエレクトロニカだ。

   米のエレクトロニカだそう。SSW要素もあるかな。11年の3rd。
291・Owl City:All Things Bright And Beautiful:
   ミネソタ州の片田舎で録音なアダム・ヤングのソロ・プロジェクト。録音も彼自身だが、単なる密室多重録音に陥らずがセンスか。
   他の州からもゲストを招き、バラエティに富んだ楽曲を並べた。が。
   正直、器用貧乏な印象あるのと、根本的にリズム感が無い。いや、むしろ今の流行りか。
   べたっとジャストに鳴りまくる打ち込みドラムとキーボード主体のアレンジは正直うんざり。
   カントリーやゴスペル、ポップスにヒップホップまで目配りするアレンジ力ならむしろ、アコースティック寄りを望みたい。
   楽曲を聴く限りヒットチャート狙いなので無理かなあ。

   ノイズかな、と適当にジャケ買いしたがシカゴのポップ・ロックらしい。10年の盤。
290・Am Taxi:We Don't Stand A Chance:☆☆☆
   良くできてる。この手のサウンドは食傷気味なため、どうしても上から目線になってしまうが。
   シカゴ拠点バンドの3rdな本作は、パワフルでアリーナクラスでも映えそう。
   アコースティック感を混ぜ、カントリー風味を多分に混ぜたロックだ。ブルーズと、ちと違う。
   キーボードが良い感じで軽やかなムードを足しこみ、しゃがれ声の歌が力強く吼えた。
   メロディもキャッチーでアンサンブルもしっかりしてる。ライブで力を魅せつつ
   曲としても聴かせる。ぱっと聞き流すつもりが、結局最後まで聴いていた。

   Rhinoを牽引したサイケのコンピ集で87年発売。多分、未聴。当時はなかなか聞けなかった音源ばかり。
289・V.A.:more Nuggets vol.2:☆☆
   昔の音楽雑誌を見てる気分。サイケとソフトロックをごちゃまぜな選曲も
   アメリカで二種類がほぼ同一に語られてた証しだろう。
   この大雑把さと上ずるシンセの響きが古臭くて、かっこいい。埋もれても映え、良くても埋もれる曲がある。
   (15)のディラン・フォロワーっぷりにびっくり。

2013/9/12  最近買ったCDをまとめて。

   未聴だった。相対性理論のやくしまるが2010年に発表のシングル。タイトル曲はアニメ『荒川アンダーザブリッジ』OP。
288・やくしまるえつこ:ヴィーナスとジーザス:☆☆★
   三種類のアプローチを纏めた一枚。(1)は平歌を相対性っぽくサビできっちりアレンジのポップス。
   (2)はむしろ素材をやくしまるにして、ポップスにはめ込んだ。
   (3)はテクノ要素を強め、やくしまるとの相性を見た。ある意味、ノーエコーのウィスパー
   一発で、やくしまる色が出て凄い。その割に本人のアグレッシブさが前に
   出づらいゆえに、どうしてもプロデュースされたって印象が先に立つ。
   楽曲的には(1)が面白かった。(3)も良いが、彼女である必然性は薄い。

   イクエ・モリ(perc)、ブッチ・モリス(cornet)、E#(g, ss)と共演した、90年アメリカのライブ音源。
287・吉沢元治:Gobbledygook:☆☆☆★
   90年の三種類のセッションから抜粋した音源。イクエと3曲、モリス/シャープと日を変えて計5曲を収めた。
   吉沢の突き抜けた即興性を共演者が素直に受け止め、むやみに
   寄り添わぬクールなインプロが溶出している。音だけで分かりにくくはあるが、
   非常に貴重な作品だ。老成した吉沢はまとわりつかず淡々と音を刻む。
   (6)の15分以上もの長尺な混沌さが美しい。
   ビートやフレーズから解放された音像は頭でっかちに陥りがちだが、本盤では奇妙なユーモアや余裕とともに
   NY流の性急な疾走と渇望さを上手いこと、吉沢のベースが突き放した。日常性をはぎ取られた音たちは
   自由奔放に蠢く。都会の無秩序さを封じた本作は、20年以上たった今でも刺激的に響く。

   これも未聴だった。コステロとアランの共演盤で、06年発売。
286・Elvis Costello & Allen Toussaint:The River In Reverse:☆☆☆
   コラボのイメージあるが、実際には鍵盤をスティーブ・ナイーヴにまかせ、
   ホーン隊がアランの部隊。つまり外枠はアランの要素を取り入れつつ、軸の部分は
   手慣れた自らのサウンドを譲らない、ちょっと首をかしげるアレンジだ。
   楽曲のコード進行も時に複雑。コステロのアルバムとして楽しめるが、植民地的なアプローチはなんだかなあ。

   島裕介 (tp),と伊藤志宏 (p)のデュオで06年発表の1st。予備知識なし。
   FujiRock07のAvalonでトリを務めたふたりらしい。
285・Shima & Shikou DUO:雨の246:☆☆
   アプローチはストレート・アヘッド。だがセンチメンタルさに大幅に軸足置いた
   ジャズが彼らの特徴か。芯の太いピアノにか細くペットが絡む。アルバム全体は
   バラエティに富んだつくり。手作り感あふれる仕上がりだ。

   米のperと弦のインプロ2枚組。00年に発表された。
284・Richard Cholakian / Philip Gayle:Hud Pes:☆☆
   ライナー曰く「10分の予定が76分の作品になった。素晴らしいため
   ブックエンド的作品を前後に加え、二枚組にした」という。
   ランダムなノイズが淡々と続き、メロディや構成らしきものはつかめない。
   ルールか狙いを理解できず、いまいちのめり込めなかった。
   無造作で抽象的なアンビエント。文脈読めれば、楽しみは変わると思う。
   ハードコアさは皆無。生演奏の揺らぎと密やかな即興が続く。
   ジャズの文脈だが音響系な位置づけが似合うかもしれない。
   フィリップ・ゲイル(g)の爪弾きは、言語化を外すデレク・ベイリーの影響も伺えるが、
   ちょっと違う。無機質さはフィリップのほうが強い。

   インストのヒップホップかな。89年"Divine Styler"名義で発売の盤を、06年にインスト化で発表かも。
283・Bilal Bashir And Divine Styler:Word Power (The Instrumentals):☆★
   基本はインスト・ヒップホップだが時々テクノ寄りもあり。JBをサンプリングした
   タイトなファンク調が下地で、歯切れよくビートをミニマルに重ねる。
   ギャングスタ的な不穏さは控えめ、どちらかと言えば1小節ループのヘルシーなビートだ。
   単体で聴いて楽しむより、DJミックスの素材っぽいなあ。

   90年米のストレート・ジャズらしい。デイブ・ダグラス(tp)が参加。
282・Mark Whitecage:Mark Whitecage and Liquid Time:☆☆
   ライナーに曰く"かっちり作曲の一方で、1~2パートだけ即興を奏者に任す"がコンセプトという。
   熱いグルーヴ要素は希薄で、ふわふわと浮遊するサウンドだ。ときに楽器が極端に減り、朗々と一人が
   ソロを取る場面も。ときおりマサダ的なユダヤ風味も感じられる。
   ただ、単なる頭でっかちに終わらずジャズとしては聴かせる。奏者の腕か。
   アドリブの譜割よりムードを楽しんだ。

   キップってロクに聴いたことなかった。本盤がデビュー作、81年。
281・Kip Hanrahan:Coup De Tête:☆☆☆☆★
   スリリングな傑作。さまざまな要素を混ぜ、現在でも十二分にスリリングな世界を産んだ。
   キップはトリックスター的なイメージあり聴きそびれてたが惜しいことしたな。
   改めて色々、聴き進みたい。ゾーンと同様にユダヤながらクレツマーへ向かったゾーンと異なり、
   彼はあくまでビートにこだわった。さらに、独特のクールネスも。
   魅力をいくつか羅列しよう。ラテンとジャズの融合。ポリリズムとクラベスを筆頭の鋭い打音。
   グルーヴの排除と整然なビートのカッコよさ。アドリブでなく作曲に軸足置いた整頓ぶり。
   意外な人物を揃えた異化性と破綻せぬアンサンブル。一曲を無暗に長くせず磨き上げ、ドラマティックさの協調。
   とにかくポリリズムでスマートに切れ味鋭い光景に、のめり込む。

   98年、ウィーンで前年のライブを音盤化した。弦とエレクトロ合体の5人組即興か。
280・Hannes Loeschel:Messages:☆☆
   意外に整った構成だし、けっこう譜面や段取りかも。テクニック追求ではないが
   クラシカル寄りの展開。あまりエレクトロニクスは目立たず、バスクラの響きが中心で鳴った。
   物悲しく静かなインスト。スリルは奥底に秘め、じわじわと漂う。

   09年アメリカのピアノ・フリージャズ・トリオ。NYで録音。Thirsty Earから発売。
279・The Matthew Shipp Trio:Harmonic Disorder:☆☆☆
   アンサンブルは王道、サウンドは前衛のパターン。コード進行無視のフリーでは
   無いらしく、手数多い点をのぞけば違和感ない。はたき込むようなせわしない
   リズム隊のアプローチが特徴か。ピアノは少々タッチが細いものの
   メロディと疾走をいい塩梅で混ぜてくる。だからこそ、猛烈なフリーからいきなり
   ピアノが旋律を美しく奏でる(4)が良かった。

   仏の姉妹デュオ、R&B基調らしい。98年発表の1st。
278・Les Nubians:Princesses Nubiennes:☆☆
   掴みづらい。打ち込みリズムにキーボードを載せ浮遊感あるポップスを聴かせた。
   この揺らぎがフランス風、だろうか。ポップスともソウルともいえぬ
   中途半端な漂いが彼女らの特徴か。そう、ちょうどカバーしてるシャーデーの曲のように。

   96年のインディ・ソウル。ミシシッピーのレーベル、ACEから出た。
277・Ronnie Lovejoy:Think About You All The Time:☆☆ 
   幾つかブルーズ・ヒット曲を作り、"Suddenly" (Evejim 1992)でソロ・デビュー。
   本盤は "My Baby's Cheating On Me" (Ace 1995)に続く3rdソロにあたる。
   "Until You Get Enough Of Me" (Avanti 1998)、 "Nobody's Fault But Mine" (Avanti 1999)、
    "Still Wasn't Me" (Goodtime 2000) を発表後、51歳で他界な彼の歌声は、渋く芯から吼えるタイプ。
   13曲のディープ・ソウルは弦音色こそシンセだがリズムや管は生。96年にしては珍しいかも、な
   生演奏中心のサウンドだ。王道サザン・ソウル。個人的にサザンは苦手なため、うまく感想を書けない。

2013/9/9   注文したCDが到着。

   GbVのボブが多重録音する、をコンセプトにしたアルバムが新譜で出た。
276・Teenage Guitar:Force Fields At Home:☆☆☆★
   デモ風仕上がりの曲が並ぶが、バンド的なアレンジから投げっぱなしロバート流まで
   ある意味多彩なアルバム構成が特異的だ。全18曲、方向性がそれぞれ違う。
   基本は多重録音だが、やっつけダビングっぽい曲とアンサンブル成立の幅を自由に行き来する
   ロバートの魅力が詰まった。全体的には、ヘンテコな楽曲が多くキャッチーさは控えめ。

2013年8月

2013/8/29  最近買ったCDをまとめて。

   GbVの作曲大王、本年度ソロの新譜。
275・Robert Pollard:Honey Locust Honky Tonk:☆☆☆★
   投げっぱなし帝王らしい作品だ。トバイアスのダビングでバンド的に仕上がった見事な曲も数曲あるが、
   ほとんどはデモテープそのまま。中にはミニマルさを追求したような曲まである。
   磨き上げたら極上のロックになりそうなアイディアがいくつもある。だがこれを仕上げず、
   素朴なままに吐き出すのがロバート流なんだろな。本作は特に、作りこみ前で惜しい曲が多数ある。

   今年のツアーに合わせリマスター+ボートラ付で再発。
   まずは日本ポップスの金字塔。ボートラは別テイクなど。たぶんあると想像する
   完全未発表曲も聴いてみたかったが、40周年記念までお預けか。
274・山下達郎:MELODIES (30th Anniversary Edition):☆☆☆☆☆
   完全未発表曲を期待したが、無くて残念。文句はせいぜい、そのくらい。
   ストレンジな"クリスマス・イブ"も含め、蔵出しの愉しみを味わえるボートラだった。
   メインのアルバムは文句なしの傑作。アナログ録音をフルに使い、弦と管をふんだんな(3)と
   バンド・アレンジを同居さす、当時の達郎の才能が炸裂した一枚。

   もう20年もたつのか。クリスマス企画盤でアカペラとストリングスがテーマ。
   ボートラはライブ音源やライブ使用のアカペラなど。
273・山下達郎:Season's Greetings (20th Anniversary Edition):☆☆☆☆★
   丁寧なリイシューっぷりが嬉しい一枚。ボーナスは小品ながら7曲とたくさん入れた。
   ファンクラブ会員としては一枚にまとまった感あり。
   でかいボリュームで聴いても小音でも楽しめる、稀有なクリスマス盤。

   冨田ラボ他、活動をまとめたベスト盤。どうせなら、と限定盤3枚組を入手。
272・冨田恵一:WORKS BEST ~beautiful songs to remember~:

   01年発表、ポイ・ドッグ・ポンタリングのレアテイク集。
271・Poi Dog Pondering:Sweeping Up The Cutting Room Floor- Out-Takes 87-94:☆☆☆
   生き生きしたマスタリングの勝利。デモに毛が生えたトラックもあるが、骨太で瑞々しい。
   87年から94年、初期ポイのスタジオ・アウトレイクをまとめた。ライブテイクは一切なし。
   当時のテイクもきちんと残してたのか。
   時系列と別に並んだ曲順は、幅広いポイの音楽性を伺わせつつもフランクの
   瑞々しく鼻にかかった声が、すべて統一した色合いを残した。
   ロマンティックさとフォーク性を思い切り混ぜた、ポイ・サウンドが楽しめる。
   68年のヒット曲、タイロン・デイヴィスのカバー(8)は意外な選曲だった。

   津軽三味線奏者の04年5thソロ。坂田明や佐藤允彦の他、吉田達也やナスノミツルも参加した。
270・木乃下真市:パッション!:☆☆
   アルバムとしてはエレキギター・ソロを三味線へ、置き換えた感じのインスト・ロック。
   複数のアレンジャーを立てて単調さを消した。佐藤允彦のアレンジががっつりジャズで良い。
   ナスノがアレンジの曲は予想ほどプログレ色は薄い。ドタバタと
   手数多い吉田流のドラミングはバッチリだが。
   参加者のファンなら色々楽しめるかも。逆にアレンジャーの色が濃くて
   木下は作曲とプレイヤーのみ。

   E#の08年ソロで8弦エレアコ・ギターベースのソロ。
269・Elliott Sharp:Octal: Book One:☆☆☆☆
   録音からなにから、すべてE#。傑作。楽曲が並ぶけれど、内容はインプロが中心。スリリングな演奏が満載、シンプルな音色一本だが
   E#のテクニックやアイディアを堪能できる一枚。8弦ギターベースの響きも素敵で、
   倍音や伸びやかな低い響きが実に痛快だ。
   メロディは断片的だが抽象的なフレーズが次々に展開していく。

   96年にINCUSから発表した、80年のデュオ音源。
268・John Zorn & Eugene Chadbourne:In Memory Of Nikki Arane:☆★
   ファン向け。80年NYライブ二種類の音源をまとめた全4曲入り。良く言えば
   先鋭前衛集、もしくは若気の至り。アイディア一発、音だけだと非常にストイックな
   ノイズに聴こえる。ゾーンはマウスピースを軋ませる音を多用し、チャドボーンは
   さまざまな弦楽器を痛めつけた。流れやインタープレイは希薄で、空白も多い。
   のちの音響系とつながらないが、妙な静寂と雑音の混淆が味わえる。
   たぶん夾雑を廃した楽器や響きの限界を狙ったと思う。
   時代性と彼らの初期の試行錯誤を切り取った。瞬間の響きでなく
   一時間余りの連続した音響作品と捉えるなら、奇妙な空気と唐突さのブレンド具合が結構面白い。

   イギリスのオルタナ系ジャズかな?97年発、6thで最後のアルバムのようだ。
267・B Shops For The Poor:Signals Through Flames:☆☆☆
   面白い。打ち込みビートを時に使ったアンサンブルで、非常に抽象的かつ
   不協和音を多用する。フレーズはアクセントを自在に揺らし、テクニカルなもの。
   ここで特徴が、むやみにテンポを上げずジックリ弾いたところ。
   高速ならザッパ的なスリル出たと思うが、あくまで彼らはスピードを追求しない。
   そこがニューウェーブ的な奇妙さを演出した。
   耳馴染みは悪いが、熱病的な中毒性を持つサウンドだ。

   ハンガリーのフォーク・バンドで97年の盤。6thアルバムみたい。
266・Kormorán:A Betlehemi Csillag Üzenete:☆☆☆
   クレジットが読めず委細不明だが、予想以上に産業ロックな仕上がりに意外。
   野太い男性ボーカルが力強く歌い上げる。トラッド風の大味なシンフォニック・ポップ。
   現地の音楽とロックの融合を狙った盤かも。アコースティックとシンセを滑らかに混ぜている。
   だがポップなりトラッドなりに寄れば聴きやすいのを、わざわざ茨道を歩む奇妙な大編成アレンジだ。
   野暮ったさと中途半端なポップ性が味。聴いてるうちに、癖になる。

   インド系女性シンガーを白人エレキギタートリオが支える、ジャズ寄りの作品で04年発売。
265・Sumitra:Indian Girl:☆☆☆★
   ハイトーンを柔らかく支えるスミトラ・ナンジュンダンの歌声は、ケイト・ブッシュやリンダ・ルイスを連想した。
   力抜いたウィスパーっぽい歌い方でも、奥底に感じさす芯の強さが心地よい。
   楽曲アレンジも練られており、一部は多重録音ありかな?シンプルなスタイルだが
   空間を上手く塗りつぶし、暑苦しくない濃密さを見事に描いた。
   歌声の個性と着実なバッキングの妙味が面白い、するめみたいなアルバム。

   カナダ出身でフォーク・グループ、マリコルヌの創立メンバー。本盤は94年の4thソロ。
264・Gabriel Yacoub:Quatre:☆☆★
   フォークを下敷きにシンフォニックなアンサンブルでプログレ風味を出した。切なくも朗々とした
   大きなスケールが魅力か。伸びやかな声はほんのり塩辛い。
   全15曲入り、隙は無く丁寧な盤だと思う。メカニカルなビート感も味わいを足している。
   数曲のコーラスで参加のGildas ArzelはバンドCanadaのメンバーで、数曲のソロをリリースした。
   ピアノやコーラスで参加のNikki Mathesonも、カナダ系でリーダー作も発表済の歌手。

   ソフト・マシーンやアルビオンバンド、フェアポート・コンベンションに参加した奏者のユニット。
   共演はフォーク系のヴォ・フレッチャー(g)、アルビオンのマイケル・グレゴリー(ds)の顔ぶれだ。
   02年発売のバイオリン・プログレ。1曲でリック・ウェイクマンが参加した。
   2枚組だが2枚目はバイノーラル録音音源などボートラ的なもの。
263・Ric Sanders Group:Ric Sanders Group In Lincoln Cathedral:☆☆☆★
   オリジナルに交えジョージやポールの小品、チック・コリアの曲と、とっ散らかった選曲だ。
   耳ざわりはあくまで優しく、ジミヘン"Little Wing"もウェイクマンのピアノがサポートし甘く響く。
   アドリブは自由なフレーズを広げるが即興ビシバシよりものどかにインストを楽しむコンセプトっぽい。
   残響がきれいに響く音像は、ひたすら心地よい。
   それなりの機材持つ人にはDisc2のバイノーラルやDTS音源も楽しめるだろう。ぼくのオーディオ環境はムリ。

   スコットランドの女性歌手。発売は95年。
262・Fiona Kennedy:Maiden Heaven:
   フィル・カニンガムがプロデュースの本作は、トラッドをしっとりポップなバラードに
   軸足置いて仕上げた。独特の臭みを上手いこと抜いた出来だ。
   聴きやすいし綺麗さを狙ったか。毒や臭みはないが。

   カンタビリー系バンド、デリバリーの元ボーカルだがジャズに傾倒。本作でもドップリとジャズ。87年ライブを、00年に発表した盤。
261・Carol Grimes:Daydreams & Danger:☆★
   クレジットではサイドメンは鍵盤ふたりのみ。ベースも鍵盤かな?
   あからさまなシンセのバッキングの箇所は、逆にストレートなジャズとのミスマッチ感が楽しい。
   特に(5)。へんなテクノ風のアレンジが極端で良いな。
   歌は無暗にフェイクさせず、滑らかに歌ってるのは好み。

   やたらベテランの5人が唐突に07年発表のアルバム。メンバーは、
   Pauline Oliveros(acc),David Wessel(electronics),George Marsh(per), Jennifer Wilsey(per),Thomas Buckner(Voice)。
260・Timeless Pulse Quintet:Timeless Pulse Quintet:☆☆
   電子音楽で活躍したポーリン・オリヴェロス(acc)、即興で数々のライブを行ったトーマス・バックナー(vo)、
   60年代後半の米ロック・バンドLoading Zoneのメンバー、ジョージ・マーシュ(per)のみ経歴を辿れた。
   いずれにせよベテラン勢ぞろいのアルバム。音楽は静かな即興で緊張感あるが
   音的にはリーダーをあえて立てず、しずしずと音を紡いでいく印象だ。
   円熟や手なりとも違う。肩の力を抜きつつ、じっくり即興を探るイメージ。
   メロディよりも白玉を重ね、和音とは違ったレイヤーを描くかのよう。
   しぶとくしたたかな即興を無理なく紡ぐ、さすがのキャリアだ。前衛的だが美しい。

   ドイツのフリージャズ・トリオが94年に発表。ゲストのトゥヴァ歌手
   サインホ・ナムチュラクに惹かれて入手した。ただ、サインホの共演は1曲のみ。
259・Biosintes:The First Take:☆☆
   打楽器と声、軋みとビートと抽象。三人の即興者がトゥヴァ流の文化をシリアスに
   提示した現代音楽、な面持ち。サインホのゲスト曲はさらに闇が濃くなる。
   明確なメロディや展開より、つかみどころ無い混沌が先に立つ。
   とっつき悪く、濃厚な味わいだ。

   07年発売、b & sax & vln & dsの編成なジャズ。
258・The New Quartet:Blue Rhizome:☆☆☆★
   裏ジャケ記載のライナーにコンセプトは"Crisis of faith"とある。"信仰の危機"が訳で良いのかな。
   カトリックでは信仰の喪失として使われる言葉のようだ。音楽的には無編集の一発録音のテイクを
   9曲収めたという。数曲では(1)のテーマを変奏するアプローチで、組曲風に仕立てたジャズ。
   録音は2chダイレクト、聴き手の音像とほぼ同様の位置に奏者が立ってるらしい。
   きわめて強固なコンセプトに基づいた盤だが、サウンドも負けずに力強い。
   強烈な即興性で聴き応えある。グルーヴよりアンサンブルの精度を
   狙ったようだ。精妙なクラシカルからがっつりロックなギターが炸裂まで、幅広い世界を聴かせた。

2013/8/11   最近買ったCDをまとめて

   ポイがいまだに活動してたとは。11年シカゴのライブを4枚組CDにまとめた。
257・Poi Dog Pondering:Live at Metoro Chicago Dec 2-3,2011:☆☆☆☆
   ファン向け。二日間のライブを完全収録し、前半のオースティンが比較的小編成、
   後半が大編成のシカゴで楽曲のかぶりはない。前半のメンバーで後半に不参加もおり
   あまり厳密なメンバーではなさそうだ。解説は一切なし、ただライブを聴かす。
   ボーカルがドライな耳ざわりでバンドとコーラスはライブ・リバーブつきと少々いびつなミックスで、違和感もある。
   オースティンはパーティ・ライブでトランペットなども入りアレンジの多様さは感じるが、スタジオ録音の
   アレンジを踏襲しバタつき気味に次々と演奏した。1-9,2-1など溌剌なテイクも、もちろんあるが。
   シカゴはストリングスも強調される大編成で、ぐっと演奏がまとまっている。ドライなボーカルは
   こちらも変わらないが、演奏と上手いこと溶け合った。ライブとしてはこちらが聴きどころいっぱい。

   これはポイの7曲入EPで11年に発売。
256・Poi Dog Pondering:Audio Love Letter:

   米のオルタナ・カントリーのバンドが97年発売の2nd。ソロ前のライアン・アダムスが
   参加しており、楽曲はすべて彼の手による。
255・Whiskeytown:Strangers Almanac:☆★
   ライアンのファンなら余計楽しめるかも。抑えた感じのカントリー・ロック。
   バンドっぽさは希薄で、彼のワンマン・バンドな印象を受けた。

   NY拠点の女性SSWが03年に発表、たぶん3rd。
244・Rachel Loshak:Mint:☆☆☆★
   夫のモーガン・テイラーと共同プロデュース名義だが、ベースと歌、作曲はすべて彼女の手による。
   全体的にアコースティックで、うっすらと曇った景色が特徴だ。高らかに伸びる
   歌声は着実な印象だ。少々サイケなアレンジで、すらも。
   じわじわ来る綺麗なメロディが持ち味で、聴いてて癖になる。
   全体的に和音感が少々奇妙に感じて楽しい。ミディアム~スローでじっくり聴かせる盤。

   トゥバのバンドで民族楽器を駆使した4人組。本盤は03年発表の1st。
243・Huun-Huur-Tu:Sixty Horses In My Herd:☆☆★
   トゥヴァのトラッド集らしい。弦とわずかなパーカッションあるが、基本は声。ホーメイと
   超低音ボイスがてんこ盛りだ。エキゾティックな節回しがごく自然にホーメイに雪崩れ、
   アヴァンギャルドさがプンプン漂う。それでいて、不自然な違和感はない。
   トゥヴァ独自の文化を楽しく味わえる一枚。ただ、スピーカーで聴いたほうが良い。
   イヤフォンだと脳髄に声が響き渡る。

   元シカゴのメンバーが在籍中に発表した94年ソロ。4thかな。
242・Bill Champlin:Through It All:☆★
   AOR風のカラッとした甘さと大味ギターの双方を盛り込んだ。複数プロデューサーでバラエティに富ます。
   ドタスカ鳴るドラミングに時代を感じるのは玉に傷。やむを得ない。
   ビルはギターはもちろん、鍵盤も一部担当してる。歌心が味か。
   リズムも打ち込み。アレンジは凝ってるが、けっこう低予算で仕上げた感あり。
   ジェイ・グレイドン/スティーブ・ルカサーと共作しジョージ・ベンソンに提供、全米トップ5のセルフカバー(2)も収録。
   ハーモニーもきれい。奥さん以外クレジット無いが、ピッチ高いのも含めてビルの多重録音?
   滑らかな和音が魅力的な(3)や、TV伝道師を皮肉ったコーラス多用の(6)が聴きどころ。

   伊フィレンツェの3人組ボッサ・ユニット02年の作。これは邦盤で2曲ボートラ付。
241・Mondo Candido:Moca / ANA:☆☆★
   フレンチ・ポップを基本に、各曲へ丁寧にアレンジを施した。さらり聞き流せる
   心地よさの後ろで、細かく聴きこむとさまざまなアイディアに満ちたとわかる。
   アルバム全体が五目味に仕上がり、逆にむやみなBGMにはもったいないかも。

   00年米デビューの女性SSWが10年に発表のEP。
240・Michelle Branch:Everything Comes And Goes [EP]:
   カントリー風の広がりが、第一印象。ほんのりこぶしこめた歌い方は、大味でからっと晴れている。
   アコギ弾き語りでもハマりそうだが、本盤ではきっちりバンド・アレンジした。
   毒は無く、寂しさをメロディへ刻む。洗練さは薄い。伸びやかな素直な声は、するすると耳に音楽が抜けていく。

   全世界でヒットしたバンド、ケルティック・ウーマンの一人が、満を持して00年発表の1stソロ。
239・Órla Fallon:Celtic Woman Presents: The Water Is Wide:☆☆★
   全曲トラッド、オーラのハープ以外は、ピーター・イーデスが鍵盤と打ち込みで
   仕上げた。ポロポロと軽やかに鳴るハープを中心に、透明感を意識した仕上がり。
   しっとり寛ぐ切なさは、整いが産み出す緊張感を保ちつつも、穏やかに空気を彩った。
   純粋培養っぽい物足りなさはあるが、聴き心地はとても良い。オーラの高い歌声もきれいだし。
   ただちょっと、アレンジが安っぽいかな。

   元ソウル・コフィング、映画音楽へ活動の場を映したマークのソロ。TZADIKで99年リリース。
238・Mark De Gli Antoni:Horse Tricks:☆☆★
   基本は宅録のチープなサウンドで、何曲かでゲストが参加する方向だった。インプロよりもパターンを
   切り貼りし積み上げる、ブレイクビーツ的なアプローチ。時にポリリズムな
   展開ある一方で、ダンサブルさは敢えて回避した抽象的な響きが多い。
   現代音楽的なアプローチに、ロックの大雑把さを足した感じ。緻密じゃないが奇妙なスリルの片鱗が見える。

2013/8/4  最近買ったCD。AMTがらみをいろいろ入手した。

   07年にブラジルのレーベルから発表された。
237・Acid Mothers Temple & The Cosmic Inferno:Ominous From The Cosmic Inferno:☆☆☆★
   ミニマルなリフとスペイシーなシンセに、エレキギターが噛みつく。痛快でストレートなAMTが聴ける。
   ワイルドながらモヤけてて、朦朧としつつも前のめりに炸裂する。
   しぶといAMT流グルーヴが堪能できる一枚。剛腕インプロだけでなく、どこか精神性追求のイメージも。
   メロディやリフの勢いより繰り返しの酩酊を狙ったか。

   クリムゾンをひねった本作はサバス寄りらしい。05年作。
236・Acid Mothers Temple & The Cosmic Inferno:Starless And Bible Black Sabbath:☆☆☆
   岡野/東/志村/河端/田畑の編成で、ストレートなへビィサイケ。サバス寄りの意味が分かった。
   (1)はギター・リフがきっちりある一方で、猛然とスローなソロが載る。
   AMT節ながらきっちりアレンジされたノリと構成だ。
   (2)は6分強の小品。アップテンポで突き進む。きしきしと電気的に炸裂する音色がいかにも。

   07年、ゲスト招いたが基本は4人態勢のAMTスタジオ作。
235・Acid Mothers Temple & The Melting Paraiso U.F.O.:Acid Motherly Love:☆☆☆★
   津山/東/志村/河端にゲストでStoo Odom,Stefania Muroni,Nazrinをいずれもvoで招いた。
   他の二人は不明だがStoo Odomはサイケ・バンドMahikariのメンバーらしい。
   剛腕サイケがトラッド風味をまとうAMTの諸作の中でも、本盤は特に酩酊と混沌に焦点を当てた。
   いったんベーシックを録音の後、緻密に河端がダビングを重ねたっぽい。
   リバーブの海をミニマルに蠢き、声と楽器が淡々と絡んで酩酊を誘う。
   短い楽曲が多い分バラエティに富んでるが、実態はとても濃密だ。

   今年の新譜。08年の盤"Cometary Orbital Drive"をアレンジした3曲を収録した。山本精一が(2)でゲスト参加,500枚限定。
   ジャケットもレイアウトはほぼ同じ、より宇宙に本作は近づいた。なぜこの企画を採用かは不明。
234・Acid Mothers Temple & The Melting Paraiso U.F.O.:Cometary Orbital Drive To 2199:☆☆☆★
   裏ジャケによるとチューニング"AEDAGD"が精神世界へ向かう
   カギとなる響きに定義がコンセプトの盤らしい。11年12月10日、名古屋得三でのライブ音源より。
   じっくり時間をかけ加速し、六音のフレーズが高らかに繰り返される。
   金太郎アメのように均一テイスト、同一テンションで緊迫した疾走のさまが味わえる。
   エンディング間際の猛烈な混沌も聴きもの。

   ジミヘンをひねったタイトルの本盤は02年発売。
233・Acid Mothers Temple & The Melting Paraiso U.F.O.:Electric Heavyland:☆☆☆★
   ドラマのような流れが心地よいアルバムだ。
   コットン/津山/東/小泉一/河端の編成で、河端の単独曲とセッション曲が半々(1曲はメドレー)。
   (1)はシンセのうねりからバンドの炸裂に流れる。ドラムがけたたましく暴れ、ギターとシンセが混ざった。
   だが強気一辺倒でなく、再びシンセ・ソロが漂ったところでギターリフ炸裂の河端の曲へつながる。
   逆に(2)は初手からテンション高く疾走に。もっこもこのギターソロが快感だ。
   後ろでベースも高速で動き続ける。13分過ぎくらいで高音と歪みの倍音っぽい響きに気持ち良くなってきた。
   そのまま消え入った後、シンセの呟きで(3)が始まる。エフェクターの風が荒れ、バンドがグイグイ押してきた。

   こちらは01年発売。ドップリとサイケなデザインだ。
232・Acid Mothers Temple & The Melting Paraiso U.F.O.:New Geocentric World Of Acid Mothers Temple:☆☆☆☆
   長尺AMTらしい要素を取り入れつつ、多彩さを両立させた傑作。
   編成は多め、コットン/津山/小泉/東/一楽/Audrey Ginestet/河端をベースに
   Hacoらゲストも招いた。サウンドはサイケどっぷり、テンポ緩めのたるっとした印象だ。
   河端のギターが中心にうねる。曲中で軸と鳴る楽器を変え、ミニマルさと
   トラッド的な退廃さを追求した。(5)後半のピアノ・ソロはAMTのアプローチ的に斬新だった。
   アルバム全体としては、バラエティに富んだミニマル。そんな矛盾がごく自然に成立する。

   マニ・ノイマイヤー(グルグル)と津山+河端のセッションで、06年に録音。
231・Acidmothersguruguru:Psychedelic Navigator:☆☆★
   手なりの即興な面もあるが、軽やかなマニのビートで津山と河端のシンプルな
   アンサンブルを楽しめる一枚。濃密一辺倒でなく、河端がギターをクリーンに
   鳴らしたり、マニの小物Perを入れたりとメリハリはつけている。
   この手のアンサンブルだと、やはり津山のユーモア感がソフトに雰囲気を和らげて嬉しい。
   最後はグルグルの"Bo Diddley"でしめた。

   どらびでおも参加の08年ライブ録音音源を収録した。
230・Acid Mothers Temple With Ichiraku Yoshimitsu:Acid Mothers Temple Festival Vol. 7: ☆☆★
   ひたすら混沌のライブ盤だ。津山/河端/田畑/東/志村+ドラびでお。
   濃厚な40分にもわたるトラックが最も印象深い。最終曲のテンションもすごいが。

   共演第二弾は09年の"第8回Acid Mothers Temple祭"の様子を収録した。
229・山本精一 & Acid Mothers Temple:メガサイケ:☆☆☆★
   山本精一のくっきりフレーズを刻むギターがAMTのアンサンブルで明確な存在感を持つ。
   即興を多用しながら、根本は楽曲を演奏したステージの様子が伝わってくる。
   猛烈にサイケで豪快なAMTワールドを味わえる一枚。山本の相性は格別。

   田畑満の1stソロで98年作。オリジナルはジャケが2種類あり、1000枚限定。
228・Tabata:Brainsville:☆☆☆☆
   "ツァラウストラはかく語りき"を連想さすオープニングから
   ドローンとミニマルを中心に混沌たる作品が8曲入る。バラエティに富み、
   多彩なアイディアを味わえる一枚。暗黒だが沈鬱さは無く、連続だが単調にならない。
   轟音でも小音でも楽しめる、稀有な一枚だ。

   伊Vivroより。出てたの知らなかった。吉田達也/津山/河端のトリオ、05年のライブ音源。
   前半が05/9/9名古屋、得三。後半が同年3/11初台ドアーズにて。
227・聖家族:Live In Japan:☆☆
   楽器持ち替えあるが、基本的にアイディア一発混沌即興ユニット。前半が室内楽的で
   後半はサイケ・ロックを前面に出した。中心無くふくよかに広がるインプロの連続だ。
   逆に本盤ゆえの独自性を指摘できるほど、まだ聴きこめていない。

   87年発表、リアルタイムでシンセサイザー演奏がコンセプトな6連作のひとつ。
226・菊地雅章:六大 識 -MIND-:☆☆★
   50分一本勝負。ミニマルな世界がじわじわと変化していく。実際には組曲形式で
   何回か曲の切れ目有り。単調になりがちな本シリーズだが、この盤は刺激的な個所多し。
   繰り返しのレイヤーから滲む、生演奏っぽいフレーズの揺れがなまなましい。
   今聴くと、独特なテクノの面持もあり。

   アメリカのマイク・プライド(ds)がリーダーのas四重奏。モダン・ジャズらしい。2010年作。
   Webの共演者見ると、前衛系の奏者とも多数競演しているが。
225・Mike Pride's From Bacteria To Boys:Betweenwhile:☆★
   カッチリとビバップながら洗練のジャズ。アドリブのそこかしこにフリー要素はあるものの
   ストレート・アヘッド色が強い。キメの多いテーマとアクセントをふんだんにずらす
   ドラムで色合いは鮮やかだが、いかんせんスピードが物足りない。
   (7)のようにベタなアップテンポが楽しめた。
   丁寧なアンサンブルは聴いてて清々しい。フリーへ向かったとしても。

   02年のジョン・ゾーンのサントラ集。未聴だった。
224・John Zorn:Filmworks XIII:Invitation To A Suicide:☆☆☆☆
   絶妙に整ったアンサンブルが味わえる一枚。ゾーン自身も手ごたえある作品のようだ。
   エレガンスを求めた監督にゾーンはミクスチャーのリリシズムで応えた。
   ビブラフォンやアコーディオンがミニマルなフレーズを描くうえでギターがソロを取る。
   だが即興性は薄く、丁寧に作曲されている。タンゴなりケイジャンなりの
   泥臭さを基礎に紡がれるサウンドは、野暮ったさを突き抜けた成熟ムードをじわっと漂わす。
   暗く、抑えたテンションが滲む美しさは格別だ。珠玉の一枚。

   ザキール・フセイン(tabla)らをフィーチュアしたクラシック楽器を中心のジャズ、らしい。98年米盤。
223・Michael Smolens:The Last Rendezvous:☆★
   経歴は不明。予想以上にコントロールされたジャズ風味のイージーリスニングだった。
   ロマンティックかつラテン的な風味を漂わせ、アンサンブルはしとやか。
   一発録音でなく、ボーカルなどはダビングかも。
   饒舌なタブラもあくまで一要素。柔らかく包み込むアンサンブルも魅力的に鳴る。
   楽曲ごとに編成を変え、アルバム全体にストーリー性を持たせた。マイケル・スモーレンス
   自身のピアノ・ソロは(3)や(8)で聴ける。アドリブのスリルより
   構築された編曲が狙い。フュージョンとは違う、切なくてリラックスした空気だ。

   AACMのエイブラムス(p)とAECのミシェルの共演盤、90年Black Saintに吹き込mi み。
222・Muhal Richard Abrams / Roscoe Mitchell:Duets and Solos:☆★
   濃密な前衛フリージャズを聴きたい人に、合うかもしれない。
   聴き手に緊張をキープさせる即興。どれも長尺で、冒頭のピアノソロから圧倒される。
   テンション下がらず鍵盤を叩きのめし、最後のドラ連打まで集中力が切れない。
   グルーヴとは別ベクトル、スピード感で聴かせる。フレーズよりも流れ。
   サックスとのデュオ(2)は前半が抽象的なシンセとサックスの饗宴。野放図に伸ばすサックスへ
   きらきらと鍵盤がかぶさっていく。ノービートの音像は心地よいが、ちょっと管が無機質だ。
   (3)のサックス・ソロは、さらにメカニカルな面持ちが増した。管を軋ませ、丁寧にノイズを導き出す。
   だから10分半で一瞬、急にまともなブロウが逆に生々しさを強調した。瞬く間にフラジオの海に沈んで終わるが。
   最終曲は再び30分近くにわたるデュオ。ピアノは様子変わらぬが、サックスがいくぶん穏やか。

   豪のインプロ・バンド、ネックスを聞いてみたかった。
   本作は98年発表で、彼らの初サントラ。
221・The Necks:The Boys:☆☆★
   ミニマルな即興がじわじわと変貌していく。リーダーが誰か気づけていない。
   ふと気が付くと、音が変わってる。生演奏のダイナミズムを残しつつ
   メカニカルな力強さ。密やかなサスペンスな味わいだ。静かな緊張のジャズ。
   ミニマルだけあって、長尺のほうが味わい深い。トランス的な酩酊ダイナミズムは薄いが。

   ここからはクラシック。
   19世紀初頭、独作曲家シュポーアのVn+Vc+harp作品集で98年録音、ナクソスより。
220・Louis Spohr:Music for Violin and Harp, Vol. 1:☆☆★
   作品番号115番と16番、番号無しからCマイナーのVln+Harp曲と、さらに番号無しVln+Harp+Vc編成な曲を収めた。
   もともとシュポーアは自らのバイオリンと妻のハープで演奏を披露していたという。
   バイオリンはテクニックひけらかしでなく、滑らかでしとやかな旋律をたっぷりと歌わす楽曲だ。
   ロマンティックな世界に、惹かれる。

    18世紀後半、露作曲家カリンニコフの残した交響曲2曲双方を収めた。
   録音は92年かな。ロシアのKnigaから発売。
219・Veronica Dudarova, The Symphony Orchestra of Russia:Vassily Kalinnikov - Symphony No.1 and No.2:☆☆☆★
   どちらも循環主題を用いたようだ。<サントラのように耳へ馴染む。
   第一番はくっきりと素朴で明確、かつ情感あふれる旋律が力強く咆哮する。
   いたずらに悲観せず筋の通った勇ましさ有り。流麗で奔出の怒涛さが魅力だ。
   第二番は流麗さが増した。とはいえ無骨さがわずかに残る。洗練を狙いつつも芯が骨太だ。
   ひ弱さと逆、厳かな迫力が滲む。むやみな優しさより懐深さを感じた。

   18世紀中ごろ活躍したシューマンの室内楽集。全6枚組で77~79年の録音/90年英ワーナー発売の盤。
218・Schumann:Chamber Music: ☆☆★
   廉価に手を出すかいのあるボックス。ジャン・ユボー(p)とJean Mouillere(Vln)が中心の演奏だ。
   シューマンの楽曲を知らないと思ったがCD1(ピアノ四と五重奏)にちょこちょこ
   耳馴染みあるメロディが出てきて、一気に親しみ湧いた。古臭くもロマンティックな
   カッチリした構成な印象だ。波打つメロディはたがいに結び付き、一気に雪崩れる。
   くすんだ音色は録音の時代を感じるが、アグレッシブさと着実なタッチを両立する良い演奏と思う。

2013/7/22   最近買ったCDをまとめて。

   05年。まりや詞、達郎曲で提供と知り入手。舞台「ツキコの月 そして、タンゴ」主題歌で
   タンゴ風のアプローチ。タツローのデモ音源をバックの歌や全カラも収録した。
217・森光子:月夜のタンゴ(single):☆★
   歌の不安定さが目立つ。逆説的に達郎の凄まじいアレンジ力を痛感した。
   オーソドックスなタンゴ・アレンジと達郎流のタンゴ双方を
   楽しめるのは良い。併収曲のド演歌とで挟まれつつも違和感ださぬ達郎はさすが。
   達郎の整った打ち込み風なトラックは、どこか洗練されて興味深い。
   歌トラックは同じ?達郎流のほうが、不安定ながらも整ってる感じ。
   達郎のほうはガイド・メロっぽくオブリで主旋律を支えてる印象だ。
   タンゴ流のアレンジは途中で聴けないが、達郎の方は最後まで聴かせる。
   なんか達郎の"愛してるって言えなくたって"を連想するなあ、これ。

   庭野孝之がレーベル"川越ニューサウンド"立上げの1st、12年発表。
216・Takayuki Niwano:Surroundly:☆☆☆☆
   たるっとした停滞電子音楽を楽しめる一枚。ノイジーでビート感もないが
   ジャパノイズ的な轟音カタルシスは志向せず、オフサイト系の音の響きや周波数を操る方向性とも異なる。
   電子音は無機質かつ情報過多にコラージュされ、濃密を飽和させる。すなわち・・・なにがなんだかわからない。
   偶発性を狙ったらしい。再現は不可能。作者の狙いを想像しつつ、
   結局は音の沼にはじかれる。そして、電子音の響きにたゆたう。寛げるほど
   優しい音色ではないが、クラシックの電子音楽みたいな厳しさは緩和された。
   本当に不思議な立ち位置の一枚だ。

   コステロの同名盤をピアノと歌でストレート・カバーした。06年盤。
215・Michelle Murray & David Murray:The Juliet Letters:☆★
   ピアノと女性ソプラノによるカバー。ほんのりヒネりはあるが、基本は流麗な歌と
   きれいにまとまったピアノのために、コステロの持つ渋みや弦カルの緊張が減じたのは
   否めない。ただしクラシカルな歌唱法ながら、あまり強烈に響かせない歌いっぷりは
   亜流としてあり、かもしれない。しかし基本はオリジナルのまま。
   もっと強烈にフェイクしても良いのにな。(10)が一番、本盤のコケティッシュな魅力が出てると思う。

   11年の発表でルーレットで選曲企画のライブ音源。DVD付きなど様々な
   バージョンあるが、本盤は1枚のCDもの。
214・Elvis Costello & The Imposters:The Return Of The Spectacular Spinning Songbook:☆★
   ライブの面白さ、選曲の珍しさの企画性は良い。だが本盤だと演奏が
   いまいちラフで、物足りなさも。ファン向けかな。むしろファン向けなら
   定番曲をズバッと削除し、レア曲でまとめても欲しい。
 
   スネークマンの桑原茂一が企画のYMOカバー集、93年発売。
213・カバの会:YMOのカバ:☆☆☆★
   メカニカル。人力との融合。エキゾティック。面白真面目。YMOのキーワードを洒落たアプローチで
   カバーした楽曲を詰めた。桑原らしく一捻りした手法で。あえて楽曲のかぶりも気にせず、
   豪快に並べた選曲もすごい。YMOを下敷きに一つの作品として仕上がってる。
   人声を多用した厳かさも、奇妙なユーモアを強調した。寛ぎを狙いつつ、シニカルな視点でつい耳をそばだてる。
   あえてYMOを切り離し、聴くのもいい。今でも先鋭性は失っていない。

   三上寛と石塚俊明のデュオに浦邊雅祥が加わった。06年PSFから発売。
212・三社:無線/伊豆:☆★
   30分足らずの短い作品で、なおかつ器楽も重視した作品だ。乾いたドラミングに
   切なく軋むサックスがかぶさる。三上はいつもと同じスタイルだが、
   幾分やわらかさを滲ますようにも感じた。
   ブレない三上だがちょっとアヴァンギャルド寄りかな。

   米ソウル歌手の08年5th。Mary J. Bligeが一曲で参加した。
211・Musiq Soulchild:OnMyRadio:☆☆☆
   複数のプロデューサを立てバラエティを狙ったつくり。70年代フリーソウルが匂い立つ一方で
   プリンスの密室的なアレンジの影響をドップリ感じた。粘っこいニュージャック・スイング流れの
   ハーモニーとは別次元、漂いまとわりつくムードに。
   メロディよりも楽曲のムードで聴かせる盤か。歌声は思ったより軽い。
   ばたばた雪崩れる譜割の(5)や和音が浮遊する(7)が耳に残る。スローなら(9)かなあ。

   M-floの元Vo,04年2nd。倖田來未&Heartsdalesとコラボが1曲あり。
   カバー集ミニアルバム付の二枚組、CCCD。
210・LISA:GRATITUDE:☆☆☆★
   水っぽいメロディとラテン風味のノリがきれいにまとまった、端正なアルバム。
   彼女のアルバムの中でも、素直に聴ける一枚。
   はすっぱだがやさぐれず、どこか柔らかさを残したムードが良い。
   Disc2のカバー集は曲線がちょっと馴染めないが、アイディアは良い。
   
   05年の企画盤で80年代洋楽カバー集。PV集のDVD付き。
209・LISA:Melody Circus:☆☆
   コーラスのアレンジをリサ本人、アレンジをumjanna!のメンバーをはじめとした複数に割り振った。
   全体的にはボサノヴァやレゲエを土台のイージーリスニング風、すなわち軽やかで洒落たイメージ狙いで仕上げてる。
   選曲はヒット曲をほんの少しずらし、いかにも80年代のリアリティあり。
   下手にベタじゃない。とはいえ、スリルに欠けるのも事実だが。
   おまけのDVDはPVやライブ音源集。楽曲によって表情が変わり、結構楽しめた。

   ソロ3rd,06年。3曲のタイアップ付。(2)はLisa loves M-floと再共演した。
208・LISA:ELIZABETH:☆★
   少々小粒だがヒップホップ調のポップを手堅くまとめた。
   派手さを出さずとも、水っぽく明るいムード。
   
   9thソロで08年の発売。
207・Steve Winwood:Nine Lives:☆☆★
   丁寧に作られた金太郎アメ。バンド形式でノリを統一し、ラテン風味をふりかける。
   クラプトン一曲参加で花を添えつつ、軸足はブルース基礎のウィンウッド・スタイル。
   セッションをオルガンで盛り立てベーシック・リズムを作り、
   鼻に軽く引っかけた独特のメロディで飾る。派手なヒットは狙わず自らのキャリア踏まえた
   地に足をつけた大人の一枚。(2)や(7)、(9)みたいにメロウな曲が好み。
   何かが引っかかり、もう一度聴きたくなる。自分の音楽体験とウィンウッドのキャリアを向かいあわすような一枚。

   カリフォルニアのハードコア・ラッパー、98年の4th。本盤は聴きそびれていた。
206・Cypress Hill:IV:☆☆
   デカい音で聴きたい。シンプルなループであまり展開無く、重たく疾走する。一方でラテン的な軽みが透けるユニークさ。
    数曲でフィーチャーのBarron Ricksは本盤以外の目立った活動をネットで見つけられず。他にPMDも参加した。
   (9)や(17)がキャッチー。(16)の歯切れも良いな。

   英バミューダ諸島出身のレゲエ歌手、ミシュカの05年2nd。
205・Mishka:One Tree:☆★
   レゲエよりフォークっぽい曲のほうに惹かれた。ほんのりかすれた声は
   レゲエ一辺倒じゃなく、ロック寄りにハマる。(5)が名曲。レゲエでは(2)が良い。
   ダブ・インストの(9)も何気なく心地よい。

   サイドプロジェクトとし、英のロック・デュオ1stで08年発売。
   メンバーはArctic Monkeysのアレックス・ターナーと、The Rascalsのマイルズ・ ケイン。
204・The Last Shadow Puppets:The Age Of The Understatement:☆☆☆★
   60年代マージービート風のメロディだがアレンジが良い。ストリングスを
   豪快に使った太さや、ギター一辺倒に陥らぬバラエティなどが心地よい。
   思わぬ良さだった。シンフォニックに盛り上がるもプログレへ向かわず、歌モノ・ポップから
   ブレない。それでいて、ダンディなAORも志向せず甘酸っぱさを残す。不思議な嗜好だ。

2013/7/7    最近買ったCDをまとめて。

   GbVの新譜がまたもや登場。
203・Guided By Voices:English Little League:☆☆★
   ロバートのソロっぽい内省的な仕上がり。(11)のように明確なキャッチーさを
   持つ曲はあるものの、全体の印象と個々のアレンジはバンドっぽさが希薄だ。
   いっぽうでトビンは思い切りマイペースな独特のポップスを丁寧に聴かせる。
   正直、本盤をGbVブランドで狙うポイントがまだ、ぼくは理解できていない。
 
   デイヴィッド・アレンがAMTの河端やCottonを招いたバンドで04年の作品。
202・Gong:Acid Motherhood:☆☆★
   ゴング寄りのしゃっきりした音色。低音が物足りず混沌さが薄れたが、
   こういうAMTもありか。(13)のみ10分越えの長尺だが、他は短い曲が並ぶ。
   AMTよりゴングファン向けの盤かも。

   コステロの同作品をカナダの女性シンガーが別の弦カルと、06年に完全カバーした。
201・Kerry-Anne Kutz & The Abysse Quartet:The Juliet Letters:☆☆
   基本的にフルコピーのため、劣化のイメージ強い。もたついた歌でコステロのパワフルさが減じた。
   一方でハーモニー入れたアレンジは素直に評価する。弦はタイトだが少々弱いか。
   (8)の幻想性、穏やかな(12)、あたりが印象に残った。
   ボーカルに毒が無い分、弦の響きに耳が行く盤だ。

   だみ声が魅力の日本人ラッパーが04年発表の作品。実質1stソロか。ミニアルバムの規模だが。
200・4WD:4 ring Ku-do:☆☆☆★
   楽曲ごとにカラーがまちまちだが、基本はハッピーなシンセが印象深いトラック。
   どの曲も剛腕低音ぶちかましラップが楽しめる。
   歯切れよく叩きのめすさまが痛快だ。

   12年10月の作品でジョン・ゾーンの現代音楽3曲を収録した。
199・John Zorn:Music And Its Double:☆☆★
   ファン向けのゾーン流、現代音楽。ある意味、安定した仕上がりだ。
   アントナン・アルトーをイメージした作曲を3作品収録。アルバムのタイトルも
   ずばりアルトーの著作「演劇とその分身」からとられてる。ライナーを見る限り
   ゾーンはアルトーの精神的な価値観へ強く影響受けているようだ。
   収められた楽曲は躁的にわめく印象が強い。テンポやフレーズとは別に
   性急で饒舌で支離滅裂。スリルと乱雑のはざまを疾走する。聴いてて寛げないが、
   緊迫感で好奇心はくすぐられる。"A rebours"(ユイスマンス著:1884作"さかしま"をイメージか)はチェロの独奏へ室内楽が加わる編成。
   "Ceremonial Magic"は4楽章編成のVlnとDsのデュオ。連打する打楽器へミニマルに
   バイオリンが絡んでく。フリージャズ好きなら、これか。きっちり作曲されてはいるが。
   最後の"La Machine de letre"はゾーン流のアリア。ソプラノ歌手とオケでフィンランドにて録音された。
   変拍子のこの曲、You tubeで録音時の様子が伺える映像あり。

   02年の盤でメンバーが 福原まり/矢口博康/中原信雄/れいち/Dennis Gunn/松本治と豪華だ。
198・Fishermen Tittot:The Instant Fisherman:☆★
   テクニシャンぞろいだがテクニックひけらかしに陥らず、切ない独特の風景を作った。
   歌モノか演奏か軸足掴みづらいが、ライブハウスでのんびり聴くには良いスタイルだ。
   つかみづらくほんわかしたムードは、松本治好きならハマるかも。
   一部で即興っぽい場面もあるが、基本はアコースティック中心のアレンジされている。

   ここからはジャケ買い、まったく予備知識なし。ほぼ、フリージャズのはず。

   レジデンツと競演のスネイクフィンガーに捧げた本盤は90年発表のアメリカ盤で
   3ピース・ギターバンド編成にボーカルあり、ロックっぽいかも。
197・The Potato Eaters:The Potato Eaters:☆☆★
   ベースと歌のベン・ガイが中心メンバー、楽曲のほとんどを自作した。
   ポーグスあたりを連想するトラッド要素にオルタナ系のロック要素をどっぷり混ぜた。
   焦燥感とスピードを整ったアンサンブルで丁寧に奏でる。ライブで映えそうなアレンジ。
   寛ぎと広がり、ほんのり煙った風景は、じわじわ来る良さだ。

   92年の盤で独より。ピアノ・トリオだ。
196・Acoustic Art:Interlude:☆☆☆★
   良質のジャズ・ピアノトリオ。ネット検索の限りでは本盤しか活動記録が見当たらず。
   94年にAcoustic Art Quartett名義で"SFB"をリリース、だがベースも変わっており別プロジェクトっぽい。
   端正でメロディアスなセッション。ソロ回しは少々冗長だが、イントロや時折見せるきらめきのスリルは凄い。
   ドラムのシンバルワークも爽やかで良いな。後半でフュージョンっぽい展開も。じっくり聴きたい盤だ。

   92年、サックスとドラムのデュオ。それぞれ他にも楽器を演奏してる。NYより。
195・Iconoclast:The Speed Of Desire:☆☆
   本盤は3rdのようだ。今も活動を続けている。
   基調はドラムとサックスの即興。ダビング無で他の楽器も操るデュオ形式は、ジョン・ゾーンや
   ルインズを連想した。が、いまひとつスピード感が無く、物足りなさが残る。
   とはいえ録音は91年。当時としては十二分に先鋭的と思う。
   特にノイズやコラージュでなくジャズのアドリブ文脈を土台のアプローチとして。
   時代の変遷で埋もれる盤だが、当時の一里塚として聴く価値あるかも。

   01年ポルトガルより。ss+vln+g or dsトリオの変わった編成だ。
194・Ernesto Rodrigues / José Oliveira / Marco Franco :23 Exposures:☆☆
   23曲、それぞれ数分の作品を並べた。おそらく完全即興と思うが、リーダーシップはアーネスト・ロドリゲス(vln)か。
   メロディや和音でなく、風切り音やきしみを連ねた。ボウイングや発音方式に新奇さが
   あったとしても、音からは伝わりづらい。抽象的でランダムなノイズだ。だが、重なり合うアンサンブルっぽさは興味深い。
   ライブで映える音楽だ。ときおりパーカッシブな音が聴こえるのは、何かを叩く音か。
   リズムも和音もメロディも逸脱しつつ、小音の構造体はストイックながら微かなユーモラスをまとった。
   とはいえ、この手の音に興味無いと、あまりに無機質かもしれない。
   一曲ごとやアルバム全体の統一さやストーリー性は薄い。テープ流しっぱなしの即興から随時、つまんだのかも。

   97年アメリカ。David Kwan, Tim Waltersのデュオらしい。
193・Circular Firing Squad:Oxide:☆☆★
   金属と電子音を併せた無機質でインダストリアルなエレクトリック・ドローン。メロディや展開はほぼ無く
   淡々とパーカッシブなノイズが蠢いていく。単調な展開だが音量やざらついた音色でコケ脅かしせず
   ストイックな連続性を魅力に狙うさまが清々しい。
   (3)の冒頭でベースとカットアップの応酬はスリリングで、ゾクッときた。
   ただまあ、聴く人は選ぶ音楽だ。

   カナダで06年に発表。7人編成で弦が4人。クラシックに影響受けた
   ジャズを演奏か。ドラムがジム・ブラック。リーダーはサックス奏者だ。
192・Quinsin Nachoff:Magic Numbers:☆☆☆★
   端整でスリリングな室内楽・ジャズだ。たぶん弦カルがきっちり譜面、ジャズ・サイドが即興と思う。
   フリーでなく細かくアレンジのアンサンブルだが、全編にわたる和音の響きが常に緊迫感を煽った。
   クィンシン・ナコフのssやtsは野太くコントロールされ、きっちりしたテクニックを
   持っている。菊地成孔を連想した。
   ナコフのサックスはフリーの領域へしばしば踏込つつも、聴きやすさを残してる。
   ジャズのブルージーさやファンキーさよりも、即興芸術の側面に軸足か。
   だからこそ(5)のようにがっつりジャズが一際引き立つ。

   05年、オランダの作品かな?リーダーはts奏者。打ち込みやバイオリン、声の
   サポートを得てまとめたようだ。
191・Bo De Graaf:Ticket, A Musical Impression Of The N.Y.C. Subway:☆☆
   5曲入りミニアルバム。ソニー・ロリンズ参加とは、最後の「サインください」って部分らしい。
   やたら野太いテナーが主役で、時に打ち込みをバック、時にサウンド・スケープ風に展開する。
   即興ながら所々、しっかり作曲された箇所もあり。
   NY風のタイトなミニマルさとスピーディさを上手く取り入れた。
   暖かなテナーも含めて、聴きどころは多いジャズ。基本はテナー・ソロだけど。

   たぶん2ndソロ。フランスのパーカッション奏者みたい。
190・Firmin Frédéric:Batteriste:

   女性Vln奏者の06年米盤で1st。ds+ts+tb(ジョージ・ルイス)らが脇を固めた。
189・India Cooke:RedHanded:☆☆
   インディアの作曲らしいが集団即興にも聞こえる。バイオリンのむせび泣く音色はアフリカだけでなく
   平安時代の日本も連想した。ビート感は弱く、音が重なり合う優雅なサウンド。
   ユーモアは控えめ、シビアな世界を狙ったか。緊迫ほどはいかないが、単純に寛ぐのは難しい。
   たゆたう独特の世界観を、バイオリンを櫂に流れてゆく。ソロ回しより全体の響きを味わう志向性だ。

   デンマーク発04年の即興でドラムとVln,ラップトップのトリオ。
188・Wachsmann / Jørgensen / Riis:Expanded Botanics:☆☆★
   じわじわ来る面白さの音楽だ。
   抽象的な粒がばら撒かれる。メロディ、ビート、展開、すべてが曖昧。
   楽器はノイズマシンと化しつつも、騒音が目的とは言えない。
   なんらかの世界観を、構築か。だが奏者間のコミュニケーションは希薄だ。
   たぶん、ライブ演奏でこそ映える作品。互いのスペースやタイム感を探り、じりじりと蠢くスリルは音だけだと非常につかみづらい。
   全8トラックの1曲だけ20分強と長いが、他の曲と異差は見いだせない。あくまで断片で無造作、緊迫した音がたゆたう。
   Phil Wachsmann(vln)はウガンダ出身の44年生まれ。Pere Oliver Jorgensは58年生まれのデンマーク人。
   Jakob Riisは64年生まれのデンマーク人。ベテランPhilを招いた構図、か。
   なお本ユニットは続編"Refugium"(2007)もリリースしてる。

   ロシア出身のギタリストが99年にLEOより発表した。
   ドブロでE#、バンジョーでユージン・チャドボーンが参加してる。
187・Misha Feigin:Both Kinds Of Music:☆☆
   全曲が即興。スピーディなバラライカはフレーズよりも流れやテンションを意識のようだ。
   ライブで映えるタイプの音源だが、注意深く聴くとインタープレイのスリルもそこかしこにあり。
   すべてが奏者を変えたデュオで、弦楽器のかき鳴らしを多層的に表現した。4か所での録音を纏めており、
   (1)(4)がE#の自宅録音でE#のドブロとデュオ。(3)がケンタッキーのスタジオ録音、クレイグ・ハルトグレン(vc)と。
   (2)(5)と(7)はライブ。それぞれアラバマとスイスで収録した。すべて98年の吹き込みになる。
   前者がデイヴィ・ウィリアムス(eg)、後者はチャドボーン(banjo,g)と。
   (6)は録音クレジット無し。ラドンナ・スミス(vln)と。

   95年英盤。ジョン・ローズのVlnを軸に声の即興かな。
186・Jon Rose:Eine Violine Für Valentin:
   8人コンボでの即興群。ヴォイスやコラージュめいた場面もあり
   小芝居めいたユーモアも感じた。全員一緒よりも何人かがまとまって演奏してるようだ。
   古めかしくさみしげな欧州風味が漂う、ある意味寛いだ演奏だ。

   98年アメリカで二人の作品のスプリット盤。前者は豪出身の電子音楽で
   後者は米出身。同じく電子音楽らしい。
185・Annea Lockwood/Ruth Anderson:Sinopah:☆★
   (1)は46分、水音を基調のサウンドスケープ。じわじわと電子音が混ざり、次の自然音へつながる。
   静謐な時間と、じゃぶじゃぶかき混ぜる水の音が交錯した。
   (2)はさらにストイック、風切り音が22分にわたり続く。
   かなりハードコアなアンビエント。BGMにも集中聴きにも立ち位置が困る。瞑想向きか。

   99年米盤、g+p+saxのノイズ寄り作品か。
184・Iceburn Double Trio:Speed Of Light/Voice Of Thunder:
   奔流タイプのノイジーなフリージャズ。彼らのCDは92年に1stを発表、本作は8th。
   短めの曲で、次々にブカブカとサックスを鳴らす。ジョン・ゾーンほどスピード感は無く
   いわゆるフリージャズの鋭さや透徹さも控えめ。
   連打と勢い一発のパンキッシュな意味合いで聴くべきか。
   ライブは別と思うが、アルバムだと唐突な感が否めない。
   ほんのりアラビックな風味が個性だろう。

   94年独にて。ピアノトリオ+Vln編成で、Vlnはマーク・フェルドマン。
183・The Chromatic Persuaders:The Chromatic Persuaders:☆☆
   奇妙なテイストのジャズ。複雑さや前衛をほんのり浮かべつつも
   きっちり整ったアンサンブルは崩さない。熱さや破綻は微塵もなく、たんたんと
   きれいな演奏がプログレっぽい。すなわちグルーヴさは皆無だ。
   だがカタルシスとは無縁のテクニカルっぷりが異様な空気を醸し出す。

   06年TZADIK発表の日本人バンド。ギタートリオ、かな。
182・Muddy World:Finery Of The Storm:☆★
   くっきりしたシューゲイザー、な印象。アレンジの端々にプログレ的なキメが
   あるけれど、歌モノに象徴されるようにベクトルはロック寄りのバンドな印象だ。
   正直、なんでTZADIKから出るか分からない。ゾーンにはこの手のサウンド、新鮮なのかな?

   01年NYのThirsty Earから。エヴァン・パーカーの参加あり。大編成ジャズだろうか。
181・Spring Heel Jack:Masses:☆☆☆
   Ashley Wales, John Coxonのユニットにゲストを招く構成か。95年から活発にアルバム発表しており、
   本作が8thにあたる模様。電子音のドローンに弦の軋む音を重ねて
   心地よいが不安げな空気を基調とする。Roy Campbellのtpが北欧風に物悲しく鳴り、Matthew Shipのピアノが
   訥々と空気をかき回す。熱狂とは別ベクトル、寛ぎとも少々違う。焦燥しつつも穏やかな焦りを促す
   奇妙な空気感が面白いサウンドだ。ソロ回しよりサウンド全体のムードに軸足置いた。

   Poi dog PonderingのFrank Orrallが率いるサブ・ユニット。知らなかった。94年米盤。
180・Palm Fabric Orchestra:Vague Gropings In The Slip Stream:☆☆☆★
   歌無しラウンジ・アコースティック。ポイ流のけだるさを綺麗なアンサンブルにまとめた。
   正直、かなりつかみづらいアレンジだ。淡々と心地よく弦を中心で流れていく。
   聴いてて寛ぎつつも、凝った耳触りも感じる。不思議なムードを封じ込めた。
   楽曲のアドリブよりも、全体を重視した。カントリーやトラッドに収まらぬ無国籍な味わい。

   パリのギター・トリオによるクレツマー・ロックとある。2010年にTZADIKより。
179・AutorYno:Pastrami Bagel Social Club:☆★
   ゲストのクラとアコーディオン奏者も仏人のようだ。基本は3ピースのギター・インスト。
   野太い展開で、テクニックひけらかさず着実に突き進む。
   プログレっぽい展開をはさみ、構築性は高い。
   くっきりしたメロウなメロディへ馴染めるかがポイント。スピードはむしろ控え
   ゆったりとノリを作る。今年に2ndリリース、継続活動のようだ。

   01年、米のバンド。これは2管の正当ビバップかも。
178・The De Priest Project:Inclusion:
   二管の洗練モダン・ジャズ。スピードよりもダンディさを追求した。楽曲により歌も入る。
   カバーもふんだん、01年録音と思えぬ懐古趣味なジャズ。ただし、すごく聴きやすい。
   エコーたっぷりの響きが贅沢な雰囲気を演出する。
   新鮮味よりも伝統を丁寧に磨き上げたジャズ。
   本盤リーダー、 Akbar DePriestのドラムがいまいちトロいせいか。テナーはコルトレーン流のタンギング甘目フレーズ多し。
   本盤でも"ジャイアント・ステップス"をカバーしてる。やっぱりスロー気味だが。

   02年に発表、Screaming Headless Torsosのリーダーのソロ。あまり見かけない盤だ。この人、上原ひろみと共演とは知らんかった。
177・David Fiuczynski:Black Cherry Acid Lab:☆☆
   キメが多いアレンジをギター複数本アレンジで分厚く聴かせる。ゲストのラッパーが少々荒削りか。
   ラッパーはAhmed Best(ジャー・ジャー・ビンクス役と同一人物?)
   微分音がプレイの特徴だが、ごく自然にロック的なビートに混ぜている。(5)終盤ソロが良い。
   ベースはPatrice Blanchardに固定。ドラム3人を曲で使い分けバラエティを狙ったか。
   だがギターソロよりボーカルが目立つアルバムだ。
   本盤ではフレーズのずらしも多用し、つんのめりを強調した。

2013年6月

2013/6/23   最近買ったCDをまとめて。

   メルツバウの旧譜を入手。
   96年発表。シンセ中心な作品のようだ。限定1000枚。
176・Merzbow:Magnesia Nova:☆☆☆☆
   パンで空間を切り裂く、鈍色に鋭く光るノイズを皮切りにアナログ・シンセの野太い
   響きが轟いた。音数は少なめだが、ループを残しつつ別音を変化させジワジワと音像を
   変貌させていく。全6曲、別々の作品だが通しても聴けるダイナミズム。
   奥底でつんざく超高音と低音の蠢きが、素晴らしくスリリングだ。
   アルバムの副題は「ギリシャと日本文化の結合について」。曲名は全てアタナシウス・キルヒャーの著作から取られたらしい。
   タイトルを翻訳にかけても訳が出てこず、詳細は不明。
   ともかく、凛としたノイズが痛快に鳴る。シンセとフィードバックと電子音が。
   ロックなメルツバウが爽快に詰まったアルバム。

   元は86年に自主でZSF Produktより225枚限定の作品。こちらは
   スウェーデンのレーベルがボートラ1曲付CDで91年に再発した盤だ。
   ボートラはコンピ"Infidel Psalm Vol. 1" (1986 Mental Decay)で発表曲。
   ただし本再発盤はメルツバウに金が支払われず、公式にはブート扱いのうわさもあり。    
175・Merzbow:Antimonument:☆☆☆☆
   テープ・ループを駆使しハーシュ・ノイズを足した奥深く複雑なノイズが楽しめる。
   メルツバウ初期代表作ともてはやされる"抜刀隊"の姉妹作だが、むしろ本作のほうがぼくは好み。
   パーカッシブな重厚さと、ランダムさと構築美を行き来する創作力が炸裂した傑作。

   南条麻人のコンセプトを河端一が音楽化した東方沙羅が98年発表の2nd。
174・東方沙羅:冥鄭蛋廠:☆☆☆★
   南條のアイディアを河端が具現化し、南條が指揮する構図。前作より抜けが良くなって
   混沌さはさらに濃密となった。峰のオルガンが基調で鳴りつづけ、上物が奇怪に
   蠢いては無造作な音列を加算してゆく。多層構造のサウンドが刺激的だ。
   ビート感は希薄で、うねりを中心の世界。

   こちらが1st、95年の発表。
173・東方沙羅:Toho Sara:☆☆☆
   民族楽器を多重録音したエキゾティックな世界。ほぼ即興と思うが、構築性と独特の
   おどろおどろしさ有り。サイケな流れに耳を任せてもいいが、
   アレンジへ丁寧に耳を澄ませても興味深い。ただ、聴いてて沈鬱な世界に慣れるかどうか。波打つ空気はかなり、重たい。

   GbV関連盤の新譜。5曲入りEPでグレッグ・デモスが録音も担当。
172・The Sunflower Logic:Clouds On The Polar Landscape:☆☆
   ぽこんと出た本盤、いまいち何をしたいか掴めない。比較的ノイジーな要素も
   あるが、音響的なこだわりなさそうだし。出しっぱなしロバートが、他のレーベル向けに
   手元の音源からいくつか選んだ格好か。

   イギリスのフォーク歌手が今年5月に発表の新譜で、4thアルバム。
   英OCCで3位、米ビルボード200だと49位、同フォーク4位のヒットとなった。
171・Laura Marling:Once I Was An Eagle:☆☆☆☆
   前半がアメリカ、公判がイギリス。ピュアな勢いをぶつけた。
   b+ds,vcのバンド・アレンジだが、まず印象に残るのはローラの
   ギターかき鳴らしと吐き出すような歌。飾らず叩き付ける歌はディランなど
   アメリカのフォークを連想する。ざくざくと粗削りながら
   よく聴くと破綻や稚拙さが無い。思いをストレートに封じ込めた潔さを感じた。
   アレンジもいろいろ凝っており、チェロをループ風にまとめたインタリュード(8)の無機質さがよかった。
   アルバム後半戦は凛としたイギリス風の歴史を下敷きに独自の世界を表現する。

2013/6/8    CD屋でいろいろ物色した。

   95年発表。Wiki曰く本盤の楽譜も販売済。絵や指示付の35枚のカードらしい。
   演奏はマーク・リボーのギター・ソロ。短い曲が35曲あり。
170・John Zorn:The Book Of Heads:☆☆☆
   特殊奏法を駆使したソロ・ギター作品集。方法論を設定し、実演奏はインプロというゾーン流らしい。
   したがってギターと思えぬノイジーな場面や音色が頻発、しかも小品のため
   めまぐるしくゆったり観賞には向かない。むしろ前衛アイディア集とし
   緻密に分析や解説を含めて楽しんだほうが抜群に味わえる。
   しかし、ゾーンはそのアプローチに興味はないようだ。あくまで発想に凝るが聴き手へは伏せ自由度を与えるような・・・。
   詳しい論述込みで、本当は聴いてみたい一枚。

   TZADIKサントラ集の21作目。08年に発表された。
169・John Zorn:Filmworks XXI: Belle De Nature/ Rijksmuseum:☆☆☆☆
   ゾーンのフリーさを敬遠する人にお薦めする。実に聴きやすいアルバム。
   穏やかな室内楽が中心だ。2本のサントラを収録しており、前半はマーク・リボーのギターがメイン。
   バッキングを作曲し、アドリブをリボーへゆだねた格好か。楽曲ごとの多彩にしびれる。
   エレキギターのソロが特に良い。カッコいいなあ。
   後半はユリ・ケインのハープシコードを前面に出した、バロックスタイルにミニマルさやクレツマー風の
   風味を振りかけた。ゾーンも二曲でハープシコード、1曲でグラスハープを演奏してる。
   こちらは隅々まで作曲され、ところどころのソロをアドリブか。

   スティーリー・ダンのフォロワーってポップ見て興味持ち買った。
   英デュオで本盤は08年発表の2ndにあたる。
168・Talc:Licensed Premises Lifestyle:☆☆☆
   たしかにコード進行や展開にスティーリー・ダンを連想する。だが主流は
   70年代ディスコに思い切り影響受けたっぽい。ジャストなリズムとゴージャスな
   ムードを丁寧に表現した。耳ざわりは、たしかに良い。もうちょい覇気が欲しい。

   佐藤通弘(津軽三味線)とのデュオで04年発表。
167・灰野敬二/佐藤通弘:たゆたゆと ただよいたまえ このふるえ:☆☆☆★
   アコギと三味線のデュオ。声も控えめ、ひたすら弦の軋みが切り渡る。
   野太く三味線の弦が炸裂し、ストロークが力強く放たれた。
   やみくもなフリーでなく、安易な対話形式でもない。
   絶妙に距離感を保ちつつ、ぐいぐいと突き進む緊張感が肝だ。
   10分弱の比較的短めな曲を並べ、むやみな弛緩を回避した。
   轟音要素は無い。爆音で聴くほどに、空気の振動が産み出すスリルにヤラれる。
   灰野のギター手腕をじっくり聴ける一枚でもある。自由なふるまいだが
   決して無意味な音の羅列は無い。

   今は亡きスペースGRID605より09年に発売された。
166・磯端伸一x大友良英:Guitar Duo x Solo:☆☆☆★
   キッド・アイラックで05/8/4のデュオや磯端のソロ音源へ、当日録音に失敗のため
   改めて録音した大友のソロ2曲を加えた盤。甲高いのが磯端、太い音が大友か。
   断片を重ねる抽象的な対話。淡々と刻む音は空間を生かしつつ、躊躇わず発音し続ける。
   きしみ音とピッキング。残響をまとった音は連符より、単音の連なり空気を振動させた。
   ところどころノイズ入る録音だが、生々しい響きに惹かれる。
   無機質ながら肉体性を失っていない。ざらついた鈍い音色とハウリングが絡み合う。
   しっとりと、しとやかに。ポップ性は皆無。だが即興音楽にありがちの「ライブで無ければ魅力半減」は本盤に当てはまらない。
   場の雰囲気もろとも収録したような、軋む音がリアリティを持つ。

   大友良英、スネオヘアー、ともさかりえ、山本精一、高瀬“makoring” 麻里子らが参加の2010年サントラ。
165・OST:アブラクサスの祭り:☆☆☆
   映画は見てないがアルバム単独で聴かすよりも、映画寄りの構成な印象を受けた。
   コーエン"ハレルヤ"のカバーで幕開け、前半はセリフらしき声も混ぜたメロディアスな楽曲を繋げる。
   中盤から大友らしいノイジーな作品も。(14)の幻想性にしびれた。
   本OSTで大友はテーマの素朴でシンプルなメロディと、ノイズの両局面を投入した。彼の多面性がうまく合致した作品だ。

   ちゃんとは未聴だった。ボア98年の4th。
164・Boredoms:Super Ae:☆☆☆☆★
   リアルタイムで聴かなかったことを、強烈に後悔した。
   混沌を録音に留まらず、テープ処理も施した。冒頭のカットアップはスピードがさらに
   音源加工の切り貼りで加速する(1)から、(2)以降も場面は速やかに切り替わる。
   エコー量や響きも頻繁に上下させ、リアルタイム性とポスト・プロダクションの両面性を常に表現した。
   がっつりひずんだ音色に聴こえるのは、ぼくのシステムがしょぼいせいか。
   即興的なスペイシーさに、冷静なスタジオ加工も存分に施す。相矛盾も貪欲に取り入れた傑作。

   ジャケ買い。白人ギタリストでジャズとスウィングを混ぜた音楽性らしい。02年の盤。
163・Matt Munisteri And Brock Mumford:Love Story:
   ジャズの文脈ながら基本的には歌モノ。ギター・ソロも間奏の域は出ず。
   さらにカントリーやフラメンコっぽい要素、さらにディキシーも挿入し、図らずも黒人/白人文化の
   ミクスチャーを狙ったアレンジとなった。小粋なほんの少々しゃがれ声にハマれるかで
   本盤の魅力は変わる。ぼくはちょっと、物足りない。

   未聴だった。92年録音の1st。再発Q盤を入手。
162・忌野清志郎 & 2・3's:Go Go 2・3's:☆☆★
   小粒だがスコーンと抜いた清志郎節を楽しめる一枚。ロンドン録音ゆえか音作りが硬い。
   カチカチで軽い音。伸びやかな声を支えるバックが、今一つガッツに欠けるのも難点。楽曲はいいのに。
   カントリーっぽさを狙いつつ、細かいアレンジの工夫がそこかしこに。
   なまじバンド形式を取らず、清志郎一人の色に染めて欲しかった。
   (7)や(9)の切なさ、(13)のサイケな展開が良いな。

   2005年4月に秩父ミューズパーク音楽堂でボッケリーニ没後200周年とし
   若松夏美、 高田あずみ、森田芳子、鈴木秀美、懸田貴嗣が5重奏を録音した。同年発売の盤。
161・Hidemi Quintet:Quintets For Strings:☆☆☆★
   ガツンとボリュームあげて聴きたい。瑞々しく鮮やかな音楽だ。演奏は端正で破綻が無い。
   バロック時代をベースに、ほんのりロマンティックな旋律を潜ませる。
   時折聴かせる、幻想的な和音が何よりの魅力。メロディよりも響き重視っぽい。
   ハイドン、モーツァルトと同世代でチェロ奏者であったともいう。

   ライオネル・ハンプトンと"77年"に復活セッションした盤。
   85年の米フロリダRVT盤を入手した。
160・Dexter Gordon:Cute:☆☆★
   寛いだジャズ。スリルとは逆ベクトルで、ゆったりしたグルーヴにメロディアスな
   ソロ回しが次々と重なる。4バーズ・チェンジすらもダンディで愛おしい。
   夜、ゆっくり聴くのにぴったりだ。バッキー・ピッツァレリのギターやゴードン自身のサックスは
   ふくよかに旋律を紡いだ。ハンク・ジョーンズの小粋なピアノもいいな。

2013/6/5   注文してたCDが到着。

   英レーベルから04年発表の4枚組。どの盤も長尺1曲のみを収録した。
   コットン/津山/東/小泉/河端の録音。Disc4のみコットンが参加していない。
159・Acid Mothers Temple & The Melting Paraiso U.F.O.:The Penultimate Galactic Bordello Also The World You Made:☆☆☆☆
   長尺を巧みに利用した実験作を4枚、まとめた。大部ゆえの連綿と続く音像が骨太さを強調している。
   ファン向けではあるが、AMTの多様性と同時に長尺を飽きさせぬ持続性を味わえる大作だ。

Disc1 :☆☆☆★
   いったん録音の後、河端がシンセなどを足している。津山のブルージーな歌から迫りくるぺらっとしたギターソロに。
   河端流のソロはいったん一段落しておもむろに登場する。バンド全体でうねりながらテンポアップ/ダウンの
   さまが、とてもカッコいい。豪快に混沌で盛り上がり倒したところで、ふっと音が静かに鳴る。

Disc2 ☆☆☆★
   どっぷりサイケ。ドラムはゆったり刻む形で、輪郭伺えるギターソロの背後を
   低音とシンセが塗りつぶした。電子音がひよひよ舞う中で、ギターが重たくフレーズを刻む。
   がつんとデカい音で聴きたい。中盤でカズーっぽい音がエコーをまとい、賑やかに鳴った。
   そして再び、ギター・ソロへ。アンサンブルは加速し、高らかに上っていく。

Disc 3 ☆★
   さまざまな人間との即興対話の断片をサイケへ埋め込んだ一曲。コラージュ的な
   構成や音色の愉しみを味わう手もあるが、即興的なため聴き流したほうが良いのかもしれない。
   コミカルさ漂う残響まみれの対話を、グルグル"ボ・ディドリー"的なリフが繋ぐ。
   淡々と抽象/断片な会話が流れた。中盤はシンセの風。無伴奏トラッドの挿入がいかにも津山風だ。
   全体的には、面白いけどAMT的なカタルシスを求めたら拍子抜け。壮大な実験作だ。

Disc 4 ☆☆
   ドローンとシンセの酩酊サウンドが、ひたすら連続する。盛り上がりをあえて切り離し
   疾走せず高まったままのAMTを味わえる一枚。動きは凄くゆるやかで、気が付いたら
   テンションあがっていた。ドラムはごく小さくミックスされビート感は希薄だ。
   渋く蠢く、ダーク・アンビエント作品。

2013/6/1   久しぶりにレコ屋へ。まとめて色々買ってきた。

   11年に300枚限定で発表のコンピ。メルツバウ音源は04年コラボ音源の再発と、
   10年に以下三者で共演の音源を収録した。
158・The New Blockaders/Merzbow/Anomali:Kali-Yuga Karma:☆☆☆
   TNBとMerzbowは狙いが似ており、剛腕ハーシュ。"逢魔が時"と名付けた
   メルツバウ参加曲で、急に静けさ多いノイズに変化し新鮮だった。タイトル意識か。
   TNBの理解度は不明だが。aNoMaLiはコラージュ風の不安をあおるアプローチ。
   最終曲での全員参加は、混沌さが見事に表現され興味深い。5分足らずで短い。
   このコンセプトこそ、アルバム一枚使ってじっくりやって欲しかった。

   ゾーン関係で持ってないのを購入。これは00年TZADIK版ゲーム・ピース。77~78年、彼の活動で初期音源にあたる。
157・John Zorn:Lacrosse:
   ゲームルールが分からず、かつ音だけだと楽しみにくい即興ではある。
   コラージュ的にデュオを繰り返すルールっぽいが。
   抽象的で無作為の音が延々と続く。ただし緊迫感一辺倒でなく、
   音数少ない場面もしばしばあるため、ノイズ・アンビエントと聴く手もあり。

   聴きそびれてた。この共演盤は04年にTZADIKより。
156・John Zorn-Yamataka Eye:Naninani II:☆☆★
   Eyeがシンセを多用しスペイシーな場面多い。短兵急な声とサックスの応酬に留まらぬ
   音楽の幅を聴ける。そのぶん、ゾーンがサックスを置くとサウンドの中心が見えづらいが。
   デュオより一丸となって音楽を作った感じだ。

   前に買ったはずだが棚に見当たらず。4人のNY強者のインプロ競演、98年作。
155・Zorn, Horvitz, Sharp, Previte:Downtown Lullaby:☆☆★
   ベース抜きアンサンブルを採用で、すこんと抜けた響きとなった。
   基本はフリー、ソロ回しでなく全体即興。NYらしい混沌スピーディな色合いだが
   ところどころで顔を出す重厚な響きが、この盤での特徴か。
   緊迫感やスポーティさよりほんのり滲む闇と明るさの共存が独特だ。

   E#は他にも見つけた。これは98年、Tectonics名義では2ndか。98年盤。
154・Elliott Sharp/Tectonics:Field & Stream:☆☆
   打ち込みビートを基調に即興ギターベースを載せたアルバム。楽曲とはいえメロディと変奏、みたいな
   分かり易さは薄い。数曲ではFrank Rothkammのドラムンベースやジーナのサンプラーを土台に、E#がサウンドをかぶせた。
   テンポも曲中でしばしば変わりギターが波打つようにソロを流す。
    ビートは多層し一筋縄で行かぬ抽象的な面持ちだ。単なるダンス音楽とも異なるが、明確なビート感は常にあり。
   混沌を突き抜けた構築性が目標か。

   コラージュ的な多重録音。ジーナのソロ名義だが、実際は彼女が参加(主宰?)のバンド、
   Gangster bandの作品と見るべきらしい。このバンドでは"ISABELLE"(1995:Avant),
   "MOUTH=MAUL=BETRAYER"(1996:tzadik)に続く三部作の最終盤。
153・Zeena Parkins,Elliott Sharp:Psycho-Acoustic:☆★
   一分足らずの小品も含み、数分程度の短めが多い全17曲入り。
   ランダムな即興を重ねた感が強い。若干のループ性でビートを作るが
   抽象的な音像が全体を貫く。何らかのコンセプトあるとしても、ぱっと聴きでは掴めない。
   ノイズと電子音の海から、じんわりとフレーズやリズムが滲んでくる。

   ジーナ嬢はもう一枚入手。99年のTZADIKソロ名義。エンジニアとプロデュースはE#だ。
152・Zeena Parkins:Pan-acousticon:☆★
   組曲形式で即興要素も多い一方、アプローチは理性的。現代音楽として聴いたほうが
   しっくりくる。アンサンブルのダイナミズムより、混沌を強引に分類整理したような構成のスリルが魅力か。
   メロディより吹きすさぶ風のような空気感をまず意識した。

   マヘルのリーダーがPSFより09年発表のピアノ・ソロ。
151・工藤冬里:「彼は窓から帰ってくる、手に職を持って」:
   ランダムな音が動く。ノイジーさを狙わない分聴きやすいが、ちょっと引っかかりに欠ける。

   フランスとスイスにて、野外セッションなど複数の音源をまとめたアルバム。
   久田舜一郎(小鼓.voice)とGerald Zbinden(g)の参加した曲もあるみたい。
150・斉藤徹/Michel Doneda:春の旅/Spring Road 01:☆☆
   ここで録音時の様子が読める。アルトー特集な詩のフェスティヴァルで、さまざまなパフォーマンス断片を収めたCD。
   サウンドスケープ的な風景と、思い切り抽象的なノイズの詰まった作品だ。
   緊迫感の奥底に、かすかなリリカルさあり。音だけだと寛ぎにくい耳ざわりだが
   むしろ屋外でのびやかに聴いたほうが本盤の魅力は分かり易い。強烈な即興だ。

   一枚100~200円で転がっていた。実は上のE#もその1枚。適当にジャケ買い。

   90年に¿What Next? Recordingsより。NY系のインプロバイザーを集めたコンピかな?
   Zeena ParkinsやIkue Moriなどの名に惹かれた。スタジオの一つにクレイマーのノイズNYが使われている。
149・Exquisite Corpses:From P.S. 122:☆☆☆★
   まさに、アメリカ版のギター兄弟。コーディネーターはDoug HendersonとGuy Yardenだ。
   即興ミュージシャンを大勢集め、実験形式でインプロを重ねた。すべて1stテイク、とある。
   複数のゲーム・ピースを短いトラックで重ねてる。対話、がテーマか。
   加工後に別演奏を即興的に重ね、さらにミックスで出音を操作する手の込んだつくり。
   したがって多彩な楽器の音楽家が参加してるが音だけでは楽しみづらい。仕掛けが聴いてるだけだと分からず、
   単なる無作為カットアップかミクスチャーにしか聞こえないため。
   ライナー読みながら現場感を想像し、さらにその上で、音色や出音の多様さを味わう盤。
   トラック毎の奏者がライナーより不明が残念。この手のアイディアは、補足情報が多いほど楽しめる。
   ぱっと聴きで楽しみづらいが、じわじわと楽しみたい一枚。難点は、じっくり味わうのにマゾヒスティックな
   集中力がいるところ。要するに、あんま面白くない。アイディアは刺激的なんだがなあ。

   56/57年でピアノが異なるセッションを収録したカルテット編成。
   12曲入の88年ブルーノートCD再発盤を入手した。
148・Art Pepper:Modern Art Vol. 2:☆☆☆☆
   渋いっ。ベースのみをバックの(1)から、ピアノ・トリオ編成の(2)へ。しだいにダンディに
   盛り上げつつ、アルトはあくまで密やかに鳴る。(3)のスインギーさも良いぞ。
   低音部の響きがセクシーだ。これはボートラ入りで輸入盤、"Blues out"が(5)なのが難点。
   後半はアップでロマンティックに吹くさまが楽しめる。溌剌ながらも、どこか影有り。

   56年にアラディン向の録音をブルーノートから発表か。同じく88年のCD再発盤にて。
147・Art Pepper:The Return Of Art Pepper:☆☆☆☆
   56年8月と57年1月の録音を収録。メンバーはペッパー以外全員違う。特に凄いのが56年8月のほう。
   サックスのメロディ、リズム感、躍動性、すべてが素晴らしい。ペッパーが鳴った瞬間、
   空気がクールに鳴る。サイドメンも手堅くグルーヴするが破綻はしない。だからサイドメンのソロのときと
   ペッパーの危うさを内包したソロでは、音の色合いが全く違う。10曲中8曲が自作、ラテンを吸収した
   ペッパーの懐深さが堪能できた。
   後半5曲は少々、モタってきた。サイドメンのソロは時折単調、ペッパーの色も少し滲んだ感じ。

   サヴォイへ47年のスタジオ録音をずらり並べた盤。これはマイルスのオケ名義と
   自らのクインテットセッションより。マイルスは全音源に参加してる。
146・Charlie Parker:The Complete Studio Recordings On Savoy Years Vol.3:☆☆★
   DJ風にランダム再生したら面白さが分かると思う。ハイスピードのアドリブを
   疾走する一方で、数秒程度のミス・テイクがいいブレイクになった。
   パーカーだけでなく、他のミュージシャンのソロも楽しめる。ドラムは双方、マックス・ローチ。
   野太くビートを刻み倒す。爽快なバードのアドリブは、楽しい。
   クロノジカルな意味で言うと、尻上りに良さが増す。

   99年のアルバムで自身のサンプラー演奏をデイブ・ダグラス(tp)や
    Jim Pugliese(Per)それぞれと、セッション音源を集めた盤のようだ。
145・David Shea:An Eastern Western Collected Works:☆☆☆★
   ミニマルで無機質なサウンドだが、不思議と惹かれる。口琴にメロディをかぶせた(3)が
   印象深かった。tpがフィーチュァされた数曲も、硬いムードが
   見事に調和している。そっけない一方で、深く聴きたくなる一枚。

   NYの白人テナー奏者が96年に発表したカルテット編成のジャズ。
144・Jed Levy Quartet:Sleight of hand:☆☆★
   オクターブキー使わぬ、低音域の音色が何とも色っぽいサックスだ。
   フレーズはハード・バップ基調ながら、どこか洗練された。特にピアノのバッキングが
   サックスの端正さに色を添える。ドラムのしゃきしゃきしたビートも
   破綻せず、フリーっぽいフレーズに行ってもカッチリなムードを崩さない。
   繰り返し流してると、整った熱さがにじみ出るジャズだ。

   トロンボーン奏者が87年発表のアルバム。コンボ編成のようだ。
143・Steve Turre:Viewpoints And Vibrations:☆☆☆
   "Anthenagin"(1973)参加のブレイキー門下生、ウディ・ショーと多くの共演をしLester Bowie’s Brass Fantasyで吹いたスティーヴ。
   リーダー作1st"Viewpoint"(1987)に3曲追加し再発盤がこれ。楽曲ごとに編成は大きく異なる。
   ジョン・ファディスと共演曲が多いかな。オリジナルは4曲、
   他はカークが3曲にJJ・ジョンソンとエリントンにマイルスを取り上げた。
   のびやかで軽快なトロンボーンが特徴で、滑らかにジャズが流れてく。
   だが終盤のカークで粘っこさも表現し、スティーヴの幅広さを改めて感じる。テクニシャンの一枚。

   Art Ensemble of Chicagoのサックス奏者がピアノトリオ編成をバックに95年にデルマークへ吹き込んだ。
142・Roscoe Mitchell:Hey Donald:☆☆
   サイドメンはヒース三兄弟のアルバート・ヒース(ds)、AACMゆかりのジョディ・クリスチャン(p)、
   Art Ensemble of Chicagoつながりマラカイ・フェイヴァース(b)ら。
   (1)のブルージーぶりは(2)のフリーで一転塗り替えられる。か細いサックスやフルートをロスコーは吹き、
   アドリブでの歌心はごくわずか。アブストラクトさが強い。だがアルバムでは時折、
   妙に滑らかなジャズの挿入を繰り返す。このすわり心地の悪さ、もしくは雑食さが本盤の主軸だ。
   モダンからフリージャズまで一気に、かつランダムに詰め込んだ一枚。
   曲調がコロコロ変わるためBGMには向かないが、ジャズの懐深さを聴くには良いかも。

   05年に伊Soul Noteより発表、4管+Vib/b/ds編成。
   ジョヴァンニ・ファルゾンはミラノ音楽院出身、ジャズとクラシック双方で活躍という。
   本作はジャズのリーダー作として、たぶん5th。
141・Cigvanni Falzone Septet:Suit for bird: ☆☆☆
   すべてファルゾンの手による組曲な本作は、アドリブ・ソロの時も室内楽的な端正さが漂う。
   リズム隊もきっちり刻み、タイトでヘルシーなジャズだ。
   だが楽曲ごとに微妙なムード変換有り、トータル性ある見事なアルバムに仕上がった。
   ソロの妙味うんぬんより、全体像をまとめたセンスを楽しみたい。


2013年5月

2013/5/31   昨日のライブ物販で入手。

   2013年ツアー用の300枚限定CD。2012年同ツアー音源を収録した。全6バンド収録。
    (AM Guru Guru、AMT SWR、Manitatsu, 赤天、Zoffy、Mani + 河端)   
140・Acid Mothers Temple SWR:Guruguru Matsuri 2012:☆☆☆
   ショーケース、もしくは拡販アイテムに最適な内容となった。ちょっと甘い録音だが
   きれいに各バンドとも楽しめる。赤天は音だけ聴いてると、けっこう真面目。
   にぎやかなSWRで初めて、渋くAM GURU GURUで締める構成もいい。

   メルツバウの新譜で、本共演3作目。
139・Merzbow Vs Nordvargr:Partikel III:☆☆☆
   埋め尽くすノイズとサイレンのような電子音。対話や構築でなく、てんでに
   空間を塗りつぶしていくかのよう。テンションの高さや勢いを
   前面に出さないが、スピード感はきっちり感じる。
   明確な電子音がNordvargrでハーシュがメルツバウ、かな?

   メルツバウの新譜。12年末~13年初頭のスタジオ音源を収録。
138・Merzbow:Takahe Collage:☆☆☆☆
   枯淡の香り。音色はノイジーだが、構造はシンプルかつアンビエントの構図だ。
   ドローンを軸に上物で打音やアナログ・シンセ風の野太い音が蠢く。
   暴力的な音色を柔らかな響きに丸ごと変えたら、そのまま寛ぎの世界へ向かう。
   つまりボリュームひとつで、がらり表情が変わる作品。
   孤高で端整なメルツバウの美学に触れる一枚。ロック風の勢いやビート感は敢えてそぎ落とした。
   (3)のみ幾分、メルツバウ流の脈動でグルーヴを出すアレンジを採用した。

   ピナスと仏鍵盤奏者のデュオを基調に、ゲストを招いた編成。2012年発表で千枚限定。
   95年~11年までのライブ音源から抽出された。
137・Pascal Comelade / Richard Pinhas:Flip Side (Of Sophism):☆☆☆★
   漂う電子ドローンの上で、さまざまな音楽が躍る。ピナスの音色は主役でなく主軸。根底を貫いた。
   混沌だがざわめく爽やかさに惹かれる音楽だ。
   電子ジャングルで吼える鳥や獣の蠢くさまを収録したかのよう。
   前衛だが方法論よりも世界観を狙った印象が強い。実際には何年もの音源を混ぜており、偶然だが。

   ピナスとds,synth,voの共演らしい。2001年のアルバム。
136・Richard Pinhas & Maurice G. Dantec:Le Pli(Schizotrope III):☆☆☆
   エルドン/SF作家のダンテックとピナスがタッグを組み、ドラムとエレクトロニクス奏者が加わった編成。
   ピナス独特のドローンの海へ、ダンテックの詩朗読が乗る。テクノなムードに
   なんともダンディなふるまいだ。奥行あるスペイシーさが魅力。
   ふうわりと包み込み、そのまま奥底へ惹きこまれた。
   細かな電子ビートに硬質なドラムが絡む。上物はほとんど展開せず、雄大に流れる。
   かすれ声の語りによる、スリルをまといつつ。
   ノイジーな展開が多い割に、端正にまとまったサウンドは親しみやすい。

   古楽器演奏イベントの作品で、灰野敬二が1曲で参加した。2012年の発売。
135・V.A.:New Music For Old Instruments:☆☆☆★
   古楽器を使った前衛即興集。クラシックから離れ、あくまで楽器をアプローチ材料とし
   奔放に演奏する。ドローンめいた単調さが眠りを誘うが、方向性や
   サウンドは、そうとうに突飛でノイジーなもの。アコースティック楽器故に音色は幾分穏やかだが。

2013/5/16   最近買ったCDをまとめて。

   多彩な楽器を弾き分けるソロで05年の発表で、3曲目は40分以上の大作。
134・河端一:Inui.3:☆☆☆
   酩酊するサイケ・アンビエント。最終曲はミニマルな連続フレーズと思わせて、
   ころころと微妙につんのめる変化も楽しい。
   音像を埋め尽くす分厚さのため小さな音でも味わえるが、本領はやはり大音響、だろう。

   00年ソロ。各種楽器を使い分けた作品集だ。
133・河端一:Inui.2:☆☆
   平たい、ドローン。メロディや即興性、轟音のカタルシスではなく
   淡々と音が流れる。穏やかな時間の経過を楽しみつつ、生演奏ならではのダイナミズムを味わえる。

   伊Silent PlaceがLPのみで06年発表のソロを、米Importantが発売当時付属の7"音源(3)、(4)も含め、07年にCD再発した。
132・河端一:Hosanna Mantra:☆☆☆★
   曲ごとにアプローチを変えた多彩なダーク・アンビエントを楽しめる一枚。
   ミニマルなブーズーキのフレーズ・リピートを軸にゆったりと
   ノイジーなエレキギターのうねりがかぶさる(1)。(2)は一転して、ダーク。シタールのドローンにギターをダビングした。
   (3)は声も使って、よりサイケ・トラッドな風味も出した。そして深遠な森奥を連想するアコギの多重奏、(4)に向かう。

   2010年、イタリアで発売。トリノのミュージシャン、Stearicaとセッション盤。
   ミックスはStearica側で実施かな?
131・Stearica & Acid Mothers Temple:Stearica Invade Acid Mothers Temple:☆☆★
   どこか異質なAMT。硬質な音色、きっちりミックスや録音されたサウンド。
   シンセとサイケなギターが混ざるアンサンブルは、いつになく整った面持ちだ。
   プロデューサーの趣味だろうか。端正なAMTを味わえる一枚。
   個人的には、もっと混沌なほうが好みだが。

   12年の4月にブタペストのスタジオで録音、ミックスは秋田昌美が施した。
130・Merzbow, Mats Gustafsson And Balazs Pandi:Cuts: ☆☆★
   主役はパンディに譲ったか。音像全体をメルツバウが覆う一方で、楽曲の軸とベクトル感は
   パンディのドラムと電子音が担った。野太いシンセがグスタフソンの出音かな。
   サックス出るまで誰がどの音か、今一つわからない。
   ライブ音源のためかダイナミズムは控えめ、べたっと濃密なノイズが轟く。
   メリハリは少なめ、三者三様の咆哮が聴きどころか。

2013/5/13   最近買ったCDをまとめて。

   08年伊のレーベルより発売、長尺2曲を収録した。
129・Acid Mothers Temple & The Melting Paraiso U.F.O.:Interstellar Guru And Zero:☆☆★
   河端/津山/東/志村の骨子メンツで演奏。(1)は声のループにアコギが絡む静かなイントロをたっぷり、
   やがてズブズブの電気サイケへ沈んでいく。左右に激しく飛ぶミックスで脳髄を揺さぶった。
   (2)はシンセの大盤振る舞い。ところどころアンサンブルが盛り上がるところもあるけれど。
   基調は白玉シンセの脈動だ。広がり、拡大し、塗りつぶし、高まる。
   シンセのきらびやかなふくらみを味わえる。

   02年英レーベルより2枚組で発売。ザッパを下敷きのタイトル。
128・Acid Mothers Temple & The Melting Paraiso U.F.O.:Absolutely Freak Out (Zap Your Mind!!) :☆☆☆★
   大勢のミュージシャンを招き、河端がプロデュースと録音の双方を担当した。
   ハードコア・サイケ。冒頭から強烈な左右にパンする音像が現れ、そのあとも
   がぶがぶに加工したジェット・マシーン的なサウンドが溢れる。
   ザッパ的なクリーンでタイトなアンサンブルより、胡散臭い濃密さへ軸足置くことで
   本盤のAMTはザッパへのオマージュとした。
   Disc2でガラリと本盤は表情を変える。ミニマルで電子音楽的な(1)から、ノイジーで左右に強烈パンのギター咆哮の混沌な(2)
   沈鬱なヘビー・サイケの(3)と飄々とシンセが動く(4)。曲ごとに大きな表情を変える。
   うがち過ぎだしAMTの醍醐味でもあるが、この極端に広い振り幅も、ザッパへやんわり牽制かもしれぬ。

   津山、一楽儀光とのユニット。タイトルだけでなくジャケもザッパのオマージュ、02年の作品。
127・河端一 & The Mothers Of Invasion:Hot Rattlesnakes:☆☆☆
   別立てユニットの必然性は分からない。河端ソロとAMTの中間な印象を受けた。
   だからこそ、あえて別ユニットにしたのかも。
   サウンドは特にザッパ色ではない。もやもやと蠢くサイケ・インプロ、いつもの河端節だ。
   (1)は4分ほどじわじわイントロののち、ドラムが載って一気にロック色強くなる瞬間がカッコいい。のびやかなギター・ソロが聴ける。
   そうか、この辺のムードはザッパっぽいな。リバーブたんまりがAMT流。
   (2)はパーカッシブ要素無く、ベースも存在感薄い。多重ギターのディレイによるミニマル・アンビエントで河端ソロの感じ。
   (3)は再び疾走アンサンブル。AMTマナーにのっとった展開で、意外性は特になし。

   11年独レーベルより、マニとのコラボ。ライブ音源と磨崖仏スタジオで録音され、ミックスが吉田達也。
126・Mani Neumeier & 河端一:Samurai Blues:☆★
   混沌デュオ。吉田達也のミックスでドラムがカチカチに響く。
   基本的に顔ぶれで想像内の即興なため、ファン向けか。
   テンション高めで疾走する。

   CD3枚でアフリカン・アメリカンの音楽史を並べたコンピレーション。
125・V.A.:Africa In America (Rock, Jazz & Calypso 1920-1962):☆☆☆★
   丁寧に編まれたコンピ。ライナーを読み切れていないが、この手の盤は
   きっちりと解説を踏まえながら史料的に聴くべきか。
   エキゾティックな黒人音楽を中心に並べ、アフリカ文化がアメリカナイズのさまを描いた。
   マッチョイズムとわずかにずれる、肉体主義が黒人音楽と分析してるかのよう。
   "チュニジアの夜"を数テイク入れるなど、楽曲よりコンピのコンセプト優先な選曲だ。
   古い音源ばかりなのにノイズも無く綺麗なマスタリングを施した。

   無性に宇多田ヒカルが聴きたくなり、アルバムをまとめて入手。
   01年の2nd、500万枚以上の販売を達成した。
124・宇多田ヒカル:Distance☆☆☆
   1stに次ぐ完成度と思う。切ない節回しとフレーズ最後をビブラートさせる
   独特の歌い方、そしてハイトーンでのかすかな掠れ。宇多田の特徴がきれいに
   次々と表現され、レイヤーのごとく鳴るバックトラックが浮遊感を強調した。
   はっとするメロディよりも、楽想のもつ宇多田色に惹かれる一枚。

   02年、3rdは全世界で400万枚の売り上げ。
123・宇多田ヒカル:DEEP RIVER:☆★
   統一感はある。のぺっとしたムードは独特の強みとなり、切なげな歌い方が全開。
   滴る情感をふんだんに詰め込んだアルバム。

   04年にUatada名義で海外リリース。宇多田ヒカルで日本にて売れた後、実質的な
   海外デビュー盤か。1.3百万枚の売り上げ。
122・宇多田ヒカル:Exodus:☆☆
   逆説的に宇多田の魅力を理解しやすい一枚。ウェットさを強烈に溶かし込んだ楽曲と、
   切なさを猛烈に刺激するハイトーンの歌い回しが逆に減じられた。
   全英詞で海外マーケット意識のせいか。妙なオリエンタリズムが透かし見える一方で、
   宇多田の歌声は軽い打ち込みビートを滑りきらず、はみ出しかねない。
   皮肉なもんだ、薄めたもので耳が進むとは。(4)の不安定な明るさが良い。

   06年の4thソロ。1.3百万枚の売り上げ。13曲中6曲がシングルだがアルバムの統一性はある。
121・宇多田ヒカル:ULTRA BLUE:
   本人の打ち込みを中心の編曲。かっちかちのサウンドとベタリ貼りつく多重ボーカルで
   プラスティックさを出すが、にじみ出るセンチメンタリズムと妙に耳へすっと入る歌詞の
   イメージに振り回される盤だ。本質的にストーリー性でなくコラージュのように断片を積み重ねた印象あり。
   芯の作りものっぽさと歌声から溢れる情感の層状性と違和感は興味深いが、どうもいまいち音世界へ馴染めない。
   アレンジャーを別に立てるか、もっと抜けの多いアレンジだと楽曲映えたのでは。中途半端に整っている。

   08年の5thソロ。2百万枚売り上げた。
120・宇多田ヒカル:HEART STATION:☆★
   13曲中10曲がタイアップやシングル、当時のまとめ盤的に聴けたんだ。
   打ち込みはほぼ全曲、宇多田自身が行ってる。小刻みなビートにベースで引っかけを作り
   白玉ストリング音色を載せる。高音部が特段に切なく響く、独特の音色だが
   本盤では多重ボーカルでプラスティックな透明さを狙った印象あり。
   作りこんだ曲より、素朴な(11)が印象深い。王道で一曲選ぶなら(2)かな。

   98年発売、2ndソロ。テクノ界では評判の盤らしい。
119・砂原良徳:TAKE OFF AND LANDING:☆☆☆
   穏やかで寛いだ印象。仮想の空港を舞台のトータル・アルバムなコンセプトはとてもいい。
   テクノならではの、フュージョンっぽいビートが効きつつ耳ざわりは甘い世界を作った。
   あからさまな電子音楽よりも(5)みたいな似非トロピカルなサウンドのほうがアンビエントさを
   逆に強調しており面白い。ミューザックをミュージックへ逆昇華した丁寧な作品だ。

   デビュー~初期4thまででリ・アレンジ/再録、04年の作。新曲2曲を当時、収録した。
118・Chara:A Scenery like me:
   全体的に甘いイメージでまとめた。コケッティなCHARAの魅力が逆にぼやけたか。
   (7)のアレンジが結構良かったかな。切ないムードもやんわり崩した。
   特に1st収録曲は、オリジナルの擦り切れたスリルが良いと思う。


2013年4月

2013/4/30   注文してたCDがまとめて届いた。あと、最近買ったCD。

   黒田京子の新譜は、約20年ぶりのピアノ・ソロ。ライブ録音とスタジオ録音を混ぜた。
117・黒田京子:沈黙の声:☆☆☆☆☆
   黒田京子トリオ時代のレパートリーと、描き下ろしの新曲でまとめた一枚。信頼できる調律師と組み
   丁寧で繊細な音作りを行った。テンポは自由に動き、音量のダイナミクスもすさまじい。
   音質の良さが聴きものだ。特にピアニッシモでの、ふうわりした残響に惹かれる。
   演奏は堂々と羽を広げ、雄大でドラマティックな世界を足場に
   隅々まで即興的に目配りした自由さと瞬発力を備えた。
   デビューから現場でキャリアを重ねたベテランゆえの、奥行深い底知れなさを体感できる。

   下田逸郎作曲を柴田奈穂(vln)がアレンジし、ベースや
   弦カル編成で収録したようだ。ライブ物販で購入のCD-R。13年発売の新譜。
116・ひとひら工房:ひとひらあわせV / 名前のない舟:☆☆☆
   涼やかな弦アレンジの室内楽アンサンブルが、とても心地よい一枚。
   下田逸郎は浜口庫之助に師事し、東京キッドブラザーズの旗揚げ参加もという宮崎のSSW。
   本曲は語りこそ入るが、基本はインストだ。情感滲む旋律をラテン風味に溶け込ませ
   端正で上品な音楽に仕上げてる。センチメンタルさに逃げず、溢れさせず、
   丁寧な揺らぎとして表現した。

   "Tsuki No Wa"のFuminosuke(vo.&G)と庄司広光(electronics)、Potoratch(sitar、per.)、山田宗弘(guitar)がメンバー。
   03年に発表した1stアルバム。作品は本作しか残して無いっぽい。
115・棗:マラケシの花:☆★
   シタールを織り込んだエスニック・サウンド。高音きついが真夏で静かに聴くには良いかも。
   ほのぼのメロディをセンチメンタルに奏でた。

   英Ochreから02年発表、即興でダビング無しに録音された。
114・河端一:Infinte Love:☆☆☆★
   エレキギターと思えぬ音色も味わえる全3曲のアンビエント。(1)(2)は各約20分、(3)は40分越えの大作。
   ひたすら続く電子音っぽい響き。だがこれが、心地よい。
   足を踏み抜いた浮遊する細密な空間を漂う。変化はごくわずか。波打つさまを強調した。
   (3)が一番ギターっぽいかな。ディレイを多用した多層的なサウンド。
   ダビング無でこれができるんだ。すごい。

   05年に独FunfUndVierzigより。長尺2曲のギター・ソロ。公式ディスコグラフィに未記載だが、ブート?
113・河端一:Jellyfish rising:☆☆☆★
   多重ギターで波打つサウンドを作り上げた。ディストーションは無く、ディレイとリバーブで
   ミニマルに揺らぐ音像が心地よい。アンビエントだがフレーズの重なりが
   前のめりのスピーディさあり。くつろぎよりも活性化を促すかのよう。
   意外に、河端一のアプローチとしては新鮮だった。

   村上秀一プロデュース、ヤヒロトモヒロ(per),鬼怒無月(g)バカボン鈴木(b)らが
   参加の、アコースティック・ギタリストのアルバム。P-Vineより98年の盤。
112・岡本博文:Jawango: ☆☆★
   全体的には、あっさりした印象だ。鬼怒無月は半数の5曲にサポート役で参加した。
   主役の岡本博文は(g、b,g-syn,compose&arrenge)のクレジットで
   サウンド・コーディネートな位置づけか。ただしアレンジはポンタが全面参加の模様。
   バンド形式ではない。ポンタ参加は4曲と少なく、何とも贅沢なメンバー選定だ。
   ほんのりブラジルやラテン風味のさわやかな曲が中心、プログレっぽい(5)や(6)、(8)が逆に印象深い。

   94年発売の黒人シンガー&ラッパーの1stアルバム。
111・Clever Jeff:Jazz Hop Soul:☆☆★
   発売当時はかなり違和感ある先鋭的なアプローチと思う。ジャズの不穏さを前面に出して、
   一小節ループのひしゃげたトラックを多用する。錆びた音色が全曲にわたり、
   裏路地のタフネスを表現するかのよう。歯切れ良いラップは異様にリバーブに包まれ
   危ういムードを演出した。インテリ狙いかな。

   ナイジェリア出身のシンガーが08年発表の2nd。
110・Siji:Adesiji:☆☆☆
   イギリス風の軽やかさとアフリカの粘っこさが良い具合にミックスした。
   歌モノに留まらず、ジャズ的要素もあり。打ち込み中心に重ねたサウンドは
   洒落たムードで流れていく。

2013/4/28  最近買ったCDをまとめて。

   プリンスが全面バックアップの女性ギタリストが、NPGよりアルバムを2012年に発表した。
109・Andy Allo:Superconductor:☆☆☆★
   クレジット不明だが、たぶんプリンス全面参加。ホーン隊を時にふんだんに投入しつつ
   基本はアコースティック感のひそやかなソウル。アンディの歌が
   囁きを基調にしたものだろう。プリンスより艶めかしくは無く、どこかヘルシーさが漂う。
   とはいえ冒頭曲から力のこもった出来で、じっくり味わいたい作品に仕上がった。
   (1)の軽やかなスピード感からいきなりヤラれる。プリンス自身は
   最近、この手のキャッチーさをあまり出さないし。

   09年に宇川直宏率いるUKAWANIMATION!がリリースしたレジデンツへのオマージュ盤か。
   メルツバウが1曲で参加している。
108・XXX RESIDENTS:Attack Of The Killer Black Eye Ball:☆★
   エレクトロ。メルツバウの作品も含めて、ノイズよりも耳ざわり良いビート効いた
   電子音楽になった。レジデンツは良く知らず、どうオマージュかコメントは叶わず。
   本盤のみで聴くと、フロア対応でなく部屋聴きテクノと感じるな。

    03年に英Ochreより発表した、02年6月に仏ツールーズでのライブ音源。
107・河端一:I'm Still Here Now (Live At La Chapelle):☆☆
   40分弱一本勝負。楽曲としては長いが、CDでは短め。ドローンをエレキギターとサーランギで産み出した。
   低い持続音がサーランギかな?玄妙で宗教的な恍惚感を狙うが、どこか地に足がついている。
   押し寄せる音の壁は唸りながら揺れた。8分を過ぎていったん空気が変わり、かきむしる切なさへ。
   リバーブを残した奥行きが神秘性を演出する。ざわめきから混沌へ。スムーズに風景は変わった。
   客席ノイズらしき音も聞こえる。現場感が伝わる、記録寄りな作品だ。

    04年、米Importantより。エレキギターの即興をリバーブとディレイで後処理した。
106・河端一:O Si Amos A Sighire A Essere Duas Umbras?:☆☆☆★
   長尺2曲どちらも素直な透明ドローン。ギターにリバーブなどのエフェクタをかけ、
   静かに延々とドローンを続ける。特に(2)が変化薄く45分近く淑やかな
   電子音の展開を楽しめる。(1)はミニマルさを狙った手弾きストロークだが
   どこか民謡や三味線調を感じてしまった。

    00年に米Mar-Inoがリリースのギター・ソロのようだ。ライブ録音、オーバーダブ無し。
105・河端一:You Are The Moonshine:☆☆★
   全3曲、ギターの長尺即興。タイトルは月をテーマで朝/昼/夜を描いた。
   各曲とも濃密でシンプルなドローンが延々と続く。
   淡々、朦朧、酩酊、さまざまな感情を味わいつつ、音色をたっぷり噛みしめられる。

    12年に発表の本盤は前年12月22日にさくっと録音されたようだ。マスタリングは吉田達也。
104・Acid Mothers Temple & The Cosmic Inferno:Chaos Unforgiven Kisses Or Grateful Dead Kennedys:☆☆☆★
   田畑/志村/東/河端にドラムでOperaが加わった新たな2ドラム体制の盤。濃密で濃厚ドップリな魅力が詰まった。
   盤はグレイトフル・デッドのパロディか。重たいビート感でじわじわと盛り立てる(1)。だがドラムよりギターをがっつり前にミックスした。
   (2)は混沌に軸足置いた。ミニマルなリフが歪んで響き、 3分過ぎから朗々と歌うOperaが素敵だ。
   サイケでありつつ、のびやかな声のマッチングがジャムバンド的な高揚感を煽る。空間が埋め尽くされた。
   (3)は要素を詰め込んだ印象だ。叩きのめすドラムの上でシンセが蠢き、ひたすらギターは吼える。
   爽快かつマーブル模様の前のめりさを味わえた。

2013/4/22   最近買ったCDをまとめて。

   AMTの田畑満とスズキジュンゾ(みみのこと)のユニットが2010年発売の1stフルCD。
103・20 Guilders:20 GUILDERS:☆☆
   基本はサイケ・フォーク。素直なメロディの唄へ、あくまでバッキングとしてエレキギターが絡む。
   出過ぎたり前衛にも走らないギターはちと物足りないが。
   リズム楽器はあくまでサポート、ギターに載った歌モノ盤。

   あふりらんぽと合体したAMTの05年アルバム。
102・Acid Mothers Afrirampo:We Are Acid Mothers Afrirampo:☆★
   津山/東/河端にオニとぴかのあふりらんぽが合体した編成。怒涛のドラミングは逆に薄まり
   トリッキーなサイケ性が増した。ギター二本編成で、ぺなぺな音色がオニかな。
   むさ苦しいハードコアさへ女性ボーカルで気分転換なのも確か。
   長尺三曲でアイディア一発の印象。だが、ほんのりミニマルやコラージュ性が個性。
   もちろん、歌詞で津山とあふりらんぽ勢のコミカルな応酬も含めて。
   強烈なインプロを期待すると、ちょっと物足りない。

   ディックをひねったタイトルな本盤は、04年アルバム。
101・Acid Mothers Temple & The Melting Paraiso U.F.O.:Does The Cosmic Shepherd Dream Of Electric Tapirs?:☆☆☆☆
   津山の暗黒トラッド風味が前面に出たアルバムで、ある意味バラエティに富んでいる。
   津山/河端/東に初代ドラマー小泉一とMagic Aum Gigi、Cotton Casinoが参加の録音。
   (1)からアグレッシブに疾走し、もやけたミキシングでリバーブに埋もれた
   即興歌とギターの混淆がすさまじい。だがAMTらしい疾走はこの曲のみ。
   一転して(2)はソフトなアコギにヘニャ声の載る、かなりポップな楽曲。
   そのまま(3)、(4)へへサイケ色増しつつ進んでいった。
   (5)は河端のギターとコットンがリバーブの海で泳いだ。ここまでのトラッド要素もきっちり残る。
   だが(5)は25分もの長尺、どっぷりAMT流サイケへ沈むのだが。
   最後は18分もの棒状アンビエント・シンセのきらめきで幕を下ろす。アルバム2枚組っぽい構成だ。

   吉田達也、田畑満、河端一のユニットSWRが、磨崖仏より07年発表の盤。
100・Acid Mothers Temple SWR:Stones, Women & Records:☆☆☆★
   録音、編集も含め担当した吉田達也の作品、に仕上がった。即興を垂れ流さず、細かくストーリー性ある編集と、
   生演奏のダイナミズムを生かした構成。さらにほんのりコミカル要素。
   サイケ・プログレの絶妙な世界を産み出した。
   スピーディーさは控え、津山風トラッド要素を生かしてノンビリの空気を漂わす。

   第10回AMT祭りのライブ音源で500枚限定、12年に発表。
99・山本精一 & Acid Mothers Temple:ギガサイケ:☆☆☆☆
   AMTは津山/志村/河端/東/田畑の編成。すべて曲演奏を基調の楽曲を収めた。濃密でスリリングな演奏が楽しめる傑作。
   モヤモヤと弾ける河端と、ブライトな山本の対比が聴ける。
   AMT Festival vol.10"(2011/12/10)の音源で、(1)は終盤の加速度と前のめりさが、すごい集中力だ。
   (2)も充実で、津山のリバーブたっぷりなシャウトとツイン・ギターが産む骨太でふっくらした音像が快感だ。
   中盤で音が消え、アカペラのコーラスから次の曲へ向かうアレンジも良い。
   イントロ抜き、いきなりテーマから始まる(3)も燃える。涼やかに絡む山本のギターが美しい。

   ジェイミー・カラムの5thは09年発表。これは邦盤でボートラ2曲入り。
98・Jamie Cullum:The Pursuit:☆☆★
   改めて自分のジャズを足元に置きつつ、ロックやハウスまで取り込んで同時代性をアピールした一枚。
   前作より2年間のワールド・ツアーを経て、心機一転作らしい。
   ちょっと甘苦い歌声は、本作でしたたかさを増した。
   コール・ポーターやスタンダードと自作をほぼ交互に演奏しつつ、どれもを貪欲に咀嚼する。
   少々ほろ苦い一枚に。飛び散る散漫さをポップでまとめた。

    ポリー・ポーラズマが"Fingers & Thumbs"(2007)に次ぎ、レーベルを変えて
   12年発表の、ひさびさな3rd。
97・Polly Paulusma:Leaves From The Family Tree:☆☆☆☆★
   傑作。フォーク要素を丁寧に織り込んだ。ドラムとベースを固定し、
   楽曲ごとにさまざまなゲスト楽器を招いた。アナログっぽい滲んだサウンドで
   伸びやかな世界を作る。楽曲もアレンジも凝っており、一聴キャッチーさはないが
   呟く歌声はテクニカルだ。投げっぱなし風のフレーズが滑らかなサウンドへ溶けて行った。
   ジャケットの古びたデザインも秀逸だ。歴史を踏まえつつ、現代を鮮やかに切った。

   ガールポップをまとめた廉価版2枚組。流行りものの他に、レアテイクもあるようだ。
   12年に英Oneday Musicからのリイシューアルバム。
96・V.A.:Will You Love Me Tomorrow - The Girl Groups Of The 50s & 60s: ☆☆★
   もろにショーケース、か。廉価コンピとしたらばっちりの出来。
   50年代後半から60年代初頭のヒット曲を集めたようだ。
   見知らぬグループもいくつかあるが、不勉強で希少性は不明。
   耳慣れた楽曲ばかり組まれ、レーベルなどの統一性も無さそう。
   このレーベルは、当時の小レーベルごとのコンピもリリースしており
   それへの足掛かり、的な位置づけか。
   ロネッツがロニー&ザ・リレイティヴズ名義でColpix吹き込み(8)は転調や和音感が良い曲。ナイアガラーにもお薦め。
   盤起こしか、ちょっと音はしょぼい。カーテン一枚引いた奥で鳴ってるかのよう。


2013年3月

2013/3/30   注文したCDがまとめて到着。

   Charaの旧譜を何枚かまとめて入手。これは09年18枚目のオリジナルアルバム。
95・Chara:Carol:☆☆☆★
   フェイクからハイトーンまでフルレンジのChara節が楽しめる一枚。
   プロデュースは蔦谷好位置、亀田誠治、渡辺善太郎、鳥山雄司、Swing-o a.k.a 45と複数立てた上、
   Chara自身がプロデュース・クレジットされた曲も。つまりオムニバス的な
   仕上がりだが、アルバム全体は祝祭ムードで統一された。敬虔さをポップスに
   ほんのうっすら滲ませる楽曲作りに実力を感じた。ザクッと乾いた"エレガンス"を
   きっかけにムードは性急へ傾き、"LiLiCo"で雰囲気をそのままに穏やかに戻す。このブロックの構成が特に良い。
   男ならいぶし銀、と表現するが・・女性の場合は何と表現すればよかったっけ。
   キャリアを重ねたからこそ、の味わいがにじむ。

   28枚目、06年のシングル。C/Wはヴィッキーのカバーでアルバム"Union"(2007)未収。
94・Chara:Crazy for you:☆☆★
   作曲は元the brilliant greenの松井亮(ryo matsui)、アレンジが田中知之(Fantastic Plastic Machine)に橋本竜樹と
   外部に任せたタイトル曲。カップリングはポール・モーリアで有名な曲のカバーで、
   歌詞は漣健児と、純粋に歌手として発表した印象が強い。
   タイトル曲は軽快だが硬さが残る。ドラムの跳ねるキックは気持ちいいが。
   Chara節のカップリングの甘さのほうが、好み。

   タイトル曲はカネボウ化粧品「T’ESTIMO」CMタイアップ。C/Wはオフコースの意外なカバー。
   07年、29枚目のシングル。C/Wは"Union"(2007)未収。
93・Chara:Fantasy:☆★
   ピアノの弾き語りにバンド足したようなアレンジのミディアム。作曲にCharaが絡まず
   佐々木潤の作品を歌った。滴る切なさは自曲より控えめだが、独特のフェイクでChara世界はきっちり作った。
   楽器の抜き差し多用のドラマティックなアレンジと相まって1stの世界観を連想する。
   (2)のカバーは力任せのエレキ・バンドのアレンジ。若干押さえつつも、Chara節での歌唱。
   ハーモニーも自分で多重録音しており、奇妙な浮遊感が楽しい。

   タイトル曲はトヨタ自動車「bB」CMタイアップ、アルバム"honey"収録と別テイク。
   C/WはTHE BOOMのカバー、"honey"へ未収。08年32枚目のシングル。
92・Chara:TROPHY:☆☆☆★
   (1)はCHARAらしいシンフォニックさを出した、センチメンタルなロッカ・バラードの名曲。
   弦がアルバム・テイクより強調された。パンチの利いたミックスだ。
   サビでの強力な盛り上がりと歌声の強く放り投げるような切なさの調和が素晴らしい。
   (2)はロックのバラード。剛腕でエレキギターを弾き殴りながら
   力任せにシンプルなメロディを吐き出すタイプ。あんまり好みではないが、サビあとくらいの
   一瞬、Chara独特のフェイクで、リバーブ潰してドライにシャウトする場面にはゾクッときた。
   (3)は(1)のカラオケ。シンセ中心とパッと聴きで思い込んだオケが、実際はストリングス入りの凝ったアレンジと気づいた。

2013/3/25   注文したCDが到着。

    2004年にAlien8より発表のスタジオ作。マスタリングが吉田達也
91・Acid Mothers Temple & the Melting Paraiso U.F.O.:Mantra of love:☆☆☆☆
   どっぷりトラッド、津山色の強いアルバムだ。AMTは津山/河端/東/小泉の編成。
   30分にわたる(1)は仏オック語圏のトラッドらしい。コットンの歌声が多重コーラスを
   背後に抱え、どっぷり濃密に唸り続ける。メロディを執拗に積み上げる格好で。
   6分を過ぎて怒涛のギターソロへ雪崩れる瞬間が、すごくかっこいい。
   ぺなぺなと着実にピッキングするギターは怒涛の煙りっぷりだ。
   下からベースがぐいぐい突き上げ、のびのび跳ねるシンセに塗れてギターがうねった。
   長尺だがいったん歌に戻り、改めてディストーション効いたソロへと単調を避ける配慮あり。
   (2)もトラッド風味だが、あえてシンセを前面に出すミックスを施しサイケさを押した。
   こちらは最初からジワッと蕩けるグルーヴだ。穏やかな桃源郷が漂う。

2013/3/22   注文したCDがようやく到着。

   待ち望んだ再発。しかもボートラどっさり2枚組3セット。嬉しい。
   84年の1st。ボートラは82年の初期ライブと、83年の新ピライブ。
90・藤川義明&イースタシア・オーケストラ:照葉樹林:☆☆☆★
   ボートラで1st録音に至る道程を刻んだ。いわゆる第二世代の
   フリージャズの猛者を集め、逆にフリーにとどまらぬ世界を魅せる。
   シビア一辺倒の第一世代からユーモアをふんだんに織り込んだ、ゆとりと余裕が彼らの特長だ。
   サウンドはディキシーからスイングを通過し、フリーへ向かう。
   多様なアンサンブルは混沌に陥らず、すっきりなイメージ。映像残ってない物か。
   当時の指揮っぷりや風体をぜひ見たかった。

   85年の2nd。ボートラが84年のメールス音源と85年の新ピのライブ。
89・藤川義明&イースタシア・オーケストラ:Origin:☆☆☆★
   CD1は3曲のスタジオ音源と1曲のライブ。
   発掘音源のCD-2は84年、本盤録音前のメールスを記録した。アルバムの直前の熱気を
   ミッシング・リンク的に楽しめる構成をとった。
   ラテンをジャズに混ぜ、スマートなビッグバンド・スタイルにフリー性を混める。
   即興へこだわりつつ、準拠枠を破壊し疾走する。それでいて、ぎりぎりのポップ性を残し
   強烈な熱狂を観客から引き出すバランス感覚が、イースタシアの魅力だ。
   逆に奏者の個性が大編成ゆえに埋没するのが悩みか。
   でかい音で聴きたい。ライブハウスにいる気分で。

   当時の82年3月と11月に東京でのライブ音源を収録した。
88・藤川義明&イースタシア・オーケストラ:三月宣言:☆☆☆★
   集団フリーだがバランスの良さを感じる。これがバンドの個性か。
   混沌からユニゾンのテーマ、アンサンブルの掛け合いからラテン風味まで。
   各時期のライブでもブレなさっぷりが良い。
   のちの僕が見たライブだと、もっとカッチリまとまっていた。
   特にリズム隊が洗練してた印象あり。この時代ならではの無骨なリズム感も味わい。
   逆にホーン隊の香りは変わらぬ味わいを出している。
   アルバムとしてはメリハリ薄いため、ファン向けの盤。

   アコーディオン奏者の日本人と河端のデュオ・アルバム、12年の発売。
87・河端一 & Á Qui Avec Gabriel:Golden Tree:☆☆☆★
   轟音で聴きたい、河端一デュオ。本盤もやはり。金太郎アメな美味しさだ。
   ひたすら静謐なドローンをメロディなしで漂わす(1)のあと、じっくりと(2)でミニマルなリフをギターが奏で、上にアコーディオンが
   ゆったり旋律を遊ばせる。4分過ぎからのディレイを使ったサイケな河端流のサウンドが心地よい。
   ループも使い多層な音像を作った。楽曲の展開性は薄く、幻想な女性ボーカルがアクセント。
   いきなり途中だけ聴くと、オーケストラかと一瞬誤解しそう。30分強漂う時間の強度が凄い。
   最終曲はのびやかな飛翔。ギターの爪弾きが漂う中、二人が音を重ねた。

   マイルスの"ビッチェズ・ブルー"にインスパイアされた12年のアルバム。
86・Acid Mothers Temple & The Melting Paraiso U.F.O.:Son of a Bitches Brew:☆☆☆☆
   河端/津山/志村/東/田畑満にCotton Casinoの顔ぶれで、曲名までマイルスを嗤ってる。
   「録音、ミックス、演奏にコンピュータもハードディスクも使っておらず、の特記有り。
   津山のソプラノ・サックスと軽快な津山のドラミングがサイケ・ジャズの面持を冒頭から噴出させた。
   しだいに加速し、混沌へ巻き込むスリルが堪らない。
   左右に激しくパンしまくる場面は酔いそうになるが。エレピの音色がジャズ風のニュアンスを漂わす。
   即興一発でなく多層的な音像が、癖になる。

   NYのサイケ・バンドEscapadeとAMTの、03年発売なスプリット盤。
85・Acid Mothers Temple&Escapade:A Thousand Shades Of Grey:☆☆☆★
   双方のセッションは無し。AMTは河端/津山/東、Cotton Casinoの編成だ。
   AMTの録音は河端が担当した。(1)、(3)がEscapade,(2)がAMT。
   Escapadeの作品はドローンめいたフレーズを積み重ねながらも、ロックのダイナミズムを
   ぐいぐい感じさせる。激しいビートも派手なフレーズも無く、繰り返すゆったりした展開が産む勢いがかっこいい。
   (2)のAMTは28分もの長尺、冒頭はEscapadeへ呼応する如く、シンセの揺らぎを中心のスペイシーな
   展開でじわじわ来た。カシノのボーカルが背後で風のようにそよぎ、シンセのリフはミニマルに繰り返す。
   次第に加速を感じさせつつも、靄のような電子音で表面をぼやかす二面性も魅力な曲。
   ついにギターソロは無し。AMTでは異色の、しかし痛快な曲だ。

2013/3/20   久しぶりにレコ屋へ。

   1997年4月、ピットインでのライブ音源。羽野昌二がリーダーで、サイドメンは
   西野恵 (和太鼓)、山内テツ(b)、井上敬三 (as)。94年の盤に次ぐ、たぶん2ndで最終作。
84・Poly Breath Percussion Band:P.B.2 Live:
   ベースとサックス、どちらも見せ場はあるもののパーカッションの対話なイメージが強い。
   音だけだと魅力が伝わりづらいな・・・。逆にテナーの猛烈なブロウや
   地を這うベースの凄みのほうが、ぱっとわかるフリージャズ。

   独Timeless Recordsより91年発表のds,p,b,tsのカルテット・ジャズ。リーダーがドラム。
   室館あやと"Lotus Blossom"(2003)吹き込んだウォルター・ラング(p)に惹かれ、購入した。
   ちなみに"Lotus Blossom"のドラムが、本盤のリーダー。
83・Rick Hollander Quartet:Out Here:☆★
   コルトレーン風を洗練させた。真面目でヘルシー、スポーティなジャズだ。
   西海岸風のきっちりしたテクニックで、不穏なNYジャズを表現する。
   フレーズやアンサンブルは聴かせるけど、ちょっとスリルが無い。
   "聴く"ジャズで"感じる"ジャズとは真逆。

   アルゼンチンの前衛ギタリストが田畑満(Acid Mothers,etc.)川口雅巳(哀秘謡,etc)と
   05年に高円寺ペンギンハウスで行ったライブ音源を、11年に発表した。
82・Anla Courtis, Tabata Mitsuru, Kawaguchi Masami:Aum Air:☆☆☆
   フィードバックと無造作なフレーズの混沌による嵐。ビート感やメロディよりも
   流れと音色で聴かせる即興だ。3人の音が混ざり合い、大きなうねりを作る。
   めくるめくサイケデリック。

   09年のTZADIK盤。クレツマーのトラッド曲を演奏してるようだ。
81・Feldman / Caine / Cohen / Baron:Secrets:☆☆☆☆★
   素晴らしいクレツマー・ジャズ。瑞々しい楽器の音色が、味わいに華を豪華に添えた。
   切なく情感的なメロディを、しみじみと名手たちが奏でる。
   ピアノのはじけかた、バイオリンのきしみ、ベースの唸り、どれもが味わいと
   多彩なニュアンスを迸らせた。それらをドラムがきっちりまとめる。
   アドリブの繊細さと大胆なスピード感が同居した、めっちゃ噛みしめがいのあるジャズ。

   中国の前衛ギタリスト李劍鴻のソロ。日本PSFより09年に発表した。
80・Li Jianhong:Classic Of The Mountain And Sea 山海経:☆☆
   シンセっぽいドローンを素地に、猛然と長尺ギター・ソロが2曲。この独特な立ち位置を意識して作ったならば、すごい才能だ。
   サイケやノイズの方法論に埋没せず、速弾きでもメタル的なスポーティさは皆無。
   あくまで出音はクリアで音そのものを抽象的にもしない。自らが録音しており
   この音像は意識的と考える。その一方で、スリルや幻想とも無縁。求道性もない。
   どこかクリアに意識を保ちつつ、かといって突き放した客観性もない。クリーンな空虚さが音楽から滲む。
   いわば、冷静な苦悩をひたすら続けてるかのよう。この点が、非常に独特だ。なにを持って、彼は
   音楽を続けているのか。楽曲がフェイドイン/アウトする点が惜しい。
   クライマックスのみを抽出でなく、起承転結の物語性を感じたかった。

2013/3/17   最近買ったCDをまとめて。

   ハンガリーのドラマーとライブの音源。500枚限定。ポーランドのinstant classicより2012年発売。
79・Merzbow & Balázs Pándi:Katowice:☆☆☆
   吹きすさぶ風、が全体を通したイメージ。ドラム対エレクトロニクスの
   構図でせめぎあう。細かな展開よりもノイズ一発で吹き飛ばす爽快感有り。
   4トラックに分けた構成も嬉しい。まあ、実際は長尺2トラックだからあってないようなものだけれども。
   生々しい肉体感を感じさせるライブだ。

   水谷聖との初期音源を集めた10枚組"Box"のボーナスCDが単独で販売していた。
   限定100枚のはず。1979年11月23日の録音音源。
78・Merzbow:DUO Bonus Disk "23 November 1979":☆☆☆★
   ドラムとシンセのフリー・セッション。ドラムが秋田か。うっすらとグルーヴある即興プログレな趣きだ。
   シンセがソロともオスティナートともつかぬフレーズをばら撒き、ドラムとの主導権を緩やかに取り合う。
   もう一層のエレクトロ・ノイズも存在するがダビングと同時演奏、どちらだろう。
   普通に考えると同時演奏だが、ダビングっぽい冷静に意図した色づけとも聴こえる。
   メルツバウのブランドのわりには、ずいぶん生々しくフリージャズな音楽だ。

   津山篤と河端一のデュオが2010年に発表の、ムソルグスキー作品のカバー。
   ELPの盤を踏まえた構成になっている。疑似ライブ風も含めて。
77・Zoffy:Pictures At An Exhibition:☆★
   良く言えば換骨奪胎。思い切り自由に解体し即興をかぶせており、万人に薦めづらい。
   トラッド風味を載せたのが特徴か。ファン向け。
   テクニックでなく勢いで、再現でなく即興性で表現がポイント。


2013年2月

2013/2/10  改装ユニオン吉祥寺へ行ってきた。

   津山の1stソロ、船戸博史,芳垣安洋らと勝井裕二,吉田達也ら、関東/関西双方のシーンで
   活躍するミュージシャンがゲスト参加した。F.M.N.より96年の発売。
76・津山篤:Henry The Human Horse!:☆☆☆★
   トラッドへ接近し、ノスタルジーとエキゾティズムをユーモラスに表現する、津山の持ち味が見事に出た一枚。
   多彩な楽器を操る器用さと、くそまじめに留まらぬ振り幅大きい立ち位置が
   音楽に色合いと深みを出す。勝井祐二が広がりの表現に一役買う。
   曲により吉田達也と芳垣安洋+船戸博史の2リズム隊を採用。久保田安紀の歌声でサウンドを一気通貫した。
   長尺インプロではなく、短い曲を並べる。奇才、の名にふさわしい一枚。

   伊サイケ・バンドのJennifer Gentleと河端のセッション。3曲入りEPで02年のツアー音源を収録した。
75・Jennifer Gentle And 河端一:The Wrong Cage:☆☆
   伊でのライブ、音質はラフでオーディエンス・ブートっぽい仕上がり。
   チャカチャカとリズム隊が鳴る横で2本のギターがサイケに動いた。
   全3曲で30分強とミニアルバムなボリューム。
   ダイナミズムが薄くのぺっとした印象を受けた。
   ただし最終曲では祝祭的な盛り上がりと怒涛の疾走を魅せる。

   仏のギタリストジャン=フランソワ・ポヴロスと河端のデュオ。
   本作が1st、日本のPSFから04年に発表された。
74・Jean-François Pauvros & 河端一:Mars:☆☆☆★
   エフェクターをたっぷりまぶしたエレキギター2本によるインプロ4曲。
   小さな音からノイズ、アンビエントから混沌まで幅広い振れと揺らぎを表現した。
   刺激的だが、即興ゆえの偶発性が非常に惜しい。タイミング一発でガラリ
   印象が変わってしまうためだ。一曲だけでも、がっちりコンセプト決めた楽曲を無性に聴きたくなる。
   本盤で聴けるサウンドそのものは刺激に満ちている。予想以上にハードだった。

   同デュオの2ndは仏Preleより05年にリリース。
73・Jean-François Pauvros & 河端一:Venus:☆☆☆
   奔出するダーク・アンビエント。密やかな電子音はいつしか高まり、ノイズの咆哮へ変わる。
   どこか荘厳さを保ったのが特徴。基本は生演奏と思えぬドローンとウネリノ
   対話だが、ところどころでストロークや爪弾きの様子を伺えるのが、逆にぞくっと生々しい。
   全3曲、洞窟の奥底でのたうちまわるような熱狂だ。
   どんなに混沌でも、常に清涼さを保ったところが良い。
   (3)は初手からセッション風の耳ざわりだ。リバーブまみれの音像がふくよかに広がる。

2013/2/8   最近買ったCDをまとめて。

   ポチャカイテ・マルコの桑原重和(b)吉田達也(ds)の1st高円寺百景リズム隊と
   堀越功(Key)と伏見蛍(g)によるバンドの1st。録音は11年末から12年にかけて行われた。
72・ZLETOVSKO:ZLETOVSKO:☆☆☆
   シンフォニックなチェンバー・プログレ。吉田達也の存在感があり過ぎ、
   彼の派生プロジェクトに聴こえてしまうが、ここまでキーボードが前面に出た
   吉田の盤もあまりない。KensoとRuinsのデュオくらいか。
   きっちりキメを持ち、二曲のインプロでも構築性あるアンサンブルを聴かせる。
   ごしゃっとしつつエッジ立ったミックスが、いかにも吉田流だな。
   バンドとしては、逆にいかに吉田を使いこなすか、が鍵だろう。高円寺百景と差別化としても。

   87年作のソウル、デフジャムから発売された。08年の"80'sブラ・コン編"での再発盤。
71・Chuck Stanley:The Finer Things In Life:☆★
   売りはハイトーンを振り絞った(6)らしい。確かに悪くないが、ちょっと華が無い。
   ぼくは(8)のミドルが好みだ。メロディとサビのコード感がユニークだし。
   (10)のデュオも悪くない。とはいえ、歌唱力はそこそこ。この1枚で終わったのも、それが一因か。

   あふりらんぽのピカチュウも参加、08年のアルバム。
70・Acid Mothers Temple & The Cosmic Inferno:Pink Lady Lemonade - You're From Outer Space:☆☆☆
   比較的アップテンポで軽快な"Pink Lady"がくっきりした録音で聴ける。
   4曲入りだが実際は壮大な組曲を聴いてる気分。
   メンバーは田畑/東/志村/河端にぴかとAudrey Ginestet。録音、ミックスも河端が行った。

   ジム・オルークとK.K,.Nullがギターで加わったバンドの95年作。4人編成であとはドラムとベース。
   録音がスティーブ・アルビニの担当。
69・Yona-Kit:Yona-Kit LP:
   重たいオルタナなリフを中心に淡々と進む。下手なわけじゃないから
   そこそこ聴けるが、よほどの轟音でないと単調さが目立つ。
   最後に長尺20分以上かけ、単一リフのミニマル・ロックを聴かす。

   サックス奏者のレイクが歌も歌ったレゲエ盤?らしい。83年作。
68・Oliver Lake & Jump Up:Plug It:☆☆★
   フェローン・アクラフ(ds)のタイトさが嫌味なく響くジャズ。ベースも粘っこいエレキだ。
   フュージョンを通過した上でアグレッシブさを練ってる。シンセも入る洗練アレンジの一方で
   小気味よいグルーヴをサックスが大胆に突き進む。
   レゲエやファンクのボーカル込みで、ソウルの観点で聴いてもいいかも。

   Mark FeldmanやErik Friedlanderも加わった弦カル、TZADIKから99年のアルバム。
67・John Zorn Quartet:String Quartets Nos. 1 - 4:☆☆☆
   4種類の弦楽四重奏曲を収めた。どれもゾーンらしいスピードと猛烈な転換だ。
   はっきり言って、断片的には素晴らしいが俯瞰にはそうとう集中力がいる。   
   あからさまなコラージュの(1)で聴きやすくはじめ、しだいに抽象的な
   アンサンブルへ深化する構成。
   この中で一曲選ぶなら荘厳な弦の響きが美しい"Kol Nidre"か。
   長尺の"メメント・モリ"も聴き応えあり。幻想的で端正な和音に、ゾクッときた。

   ゾーン20歳の頃の録音。ジャケ写真から子供の頃と誤解してしまった。TZADIKより95年の発表。
66・John Zorn:First Recordings 1973:
   音楽的にはそうとうに厳しい。発表や商業性を無視した自作曲が詰まってる。
   拡散する無作為な断片を、非構築でつなげた前衛性というジョン・ゾーンらしい一面が
   くっきりと味わえる。瞬間の鋭さを強烈なスピード感でコラージュすることで
   ゾーンはのちに個性的な作品を多用する。ここでは純粋な実験要素と
   瞬間を面白がるいい加減さが詰まった。強烈なファン向け。
   ただし楽曲としては最後の電子音がサイケで楽しい。

   95年の作、これは96年TZADIKリイシュー盤。録音は92年。
65・John Zorn:Filmworks Ii: Music For An Untitled Film By Walter Hill:☆☆☆★
   ごく短い曲が36曲入った作品集。抽象的だが細かく作曲されたっぽい面持ちで、
   楽曲として単純に楽しめる。ジョン・ゾーンの作品にしては珍しく、打ち込みビートや
   ブレイクビーツ的な展開が興味深い。タイトでスリリングな音楽が詰まった。

2012/2/1   ぶらっとCD屋へ。なお今年から一年間を1頁にした。このほうが更新も楽、10年前と違い通信速度意識し頁を分けなくていいか、と。

   イクエ・モリが09年にTZADIK発表のソロ。New JapanでなくKey Seriesレーベルからの発売が、
   いかにも彼女の、ニューヨークにおける立ち位置を表している。
64・Ikue Mori:Class Insecta:☆☆★
   アニメーションのファイルつき。虫をカラフルに動かす。足の動きが音楽のミニマルさに似合ってた。
   音楽は予想以上にリズミック。ラテンっぽい響きを多用し、時にポリリズムも導入する。
   即興的に作ってるのか、ミニマルな展開でも楽曲構造を読みづらい。
   この弾ける無機質さが、彼女の特性か。

   未聴だった。96年の作品でTZADIKより。大木裕之が監督した95年のサントラ。
   原題は"エクスタシーの涙 恥淫"。ピンク映画だが「60分を60シーン60カットで撮る」
   実験的手法を採用したらしい。音楽はRobert Quine、Marc Ribot、Cyro Baptistaらとの演奏。
63・John Zorn:Filmworks V - Tears Of Ecstasy:☆☆☆
   約1分の曲が48曲詰め込まれた。双頭ギターにシンプルな叩きモノ、のアレンジが主軸。
   ジョンはサックスとプリペアード・ピアノ、サンプルとクレジットあり。
   軽いパーカスの響きにエレキがラウンジ風に絡む。緊張感ありつつも、どこか腰砕け。
   合間にハードなドラムセットでのトリオ疾走やノイジーな楽曲がはさまれる。
   さくっと一日で録ったと思えぬ多彩さを見せた。
   それぞれの曲は即興と譜面の中間っぽい。楽曲内で展開はほぼ無く、1アイディア=1曲。
   ただし垂れ流しのインプロでなく、ファイル・カード的なアプローチと思う。
   各曲のトーンは似ているが、単なるテーマの変奏集には留まらない。
   奔放だがロジカル、混沌だが計算づく。そんなジョン・ゾーンらしい、聴きやすく聴き応えある盤に仕上がった。

   J.Ohkuchi名義、おしゃれなジャケットのピアノ・ソロ。彼のスケール大きな
   ピアノを期待し入手。2010年の作品で、オリジナルもあるがカバーに軸足置いた印象の選曲だ。
62・大口純一郎:Plays Solo Piano:☆☆☆
   スケール大きくロマンティックな大口節が炸裂の一枚。間をたっぷりとった、揺らぎのピアノが
   切なく美しい。滑らかなタッチのアドリブは、闇よりも寛ぎが似合う。
   だがスタンダード弾いてても、どこか突き抜けた孤高性を感じた。
   フレーズの選び方が、独特のおおらかさだ。

   1948年、ノース・キャロライナ生。ストレート・アヘッド系の黒人ピアニストらしい。初めて聴く。
   トリオ編成で88年収録のLPへ4曲追加で07年にCDリイシュー。
61・Joe Bonner Trio:New Life:☆☆☆★
   ロマンティックで力強い、独特のピアニズムを堪能できる一枚。ドラム、ベースの存在感を
   圧倒する、瑞々しいタッチがピアノの特徴。ざらり、と剛腕で鍵盤を撫でつつ、優しさを失わない。
   ドラムとベースはとはいえ、着実なプレイでピアノを支えた。アグレッシブさは薄いが
   芯の強さをきっちり感じるジャズ。

   もう一枚、ジョー・ボナーのピアノを。
   83年の録音に追加曲を加え、同じく07年にCDリイシューされた。
   共演のダイアニはダラー・ブランドと活動してたらしい。
60・Joe Bonner & Johnny Dyani:Suburban Fantasies:☆☆☆
   くるくる回る指だがテクニック志向と微妙に違う。鳴りは明るいがグルーヴィと
   ちょっと異なり、かといって味わい深さ有り。新種のカクテル・ピアノを聴いてるようだ。
   ベースは時折存在感を出すが、ピアノのほうに引っ張られ気味か。
   ファンキーさを期待したらいけないが、聴きやすさはあった。


2013年1月

2013/1/29   ネット注文の残りが届いた。

   GbV、13年度一発目のリリースはEP盤。
59・Guided By Voices:Down by the Racetrack:☆☆☆
   6曲入りだが1分程度の小品ばかりで、全体で10分の短い作品。ボブの単独曲は2曲、トビンが1曲。
   あとはボブやトビンが他のメンバーと共作が2曲にトビンとボブの共作と、バラエティに富んだ曲作りをした。
   デモっぽいラフな録音曲ばかりだが、瑞々しいメロディがそこかしこに。
   なぜかCDの調子が悪く、ぶつぶつ音が飛んでしまう。残念。

   米Important Recordsより2010年の発表。テリー・ライリー"In C"のAMT流カバーであり、
   Cotton Casino (vo)を長尺ゲストに招いた最初の盤、という。
58・Acid Mothers Temple & The Melting Paraiso U.F.O.:In 0 to ∞:☆☆☆
   ギター色を消し、シンセでのサイケデリアを表現した一作。ある意味、異色。(4)で12分過ぎからの、ROVO的な開放感が格別だ。
   メンバーは河端/津山/東/志村/一楽"ドラびでお"儀光、ゲストにCotton Casino。4曲構成で
   0→A→Z→∞と進んでゆく。打ち鳴らされるビートにシンセが分厚くかぶさり、電子の雲を突き進む(1)は
   構成めいたものが無くても強烈な前に進むベクトル感あり。
   (2)は一転してミニマル、背後にカシノの蠢く声と、小さく吼える津山の声でメリハリつけるが、
   シンセのドローンで密やかに音が輝いた。
   それは(3)でも続く。(1)でのスペイシーさと(2)のミニマルが合体した様相で
   ベース・リフのループが執拗に蠢き、上で密やかにフレーズが鳴った。
   上物の細かく畳み掛けるベースのフレーズがカッコいい。ムードは漆黒。
   ハーシュノイズ的なアプローチをとった印象も受けた。バンド・アンサンブルとは微妙に異なる。
   最終曲の(4)にて、ついに開放。ハイスピードのドラムにキーボードが乗り、
   幻想と放出の表現に。ギターは背後に回る。ソプラノ・サックスが加わりフリージャズ色も漂った。

   08年に英Riot Seasonからリリース。あふりらんぽがVoで参加した。マスタリングは吉田達也。
57・Acid Mothers Temple & The Melting Paraiso U.F.O.:Minstrel In The Galaxy:☆☆☆★
   津山/東/小泉/河端にTiffany(vo)とあふりらんぽのふたりがVoで参加した。アラブ風文字で曲クレジットのように、
   ジワっとタンブーラ風のノイズをベースにリバーブたんまりのボーカルが乗るサイケで幕を開けた。
   長尺40分の(2)も、盛り上がりのペースが実にジワジワ。とらえどころないモヤが続く。
   ベースが柔らかく響き、埋もれるようなミックスが良い。だからこそドラムとギターのアドリブや
   シンセのスペイシーさが、ベースの響きでしっかり支えられる。音量は地味だが
   本盤はベースが特に良い。最後はAMT流の疾走へ。混沌の美学を味わった。
   最後はトラッド風の静かな爪弾きで、穏やかに心を休めさせる。

2013/1/26    最近買ったCDをまとめて。

   昨年リリース、ルパンのサントラ。ようやく入手。
56・菊地成孔:LUPIN the Third 峰不二子という女 オリジナルサウンドトラック:☆☆☆★
   ペペに留まらぬ菊地流ジャズを基調に、電子音楽もあり。幅広いアプローチを
   無造作に小品の連続で聴かせる。あくまでサントラだが1st菊地ソロに通じる
   小皿連続の揺らぎを、より分かり易い形で味わえた。
   とにかく"新嵐が丘"が大傑作。不二子のキャラクターを見事なポエトリー・リーディングで表現した。
   この一曲のためだけで、本盤を買う価値あり。

   日記でも書いたAcid Mothers Templeの関連盤をあれこれ。ほとんどの近作CDは吉田達也がマスタリング担当と、改めて知った。

   05年発売、ゴングの"Master Builder"カバーらしい。デビッド・アレンへサンクスと、ピエール・ムーランに捧げられてる。
   全1曲、スタジオ録音。マスタリングは、吉田が担当。米Ace Fu Recordsより発売。
55・Acid Mothers Temple & The Cosmic Inferno:IAO Chant From The Cosmic Inferno:☆☆☆☆
   メンバーは河端/田畑/東/志村に岡野太(非常階段)の2ドラム編成で作曲クレジットは
   COIT(Comapny Poera invisible Tibet)。COITがGONG関連の"Invisible Opera Company Of Tibet"と関係在りかは
   不勉強にして知らない。ただ、本盤のジャケットは明らかに"Camembert Electrique"のパロディだが。
   さらに本盤はデヴィッド・アレンにSpecial Thanksし、ピエール・ムーランへ捧げられた。
   くっきりしたビートで執拗にリフとハーモニーを重ねた後で、じわじわと混沌へ踏み込む
   全1曲、50分以上の長尺を作り上げた。2ドラムゆえの不揃いなビート感で幻惑し
   歯切れ良いギターがうねりシンセが吼える。蠢くベースも含めてアンサンブルは
   着実に絡んでいくさまが興味深い。

  米Ace Fuより07年に発表。マスタリングは吉田、スタジオ録音で06年12月~07年1月録音か。
54・Acid Mothers Temple & The Melting Paraiso U.F.O.:Nam Myo Ho Ren Ge Kyo:☆☆☆
   河端、志村、東、津山に小野良子(as)、北川ハヲ(vo)による65分一本勝負のトラック。ただし、組曲形式。
   つまり即興一発録りでなく丁寧に作られている。
   リズムの妙味や展開、アドリブに本作の主眼は無い。あくまでアイディアと組曲形式のアレンジが聴きどころだろう。
   仏教風味の間の多いパーカッションで幕を開け、野太いギターに"南無妙法蓮華経"が繰り返される怒涛の展開に。
   津山が仏教へコミカルな語りも入れた。日本人が聴くと、妙にエキゾティックより暗黒ミニマルなムードを感じた。頭打ちのビートが重たい。
   ブロック変わりアコギの爪弾きにシンセが乗る。やはりミニマルで、津山の唸りがバリエーションを付けた。
   クロスフェイド重たいギターがうねるAMTらしいアレンジに。しばし演奏の後、津山が九字を切って
   混沌を増すブロックへ。河端のギターが粘っこく煙っていく。
   声はダブ処理セッション最後の九字がブロック周縁を意味してるようだ。
   アコギのさわやかなアルペジオのブロックで声中心に。静かなお経と併せて
   魔女っ娘や細かい他のネタをまぜるセンスが、いかにも津山。ここであっさりと、アルバムは終わる。

   00年に日PSFから発売。
53・Mothers Temple & The Melting Paraiso U.F.O.:Troubadours From Another Heavenly World:☆☆★
   地味だがサイケの味わいはたっぷり。最後の長尺曲が痛快だ。
   河端/津山/東と恵美伸子+Seij Minus aCの2人ドラム(曲ごとに異なる、か?)で、さらに
   VoでHACOとCotton Casino、Ginestet Audreyのクレジットあり。
   3曲入りだが5分程度の(2)を、大作2曲がはさむ構成だ。
   (1)は20分強で、どんよりと重たいサイケが広がる。数本重ねられたギターがてんでに吼え、
   混沌をじわじわ表現した。展開よりも沼のように停滞したサウンドが続く。
   シンセが静かに音像を彩り、ときに軽やかに徘徊した。
   アコギとギター・フィードバックで静かに始まる(2)で、女性ボーカルがフィーチュアされる。
   トラッド風味の穏やかなポップス。エレキギターが異物とし、ドローンを重ねた。
   歌メロは柔らかく優しいムードで心地よい。どっぷりエコーと、サウンド全体に声が埋もれてるが・・・。
   (3)も重たいムードだが、アンサンブルはきっちりロック。
   30分越えの大作は緩急入れつつ、盛り上がりは加速する。ギターとシンセの絡みが本当に美しい。轟音で聴きたい。

   英Riot Seasonから11年発売。マスタリングは吉田。1stプレスが1500枚限定の紙ジャケ、2ndがプラケース仕様らしい。
52・Acid Mothers Temple & The Melting Paraiso U.F.O.:The Ripper At The Gates Of Heaven's Dark:☆☆☆★
   奏者は河端一(g)、津山篤(b,vo)、東洋之(synth,g)、志村浩二(ds)。ただしサウンドは分厚く、
   ダビングを重ねてるかもしれない。東日本大震災の直後に録音された。
   シンプルなリフを重ねるリズムの上で、ハードかつサイケにギターとシンセが絡む(1)は終盤で、唐突に場面が変わる。
   (2)はシタールっぽく響くエレキギターとアコギへ脱力ボーカルが乗るゆったりな楽曲。
   似たアレンジでドラムが加わる(3)は、ジャム・セッション風。テンポがちょっと速くなった。
   リフっぽいギターを軸にボーカルとシンセが浮かんでは消える。
   最初はたるっと。津山のこぶしがぐいぐいノッってグルーヴをバンドが作っていく。
   ただ、最後はすこんと抜くのが、いかにも。
   ピンク・フロイドをもじった(4)は声にエコーを深くかけた。やはり即興セッションっぽい。
   シンセは味つけに留まらず、長いソロも取る。中盤はビートを抜き、思いっきり混沌へ。
   一丸となってうねる17分近辺の盛り上がりが、かっこいい。
   最後の(5)だと、ほんのりアラビック風味のゆったりムードが、しだいに高まっていく。
   終盤はハードなギターが荒れ狂う混沌に雪崩れ、たんたんと冒頭のペンペンするギターリフが
   続きつつ、しだいに加速へ。本盤でベストがこれ。

   07年スタジオ盤、エンジニアは川端で、マスタリングが吉田。
   米Important Recordsからの発表。
51・Acid Mothers Temple & The Melting Paraiso U.F.O.:Crystal Rainbow Pyramid Under The Stars:☆☆☆☆
   アッパーなAMT流ミニマル・トランス世界を長尺で楽しめる一枚。
   07年のスタジオ4作中の1枚。河端、志村、東、津山に小野良子(as)、北川ハヲ(vo)が参加した。
   1000枚限定なLPのB面、"Blues For The Narcotic Kangaroo"は本作に未収録。かわりに(2)と(3)を入れた。
   すっきりした録音で分離良くしつつ、サウンドはきっちりモヤっとサイケ。
   実際にはかなりダビングを重ねたか。(1)は混沌アンサンブル。ベースとドラムが荒れ、
   さらにギターが時に速弾きもまぜ疾走する。シンセの煌めく世界が心地よい。
   (2)ではウネリをもったグルーヴを展開。ギターのリフはループのごとく執拗だ。
   メインはギター・ソロだがシンプルなドラムとベースのアンサンブルも素敵。
   10分過ぎからの怒涛な盛り上がりが聴きどころだ。終盤へじわじわと加速してゆく。
   エンディングは怒涛のエコー・アウト。展開とか、とりあえずどうでもいい。
   最後の(3)は40分もの長尺。リフはループなの?ベースのタイミングも含め、1小節をひたすら
   回してるかのよう。シンセとギターが上で、うねうねと蠢く。
   これまたひたすらミニマルなギター・リフを軸で、妙に縦がドタバタする。
   とにかく延々と重なるリフと奔放な上物のギャップに朦朧とさせられた。

   11年発売。2010年12月11日の名古屋ライブ録音で、邦題は"2010年宇宙の祭典"。
   ミックスは川端、マスタリングは吉田。日本盤、自主レーベルから。
50・Acid Mothers Temple With 鬼怒無月:2010: A Space Ritual:☆☆☆☆
   鬼怒無月の初期ソロ"Disco space baby"(2000:録音は96/12/08)を20年ほど経過し
   落とし前つけた印象あり。まさに1曲目は"Disco space baby.You and I"。
   AMTの煙ったスペース・サイケな音像を、野太く鋭く鬼怒がギターで貫く。
   後半はAMTの代表曲、"Pink lady lamonade"。ライブならではのドラマティックさを味わえる傑作。
   大仰にも繊細にも味わえる多面さがたまらない。

    あふりらんぽのピカチュウと河端一のデュオ。英Riot Seasonから1000枚限定、11年の発売。
   ミックスは川端、吉田はマスタリングに加え編集でもクレジットあり。
49・Pikacyu*Makoto:OM Sweet Home : We Are Shining Stars From Darkside:☆☆★
   多重録音でピカの歌声を前面に出したハード・サイケ。<(3)ではドラムとギターをたがいに持替え演奏した。
   脈々とインプロを続けずに、短めの曲を間へいくつもはさんでメリハリある構成を仕上げた。
   楽曲はピカと河端のみだが、丁寧にダビングを重ねている。
   楽曲によってはスッキリした音像も聴け、バラエティに富んだ仕上がり。
   エッジのクリアなミックスが、吉田達也っぽい。

   08年にポーランドのVivoが発売。08年6月29日の録音。ピカチュウがクレジットあり。
48・Acid Mothers Temple & The Cosmic Inferno:Hotter Than Inferno - Live in Sapporo 2008:☆☆☆★
   Inferno名義は田畑満と志村、河端にピカチュウがメンバー。
   全2曲、シンプルに突っ走るサイケ・ロック。シンセが吼え、ギターがわめく。
   猛然なテンションだがリズムはシンプル。力強く転がった。
   (1)は幾度か翼を休めつつ、改めて起ちあがる。切ないムードを残したパワフルさ。リフを重ね即興を包み込む。
   ノイジーさが音質の悪さに繋がり、細部は見通しづらい。だが、ライブの迫力は伝わる。
   (2)は代表曲の"Pink Lady Lemonade"。メドレーをはさみつつ、45分にわたり駈けた。
   (1)と一転しハッピーなムードを盛り立てる。滴る中間部のリフは何度聴いても美しい。
   本テイクではきびきびとメリハリつけた演奏をした。

   97年に日本のPSFから。初期の作品で、大勢のメンバーが参加してる。
47・Acid Mothers Temple & The Melting Paraiso U.F.O.:Acid Mothers Temple & The Melting Paraiso U.F.O.:☆☆☆
   メンバーは東、河端以外でなじみ深い名はコットン・カシノやスハラケイゾウか。
   多数ゲストが参加した。組曲形式のクレジットで、楽曲も区切りがある一方、
   トラックは1つだけの長尺スタイルをとった。
   リフの上で混沌を演出する冒頭から、いかにもプログレ的キメを多発する場面まで
   幅の広いサイケ・ロックを詰め込んだ。ごちゃっと煙った様子が痛快な一枚。
   ソロよりも音像の勢いや圧巻さで聴かせる。

   LPのリイシューで00年米ツアー音源のCD化。
46・Acid Mothers Temple & The Melting Paraiso U.F.O.:Born To Be Wild In The U.S.A. 2000:☆★
   全体的に豪風雨へ突っ込んだような勢いと圧力が心地よい。でもまあ、音質から言ってファン向けかな。
   音質の抜けはいまいち。だがボリュームをあげれば音圧は楽しめる。
   なお00/11/1のフィラデルフィア公演のみ、IAで音源が聴ける。
   5曲入り。ジャム要素は強いが代表曲"Pink Lady Lemonade"など楽曲も収録された。
   メンバーはCotton Casino/河端/津山/東/Ozawa Ryo(ds)
   中盤は混沌、猛烈なテンションでスペイシーな世界をばらまく。ドラム+ベースがきっちり
   構造を支えている。だからどんなにギターがはじけても、ベクトル感はしっかり残るのが特徴。
   (2)の中盤では、津山(?)の脱力ボーカルが挿入され、緩急と妙に神秘的な雰囲気を煽った。
   (4)は分離良い音だと、もっと魅力増しそうなスピーディさ。音構造を
   脳内で補完するマゾ的な楽しみ方をしてしまう。

   08年発売、米Importantより。マスタリングが吉田。
45・Acid Mothers Temple & The Melting Paraiso U.F.O.:Glorify Astrological Martyrdom:☆☆☆
   ライブの盛り上がりを凝縮したかの盤。
   河端/津山/東/志村のシンプルなAMTで、溜めては炸裂するギターとシンセがイントロだ。
   重厚な低音がミリミリと世界を(1)で切り開いた。
   (2)と(3)はよりくっきりしたリフによるサイケ・ロック。(2)はじっくりと。
   (3)はいきなりクライマックスで弾けた。

   99年のライブ集で、00年のLP二枚組をブラジルのEssence Musicが限定500枚で11年にCD化した。
44・Acid Mothers Temple & The Melting Paraiso U.F.O.:Live In Occident:☆☆☆
   河端、津山、東、小泉にCotton Casinoで、各会場1曲づつを収めた。
   曲のテンポの差こそあれ、がっつり盛り上がってる様子が良くわかる。
   混沌で怒涛の勢いは、ギターとシンセが高らかに吼え、ドラムとベース、特にベースが
   とびきり着実なリズムを奏でてゆく。
   バカ騒ぎなスペース・ミュージックでありつつも、根本で演奏を聴かすテクニックあるさまが良くわかる。
   プログレを基調にしつつ、時にブルージーな響きもあり。

   03年に米Importantで発売のCDシングル3枚連続シリーズ"Magical Power From Mars"で発売の2nd、1000枚限定。
43・Acid Mothers Temple & The Melting Paraiso U.F.O.:Diamond dogggy Peggy:☆☆
   コットンのボーカルとギターへ思い切りエコーがかぶり、どっぷり濃密な
   うねりを堪能できる。15分一曲、潔くジャムを繰り広げた。
   ギター・ソロとボーカル双方が同時進行で即興する印象だ。

   08年に米Importantより。長尺の2曲を収録した。
42・Acid Mothers Temple & The Melting Paraiso U.F.O.:Recurring Dream and Apocalypse of Darkness:☆☆★
   CDの途中で楽曲が一旦切れる、LPを意識した二部構成なしくみ。
   (1)はシンプルなリフの上でシンセとギターが躍り、加速してくストイックぶりだ。
   叩き付ける野太さを強調が(2)。ウネりをリフに変え、漆黒を突き抜ける。
   どちらも混迷と突進の双方が合わさったロック。メンバーは津山/東/河端/志村での録音。

   河端、津山、吉田のトリオで英Cargoの発売。録音からミックス、編集まですべて吉田。
41・Acid Mothers Temple SWR:SWR:☆☆★
   セシオン杉並(社会教育センター)にて一日で録音された。AMTでは吉田の色が強いユニットと思う。
   即興を編集し曲風に仕立てた構成で全13曲入り。顔ぶれからの意外感は正直薄い。
   ある意味、安定した出来だ。津山のユーモアとタイトな吉田のドラムを軸に噴出する曲たち。
   コラージュっぽくパンする(5)のサイケぶり、AMTらしい怒涛の(8)が、ぱっと印象に残った。
   吉田のミックス感覚を味わうには良い盤かもしれない。混沌さと分かり易さがいい塩梅だ。

   米Prophase Musicが09年発表で、マスタリングが吉田。11曲入り。
40・Acid Mothers Temple:Are We Experimental?:☆☆☆☆
   独自の個性を主張するAMTの魅力をきっちり一枚にまとめた。入門に最適。ジミヘンの混沌とスピードを見事に咀嚼している。
   河端、志村、東、津山による大サイケ・アルバム。くっきり分離の良いミックスでLPとは曲順違い。
   二十分にわたりLPではC面全てを使った"Take Up They Kaleidoscope"がCDでカットされた。
   パン移動で幻惑感を強調し、ランダムとポリリズミックが交錯する。
   多数のダビングをシンセで包み強烈な音圧だ。ただし力押し一辺倒でなく、アコースティックな
   曲でアルバムのメリハリをつけバランス感もあり。

   09年に米 Alien8 Recordingsより。マスタリングは吉田。
39・Acid Mothers Temple:Lord of the Underground - Vishnu and the Magic Elixir:☆☆☆★
   メンバーは津山/東/志村/河端。ストーリー性ある音楽のうねりを味わえる一枚。
   なおLPテイクはCDより若干短く編集されているという。
   まず(1)からスピード感が抜群だ。粘っこいギターリフを軸にシンセとリズム隊が絡み、エンディング間近では
   テンポが加速し、どんどん前のめりに。シンプルながら熱狂するロックの真髄を体現した。
   (2)は英トラッドとアラブを混ぜたサイケデリックが味わえる。ふよふよ漂うシンセも、またよし。
   (3)は本盤では最長の25分。密やかなインドを連想する音像から世界がじわじわ舞い上がり、
   ドラムがじわっとリズムを刻む。揺れるビートが、いかにも。
   やがてギターも加わり、尻上りに加速してく。呟く津山の声が、サウンドに不可思議さを足した。
   津山のフルートも加わるころはテンションがマックス。ひたすら、気持ちいい。
   テンポの上がりは(1)ほどではない。しかし、猛烈なギターに引っ張られるベクトル感が魅力だ。
   最後はノービート。シンセとノイズギターが混ざって終わる。

   リーダーは宮下かな。東や河端が参加した05年の盤。マスタリングは吉田で録音が河端。
38・Godman:God >><< Dog:☆☆☆☆
   宮下敬一/榎本隆幸/渡邊靖之/東洋之/河端一による、おそらく全編インプロ。
   だが素晴らしくダイナミクスを操った楽器バランスと、個々の楽器をきれいに立ててスペイシーさを強調したミックスが
   本盤を聴き応えたっぷりな作品に仕立てた。
   宮下のシャープなストロークがアンサンブルを軽やかにドライブさせ、幾分埋もれ気味に
   ミックスされたドラムが着実に聴き手を煽る。ベースが支え、蠢き続けるシンセと
   さりげなく暴れるギター。5人が調和しつつ、自由な音像を楽しくつづった。
   長尺2曲がありがたい。ずっとこの世界に浸っていたい。

   仏のバンドUehと河端のコラボ。マスタリング/録音は河端が担当した。04年発売。
37・Ueh & 河端一:Pataphysical Overdrive To My Cosmos:☆☆☆
   Ueh単独2曲、河端1曲、コラボ1曲の4曲構成。Uehはサイケながらスッキリしてる。
   (1)はミニマルな要素ありつつ、抜けの良いきれいな音作り。
   (2)もキャッチーなリフから始まり、軽やかに日本語でカウントした。
   逆にコラボの(3)は河端の色が強く、混沌さが高まる。
   伸びる河端のエレキギターが、ディストーションに塗れたUehのサウンドと混じった。
   ゆったりしたビートは穏やかな雰囲気を基調にしつつ、ドタバタしたリズムがひねくれたノリを作った。
   川端ソロは本盤で最も長尺の20分以上。どっぷり奥深い沼を作った。
   ギターを数本重ね、メロディをうっすらと浮かばせる。時に鈍い和音を混ぜつつも、
   うねる響きがじわじわと広がっていく。リズムよりも、サイケな漂いが強い。

   鬼怒無月が初期に参加した作品をまとめて入手。
   まずサンポーニャ/ケーナ奏者の瀬木のバンドへ参加の作品群をまとめて。これは97年の作。
36・瀬木貴将:LUNA~星の旅:☆☆☆
   即興要素はケーナが主とはいえ、丁寧にアレンジされたアンサンブルは単純に心地よい。
   豪華ゲストがもたらす厚みと温かさに和む。
   好みの意味では、もうちょい毒や破綻が欲しいが・・・
   ニューエイジっぽいきれいな仕上がりだ。(8)はキース・ジャレットのカバー。
   ゲスト陣も豪華だ。

   95年作品、福岡ユタカと瀬木の共同プロデュース。ピアノは谷川賢作、パーカスがヤヒロトモヒロ。
35・瀬木貴将:Ilusion:☆☆☆☆
   派手なソロ回しやアレンジの仕掛けなしでも、べらぼうにグルーヴするアンサンブルにまずやられた。
   素朴でメロウな展開のメロディで、バンドの演奏は温かくも鋭い。
   溌剌としたニューエイジ・ミュージックだ。ライブ聴くのはさぞかし楽しかったろうな。

   95年、瀬木のデビュー作。村上秀一がドラムで参加した。本盤も福岡との共同プロデュース。
34・瀬木貴将:Viento~風の道:☆☆☆★
   ソロ回しでなくアレンジの妙味を味わうアルバム。バンドというより曲ごとに
   編成を分けたイメージ。演奏はすばらしくタイトで、ケーナの音も切なさより
   爽快さを前面に出した。アクをきれいに抜き、涼やかなアンサンブルを堪能できる盤だ。

   初のベストで00年発。アルファの "VIENTO"、"ILUSION"、POLYSTER 移籍後"NIEVE"、"LUNA"から選曲された。
33・瀬木貴将:Songs Of The Wind:☆☆☆
   (15)が新曲。盛りだくさんなアルバムで、初心者には良いかも。

   参加してるが、鬼怒無月はあくまで仕事だろう。全曲でギターを弾いている。
   アイドル曲をメタルアレンジという、良くわかんない企画。バンダイから97年発売。
32・Metal Idol:Metal Idor:
   メタルに思い入れ薄く、いまいち聞き流しちゃった。本盤のコンセプトは聴いても不明。
   鬼怒無月の正確無比なギターテクを味わうには良いかも。ソロがあまりにも
   少ないため、マニア向けだが。滑らかなギター多重録音が心地よい。
   ドラムとベースは何故か、クレジット無い。最後の"Heavy edit ver."が一番の聴きもの。

   クラシックをメタルアレンジ、同じく良くわからぬ企画盤。97年、バンダイより。
   鬼怒は2曲(エリーゼのために、とパッフェルベルのカノン)を演奏した。
31・METAL-ZAC:METAL CLASSIC:
   狙う聴き手が分からない・・・ヘビメタ小僧か?アレンジの妙味にしてはリズム隊が
   あまりにもシンプル。ギターのテクは凄いが、アドリブ的な崩しが無ければメカニカルさが
   先に立つ。あくまでもギタリストのハイテク鑑賞か。別にここまでしてクラシック聴く必要はないし。
   ということで聴くポイントが分からないが、テクは凄い。ただし鬼怒のアドリブ妙味は皆無。

   最後は、野太く吼えるフロウが印象的な大阪のラッパーの1stソロ、10年の盤。
30・4WD:CLOCK WORK:☆★
   トレードマークの超だみ声はむしろ控え気味。どすの利いた凄みとピュアな表現が同居した。
   ゲストも多数招き、トラック全体の聴きやすさを優先した印象を受けた。
   シンセが目立つチカーノかマイアミ風シンフォニックなアレンジで不穏さは低め。
   巻き込むようなグルーヴの(8)が耳に残った。

2013/1/14   最近買ったCDをまとめて。

   12年末にイタリアのレーベルから発売。木箱入り3枚組(199セット限定)と通常版(299枚限定)の2種類あり。
29・Merzbow:kibako:

   ようやく入手。11年にイギリスのレーベルから発売。350枚限定。
28・Merzbow:Kamadhenu:☆☆☆☆
   ちょっと異色なアプローチを楽しめる盤。
   ジャケットのイラストにイメージが固定され、妙に精神世界を追求ノイズと聴いてしまった。
   (1)はハーシュより鋭い一本を軸に置き、磨くようにまとわりつくノイズの蠢きがメルツバウにしては新鮮だった。
   パーカッションは生演奏かな。(2)は一転、混沌へ。電気仕立てのループを変貌させつつ、卑近な世界を細々した太いシンセで表現した。
   甲高く軋む音が輝きながらよじれていく。
   (3)ががっつりハーシュ。中央でひよひよとか細い音が躍る中、周辺を火花のように飛び散り続ける。

   細野晴臣、テツ・イノウエ、Atom Heartのユニットで、98年発売。廃盤。
27・Hat:DSP Holiday:☆☆☆☆
   ミニマル、ラウンジ、テクノ。さまざまな要素を複雑かつポップにまとめた傑作。
   メロディは有るか無しか。ビートは小刻みかループか。無造作に
   アイディアをごちゃまぜに押し込み、なおかつ聴き心地良くまとめたセンスが壮絶に素晴らしい。
   散漫になりそうな展開だが、がっちり構築したサウンドは中毒性高い。聴くほどに、味わい有り。

   2ndアルバムをリイシューでなく、同じ曲順で再録した。突飛なコンセプトで再発表の盤だ。
26・Era:Totem -Rerecording-:☆☆☆☆=?br>   初録音盤と比べ、幾分音が太く鳴ってる気がする。マスタリング技術の向上、だろう。
   演奏は本当に甲乙つけがたい。あえて言うなら、より今回録音のほうが伸びやかさが増してる
   気がするが、極々僅差。決して初録音盤の価値は減じない。
   あえてファンサービスで丸ごと再録音することで、各曲の解釈並びに、歴戦による変遷を
   聴き比べられる特典を導いたアイディアであり、故意に妙な崩しや変化球を加えぬことで
   二人の演奏技術の確かさと骨太な表現力を痛感できる作品になった。素晴らしい。

   97年にジャマイカにてシズラがリリースした2nd。タイトル曲は大ヒットらしい。
25・Sizzla:Black Woman & Child:☆☆☆
   シンプルなリフやフレーズを積み重ねるレゲエ。単調ではあるが、慣れるとジワジワくる魅力あり。
   特に(13)のフレーズが強烈に耳へ残った。
   スライ&ロビーを初めとし、幾パターンのミュージシャンを組み合わせた。
   生演奏から完全打ち込みまで幅広いアレンジ。根本が単純なだけに、野太いビートが効果的。
   打ち込みと生演奏の差がくっきりわかる。

   活動30周年を迎えた札幌のテクノ・ユニットが、92年に発表のアルバム。
24・いまさらイスラエル:クラリネット・ボーイズ、ナイスC、A、Dをみつける:☆☆★
   素朴ニューウェーブ。ふらふらとピッチ甘いボーカルと、きっちり拍の頭を叩く
   メロディがタドタドしさを残す。チープな響きだが丁寧なアンサンブルのアレンジと
   きれいなメロディは、きっちり芯を通した。だけど、どっか頼りない。
   そんなバランス感が魅力か。タイトルの独特な言葉センスもいいなあ。

   吉田アミが10代に録音した音源を集めた盤。
23・Asian Beauty:Beautiful∞P(美しき無限無限無限ループ):☆☆☆★
   全30曲、ごく小品も収録のためトラック数は多い。内容はとても充実。
   素朴でアイディア豊富な電子音楽が詰まってる。機材と戯れつつ、オリジナリティが
   そこかしこで感じられた。後の声を活用したパフォーマンスに通底する、
   既存概念を軽々と飛び越す自由さを実感できる傑作。

   96年6thアルバム。未聴だった。岡村靖幸が(4)にスキャットで参加。
22・電気グルーヴ:ORANGE:☆★
   オリコン10位。このバカっぷりがメジャーで売れてたとは。ビートの効いたテクノで、
   予想以上にダンサブルだった。声を張ってシャウトする演劇的な要素は有頂天を連想した。

   英で1996年に英国聖歌隊のボーイ・ソプラノが集まったユニット。99年の盤で3rd。
   アイリッシュとケルトの曲を集めた。
21・Boys Air Choir:Air:
   トラッドを素材の男性少年コーラス。泥臭さをきれいに拭い去り、爽やかな
   ムードを強調する。粘っこさが無い分、するする聴いてしまう。

2013/1/8   最近買ったCDをまとめて。

   タイトル通りリミックス集。顔ぶれにメルツバウやJim O'Rourkeの名を見て入手。2012年作。
20・Neneh Cherry & The Thing:The Cherry Thing Remixes:
   オリジナルを聴いてないが、電子音楽系ミュージシャンのリミックスはどれも、予想より素直だ。
   もっと素材的にガシャメシャかと思った。メルツバウのリミックスもノイジーだが
   原曲を破壊はしない。あくまでネナとシングスが主役な企画のためか。崩し過ぎては
   本人名義で出す必要ない、と。その点で、少々中途半端かもしれない。

   Kapotte Muziekと共演時代の音源を集めた2012年リリース、3枚組Boxの新譜発掘音源。
19・Merzbow & Kapotte Muziek:Works 1987-1993:

   2012年の10枚組CD Boxリリースは、これで3作目。テーマは水谷聖とのデュオ音源を発掘だ。
18・Merzbow:Duo:☆☆☆☆
   貴重な記録の蔵出しだ。編集前の音源をそのまま長尺で、CD1枚に数曲づつ入れた。
   セッション的ながらダビングも施され、きっちり作品に仕上がってる。
   たぶん当時、ここからさらに短く編集を行ってリリースしたんだろう。
   生々しい初期メルツバウの、さらにデュオならではの寄り添う距離感を探るような
   音像の蠢きも楽しい。こういう音源、あの膨大なリリースの裏に存在したとは。
   練習スタジオなどでのセッションめいたノイズ作品が詰まった。見方を変えれば習作であり
   試行錯誤ともいえる。若干の冗長性あるが、たぶんテープ編集はごく少ない。
   蔵出しの貴重性は素晴らしいし、メルツバウの活動初期を伺うのに本盤は最適だ。
   あくまでマニア向け、メルツバウ初心者に本盤は進めない。けれど単なる暴力的な
   ノイズとは全く違う方向性で、電子音やノイズ、ドラムなどを駆使した抽象的でカテゴライズ
   しづらい音楽を作り上げていくパワーに惹かれる。後年に通じる濃密な物語性が滲む一方で
   アイディア一発の瞬発力で突破する勢いも捨てがたい。
   そう、やはり貴重な記録だ。良く残っていて、良くリリースしてくれた。

   ハモンド・オルガンとエレクトロニクスのデュオ。09年発売。
17・Mike Shiflet & Daniel Menche:Stalemate:☆☆
   オルガンとはいえメロディ要素は希薄。電子音が飛び交う抽象的で強度あるノイズが3曲入った。
   ノービートだが冷徹なパワフルさが本作の魅力か。
   重心低くじわじわと滲み迸る、電子音の蠢きが美しい。ざらつきウネるドローン。

   ニコス・ヴェリオティス(vc)の一発録音の即興ソロ。03年の録音。
16・Nikos Veliotis:Radial:☆☆☆★
   ダルダルにたるませた弓で、ひたすら弦をゆっくりと奏でる。
   ぼおっと聴いてたらエレクトリック・ドローンと勘違い。すさまじい倍音だ。
   ノイジーな音の絨毯は、生演奏と思えぬ鋭さと深みを出した。
   曲間に異様な長い空白あるのは何故だろう。
   いずれにせよ、ハーシュ・ノイズとして思い切りボリュームあげて聴きたい。

   多数のCD発表もしてるポルトガルのエルネスト・ロドリゲス(Ernesto Rodrigues:vln)が仕切り、全曲で指揮を執った。
   大編成フリージャズ。2006~7年ライブ、長尺5曲の3枚組。
15・Variable Geometry Orchestra:Stills:☆★
   楽曲により全員で同時にアタックするシーンもあるが、印象は限りなく混沌だ。
   大編成のアコースティックとエレクトロが混在し、ソロ回しの感触も希薄。むしろライブでこそ映える音楽だ。
   全員がてんでに音を出し続けず、メリハリあるのが幸い。音が現れては消えるレイヤーがコンセプトのよう。
   やみくもに抽象性が一帯に広がる。ただし緊迫感あるのは間違いない。
   どの曲も長尺で聴くのに集中力が必要な点は、玉に傷。

   トーマス・クラコィアク(per)の打楽器ソロ。08年作。
14・Tomas Krakowiak:La Ciutat Ets Tu:☆★
   残響低い金物をショート・ループさせ、ドローンな方向性を狙ったか。
   淡々と持続する打擲音は、パーカッション・ソロと気づかない。
   多重録音した鎖を引きずる音の集合みたいだ。リズムやビートの爽快さは皆無、
   むしろインダストリアル・ノイズな聴き方がぴったりくる。

   コンピュータとギターフィードバックのデュオ。05年の発表。
13・Dion Workman/Mattin:S3:☆☆
   41分一本勝負の電子音ノイズ。最初は極微音で始まり、しだいに高まっていく。
   ビート感や轟音の勢いは希薄だが、大河のようなうねりに流されるさまが心地よい。
   超高音を代表的に、純粋に周波数ノイズを聴かせるようなサウンド。
   どこまで音楽情報を取り出せるか、耳の実力値を探るような挑発的なスタンスだ。

   05年10月米ミルウォーキーでのパーカッション・デュオ・ライブ音源。
12・Jon Mueller/Jason Kahn:Supershells:☆☆
   密やかなドローンが続く一枚。(1)ちろちろと高音やテープ処理の響きが、さりげなく空気を彩る。
   (2)は金物の残響を素材に、低音がねっとりとまとわりつき、広がって行く。
   静かに音の波へ、たゆたえる一枚。

   Other Two Comrades、Wild Children、Top Floor Circusの元/現メンバー6人と
   Yan Junの即興デュオだそう。04年ライブ録音。
11・Yan Jun:Improvisation In Shanghai:☆☆☆★
   漂う親指ピアノっぽいアルペジオはミニマルのふりをして連続性が無い。
   呟く男の言葉は幻想的でいて、無造作だ。
   ゴング的なダブ・ボーカル処理は無性に荒っぽい。途中で聴ける歓声は実際の観客だろうか?
   違う気もする。執拗に電子加工され繰り返される唸りは、内へ内へと潜っていく。
   最初は音響系と思ったら、壮大な物語を連想させる怒涛の展開が詰まってた。

   Yan JunとWu Quanのデュオ。中国題は鐵觀音二重奏『立方芸術中心現場』。
   05年録音でエレクトロニクスらしい。
10・tie guan yin duo:Live at 798 Cubic Art Center:☆☆☆
   インダストリアルからノイズ・オーケストラへ。轟音でなく超高音から低音まで幅広い
   音色を組合せ、深みあるドラマティックな音像を作った。
   たゆたう穏やかなムードから鋭い電子音まで。展開の多彩さと瞬間の奥行深さが良い。

   西サハラのドゥウェイ(g)によるバンドの89-96年音源を再発。
9・Group Doueh:Treeg Salaam:☆☆☆
   グループ・ドゥーウェはSalmou"Doueh"Boamar(g)をリーダーに、パーカッションと少しのキーボード、あとはボーカルと、
   簡素かつ欧米ロックバンドの感覚では変則的な編成のユニット。
   ドゥーウェの私家版カセットが音源で、観客の歓声や音質から見て、ライブを
   記録的に残したものかも。極端に音質悪いものもあり。
   ムスリム風の粘りと節回しの楽曲が、ひたすら続く。本盤はシアトルのレーベルから出ており、
   おそらくハード・サイケデリック的文脈で奇妙な味わいを楽しんでの発表と思う。
   もちろんその観点でも楽しめるが、荒っぽいながらも宗教的な熱狂を切り取った瞬間、としても貴重。
   ただまあ、楽曲構成的には、そうとうにラフ。ドローン的な連続性がほとんど。

   ペンギンやアザラシ、氷河等の音を南極で現地収録した98年発表の音源。
8・Douglas Quin:Antarctica:☆☆☆★
   動物の声や自然音、なのに。いつの間にかアンビエント・ミニマム・エレクトロを
   聴いてる気分になる。特に(3)以降。密やかな空気の奥で
   のびやかに鋭くも重たい響きを撒いていくさまに
   驚き、惹かれた。どの程度編集してるか分からないが、切り取られた瞬間は素晴らしくドラマティックだ。

   中国は杭州、04年の2piフェスでエレクトロ・トリオのライブ音源。
   中国語表記の表題は"背信弃义的双鱼座人 – 二皮音乐节现场"、奏者は、姚大钧、李剑鸿、颜峻。
7・Dajuin Yao+Li Jianhong+Yan Jun:Live At 2pi Festival 2004:☆☆☆
   3人の電子音が流れるさまが特異だ。轟音ともアンビエントとも違う。時折変化しつつ
   常に変容を漂わす。スリルは狙わずともしたたり落ち、静寂にとどまらぬノイズは
   無機質さを超えた生々しさ有り。奥深い緊迫感はどこか湿っぽく、ヨーロッパの冷徹さと異なる。
   これが、中国の電子音楽なのか。

   北京でのサティ「家具の音楽」に影響されたアンビエント、らしい。07年発。
6・Zafka / 718 / Yan Jun:Music For Shopping Malls:☆☆★
   ミニマル環境音楽。ジャケットへ記載のようにBGMとし聴くべき電子音楽だ。
   だがこのキュートさは単なるBGMには勿体ない。抽象的だがふんわりした楽曲が
   たゆたうさまは、モールの喧騒には似合わないのでは。空港とかのほうが合いそう。
   最後の4曲、超短時間でリピート前提の作品と、前半の15分くらいな長尺の差が
   両極端のコンセプト。これ、最後のように1分弱やそれ以下の作品をずらり並べるアイディアも面白そう。

   ブレット・ラーナー(箏),ジョエル・レアンドル(b)に内橋和久(g,daxophone)が加わった、02年米の録音。   
5・Larner/Leandre/Uchihashi:No Day Rising:
   フレーズよりも短い響きの交錯する混沌が中心。楽曲も小品が連なり、じっさい1日でさっくり録音のようだ。
   正直、音だけでは退屈。倍音がカットされる録音物では現場の空気や漂うムードも伺いづらい。
   記録としては、興味深いのだが。

2013/1/3   新年、初買い。

   GbVの再結成3作目のアルバム、昨年の発売。19曲入り。もちろん小品いっぱいのため。
4・Guided By Voices:The Bears for Lunch:☆☆☆☆
   肩の力を抜いたバンド・スタイルが炸裂した一枚。GbV名義だが個々の投げっぱなしソロを
   まとめた感じすらする。この緩やかな結合が新生GbVの特徴か。
   トビンが4曲、グレッグとの共作1曲は、それぞれ別のとこで録音。トビンのは
   相変わらず一人多重録音っぽい。その他ロバートの曲も投げっぱなし。
   ほとんど展開せず終わる。弾き語りすらも。なぜこれをソロに入れない?
   自由な作曲スタイルに惹かれた。特に"Finger Gang"は鮮烈な傑作だ。
   テンポはミドルが多い。派手な曲は無く、無理やりメロディで高まりを表現するが、
   総じて寛いだアイディア一発のロバート節が詰まってる。自由なバンドだなあ。

   72年の2枚組。のちのフュージョンで活躍するミュージシャンらによるセッション盤。
3・Mike Mainieri & Friends:White Elephant:☆☆☆★
   歌ものも多く、フュージョンと言うよりAORか。切り込み鋭いホーンとリズムが
   すさまじい。インスト曲も時に大仰なほどのアレンジで滑らかに刻む。
   ホーンがアドリブをつなぐ場面もあるが、あくまで主体はアンサンブルそのもの。
   ジャムを元にした取り留めない楽曲展開と、統一感に目配りしたアレンジが
   良い具合に絡み、聴き応えある一枚に仕上がった。
   とにかく、ダブル・ドラムでの混沌な疾走感がたまらない。

   棚を探しても持ってなかった。マラソン・セッションの一枚、56/10/26の録音。
2・Miles Davis:Relaxin' With Miles:☆☆☆☆☆
   アルバム前半と最終曲の緊張感は素晴らしい。隙が無く、ぐいぐいとスイングする。
   鋭いマイルスとコルトレーンの対比、滑らかなピアノをリズム隊が支える。
   耳馴染み良いサウンドなのに、スリリングなアンサンブルに心を揺らされる。
   冒頭の肉声あるせいか、なんだかとても生々しい盤だ。

   06年の10月リリースで、ムーン・チャイルドの三人組(Joey Baron/Mike Patton/Trevor Dunn)の演奏。
1・John Zorn:Astronome:☆★
   ds+b+voの即興的ダイナミズムがゾーンの狙いか。ルインズをつい連想するが、あれほど
   緻密じゃない。むしろ無造作や無作為を追求か。とはいえ歪んだベースや
   連打されるドラミングは、かっこよさを覚えるよりコンセプトのあいまいさが気になる。
   ライブ見れば、印象変わるかもしれない。


2012年12月

2012/12/31   昨日、灰野敬二のライブ物販で入手。

   2012年の映画"ドキュメント灰野"に合わせ、劇場限定販売で発表の不失者と灰野の新録。
245・灰野敬二:A document film of keiji haino:☆☆☆★
   12/4/3高円寺Highの不失者2曲と、映画エンディングで聴けた上野水上音楽堂で11/10/19録音のギター弾き語りを収録した。
   剛腕と叫びで疾走する濃密な不失者と、切々と歌い上げる1曲の対比が素晴らしい。ある意味、とても分かり易いアルバム。
   ロックな不失者とフォーク調ながら声の説得力に惹かれるソロ。

   2010年フランスのコンピ。1772年の小説をテーマに編まれた。
   ジョン・ゾーンなどが曲を提供した。灰野敬二が一曲で参加。
244・V.A.:The devil in love:☆☆☆☆
   物語のムードに合わせた、欧州的な影と闇をまとった楽曲が並ぶ。
   マスタリングが効果的で、ばらばらな音楽性を見事な音圧感で整えた。
   ショーケース的に味わえるコンピで、魅力的な楽曲が実に多い。
   トラッド的なアプローチからロック・コンボ、電子音楽風まで
   さまざまなアプローチを纏めた、編者のセンスが際立った傑作。

2012/12/23   最近買ったCDをまとめて。

   ジョン・ゾーンの近作を何枚か入手。このところほぼ月刊で発表。
   2012年7月発表、ゾーン自身が奏でるオルガンのソロ。11年12月、NYのSt. Paul's Chapelで録音された。
243・John Zorn:The Hermetic Organ: St. Paul's Chapel, NYC:☆★
   40分弱一本勝負。組曲形式の曲名だが、即興で心の赴くままに弾き倒した印象。
   むやみな滅茶苦茶弾きにはなってないが、根本は混沌。穏やかなメロディや白玉の持続音の
   合間を縫って、指に任せた音の奔流が噴き出す。生だと迫力あったろうな。

   11年4月発売。前半は2010年の作品でシロ・バプティスタとケニー・ウルセンの打楽器デュオ。
   豪華ブックレットつき。併収の後半は、tp,b-tb,tubaの室内楽な編成な同年の作品。
242・John Zorn:The Satyrs Play / Cerebrus:☆☆
   前半は各数分の8曲でつむぐパーカッション・デュオ。コラージュ要素が若干あり。
   指揮でジョン・ゾーンの名もあるが、カード・システムを導入だろうか。
   パターンを打楽器同士で描くスタイル、即興要素は薄くコントロールされた精密さだ。
   後半の金管アンサンブルもコラージュっぽい。場面転換激しく、メロディだけでなく
   スピードや特殊奏法を意識したノイジーさもあり。ジョン・ゾーン的展開だが、やはり本作もどこか冷ややかなムード漂う。

   11年3月発表。ジョーイ・バロン(ds),トレバー・ダン(b)ジョン・メデスキ(p)、ケニー・ウルセン(vibe)の
   変則カルテット。ゾーンが作曲や指揮のクレジットあり、完全即興ではなさそう。
241・John Zorn:Nova Express:☆☆☆
   スタイリッシュで、クール。即興中心ながらフリーキーさは控えた。
   ピッチを揺らしづらい楽器が揃ったせいか。ころころと弾むゾーン流のスピーディーさは
   そのままに、かっちりビシビシと息を合わせたセッションぶりがスリリングだ。
   意外に聴きやすい。最終曲のロマンティシズムも素敵だ。

   10年11月の作。珍しく(?)ゾーンがサックスを吹いている。
   バロウズへ捧げた盤でマーク・リボーら、7人編成の盤。ファイルカード回帰のコンセプトらしい。
240・John Zorn:Interzone:☆☆
   10~20分の曲が3つ。とはいえ実質は組曲みたいなもの。
   演奏中心で次々場面展開する。超高音の交錯が心地よいミックスだ。幻想的なムードを重視し、めまぐるしいスピード感より
   ラウンジ風に酩酊する混沌を表現した。冒頭から鳴りつづけるサイン波っぽい冷徹な響きが本盤のカギか。
   電子音楽と即興セッションが交錯する構成だ。
   (1)でのミニマルな展開も、せっかちな展開がイメージのゾーンの作品では意外に新鮮かも。

   09年10月の発表、写真集付きのアートなジャケット。イクエ・モリが加わりつつも弦中心の小編成クラシカルか。
239・John Zorn:Femina:☆☆☆
   ローリー・アンダーソンのナレーションで始まる本作は、弦楽器とエレクトロニクスが
   混在する、全女性ミュージシャン・ユニットの楽曲。フリー要素は
   ありそうだが、端正な隙間多い音像とコラージュ的なジョン・ゾーン風楽曲が
   無造作に交錯する。美しくも不安定で、構築っぽいが揺らぐ。複数の要素が
   幻想的に絡む一枚。ゆったりした爪弾きにハープがきれいに絡む(4)が印象に残った。
   ゾーン流のアレンジされた美学を味わえる。

   トリオ編成で06年リリースのリーダー作。アコースティックと
   エレクトリックを行き来したコンセプトらしい。ゲストも色々。
238・坪口昌恭Trio:Radio - Acoustique:☆☆
   ダブやエレクトロニカ要素をふんだんに取り入れたトリオ・ジャズ。
   ダビングも多数、ミニマルな味わいが強い。ファンキーに突っ込む曲もあるが、
   基本は端正でクールな印象。ロマンティックさも抑え、インテリジェンスを強調な感じだ。

   ホランド=ドジャー=ホランドがモータウン後に設立したインビクタス/ホットワックスの
   楽曲を21曲詰め込んだコンピ。87年に英デーモンのリリース。
237・V.A.:H-D-H Presents The Hits Of Invictus Records And Hot Wax Records:☆☆☆★
   モータウンより若干上の世代を狙ったか。いぎたなくポップさを貪欲に狙う
   古巣に比べ、幾分荒っぽさが逆に本盤で感じた。ジェイムスンと思しき
   滑らかなベースラインの一方で、どうもドラムが雑に聴こえてしまう。
   イギリス編集のせいかアップやミドルが続くため、リアルタイムで無い今だとよけい、ぎこちなさを
   感じてしまう。ボーカルや楽曲は魅力的。ドタバタしたミックスを丁寧にするだけで
   さらに出来が良くなると思うが・・・。不思議だ。なにがモータウンと違うんだろう。

   カリフォルニアのレーベル"Lost Soul records"が99年発表のマイナー・ソウルのコンピ。
   解説が無く不明だが、盤起こしのようだ。
236・V.A.:Lost Group Harmony V. 1:☆☆☆
   解説無し、レーベル名など調査のヒントも無し。ネットでさくっと検索可能な
   レベルで無い、マイナーを集めてるようだ。楽曲自体はハチロクやロッカ・バラード的な
   ゆったりした楽曲が多い。流して聴いてしまいそうになるが、
   寛いでドゥ・ワップを聴くには良いコンピと思う。音質はまあまあ。

   同レーベル、99年同年発表。解説無し。シカゴのマイナー・ソウルのコンピか。
235・V.A.:Lost Chicano Oldies:☆★
   60年代後半~70年代前半頃のマイナー・ソウル集っぽい。聴いたことないグループばかり。
   盤起こしだし解説は無いし、マニアには中途半端な盤かも。しかし未知曲のきっかけにはちょうどいい。
   もっとも収録曲はB級曲多し。ラテン風味ほんのりが、本盤の特徴か。
   甘い(4)がまず印象に残った。

   独Amberが93年発売、自レーベルのコンピだろうか。ソウル関係らしい。
234・V.A.:Cool Struttin' Vol.1:☆☆★
   レトロなジャケットに惑わされたが、再発でなく新録のコンピ。ジャズに影響受けた
   打ち込みポップをまとめた。ドイツを中心に米英伊のミュージシャンが集まる。
   生々しいジャズは陰りの味わいをふりかけ、実際のリズムはほぼすべての曲で打ち込みってとこが
   なんとも歪な魅力か。ただ、どの楽曲もいまいち古臭いのが難点。
   ラテン要素を上手く取り入れた(10)を筆頭に、個別に聴くと結構良い。

   名義はブロッツマンとラズウェルのデュオ作。時間軸が不明だが、同名バンドの素地となった盤かな?
   86年作。前半はデュオ、後半にソニー・シャーロック、シャノン・ジャクソンが加わったセッション。
233・Last Exit:Low Life/ Last Exit:☆☆☆
   発掘音源かな、これは。録音は86年で発表は08年。LAST EXITの5th"Köln"からなぜか"Taking A Beating"を抜き、
   87年1月にラズウェルとブロッツマンのみのデュオ音源を併せてリリースされた。
   時間軸ではあえてラズウェルがデュオを試しに録音、やはりバンド編成に戻った流れとなる。
   前半のデュオ音源ではブロッツマンがラズウェルの音像へ寄り添いもせず、無造作に低音をブロウし続ける。時に軋みながら。
   ラズウェルはベース演奏と言いつつ、エフェクタを多用しドローン的な音像を常に追加した。
   何とも噛みあわないインプロだが(8)での密やかに統合するさまは好み。弓弾きベースの(9)の奇妙さも良い。
   後半の再発音源は素晴らしい。Last Exitは今回初めて聞いたのだが、4人になった途端
   ブロッツマンのフリーキーさがリズムの奔流にマスクされる。
   異端としサックスがそそり立ち、手数多く暴れるドラミングと歪んだギターが
   まるっとサウンドを逆に滑らかにまとめた。ラズウェルはむしろ目立たない。

   現URALi名義の女性ラッパーがNORISIAM-X名義で04年発表の1st。
232・NORISIAM-X:Brave New World:☆☆☆★
   蓮っ葉で極奥底にナイーブな女性を描くラップを、恐ろしくゴージャスなイメージで固めた。
   バブリーな時代を思い出すな。しかしトラックはシンプルなシンセで揺らし、
   不安定さと深部の薄っぺらさを表現したか。
   のちのアルバムで聴けるユーモアが要素薄いだけに凄みがにじむ。気楽に聴くには
   ちょっとカチカチだが、聴き応えは逆にある。

2012/12/17   最近買ったCDをまとめて。

   仏のリシャール・ピナスとメルツバウに加えWolf Eyesも参加した11年のライブ音源。
231・Richard Pinhas, Merzbow, Wolf Eyes:VICTORIAVILLE MAI 2011:☆☆☆★
   Merzbow関連盤にしては非常に聴きやすいダークな電子即興。場面ごとでソロを回すように
   風景が変わっていく。メルツバウのノイズを必要以上に大きくミックスしないため
   驚くほど全体図や細部を把握しやすい。ハーシュの嵐を求めたら
   拍子抜けだが。ある意味、現場でも聞き取れない轟音の奥のアンサンブルを味わうのに最適かも。

   プリンス久々のシングル発表。タイトル曲のテイク違いを集めた、6曲入り。
230・Prince:Rock and Roll love affair:☆★
   むー。プリンスの狙いが分からない。オリジナル・エクステンドに、
   ジェイミー・ルイスのハウス的なミックスが2曲。さらにこれらをラジオ向けにショート・ミックス、計6曲。
   すなわち本質的な意味で、プリンスのオリジナルは1テイクのみ。
   もとが軽い自己模倣的なファンクなため、よけいさらりと聞き逃してしまう。
   何がしたいんだろう、プリンスは。ラジオヒット狙いかな。

   オーディブックから94年発売の盤を、選曲を変えて05年のライスで発売がこれ。
   どちらも中村とうようの選曲、解説。オーディブック版も聴きそびれてるが、まずこれを入手。
229・V.A.:アメリカン・ミュージックの原点:☆☆☆★
   骨太で毒の無い、ハッピーなアメリカ音楽を集めた。
   ここに諦念や皮肉も無い。今のように無造作に録音できないが故の、
   世間のフィルターをかましてる、と実感する。素朴でも、どこか洗練有り。
   丁寧に聴いていくことで、20世紀初頭の概覧ができる。
   盤起こしによるヒスノイズも、こもった音色も、ある意味愛らしい。
   本盤を手がかりに、録音芸能の奥深さを伺える。いかにも中村とうようらしいコンピ。

   "gobbledygook"以来9年ぶり、インディで2010年に発表のアルバム。
228・川本真琴 feat. TIGER FAKE FUR:音楽の世界へようこそ:☆☆☆★
   最終曲のベース、キャロル・ケイはレッキング・クルーの女史?
   いくつかのセッションを重ね、録りためた印象のアルバムだ。だが軽やかにマスタリングされ
   透き通った統一感を味わえる。川本独特の素朴さを田舎の風景に投影し、
   数曲で川本自身によるフィールド・レコーディングも混ぜた。トータル・アルバムでは
   無いが、一貫したコンセプトの整理がアルバムをきゅっと締めている。
   健やかなボーカルとシンプルなアレンジが心地よい。数曲で聴ける
   武藤直哉(from Clownfish)のメロディアスなベースも良い。

2012/12/3   最近買ったCDをまとめて。

   日本人ガール・ヒップホップ。どっかけだるい要素がアメリカには無い特色。
   ニコラップ的な感じかな。2012年の新譜。トラックメイカーの一人にSimi-labのOMSBが参加した。
227・泉まくら:卒業と、それまでのうとうと:☆☆☆★
   舌足らずで、背伸びした女子中学生みたいなライムは、日本ならでは。
   CHARAあたりの影響も強烈に感じる。
   トラックもシンセを強調したほのぼのっぽいムードでラップの
   タドタドしさをひきたてた。さりげないサビのメロディが愛おしい(1)がいいな。
   全10曲ながら、実際はそのうち5曲がリミックス。実質は5曲とそのバリエーション、な構成だ。
   どうせなら、フル・アルバムを聴いてみたい。できればもっと、コンセプチュアルなやつを。

   ジョン・ゾーンのマサダ第二弾、Book of Angelsで持ってない盤をまとめて入手。
   第11弾、08年発表。メデスキー・マーティン&ウッドの録音。
226・MEDESKI,MARTIN&WOOD:Zaebos - Book of Angels Vol.11:☆☆☆
   曲毎にキーボードの音色を変え派手な作りだが、聴いてるとアンサンブルの芯は
   ベースにあると痛感した。着実に少ない音数でしっかりサウンドを支える。
   手数多いドラミングもタイトだが手なりだし、キーボードも才気に任せ弾きまくる。
   その二人を、ベースががっちり固めた。スタート&ストップのダイナミズムも
   ベースが生き生きと動かす。トリオ編成ゆえの着実なアレンジだ。
   全体的にはプログレ寄りの大胆なフレーズづかいが目立つ。

   第16弾は2010年。本シリーズはvol.2(2005)以来の弦トリオ編成。
225・Masada String Trio:Haborym: Book Of Angels Vol 16:☆☆☆☆
   素晴らしい。爆音で聴きたい。ピチカートも弓も弾む音色が心地よくて仕方ない。
   テーマの構築されたアンサンブルも、即興へ雪崩れるスリルとインタープレイも
   双方ががっちり高いレベルでまとまってる。MASADA book2でも屈指の傑作。

   2012年、第18弾。DAVID KRAKAUER(cl)がリーダーのクインテット編成。
224・David Krakauer:Book Of Angels, Vol. 18: David Krakauer Plays Pruflas:☆☆☆
   本盤は6時間程度でさくっと録音されたらしい。
   リーダーのクラリネット奏者、デイヴィッド・クラカウアーはクラシック畑で活動を始め
   クレツマーを中心にジャズ界へも足を延ばしてる。TZADKには"Klezmer Madness!"(1995)が初出か。
   本盤はg,b,dsにラップトップと変則クインテット。ラップトップは色合いをつける程度で
   むやみに前面へは出ない。即興インタープレイが軸足ながら、メインはやはりクラリネット。涼しげかつスピーディに爽快な吹きっぷり。
   アラビックなクレツマーをエレキギターが鋭くかき回す。
   メカニカルなほどの正確さと製錬がアヴァンギャルドをスマートに整えた。

   2012年の第19弾。ギンブリ奏者主体のアンサンブルで、あとはギター二人にドラム。
223・Shanir Ezra Blumenkranz:Abraxas: The Book Of Angels Volume 19:☆☆☆★
   エレクトリック・マサダの系列で、鋭いスピード感のアンサンブル。ベース的な
   役割がギンブリかな?ディストーション効いたエレキギターの交錯は、まさにマサダ。
   滑らかでアラビックなメロディが絶え間なく流れていく。
   硬質の耳ざわりで、すごくかっこいい。タイトに突き進むテクニックも良いぞ。


2012年11月

2012/11/17   最近買ったCDをまとめて。

   若手の英ソウル、1stアルバム。アコースティック系らしい。
222・Michael Kiwanuka:Home Again:☆☆☆☆
   ビル・ウィザーズmeetsマーヴィン・ゲイ。70年代のセンチメンタルなソウルをドップリ吸収した音楽だ。
   弦やキーボードの音色も当時の印象にこだわった。本人はノスタルジーを
   意識しておらずとも、響きが強烈にノスタルジーを誘う。
   ただし演奏は少人数。ギターやベースをマイケル・キワヌーカ本人、キーボードやリズムを
   プロデューサーのポール・バトラーが担当した。つまりバンド・サウンドにはこだわらず。
   打ち込みっぽさは希薄だが。ここでインタビューが読める。
   バトラーはJellybreadなど70年代から活躍するベテランのようだ。
   したたるボーカルの切なさの説得力と、確かなメロディ。切なくなる素敵なアルバム。
 
   81年、鍵盤使わずコンピュータ制御で製作のLPに、80年のテープ"Container"音源の
   1曲減をボートラで収録したコンラッド・シュニッツラーの再発盤。
221・Conrad Schnitzler:Control (The Cassette Concert Series No.4):☆☆☆
   数分の小品を集めた。奔放に感性の赴くままビートもフレーズも気にせず
   無作為に奏でる、コンラッド節はやはり健在。ミニマルやアンビエント要素強く、
   へんてこな響きと相まって奇妙な空気を作った。結構野太いシンセ音を多用してる。
   縦の構成はシンプル。あまり音数は増やさない。

   89年、仏雑誌のコンピかな?ジョン・ゾーンの名前あり、興味持って入手。
220・V.A.:Bandes Originales du Journal de Spirou:☆☆☆
   ジャズの色合いを保ちつつ、映画音楽っぽい色彩感を持った楽曲を集めた。
   アドリブやファンキーさは薄い。インストで自由な広がりを持った。それでいて
   前衛性の聴きづらさは少ない。でも、一筋縄ではいかないミクスチャーさにあふれた。
   カテゴライズを軽々と越えた奔放さが楽しい。
   低音は軽く、軽やかに漂う。ビートや即興よりも楽想そのものを
   優雅でへんてこな世界に描く発想が本コンピの根底か。
   ゾーンは2曲。1曲は楽曲提供のみ、もう一曲ではサックスでも加わった。
   ある種、ゾーンのラウンジ系やサントラをイメージしたら、本盤のニュアンスが伝わるかもしれない。

   GRMで電子音響を学んだ彼女の07年1st。
219・Chiharu Mk:Piano Prizm:☆☆☆
   ピアノを基調にダブ処理や電子音をかぶせた。穏やかなメロディながら、常に緊張をはらむ。
   寛ぎを許さず、淡々とクールな味わいだ。ひとつながりのミニマルなピアノながら
   楽曲はどこか安定を許さない。重たいムードが楽曲を引き締めた。
   素敵なダーク・アンビエント。
   アカデミックが先に立ち、フロア的なビートは希薄だ。

   峰厚介(ts),板橋文夫(p),井野信義(b),村上寛(ds)が90年に吹き込んだ。
218・Four Sounds:Ma・Pa:☆☆★
   楽曲はオリジナルで前半はガチンコのハード・バップ。スピーディだが奏者らの色合いが見えづらい。聴きやすいのは確か。
   板橋文夫の(5)から次第に抒情性を増し、フリーっぽい味わいも。
   圧巻がセンチメンタルな村上の(7)。スケール大きく、しっとりとしたジャズを提示した。
   前半はなぜこの顔ぶれで?と首をひねるストレートぶりだが、後半の充実した骨太さに深く頷く一枚。

   ペルーの4オクターブ声域を誇る歌手、イマ・スマック。
   オリジナル・アルバム7枚とシングルが4枚組で2012年に再発された。
217・Yma Sumac:Seven Classic Albums:☆☆☆☆
   とにかく彼女の素晴らしい声を堪能できる、廉価盤。
   1950~61のオリジナル・アルバムを集めた。収録盤は1stからVoice of the Xtabay (1950)、
   Legend of the Sun Virgin (1952)、Inca Taqui (1953)、Mambo! (1954)、Legend of the Jivaro (1957)、Fuego Del Ande (1959)、Recital (1961) の7枚。
   これにシングル音源から6曲を収録した。彼女の録音キャリアをほとんどカバーしてる。
   楽曲は、歌手の魅力より声域のテクニックを強調した感が強い。
   前半2枚は荘厳なオケにスキャットで喉を駆使し、高低域を振りまくエキゾティックな印象を振りまく。
   率直な話、ジャングルや未開の世界を演出してるかのよう。
   2枚目ではダブル・トラックで、ひときわスマックのハイトーンを引き立てる。リバーブの厚みが、いかにもトリッキーさを強めた。
   "Inca Taqui"も路線は同一ながら、フォーク的なアレンジを取り入れ、いくぶんスマックの個性を前に出した感じ。
   Mambo! はタイトル通りラテン・ビートで統一ゆえに、幾分アルバムのまとまりあり。
   もっとも、よりドラマティックなLegend of the Jivaroのほうが、スリルある仕上がりになった。
   Fuego Del Ande でさらにスマックが"歌手"になった。物見遊山扱いでなく、歌手としオケと調和するラテンポップ。
   Recitalはライブ盤。原点に戻ったかのオーケストラとスキャットの合体だ。いつのライブか不明だが、スタジオ盤よりぐっと統一感は増した。
   シングル曲は1943年の盤を集めたものだろうか。ちょっと音が悪く盤起こしっぽい。
   フォルクローレ風の伴奏で、さえずる鳥みたいなスマックの歌声が愛おしい曲が良い。

   ジョン・ゾーンの作曲を各種ユニットで演奏するシリーズ、11年の17作目は
   シロ・バプティスタらによるピアノとパーカッションのアンサンブル、かな。
216・Banquet Of The Spirits:Caym: The Book Of Angels Vol. 17:☆☆☆★
   ジューイッシュの枠を軽々超え、アラブからアフリカ、アジアまで音世界がふわふわと飛んでいく。
   エスニックとエキゾティックを強烈に混淆させ、酩酊するノリを保った。
   アヴァンギャルドでとっちらかった音楽性だが、猛烈に聴きやすく刺激的。
   ジョン・ゾーンのコラージュ性を楽曲毎では控え、アルバム全体では積極的にアプローチした。

   村上秀一(ds)率いるトリオの95年セカンド。
215・PONTA BOX:PONTA BOX Ⅱ Dessert in the Desert:☆☆☆★
   組曲を意識の構成で、短い曲が次々現れる。ソロよりもアンサンブルに軸足置き
   タイトで複雑なキメがビシバシ決まるスリリングさがまず肝。
   さらにシャープなノリで爽快に疾走しつつ親しみやすさと前衛性のバランスもすごい。
   ピアノの透き通った響きにベースが野太く絡み、ドラムは明るく軽く鋭く素早い。
   凄腕アンサンブルをたっぷり味わえる。ジャズの味わいながらアプローチはフュージョンか。

   太田恵資らが参加した、03年のパリ録音。
214・沖至:じゃんけんぽん:☆☆☆
   ドラマーがひたすら連打でビート感が希薄なため、中心のない即興となった。
   出入りのタイム感やフレーズの緩急で流れをてんでに作る。
   (4)での大きなダイナミズムがクライマックスか。ソロ回しでなく
   全員の個性が絡み合った一枚。ベースのミックスが薄めで残念。
   (3)でジャン、(4)で太田が抜群の存在感を見せた。

   ロンドン出身のジャズ・ピアニスト、ジョン・ローが96年発表の長尺ソロ。
213・John Law:Pentecost:☆★
   コンセプチュアルな即興作品。聴きとおすには、そうとうに集中力がいる。
   グレゴリオ聖歌を連想する単音フレーズがオクターブ別れたユニゾンで、変奏しつつ繰り返される。
   酩酊するほどの時間がたち、しだいに音数と音高が増えていく。やがて混沌へ。
   西洋音楽の歴史をたどるかの如く、急ピッチで旋律も和音も複層する。
   アイディアをいかに表現するか。その観点で聴くべき作品。楽曲として聴くには、
   いかにもストイックで辛い。

2012/11/8  最近買ったCDをまとめて。

   11年発売、イタリアのレーベルより。限定盤で3種類のパッケージ有り。
   今回、299枚限定の2枚組を入手した。
212・Merzbow:Lop Lop 2:

   渋さの新譜はカバー曲集。選曲が渋い。不破大輔の趣味かな。
211・渋さ知らズ:渋彩歌謡大全:☆☆☆☆
   熱い。これも、渋さ知らズ。不破大輔の趣味が前面に出たアルバムだ。
   演歌から歌謡まで不破は熱く、切ない音楽が好きらしい。さらに、ごちゃまぜがキーワードか。
   アングラにとどまらずブラジルやCharaまで目配りし、幅広い音楽性を突き付けた。
   あくまで歌が主役だが、楽器アドリブもふんだんにあり。ジャズ・オーケストラ盤と
   一般的な意味合いでは少々違い歌手もミュージシャンもフラットに自己主張している。
   たぶん本盤は轟音で聴くべきだ。スタジオ録音の厚みあるサウンドはボリュームあげないと聞き取りづらい。
   思わず耳をそばだてるアレンジのアイディアもそこかしこにあり。
   しかし選曲やアレンジの割に、さくっとドライな耳触りも独特だ。

   ようやく入手。デーモン&ナオミが07年リリースの8thアルバム。
210・Damon & Naomi:Within These Walls:☆☆☆
   何も変わっていない風な独特の色彩は本作でも継続な一方で、
   どこか突き抜けた明るさと穏やかさあり。歌とリンクし動くアレンジや、
   爽やかな木管や弦の響きがそれを増幅させる。
   メロウさやサイケっぷりはほんの少し影を潜めて、きれいなポップスに仕上げた。

   日本人ボサノヴァ歌手の02年、1st。数曲にチェロで翠川敬基が参加した。
209・山本のりこ:Calor:☆☆★
   アコギ弾き語りを基本に、楽曲毎でゲストを招きバラエティを持たせるアレンジ。
   ちなみに翠川敬基が参加曲はふくよかなチェロの広がるさまにうっとり。
   予想以上にシンプルでアコースティックなアレンジが心地よい。
   のびやかだがかすかに震わす歌声は、柔らかく音像を貫いた。そう、安定した世界をはみ出すように。
   オリジナルとカバーは半々。どちらもフラットに聴けた。良質のボサノヴァ。

   11年発売、G Love名義の4thソロ。
208・G. Love:Fixin' To Die:☆☆☆
   アヴェット・ブラザーズのサポート受けつつも、素朴にGラブがソロでブルーズやフォークのルーツに
   向き合ったアルバムって印象だ。バンド風味は薄い。
   カバーは3曲。ミシシッピのブッカ・ホワイトで幕を開け、アトランタのブラインド・ウィリー・マクテルで中を継ぎ
   ルー・リードで締める。最後の選曲がちょっと意外だが。
   オリジナル曲もどんどん渋くなってきた。とはいえアグレッシブなノリは健在。

   シューゲイザー業界では有名らしい。初めて聴く。99年の作品で2nd。
207・Slowdive:Souvlaki:☆☆☆★
   吸い込まれそうに美しいシューゲイザー。めくるめくリバーブとしゅわしゅわドローン感は
   例えばギャラクシー500よりもヘルシーだ。足を止めてじっくりたたずみ、引き寄せる。
   きれいなメロディと引きずるムード、漂うディレイは病み付きになる。
   混沌さがたまらなく良い。

   LAの女性SSW、3thアルバム。2012年の新譜。
206・Simone White:Silver Silver:☆☆☆★
   ささやく淑やかな声が電子音中心のトラックを泳ぐ。アレンジのしなやかな
   響きがまず魅力。楽曲はシンプルなフレーズをミニマルに重ねるイメージが強い。
   アコースティックともきれいに混ぜたサウンドづくりが良いな。
   ビート感より浮遊するさまが心地よい。電子音のリズムは(6)のキュートさがハマった。

   03年英KENTがリイシューのコンピ盤。
205・V.A.:In Perfect Harmony: Sweet Soul Groups 1968-77:☆☆☆★
   70年前後のハーモニー・グループを集めた。レーベルや地域にこだわらぬ、編者の好みで編纂ゆえの雑多な味わい。
   収録曲も玉石混交。結構ラフな演奏とプロダクションが散見される。
   レーベルはハイやStaxといった名の知れたとこからマイナーまで多彩だ。
   どの曲もベースがぐんと強調されグルーヴィーさを巧みに演出した。
   特に気に入ったのがハイトーンが強烈な(5)、アイザック・ヘイズがプロデュースの(7)
   ドライブする演奏が心地よい(11)、コステロのカバーで有名な切ない(13)、
   ロマンティックなアレンジがキュートな(17)や(19)などが好み。
   (18)はモータウン所属前、地元のマイナー・レーベルで初レコーディングのジャクソン・ファイヴの楽曲。

   英アイランドから発売、69年の電子音楽らしい。
204・White Noise:An Electric Storm:☆★
   何とも中途半端にアヴァンギャルドな仕上がりだが、時代を考えればやむを得ないか。
   電子音をふんだんに使い、コラージュ風に脈絡ない音像が続く。ほんのすこし、トラッド風味。
   取り留めない構成だが、前衛要素の追求ならば狙いは良くわかる。
   混沌に知性をふりかけ、たんなる雑然とは一線を引いた出来になっている。
   だけど、どうも中途半端なんだよなあ。もっと聴きこめば、印象変わるかな。

   the V.S.O.Pとし、ハンコックが82年に発表の作品。
203・Herbie Hancock:Quartet:☆★
   耳触りは良いしテクニックも素晴らしい。スピーディさと緩急もばっちり。
   しかし、個人的には心に響かない・・・。丁寧ながらあくまで観賞用のジャズ。
   新しさやへんてこさ、スリルを僕は求めたい。BGMやショーにはぴったりの音楽。


2012年10月

2012/10/22   最近買ったCDをまとめて

   いぶし銀まっしぐらなヴァンの新譜。
202・Van Morrison:Born To Sing: No Plan B:☆☆
   恐ろしくファン向けのアルバム。ファンなら逆に星4つ。
   メンバーを固定しジャズやブルーズに影響受けたサウンドをたっぷり演奏。
   さらにヴァンがピアノやサックスを積極的に演奏、ソロのスペースも存分にとった。
   すなわちこれまでのヴァン節を全然ずらさず、さらにライブ要素を取り入れたコンセプト。
   ベテランのヴァンがライブ企画で演奏なら良くわかる。だが、あえてスタジオ録音で新規リスナーを訴求要素は薄い。
   言葉は悪いが、最近ヴァンがやってるディナーショーの舞台見本CDっぽいぞ。
   ヴァンのファンがビジネス要素を抜きに楽しむには、格別。特に日本では。まず来ないヴァンの
   ライブの様子を、きれいな音と着実なレコーディングで存分に味わえる。
   きっぱり言って拙いアドリブや冗長な間奏やエンディングも含めて。
   今のヴァン、をストレートに封じ込めたアルバムと言える。

   ウータン関連で未入手を何枚か。マセマティクスのトラック集2枚組、06年。
201・Mathematics:Soul Of A Man:☆☆
   基本的にインスト集。トラックメイカーの妙味を味わえる一方で、まとめて聴いてると
   ミニマルな音楽性っぽく感じられてしまう。いかにヒップホップ・ビートを打ち込むか、
   のアイディア集として興味深い。

   6thソロ、06年の発売。
200・Ghostface Killah:More Fish:☆☆★
   ゲスト一杯、派手な作りのアルバム。ウー一派は一軍からカパドンナが1曲で参加。弟分のセオドア・ユニットから
    ほとんどが出演、カパもこの流れで見るべきか。他にはKillarmyからKilla Sinも加わり、
   あとはAmy WinehouseやNe-Yo、Kanye Westなどメジャーどころのゲストもあり。
   打ち込みとサンプリングに留まらず、数曲は生楽器のクレジット。
   その1曲"Josephine"はオハイオ州のプロデューサー、Hi-Tekのアルバム"Hi-Teknology²:The Chip"を再発売した。
   ゴーストフェースらしいスピーディさとキャッチーさを併せて仕立て上げた。
   (2)の勢いがまず耳を惹く。

   これも06年、ライブアルバム。
199・Ghostface Killah:Live In New York City:☆☆
   音はこもり、ブート並み。熱気をぐわっと詰め込んだ臨場感あり。
   カパ、マスタ・キラ、キラー・プリースト、GZAやゴーストフェイスの息子サン・ゴッドらがゲスト参加のクレジットあり。
   それぞれ1曲のみ、えらく効率悪いライブ参加だが、実際はどうだったんだろ。
   ライブはぐしゃぐしゃ進行で、妙なエンタテイメント性は無い。が、歌心をそこかしこに滲ます
   ゴーストフェイス・スタイルで、なおかつライブの様子をコンパクトにまとめた良い盤。
   とはいえ英語が分からないため、ほんとの意味で味わえてるかは自信なし。

   05年のウータンのライブ音源、発売は07年かな。
198・Wu-Tang Clan:Live On XM Radio (think differently):☆☆
   生々しい様子はわかるが、ライブならではのダイナミズムをCDで聴きとるのは
   少々難しいかも。ファン向け。音質はやはり、少々籠ってるし。

   レイ・ハラカミはほとんど聞いたことなかった。06年の未発表曲コンピ。
197・rei harakami:わすれもの:☆☆☆★
   長期間にわたる録音時期のコンピだが、予想以上に統一感あった。
   奥行ある音像、揺らぐ音色。ミニマルなビートと複雑なタイミング。
   重なり合う情報過多なテクノ・ポップが性急ながらも寛ぎを与えた。
   ほんとうに、気持ちいい。大音量でもBGMでも成立する、稀有なサウンドだ。

   01年発売、3rdソロ。
196・rei harakami:Red Curb:☆☆☆☆
   センチメンタル・ミニマル。レイ・ハラカミの魅力が凝縮した一枚。
   情感的だがメロディで泣かせず、心震わすビートは一つに頼らない。
   揺らぎは音色自身の柔らかさと、多層するビートのタイミングで震えを絶妙に表現する。
   寸断も流れも貪欲に取り込んだアレンジは、一曲単位でも流れでも聴ける。
   すなわち瞬間を縦に切り取れば、多数のリズム積層の多彩さを味わえ、
   横にこそげると、シンプルなサウンドひとつひとつが柔らかく耳をくすぐる。
   肉体的な要素はかなり少ない。メカニカルな打ち込みを丁寧に施せば、こんなにセンシティヴ。
   そんな見本となる音盤が、これ。

   アニメのサントラで本作が2作目。08年の発売となる。
195・仙波清彦:バンブーブレード O.S.T. 2:☆☆☆★
   声優の唄が3曲、こちらに仙波は参加なし。あとはすべてカルガモーズか
   Kao's!名義の楽曲。11分以上にもわたる"オレカマ"を筆頭に、構築性と奔放な
   リズムが疾走するさまをたっぷり楽しめる。福岡ユタカ(vo)を筆頭に多数のゲストを
   招き、バトル繰り広げる(4)も強力だ。

   仏のレーベルSoul Patrolによるファンクのコンピ集。11年の発売。
194・V.A.:Funky Sex Machines:☆☆☆
   JBの偉大さとブレなさを改めて感じるコンピ。ジャズ風からラテン、ディスコ・ファンクまで
   多彩なアプローチのJB流ファンクのフォロワーを集めた。
   ローカル・レーベルから60~70年代のシングル集と思う。クレジットが無く、数曲の
   7inchレーベル盤がジャケットに記載されたのみ。
   しかし改めて、ディスコとファンクの親和性を実感した。

   日本人ラップ・グループの4th。07年の作品。
193・NORA:Doggy's Time:☆☆☆
   小気味よいウェッサイなパーティ・ラップにしあがった。小粋で生っぽさを狙った
   打ち込みトラックメイキングも耳に馴染む。胡散臭いチンピラっぽさを残しつつ
   小物臭をきれいに消し、堂々としたスタンスが爽快さを持つ。
   あまり深く考えず、さっくりマイクリレーを楽しむNORAっぽさが良く出た。

   聴きそびれてた。08年発表のアルバムで、12枚目の作品かな。
192・G. Love & Special Sauce:Superhero Brother: ☆☆☆★
   カントリー調を増した軽快な印象のアルバム。キャッチーなメロディもさておきながら
   シンプルでウキウキするビート感が魅力。からっと突き抜ける空気のなか、
   着実でくっきりしたミックスの録音がクールだ。(11)などの風切り感がいいなあ。

   これも未聴だった。復活後、85年の作。
191・Miles Davis:You're Under Arrest:☆★
   分かり易いサウンドになったな・・・。数曲でスピーディなビートに鋭いホーンが
   絡む曲もあるが、スリルとは無縁だ。過去作では、今でも緊迫感を味わえるというのに。
   耳触りは良く、ベストは"Human Nature"。軽快でタイトなドラムに支えられ、
   ほのかな寛ぎが漂う。マイルスに寛ぎは似合わないよな。
   "Time after time"も良い。タイトル曲のスピーディさは、まだ生きてるが、とにかく分かり易い。

2012/10/14   最近買ったCDをまとめて

   発掘音源の新譜。83年4月29日、池袋のスタジオ録音が地底レコードから発表された。
190・高柳昌行 / Peter Kowald / 翠川敬基:即興と衝突:☆☆★
   三者三様に重ねる情景は、現場でないと魅力が伝わりづらい。空気が読めないから。
   からからと連続的な音は高柳か。10分あたりのミニマルな展開から、ぐわりとベースが立ちあがりチェロも煌めく。
   編集なしのはずだが、ときおりスパッと画面切り替わるさまがスリリングだった。
   消音特殊奏法が交錯し、メロディ要素は非常に少ない。ユーモア要素は廃し、真摯な即興だ。

   メンバーは吉田隆一(Bs)スガダイロー(P)後藤 篤(Tb)。
   買いそびれてたが、ようやく入手。吉祥寺のスタジオで公開録音、11年に発売の2nd。
189・Blacksheep:②:☆☆☆☆
   ミニマル&クール。熱くて激しいアンサンブルへみっしりと埋め込まれた、メカニカルで冷徹な
   センスが産み出すスリルが、猛烈な魅力。低音二管の滑らかで尖った響きを、
   ピアノはさらに荒々しくかき回す。それでいて、端正さを決して失わない。
   三人の男っぷりが生々しい一枚。ライブ録音での緊張感を思い出す。

   マーク・リボーとトレバー・ダンのデュオ、11年7月にTZADIKのリリース。
   作曲と指揮でジョン・ゾーンの名がクレジットされている。
188・John Zorn:Enigmata:☆☆☆★
   ゾーンによるライナーを読んでもどの辺がジョン・ゾーンの作曲かよくわからない。
   ライナーで曰く、ドラムレスでロック・ファンを、ディストーションでジャズ・ファンを排除し、
   作曲要素でインプロ・ファンを、即興要素でクラシック・ファンを排除が狙いという。
   無造作に聴くと、灰野や内橋あたりが即興で行ってる質感に良く似てる。
   小節感は希薄で、なんらかの譜面かキューを合図に二人が即興演奏と推測する。
   テーマやリフとは無縁、しかし完全即興ほどの混沌さはない。
   不思議なサウンドだ。歪んだギターが吼え、ベースはつかず離れず寄り添う。
   刺激的ではあるが、とっつきにくのも確か。(8)が最も分かり易いか。

   石田幹雄トリオの2010年音源を11年にリリースした。
187・石田幹雄 / 早川徹 / 福島紀明:瞬芸:☆☆
   ゴッツリ骨太、ロマンティックより無骨さをまず感じた。流麗さをあえてはずし、
   ときおりフレーズを抜くさまが特徴か。オーソドックスなスタイルだが、
   ときにフリーな連打を魅せる。モンクや明田川荘之の路線を踏襲しつつ、
   まだ独自の強まりを聞き取れていない。ライブ見たら、印象変わるかも。
   サイドメンは地を這うベースの太さが印象深い。ドラミングはキープより叩き、って爽快感あり。

   63年伊RICORDI盤のジャズがリイシューされた。
186・Romano Mussolini:Jazz Allo Studio 7:☆★
   実際にファシズムの伊ムッソリーニの息子という。へええ。苦労したろうな。たぶん4thリーダーアルバム。
   63年と思えぬ古臭い音。モダンの文脈でスイング・オーケストラを行ってるかのよう。
   小粋さをほんのり感じる一方で、ファンキーさはほとんどない。
   後半のピアノ・トリオ編成はぐっとスイング。要するにサイドメン次第ってことか。
   4管編成は聴きやすい一方で、芯が見えづらくも。
   多管アンサンブル志向にしてはソロ回しのスタイルだし。

   ジョン・ゾーンの作品を含む作品を収録したFontec盤。92年発売かな?
185・高橋悠治:高橋悠治リアルタイム2:☆☆★
   高橋悠二は指揮のみ、ピアノ演奏は無し。
   ゾーンの曲は派手にコラージュ&カットアップ。賑やかだがスピード優先な気がしてしまう。
   三宅榛名の作品は富樫雅彦と三宅のデュオ、と貴重ながら。
   丸っこく弾む富樫のパーカッションを味わえるけれど、今一つのめり込めず。きれいすぎる。
   ホセ・マサダの楽曲は、たゆたう弦の響きが心地よい。ぱっと聞くとミニマル、
   じっくり聴くと絡み合う繊細なオーケストレーションにゾクッときた。
   ただどれも、ポップさは薄いため聴くのに集中力いるのも確か。


2012年9月

2012/9/27   今月買ったCDをまとめて。結構新譜が多い。ほぼ、入手順。今月は中古屋に行きそびれたな。

   Shezooの楽曲を演奏するユニットが、ついに出した新譜。生々しい音も素晴らしい。
184・Trinite:prayer:☆☆☆☆★
   練られた楽曲を丁寧な即興で彩る。なにより録音が良い。奥行広く音楽が伸びて
   ざらついた賑やかな空気感にゾクッときた。バンドメンバーも楽想にぴったりだ。
   崩し過ぎず、自由に伸びやかに。shezooの音楽性を深く広げた。
   寛ぎと緊張が無理なく共存する、不思議な幻想性を持ったサウンドが味わい深い。
   じわじわ聴きこむほどに、味が染み出てくる。すごい。

   韓国のミュージシャンと共演した92年のアルバム。
183・梅津和時:Shin Myong~神明:☆★
   韓国側の立ち位置が強い。梅津はフリーキーに吼え続けるが、装飾の域を出ていない。
   もっと相互がセッション的に絡み合うかと思った。

   小説の映画化、02年の盤。ようやく手に入れた。
182・OST:加古隆,Shezoo:白い犬とワルツを:☆☆☆★
   OSTの観点は正統な構成。冒頭にロマンティックで切ないメイン・テーマを置き、
   ピアノ独奏とオケが混在する変奏と展開をゆったりと描いた。
   穏やかで揺れる空気を表現した、甘い響き。しかし単なる心地よさに留まらず、
   どこか捻った和音を常に提示する。特に顕著なのがShezooの曲。
   シンプルなピアノ独奏は、奥深いリバーブに包まれ常にどことなく不安定さを漂わす。美しい一枚。
   じっくり聴きこみたくなる。

   このデュオも何作目かな。TZADIK発売の新譜で2011年5月バー・イッシーのライブ音源。タイトルもさりげなくストレートだ。
181・内橋和久&吉田達也:Barisshee:☆☆☆★
   安定した超即興の最新作も、バラエティに富んだ仕上がり。疾走一直線とメリハリ大魔王の
   吉田達也を、混沌明神の内橋和久が奔放にかき回す。
   ある意味実直な吉田と変化球バリバリの内橋のコンビは、どこまでも安定には至らない。
   それでいて、ふたりともメリハリ効かせた構築性を意識した即興のため、まったく飽きないのが凄い。
   プロデュース&録音は吉田達也が担当した。

   過去の音源発掘集。大熊亘、工藤冬里、秋田昌美、黒田京子、大友良英など
   そうそうたる顔ぶれの音源を収録した、今年の新譜。
180・園田佐登志:耳抜き~ Secondary Works of Satoshi Sonoda,1982-1989:☆☆★
   前衛にストーリーが、特に真面目さが必要とされてた時代の作品、って気がする。
   この後、ノイズはもっと気軽かストイックかの二極に分かれた。
   メロディアスだがひねられており、ノイジーでもどこかポップ。80年代のシーンを
   作者の切り口で切り取った、貴重な一枚。どこか堅苦しいムードも、時代か。
   (7)のミニマルな弦アレンジが、素晴らしく美しい。

   GbVのリーダー、膨大に出る新譜の一枚。
179・Robert Pollard:Jack Sells the Cow:☆☆☆★
   丁寧に大味のロックを作った。アレンジはバンド的だが、勢いや構築性とは別ベクトル。
   楽器の対話を丁寧にアレンジし、淡々と繰り返されるメロディを補完した。
   本盤でのメロディはロバート節の滑らかさはもちろんあるが、かなり繰り返しを強調した
   淡々なムードも多分にあり。曲のサイズそのものをロバートが指示してるか
   不明だが、アイディアをトバイアスがきれいに膨らませた印象だ。

   本編3枚組、ボートラ1枚のボリュームで30年間を概観したベスト盤の新譜。
178・山下達郎:OPUS:☆☆☆☆★
   隙って何?ってほど選曲に気を使ったベスト盤。マニア向けのレア・テイクや
   新曲も投入しつつ、JOY2を思わす別のコンセプトは全くない。あくまでベスト盤。
   ライブテイク並べて同様なオリジナルを作ることも可能なはずだが、達郎か
   達郎のスタッフかは、その冒険を行わない。まずは、ベスト盤できっちりビジネス狙いを固めた。
   文句を言ってるように見えるかもしれない。だが、買いたくなり聴きたくなり、聴いて満足も確か。
   キャリアを重ねつつ、さらに幅広いファン層を狙う貪欲で誠実なスタンスだ。
   初動27.6万枚、ときっちり商業的成功も確保できてるのがさすが。
   隙を作らず、素晴らしい音楽。

   ついに出た!TAZDIKより。アメリカン・ポップスのユダヤ人作曲家にスポット当てた新譜。
177・Kramer:The Brill buildings:☆☆☆★
   むー。なんとも評価しづらい。メロディは変に捻らずカバーしつつ、アレンジはドップリとサイケ。
   冒頭数曲の暗さにめげそうながら、しだいにクレイマー独自の
   ポップス観とバラエティ富んだアレンジのアイディアに惹かれる。
   正直、焦点が分かりにくいアルバムだ。だが、これもクレイマーか。
   ギリギリのところで、猛烈にひねくれたサウンドのスリルを感じた。
   シャドウ・モートンにつながる闇の味わいだ。


2012年8月

2012/8/16   最近買った新譜をまとめて。

   過去発掘音源集10枚組、今年第二弾が早くもリリースされた。
176・Merzbow:Merzmorphosis:

   07年"Napule-tan"に次ぐアルバムが、ようやく11年に発売。中ジャケ写真の迫力が凄い。
175・川下直広トリオ:猫の時節:☆☆☆☆☆
   ジャズの酩酊を味わえる盤。川下の綿々と軋むサックス、不破の空気を荒っぽく揺さぶるベース、
   岡村の歌心を常に意識させるドラム。
   ビートが揺れ、フレーズが悶え、グルーヴが唸る。一聴し、洗練とは逆ベクトルのジャズ・アルバムだ。
   だがライブを味わえば、この盤がライブの熱狂を見事に収録してると痛感する。
   ダンスでもスタイリッシュでもない、『熱い』ジャズを、フリーを突き抜けた
   メロディアスなジャズを、本盤ではたっぷり聴ける。さあ、もう一度聴こう。叶うならば、片手に酒を持って。

   地底レコードに彼が残した作品から2枚にピックアップしたベスト盤。
   ボーナスCDに12年1月10日の小編成渋さのライブ音源を収録した。
174・不破大輔:地底レコード WORKS:☆☆☆☆
   不破のキャリアを渋さ/各種バンド/ソロ/サポートと多面的にまとめた作品。
   バラエティに富み膨大な活動を上手いこと概観できる。特筆すべきは長尺曲も
   無造作にほおり込んだところ。まさかRadio"Toki"22分まで入れるとは。
   昔からのファンには既発の連発なため、最新ライブの"行方知れズ"44分が目玉。
   さらに本盤へは19分同曲も収録され、聴き比べもできる仕様になった。
   厚く太く、重たく暖かい。不破のベースを多面的に聴こう。

   ビーチボーイズのカール、83年の2ndソロ。ボートラ1曲つき。
173・Carl Wilson:Youngblood:☆★
   ビーチ・ボーイズを期待したら、腰くだける。西海岸ロックとバラードのてんこ盛り。
   バラードたっぷりなとこが、バランス感覚溢れるカールらしい。
   これに新味あるかは別として、流行りを無邪気に取り入れるとこも。
   大味なため、今聴くと少々苦しいか。個人的には(10)や(11)が良かった。
   ボートラは(3)のシングル・テイク。

   Sandy ToranoとHoward Johnsonがマイアミで結成したユニットの1st、1979年の盤。
   達郎"スパークル"のきっかけとなった(2)を収録。
172・Niteflyte:Niteflyte I:☆☆☆★
   濃密に溶けた楽器群が、多彩なリズムの切り口で爽やかに溢れさすアレンジの素晴らしさが、まず素敵。
   さらに高らかに歌い上げるボーカルと、ファンクネスからバラードまで幅広い楽曲群たち。
   アルバムの統一性より、ラジオ番組みたいにバラエティを意識した構成が、
   器用貧乏っぽい散漫なB級風味を漂わしてしまった。だが、個々の楽曲はどれもすごい。
   アレンジの魅力、アンサンブルの奥深さやアイディアの詰まった盤だ。

   同じユニットの、81年発売された2nd。
171・Niteflyte:Niteflyte II:☆☆☆☆
   1stよりクオリティ向上は否定しない。が、洗練っぷりがディスコ要素と当時のAOR路線を
   ドップリまぶしたため、今聴くと古めかしさ漂うのは否めない。
   隙のないアレンジはさらに磨きかかり、フレーズ・パターンながら飽きさせぬ
   小技を存分に絡ませ、濃密な音像を美しく築いた。ドタバタするドラミングがいなたい。
   楽曲も練られて、どこにも死角なし。アルバムの統一性もほんのり強まった。
   ラテンやNYのダンサブルさを、親しみやすいマイアミのカッティングに溶かしこんだ。


2012年7月

2012/07/29   最近買ったCDをまとめて。

   発売は11年、しかし録音は98年。故人とのピアノ・デュオ。盟友の対話音源を発掘が嬉しい。
170・渋谷毅/川端民生:蝶々在中:☆☆☆★
   渋谷毅の二面性が聴ける。前半のオリジナル曲では無骨で尖った演奏。抒情やロマンティシズムを抑え、
   奔放にソロを展開する。野太くウッド・ベースを揺らす川端民生のグルーヴは、時につんのめるかのように空気を揺らした。
   一方のスタンダードでは渋谷のピアノが途端に甘く鳴る。ベースもしっとり寄り添う。
   最後のしとやかな世界観もいいなあ。

   ジャズ・ロックの元祖と売れまくった盤。1963年ブルー・ノートで発売。
   これは98年リマスター、ボートラ1曲の再発盤。
169・Lee Morgan:The Sidewinder:☆☆☆☆
   小刻みなハイハットに揺れるビート。ジャズ・ロックの枠組みは完全後追いの身にはあまり関係ない。
   むしろ本盤は、ぐっとジャズ寄りだ。きゅーんと突き抜けたペットを筆頭のグルーヴは
   ハイハットの性急さと裏腹に、緩やかなムードも感じられた。
   特に(2)が良い。ギラギラ輝くスポットライトのイメージが頭に浮かぶ。
   しかしどの曲も、ほんのりラテンの風味を感じた。

   アウトテイク集らしい。リック自身が「熱狂的ファン向」とコメントしてる。94年発表。
168・Rick Wakeman:The Private Collection:☆☆
   各曲の説明が簡単にライナーへあるが、録音年度などの委細が不明な曲もある。
   オーケストラ有り、ピアノ・ソロ有りと良く言えばバラエティに富んだ選曲だ。
   ロマンティシズムと一抹の寂しさを感じさせる作品が並ぶ。ピアノの曲は時に、妙なこもった感じ。
   テイクによっては劣化した部分を最小限オーバーダブしたものもある。
   確かにファン向け。しかし、それを超えた聴きどころは、確かに有る。
   個人的にはピアノ・ソロにぐっと来た。

   96年発売、ドラム以外は凄腕盟友スタジオ・ミュージシャンを集めた盤。
167・吉田美奈子:KEY:☆☆☆
   打ち込みを大胆に導入。メカニカルな響きは時代な好みかもしれないが、
   テクノへ安易に寄り添わず、アナログ的な音像を作った。打ち込み担当は椎名和夫。
   静かにベタッと広がる塗りつぶしだが、音数はさほど多く感じない。
   細かくハイハットやキックのパターンを変えてグルーヴを丁寧に作った。
   電子音をシンバル代わりに使うアレンジも良いな。
   リズムばかり言及したが、凄みある美奈子の歌声はもちろん素晴らしい。多重ボーカルは
   ピタリ重なり、恐ろしく調整された楽器を聴いてるようだ。
   アルバムとしては明るいダイナミズムよりも密やかさを狙ったか。

   グル・グルのマニ・ノイマイヤー関連盤を3種。まずこれは、04年ソロ。
   フィールド・ミュージックとパーカッションをダビングか?
166・Mani Neumeier:両生類の地・第三集:☆☆★
   インドやバリ、ドイツにネパール。各地の自然音へ多数のパーカッションをマニが足し、
   現地のギターや木管のゲストを招いた環境音楽プログレ。初手からエキゾティックさが
   前面に出て、ビート感あってもアグレッシブさは薄い。寛いだムードが全編を覆う。
   民族音楽の尖がりを真面目なドイツ人のフィルターで漉して涼しげなサウンドに仕立てた。
   ただしディジリドゥの唸りなどを筆頭に、暗黒的な要素もじっくり突っ込んだ。
   小さな音では異世界風BGMに、ボリュームあげて耳を澄ますと多層的な音世界に酔えるアルバム。

   04年ソロ。パーカッション多重録音か?エスニック・アンビエントっぽい。
165・Mani Neumeier:Terra Amphibia 2:☆★
   暗黒トロピカル。多重録音のパーカッションの上で、メロディともつかぬフレーズがふわふわと
   漂う。SEをふんだんにかぶせて南国や密林っぽい風味を存分に味あわすが
   穏やかなリゾート気分よりも、エキゾティックさと脱力ぶりが先に立つ。
   勇ましさは極々抑えた。ビートも即興よりはテクノ的なループっぽい耳ざわり。
   作品構築には凝ったうえで、精一杯肩の力を抜いた不思議な音世界を作った。

   96年発表。クラスターのメビウスとディー・クルップスのユルゲン・エンクラーと組んだ。
164・Cosmic Couriers:Other Places:☆☆☆★
   ダビング無しの一発即興集。雰囲気構築がコンセプトという。
   予想以上に楽しめた。メビウスのひよひよと舞うシンセを、ドラムとベースがきっちり支える。
   エキゾティックさとインダストリアル風味が交錯し、明瞭な悪夢を描いた。

   70年デビュー作、アメリカの女性SSW。
163・Kathy Smith:Some Songs I've Saved:☆☆☆★
   サイケ・フォークな色合いが本盤へ魅力と違和感をドップリ与えた。意外にひねくれた味わいだ。
   耳触りは良い割に、(5)のボーカル処理みたく極端なアレンジも見受けられる。
   キャシー自身の意向かオーバー・プロデュースかは不明だが、柔らかでのびのびしたメロディは
   一筋縄で行かないアレンジに溶けた。アコースティックな色だがストリングスやブラスもたっぷり入り、意外に厚化粧。
   とはいえアルバム全体は悩みを感じさせぬ、幸せな仕上がり。ある意味、時代を感じる。面白い。

   中期ブレイキーを何となく聴きたくなった。キース・ジャレット参加、66年のライブより。
162・Art Blakey & The Jazz Messengers:Buttercorn Lady:☆☆☆★
   新旧スタイルを豪快に突っ込んだ、ブレイキーの貪欲さが伺えるユニークな一枚。
   キース・ジャレットがブレイキー関係で唯一参加のアルバム、みたい。
   A面とB面でガラリとムードが変わる。A面はキースの才能を前面に出した。
   冒頭のイントロからして、のちのフリーさを伺わせる。
   続く曲でもどこかスマート。ファンキーさを一歩突き抜け、個人技を披露した。
   楽曲の中でギターみたいな音色は、キースがピアノの内部奏法かな。
   ただしA面は本盤にも参加のトランペット、チャック・マンジョーネの作品。キースはこのとき、若干21歳。才能の片鱗を
   のぞかせつつも、25歳ながら活躍中のチャックの実績を優先したか。
   B面はメッセンジャーズらしい、荒々しくもフレッシュなハード・バップ。
   アドリブやバッキングで新世代への意向はのぞけるが。

   リー・モーガン復帰、サン・ラのジョン・ギルモア(ts)参加の64年アルバム。
161・Art Blakey:'S Make It:☆☆☆
   3管編成の軽やかなハード・バップ。ギルモアもごく滑らかなプレイに終始し、聴きやすい。
   カーティス・フラー(tb)とジョン・ヒックス(p)のスマートさが
   本盤の涼しげな色合いに彩りを重ね、ギルモアとリー・モーガン(tp)が渋さを強調した。
   ブレイキーは淡々とシンバルを刻み、むやみに存在感を出さない。
   メッセンジャーズらしい分かり易さと躍動感をきれいに切り取ったアルバム。

   日本のノイズ・ユニットらしい。予備知識なし。97年の60分一本勝負な電子ノイズ。
160・Nerve Net Noise:働き者に捧げる室内楽:
   淡々と続く甲高い電子音をドローンとし、ひそやかな大工作業みたいなノイズが
   淡々とかぶせられた。実音環境音楽的な印象だ。ドラマ性はかなり薄く、環境ノイズが好きな人なら楽しめるかも。
   ライナーのクレジットによると、同年1月、3月録音に続く3rdアルバム。
   2012年の現在も活動しており、その後もペースは落ちたが作品を発表している。
   コンピ"MASTERS OF JAPANESE ELECTRONIC MUSIC"(F.E.E.S / SONIC PLATE:2000)にMerzbowらと肩を並べ参加していた。
    
   カルテット編成、インスト・ロックらしい。01年の盤。
159・Fiuczynski's Headless Torsos:Amandala:☆☆☆
   ブルージーにアヴァンギャルドに。ハイテクニックの連発と思うが
   あまりに無造作っぷりで、ひどく簡単なことをやってるかのように聴かせる。
   勢い、コケ脅かしも希薄で淡々とヘンテコなフレーズが続くという。
   逆にもっと、けれんみあるほうが魅力がくっきりわかる。

2012/7/10    最近買ったCDをまとめて。

   86年、アルファ時代のベスト盤。レア・トラックは特になしかな?
158・立花ハジメ:逢うは別れのハジメなり:☆☆☆
   選ばれたのは下記。あからさまに2nd偏重、いかに立花本人が思い入れの表れか。
   1st"H"(1),(2),(3),(13)
   2nd"Hm"(5),(6),(7),(8),(9),(10),(11),(12)
   3rd"Mr.TECHIE&MISS KIPPLE"(4)
   ヘンテコフレーズと奇妙なアンサンブルを、スマートなサックスを中心の響きで
   丁寧に磨き上げた。立花の作曲が醸し出すストレンジさは、坂本の曲(9)が流れたときの
   とてつもない安定っプリで逆説的に証明された。レア曲は無いものの、初期立花の外観には好都合な盤。

   "ひとりフォークゲリラライブ"のあと、94年発表のアルバム。
157・泉谷しげる:メッセージ・ソングス:☆☆★
   アコギ、もしくはシンプルなバンド・サウンドで、ぜい肉をそぎ落とした泉谷を描いた。
   凛々しくしみるメロディに、いつもの象徴的な歌詞。地味だが素敵だ。
   だが、ときおりギャグタッチのフォークを混ぜるあたりが、ちょっとバランス悪い。
   照れずに堂々と気どり倒せば、ぐっと張りつめた仕上がりなのに。
   (2)~(3)、(7)~(8)、(11)はとても良い。

   ハリウッドでのソロ・ライブ盤、76年の録音。"コノママロック"を収録。
156・泉谷しげる:イーストからの熱い風~Hot Typhonn From East -Shigeru In Troubadour-:☆☆☆★
   営業っぽい企画で冒頭こそ照れもあったが、しっかり凄みは魅せた。
   アコギでだんだんペースを上げていき、エレキに持ち替えたあたりから独壇場。
   崩しまくった"Dのロック"からの激しいストロークとうねりが聴きもの。

   ピアノ・ソロで旧作をリメイクした2枚のうちの一枚。04年作。
155・坂本龍一:/04:☆☆☆
   情感は抑え目、ミニマルで硬質なピアノの響きが心地よい。ピアノ・ソロの
   楽曲でも場所によってダビングなどアレンジが一際冴えた。
   ベスト盤の趣きながら、一ひねりした点が良い。メカニカルな響きの"Perspective"がかっこいいな。
   後半はゲスト・ミュージシャンを招き、ストイックながら色合いが多彩に鳴る。

   モリサ・フェンレイ委嘱の85年バレエ用アルバム。
154・坂本龍一:Esperanto:☆☆☆☆
   今でこそ、凄みが分かる一枚。才気ほとばしる坂本のミニマル・テクノが炸裂した。
   当時は前衛的な気がしたが、今では実にポップ。カットアップ風に
   モチーフが展開し、きらびやかで奥深いシンセの音色が広がる。
   LP発売の都合上か、舞台音楽から編集施してるようだ。改めて完全版が出ないものか。

   04年発売、ソロ名義では"スムーチー"以来、9年ぶりの作品だった。
153・坂本龍一:CHASM:☆☆☆☆
   坂本のバランス感覚が見事に凝縮した一枚。さまざまな提供曲を含めた
   無造作な作品集だが、驚くほど統一感あり。音数少ないミニマルと前衛性も
   美しい響きで親しみやすくまとまった。楽曲を細かく聴くと、そうとう鋭いことをやってるが、
   すいすい楽しく聴けるセンスが、さすが坂本龍一。凄いアルバムだ。

   坂本龍一が呼びかけの01年、TBS開局50周年の地雷根絶キャンペーンの一環で発表のシングル。
152・N.M.L. (NO MORE LANDMINE):ZERO LANDMINE:☆☆☆
   クレジットはやたら豪華。サウンドはロマンティックでしとやかな坂本フレーズが頻出の上で
   全世界をコラージュ旅行したアレンジが光る曲。坂本の"Risky"を連想した。
   バージョン違いで5トラック。ファン向けではあるが、強力なサウンドだ。
   "We are the world"ほど華やかにまとめなかったのは、坂本の矜持か。

2012/7/1   最近買ったCDをまとめて。

   新生GbVの新作アルバム。
151・Guided By Voices:Class Clown Spots A UFO:☆☆☆★
   全員が歳とって気軽に活動できてるな、が最初の感想。トビンの曲は自作多重ではなかろうか。
   ロバートは他のメンバーとも共作を収め、ワンマンぶりは姿を潜めてる。ソロを出せるから、あえてGbVで我を出す必要もないか。
   アイディア一発の小品と、きっちりまとめたポップが混在するGbVらしい作品。
   妙に入れ込まず、興の向くまま録音を重ね、まとめた印象だ。

   アニメのサントラ。吉田達也や今堀恒雄が参加、11年の発表。
150・岩崎琢:ベン・トー オリジナルサウンドトラック:☆★
   吉田達也目当てでは、拍子抜け。あくまで素材として扱われており、破天荒な魅力は
   かなり減じている。ドラムもどこか加工された収まりの良さを感じた。
   むしろ今堀のギターのほうが、スリリングかもしれない。
   アニメのサントラ集だけに、細切れの楽曲が無造作に続く。曲順を意識しアルバムを通して
   聴けるよう工夫してはいるが。ロマンチックさとワイルドが混在した、整った楽曲だ。

   千葉出身の若手ラッパーのソロ。2010年のアルバム。
149・RAU DEF:ESCALATE:☆★
   軽やかに揺れるラップ。流麗ながらどこか引っかかりつつ、凄みやハードさを
   およそ感じさせぬフットワークのスムーズさが、新たな世代らしさか。
   ニコラップほど明るく無く、ギャングスタの要素は皆無。噴き上がるうねりが持ち味。

   ベースが水谷浩章に変わり、黒田京子がピアノのトリオ編成、2010年の盤。
148・坂田明 trio:チョット! - I'm here!:☆☆☆☆
   ペーソスとフリーを同居させる坂田明の真骨頂が詰まった。鋭い即興もスピードは落ち着き
   じっくり聞かせるイメージ。ベース、ピアノ共にフリーを踏まえつつ確かな歌心を残す。
   すなわち幅広い振り幅を存分に聴かすジャズとなった。
   水谷の低音がサウンドを野太く支え、黒田が自在に音をばらまく。坂田のアルトは常に青白い。
   尖った音だけでなく、センチメンタルなバラードもじっくり。
   冒頭フリーを潜り抜け、じっくりとジャズの味わいに触れよう。

   ジョージ・ルイス(tb)に惹かれ購入。87年、即興ジャズかな。
147・David Moss / George Lewis / Jpe Sachse :Berlin Tango:☆☆☆
   87/10/26と86/12/8、二回のライブ音源から収録した。基本はジョー・サーシェの即興デュオか。
   デヴィッド・モスとジョージ・ルイスがそれぞれ相方で参加した構成だった。
   ジョーのギターに構築度やフレーズ感が高く、デヴィッドとのテイクは曲っぽい統一性やポップな場面多し。
   ギターのタイミングやフレーズは音色こそシンプルだが、かなりスリリング。
   剛腕にトロンボーンを扱う、ジョージとの演奏はより即興要素を強く感じた。
   派手さはないが、じっくり奏者の味を楽しむには良い盤。

   経歴不明、初めて聴く日本人のピアノ・トリオ。03年発表。
146・加藤英介:Simply Irresistible:☆☆
   端正で骨太なピアノを狙ったジャズ。スリルとスピードは破綻することなく、
   上品な仕上がり。ライブでは印象変わるかな。
   本盤ではどこまでも丁寧に仕上げるセンスが伝わった。

   未聴だった。64年プレスティッジで発売、録音は58年。サイドメンの顔ぶれみると、ハード・バップかな。
145・John Coltrane:Black Pearls:☆☆★
   "Milestones"録音直後、58年5月23日の録音。マイルス・セクステットから
   ガーランドとチェンバーズを招き、ホーンの相方にドナルド・バード(tp)を迎えた。ドラムはアート・テイラー。
   シーツ・オブ・サウンドにつながるズルズルとタンギング抑え吹きまくるコルトレーンに触発されてか
   バードも曲によって早いフレーズをまくしたてる。がっつりハード・バップの文脈で
   青白いコルトレーンのトーンを長尺の曲で堪能できる一枚。
   全三曲、うち1曲は18分とLP片面すべて、か。溢れるアドリブを止められぬ一方で、
   アンサンブルの枠を意識し続ける。あんがい、ガーランドがこのアンサンブルの芯かも。

   英ハード・バッパー、タビー・ヘイズとディジー・リースのセッションを
   まとめた盤らしい。双方56年の録音。
144・Dizzy Reece And Tubby Hayes:Changing The Jazz At Buckingham Palace:☆★
   耳ざわりの良い穏やかなジャズ。緊迫やスリルとは無縁、端正にゆったりスイングする。
   それでいてBGMほど溶けてないのがポイントか。かなり聴く場所選ぶが
   聴き心地は良いジャズだ。明るいが、あか抜けない。

   サディク・ハキムは1919年ミネソタ州生まれ。パーカー"KOKO"セッションにも参加した。
   ピアノ・トリオで77年に吹き込んだ後期の作品。サイドメンはErrol Walters(b),Al Foster(ds)。
143・Sadik Hakim:Witches, Goblins, Etc.:☆☆★
   全10曲、どれもハキムのオリジナル。CD化にあたり(9)、(10)が追加収録された。
   ピアノの印象は甘く、温かい。クルクルと回るフレーズは、キュートに響く。悪く言えば
   カクテル・ピアノ風だが、粘っこさがうっすらあり。ジャズがBGMな時代に生きた人、って印象を受けた。
   とはいえ単独でも聴けるだけの味はあり。シャクシャク響くドラムが軽やかに支えた。

   56年にボストンのクラブThe Storyville Clubでライブ収録。バリサクとトロンボーンに
   ベース/ドラムと変則的な編成の作品。
142・Gerry Mulligan Quartet:At Storyville:☆☆★
   いかにも西海岸、軽やかで洗練されたジャズ。改めて、カントリーの影響を感じた。
   滑らかなスイング感をベースに、二管の絡みあうフレーズのスリルと爽快さが本盤の味。
   鋭さや緊迫感より寛ぎを優先したスムーズなテクニックが聴いてて味わい深い。

   トム・コラとサム・ベネットのユニット、91年の盤。曲によってマーク・リボーや
   ジーナ・パーキンズなど様々なゲストを招いた全19曲のアルバム。
141・THIRD PERSON:The Bends:☆★
   多数のゲストを招いた割に、個々のセッションは恐ろしく区別が無い。
   ソロ回しでなく集団即興だけに、混沌とくきくき捻るビート感が漂う。
   ゲストは立てず奏者とフラットな立ち位置を感じた。ユーモアを廃したストイックさだが
   むやみな緊迫感が無いのはありがたい。
   一曲が短いためじっくり個性を分析しても楽しめると思うが、結構集中力がいるのも確か。


2012年6月

2012/6/17   最近買った盤をまとめて。

   Similab(元?)のラッパーの新譜は3rdアルバム。
140・QN:New Country:☆☆★
   ソロ曲は粘っこいラップの陰りと相まって、暗いムードが漂う。ゲスト入りの曲のほうが
   からっと突き抜けた色合いだ。重たく引きずりつつも軽やかさを失わないビートへ
   独特の拍を前後するフロウを味わえる。アルバム全体としては、最終曲で
   前向きなパワーを滲ませて希望を暗示する構成も良い。

   ニュージャージーの黒人ボーカル・グループ93年の盤。
139・P.O.V.:Handin' Out Beatdowns:☆★
   ハキム・ベルを中心にメンバーが積極的に作曲へ絡んでる。ちょっとパンチ弱い気がする。
   軽快なミドルの(11)が静かに輝きを放ってる。
   突出することない中庸さが弱さであり、個性か。ヒップホップ要素も中途半端だなあ。

   Arf!Arf!主宰者の06年アルバム。サイケ・ポップか。
138・Erik Lindgren:Oil On Linen:☆☆☆★
   ブライアンのスマイルなり、ハイラマズなり。あの手のソフトで陰を持ったポップス。
   本盤は歌よりアンサンブルが主体。どっかヘルシーでカラッとしてる。
   エリックはキーボード全般を担当。宅録でじっくり練った印象だ。
   楽曲構成は、長尺でぞんぶんに楽想を展開し、聴きごたえあり。
   ミニマル寄りな短いモチーフのタペストリーだから、聴いてて飽きない。
   ただ、手なりのメロディでまとまってる感あり、新鮮みや強烈な個性を求めたら当て外れ。

   70年発売のサイケ・ロックらしい。11年の再発盤。ニール・ヤング"I've been waitng for you"カバー有り。
137・Wild Butter:Wild Butter:☆☆☆
   カントリー風味のサイケ・ポップで高音綺麗なハーモニーが特徴。楽曲ごとにアレンジが
   まちまちだが、比較的ミドルテンポの切ない系が多い。泥臭くも洗練さを狙う
   微妙なバランスを、今だと感じる。原石の響きだ。CSN&Y好きが、サンシャイン・ポップと混ぜた感じ。

   95年発売のピアノ・ソロ作品。
136・菊池雅章:Love Song:☆☆☆☆
   飛び切りロマンティックで、切ないピアノ独奏。思い切り間を取り、ビート感は皆無だ
   しかし絶妙のつながるグルーヴで、しっとりしとやかにジャズの痛快さを現した。
   95年、4日間に分けて録音された。しかし本盤の印象は、時を無造作に切り取ったかのよう。
   作為性や構築度をあえて無視し、菊地のタイム感や情感を存分に披露した。それが、格別美しい。
   選曲はすべてカバー。ジャズになじみ深い楽曲を無造作に並べた。だが、どこまでも壮絶に透徹だ。
   これも、ジャズ。剛腕と繊細さを両立できる、菊地ならではの傑作に仕上がった。

   盲目黒人シンガーの09年3rdアルバム。
135・Raul Midón:Synthesis:☆☆☆★
   繰り返し聴くうちに、本盤の魅力が分かってきた。斬新さが印象深かった1stに比べ、
   ぐっと肩の力が抜けている。さりげないダンサブルさと切なさを滲ませ
   地味な仕上がりながら、メロディを丁寧に歌う真摯さはしっかり。
   味わい深いって言葉が似合う一枚。渋さは薄い。

   76年インディアナポリスのレーベル700Westで発表の、マイナー・フォークロック。
134・Dan Modlin Dave Scott:The Train Don't Stop Here Anymore:☆☆☆
   カントリー寄りのフォーク。明るいテンポ感でも、どっか影があるのが特徴。
   地味だが軽快なメロディは、ほんのり苦味あり。CSW&Yあたりを連想した。

   77年の自主制作サイケ・フォークの盤が再発。米Yellow Autumnのギタリストのソロらしい。
133・Joseph Pusey:In My Lady's Chamber:☆☆☆
   ケルティックで素朴なトラッド形式を持ちつつ、実際はハリウッドで多重録音された。
   この皮肉な出来上がりに偏執的なサウンドへのこだわりを読み取るべきか。
   楽曲は素直でのびやかなだけに、マニアックな創作への意欲を感じた。
   フォークの形式だが、恐ろしくアコースティック。当時の時代性を欠片も反映させず。
   50年代イギリスの片隅で録音された盤、といっても信じそう。
   彼のインタビューがここで読める。実際は73年にアイディアが固まっており、
   100時間ほどかけて録音し、ポスト・プロダクションを施したという。
   ジョゼフ・プセイの愛情がきれいに詰まった一枚。

   300本限定で84年カセットで発売2ndに1曲を追加し09年に再発した、アシッド・フォーク。
132・The Tree People:Human Voices:☆☆☆
   冒頭の甘いハーモニーに騙されてはいけない。歌ものとインストが混ざった、かなり歪んだフォーク。
   ライナーノーツは微妙に読みづらいが、要は友達とローカルで
   じわじわと活動してたバンドのアルバムらしい。メンバーは曲ごとに異なる。
   フルートとアコギの滑らかなアンサンブルが前提だが、どこか不安定さをじわじわ感じた。
   決して聴きづらくは無い。ドリーミーではあるが。
   リコーダーがメロディを取る曲は、トラッド的な要素も。素朴さを突き抜けたとこが、個性。
   なんとも微妙な気分になる、面白いアルバム。


2012年5月

2012/5/27   最近買ったCDをまとめて

   菊地成孔とのコンビやSIMでなじみ深い大谷のソロ新譜。ジャズ・ヒップホップらしい。
131・大谷能生:Jazz Abstractions:☆☆☆
   ジャズの文脈で、ヒップホップ。コラージュやループが基本だ。肉体性をそぎ落としつつ
   ダイナミズムは残した。テーマはジャズを批評的な再構築。アイディアを絞ったうえで
   シンプルに仕上げた。数曲で聴ける独特な低い大谷の声も良い。
   ノイズも含めた瞬間の空気感をループすることで、不穏さを強調し煽った。
   自己解説したこのインタビューも読みごたえあり。
   デジタルな構造なのに、生々しい息吹が漂う。

   93年発表、映画のサントラ。イーフレイム・ルイスが参加と最近知り、慌てて入手。
130・OST:Made in America:☆☆★
   11曲中9曲が本映画用か。90年代初頭のアメリカ風ロマンティシズム溢れる
   曲が多く、ノスタルジックにのんびり聴ける。ヒップホップだと、ノリがやはり古めかしい。
   イーフレイム・ルイスの曲は幾分軽いが、独特のノリはトラックも含めしっかりあり。

   以下、クラシック関係。
   92年、英Olympia盤。グルジア人作曲家、ギヤ・カンチェリの交響曲集で、1番(1967年)、7番(1986年)、
   チェロとオケの作品"Mourned by the Wind"(1989年)を収録。世界初レコーディング版とある。
129・Giya Kancheli:Symphonies nos. 1 & 7 / Liturgy:☆★
   ECMのNew Series 1510,1535,1767などでも作品を発表するギヤ・カンチェリ。
   本盤では暗めの趣だが映画のサントラみたいにくっきりした輪郭の場面も多々あり。
   のびやかに深く広がる静かな場面も美しい。強烈に耳を惹くより、
   じっくりと向き合いたい、スケール大きな音楽だ。

   90年米NYのMode盤。46~56年の現代音楽の室内楽を集めた盤。
   3曲入りで作曲家はSheila Silver、Richard Kassel,Laura Maminsky。
128・Musicians' Accord:Chamber Music For Voice (& A Little Jazz):
   場面により耳をそばだてるフレーズや響きあるが、全体としては抽象的な作曲で
   途中で飽きてしまう。最後の曲のやたら続く無音はなんだろう。 

   07年チェコARTA盤。パーカッション中心の現代音楽かな。
127・Havelka, Loudová, Heiniö, Roloff, Fišer:Maska Červené Smrti:☆★
   ソロもしくはデュオ+α位な小編成ののパーカッション現代曲を5曲。
   ミニマルで抽象的な楽曲だが、涼やかな感触は良い。むやみな前衛性よりは
   いくぶんとっつきやすい曲が多かった。

   独RCAの現代音楽シリーズの一枚、01年発表。
126・Musik In Deutschland 1950-2000: Walzer, Marsch Und Teufelsklänge:☆☆☆
   ブックレットがすべてドイツ語で歯が立たず。
   ナチス時代に亡命したドイツのノーベル賞作家、トーマス・マン原作の映画サントラ集のようだ。
   ロマンティックで重厚、ほんのり古臭いオーケストレーションが味わえる盤。
   どっしりと緩やかに美しい旋律が流れる。情感を豊かに表現した。
   (1)は年"詐欺師フェーリクス・クルルの告白"(1957)、作曲はHans-Martin Majewski。(2)は1959年"ブッデンブローク家の人びと"、Werner Eisbrennerの作。
   Rolf Wilhelmの作品がもっとも本盤で多く聴ける。(3)~(6)は"トニオ·クレーゲル"(1964)、
   (7)が"混乱と幼い悩み"(1976)、(16)~(20)が"ファウスト博士"(1982)より。
   戻って(8)~(10)はEuge Thomassの作品。1978年版"ブッデンブローク家の人びと"から。
   (11)~(14)がJürgen Knieperの作。"魔の山"(1982)。
   最後の(21)はChristian Brandauerの曲で"マリオと魔術師"(1993)のフィナーレを収録した。

   同じシリーズ、01年発表。このシリーズはコンセプトをまだ理解できてない。
   何となくナチス時代の退廃音楽集ってイメージあるけれど。
125・Musik In Deutschland Erziehung Zur Musik 1950-1980:Tradition Und Aufbruch:☆☆★
   全部ドイツ語で、楽曲経歴が良くわからず。5人の20世紀作曲家の作品を集めた。
   オケが基本だが歌曲もあり。素朴な感触だが、最初に収録のGenzmer作曲ディヴェルティメントが、厳かで特によかった。

   オーストリアBIS盤、20世紀初頭、スウェーデンの作曲家ヒューゴ・アルヴェーンの作品集。
   バレエ音楽「山の王」op. 37と交響曲第5番イ短調op. 54を収録した。
124・Järvi, Royal Stockholm Philharmonic Orchestra:Alfvén,Symphony No.5 etc. :☆☆
   ドラマティックで壮大で耳触りのいい交響曲。ドカンと派手に盛り上がる。
   前後に挟まれた作品も、すんなり聴ける。前半のバレエ曲はさくっと粒立ち良い
   メロディと滑らかな弦の響きが素敵だ。最後の曲もしっとりふくよか。
   難しく考えず、クラシックに浸るには良い音楽ではないか。

   10年スペインSEdeM盤、2枚組ピアノ・ソナタ集。スペインの現代作曲家集かな?
123・Ainoa Padrón:Obras para piano del Grupo madrileño de los 8:☆☆☆
   曲によっては破天荒な音の飛びや濁った和音があるけれど。ずっと聞いてくと、
   ロマンティックなフレーズが頻出し惹かれる。フレーズは比較的短めで、さくさくと
   歯切れ良い印象。どの奏者もルバート控えめ、爽やかに演奏している。

   09年スペインLubicán盤。オーボエ、ビオラ・ダ・ガンバ、ギターラによる古楽集。
122・Jan Grimbergen & Renée Bosch:Colegium Musicum Iribarren: ☆☆☆★
   30分足らずのボリュームながら、切ない演奏を堪能できる良盤。
   クレジット読めないが、バッハやヘンデル、古楽のようだ。
   どの曲でもオーボエやガンバが主旋律を朗々ととり、滑らかな響きを聴かせる。
   甘く、やわらかく、美しい。しっとりと穏やかな空気が詰まった。

   10年スペインArsis盤。オーストリアの作曲家Ferdinand Rebayのギター伴奏歌曲集。
121・Maximilian Kiener - Gonzalo Noqué:Ferdinand Rebay. Der kleine Rosengarten:☆☆☆
   400曲の歌曲、100曲の合唱作品、2曲のオペラ、600曲以上ものギター独奏曲を作った多作家。
   「ヘルマンレンスの34の詩"小さなバラ園"」「6つのロシア民謡」の自作曲と、ブラームスの「太陽は輝かない」
   「下の谷底では」のアレンジ曲を本盤には収録した。
   実際の演奏は難しいのかもしれないが、聴いてて素朴で柔らかい印象を受ける。
   切なく歌い上げる歌メロをそっと支えて、ふくよかにギターは鳴った。
   クラシックの歌曲は苦手だが、本盤は素直に聴けた。寛ぎつつも、
   聴いててじわじわと胸が高まってくる。

   08年スペインArsis盤。伊バロック時代の作曲家ジョヴァンニ・バッティスタ・フォンタナの室内楽ソナタ集。
120・Starostin & Mario:18 Sonate:☆☆☆★
   死後1641年発表、18曲のソナタ集から9曲を選んだ作品集。バロック時代の端正な整いは
   楽曲から滲むも、一気に突き抜けるロマンティックな旋律感にやられた。
   暖かでしとやかに震えるメロディの美しさが抜群だ。奏者もきらびやかな響きで
   思い切り旋律を歌わせる奏で方だ。

   05年露Sketis盤。ロシアの民族音楽家Sergei Starostinとモルドバ共和国のキシナウ出身
   パーカッション奏者Marioのセッション。ライブ録音のようだ。
119・Starostin & Mario:Starostin & Mario:☆★
   テクノっぽいジャケットだが、実際は土臭いロシア民謡。淡々なパーカッションに乗って
   男が朗々と歌う。甲高い声で。打楽器で伴奏がゆえに、曲調はすべて声に任せられる。
   いっそ独唱でもこの音楽は成立する。間奏の笛も歌ってるセルゲイのほうが演奏。
   清々しいほどにリズムと旋律役が分かれてる。
   のどかでしぶとい歌と、素朴なビートの絡みが魅力か。(7)のグルーヴィな響きが本盤のクライマックス。

   05年日本EMIの盤。ホロヴィッツが33~34年録音のピアノ・ソロ集。
118・Vladimir Horowitz:EMI Great Archive Series:☆☆☆☆
   音質は音楽の魅力をつぶさない。盤起こしと思しき、あまり良い音質ではないが。
   それを超えて、ピアノのひた向きで快速の旋律に心ふるえる。
   なるべくでかい音で、聴いて欲しい。電車の中で聴いてたら、ぐっと来た。
   テクニックをひけらかさぬが、見せつける。過剰にルバートさせないが、ポイントでここぞと旋律を歌わせる。
   絶妙の表現力だ。

   88年Gramavisionの日本盤。クロノス・カルテットがテリー・ライリーの作品を演奏した。
117・Kronos Quartet:Cadenza On The Night Plain:☆☆☆☆★
   実験的で美しい。ライリーの品格をクロノスが絶妙に表現した。
   ライナー読みつつ実験性を味わうもよし、BGMで純粋に旋律の玄妙さへ身をゆだねるも良し。
   ミニマルがレイヤーで多層の幕を作り、広々と展開する。ほんとうに、素晴らしい。
   弦の瑞々しい響きが、とことん愛おしい。

   00年米Nonesuch盤。世界各国、20世紀の楽曲を演奏したコンピ的なアルバム。
   ジプシー音楽起源がテーマで、すべて本盤のため編曲の新作という。
116・Kronos Quartet:Kronos Caravan:☆☆☆★
   北欧や中東の楽曲を集めたコンピレーション。何曲かにはパーカッションなどのゲストも招いた。
   エキゾティックなムードと滴る情感を、整ったクロノスの弦カルが見つめる格好。
   クラシック+民族音楽なコンセプトか。荒々しい要素はほとんど無く、
   アップテンポでも端正な仕上がり。破綻が無いゆえに、確かな楽曲の深みを味わえる一枚。

   01年露の盤。スラブの合唱集かな。詳細不明。
115・Alexandrov Ensemble:Slavonic Farewell:☆★
   クレジットはほぼロシア語で詳細不明、スラブ軍楽隊による民衆歌の演奏だろうか。
   勇ましい男性コーラスとオケの演奏が沸き立つ一方で、旋律やムードに
   寂しさや切なさがいっぱい。あんまり軍の戦意高揚とそぐわない点が、違和感あり面白い。

   97年独Cybeleの盤。19世紀後半、仏のオルガン奏者/作曲家トゥルヌミールの作品集。
114・Sandro R. Mueller:L'orgue Mystique Vol. 6:☆☆★
   トゥルヌミールの代表作「神秘のオルガン」から、抜粋収録かな?全貌が良くわからない。
   録音レベルが小さめのため、がつんとでかい音で聴きたい。のぺっとした
   パイプオルガンが迫ってくる。むしろ電子音楽やアンビエント好きに薦めたい。
   荘厳さは時にスケール大きく、時にゆるやかに表現される。パイプオルガン特有の詰まった感じは
   本盤でも感じられるが、ふくよかなダイナミズムはむしろ現代では宗教と違った感じで楽しめた。

   05年ポーランドEMI盤。ポーランドの映画音楽作曲家、Grzegorz Ciechowskiの作品集。
113・Kwartet Śląski:Republique Grzegorz Ciechowski Kwartet Slaski:☆☆☆☆
   涼やかな弦カル。鋭く、凛としつつ優しさをたなびかせる。メロディのくっきりした勇ましさも
   さることながら、旋律の耳馴染みや和音の軽やかさが素晴らしい。英語解説読めば詳細分かるかもしれないが、
   とりあえず現時点は委細不明。とはいえ、素晴らしく聴きごたえあるアルバムだ。

   チェコLotosの盤。オルガン、ピアノ、バイオリン編成の作品集のようだ。
   ドボルザークやチャイコフスキーらの楽曲を演奏してる。
112・Various Artists: J.SUK-JOSEF HALA:EVERGREENS:☆☆☆
   ドヴォルザークの曾孫、故ヨゼフ・スーク(vln)と、ヨゼフ・ハーラ(p)、アレシュ・バールタ(org)による演奏集だった。
   主役がスーク、楽曲によって鍵盤奏者が変わる格好だ。
   切なく煙るバイオリンは、どことなく古めかしい。しかし軋む音色の温かさは確か。
   BGMには向かない。バイオリンの悲しい表現に惹かれてしまう。

   07年独Verlag Der Spielleuteの盤。四重奏でハープ、ウード、タールとVoか。
   13~14世紀の中世ヨーロッパ楽曲を演奏らしい。
111・Triskilian:Do Durch Der Werlde:☆☆☆
   全6曲、30分弱。ミニ・アルバムなボリュームだ。
   Triskilianは独のグループで00年に結成。本盤は3rdらしい。Webもドイツ語ばかりで今一つ、詳細がつかめない。
   ぼんやり聴いてると英トラッドを連想した。切ないメロディがくるくると回転する。
    (3)のざわめきを包含した奥行あるアレンジや、突き抜けた歌声が楽しめる(4)など、聴きどころ多し。
   上品な演奏とタッチだが、うねりは確かに有り。

   03年伊VELUT LUNAの盤、器楽とポエトリー・リーディングの現代音楽か。
110・ESSENZA CARNALE:Carlo Galante:14 poesie musicali su testi di Alfredo de Palchi:☆☆☆
   低く穏やかな声で語られる詩を、弦と木管の暖かな室内楽がつつむ。
   カテゴリーは現代音楽の文脈だとしても、TZADIKあたりで聴ける穏やかな前衛音楽の趣もあり。
   したたかな生命力と冷涼な空気と暖かなメロディ。三拍子が絡む独特の心地よい世界だ。

2012/5/20   今月はCD屋に行ってないな。ネットで買ったCD。

   神奈川県は綾瀬を拠点、RATLAP (MC)とE.M a.k.a. ELMORE(DJ)のユニット1stがでた。
   フィーチャリングはKYN(SD JUNKSTA),LOOTH(ROUNDSVILL),QN(SIMI LAB),GIVEN(LOWPASS)
109・FIND MARKET:BASEMENT DUSK:☆☆★
   スタイリッシュな夜のムードを基調のスタンスだが、全編を覆うセンチメンタリズムが
   なんとなく独特の湿っぽい個性を作った。軽く吐き出すようなラップは
   むやみに凄まず、青臭さや未熟成を表現した。ゲスト・ラッパーでスリルを出す格好。
   青っぽい色合いに馴染めるなら、楽しめるはず。


2012年4月

2012/4/29   最近買ったCDをまとめて。

   日本盤はひさしぶりかも。メルツバウの新譜は、94年の未発表曲を集めた10枚組コンピ。
108・Merzbow:Merzphysics:

   98年デビューの女性SSW、08年のアルバム。
107・イノトモ:夜明けの星:☆☆★
   カントリー・タッチの素朴なアレンジだが、奥深い響きを持つ。
   シンプルな伴奏でも、つぶやく歌声と相乗効果が凄い。
   一つ一つの音が丁寧に鳴り、ゆったり包み込む味わい深い盤だ。
   アコースティックの良さをきっちりわかったサウンド。

   中二で結成、活動17年目という男性トリオのフォーク・ロック。09年発売、3rd。
106・WATER WATER CAMEL:さよならキャメルハウス:☆★
   甘いハイトーンで緩やかにつむがれるフォーク・ポップ。字余りやメロディ・ラインなど
   かなり日本のフォークに近い立ち位置だ。しかし「まとも」のように清々しい曲は素敵。

   膨大な作品をリリースしてる男性SSW、09年の作品。
105・TOMOVSKY:幻想:☆☆☆★
   元カステラのボーカルで、双子の兄はthe ピーズの大木温之(vo,b)。一曲をのぞき多重マルチで作成した。
   バンド編成の(1)はがっつり一体化アンサンブルが心地よい。他の宅録な楽曲も、
   ちょっとこもってはいるが前のめりの勢いが心地よい。
   メロディは甘酸っぱいセンチメンタルを漂わす、日本的な方向性だ。

   帯のアオリ「ワンコード・変拍子ファンク」に惹かれた。95年の作。
104・Romp:A Moment On The Air:☆★
   3ピース・ファンク。硬質のシンプルなラインは、眠気を誘う。

   ROVOとも共演、サンティアゴ・ヴァスケスの04年、2nd。
103・Santiago Vazquez:Raamon:☆☆☆
   リズムと遊んだ一枚。ちょっと粘っこいモタリあるも、多重録音がゆえの堅苦しさがまず残る。
   とはいえユーモアたっぷりに曲調をころころ変え、ポップから
   前衛まで幅広い要素をアルバムに押し込んだ。
   リズムはテクニックひけらかしでなく、パターンやノリを強調してる。
   じわじわと良さが感じられる一作。

   ギターとコンピュータの即興、98年のアルバム。
102・大谷安宏:Brain-Wash: ☆☆☆
   抽象的で静かなエレクトロ・ノイズのひととき。物語性を探るうちに
   時が過ぎていき、新たなノイズに音像が変わる。なまじ持続音でなく、コラージュ要素が
   強いために退屈せず耳を傾けてしまう。

2012/4/16   最近買ったCDをまとめて。

   ヒップホップを強烈に取り入れたDCPRGの新譜。
101・DCPRG:SECOND REPORT FROM IRON MOUNTAIN USA:☆☆☆☆
   新生DCPRGのスタジオ1st。菊地によりヒップホップの魅力を再確認したので、
   本作でのラップは素直に歓迎。ただし声を前面に出すせいか、演奏が丸く
   奥にミックスされた印象が物足りなかった。楽曲はリメイク含めてポリリズムをぐっと強調。
   スリリングにリズムと遊ぶDCPRGの特長を鋭くフレッシュに切り出した。

   ジャマラディーン・タクーマとブルハン・オチャル。東洋と中近東の合体セッション、99年の盤。
100・Burhan Öçal & Jamaaladeen Tacuma featuring Natacha Atlas:Groove Alla Turca:☆☆
   西洋と中東、双方のミュージシャンを合わせたオケのアレンジ。楽曲により
   アレンジの主導権を渡しあい、二つの文化のミックスを狙った。
   西洋に慣れてるがゆえにタクーマ側のビートへ耳が行くぶん、逆に合わさり具合が
   陳腐に感じてしまう。むしろオチャルのアレンジがエキゾティックで楽しい。
   着実なベースと揺らぎを内包したパーカッションとの絡みが聴きどころか。
   ちなみにミックスにはタクーマのクレジットのみ。そのせいか、ベースはよく聴こえる。

   ニトロの00年発売な1stアルバム。
99・NITRO MICROPHONE UNDERGROUND:NITRO MICROPHONE UNDERGROUND:☆☆☆★
   個々のMCは声質も韻の踏み方も微妙に違う。さらに勢い一発でなく
   ダビングも含め凝った音作り。それでいて、基本は鋭い。
   ウータンの血を色濃く継いだMC集団の傑作。
   あえて全曲に全員を入れず、何人かで組になる曲がほとんど。これがいいんだか、わるいんだか。
   それぞれのラップをじっくり聴ける一方で、8人MCの個性を最大限利用してほしかった気も。

   08年、北海道出身のヒップホップ。
98・Michita:ONE:☆★
   耳触りの良いインスト・ヒップホップ。綺麗なピアノのループを中心に
   ひたすらミニマルに進む。個々の楽曲云々より、全体の流れの気持ちよさに身を任せる盤か。

   07年発売、5thスタジオアルバム。Lovesを集めた。
97・m-flo:COSMICOLOR:☆★
   安定した仕上がりでスリルは少々減じた。カチカチに叩くビートが特徴的だが
   まだギリギリ華やかさを残してる。多彩なゲストを咀嚼し、m-floカラーへ統一したセンスは凄い。

2012/4/8    最近買ったCDをまとめて。

   再結成GbVの頭目、ロバートの最新ソロ。今作もトッド・トバイアスの馴染みスタッフで作成した。
96・Robert Pollard:Mouseman Cloud:☆☆☆★
   短編アイディア詰め込み版なボブのソロ。あえてバンドと違う宅録な点が、GbVと明確に異なる。
   長い曲ほどフレーズが繰り返される。アイディアをいかに重ねるかでなく、リピートの妙味で
   ボブは楽曲のサイズを決めてるのかも。
   破綻するはずの奔放な楽曲は、丁寧なアレンジと録音で見事に端正な面持ちを見せた。

   アルジェリアのピアニストが65年に古典奏法をピアノで即興という、アラブ界では異色のコンセプトで発表の盤。
95・Mustafa Skandrani:Istikhbars & Improvisation:☆☆☆☆
   アラブ音楽を微分音演奏不可能なピアノ独奏で行う、大胆な発想のアルバム。
   予想以上にアラブ音楽と親和力あり、かつクラシックなどの西洋音楽と
   アフリカンなグルーヴにも通底する多様な要素を豪快に伺える作品となった。
   淡々と静かに響くピアノは、バロックから古典音楽あたりのクラシックと似通った
   調和がある。即興部分の軽やかなビート感は、ジャズに結実した黒人音楽のスイングが残る。
   突飛さとは真逆、透徹したコンセプトと目線の高さが素晴らしい一枚だ。


2012年3月

2012/3/31   ユニオンで同人CDを売ってて、目についたの何枚か入手した。

   サークルsiestailが09年頒布の東方アレンジ。12曲中11曲が歌モノ。
94・V.A.:Shrine*Bloom*Yard:
   打ち込み女性ポップスがメイン。ちょっとボーカルが甘い。淡々と聞き流してしまった。

   Morrigan (WAVE)がドラムンとアンビエントで作ったというオリジナル。11年頒布かな。3曲入シングル。
93・WAVE:TAX:
   コンセプト不明だが、アイディア一発でシンプルに仕上げた印象あり。
   比較的スローテンポで、ストリングスとバイオリン音色に、女性ボーカルをダブ処理した(3)がきれいだった。フレーズについ、ERAを連想。

   HTC Communicationが10年頒布のオリジナル。14曲入りオムニバスのノイズもの?解説はこちら
92・V.A.:Zatsu(((onn!!! compilation CD Britneyfuckedbusinesss:
   ノイズ・コンピといいつつ、実態はミニマルやドローンなテクノがほとんど。中途半端に聴きやすいが物足りない。

   ジャケットが凄い。Cis-Tranceが10年頒布の東方アレンジ。ハードコアやガバテクノか。生声とボカロ曲、双方有り。
91・V.A.:ABNORMAL VOISE:
   J-POPなメロディとハードコア・テクノ。派手だが、これをじっくり聴くなら商業CDを選ぶ。
   肉声をカチカチにすることで、ボカロと違和感なく聴かせた。
   ジャケットと対照的に聴きやすい。アイディア一発で曲を作ってる印象あり、
   複数の曲を混ぜたら、より完成度あがるのでは。途中で飽きてしまう。
   好みとは違うが、完成度の点で(5)がベストか。

   Clock Musicが女性ボーカルnayutaをfeat.のシングル、2010年頒布。
   オリジナル2曲とリミックス3曲、カラオケ2曲入り。
90・CLOCK MUSIC:7304/寄り添う秒針:☆☆☆★
    良質のポップスで、華ある明るい声質の歌声。ちょっとマイク吹いてる印象あり。イコライザでハイを落としたほうが好み。
   バックはゴージャスなストリングス・アレンジを丁寧にシンセで組み立てた。
   内省的なムードも、アレンジで鮮やかに仕上げた。
   リミックスはドリーミーな方向性。多重ハーモニーの(3)がいいな。

2012/3/24   最近買ったCDをまとめて。

   ようやく入手。細野晴臣、アトム・ハート、テツ・イノウエによる95年発のテクノ。
89・Hat:Tokyo - Frankfurt - New York:☆☆☆☆
   キュートでミニマルで、弾む。マニアックに突き進みそうなモチーフを、
   ぐっとポップに聴かせるのは細野の手腕か。地味だがじわじわと胸を揺らがせる、
   極上のテクノが詰まった。廃盤がもったいない。権利関係の都合だろうか。

   06年発売のギターと声によるソロらしい。
88・灰野敬二:やらないが できないことに なってゆく:☆☆☆
   長尺1トラックのため、楽しみ方がCD一本勝負になりがちで残念。 エレキギターのランダムな爪弾きから始まる。ダビングと考えづらいので、
   ディレイ・ループをかましてるようだ。音数は次第に多く鳴り、13分ぐらいでペシミスティックな言葉の共にだにストロークが高まった。
   だが轟音には向かわず、テンションはいったん下がる。
   鋭いギターに場面が素早く変わるのが、30分ごろ。CDだとダイナミクスは少ないが
   爆音ギターに世界がシフトした。数分のふよふよと弾力ある音像をはさみつつ。
   一気に音量落ちる場面が、スリリング。

   復活ダイナソーを2枚入手。聴きそびれてた。これは09年の9th。
87・Dinosaur Jr:Farm:☆☆☆★
   轟音ひずみギター全開で幕を開け、へにゃへにゃボーカルとの脱力っぷりがダイナソー。
   そんなステロタイプな冒頭から、しだいに楽曲はバラエティを増していく。
   ギターを幾本も重ね、三人でのアンサンブルはカケラも考えない。
   歪んだ音色は常に残したギター小僧っぷりと、けだるげで落ち着いたポップ・センスの合わせ技は
   どこか余裕も感じる。力吸い取られたような初期のスピード感から、老成さを滲ませるようになった。
   あくまでバンド・サウンドなのが、肝。バーロウの曲がいいアクセントでアルバムのムードを変える。

   8th、07年作。88年"Bug"以来のオリジナル・メンバー揃いが売りだった。
86・Dinosaur Jr:Beyond:☆☆★
   意外にバラエティに富んだアレンジだ。轟音ギターのへたれボーカルにポップなメロディと
   往年ダイナソーのスタンスは健在ながら、宅録っぽさはさすがに薄れバンドのグルーヴが前面に出た。
   スケール大きくライブでは映えそうな曲ばかり。しかし、どっかこじんまりしたのが物足りない。

   09年発、7thスタジオ作。聴きそびれてた。アメリカで40万枚のヒット。
85・Dave Matthews Band:Big Whiskey And The GrooGrux King:☆☆☆
   オリジナル・メンバー、リロイ・ムーア(sax)の死を悼み、冒頭はサックスの音色で始まる。
   楽曲は強力なDMB節。カッチリ硬く派手に展開する。
   楽曲は気持ちいいが、本盤特有の個性まで聴きこめていない。

   07年6月12日のライブ音源、08年発表のデュオ。渋谷オケつながりか。
84・古澤良治郎+外山明:DUO Live at SHIBUYA LUSH:☆☆☆★
   ドラム・セットでの会話。ミックスには外山明自身のクレジットもあり。
   初手からテンポ早く、疾走する。
   たぶん左が古澤で、右が外山。左は小刻みに叩きまくり、時折賑やかにシンバルが鳴る。
   右はちょっと引っかかるリズムで、拍線を撫でまわすかのよう。
   淡白な音使いのサウンドだが、じっくり聴くとぐいぐい引き込まれる。互いに影響しあい、テンポが前後する瞬間がスリリングだ。
   (1)はストレートなドラム・デュオ。(2)で古澤の気の抜けた声交じりののんびりインプロ。
   (3)はアンコールか。再びドラム・バトルになった。右でカウベルが賑やかに鳴る辺り、やはり右が外山か。

   75年に発表のシンセによるバッハの演奏。
83・高橋悠治:バッハ フーガの「電子」技法:☆☆★
   素朴な電子音でバッハを表現した。けれんみや妙な飾りは廃し、アナログ・シンセの
   野太く揺れる響きで優しく柔らかく、音楽をつむぐ。ピアノでの鋭いタッチやノリは
   本盤では控えめ。空気をふわふわとかき回すように、電子音が鳴る。
   最後でちょっと挿入される語りが、トータル・アルバムをきれいに締めた。

   声をテープ多重処理での現代音楽。82年、86年にNHKスタジオと90年にニュージーランドで録音された。
82・佐藤聡明:Mandara Trilogy-曼荼羅三部作-:☆☆☆☆
   声明の発声による佐藤本人の母音を素材に、多数ダビングで倍音のうねりを強調した電子音楽。
   3部作をすべてまとめたのが本CDになる。奥深いうねりと、蠢く響きは荘厳にして
   幻想的、懐深いが恐ろしさも漂わす。さまざまな要素を飲み込む、
   深さを見事に表現した実験音楽だ。聴いて寛ぎづらいが、この響きはぜひ聴いて欲しい。
   大音量と再生装置次第で、本音源の良さはさらに味わえそうだ。

   99年発売、カリフォルニア出身の現代音楽で、電子音楽・・・かな?
81・Evelyn Ficarra.:Ficarra: Frantic Mid-Atlantic:☆★
   ミュージック・コンクレートなテープ音楽。妙に日常的な機械を使ってるっぽい。
   それが生演奏楽器であっても、妙にからくり箱めいた違和感が漂った。
   メロディは希薄でアカデミックな堅苦しさ有りの音楽だが、どこか重心軽く聴けた。

   カナダのノイズ・デュオが04年に発表。大友良英、マルタン・テトロ、ディアン・ラブロッスがゲストで参加した。
80・Morceaux De Machines:Estrapade:☆☆★
   電子ノイズが飛び交うターンテーブル&エレクトロニクス作品。
   バンドめいた一体感やグルーヴは無いが、ビートともノイズともつかぬ
   不安定な立ち位置が、逆に持ち味か。静けさとダンサブル、双方を混ぜてる印象だ。

   スマーフ男組、山本精一、Abraham Crossのライブ音源を収録作。05年の作品。
79・V.A.:夜ライブ:☆☆
   三者三様のアプローチ、共通点はどこか尖ったところ。ぼくの好み順に並んでる感じ。
   前衛3ユニットの共演ライブ。スマーフ男組はミニマルなテクノ&ノイズ、
   山本精一はエレキギターソロでメロディを歪んだ音色でまくしたてる。
   ブレイクをはさみつつ、速弾きとノイズが混在する音像が刺激的だ。中盤ではエフェクタ操作と思しき電子音も。
   ABRAHAM CROSSはクラストハードコア(英Dischargeに影響のメタリックなパンクらしい)
   予想よりも大人しめ。鳴り響くエレキギターのうねりが、ドローン的だ。

   02年発売スタジオアルバムで、同名DVD BOOKのサントラ。
78・坂本龍一:ELEPHANTISM:☆☆☆
   ひそやかなエキゾティズム。アフリカの風景は人のざわめきと、雄大な空気で表現した。
   かき鳴らす弦の響きは、グリオより琴を連想した。オリエンタルの神秘さと
   暑い日差しのサンドイッチを、美しいピアノとシンセが奏でる。
   ビート感は緩く、広々した音像で寛いで聴ける。
   坂本にしてはシンセの音色がシンプルな気もしたが、複雑な和音の絶妙さはさすが。

   07年のサントラ。05年「星になった少年」ぶりの音楽監督かな。
77・坂本龍一:SILK:☆☆☆☆
   ピアノ演奏と指揮も坂本、本人。オーケストラとピアノ独奏+薄いシンセの二本立て。
   間をたっぷり置いた単音だけのメロディがつむぐ世界の美しさよ。
   日本情緒を、この間で表現したか。心地よい和音の響きと単音、単音だけの透徹さ、
   双方を一枚で味わえる。サントラゆえの変奏局面を、トータル・アルバムと楽しむも良し。

   88年のソウル、フロリダ出身の女性シンガー。Mazeの"Joy And Pain"カバーを収録した。
76・Donna Allen:Heaven On Earth:☆★
   肝っ玉ねぇちゃんに歌い上げるボーカルを、スタジオ・ミュージシャンが固めた印象。
   グロリア・エステファンのツアー・コーラスを9年務めた経歴あり。
   ジェフ・ボバがKeyで参加した。フロリダらしい能天気なムードで、ずしずし賑やかに
   シンセ・ドラムが鳴る。シングルは現在もリリースする彼女だが、本作が2ndにして
   もっとも最近のアルバム。当時、R&Bチャート28位迄は売れたらしい。
   (5)、(1)、(6)の順でシングルを切ったが、爆発ヒットには至らず。
   ほんのりアップに仕上げた(6)の"Joy And Pain"が最高でチャート3位のヒットにとどまった。
   ゴスペル風のスロー(3)、展開がポップなミディアム(8)が、耳を惹く。アップはどうしても時代を感じてしまい。

   中国のレーベル山水唱片が04年発売の、中国/日本のテクノ・コンピ。
75・V.A.:Charming Playlist:☆☆☆☆
   良質のエレクトロニカが詰まったコンピ。中国だから、と先入観もってはいけない。
   チップチューン的な音使いと、キラキラな雰囲気、メロディよりも音像、
   ビートはさほどきつくないが、ループするパターンで流れる前向き感、
   ほんのりノイジーさをまぶした多様さ、パルス音のめまぐるしさと大らかさ。
   軽やかな電子音楽が、バラエティ豊かに詰まった良作。


2012年2月

2012/2/26    最近買ったCDをまとめて。

   再結成ツアーを経てアルバムまで!04年"Half smiles of the decomposed"に次ぐ作品。
   もっともロバートは山ほどこの間活動しており、空白感は驚くほど無い。
74・Guided By Voices:Let's Go Eat The Factory:☆☆☆☆
   とっ散らかって奔放なGbVが帰ってきた。だが聴くにつれ、形式と進歩を明らかに感じる。
   まず短い楽曲のつるべ打ちと、まちまちな音質と極端なローファイは
   以前のGbVを踏襲。だが演奏の確かさと洗練された完成度はキャリアを経た強かさあり。この点が、今のGbV。
   トビン単独曲が5曲、メンバーとの共作も数曲。ロバートのエゴはバンド内にうまく溶けた。
   いろんな意味で大人になりつつ、根本は作りっぱなしのおおざっぱさ、が的確に表現された傑作。
   最後になったが、きれいなロバートのメロディは本作も健在。

   ニュージャージー出身のSSW、08年の3rd。アトランティックとの契約は一枚で終わり、
   マイナーのT Killa Recordsを拠点にする。
73・Toby Lightman:Let Go:☆☆☆☆
   シンプルな弾き語りで手作り感覚溢れるセルフ・カバー集。のびやかな歌声は
   飾りっけなしでも生き生きと映えることを証明した。むしろ本作の
   アレンジのほうが好きかも。特に1stでのカチカチっぽさが消え、ナチュラルさが愛おしい。
   楽曲構成的には、すべて既発が惜しい。一曲でいいから、新曲も欲しかった。
   だがTobyを一枚、ならまず本盤を薦める。

   同嬢が2010年発表の4th。DL販売が活動の主役な彼女だが、ついCDを買ってしまった。
72・Toby Lightman:Know Where I'm From:

   ミシガン出身、白人/黒人混合トリオなヒップホップ・グループの06年1stアルバム。
   Mayer HawthorneがHaircut名義で参加、と興味持ち入手した。
71・Now On:Eye Level:☆☆☆★
   レコ堀りマニアの遊びまくった作品、ってイメージ。マッチョやギャングスタ的な
   凄みや、ダンスやクールを狙った無造作さ、どちらも希薄。サンプリングに凝る
   偏執さや妙な計算高さもない。単にレコ堀りが講じて、面白いトラックをポップに
   作っていくって素朴さだ。その一方で、完全に作り上げるセンスもある。
   ちなみに2曲でクイントン・ジョセフ(ds)の名を見て驚いた。70年代フィリー、すなわちMFSBなどで
   多数の参加した彼。生演奏かなあ・・・?

   同上、08年の2ndにして現時点の最終作。
70・Now On:Tomorrow AlreadyTomorrow Already: ☆★
   ヒップホップとポップセンスの融合を狙ったと思うが、ちょっとハマれず。
   イントロのポップ路線だけで行ってほしくもあり。
   全体に軽快なムードのサウンドが多い。

2012/2/19   最近買ったCDをまとめて。

   サン・ラ発掘レーベル、米TRANSPARENCYの10枚組。78年カナダのライブ音源集。
   3/13,9/22,11/4の3日間が収まった。Disc10はインタビュー。貴重だしボリュームも嬉しいが、
   どの盤もトラック分割なし、1曲で約1時間構成の編集に閉口した。
69・Sun Ra:Live AT THE Horseshoe Tavern:Toronto 1978:☆☆
   とにかくファン向けの盤だ。だらだらとメリハリ無く音楽をたらし流し続けた
   サン・ラーのステージ風景がびりびり伝わる。時にソロ、時にアンサンブルと
   アレンジに気を配り、おそらく舞台には踊り手もおり、体験は楽しかったと思う。
   しかし楽曲トラックの区切りもわからず、淡々と聴き続ける10枚は
   むしろ苦行の域。ファンならば、楽しめる。音質はまずまず、楽器の分離もまあまあ。
   しかし最後のインタビューは、英語分かれば楽しいと思うが。

   甘いポップスな1st"Strange Arrangement"で惹かれた彼の、2011年発売な2nd。
68・Mayer Hawthorne:How Do You Do:☆☆☆☆
   本作もノスタルジックな良質ポップスを詰め込んだ。フィリーから60年代バブルガム、
   モータウン風にスイート・ソウル。黒人と白人音楽の耳ざわり良い
   オマージュがいっぱい。ふと耳に残るのが、乾いたパーカッションの響き。時に
   調子っぱずれな響き。これがガレージ風味わいをサウンドに付与した。
   練ったアレンジの端に、無造作な異物感を置く。なんとなく、ヒップホップっぽい。

   松本健一率いる中堅5人のサックス・アンサンブルのロシア公演盤。
   音楽だけでなく、街のようすも織り込んだ編集が興味深い。ザッパの"Playground Psychotics"を連想した。
67・SXQ saxquintet:SXQ Saxquintet On Tour 2008 Russia-Lithuanin:☆☆☆★
   硬質のサックス・アンサンブルだがツアー途中の生の音が、ユーモアを挿入した。
   特にいびきの音が可笑しい。あれって、ダビングしてないの?
   楽曲だけでなく、ツアーの空気を丸ごと取り込んだコンセプトも含めて興味深いジャズ・アルバムに仕上がった。
   アンサンブルはリズム楽器無いゆえの浮遊感が特徴的だ。

   ソロ3作目、02年の録音。no-input mixing boardだけのストイックな作品だ。
66・中村としまる:Vehicle:☆☆☆★
   電子ノイズの響きが、いつのまにかドリーミーな揺らぎに。彼の作品でも屈指のロマンティックさ。
   オーバーダブ、プログラミング無しとあるが、驚くほどドラマティックで厚みある展開だ。
   全9曲、バラエティに富んだ構成も、集中力が続いて嬉しい。

   ポーランドのロベルト・マイェフスキ(tp)がクインテット編成で、クシシュトフ・コメダの作品集を吹き込んだ95年の盤。
65・Komeda:Robert Majewski Plays Komeda:☆☆☆★
   整ったアレンジでかっちりと聴かせるジャズ。恐ろしく冷えた熱狂だ。
   どちらかといえば端正さが魅力。アップテンポの疾走も、常に覚めた視線を感じる。
   テクニック抜群、丁寧なピアノとひねくれた刻みのドラムが中心でアンサンブルを作る。
   ロシアの洗練さを味わうのには、的確なアルバムと思う。

   ブルーノート67年、オーネット・コールマンと双頭ホーンのクインテット。
64・Jackie McLean:New And Old Gospel:☆☆★
   (1)はちょっと中途半端なイメージだ。ライブだと熱気にやられると思うが。
   マクリーンがフリーに興味を持ちつつ、弾けきれない。
   ドラムのビル・ヒギンスはオーネットの昔馴染み人脈か。がっつりフリーが炸裂するが、
   どこか解き放たれぬ、くびき有り。ドラムの縦線かもしれないし、マクリーンの
   しなやかなホーンかもしれない。ピアノのラモント・ジョンソンが、野太いピアノを
   叩く一方で、マクリーンの線が細いサックスが聴いてて耳に痛い。
   むしろフェイドアウトが惜しい(2)のジャズ・ファンク路線の追求が、
   本盤の聴きどころと思う。オーソドックスな(3)もゴツくて良いだけに・・・。

   ブルーノート62年、ケニー・ドーハムと双頭クインテット。当時は未発表?
63・Jackie McLean:Jackie McLean Quintet:☆☆☆
   ゆったりファンキー。激しすぎず、ときおりメロウに響く。
   小刻みなシンバルワークが、すばらしく良い。

   サイドメンはGrant Green(g), Wynton Kely(p), Paul Chambers(b), "Philly" Joe Jones(ds)。
   "ミドル級チャンプ"の異名なハンク・モブレーがブルー・ノート、61年の録音盤。
62・Hank Mobley:Workout:☆☆☆★
   膨大な吹き込みの57年から一息つき、じっくり活動の時期か。マイルスとの録音も同年だ。
   本盤はテーマが濃密な一方、中間部はまさにソロ回し。じわじわとたっぷり
   各ミュージシャンにスペースを与えた。フィリーのドラムを筆頭にアンサンブルの
   妙味が味わえる。ウィントン・ケリーのさりげない和音のカウンターと
   シンバル鳴らしっぱなしの一方で、ひねくれたスネア連発のドラムに挟まり、ベースが
   うねうね走り続ける。ハンクのソロは無暗なけれんみは薄く、素直にメロディアスだ。
   鋭いフレーズが生きるハンクのオリジナルを楽しめる盤でもある。ハード・バップの典型だ。

   イタリアのジャズ・ピアニストが、01年4月に3日間かけたソロ録音集8枚、な企画の4枚目。
61・Franco D'Andrea:D'andrea Solo4 Standards:☆☆☆☆
   ガトー・バルビエリの作品集。一曲、アンドレアの即興かな。
   ロマンティックな世界が炸裂した傑作。テンポもフレーズも奔放に花開きつつ、
   決して乱暴さに流れない。穏やかかつ、フリー。耳ざわり良いが
   細かく聴くと、フレーズがガラガラ変貌する巧みさに耳を惹き寄せられた。  

   同上、7枚目。盤ごとのコンセプトはまだ聴けて無い。
60・Franco D'Andrea:Solo 7 Napoli:☆☆☆★
   オーソドックスなジャズからずれてるが、強烈にスイングする演奏だ。
   本作はイタリア民謡集らしい。"フニクリ・フニクラ"や"オー・ソレ・ミオ"など
   聴き馴染みあるメロディも、たちまち解体変貌し、奔放なピアノ・ジャズに溶けていく。
   上品だが、どこか剛腕なピアノが素敵だ。

   今井和雄がリーダーの即興集。4時間にわたった演奏をCD1枚にまとめた。
   97年の盤。共演者は小沢靖・越川知尚・椎啓・多田正美、向井千恵。硬質そうなメンバーだ。
59・Marginal Consort:Collective Improvisation:☆☆☆★
   全体印象はハードなドローン。金属質なノイズがてんでになりつつ、大きな潮流を作った。
   中盤のセッションを切り取った場面で、人の声が交錯する瞬間が特にスリリング。
   緊迫と集中を強いられる作品だが、それだけの価値は十二分にある。
   場面分けした構成により、いたずらに時間経過のみ追体験とならぬドラマティックさだ。

   電子音楽、01年の作品。すべてラップトップで作られた。
58・大谷安宏:Spread Jam:☆☆☆★
   ストイックな電子アンビエント。音色へ真摯にこだわった。ビートやノイズが追求ではない。
   幾度も繰り返される響きは、微妙に変わる。時折、ぽつんと音が唐突に鳴る。
   音像は響き続ける。空白を許さず。しかし、全体の印象は端正で静かだ。
   奥行深く、幅広く上下にも長い。スケール大きい、それでいて室内楽。
   さまざまな要素を違和感なく押し込めた、傑作。全6曲、視点を変えた風景を描いた。
   緊迫した場面でも、不思議と切羽詰った重苦しさはない。リズム感が希薄でも、強烈な流れを常に感じた。

   09年にNYのメンバーと初対面で吹き込んだカルテットな盤。ストーンでのライブ。
   楽曲は旧橋のオリジナル3曲と、インプロが1曲。
57・旧橋 壮:Magenta:☆☆☆★
   激熱ハード・バップ。時代を超越した、スピーディな勢いに惹きこまれた。
   ストレート・アヘッドな美学が詰まってる。録音はちょっと分離悪いが、
   なおさら場のホットさを強調した。最後のソロ回しゴッツリなインプロも良い。

   フリージャズ・ドラマーのリーダー作で、サーストン・ムーア(2曲)と、
   エリオット・シャープ(1曲)のデュオ。94年に発表された。
56・William Hooker:Shamballa:☆★
   全てスタジオ録音だが、ライブで聴きたいな。ドラムはビートを放棄し、乱打を追求する。
   楽曲よりもゲスト・ミュージシャンのネームバリューで聴きたくなる。
   ファン向け、ちょっと集中力が続きづらい即興だ。
   サーストン・ムーアはパワープレイ一辺倒でなく、(2)でミニマルなうねりも聴かせた。この辺は聴きもの。
   どしゃめしゃ混沌のE#のほうが、ぼくは好み。とはいえ音だけだと何とももどかしい・・・。中途半端さが残る。

   同じドラマーによるW.Hookerが、L.Ranaldo/Z.Parkinsと共演した、95年の盤。
55・William Hooker:The Gift Of Tongues:☆★
   (1)の17分はパワー・インプロ。剛腕エレキギターがディレイとリバーブの嵐で
   蠢くなか、ドラムはひたすら叩き続ける。ジーナがどの音か、ピンとこず。
   奥行あるサイケな煙に巻かれて楽しむ。
   (2)は一転してドライな長尺ドラム・ソロからスタート。ディストーションばりばりの
   ギターが覆いかぶさった。ジーナも電子変調の轟音爪弾きのようだ。
   ノイズを交換しあう並列パワー・インプロ。ただ、ちょっとCDでは緊迫感が物足りぬ。
   ライブではドラムの威力に圧倒されたと思うが。
   53分もの長尺を、ワン・アイディアだけでは、集中力が続かない。
   アンサンブルの立ち位置を音から想像する楽しみか。
   この点で、灰野敬二の偉大さを改めて実感した。

   二人のボーカルにギタートリオ、ドイツのジャズ・ユニットらしい。2010年の盤。
54・Quetzal:5:45h:☆☆☆★
   作曲はすべてドラマー。プログレ・ジャズな展開だ。楽器は基本的にアコースティック。
   メロディのキメがそこかしこで弾け、女性ボーカルがユニゾンでつきすすむ。
   ボーカル有り時代のボンフルを彷彿とさせるが、このバンドは基本的にあっけらかん。
   華やかなメロディとアンサンブルを楽しめる、爽快な盤。

   ニュー・オリンズのラッパーの1st。01年発表でアルバムは全米9位のヒット、65万枚を売った。
   ゲストはBig Tymersやリル・ウェインら。
53・Turk:Young And Thuggin':☆★
   へにゃへにゃキーボードのリフと脱力ラップの組合せ。バックビート効いてて
   ぐいっとグルーヴする。隙が多い盤だが、なぜか耳を惹く。

   Onyx構成員の01年1stソロ。全米44位の売れ行きだった(HipHopチャートは10位)。
   ゲスト・ラッパーはレイクォンやエミネムら。ギャングスタ系か。
52・Sticky Fingaz:Black Trash: The Autobiography Of Kirk Jones:☆☆☆★
   これはすぐ廃盤になったほう。今はクリーン版が流通。
   架空の男Kirk Jonesの生活を描いたトータル・アルバム。Kirk Jonesは彼の本名でもある。
   歌詞が分からないと楽しさ半減だな。ぼくはちなみに、歌詞分からず聴いている。
   吐き捨てるひしゃげた声のラップが胸に迫る。ゴージャスなゲストに練られたトラック、
   そこへ丁寧でスピーディなラップが乗る快盤。
   なおウータンからはOrphanageのLord Superbも参加した。(11)のDave Hollisterは Blackstreetのボーカル。
   Onyxからは従兄弟のFredro Starrが(17)で客演。

   バッズを山盛り抱えたジャケットが印象的。01年チカーノ・ラップのコンピ。
51・V.A.:The 420 Compilation:
   したたかで軽快に畳み掛けるラップ。トラックもシンセ中心のシンプルさ。BGMでさくっと聴くに似合う。
   気分が上がってるときには、楽しい盤だ。個人的には
   もうちょっと闇があったほうが好み。女性ラッパーも数曲あり。

   NYのラップ・デュオDead Prezの片割れ、M-1の1stソロ06年作。HipHopチャート52位まで上がった。
50・Dead Prez Presents M-1:Confidential:☆★
   軽やかな仕上がり。変にドスを利かせることなく、洗練さを狙ってる。
   もちろん、重心は低い。大勢のゲストが花を添え、整ったアルバムになった。

   05年発、ジャズ系ヒップホップ・・・らしい。
49・Mike Ladd:Negrophilia (The Album):☆☆☆☆
   ダブ処理の重たいスローなフリージャズに、粘っこいラップが乗る。Petrine Archer-straw(ジャマイカ在住、英の黒人女性大学教授)
   が00年に著した同名書籍"黒人文化への憧れ"が元テキストらしい。
   印象は比較的、ジャズ寄り。マイクはヒップホップ的アプローチを、音楽へ付与の徹底へ気を配り
   ラップは色付けにとどまった。ドラムがビートを提示し、上物がふわふわと絡む。
   粘っこいムードのスリルが堪らないアヴァン=ヒップホップの盤だ。

   西海岸のインディ・ラップグループLiving Legendsのクルー、Elighのたぶん8thソロ、99年発表。
48・Eligh:Gas Dream:☆☆
   生楽器のサンプリングを生々しく、寂しげにループさせる寂寞感が本盤の魅力。
   ゲストに同じ西海岸のラッパーでDel the Funky Homosapien、Pep Loveたちが参加した。
    イーライの本拠リビング・レジェンズからはScarub、Sunspot Jonz、Luckyiam、The Grouchがサポートしてる。
   ちょいとチャチなジャケットだが、内容はクールで骨太なヒップホップだ。


2012年1月

2012/1/28   最近買ったCDをまとめて。バーゲンで鷲掴み、普段買わない盤もあり。それがどれかは、内緒。

   10年発売。09年のツアー後、一気にレコーディングの7th。
47・梅津和時 Kiki Band:A Chrysalis' Dream:☆☆☆☆
   勢い一発から複雑なキメ、破天荒の突進と重厚なタメ。相反する要素を
   がっつり強靭なアンサンブルでまとめる、骨太な印象。サックスとギターが滑らかに絡み、
   リズム隊の頼もしい響きにやられる。明らかな方向転換や
   アプローチの新奇性よりも、自由度の増したバンドの今を封じ込めを選んだか。
   「前作よりこの点が新しい!」と、まだぼくは聴き分けられていない。
   でも前作"デマゴーグ"より、もっと濃密さが増した気がする。エレキギターを
   筆頭のスピーディさより、どっぷり重たくしぶとい印象が強い。

   ようやく入手の作曲家目当てな盤。半村良が原案な05年映画のサントラ。作曲はShezoo。
46・O.S.T:戦国自衛隊1549:☆☆☆★
   くっきりしなやかでロマンティックなメロディが交錯するオーケストラ・スタイル。
   どこかこじんまりした寂しさを感じるのは、コンセプトだろうか。
   サントラ風に短い曲が続く。これを再構成した長い尺でも聴いてみたいところだ。

   97年の英ACEコンピ。カリフォルニアのローカルレーベル、ドゥートーンの
   ドゥ・ワップを集めた。未発表曲も数曲あり。
45・V.A.:DooTone Records Doo Wop Vol. 2:☆★
   ほんのりアップテンポなジャンプが多い。このレーベルはライナーによると若手を中心に
   レコーディングしてたらしい。洗練の一歩手前、な印象。
   上手さよりは情熱が先行か。突き抜けるものに欠け、今だと少々古臭い。
   もちろん、良い曲もあり。特に気に入ったのが、(6),(13),(17),(18),(28)あたり。

   01年の英ACE盤。過去、ドゥワップ・グループで活動した4人の白人老人による
   ユニットが新譜(?)として吹き込んだ物らしい。
44・Legends Of Doo Wop:Legends Of Doo Wop:☆☆☆
   4人の懐メロ・スタイルだが若々しさで楽しく聴ける。メンバーの出身はそれぞれ、
   5シャークス、イマジネイションズ、パッションズ、ファシネイターズ。
   ドゥワップの名曲を残しつつ、ちょっとローカル寄りのバンドばかりかな。
   しかし目をつぶって聴いたら、とても爺さんたちが歌ってるように思えない。
   ドラムとピアノくらいのシンプルなバッキングで、あっさり味わい深く仕上げた。

   90年発表、佐藤允彦が音楽監督のスムース・ジャズのプロジェクトか。
43・The Belair Project:Passagio:☆☆☆
   クラシック曲を中心に佐藤允彦がアレンジした、フュージョン的な耳触りのユニット
   しかしアドリブのとたんフリーの勢いが顔を出すのが興味深い。
   アンサンブルはフロントが2フルート、ピアノのみと異色の編成。そこへゲストでさらに
   中川昌三(fl)とエディ・ダニエルズ(cl)の木管を招いた。綺麗な響きとクラシック中心の
   楽曲はBGMっぽい甘さを持つが、タイトなドラムを中心にグイグイ聴かせる活力もあり。
   滑らかな鋭さを磨いた一枚。

   豪のレーベルから発表の日本人トラックメイカー。04年リリース。
42・Himuro:Clear Without Items:☆☆☆★
   チップ・チューンまで行かないが、昔懐かしな野太い電子音を多用した
   心地よいテクノ。小刻みなビートは多層化され、ゆったりコミカルなムードで
   楽しめる。耳を澄ますと、小さな音でグルーヴに厚みを出してるアレンジの巧みさに気づく。

   09年の発売、仏のインスト・ヒップホップ。
41・Guts:Freedom:☆★
   シンプルで、時にアコースティックなループ。構造は親しみやすいが、どこか引っかかる。
   素直に落ち着けず、常に胸を騒がせるような・・・。女性ボーカルも含め、
   浮ついた不安定さを感じさせるブレイクビーツだ。フランス文化ゆえ、のノリかは
   知識不足でコメントできないが。ダンスにはちょっと向かない気も。

   豪のレーベルRRRがリリースした60年代初期~中期の米ローカル・ヒットなポップス集。
40・V.A.:Teenage Treasures:☆☆☆★
   どれも盤起こし。ちょっと音のエッジが甘い。ゆえにドリーミーさが強調された、とも言える。
   他愛なくポップ、愛おしくキュートなメロディ。能天気な作りで、おそらく粗製濫造な
   時すらあっても、間違いなく魅力的。そんなマイナー・ポップを集めた貴重なコンピだ。
   ジェファーソン・エアプレインのマーティ・ベイリンのシングルなども収録した。
   ライナーから推測するに、マニアからのシングルを集めたようだ。
   実質の指揮が、プロデューサーに記載されたアッシュ・ウェルズか。
   60年代前半のポップス・ファンなら、必聴のコンピ。(9)が素晴らしくいい曲。
   アメリカの層の厚さを、実感する。

   英KENTが09年リイシュー、ニュー・ジャージーのレーベルCarnivalのノーザン・ソウル集。
39・V.A.:Carnival Northern Soul:☆☆☆★
   このレーベルはマンハッタンズが代表グループ。さらに実際の音楽でも
   重要な位置づけだったと作曲クレジット見て実感した。マンハッタンズのメンバーである、ウィンフレッド・ラヴェットと
   エドワード・ヴィヴィンスの名前が、他のシングルでも作曲者でズラズラ見られる。
   (16)には作曲者にジョージ・クリントンの名も。
   洗練されつつ、どっか野暮ったい。ニュージャージーらしい音楽は、クールで
   ほんのりファンキー。突き抜けた潔さの無い点が、個性と言える。
   どの曲もきれいにマスタリングされ、軽快に楽しめるコンピだ。

   ペンシルバニア出身のR&Bシンガーによる1st、07年発売。
38・Kevin Michael Feat. Lupe Fiasco:Kevin Michael:☆☆☆
   スカスカなアレンジにプリンスの影響がたっぷり。R&Bチャートで90位獲得の1stだ。
   (2)でいきなりレゲエどっぷり、が象徴的。楽曲クレジットに他にも色々とずらり並び、
   中庸ごった煮な感が否めない。尖ったケヴィンの素養を甘くまとめてしまった。
   さまざまなニュアンスで、中途半端。今後に個性をいかに出せるか、で評価が変わる。
   歯切れよくキャッチーなのは、確か。毒が薄まった印象だ。

   ドイツのクラブ・ジャズ・バンド、02年の1stアルバム。
37・re:jazz:[re:jazz]:☆★
   エレクトロニカを生演奏のコンセプトなせいか、端正なジャズ。各楽器のソロも
   枠を外れることなく、逆に言えばスリルは希薄。整ったBGMとしては、良質だが。
   シンプルだが歯切れ良いドラムが心地よい。

   シングルをラジオで当時、時々聴いた。ヒューイ・ルイスの弟分な位置づけだったっけ?
   のちにグレイトフル・デッドに参加する彼の、84年デビュー盤。
36・Bruce Hornsby & The Range:The Way It Is:☆☆★
   大らかでポップなアメリカン・ロック。やはりタイトル曲の端正さが完成度一番。
   ヒューイの売れ線プロデュースより、もっといなたいほうが彼に似合ってそう。
   時代とは思うが、どたすかエレクトリックなドラムがいまいち合わない。
   どの曲もがっちり音を詰め込んだアレンジで仕上げてる。

   京都のブレイクビーツ・ユニット、1stか。06年にPヴァインより。
35・A.Y.B. Force:Lost Breaks:☆☆☆★
   寛いだ雰囲気のグルーヴィー・ヒップホップ。コラージュ風な細切れサンプリングが次々に舞い、
   バックビートを鋭く強調した。多数のメンバーが疑似的に集合し作った盤ゆえの
   中心を持たない浮遊したムードがただよう。共通項はヒップホップ、そしてグルーヴ。
   明確なビートが常にある一方で、ゆったり聴ける盤。

   北欧はフィンランドのヒップホップ・ユニット。06年の盤。
34・Kollabo Brothers:For My Peoples:☆☆☆
   90年代前半のオールド・スクールがテーマ。丁寧なトラックづくりと変に捻らぬラップに好感。
   ギャングスタの荒ぶりや白人流のいきがり、妙なビート優先など個性を無暗に
   追求せず、愚直にヒップホップのスマートさを追求した感あり。
   スリルは無いが、不思議とクールさに惹かれる一枚。
   どの曲もゲストを招き、アメリカからはDiamond D、The Cold Crush BrothersのGrandmaster Caz、
   Juice CrewのCraig Gなど渋いところを並べた。
   ピート・ロックに通じるひしゃげたNYスタイルがいかしてる。音数は比較的薄め。

   北海道のラップ・ユニットa.k.a NORTH COAST BAD BOYZ。
   2010年に北海道TSUTAYA限定3ヶ月連続singleリリースの企画があり、その第三弾がこれ。
33・N.C.B.B:Soldier of Christ:☆★
   ニトロを連想する群唱ギャングスタ。畳み掛ける威勢良さ。あまり揺らさず、サクサク刻む。
   祭りの盛り上がりを、ふと連想した。聴きやすいのは確か。

   シンガーのYUKIとラッパーのCICOで01年から活動するJ-POP・・・で、いいのかな。
   本盤は03年発売の2nd、5~7thシングルの収録曲に3曲の新曲を収めた。
32・BENNIE K:Essence:
   ラップは軽快だが、暑苦しいJ-POP歌メロが聴いててしんどい・・・。
   がちがちにピッチ合わせた歌は、インパクト狙いで存在感を強烈に主張する。
   もっと人間臭い歌を聴きたいな。逆にラップはまだ奔放さを演出してる。
   だからラップで耳がホッとする皮肉さ。

   60年4月にブルーノートで録音のクインテット。サイドメンも強力だ。
   Jackie McLean(as),Bobby Timmons(p),Paul Chambers(b),Art Blakey(ds)
31・Lee Morgan:Lee-Way:☆☆☆
   リー・モーガン22歳、リーダー作10枚目。名盤"Candy"の3年後に発表した。
   この年はVee-Jayからも2枚リーダー作を発表。すべて共演はブレイキーのみ、ぐっとブルーノート色強いメンバーを選んだ。
    一曲の中でもふらりふらり揺れる感じがユニークだ。ドラムにどかんとエコーが掛かり
   存在感を強調してる。音作りはブレイキー自身の選択だろうか。ハードバップだが
   比較的、テンションは抑え目。楽しげに空気を揺らす。4曲入り中、自作曲は1曲のみ。
   5歳年上なCal Massey(tp)作を2曲選ぶあたり、そうとう影響か意識してそう。
   ちなみにあと1曲はマクリーンの作品。
   そのマッセイの"Nakatini Suite"が、スパンと突き抜ける。クールかつ小粋に流れる素敵な演奏だ。

   04年盤でカルテットのバラード集。
30・Branford Marsalis:Eternal:☆☆
   悪くない。いや、クールでいい。特にドラム。次にピアノ。
   演奏はスリルと無縁だが、ハイハットの鋭い刻みにじわっと合わせるピアノは、サウンドを引き締めた。
   マルサリスは存分に間を取ったメロディアスなフレーズを吹く。
   (2)でのワイルドなテナーは、十分に洗練さを保っている。硬い響きの録音を、もっと生々しくしたら魅力は増す。
   きれいさがジャズの流行りかもしれない。しかし、生き生きした耳触りが欲しい。
   ナット・キング・コールの歌、らしい(1)、ドラムで参加のJeff "Tain" Wattsオリジナル、(2)。
   ヤーヴォル・ラースロー作詞、シェレッシュ・レジェー作曲で1933年の歌"暗い日曜日"が(3)、
   ピアノで参加のJoey Calderazzo作(4)。たぶんDamita Joが1933年に歌ったMichael Carrの曲、(5)。ベース参加のEric Revisが提供した(6)。
   マルサリス自身は(7)を作曲した。日本盤ボートラの(8)は1930年Johnny Green作のスタンダード。
   こうしてみると30年代の古い曲とメンバーの曲をちょうど混ぜた、妙に民主的な選曲だ。

   98年、ロシアでのライブ盤。
29・Billy Joel:KOHUEPT:☆☆
   当時のロシアでライブをやる。その評価で聴くアルバム。正直、ピークを越していた
   ビリーのヒット曲連発なアルバム。メロディのフェイクでごまかしてるが、少々声が
   荒い部分もあり。とはいえ当時の最新作"Bridge"から何曲も選ぶリアルタイム性や、
   "Sometimes a Fantasy"の選曲は、比較的珍しい。逆にホーン隊をキーボードで
   代用の "Big Man on Mulberry Street"はちと悲しかった。
   "Stiletto"がドラム連打の勇ましいアレンジに変更。"Only the Good Die Young"はよりブギっぽく。
   カバーはビートルズの"Back in the U.S.S.R."とディランの"The Times They Are A-Changin'"。
   特に後者でアルバムをしめる選曲に、ビリーの意志を見た。

   作曲が服部隆之で、08年のサントラ。
28・O.S.T.:デトロイト・メタル・シティ:

   EMIが89年リリースのベスト。73-82年迄("YESYESYES"迄)のシングルを中心に並べた17曲入り。
   オフィシャルだがでっち上げのシロモノ。
27・オフコース:オフコース / ニュー・ベスト・ナウ70:

2012/1/21   最近買ったCDをまとめて。

   SIMI LABのリーダー、QNの2nd solo。11年12月に発売の新作。
26・QN From SIMI LAB:Dead Man Walking 1.9.9.0:☆☆
   16曲中、OSMBが4曲するが、残りは自己プロデュース。ゲストをいろいろ招いても
   QNの内省的な一枚の印象あり。ビートがきっちり縦に揺れる不穏な(4)、
   パーティ・ラップ的な(8)くるくるループの(11)や空虚さがクールな(13)、
   Simi-Lab色の強い(14)あたりが印象に残った。
   ネトッと滴る、怠く引きずった空気感がQNの色合いだ。

   SIMI LABメンバーのソロ。プロデュースがQNだ。11年発売。
25・DyyPRIDE From SIMI LAB:In The Dyyp Shadow:☆★
   1曲の掛け合いQNを、1曲のハーモニーでRINAを招いた以外はすべて一人きりのラップ。
   ダブル・トラックで厚みと揺らぎを表現しつつ、節回しは常に同一のノリを魅せる。
   影と煙をまとった寂しげな世界観は、薄めのトラックへ引きずりぎみに載る。 
   ライムは意味を解体し、言葉の流れと響きに軸足を置いた。
   先鋭さより内面を見つめるようなソロ。

   12年発売、日本人Hiphop。QNがゲスト参加した。
24・Roundsville:Running on empty:☆☆☆
   テンポはミドルからスローな印象だ。早いテンポでもあまり低音を利かさない。
   ぐりぐりと揺れるビートにラップ、メロウより滑らかな凄みを感じた。
   ジャズやソウルの強いサンプリングは、穏やかに胸を震わせる。
   ラップはリズムに対しぶつけ、クールに揺らがせた。

   ライブを重ねてきた二人の音源。長尺1本勝負だ。吉田隆一のレーベルから11年の発売。 
23・立花秀輝 / 不破大輔:Hideki Tachibana ○ Daisuke Fuwa:☆☆☆☆
   二人と思えぬニュアンス深いグルーヴィなジャズが味わえる。さすがのベースと幅広いテクニックで
   切なさをも振りまくサックスの対比で。二人の完全ソロのスペースも
   大きくとり、ステージまるごと1setを切り取ったかのよう。
   メドレー形式で次々に演奏される曲を、1トラックでしか聴けない構成がちと辛いが。
   ただし背後に他の楽器があるかの幻を産み出す、二人のスケール大きい演奏が素晴らしい。

   藤掛正隆と早川岳晴、崖っぷちセッションの一枚。ゲストが豪華で
   坪口昌恭、山本精一、梅津和時、片山広明、勝井祐二。10年発表の2枚組。
22・EDGE:From Gakeppuchi Tour Final:☆☆☆★
   この顔ぶれで坪口昌恭だけ、ちょっと新鮮な組み合わせだった。
   藤掛+早川+山本を基本に2人づつ組合せて即興重ねる。
   梅津+片山みたいにある意味手慣れた顔ぶれよりも
   勝井が加わったセットのほうが新鮮味有り。梅津の伸びやかなサックスも良い。
   どしゃめしゃで骨太の即興ながら、どこか柔らかく親しみやすい。
   いたずらにノイズを重ねず、聴きごたえあるアンサンブルだ。

   鬼怒無月率いるサルガヴォが10年発表の3rd。ようやく入手した。
21・Salle Gaveau:La Cumparsita:☆☆☆★
   端正なアンサンブルとスピード。ロマンティックなフレーズは破綻せず、きれいにまとまった。
   凄腕ぞろいの奏者だが、本番でも緻密な演奏をがっちり隙なくまとめてる。
   あまりにも、うまくてすごい。即興よりもソロ回しを前提としたアレンジだが、
   単なるソロの交換では、もちろん無い。ユニゾンと対位、聴くほどに繊細で丁寧な仕上がりに惹かれる。

   11年発売、神戸を拠点のポップバンドによる1stミニ・アルバム。
20・Sentinels:Pop Psychology:☆☆★
   80年代ポップスどっぷりなアレンジがキュート。野太いシンセと明るい旋律、
   軽やかなムード。だがしっかり支えるベースと、グランジ色を漂わすドラミングが90年代通過の味わいを醸しだす。
   ボーカルくっきり、華やかなミックスもきれいだ。
   切ないムードの(5)が耳に残る。

   デモCD、手作りの3曲入りシングル。
19・Sentinels:Sentinels:

2012/1/2   年末年始に購入のCDをまとめて。

    良質な日本人ジャズをリリース続ける、Studio Weeの盤を数枚。
    本作のメンバーは山口コーイチ (piano)、不破大輔 (bass)、つのだ健 (drums)。
18・山口コーイチ・トリオ:愛しあうことだけはやめられない:☆☆☆☆★
   スケール大きく、雄大で静かなジャズ。あったかく懐深い。音数少ないピアノは
   骨っぽくメロディをつむぎ、どこまでも優しい。ベースはさらに厚みを増した
   フレーズで、どっしりとアンサンブルを支える。ドラムのブラシ・ワークが爽やかに空気をこする。
   素晴らしい、アルバムだ。ジャズの鋭さを保ちつつ、寛ぎを丁寧に表現した。

    早川岳晴の剛腕ツインG&Dsのバンド、08年発売。
17・Hayakawa:neji:☆☆☆☆★
   剛腕に留まらず、抜きやスマートさも兼ね備えた芳醇なアンサンブルを楽しめる。
   複数楽器の絡みをベースが力強く貫きつつ、一丸となった芯のたくましさは
   どこまでも頼もしい。華やかさと質実剛健、双方の要素を混ぜ込んだ、幅広い傑作。
   この厚みを堪能したい。さすがの傑作だ。

  南博 (piano)と、意外に異色な組み合わせのリズムレス・トリオ。ベースは吉野弘志 (bass)。
16・松風鉱一Zekatsuma Akustik Trio:Lindenbaum Session:☆☆☆☆★
   三人のロマンチストが溶け合った傑作。軽快で紳士的で、どこか引っかかる。
   ライナーは南だけ、さらにベテラン二人の胸を借りた形式をとった。
   楽曲はすべて松風の作品。おそらく少人数の観客を招いたライブ形式で録音された。
    サブトーンをまとった松風の音色を、色つやきれいなしとやかなピアノがあおる。
   ベースはどこまでもガッシリしなやかに響く。三人の名手が、互いに違う美学をぶつけ合った。
   むやみにテンポを上げない。やたらスローにも収まらない。ミドルテンポ、ジャズの素晴らしさを存分に表現した。

   メロウなグルーヴを中心にした日本人HIPHOP DJの3rdソロ、08年作。
15・DJ Motive:Cure:☆☆★
   シンプルなサンプリングで、寛げるジャズ・ヒップホップ。インストがほとんどだが
   時折入るラップ曲もかっこいい。スローでほんのりひしゃげたジャズやソウルを
   ヒップホップに仕立てた。家でまったり聴くのにいいな。

   坂本龍一プロデュースの2nd,97年の盤。Disc2は長尺の坂本の作品を収録した。
14・中谷美紀:cure:☆★
   デラニー&ボニーの"スーパースター"(1969)カバー有。ちょっと意外な選曲だ。数曲で鈴木茂や林達夫が参加してる。
   若干なりとも歌唱に説得力出たが、やはり坂本のアレンジを楽しむ一枚。がっつり歌謡路線。
   むしろダーク・アンビエントなDisc2が本盤の目玉か。しかしなぜ、坂本名義でなく中谷名義で
   Disc2を発表したんだろう。中谷ファンにはおよそ受けない内容と思うが。

   エレクトロ・ノイズのようだ。ニュージーランドで99年発売、500枚限定。 
13・Doe/Eso Steel/Birchville Cat Motel:Galleries 4-6:☆☆☆☆
   緊迫と刺激が単調さから浮かび上がるコンピレーションだ。
    Doe、Eso Steel、Birchville Cat Motelの3バンドを収録。もっともどれも、個人ユニットらしい。
   三人とも、ニュージーランド出身かな。ドローン系の作品が続く。
   DoeはClinton Watkinsのユニット。密やかなシンセのエレクトロだ。
   テンポは無く、どろどろと低音の上でゆっくりと広がりある音符が乗る。スペイシーでつかみどころ無いアンビエント。
   じわっと緊迫感が高まる演出もあり。10分くらいの2曲を収めた。
   Eso SteelはRichard Francisによる。フィールド・レコーディングがコンセプトらしい。
   しゃくしゃくとさざめくノイズを、低音が包み込む。静かで
   不穏で、ひそやかな世界。一定に見せて、変化し続ける。
   本盤は彼のレーベル、20 Cityから発売された。
   Birchville Cat MotelはCampbell Knealeが立ち上げた。Celebrate Psi Phenomenonレーベルも主催。
   作品はフィードバック交じりのロングトーン、涼やかに風が吹く。
   どの楽曲もシンプルなアイディアだが常に変化を続ける楽しさあり。

   マルタン・テトロ(tt)目当て。抽象的な電子即興らしい。98年の盤。
12・Diane Labrosse/イクエ・モリ/Martin Tetreault:Ile Bizarre:☆☆☆
   抽象的な電子ノイズと打擲音の交錯。音数はかなり場面ごとで異なる。
   うっすらしたストーリー性を垣間見ることも可能だが、基本は即興だろう。
   三者の音は区別が難しい。音数少ない場面でも、不思議と緊張感が漂う。
   ビート感や小節感は希薄で、ダーク・アンビエントをイメージすると、最も手っ取り早いか。
   ある個所で現れる、木魚っぽい響きが妙にオリエンタルで面白かった。

   中村としまる、独ジェイソン・カーン(ds)とのデュオ、2nd。99年発売。
11・Repeat:Temporary Contemporary:

   96年、ロシアでセルゲイ・クリョーヒンの追悼ライブより。
   大友がリミックスした音源を中心にまとめたアルバム。
10・Kenny Millions / 大友良英:Without Kuryokhin:☆☆☆
   ポップ・メハニハ主宰の露セルゲイ・クリョーヒンを追悼する、デュオ・ライブを編集した。
   もともと晩年、クリョーヒンは大友と相方のケニー・ミリオンズ(sax,cl,g,etc.)とトリオで
   ツアーの予定があったそう(クリョーヒンの逝去で流れた)。ロシアで96年11月に大友がケニーとデュオで偲んだライブが本盤の音源。
   簡単な英語ライナーによると、聴衆はほとんどこの手の音楽の心準備が無かったらしい。2か所で計600人動員とある。
   大友による編集の着眼点を解釈できていないが、コラージュな音像が詰まった印象あり。
   通り一遍のノイズとは全く違う。曲によって、実に多彩なアプローチが聴ける。
   ホーンが同時に数本聴こえる箇所もあり、もしかしたらダビング的に編集かも。
   音楽の響きより、混雑な空間と電気ノイズの振れっぷりを楽しむ盤。
   ダイナミックス・レンジが異様に広く、ボリュームあげて聴くほど、この音楽は魅力を増すと思う。

   96年録音、ピアノ・ソロ。短めの曲が21曲入ってる。オーストリアでの録音。
9・Oskar Aichinger:Poemia:☆★
   無造作なピアノ即興。中心をつかみきれず、サウンドにのめり込めなかった。
   ライブ聴けば印象変わるかも。フレーズともリズムとも無関係に鳴る音は
   抽象的ながら不思議と聴きやすい。

   99年、内橋和久が参加のトリオ編成。長尺1本のアルバム。
8・The Comforts of Madness:Autism:☆★
   じわじわと静かなノイズから盛り上がっていく。つかみどころ無く、繰り返し聞いて
   味わう個所を探した。フレーズは短く、ソロ回しとは対極。集団即興の典型だ。

   内橋和久が参加、4人組セッション。99年の作品。上の盤と共通メンバーは
   Helge Hinteregger(sampler, saxes)。さらにMartin Siewert(g)とStefan Aschbock(sampler)が加わった。短めの曲も含み、7曲を収録。
7・The Comforts of Madness:Roehren:☆☆☆
   ライブ演奏の割にバラエティに富んだ構成だ。ドローンやパターン一辺倒でなく
   コラージュ的に音像が変わっていく。全員が並列即興を根底に、
   じわじわとアンサンブルの立ち位置を探る。バランス良いレイヤー感が心地よかった。

   99年発表、リーダーはLoren MazzaCane Connors(g)かな。4人のセッションで、
   静謐なインプロを期待し購入。
6・Haunted House:Up in Flames:☆☆★
   ひそやかな即興メロディが漂う、ドローン的な作品。二本のギターは無暗に争わず
   しっとりと音を重ねていく。カルテット編成とはいえ、目立つのはギターのフレーズ。
   長尺の作品3曲で、じっくりと味わえた。盛り上がりや構成は目立たず、
   ただただ、音楽がロマンティックに展開する。ディストーション効かせたギターが吼え、
   パーカッションが鳴る場面すら、どこか静謐だ。
   3曲目のボーカルと混ざる曲調は、ダイナミック怒涛っぷり。

   99年の収録。asとピアノのインプロ・デュオと、それぞれのソロを収録した。
5・Earl Howard / Denman Maroney:Fire Song:☆☆
   これもCDで良さが伝わりにくい。展開はほぼフリー、興に任せる。
   電子音よりサックスとピアノのデュオのほうが、印象に残りやすい。
   たぶん、生なら空気感や奏者の姿から生き生きしたスリルや
   ふくよかな空気を感じたと思う。しかしCDでは意識的に集中しないと
   散漫さや抽象性が先に立ってしまう。

   99年に発表。アナログシンセとパーカッションのデュオ、2枚組。
4・Thomas Lehn / Gerry Hemingway:Tom and Gerry:☆☆☆
   おそらく"Fireworks"(1999)に続く2作目。97年の独ツアー、3か所の音源を2枚のCDに収めた。
   密やかに絞り出すシンセへ小刻みなパーカッションが絡む。いわゆる音響系的なアプローチ。
   リズムやパターン、ビートやメロディと無縁の即興。無機質な音の連なりが
   じわじわとうねりを作る。時折鋭く跳ねるダイナミクスで、スリルを演出した。
   パフォーマンスや場のムード込みで楽しむべき音楽で、CDでは聴きとおすのに少々集中力がいる。

   99年発売、大友良英が同年にシカゴのミュージシャンとセッションを収録。
3・J. Baker/A. Bergman/T. Carter/B. Gutzeit/M.Hartman/E. Long/大友良英/R. Wilkus:Television Power Electric:☆☆★
   楽曲はオリジナルで前半はガチンコのハード・バップ。スピーディだが奏者らの色合いが見えづらい。聴きやすいのは確か。
   板橋文夫の(5)から次第に抒情性を増し、フリーっぽい味わいも。
   圧巻がセンチメンタルな村上の(7)。スケール大きく、しっとりとしたジャズを提示した。
   前半はなぜこの顔ぶれで?と首をひねるストレートぶりだが、後半の充実した骨太さに深く頷く一枚。

   96年の盤、シカゴ在住のマイケル・ハートマン(ds)が日本人と作ったバンド。
   吉上恭太、大谷安宏、坂元一孝(ex-MUMU)、角田亜人がメンバー、大友良英も自作ギターで半分くらいの曲にゲスト参加した。
2・Cult Junk Cafe:Cult Junk Cafe:☆☆★
   96年2月25日のスタジオ音源を、トッド・カーターとマイケル・ハートマンがミックスやダビング。
   ギターの吉上恭太は多数の絵本を訳されてる人と、同一?
   コラージュやカットアップ風の音像、疾走するドラムもランダムかつ空白を重視した。
   時代のノイズを切り取った一作。ランダム性あってもメカニカルな場面が多く、どこまでも緻密な佇まい。
   ミックスが時代のせいか録音レベル低いため、がつんとボリュームあげて聴きたい。

   99年発。北米のPer奏者のデュオやトリオ演奏集で、大友良英も参加。
1・Gino Robair:Buddy Systems:☆☆
   騒々しさは無い。むしろ静かな印象。時に激しく音が混ざるだけ。
   ビートやノリとは無縁。淡々と音の風を合わせるかのよう。単調で、よく聴くと複雑。
   GinoのPerは振動の一環で、音像を支配しない。丁丁発止でなく平行即興が基本か。

2011年12月

2011/12/25   最近買ったCDをまとめて。

   オランダのレーベルが92年に出したコンピで、メルツバウのライブ音源を収録してる。
378・V.A.:CD for the unstable madia:

   日本のシンセ・ノイズ・ユニットが96年に英のレーベルから発表。
377・C.C.C.C.:Flash:☆★
   長尺ハーシュが2本。唸りを上げる豪快さで貫き、多層さより微妙なノイズの変化を楽しむ盤。

   インドのポップスを集めたコンピ、第二弾。インド映画サントラが多いらしい。07年発表。   
376・V.A.:Sitar Beat! Indian Style Heavy Funk Vol. 2:☆☆★
   発表年のクレジット無いが、歌い手にラタ・マンゲシュカールの名前もあり、70年代~90年代の音源を
   ランダムに並べた、編集的にはおおざっぱなコンピって気がする。
   シタールもそれほど目立たない。あくまでポピュラー音楽集で、幾分シタールが
   強調された楽曲、程度。サイケでセンチメンタルなインド・ポップスを味わえる。
   じっくり聴いてると、味あるんだよな。詳しい解説が欲しくなる。
   ときどき、とんでもなくスペイシーでへんてこな構成の曲あり。

   01年発売、アラブのポップス集コンピかな。
375・V.A.:Arabic Groove:☆☆
   北アフリカと中東の各国から1曲づつ選んだ11曲入りコンピ。各ミュージシャンの
   詳細や時代背景不明だが、いかにもごった煮風な仕上がりだ。
   イスラム風のエスニカルな楽曲と、アフリカンの揺らぐグルーヴを持つ曲が混在する。
   どちらかといえば、打ち込みっぽいチープな仕上がりが多い。
   複数の嗜好が混ざったコンピのため聞き流すには癖あるが、新たな興味をくすぐるのにちょうどいいかも。

2011/12/23    最近買ったCDをまとめて。

   日本で編まれたニュー・ブロックレイダーズのコンピに、メルツバウが参加。500枚限定。
   06年に各500枚限定で発表の、LP4枚組な2種類のボックスが元となっている。
   メルツバウ視点では、本LPのCD再発。本盤視点では、LP非参加の日本ノイジシャンを参加させ、
   新たにCD2枚組で拡大的な再発コンピだ。コンセプトはNBの音源をコラージュ。
374・V.A.:Viva Negativa! A Tribute To The New Blockaders VolumeIV: Japan: ☆☆☆★
   ニュー・ブロッケンダーズを未聴のため、アルバム・コンセプトの根本を理解できていないが・・・。
   そうそうたる日本の各世代ノイジシャンが結集した傑作アルバムなのは確かだ。
   ハーシュとコラージュを基調に、世界観を作りドローンやミニマルな印象を受けた。
   力任せにノイズを展開ではなく、ある風景を切り取った作品群、と言った感じ。
   エレクトロ・ノイズが乱雑に散乱し、どことなく協調と統制が取れている。
   とはいえノイジシャンごとの個性は、各曲から滲みだしている。
   一曲づつ細かく聴くほどに、味わい深いアルバムだ。

   是巨人に壺井彰久が加わったアルバム、新譜。
373・是巨人 with 壺井彰久:Doldrums: ☆☆☆
   ライブ音源だが後半2曲のみ、当日に不参加の壷井が後からバイオリンをダビングした構成。
   高音強調のすっきりしたミックスなため、ガツンとボリュームあげて聴きたい。
   分離鋭く細部まで聴けるのが嬉しい。しかしまったく隙のないアンサンブルだ。

   怒涛の是巨人アンサンブルへ、隙間なく壷井のバイオリンが貼りつく。

   ついに出た。フィレスのシングルB面テイクまでも復刻した、7枚組ボックス。基本はLPの再発。
372・V.A.:Phil Spector Presents The Philles album collection:☆☆☆★
   楽曲は素晴らしい。50年代のガール・ポップを厚みあるアンサンブルで野太く
   コーティングし、独特の世界観を構築。さらにレーベル単位のビジネスを作ったスペクターの
   手腕は、無条件の賞賛に値する。しかしカタログ的には重複や手抜きも
   見られただけに・・・このボックスの編集は、詳しく聴くとがっくり。
   オリジナル・アルバムを収録といえば聞こえは良いが、並べただけじゃん、とうんざり。
   "I wonder"のシングル・テイクは。さすがに音質は太くリマスターだが、
   本盤の一番の魅力は、いい加減なセッションを入れたと伝説化なシングルB面を聴ける点。
   今後のマニア向けリイシューに期待したい。
   ただ、繰り返すが・・・個々の曲は、本当に素晴らしい。


2011年11月

2011/11/27   最近買ったCDをまとめて。

   相変わらず着実に出る、サーカス・デヴィルズの新譜。
371・Circus Devils:Capsized!:☆☆☆★
   とっ散らかったサイケな感触のアルバムだが、個々の曲はアレンジが練られてる。
   ギターだけでなくキーボードを効果的に使った。甘さも突き抜けも、双方のロバート流メロディが味わえる。
   トビアスのプロデュース力と、ロバートの作曲力がうまくかみ合った傑作。
   スピード感よりバラエティを楽しむ一枚。

   吉田達也らによるセッション、磨崖仏より、2011年のリリース。巻上公一がベース演奏ってのが意外にレア。
370・Sorites Paradox:砂山のパラドックス:☆☆☆★
   コミカルさと混沌とシンプルと、やっぱり混沌が混ざり合った即興が詰まった。
   緊迫よりも軽やかなスピードが中心。チャイルディッシュな巻上とオペラティックな吉田の
   ヴォーカリーズ交錯も聴きもの。全員のテクニシャンぶりが凄い。

   ついにルインズ・アローンのCD一枚もの。2011年発表。
369・Ruins:Ruins Alone:☆☆☆★
   リアルタイム・アンサンブルではないため、瞬発力の即興を求めるべきではない。シンプルに
   ドラムの奔流をチープな電子音で飾ったと切り替えたとたん、本番の魅力がガラリ変わった。
   猛烈な疾走を前提に、既発表曲のポップな転換は楽しい。新曲群のスリルは変わらず。
   トラック垂れ流しでなく、曲によってはメリハリ激しいアレンジも投入した。
   隠しトラック2曲のプログレ/ハードロック・メドレーが、本盤のコンセプトを象徴かもしれない。
   バトルを常に意識させるルインズとは異なり、シンプルな編成でドラムを気持ちよく叩きのめす
   吉田達也の、ポップセンスが解放された一作。

   東北出身のミュージシャンを集めた、磨崖仏のセッション盤。2011年作。
368・Ishiwarizakura:石割桜:☆☆☆
   二種類のライブ音源を混ぜた。11/3/2が吉田達也、ナスノミツル、村上巨樹。10/4/7には喜多直毅も加わる。
   場所は双方、秋葉原グッドマン。エンジニアはハコの人か。クレジット無いが
   ミックスはたぶん吉田だろう。すべてが即興、瞬間の精妙さを味わう盤。
   喜多が加わると明確なメロディでメリハリがつき、トリオ編成では
   重厚なサイケに疾走する傾向を感じた。テクニカルな即興が、ごく滑らかに疾走する。
   喜多の衒いない日本的メロディが、剛腕インプロに馴染むところがユニークだ。

   買いそびれてた。翠川敬基率いるバンドの2nd。09年リリースかな。
   Studio Weeで購入、CD-Rつき。
367・緑化計画:Bisque:☆☆☆☆☆
   フリーを追求し、クラシックにこだわった翠川敬基の極北がここに。
   メンバーが片山広明から喜多直毅に変わり、バイオリンのぶんアンサンブルの音程重心が上がった。
   サウンドは豪放さやユーモアがいくぶん減り、ロマンティックさと繊細さが増した。
   喜多はベテランに囲まれても物おじせず、堂々とフリーやメロディを貫く。
   アケタの店月例ライブを重ねた、最終時期のライブ音源。
   静謐で、自由で、ロマンティックで、透徹な翠川の美学が玉成した傑作だ。

  吉田達也が参加のバンドにゲストを迎えたライブ音源。09年の録音。
366・Acid Mothers Temple SWR With 梅津和時+山本精一:Stones, Women And Records At 磔磔 2009: ☆☆☆★
   粘っこいムードが特徴だ。疾走は梅津がリードしがち。
   象徴が梅津の無伴奏ソロの場面。ある意味、柔軟に音像に沿い相反する場面に
   行かぬ他のメンバーに対し。梅津は無音でも構わず吹き続ける。
   それがジャズとプログレ・インプロの圧倒的な差、と感じた。
   10分前後の即興が7曲。ユーモラスなタイトルついてるが、さほど意味はなさそう。
   フレージングで場面を明確に変える梅津は、時に異物さを醸し出す。
   それがスマートにサウンドへ馴染む山本と対照的だった。
   (3)みたいにとぼけたムードは、特に梅津の幅広さあってこそ、ではないか。

2011/11/15   最近買ったCDをまとめて

   再発音源だが、新譜扱いでもいいか。ヴァン・ダイク・パークスの作品集コンピ。
365・Van dyke Parks:Arrangements Volume 1:☆☆☆☆
   才能ほとばしるヴァン・ダイクの初期アレンジは、独特のスノビズムと諦観を感じる。
   とても古臭いスタイルを、ギュッと詰めたアレンジで新鮮味出した。といっても当時の評価は知らないが。
   当時にしても二昔前の白人音楽、カントリーやミュージカルっぽい要素を踏み台にし
   メロディもクルーナー寄り。あまり喉を張らない。小粋を狙いつつ、どこかドリーミー。
   この辺が気取りと奥行きの深さを表現したと思う。お坊ちゃんっぽい育ちの良さと
   いきがらない程度の前衛性をバランス良くまとめた。
   すなわち、古い樽を磨き上げたような安定感と、きらびやかゆえの新しさを兼ね備えた。
   ある意味、時代を超越したサウンドだ。

   ブライアンの新譜は、ディズニーのカバー集
364・Brian Wilson:In The Key Of Disney:☆☆☆☆
   いろんな意味で切ないアルバムだ。ブライアンのクレジットは、プロデュースとボーカル・アレンジ。
   しかし今のブライアンは、どこまでイニシアティブをとってるのだろう。
   がっちり有能なスタッフに囲まれ、単なるアイコン化な気がしてならない。
   特に本盤はカバー集であり、ブライアンの必然性は薄い。アレンジは練られ、ハッピーかつ甘酸っぱい世界が広がった。
   楽曲はバラエティに富み、ロックンロールな演奏が楽しい。スペクター・サウンドを下敷きか。
   聴いてて、ついナイアガラ・サウンドを思い出したが。ゴージャスながら手作り感覚溢れるサウンドだ。
   楽しく聴けるが、ブライアンの個性が見えづらい。だからこそ、相当に復活したとはいえ、
   不安定な彼の歌声が気になってしまう。いや、ブライアンの現役継続の観点では、とてもうれしい盤だ。それだけは、強調する。

   これも今の最新作かな?3枚組でピアノ・ソロ集。リラクゼーション向け。
363・Rick Wakeman:Past, Present And Future:☆☆★
   あまりに膨大な曲数で、個々の楽曲イメージへ中々到達できず。
   基本はニューエイジなピアノ曲集。フレーズによって、初期のプログレを思わす
   場面がひょろっと出て、耳をそばだてた。
   繰り返し聞きたくなるほどアクが強くは無い。しかし、しぶとく味わったら奥が深そうな予感はする。

   他界だが、彼の存在を初めて知った。ジャパニーズ・ヒップホップで、1st。03年作。
362・Nujabes:metaphorical music:☆☆☆☆★
   硬質なビートとサンプリングは、ひそやかな洗練さを見事に演出した。
   どこにも隙が無く、アグレッシブな勢いは欠けていない。
   すべて英語のスピーディなラップは、トラックを鮮やかに彩った。
   シンプルなビートを土台に、軽やかに載るループのセンスが素晴らしい。
   抜群の疾走感を味わえる、ヒップホップだ。さまざまなジャンルの要素をごたまぜに
   しつつ、野暮ったさは皆無。どこまでもスタイリッシュだ。

   プログレ・メタルでいいのかね?90年のアルバム。
361・The Watchtower:Control And Resistance:☆☆★
   ドラムをぺしゃっと、ひしゃげた音で録音。ギターの高音部を強調しキラキラした
   スピーディなリフを連発する。ギター・ソロやアンサンブルの妙味より
   バンド一丸の疾走が主眼か。歌メロはジャンルゆえの手癖だが、フレーズとギター/ベースの絡みは刺激的。

   坂本龍一がプロデュース。99年の発表。
360・中谷美紀:私生活:☆★
   とっ散らかった印象だが、音像の統一感は図られた。ちょっと前衛で透明なポップス。
   坂本は全体プロデュースに一歩下がったか。多数の作曲家を招いた。
   ミュージシャン・クレジットの詳細が不明だが、ほとんどが坂本の打ち込み?
   歌の下手さでげんなりするが、サウンドの透き通った味わいは良い。
   ファン向けながら、聞き逃すには惜しい盤。

2011/11/5    最近買ったCDをまとめて。

   06年発売。VoのSuzanne Langilleとコラボ盤。バンドはアトランタ出身のインプロトリオで、
   g二人にds一人の変則構成だ。97年から活動らしい。
359・San Agustin:Passing Song:☆☆
   6曲入り30分弱のミニアルバムで、NY Tonicで00年11月9日のライブ。歌ものハードサイケな趣だ。
   とはいえ演奏は混沌と即興の香りがいっぱい。たなびくドラミングに
   エレキギターがかぶさる。サウンドはほんのり優しさも漂わす。
   どちらかといえば、くつろいだ感触。

   英の音楽雑誌によるリリース。85年にLPで出た。本盤はCDの再発かな。
   フレッド・フリスやトム・コラの名前に惹かれ購入した。
358・V.A.:ReR Quarterly, Vol.1☆★
   コラージュ的な作品が多く、即興よりも電子音楽なイメージが強い。
   楽曲は生演奏ばかりだが。結構抽象的な上にスピード感に欠ける編集も多く、
   かなり聴きとおすには集中力が必要。

   フィンランドのJani Hirvonenによるソロ・プロジェクト。3枚組で
   過去のリイシューに未発表曲を足したらしい。ドローン・アンビエント。
357・Uton:Whispers From The Woods:☆☆☆★
   一聴、淡々としたドローンと思ったが。細かく聴くと、曲ごとにアイディアを変え、濃密な
   空気を少ない音で表現してる。ゆったりながら隙間を作らず、ゆるゆると流れる。
   錆びついた音色と揺らぎが産む、不透明なムードが味か。3枚まとめた大ボリューム。

   ギリシャの電子音楽コンピ。英文ライナーつきがありがたい。98~99年くらいの
   アテネ出身作曲家集のようだ。
356・Computer Music Lab - Institute of Psychoacoustics Aristotle University of Thessaloniki:93:99:☆★
   音響心理学の大学による学術的アプローチのようだ。芸術ではない。
   楽曲としての面白さより、発想や理論をもとに聴く音楽か。
   とはいえ、何も予備知識なくともアンビエントとして味わうことも、ぎりぎり可能。

   本作はエレキ・ギターを使ったソロ。03年に録音された。
355・中村としまる:Side Guitar:☆★
   静かなフィードバックの連続。波打つ静かなノイズは一本だけでなく、
   時に複雑で多層な表情を魅せる。その瞬間が、たまらなくきれいだ。
   構成も演出も、たぶんない。すべてが即興。音の響きのみを楽しめるなら、この盤は楽しい。
   あえてジャンル分けするならば、アンビエント・ドローン・ノイズか。

   keyとsax奏者の荒木真の08年1stソロ。
354・Araki Shin:A Song Book:☆☆☆☆
   ピアノかキーボード、穏やかな旋律やと和音。ときに女性ボーカル、
   たまに早めのフレーズなサックスが加わる。シンプルなサウンドのミニアルバム。
   しかしアンビエントな雰囲気に惹かれ、繰り返し聞いてしまった。
   緊張を漂わせた安楽、不安定な寛ぎ。二つの要素が混在する。

   英Finn McNicholasのソロ・プロジェクト、1st。06年の発表。
353・Ultre:Ultre (All The Darkness Has Gone To Details):☆☆☆☆
   ノイズと和音とフレーズとミニマルと。多様な要素をきらびやかとダークネスを
   共存させるセンスでまとめた、稀有なセンスを堪能できる作品。
   淡々と続く電子音は、気が付くと全く違う風景を描き、あくなき変化の世界へいざなう。

   名は知ってたが今まで聴きそびれてた、アメリカのミュージシャン。
   コロンビアから69年と70年に発表したアルバムを2in1の再発。
352・Moondog:Moondog/Moondog 2:☆☆☆★
   幻想的で懐かしい音像だ。ふわふわと切れ目なく漂う楽曲は、"1"でのストリングス・アレンジが
   とても美しい。パーカッションと暖かなハーモニーでシンプルに構築した"2"は、
   よりバスキング風の親しみを増した。ふうわりキュートなメロディは
   聴いたことあるようで、どこにも所属しないシンプルさだ。強烈な個性を
   丁寧なアレンジでふくらませた傑作。本盤でまとめて聴くと、相反するアプローチの両方を楽しめて嬉しい。
   ランダムサーチでかけたら、なおさら個性が強調される。

   09年、5年ぶりに発表のソロ。
351・坂本龍一:Out Of Noise:☆☆☆☆
   密やかでミニマルで、ポップなアルバム。けれんみや一般受けの下世話さや
   明確なダンス・ビートは姿を消し、静謐な音像に仕上げた。だが、頭でっかちや
   むやみなゲージュツ臭さは薄い。このにじみ出るポップさが、一線で活動続ける
   坂本のバランス間隔であり、矜持だろう。
   ミニマルだが聴きやすく、穏やかだがエッジ立っている。仕上げる視点と技術に才能を感じる。

   日本の大編ユニットのライブ盤らしい。02年、新宿リキッドルームにて。ジャムバンド系か?
350・Organlanguage:OrganLanguage Plays Outer Tone-Live:
   打ち込みビートっぽいタイトなリズム感にホーンやキーボードが絡む。
   ともすればフュージョンめいた仕上がりだが、ミニマルさとしぶといグルーヴで
   ぎりぎりBGMから逃れている。とはいえ毒は薄い。即興やアンサンブルを聴くよりダンスに似合った音楽かも。

2011/11/3   最近買ったCDを集めて。

   スエーデン出身の黒人男性ソロ。06年のリリース。
349・Paul M:Up 'N High:☆☆☆
   静かなヨーロッパ・ソウル。歌詞は英語だ。滑らかなメロディは気持ちいいが
   ガツンとくる毒が欠けて物足りない気も。ユニークなのはリズムの音色。
   打ち込み中心のビートは、時にテクノっぽく鳴る。プロデューサーのセンスかな?
   薄めのトラックだが、賑やかな刻む音色が味をたっぷり出した。
   ボーカルはウィスパー系でスリルは希薄が正直なとこ。(9)が軽やかでいい曲だった。

   09年発売のインディ・ソウル。
348・Rated R:Love And Life:☆☆★
   正式名称は"Reckless Attitudes Towards Entertainment Dominance"。エンタメ界の支配を目指した無謀な態度、とでも訳すのか。
   冒頭は打ち込みヒップホップのノリだが、根本的に歌もの。ミドル~スローの色気が格別だ。
   トラックは音数少なくパーカッシブな打ち込み中心で、ちょっと軽くて物足りない。
   そのぶん、歌に意識を集中させる作戦かもしれないが。
   アップは妙にとっ散らかったテイストあり、アルバムの統一感は正直ない。

   エジプトやスーダン近くのヌビア出身、歌手のベストかな。
347・Al Hassan Kuban:Walk like a Nubian:☆☆☆
   結婚式で演奏する音楽が主体という。伝統芸でありつつ、鑑賞がメインではない。
   したたかに踊らせるグルーヴを楽しむ一枚。このアルバムはさまざまなリズムを取り入れた、活動の集大成かもしれないが。
   ハンド・パーカッションの連打でしなやかに刻み、アリのボーカルが渋く揺れる。
   繰り返しを多用した、アラブとアフリカの混淆なイメージあり。

   02年発表、そうそうたるジョン・ゾーン関連ミュージシャンが参加のセッションか。
346・John Zorn:I.A.O.:☆☆☆★
   瞬間を切り取るゾーンが、あえてそれぞれのシーンを維持した異色作だ。
   ユダヤ神秘主義思想のカバラがテーマ。作曲手法そのものへテーマを織り込んだかは不明。
   ミニマルやドローンが主眼の音像で、ソロ回しは希薄。メロディも印象低い。
   7曲に分かれ、それぞれ違う雰囲気を醸す。不穏さが全編を覆い、ゾーンらしいコラージュや
   スピードとは逆ベクトル。むしろラウンジっぽいかな。スラッシュ・メタルな
   曲でも、無常感が漂う。カットアップ前の素材集を聴いてるようで、面白い。

   2010年発表、ジョン・ゾーン作曲の室内楽かな。TZADIKより。
345・John Zorn:Chimeras:☆★
   クラシック室内楽編成で、指揮もゾーンではない。拡散分裂する独特の音楽世界がスピーディに展開した。
   小品が次々と流れる。ポストリュード含めて二部構成、全14曲。
   個々のメロディやアンサンブルよりコラージュ的な細密発散のサウンドを楽しむべきか。
   01年の作品を09年に改編。元は03年のNY音源。ポストリュードのみ09年7月にボストンで追加録音、完成とした。
   ブックレットにはゾーン自身による丁寧な解説付き。インタリュードを除く12の楽曲は、
   それぞれ1音づつ外し作曲という。シェーンベルクの12音楽曲も意識したようだ。
   とはいえ各楽曲はパーカッシブかつクラスターな要素もあり、良くわからない。
   ヘンリー・ダーガーやルイス・キャロルのダーク・ロマンスな世界観と、前衛かつ緻密な
   作曲術を駆使し作られた、構築度高い楽曲。しかし、聴き心地はかなりシビア。
   冷徹な風が吹き荒れ、そうとう集中力がいる。へヴィなロマンティシズム。

2011/11/1   最近買ったCDをまとめて。

   メルツバウの最近の新譜を色々。
   11年4月録音、500枚限定。うち50枚はサインとポストカードつき。ぼくは通常盤を入手。
344・Merzbow:Yaho-Niwa:☆☆☆★
   楽曲ごとにアイディアをガラリ変えた4曲入りアルバム。マックでのループを
   使用してる風にも聞こえるが、耳触りはアナログ的な炸裂に満ちている。
   張りつめた電子音の剛腕な咆哮だ。ただし叩き潰す圧迫感より、どこかキュートで余裕あるムードも。

   11年1月録音、300枚限定。
343・Merzbow:Surabi:☆☆☆★
   タイトルはサンスクリット語で"何でも願い事を叶えてくれる聖牛の名前"らしい。
    Merzcow trilogyの第2作目。ドラム無し、スペイシーなシンセが飛び交う。
   ハーシュノイズは要素の一部。多層的なアンサンブルは奥行深い。
   (1)や(3)が強引フェイドアウト、(2)がカットアウト気味と、どれもエンディングが性急だ。
   どれも爽快痛快な突き抜けノイズな盤。

   11年3月12日録音、500枚限定。反原発をテーマのジャケット。
342・Merzbow:Dead Zone:☆☆☆☆
   電子とアナログ、ミニマルとフリー、複数のノイズ要素が絡まった傑作。
   重層性もつメルツバウの音楽性が、存分に発揮された。

   2010年発表、09年10月11日ノルウェーでのライブ録音、500枚限定。
341・Merzbow:Live At Henie Onstad Art Centre:☆☆★
   ミックスとマスタリングはJazzkammerのLasse Marhaug。メルツバウ自身は本音源の
   制作に関与してない。音像はループがじわじわと電子加工されてゆく
   ラップトップ・スタイル。骨太なハーシュ・ノイズは自作ノイズマシンだろうか。
   パーカッシブな音と強力なループが交錯する。エンディングは急速なフェイドアウト。
   新味よりなじみ深いメルツバウの世界だ。

   Z'evとのコラボ作、2010年の発表。
340・Merzbow & Z'ev:Spiral Right / Spiral Left:☆☆★
   メタリック・パーカッションとメルツバウのノイズにあまり連続性は無く
   淡々と進む印象あり。互いの音源をミックスしあったのみ、のコラボだ。
   もっともマルチ・ビートの楽しさはある。インダストリアルな単調さより混沌を狙った。
   (1)は10分過ぎの鉄輪転がる勢いに、ハーシュがまとわりつくスリルが最高。
   終盤はエコーがドップリかかり、凶悪な教会風のムードに。相当喧しいが。
   (2)はシュワシュワと抽象的な世界に。こちらがメルツバウのミックスだろうか。
   うねり、巻きつく。輪郭あいまいな音が渦巻いた。パーカッションは
   残像が強調され、本体は幻想の中に。最後にメロディ出てくるところが、ちょっとユニーク。
   カットアウトの終わり方も、近作のメルツバウっぽい。

   カメルーンの歌手、フランシス・ベベイの4枚組廉価版ボックス。
   60年代後半から晩年99年まで幅広い音源を詰め込んだ。主流は70年代の脂乗ったころ。
339・Francis Bebey:La Belle Epoque:☆☆☆☆
   トータル・プロデュース力を見せつける、マルチさを堪能できるボックスだ。歌やビートではなく、
   アレンジの妙味と発想の豊かさに圧倒された。アフリカンにラテン的な軽やかさを
   織り込み、寛ぎつつもどこか捻ったユーモアを漂わす。
   宅録っぽいチープさを基調に、しなやかなノリが素晴らしい。聴くほどに味わい深い一作。
   曲によってさりげなく背後で小さく鳴らす低音とかフレーズとか、ミックスのセンスも鋭い。

   05年より本名義で活動する女性DJのmixCD、エスニック系らしい。2011年発売。
338・Bimidori:Um Norte Arboriza:☆☆☆
   自然にすいすい繋ぐミックス。特に派手なDJテクニックをひけらかさない。
   素朴で無国籍なごちゃまぜサウンドが心地よく響く。ラウンジの気楽な重力性は
   回避し、ゆったり穏やかで存在感しっかりの選曲が凄い。
   クレジットにも、ネットにも選曲名を上げていない。あえて匿名性を持たせたか。
   この気持ちいい音楽は何か、自分で探せということか。
   しかし素敵な選曲だ。普段、どんな音楽をこの人は聴いてるんだろう。


2011年10月

2011/10/23   最近買ったCDをまとめて。
 
   ビーフハートのマネージャーを務めた経験ありという。
   テレビ音楽など幅広い活動をするギタリストが、98年にTZADIKへ残した一枚。数曲でジョン・ゾーン参加。
337・Gary Lucas:Busy Being Born:☆★
   全体的にユダヤ・ルーツを狙った盤で、トリオ編成にゲストをかぶせた。
   楽曲によりボーカルも入り、短めの曲を並べたトータル・アルバム。
   音数多いギター独奏曲もダビングありかな?ギター奏法の限界がよくわからない。
   インストでのタッチはどこか無骨な強いピッキングで、響きがかっこいい。
   全体的に切ない陰りあるウェスタンっぽい。

   90年発売、コンボ編成の一作。
336・James Blood Ulmer:Black And Blues:☆★
   歌ものブルーズがテーマなアルバム。鋭いギターでごつっとした輪郭だが
   テクニックよりも無造作なウルマー自身の歌につい耳が行ってしまう。
   注意深く聴かないと、流してしまう。

   片山広明と林栄一のユニット、95年録音の2nd。聴きそびれてた。
335・De-Ga-Show:続:☆☆☆★
   ディレクターは片山広明だが、取り上げた曲はメンバーからまんべんなくで民主的なつくり。
   切ないホーン隊の響きにまず、心かきむしられる。どすんと骨太さをきれいな録音で仕上げた。
   ひょうひょうとしたドラミングで、それぞれがソロを遊ばせる。
   即興よりもソロ回しのアンサンブルが軸足か。すっきりまとまった出来だ。

   E#95年の作品で、一人多重録音のようだ。
334・Elliott Sharp:Errata:☆☆☆
   リズム・ループをバックに、おそらく即興的なギター演奏を繰り広げた一枚。
   エレクトリックが主軸だがメタリックなパーカッション、時にサックスが響く。
   ムードはいかにも鋭く、ストイックだ。ビートは単一にとどまらず
   パターンがしばしば変わる。スピーディに曲は終わり、どれも3~7分くらい。むやみに長尺はない。
   (3)に代表される、ざっくり噛み裂くようなスリルが本作の聴きどころ。
   その割にエンディングのリズム・パターンのみが延々続くあたり、いかにも即興っぽいが。

   多数の日本人と96年に行ったライブと、NYで弦楽四重奏と録音を収めた一作。キーワードは弦、かな。
333・Elliott Sharp:Spring & Neap - Re:Iterations: ☆☆☆★
   総じて、鳴りを存分に味わう快作。しかし、コンセプトの知識が不十分ゆえのもどかしさが残る。
   (1)は日本の弦楽器を多用したアンサンブルで、吹き荒れる爽快な風を味わえる。
   爽快さとスピード感の斬新さは、ひたすら心地良い。が、物足りなさも残る。
   CDが記録的な意味合いから抜け切れていない。つまりコンセプトやE#のコンダクト内容が
   クレジットから読み取れず、単に聞き流してしまう。
   作曲やコンダクトの狙いを記すことで、この楽曲の価値はグンと上がったはず。
   (2)も同様に弦のかきむしりが主眼の作品。こちらはバイオリン等を使い
   ぐっとクラシカルな響きだ。しかし弦カルの割に分厚い。アレンジの内容を知りたい。

   キップをちゃんと聞くのは初めて。多彩な人を招いた88年の作品。
332・Kip Hanrahan:Days and Nights of Blue Luck Inverted:☆☆☆★
   音楽よりも音像をコーディネイトする。楽曲は素材であり、重要さはイメージ。
   時に楽曲が切れたり、唐突なアレンジだったり。すなわちDJ的な時間延長や無限ビートの
   概念とは異なる。ロマンティックかつスマートで、さらにスリリング。
   ダンディズムに退廃さがほんのり降りかかる。
   具体的にはジャズとラテンの融合か。どちらもビートが重要な音楽だが、ここでは薄められ
   プラスティックな美しさを演出した。磨き上げた世界観に時めく、大人な一枚。
   まさに、プロデューサー。

   ビル・ラズウェルと共同プロデュースした00年の盤、ギタリスト3人とシャノンのバトルか。
331・Ronald Shannon Jackson:Red Warrior:☆★
   にぎやかなハードロック調のジャズ。この当時は新鮮だったのかもしれないが
   今聞くとさらっと流してしまうほど耳馴染み良い。テクニカルだとしても
   それを感じさせぬスムーズさだ。

   変拍子ジャズの御大、66年の盤。ファラオやガルビエリなどをサイドメンの一作。
330・Don Cherry:Symphony For Improvisers:☆☆☆
   震えるフリー・ジャズ。双頭テナーがフリーキーに吼え、ツイン・ベースがうねり続ける。
   とっちらかった即興がばら撒かれ、時に散漫な場面もある。ドン・チェリーで
   イメージする。端正な変拍子も希薄だ。が、疾走と煙った緊迫感だけは、凄まじい。

   仏のレーベルから04年に発表。キッド・アイラック・ホールでのライブか。
329・大友良英、中村としまる、秋山徹二、宇波拓:Compositions For Guitars Vol. 2:☆☆★
   ガツンとディストーション効いた大友の作品を除くと、どれも静かなオフサイト系
   フィードバック・ノイズを生かしたロングトーン・アンビエント。
   展開やダイナミズムとは別次元、空気の濃淡で聴かす。BGMで鳴りづらいが、
   時折無性にこの手の音楽で、あたりを埋めたくなる。

   7枚組ボックスの1枚だが、なぜか本盤だけ売ってた。本盤は三茶グレープフルーツ・ムーンでのライブ音源を収録した。
   大友、杉本、中村、秋山の日本勢へKeith Rowe,Oren Ambarchi,Burkhard Stanglが加わった7人エレキギター音響。
328・V.A.:AMPLIFY 2002: balance ([Disc 7]: Seven Guitars):☆☆★
   オフサイト系小音無音なサウンドだ。コーネリアス・カーデューの作品が1曲、即興が1曲。
   といっても違いは非常にわかりづらい音像だ。金属質な響きが、無機質に漂う。楽器そのものの音と、派生して周辺から
   漂う音が混ざって、じっくりと空気を震わせる。緊迫したひと時の愉しみ。

   コリン・ヘイ、02年に発表の7thソロ。
327・Colin Hay:Company of Strangers:☆☆★
   地味だが方向性を模索、コリン節は聴けるも中途半端なアルバム。
   アコギを基調だが時に打ち込みビートや弦、女性ボーカル付与など、アレンジに一本線が無い。
   トータル性よりバラエティ富んだ構成を目指したか。ドライなエコー感で
   切々と歌いかけるコリンの魅力はしっかりあるだけに、何とももどかしい。
   だがタイトル曲や"Beautiful World"は本当に良い曲だ。

   デイヴ・リー・ロスがキラ星メンバーを集めた86年1stソロ・アルバム。
326・David Lee Roth:Eat'em and smile:☆☆☆★
   デイヴのソロは2ndのほうが産業ハードロック色に染め上げられ、聴きやすいと思う。
   だがアルバムとしてはこちらが上。ヴォードビルなどアメリカのショービジネスどっぷりの
   デイヴの乱雑な好みが、躍動感そのままに詰め込まれた。
   凄腕三人もデイヴのプレッシャーも低く、のびのび弾いてる印象あり。
   10曲中6曲にヴァイのクレジットあり。無邪気にデイヴと楽しんで作っていそう。
   タイトル曲のセンスが抜群だが、スピード感山盛りの(2)、シングルヒットの(5)のポップさも好きだ。

   何となくジャケ買い。イカ天出身バンドだそう。91年デビュー作。
325・Lanpa:水の上のPedestrian: ☆★
   プロデュースの国吉良一が全曲でシンセを足して、ギターバンドなアレンジにスペイシーさや
   民族的な要素を加えた。オーバー・プロデュースだがサウンドは、このほうが良い。
   ドラムのタイトな音色とビートも良し。爽やかで涼しげな色合いが風通し良く響く。
   ときに乾いた色合いに締めるところが、素敵なセンスだ。バンドの魅力もさりながら
   本盤はプロデュースの視点でも聴きどころ多し。

2011/10/2   最近買ったCDをまとめて。

   インパルス!から発売、DCPRGの新譜は、2枚組ライブ盤。
324・Date Course Pentagon Royal Garden:Alter War In Tokyo:☆☆☆★
   カラッとヘルシーになった。編集がいっぱいらしいが、ぼおっと聴いてたせいか
   どの箇所かさっぱり。パートごとにつぎはぎミックス?いずれにせよ、個々の楽器が
   実にクリア、粘っこくダークな即興すらも滑らかに聴けた。
   混沌なDisc1、ダンサブルなDisc2と色を変え、フレッシュな新生DCPRGを魅せた。

   宇崎竜堂が音楽監督、06年の作品。太田恵資らが参加している。
323・OST:Tannka:☆★
   打ち込みと生演奏、それぞれを収録の構成。比率が高い打ち込みはなまめかしく、時にほのぼの。
   生演奏はエキゾティックに。どちらも夢見心地の穏やかな世界を作った。
   つるんとしたマスタリングで、打ち込みのほうが印象に残る。
   あくまで宇崎竜童の音楽だから、ミュージシャンの即興を期待はしないように。
   聴きやすいが、打ち込み系でドラムがきつくBGMには向かない。
   冒頭のホーメイを含め、太田の存在感はさすが。

   ナッシュヴィルのレーベル、エクセロのジャンプ・ブルーズを集めた
   英ACEの97年発売コンピ。54~56年頃のシングル音源から選んでる。
322・V.A.:Wail Daddy! Nashville Jump Blues:☆★
   粘っこいブルーズが詰まったコンピ。思ったよりジャズ色は薄かった。
   コンボ編成でも、べたっとまとわりつくアレンジが、ちょっと印象的。
   ぐいぐいくるノリが骨太の魅力だ。
   当時のシングルをずらり並べた。正直、ぐおっと耳をひくのは(1)くらい。
   あとはB級っぽい。しかしがっつり太いリズムは、着実な層の厚さを伺わせる。
   当時のローカル・クラブで週末に演奏されたサウンドを追体験にぴったりな盤。

   インドはカルカッタ出身、1931年生まれシタール奏者ニキル・バネルジーの長尺2曲入アルバム。
   95年にインドのレーベルから出た盤。ラジオ局の庫出し音源のようだ。
321・Nikhil Banerjee:Fond Memories:☆☆☆☆
   シタールは規則正しく鳴り響き、メロディのみがこぶしを効かす。
   機械のように安定しつつ、酩酊さを溢れさす自由さが奏者の熟練度を表した。
   素晴らしく味わい深いシタールだ。楽曲構成は良くわからないが、単なる音楽として
   聴いても十二分に楽しめる。足早に畳み掛けるタブラの、猛烈なビート感も良い。
   全二曲、各30分。長尺のグルーヴをたっぷり味わおう。

   西アフリカ、マリ共和国の伝統音楽"Donso"を演奏してるそう。
   クレジットがはっきりしないが、カセット音源から抽出したコンピのようだ。
   米のレーベル、Yaala Yaalaから発売した。
320・Yoro Sidibe:S/T:

   タイトル通り、インドネシアの南スマトラのバタク族による音楽らしい。
   92年に米New Albionからの発売。
319・Batak:Batak Of North Sumatra:☆★
   インドよりアラブに通じる聴感だ。細かなビートと酩酊感ある一方で、躍動性が異様に薄い。
   べたっと両足を地面につけ、覇気の無さを味わうかのよう。
   聴いてて浮き立つわけでもなく、瞑想にはビートがキツすぎる。微妙さが何とも言えない味だ。

   ドイツのジャズバンドが、ワーグナーの楽曲をジャズ・バンドにアレンジした06年盤。
   ぱっと聞いた限りだが、きれいな響き。ピッチがクラシック風にピタリ合っている。
318・Lierhouse Project:The Ring Goes Swing:☆★
   ハーブ・ゲラーなどジャズメンを招きつつ、基本はクラシカルなスタイル。木管のきれいにピッチが
   そろったアンサンブルは、単純に心地よい。ワーグナーに親しみ持たせるのが
   基本だが、啓蒙の押しつけがましさも無し。
   ついでにジャズのグルーヴやスリルも希薄だから、BGMに良いかも。アレンジがけっこう
   凝ってて、つい聴いちゃうかもしれないが。
   好みの問題だが、ぼくはビッグバンド・ジャズって、もっと下手でガチャガチャがいい。
   とはいえシンフォニックな(5)には惹かれた。

   94年に録音だがお蔵入り。ライノが08年に発表な、シカゴの32作目。
317・Chicago:XXXII: Stone Of Sisyphus:☆☆☆☆
   勇ましく疾走するホーン隊とハイトーンの歌声、甘いメロディ。
   生き生きしたシカゴの魅力を詰め込んだ傑作なのは間違いない。
   アレンジかミックスか、中域薄いサウンドがちょっと物足りぬ。もっとがつんと野太く。
   バラード路線に行かず、本当はこの志向をずっと続けて欲しい。
   (8)なんて、大好きだ。デモなどのボートラも嬉しい。

   91年発表、21作目のシカゴのスタジオ作。
316・Chicago:TWENTY 1:☆☆★
   プロデュースはロン・ネヴィソン。参加ミュージシャンには、アコピでデヴィッド・フォスター、
   なぜかホーンにTOPのドク・カプカの名もある。
   一曲目からダイアン・ウォーレンの曲とAOR路線まっしぐらながら、
   ほかには歯切れ良いオリジナルもいくつか、それほど悪くない。ただし共作クレジットで
   メンバーが作詞のみなら、ものの見事に外部ライターの作品ばかりだ。
   ぶりぶりシンセが飛び交うアレンジで、ほんのちょっとアップテンポのパワーポップ。
   広々した世界が、のびやかに描かれた。
   ただまあ、聴き終わって空虚さを感じるのも確かだ。

   女優、中谷美紀の96年アルバム。音楽は坂本龍一が担当した。
315・中谷美紀:食物連鎖:☆☆☆★
   (2)の切なく締め付ける和音世界こそが、坂本流。歌手のアイデンティティはほとんど感じられず、素材感がぷんぷん。
   あくまで坂本の視点で聴くべき盤か。手軽に作った印象だが、アレンジや和音の幻想風味は
   素晴らしく美しい。稚拙な歌がロリータな魅力に変わる。アイドル・ポップの薄ぺらい
   声こそハマる楽曲だが、どうにも歌声に馴染めず。
   クールさは控えめ、歌謡曲っぽさ全開だが坂本流の凛としたリズムやコードがいっぱい。
   中身は良いのに・・・歌声がなぁ。


2011年9月

2011/9/19   最近買ったCDをまとめて。

   元GbVのロバート関係新譜を2種。まず、今年2作目のソロ。
314・Robert Pollard:Lord of the Birdcage:☆☆☆
   トッド・トバイアスのアレンジやプロデュースの力がうまく現れた一作。
   楽曲は3~4分とごく短い1~2分の曲が半々くらいの全12曲、34分の小品。
   ところどころにボブ風の繊細でキャッチーなメロディが現れる一方、全体的には
   とっ散らかった印象だ。弾き語りのメロディメモが続く場面もいくつか。
   しかしトバイアスのアレンジが実に巧妙で、サイケなパワー・ロックに仕上げてる。
   乱暴なリフで押しつぶさず、キーボードを巧みに使った。
   もうちょい練りこんだら、良い曲になりそうなのに・・・と思う曲もいくつか。
   その一方で、単調なリフをそのまま垂れ流す楽曲もあるあたり、二人のローファイなバランス感覚がほの見えて面白い。

   こちらはボ・スの新譜、26曲ごっちゃり投入した。
313・Boston Spaceships:Let It Beard:☆☆☆☆
   最終アルバムだから、タイトルとジャケは"Let it be"のオマージュだろう。
   楽曲ごとに多数のゲストを投入、豪華な仕上がり。サウンドそのものはストレートな
   ロバート流ロックだが。クレジット見る限りオレゴンでメンバー二人がバックトラック収録。
   曲によってマスター送付でゲストがダビング、ボブがボーカルをオハイオでかぶせたようだ。
   溢れるメロディが次々投入され、ラストアルバムっぽい切なさは皆無なとこが、ロバートらしい。

   元Men at Workのコリン、新譜をリリース。初回盤はシンプルなアレンジの4曲ボートラつき。
312・Colin Hay:Gathering Mercury:

   ドイツの即興ピアニスト、09年発表な5作目のアルバム。
311・Nils Frahm:The Bells:☆☆☆☆
   ロマンティックな野人。ピアノと向き合った即興だ。大らかでゆったりのフレーズ中心、
   和音の響きが心地よい。ともすれば指癖で進みそうなコンセプトだが、比較的短い曲を
   11曲収め、豊富なアイディアを提示した点がポイント高い。
   ジャズや他のジャンルをほとんど感じさせぬ音世界だが、ノリはしっかり保ってるとこが凄い。
   原石の輝きと繊細な構築度が同居する、味わい深い傑作。

   ホッピー神山のリーダー作で、ビル・ラズウェルと仙波清彦が参加の04年セッション。
310・ホッピー神山:A Navel City/No One Is There:☆☆☆
   構築されたインプロっぽいセッション。時にスペイシー、流麗な鍵盤を奏でるホッピーと、
   シンプルっぽく思わせつつ、実はポリや変妙なアクセントを利かす仙波の演奏は聴きもの。
   だが、重たいままで終わるビルの魅力がいまひとつ伝わらない。
   ソロの応酬でなくアンサンブルを楽しますアレンジのため、仙波のドラミングが最も惹かれた。
   ハードかつジャストに叩くドラムを堪能できる。

   2010年発売。米Tru Thoughtsのリリースで、2枚組の次作中心DJ-mixかな?
309・Zero DB:One Off's, Remixes and B Sides:☆☆★
   テクノの作品集。ごくまれにヒップホップっぽいビートもあり。
   シンプルな音使いのテクノ。比較的、穏やかなテンポが多い。どこか粘っこいノリが特徴だ。
   1-(7)を筆頭に、妙に頭へこびりつくメロディやフレーズある曲が多数。
   暗闇のクラブで、大音量な演奏も似合いそうな曲集だ。

   04年発、涼音堂茶舗のエレクトロニカなコンピ。
308・V.A.:Water Green:☆☆☆★
   基本、アンビエント。ミニマルな電子音。音は伸ばさず、小刻みに。ぷりぷりと繰り返す。
   そんな音素たちが滑らかで優雅、タイトル通りの涼しげな雰囲気を演出した。
   耳障りがちょっと宜しくない音を重ねて、穏やかな風味を産み出すセンスが素晴らしい曲ばかり。
   ほとんどがインスト。BGMで静かに聴いても、最高な一枚。

   前衛系、ギターに着目のコンピのようだ。仏 Fbwlより。
307・Marc Sens:Strings And Stings II:☆☆☆★
   前衛エレキギターのコンピ。ハードノイズありアンビエントあり、ダンサブルありと
   バリエーション富んで飽きさせない。全体的に上品な作品が多い。
   大づかみにサウンドの多彩さを概観するにも便利。
   FenneszやK.K.Nullも楽曲を提供した。

   英ヒップホップで、トラックを生演奏がコンセプトという。02年発5thアルバム。
306・The Herbaliser Feat. Seaming To:Something Wicked This Way Comes:☆★
   クールなヒップホップトラック。五目味に色合いが変わってく。
   スマートで前のめりのビートが基調か。細かくきっちりまとまってると思う。
   ラップよりも総合的な完成度に軸足置いてそう。生演奏ゆえか。

   ケルンのエレクトロ・ポップのデュオによる10作目。07年発表。
305・Donna Regina:More:
   エレクトロ・ポップス。メロディは親しみやすいが、ちょっとアレンジが大味かな。

   独U.F.O. Walter(b)のドラムンベース・ユニットで、メンバーはSphere (vo),
   Christian Willeczelek (ds, prog)。さらに生楽器のゲストが入る。
304・Alien Cafe:Chloe Says…:☆☆
   静かで滑らか、時にムーディなビートが緩やかに流れる。
   ダンサブルさを保ちつつ、ノリは常に穏やか。綺麗に整ったサウンドが美しい。
   エレクトロなイメージだが、生演奏の要素もあり。
   時折目立つベース・リフくらいが、ベーシストの存在感を出すくらい。
   むしろ全体調和のアレンジが主眼に思える。
   (7)の瑞々しいグルーヴ、歌モノ(14)あたりが曲に力あり。

   イスタンブールのミュージシャンで、伝統と今の音楽をミックスらしい。
303・Mercan Dede:Su:☆☆☆★
   趣はオムニバス。楽曲ごとにゲストや目立つ楽器を変え、バラエティに富んだ仕上がりだ。
   基調はブレない。エレクトリック風味のアラブ音楽。リズムや和音が生/電気にかかわらず
   淡々とメカニカルに揺れる。アフリカのドライブ観とは別、とうとうと流れる安定したビートの心地よさ。
   本盤は何よりも、厚みあるアレンジが聴きどころ。エレクトリック・バイオリンを軸に
   さまざまな楽器が入れ代わり立ち代わり、奥行を表現した。ユニゾンでなく
   絡み合いのアンサンブル。アラブはユニゾン的なイメージを、本盤は見事に変えた。

   01年の発表。レーベルPlopはPlopは01年にmonkiiが東京を拠点に設立した。
   公式Webによると音色や音の質感、響きなどに着目音楽がコンセプトのようだ。
   ミュージシャンのGelは仏ジュリアン・ロケのソロ・プロジェクト1st。
302・Gel::-1:☆☆☆☆
   穏やかな響きながらノイジー。のんびりだけど、小刻みにしゃくるリズム。
   シンプルと見せかけ、複雑な打ち込み。長尺にひたりたいのに、次々と現れる曲。
   耳馴染むメロディなくとも、ふんわりと空気が流れる。
   BGMにとどまらず、空気を突き抜ける爽やかで心地よいエレクトロだ。

   Vladislav Delay、Anty Greie、Craig Armstrongのコラボとある。詳細不明、05年の盤。
301・Dolls:The Dolls:☆☆☆★
   リーダーはフィンランドのVladislav Delay。静謐なアンビエントが基調だが、
   部分を切り取るとアヴァンギャルド。即興的なタイミングで鳴るビートに、きれいなピアノとベース。
   パターンを排除したリズムだが、全体の流れで聴かす。幻想的な世界だ。女性ボーカルが語るように歌う。
   穏やかな女性ポップスとも、エレクトロとも聴ける作品。
   パーカッションのセンスが抜群で、静かにぐいっと引き込まれる魅力あり。

   トルコ音楽のコンピ。エレクトロと伝統系を混ぜたレーベル、らしい。
300・V.A.:East 2 West: Istanbul Strait Up:☆☆☆★
   西洋+中東。エレクトロ・ビートとアラブの混淆。生/電気仕掛けを問わず、強烈なビートが貫く。
   あふれるフレーズはアラビックな音階とピッチ。タイトなグルーヴと、西洋音楽に慣れた耳には
   エキゾティックに響くメロディの合体は、単純に痛快だ。
   コンピだけあって、生演奏寄りとエレクトリック寄りの双方が味わえるバラエティさもうれしい。
   聴きごたえたっぷり、これを足掛かりにずぶずぶハマりたくなる。

2011/9/11   最近買ったCDをまとめて。

   復活岡村ちゃんの2枚同時発表のうちの、一枚。
299・岡村靖幸:エチケット [ピンクジャケット]:☆☆☆★
   オリジナルとつい比較聴きしてしまうが、めまぐるしく分厚いアレンジで
   まくしたてる構成は単純に楽しい。テクノっぽい打ち込みビートを基調でも
   生演奏の箇所も多数。アコースティックな"Super Girl"が良い再アレンジだった。
   爽やかな"Adventure"もいいな。ファン向けでファンこそ楽しめるアルバム。

   アメリカのGene Colemanがリーダーかな?大友やSachiko Mも参加したライブ音源、02年発表。
298・Gene Coleman&Franz Hautzinger&Sachiko M&Otomo Yoshihide:Concert In St. Louis:☆☆★
   メロディや構成とは無縁。バスクラもペットも電気的なノイズマシンをめざし
   大友とSachiko Mは密やかに間と余韻を響かせる。高周波が密やかに鳴る。
   50分一本勝負の本編は、空気の震えを様々な手法で表現した。
   軋むバスクラの音が金属的に響き、水音っぽい音がたまに鳴る。
   いわゆるこの手の音楽世界を、標準的に表現した一作ともいえる。
   あまりピリピリ緊迫せず、どことなく寛いだ感触あり。
   静かに始まって盛り上がり、やがて消えていく。そんな展開やアンサンブル、流れのウネりを
   読むのもいいが、なんとなく瞬間を切り取って聴きたくなった一枚。
   (2)は10分ほど。アンコールかな?(1)を凝縮した感じ。うっすら静かに聴こえるメロディが歌声のよう。
   大友がターンテーブルでクラシックを再生か?

   天鼓,今堀恒雄,加藤英樹,外山明,大友良英と強力メンバーの2nd、98年。ちなみに本作で
   ドラムが吉田達也から外山に変わった。
297・Dragon Blue:Hades Park:☆★
   外山のドラミングで今堀ルートと大友ルートの関連性が強固になり、バンドっぽさが
   強調された。1stのとっ散らかり振りが好きだっただけに、ちょっと意外。
   ベースのグルーヴを軸に大友と天鼓のインタープレイが刺激的。

   88年結成のギュンター・ミュラーらによる即興ユニット、02年の作品
   本盤は曲により、大友良英、Sachiko M、クリスチャン・マークレーが参加した。
296・Poire_Z:+:

   トリオ編成でリリースした08年の盤。
295・南博:Like Someone In Love:☆☆☆★
   隙が無く、ジェントルなアンサンブル。アレンジが素晴らしい。単なる
   ソロ回しに堕することなく、時にユニゾン、時にカウンターとスリリングに
   楽器が交錯する。あくまで主役はピアノ。サウンドをたっぷり膨らませ、その合間を縫って
   ドラムが、ベースが動く。このトリオ、初のスタンダード集は 
   お約束の連なりとは無縁の、涼しげなジャズを作った。

   ケイト・ブッシュ的なハイトーンを操る女性ボーカルを軸のフリージャズ。彼女の出身はロシアかな。ここでディスコグラフィーが見られる。
   Valentina Ponomaryovaの日本ツアー音源で、ゲストがめっちゃ豪華。
   ジョン・ゾーンやビル・ラズウェル。日本からは梅津和時や高橋悠治など。89年の発表。
294・Valentina Ponomareva:Live In Japan: ☆☆★
   ソロ回しでなく、混沌な音像で突き進むパターンが多い。曲名も収録場所、クレジットに参加ミュージシャンを
   記載した完全即興だ。場所は六本木ピットイン、大阪厚生年金ホール、五反田Uぽーとで、普通のジャズ・クラブと
   色合いを変えた演出の痕跡が伺える。
   録音ミュージシャンも日本人は絡まず、リリース前提の収録か。
   彼女の個性はむしろ薄く、音楽自身は共演ミュージシャンが作り上げる。
   盤のミックスはちょっとモッサリ、分離を少なくし温かくも不穏なムードを漂わせた。
   共演ミュージシャンのファンなら、聴いて損は無い。

   船戸博史が参加の5人組バンドが94~95年の音源(ライブ含む)を集めた盤。
   ゲストで増田隆一、大友良秀、津山篤らが参加した。
293・OAD:DAYTONA:☆☆☆
   ファンク風の混沌サウンド。ダンサブルさを狙いつつも、どこか野暮ったい引きずる
   重さが味か。明確に違うのは、軸足が混沌に向いてること。
   ベースが着実にグルーヴを支え、他の楽器が絡みつつサイケに溢れる。
   すごく奇妙な構築性が楽しめる一枚。

   オンタイムのシンセ・ソロ6部作の一枚。88年リリース。
292・菊地雅章:六大 火 -Fire-:
   音としては恐ろしく退屈な、ファン向け盤。ほとんどリズム・ボックスと
   戯れてるのみ、な印象。時折、シンセが立ち上がる。茫漠たる世界。
   ただしアンビエントと少々違う、虚しい緊迫感を見出すと楽しめるかも。

   スタッフなどで活躍のギタリスト、74年リリースな初ソロ。
291・Cornell Dupree:Teasin':☆☆☆☆★
   怒涛のグルーヴ。隅から隅まで気持ちいい。ギターは複数本聴こえ、
   オーバーダブも含め丁寧に作っている。すなわち即興とは別ベクトル。
   寛ぎと前のめりのダンサブルと、ブルーズと洒落のめしたアンサンブルと。
   複数の要素が混ざりあい、飛び切り綺麗なクロスオーバーに仕上がった。
   さりげないベースの、ドラムの、キーボードの響きも格別だ。
   そこへ、くいーんと引きずるエレキギターのフレーズがまとわりつく。

   97年発表。ドラムとサックス(ジョン・ゾーン)のデュオ。
290・John Zorn & Bobby Previte:Euclid's Nightmare: ☆☆☆★
   "1分"がコンセプト。短い即興を27曲詰め込んだ。
   実際には厳密な1分は無く、さらに2~3分の即興もあるが、
   それは大らかさと見よう。ドラムセットとアルトサックス、ハードコアに尽きない。
   ゾーンもフラジオばらまきにとどまらず、曲によってはメロディアスな場面も。
   97年のゾーンらしく、クレツマー要素もふんだんに漂わす。
   連打せず、静かに刻むドラミングの上でサックスを遊ばす音像がクールだ。
   本盤のビジネス・リーダーはプリヴァイト。即興もリズムの多彩さをサックスで彩った。
   ゾーンは膨大なテクニックを駆使し、片時も同じ場所に留まらない。

   芳垣のパワージャズ・バンドのライブ盤。2010年にデンマークでリリースされた。
289・Emergency:Live In Copenhagen:☆☆☆☆
   ドンシャリ、特に高音がきれいだ。分離のくっきりしたミックスで、彼らの魅力を十二分に引き出した。
   ともすれば轟音に埋もれがちな繊細さを、凄みを残しつつ表現したCDだ。
   演奏はがっつり。前のめりで、ほんのりアップテンポに。溜めをわずかに控え、
   スピーディさを強調した気がする。めっちゃカッコいいジャズだ。

   田村/藤井コンビで、とりわけほのぼのしたムードのバンドの09年、4th。
288・GATO LIBRE:Shiro:☆☆★
   穏やかなフリー。C&Wな風味も頻繁に漂う。切ない旋律で、ビート感は希薄だ。
   アドリブ部分で顕著になり、小節感はソロを取る奏者に一任される。
   ソロ回しのルーティンは極力避けた。ユニゾンのフレーズは中東音楽も連想した。
   派手さはないが、じわじわと噛みしめる良さ有り。

   ドイツの即興デュオらしい。500枚限定。
287・Lemke/Gwilliam:Fourmil Plus Quarterinch:☆★
   リアル・ノイズと電子音の交錯。演奏場所が轟音だったなら印象変わるかもしれないが、
   ボリューム絞って聴くと淡々と空気が震えていく。しかし微妙な
   緊迫感を保ち続けるところが、魅力であり個性。ともすれば単調に陥るのに
   じわじわと風景を変えることでサウンドはテンションを保っている。

   韓国のユニットらしい。TZADIKから01年にリリース。
286・Xtatika:Tongue Bath:
   韓国パーカッションにヴォイス・パフォーマンスだが、冒頭から低音が響く。
   プログレっぽいおどろおどろしさもあり。ハイトーンな歌声は、ケイト・ブッシュに酷似なとこも。
   テンポはガラガラ変わり、アンサンブルはビートが複雑。
   アヴァンギャルドより構築性を目指したサウンドか。
   後半はパーカッションを強調したアレンジで、エコーがモヤモヤ漂う暗黒な世界。

   99年のサントラで、ルイ・スクラヴィスが音楽を担当。映画の会話も収録してるみたい。
285・Louis Sclavis:CA Commence Aujourd'hui:☆★
   ベルトラン・タヴェルニエ監督の人情ものか。オールド・スタイルのジャズを基調。切なくも美しい。しかし、はかない。
   8人編成のコンボで、アコーディオンの音色が空気を波うたせる。
   くるくると旋律が回っていく。変奏を多数仕込んだ、オーソドックスなサントラだ。
   インタープレイは控えめ、あくまでアンサンブルの心地よさを楽しむ音楽。

   72年の長尺ジャムセッションを2曲収録した。モダンジャズのミュージシャンがどっさり参加。
284・Various Artists:Newport in New York '72- The Jam Sessions Vol.4:☆★
   凄まじくそうそうたるメンバーだが・・・長尺2曲のセットは、どうも手癖で次々
   弾いてる感じで、あんまりグッと来ない。生演奏で見ないと、こういうのはだめかも。
   話のタネに聴くくらいか。これを聴くなら、それぞれのミュージシャンの
   リーダー作のほうが、個性がにじみ出て楽しいと思う。
   ある意味、ジャズの一つの類型。

2011/9/5   最近買ったCDをまとめて。

   復活のセルフカバー盤、2種のうちまず1枚を入手した。
283・岡村靖幸:エチケット [パープルジャケット]:☆☆☆
   オリジナルのアレンジを踏襲しつつクラブ風の軽快さを盛り込んだ。当時の音源
   サンプリングもあるが、基本は新録。ボーカルの衰えなど難点もあるが
   ファンなら買いでは。ただ、オリジナルを超えるアレンジは無いなあ。

   セネガルのバラフォン奏者ソロ・アルバム。静岡の写真会社が発売サポートのようだ。
282・Dou Dou Diop:Doraman Traole:☆☆
   スパイダーのサワリがビンビン響く。メロディや起伏をあまり意識させず、
   淡々と奏でられるバラフォンの響きが心地よい。グルーヴもしっかり。

   詳細不明だが、03年のブレイクビーツ2枚組コンピ。
281・V.A.:U.N.K.L.E/Big Brother Is Watching:☆☆★
   UNKLEのメンバーJames LavelleによるDJ-mix。Wikiによると本盤の発表は紆余曲折あるようだ。
   当初は3枚組"Do Androids Dream of Electric Beats?"(2003)とし日本の Radio Ape向に発表、
   同年に英BBC1用に2枚へ再編集し"Do Androids Dream of Essential Beats?"に変化。
   これをさらに発表したのが本作となる。
   途中で"エッセンシャル・・・"って呟きも入ってた。
   当初2作のタイトルはディック、本作はオーウェル"1984"のもじり。
   Wikiには本盤はブート扱いだが、普通にショップで買える。この辺の経緯は不明。
   サウンドはくっきりビートのミックスで、ジャンルがバラバラ。比較的
   テクノっぽいかな。ヒップホップ要素も混ぜ、大ネタとシンプルなビートが交錯する楽しい盤に仕上がった。

   ブレイクビーツの英モ・ワックス・レーベルが、95年発表2枚組コンピ。
280・V.A.:Build & Destroy:☆☆☆
   アブストラクト・ヒップホップのレーベル・コンピらしい。ダンス・ミュージックながら
   しっとり緩めのBPMでミニマル・テクノの要素を混ぜた。
   サンプリングを多用し楽曲ごとに印象変わる点がヒップホップっぽい。
   秀逸なのは、やっぱりDJシャドウ。素材的な要素強く、単独で聴くには物足りないか。

   96年発表、限定500枚のEP盤。
279・半野喜弘:Esquisse 1996:☆☆★
   本作は静かなエレクトロニカを基調に、生音も含まれる。クレジットがシンプルなため
   生演奏とサンプリングの境目、即興と作曲の境目が良くわからない。
   音像が穏やかに揺れ、しっとり寛いでいく。メロディはさりげなく漂い、むしろ音像の豊かさに浸る作品だ。
   アイディアを二ひねりくらいして、懐かしくもストレンジな空気を表現した。

   ウィーンのエレクトロニカ系ミュージシャンによる2枚組、2010年の盤。
   Disc2は40分以上一本勝負の長尺作品だ。
278・B. Fleischmann:Welcome Tourist:☆☆☆★
   アコースティックも混ぜた、静かなエレクトロニカ。ビートはつぶやくような
   揺らぎで、心地よく寛ぐ。跳ねる電子音とフレーズの絡みが美しい。
   DISC 2の45分長尺1曲が、とびきり滑らかだ。

   91年発表、マイブラの傑作と呼ばれる盤。今回初めて聴く。
277・My Bloody Valentine:Loveless:☆☆☆★
   シューゲーザーはあまり好みでない、と改めて分かった一枚だ。
   べったりまとわりつく、歪んだギターの音色。キャッチーで軽やかな歌声。
   どちらも良さは理解できるし、当時の先鋭さも実感した。
   しかしのぺっと襲い掛かるノイジーなギターは、中途半端なところも。
   がつんと騒音に走ったほうが、好み。エポックメイキングな一枚、な点は強く理解した。


2011年8月

2011/8/18    最近買ったCDをまとめて。

   6年ぶり、ついに達郎の新譜が出た。プロトゥールズを駆使し生々しい音を出す。
276・山下達郎:Ray of Hope: ☆☆☆☆★
   "俺の空"で独特の青臭さを匂わせつつ、前作からのシングルをトータルにまとめた
   相変わらず隙のない快盤。"プロポーズ"を筆頭に、素朴さをコンピュータ制御で
   演出してる印象あり。数曲のアップで聴ける分厚いハーモニーと"街物語"の埃っぽさを
   協調させる幅広さと、素朴ながら味わい深い成熟を詰め込んだ。 

   01年発売、ベスト盤に近いほど、さまざまなタイアップ曲を集めた一作。
275・竹内まりや:Bon Appetit!:☆☆
   達郎の隙のないプロダクションで極上のポップスに仕上がった。まりあのキャッチーな
   メロディをばらまく作曲術もすごい。個人的に存在感ある歌声に
   ちょっと馴染めないが、確かにどの曲も魅力的な作品ばかり。すごいな。

   74年設立のレーベル30周年企画、2枚組ベスト・・・かな。
274・V.A.:Salsoul 30th:
   ディスコ・ビートの嵐。今聴くと古びており、恐ろしく薄っぺらい。
   演奏は生だと思うが、非常にタイトなドラムが逆に
   無菌室の無味乾燥を演出した。耳ざわりはたやすいが、ちょっと馴染めない。

   レア・グルーヴでは有名な一枚らしい。77年発売。
273・James Mason:Rhythm Of Life:☆☆☆☆
   ナラダ・ウォルデンの歯切れよいドラミングに、本人のダビングでベースとギターが絡む。
   いたずらにテクニックひけらかしに走らず、着実なカッティングと野太いベースで
   とてつもなくグルーヴィーな世界を作り出した。ボーカルを女性に委ね、サックスが色を添える。
   隅々まで練られた、ファンキー・ソウル。

   オークランドのレーベルによるサンプラーかな?00年発売。
272・V.A.:Simply Soul Flavas Part III:☆☆☆
   層の厚さを実感。収録はローカルで活動と思しきシンガーたち。録音こそ
   少々しょぼい感じだし、打ち込みシンセの音色がさびしいところも。
   しかし中には生演奏がっちりな曲もあるし、なにより歌声はどれもすがすがしい。
   滑らかなソウルが詰まった。アレンジのスタイルが千差万別、イギリスっぽい
   クールさやシカゴ風の煙ったさ、スタイリッシュなファンキーさまで。
   このごった煮さが、滑らかにまとまったコンピ。

   イリノイ出身のゴスペル・シンガー、1stで95年作。
271・Sam Baker:No Love Lost:☆★
   滑らかな響きのゴスペル。基本は打ち込みトラックで、ちょっと安っぽいが・・・
   伸びる声ながら、ちょっと力を抜いた歌声に合ってるかも。ラップ風の箇所もあり。
   南部風の印象を受けるが、やたらに声を張り上げない。かといって、洗練とも違う。
   田舎のこじゃれたゴスペルってとこか。気軽に聴ける。打ち込みトラックが
   妙に存在感強いのが、逆に邪魔な場面も。

   メンフィスのマイナー・レーベルから97年リリースの男性ソロ、ソウル。
270・Quinn Golden:Cover You With A Kiss:☆☆★
   ルーファス・トーマスやバーケイズ、アル・グリーン・オーケストラのツアーメンバーで活躍したテネシーのシンガーのソロ。
   ジョン・ワードと共同プロデュースの本作は、ギターをジョン、サックスをジョン・スパイク、
   数人のコーラス以外は、ジョンと二人で打ち込んだシンプルな作り。
   基本はサザン・ソウルだが泥臭さの中に、洗練さを狙った印象あり。
   軽快に伸びるボーカルは時にファンキー。ちょっと軽めかな。跳ねるソウル。
   熱く歌うミディアム・スローの(4)、ジャジーな(8)が好み。

   メロウ・ラップのコンピ、07年リリース。
   本コンピの音源、Hi Power MusicはLA南のサン・ガブリエル・バレーを拠点のチカーノ系レーベルだそう。
269・Hi Power Soliders:Southside Legends:☆★
   一口にメロウ、しかしパターン色々。例えば。ほんわか柔らかい、ちょっとスリリング、
   けだるげファンク、いなたいスタイリッシュ。土地の気候でこういう音楽できるのか、と想像してみる。
   凍てつく凄みとは無縁ながら、どれもクールさを意識した。かっこよさとは、一つだけじゃない。
   のんびり聴けるコンピレーション。

   欧州の即興ラップ作品らしい。07年作。
   英Big Dadaレーベルなどで活動したフリースタイル・ラッパーのInfinite Livezが、スイスの前衛エレクトロ・デュオSTADEと
   組んだアルバム。このコンビで08年にアルバム"MORGAN FREEMAN'S PSYCHEDELIC SEMEN"もリリースした。
   ゲストはPascal Aubersonと Joy Frempong(現Oy)。前者は経歴不明、後者はガーナ系スイスのボーカリスト。
268・Infinite Livez Vs Stade:Art Brut Fe De Yoot:☆★
   アイディア一発をコネ混ぜた一発勝負の盤。ヒップホップのグルーヴィーさや
   インプロの緊迫は希薄で、むしろスタジオで自由に遊んだ集大成って印象だ。
   ヒネくれた和音感とノービートのトラック上で叫ぶラップが乗る。
   ただ、言葉や歌詞に気は使っておらず、声そのものの面白さを追求っぽい。
   とはいえ少々中途半端さが漂うが・・・。総じて、奇妙な浮遊感が狙いか。
   どういう場面で聴くべきか、少々迷う。発声即興では先達へ比ぶべくもないゆえに。
 
   英ソウル・レーベル、Expansionの3枚組レーベル・コンピ。
267・V.A.:Luxury Soul 2007:☆☆☆
   打ち込みビートが大半の滑らかなR&Bが、次々聴ける良コンピ。
   粘っこさは皆無、イギリス風のおしゃれさがいっぱい。
   BGMにもいいし、本盤を足がかりに聴き繋ぐこともできる。
   的確な選曲だと思う。フランク・マッコムの名もあるが、全部が自レーベル音源って
   わけでもないのかな?

   英テクノ・ユニットの3rd。94年のヒット作。
266・Orbital:Snivilisation:☆☆☆
   アルバム全体でストーリーを狙ってるような構成。シンプルでポップで幕を開け、
 ダークチルで終わる。テクノの歴史をまとめたかのよう。
   通して聴くには少々長く、曲ごとのノリも
   異なるため、フロアより家聴き向けか。ただ、非常に良くできたアルバムだ。

   未聴だった。アンビエント作、95年の作品。
265・細野晴臣:NAGA:☆☆☆☆
   解説読んで、92~94年のTVへ提供曲を集めた盤と分かった。もっとも楽曲の統一感はある、
   アンビエント・エキゾティカな一枚。打ち込みを基調に、うっすらと民族楽器が漂う。
   ビートより流れに軸足を置いた。空気が蒸し暑く震える。シンセが覆う奥の小刻みなリズムは
   恐ろしく生々しい。このセンスが細野の凄さ。寛げるサウンドだが、
   刻みに耳を澄ますと、構造のスリルで興奮してくる。

   トライガンのサントラで今堀恒雄が音楽を担当した98年の盤。
264・O.S.T.:original soundtrack trigun the first donut:☆☆☆
   やたらカチカチな音にマスタリングされてるイメージあり。あくまでサントラなため、水谷浩章や菊地成孔らへも
   アドリブ性を求めてはダメ。あくまで譜面もの。
   だが今堀流のミクスチャーっぷりを楽しめる盤。
   ジャズを基調に打ち込みと生楽器が垂直に絡む。ほとんどの楽曲が数分単位でブツ切れ感薄いのも嬉しい。
   最後は後期クリムゾン風のハードなテクノで終わるが、妙な中途半端さ。アルバムの統一性を求めるべきではないか。

   06年発売、ROVOの7th。全1作の長尺コンセプト。
263・Rovo:CONDOR:☆☆☆☆★
   全編を覆う、ミニマルでメロディックなバイオリンを縫って、ブライトな
   フレーズを振りまくギターもさりげなく素敵だ。
   じわじわとフレーズが高まる。クライマックス、(3)での浮遊と加速、疾走っぷりは只事じゃない。
   猛烈な飛びにやられまくった、痛快な作品。
   スタジオのくっきりした音の分離を保ちつつ、ライブでの剛腕グルーヴなバランスもしっかりだ。

   仏のtt奏者とハンガリーの即興ミュージシャンによる08年のライブ・インプロ。
262・eRikm & akosh S.:Zufall:☆☆☆
   ターンテーブルと木管楽器、いずれも寄り添わず並列な即興を繰り広げる。
   この手の音楽は、ライブ見てたら違う感想持つかも。
   どちらかというと、ターンテーブルのほうが音像や進行の軸を持ってる印象だ。
   リズムやビートは極力解体し、淡々と進む。
   ぶかぶか吹き鳴らすだけの木管がつらい。もうちょっとメロディなり構成なりあるといいのだが。
   だから(6)みたいに若干の構築性を感じる曲が、もっともぐっと来た。
   レコードのスクラッチ・ノイズも取り入れたターンテーブルのほうは、音使いや
   センスの点で快調に聴けた。

   ドイツ/ノルウェーのメタル・バンド。05年発売。
261・Midnattsol:Where Twilight Dwells:
   ハードロックの形式をとりつつ、歌声はケルトな穏やかさも。ボーカルだけが
   くっきり取り出されるミックスも、異様にボーカルとバックの違和感を強調する。
   トラッド的なメロディはツーバス連打のヘビメタとも異様に合う。シンフォニックな
   キーボードが潤滑油か。スリルや複数要素の混合による魅力より、
   中途半端さを感じてしまうのが否めない。歌のメロディは悪くないんだが。
   いっそ(10)ほど派手に盛り上がると、すがすがしい。

   女性ボーカルを擁した米ゴシックメタルの1st、07年リリース。
260・Echoes Of Eternity:The Forgotten Goddess:
   女性ボーカルはトラッドやポピュラーの要素を匂わせつつも、平板な空気を追求する。
   へヴィなギターもボーカルとあまり絡まない。シンフォニックな展開が
   特徴かな?クリーンな録音とボーカルのクリアさがザクッとしたギターと今一つ溶けない。
   サウンドはテンポ・チェンジやキメを多用する。ライブで盛り上がるかもしれないが、
   CDではちょっときれいすぎな、透明感あるメタル路線。

   フィンランドのメロデスコア,2nd。02年の発表。
259・Throne Of Chaos:Pervertigo:☆★
   シンフォニックなヘビメタ。爽快できれいなメロディだから、BGMに良いかも。
   やたら澄んだ歌声がスムーズにハマってる。重厚なアレンジすら軽く感じるのは、
   ボリュームを上げるほど印象変わるかも。
   ボーカルの唸りとクリアでダブル編成は、アレンジに奥行を出した。

   ヒップホップのレーベル・サンプラーで33曲収録、MIX-CD形式のようだ。
258・V.A.:Anticon Label Sampler: 1999 - 2004:☆★
   ブレイクビーツ寄りのヒップホップで、ファンキーさよりクールな印象が先に立つ。
   サンプラーを踏まえた選曲で、むやみにミックスはしない。一曲は比較的長めで
   曲の雰囲気をどれも味わえる。不穏さを冷静で包んだ音楽だ。

   メロディック・メタルバンド、ロイヤル・ハントのリーダーによる、生ピアノ・ソロ。08年発売。
257・Andre Andersen:Ocean View:☆★
   強く、くっきりしたメロディ。クラシックともヒーリングとも違う、親しみやすいメロディ。
   ダイナミズムはむしろ控えめ。ロマンティックさを溢れさせつつ、明確に旋律が流れる。
   ある意味、大味。ある意味、シンプル。そんなピアノ作品。でも耳触りはとても良く、情感には惹かれた。

   SSWピート・ヨーンと、女優スカーレット・ヨハンソンのデュオだそう。09年発売。
256・Pete Yorn & Scarlett Johansson:Break Up:☆☆
   ほぼすべての作曲とギターやキーボードもダビングするピート・ヨーンにボーカルの
   女優スカーレット・ヨハンソンのユニット。ゲスト・ミュージシャンが数人加わり、アンサンブルは
   きれいにアレンジされた。本盤はピートにとって5thアルバム。
   wikiによると、スカーレットのエージェントがピートの兄弟らしく、その縁か。
   ピート曰く、ブリジット・バルドーとセルジュ・ゲンズブールの盤がコンセプトらしい。
   思い切りカントリー・タッチなアレンジに、ピートのへなへな歌声が載る。スカーレットは
   飾り以上の役割を果たしてない。
   きれいなメロディが頻出するも、ちょっと中途半端なアルバムだ。
   (3)が特に、ポップかな。

   ジョン・ウィリアムズのサントラをいくつか。これはエピソード3/シスの復讐"(2005)
255・O.S.T:Star Wars Episode 3 - Revenge Of The Sith:☆☆
   ロマンティックさより、小刻みなメロディを積み上げる印象が強い。
   低音の野太い金管が、いかにもスターウォーズだなあ。歌声はいる曲が複数なのが
   なんだか新鮮だった。バラエティに富み幻想的な展開だ。

   01年、スピルバーグ監督のサントラ。
254・O.S.T:A.I.: Artificial Intelligence:☆★
   冒頭のストリングス曲は、ちょっとミニマル。ロボットを表現したか。
   ストリングスに女性ボーカルをかぶせる、がコンセプトの音楽だ。
   一曲は、デヴィッド・フォスターがプロデュースした。ちなみに詞はシンシア・ウェイル。ここで名前見るとは。
   切なくスケール大きな世界が広がる。柔らかく、穏やかで・・・どことなく透徹。
   ジョン・ウィリアムズらしい金管トップの鋭い響きはそのままに、静けさが漂う一枚。

   ハリポタ。映画はまだ見たことない。
253・O.S.T:Harry Potter And The Sorcerer's Stone:☆☆★
   おっとりロマンティックなストリングス。ロマンティックさを軽やかに演出した。
   派手さは抑え、まさにBGMな印象を受けた。
   おまけのCD-ROMには各国予告編を収録。英仏独伊韓タイで、日本無く残念。

2011/8/6   久しぶりにレコ屋へ行って、あれこれ面白そうなのをピックアップ。

   90年に仏で発売、南インド古典音楽の4枚組ボックス。疎いため、楽曲の貴重性はコメントできず。
252・V.A.:Anthology of South Indian Classical Music:☆☆☆☆★
   予想以上にアカデミックなコンピだった。古典南インド、カルナータカ音楽かな?
   楽しみで聴くにはつらい個所もあるが、非常に勉強になる盤だ。
   楽曲鑑賞で最高なのは、Disc4。アンサンブルと独奏の即興を堪能できる。
   本盤目当てでも決して損しない。さらに他の盤も興味深い記録だと思う。
   Disc1はほぼ無伴奏の独唱。たゆたうグルーヴをぎりぎり味わえるが、
   門外漢がすらっと楽しむのとは違う。
   解説を読んでも、構造や歴史的位置づけがいま一つ頭に入らない。
   Disc2でようやく楽器の比率が高まる。しかし無伴奏独唱もあり、BGMへは油断ならない。
   Disc3はさまざまな楽器の即興演奏。パーカッションはボウルと実演奏が教本的に
   続いたり、純粋な音楽鑑賞とは別だが。しかしハイテクニックの演奏は凄まじい。聴きこむほどに味わい増しそう。

   ペルーの"レアグルーヴ"って煽り文句に惹かれて購入。71年の作品らしい。
251・The Kabalas:La Kábala:☆☆
   エコー成分高いチカーノ・ロック。ラテン風味ぷんぷんで、かなり緩いところが
   グルーヴで評価されたか。フロアで聴いたらわからないが、普通に聴くと少々物足りなさも。
   "Carrera 71"が良いな。しゃくっと鳴るシンバルがかっこいい。
   ソロ回しやメロディより、リフ繰り返しで押すファンクなスタイル。けれど、スタイリッシュを狙ったとこが個性か。

   今堀恒雄,吉田達也のユニット、08年に発売の作品。
250・今堀恒雄,吉田達也:Dots: ☆☆☆☆
   すっげえ。ハイテクニックと編集の妙味、かつハードとアコースティックの押し引きで
   飛び切りバラエティ豊かなプログレに仕上がった。即興要素をそこかしこに
   漂わせつつ、ループや編集を駆使し構築度もばっちり。
   テンション高いが、余裕あふれる高速フレーズに引き込まれた。
   "原子心母"をイメージした最終曲の雄大さも楽しい。
   ライブで再現できなそう、と思わせる音作りだが・・・この二人なら、なんなく演奏しそうで怖い。

   tt奏者クリスチャン・マークレーの97年作品。
249・Christian Marclay:Records: ☆☆☆★
   89年作の(11)を除き、81~83年の宅録な初期音集。ローファイで、ヒップホップとも違う
   LPコラージュ作品が目いっぱい詰まった。アヴァンギャルドでダンサブルとは違う方向性ながら
   どの作品も、独特のスピード感あり。針音ノイズとレコードの音が混然となり
   奇妙な空気を作り出す。今でも新鮮だ。
   卓球の音をパーカッション風にした"Brown Rain"の手作り感がかっこいい。

   マークレーとギュンター・ミュラーのデュオ、ライブ録音集。94年の発売。
248・Christian Marclay, Günter Müller:Live Improvisations:☆☆
   ターンテーブルとノイズの交錯。ライブ会場のダイナミズムが音だけでは
   物足りないが、スピーディな音の勢いは伝わってくる。
   当日の音量は不明なるも、突き刺す空気の緊迫さと立ち止まらぬ性急さのスリルは抜群。
   隙間は多いが、間をおかぬ電子音の林立が肝。35分と短めの収録だ。

   豪ミュージシャンとSachiko Mのデュオ、02年作。
247・Philip Samartzis + Sachiko M:Artefact:☆☆☆
   複数のサイン派が短く重なり合い、やがてぶちぶちノイズが重なって行く。
   時間は静かに経過する。耳を傾けると、時の流れは緩急を産み出すような気も。
   この、違和感こそがSachiko Mが作る音楽の魅力だ。退屈とは微妙に異なる停滞と加速。
   音は連続しない。空白と断続を生かした。しかし本盤を静寂の中、大ボリュームで聴いたら、まったく違う感想を持ちそう。
   それくらい本盤は、聴く環境を相手に追求する。
   トラックごとの違いは、まだ意識できていない。繰り返し聞けば、何か感じるだろうか。
    余談だが。外はいま、大雨。この音楽と外の音と音楽が混じる、微妙なモアレが心地よい。

   ギリシャの女性歌手、02年のリリース。
246・Alkistis Protopsaltis:Pes Mou Thalasa:☆★
   ベテラン歌手の貫録ぷんぷんのボーカル・アルバム。ジャンル的には演歌っぽい。
   朗々と歌い上げる。しかしアレンジやメロディは情感狙いつつも、ちょっと
   ひねったところが味。ところどころで聴ける、軽いシンセの鳴りがキュートだった。

   読めない・・・ギリシャの女性歌手、02年のアルバム。
   英語ならば歌手名がEleni Peta、タイトルを"The Best Day Is The One That Holds On To Dreams"と訳すらしい。
245・Ελένη ΠέταΗ:καλύτερη μέρα είναι αυτή... που στα όνειρα αντέχει:

   ウータンがらみ。ゴーストフェイスの09年ソロ。
244・Ghostface Killah Feat. ShareefaGhostdini:The Wizard Of Poetry In Emerald City:☆★
   どっぷり歌ものを意識したゴージャスな仕上がり。特に(7)は良い曲だがゴーストフェイスの
   歌で、拙い感じに仕上がりが残念。(9)も70年代っぽさが心地いい。
   全体的に派手にアレンジされたトラックの上でラップが勇ましく跳ねまわる。
   ところどころに女性の吐息を混ぜ、セクシーさを演出した。ダークさ押さえた成り上がり気分な盤。
   初動で43万枚売れたという。ウー一派の目立った参加はなし。

   同じくウータン。レイクォン、11年の作品。
243・Raekwon:Shaolin Vs. Wu-Tang:☆☆☆
   楽曲ごとにほぼプロデューサーを変え、ゲストは身内からゴーストフェイスやGZA、メスにデック。
   そとからバスタ・ライムズやNASなど絢爛豪華。トラックはウータン流の不穏さを
   たっぷり携えつつ、カラッと明るいポップな側面もあり。
   全般的に少林映画風の似非中国風味がそこかしこに感じられる。
   重たくも聴きやすい充実したラップに仕上げた。聴きやすい盤と思う。

   ニューオリンズのラッパー、10年発表の4th。
242・Curren$y:Pilot Talk II: ☆☆☆
   基本プロデュースはスキ・ビーツ&センシーズ。リズム隊を生演奏で、ループを重ねる
   独特のグルーヴィなトラックがいかしてる。ラップは裏で拍に合わせつつも、
   けだるくつぶやくスタイルだ。ふわふわ揺れるムードがたまらない。
   数曲で別プロデューサーを招き、打ち込み中心のトラックを挿入、アルバム全体の単調さを避けた。
   猛烈にアゲるタイプのヒップホップじゃない。ゆったり心震わす。
   各曲は結構短め、T/Lで40分とコンパクトなアルバムに仕上げた。

   ニュージャージーのヒップホップArtifactsのメンバーが、ポーランドのチームと組んだ10年の盤。
241・El Da Sensei & The ReturnersGT2: Nu World: ☆☆★
   がっぷりR&Bサンプリング、アナログ感びしばしのヒップホップ。
   むやみに凄まぬスタイルだが、きっちり不穏感は醸し出すギャングスタ風味だ。
   ミドルテンポでもグイッと前のめりな感触で、聴いてて心地よい
   微妙に洗練さが足りぬあたり、ニュージャージー・スタイル?

   ブラジル女性歌手、マリア・カンヂーダの09年盤。
240・Maria Cândida:Por todas as razões: ☆☆☆
   整ったアレンジで優雅なブラジリアン・ポップス。ジャズっぽい場面もあるが、
   豪華なホーン隊の曲が印象に残った。歌声は柔らかくも力強い。ささやきっぽい
   印象だが、芯がある心地よさ。派手さは無いが、くつろげる一枚だ。
   ミドル~スローのテンポでほぼ統一され、アルバム全体を流して聴けるのも嬉しい。

   テクノかな。英WARPから、ゴンジャスフィの1stで10年に発売。
239・Gonjasufi:A Sufi And A Killer:☆★
   英国風味なずぶずぶサイケ・ポップだった。妙にこもったボーカルが特徴で、基本はへなへな。
   ベックの初期インディ作にも通じるが、音使いやアレンジは欧州だ。
   アイディア一発で突き進む、短い曲が多い。メロディはどことなくバスキングっぽさも。
   妙にふわふわしたムードに感覚合えばハマれる。

   04年発売、日本人ラップでSMRYTRPSのソロ。曲毎に異なるDJらとセッションがコンセプトか。
238・Y.O.G.:Sessions:☆☆
   さまざまなゲスト呼んでも、一本筋通ったサウンドだ。
   小気味よい前のめりのラップが印象深い。テクノ風のトラックで聴ける浮遊感とばっちり合っていた。
   一方でサンプリング駆使したトラックもクール。聴いてて楽しい一枚。
   いたずらに凄まず、ひやひやっとムードを保つバランス感覚が良い。

   仙台のヒップホップ・ユニットが10年に発表したアルバム。
237・MONOm.i.c:Drop By Drop:☆☆☆★
   小気味よくクールなブレイクビーツ。懐かしいソウルやジャズの香りを漂わせつつ、
   産み出すグルーヴは前のめりのかっこよさ。これは素晴らしい。
   ループがくっきりしっかり流れていく。むやみに音数増やさずとも、良い。


2011年7月

2011/7/15   最近買ったCDをまとめて。

   85年発売、エディ・ゴメスとスティーブ・ガッドとのトリオ。
236・佐藤允彦:Amorphism:☆☆☆★
   ピアノだけでなくシンセも演奏し、フュージョンっぽさが強調された。シンセとピアノの
   縦線がびしびしで、MIDIみたい。タイトさがなおさら、ジャズのグルーヴとはちょっと違うベクトルに。
   サウンド自体は爽快でスピーディ。じっくり聴くとハイテクニックの応酬が美味。

    72年作"Christabel"と83年"For Your Eyes Only"を収録、88年TZADIK発売。
235・John Zorn:Angelus Novus:☆☆☆
   4曲のクラシック的作曲集は、92年~97年にいずれもボストンのホールで録音された。
   (1)はダイナミズム激しい録音で、ピアニッシモにボリュームを合わせると、ffの強烈さにたじろぐ。
   ピアノ曲の(5)はさまざまな曲のコラージュ作品らしいが、めまぐるしいメロディの奔流に圧倒された。
   ほかのオーケストラ曲も、つぎはぎ感が強い。綺麗だが、ノリとは別ベクトル。
   パッチワーク的な側面が前面に出た、スピード感あふれる一作。変にノイジーなところは無い。

   ゾーンのゲーム・ピース作で00年の発売。ゾーンは演奏しておらず、
   フレッド・フリスら6人のミュージシャンがプレイしている。
234・John Zorn:Xu Feng - John Zorn's Game Pieces Vol. 1:☆☆☆
   聴いててルールはさっぱりだが、個々の奏者が奏でる音塊は長めな気がする。
   ドラム、ギター、エレクトロニクス奏者が各二人づつ。コンパクトな
   アンサンブルはほぼ同時に音を出しつつ、全体でサウンドを積み上げた。
   とっつきにくい音楽なのは否めないが、コブラより聴きやすい。
   メロディやコンセプトに統一感あるが、どういうルールかなあ?

   ブラジルの女性歌手の3rd、03年発表。
233・Ana Carolina:Estampado:☆★
   コントラアルトと低い声域の彼女。芯の強い曲調にマッチした。時にロック調のアレンジが
   過剰に感じる部分あり、もっとシンプルなほうが馴染んだかも。ほとんどがオリジナル曲、
  切々と歌い上げる場面は凄みあり。バラードを連発せぬ選曲が
   五目味な感触を。アップだと(6)、ハーモニーが支えるアコースティックな(10)、
   ミディアムは広がりある世界観の(13)を気に入った。バラードでなく
   ミドルやアップを求めて聴く盤かもしれない。

   ヒュー・マンデルの78年デビュー作と、オーガスタス・パブロ86年作の2in1。
   マンデルの盤はパブロのプロデュース。その縁でカップリングか。
232・Hugh Mundell/Augustus Pablo:Africa Must Be Free By 1983/Africa Dub:☆★
   ヒュー・マンデルのデビュー作(1975)とプロデューサーのパブロがダブした(1986)の盤を2in1。
   当時13歳のヒューは素直な歌声だが、強烈な意志も感じさせる。早熟なのか、時代か。
   スムーズなレゲエ・ビートは寛ぎよりむしろ、凛とした緊迫をビートで和らげる感じ。
   ひしゃげた音色は当時の狙い?このジャンルは良くわからない。
   エコーの効いた音像は、一枚通して聴くとぼおっとしてきた。
   後半のパブロによるダブは、聴きなれないせいか滴るビートのノリに圧倒された。

   ギュンター・ミラーと大友良英のデュオ、02年東京での録音。
231・Günter Müller/大友良英:Time Travel:☆☆☆★
   静かな電子音の海を、ギターの音がぽおんと弾む。虫の鳴き声が響く
   秋の夜長を連想した。やがて機械的な回転音へ変化するが。
   スピードやダイナミズムでなく、音の動きを主眼の静謐なインプロ。
   あえて長尺にせず、トラックを複数切ったため聴くのが容易で嬉しい。
   大友のこの手の即興では、意外に珍しい寛ぎムードな作品。

   ポーランドのジャズを4台のターンテーブルでミックスしたスカルベルの05年盤。
230・Skalpel:Konfusion:☆☆★
   打ち込みみたいに精緻なビートの繰り返しで盛り上げるジャズ。
   クールで生演奏のダイナミズムは、極限まで絞られた。
   しかし、ぎりぎりグルーヴィの香りだけ残ってる。微妙にフレーズが異なっているため。
   タイトさが構築され、ブレイクビーツな魅力を醸し出した。
   アドリブよりもアレンジの精妙さで聴かせるサウンドだ。

   宅朱美が地底レーベルから06年の発売なアルバム。
   メンバーは加藤崇之(G)、是安則克(Bass)、樋口晶之(Ds)、ゲストで松風鉱一。
229・Shoomy Band/宅朱美:Requiem:☆☆☆★
   ブラームスの1曲以外、すべて加藤の作曲。本盤に書き下ろしでなく、
   過去のレパートリーをShoomyが独自の世界へ磨き上げた。
   クールで粘っこい楽曲を、Shoomyがさらにしたたかな色を塗る。
   ドラムが鈍く鳴り、ギターとベースが鮮やかにグルーヴする。ゲストの松風が吹く
   メロディも愛おしい。ジャケットが示すような陰った色合いの、渋い中央線ジャズ。

   フェラ・クティ・バンドで活躍した彼の、全世界発売なソロ作。99年発表。
228・Tony Allen:Black Voices:☆☆★
   野太いファンク。フェラ・クティに比べ、ストレートかつシンプル、そしてキャッチー。
   クールでわかりやすいアルバムだ。かっこよさは格別。
   打ち込みっぽいシンセとタイトなリズムだが、全部生演奏・・・なんだろうなあ。
   強靭なグルーヴがぐいぐい。それでいて、どこか肩の力が抜けている。

   ドイツのミュージシャンと共演したアンビエント作、02年発表。
227・坂本龍一 & Alva Noto:Vrioon:☆☆☆☆
   強烈にストイックな一枚。ピアノがたゆたう上で、電子音が舞う。
   音がひしゃげて加工され、あくまでも坂本のピアノはミニマルに鳴った。
   メロディや展開はほとんどない。ひたすら静寂を追求した音楽。しかし妙にポップさを
   感じてしまう。前衛なのにとっつきは柔らかい。むせ返るエコーの感触が素敵だ。
   サイン波みたいな音も、無造作に使ってる。

2011/7/3   今日買ったCDをまとめて。

   74年リリースの2枚組アルバム。隠遁前の最後のスタジオ盤だったそう。未聴だった。
226・Miles Davis:Get Up With It:☆☆☆☆★
   素晴らしい。退屈と停滞と、強烈なグルーヴ。メロディでもコード進行でも
   構成でもアドリブの鋭さでもなく、音像そのもののスリルで聴かせる。
   やたらめったら長い曲も、派手な展開はほとんどない。しかし淡々とした 
   盛り上がりが産む緊迫感と寛ぎに耳を持ってかれる。
   したがって、ひたすら長いほうが、この揺蕩う快楽を堪能できる。
   多数のジャンルを渡り歩いた、マイルスの極北だ。

   99年、カルテット編成でリリースのアルバム。
225・榎本秀一:夏の庭:☆☆★
   ぬるっとホットなジャズ。独特のかすれるサックスが全編に流れた。(5)で尺八も聴ける。
   アフリカンな香りをかすかに感じるが、根本は色が希薄なジャズ。
   暑さや甘さに流れることなく、しとやかな魅力をまとった。榎本のサックスは
   なまめかしい響きを軽やかに響かせ、藤沢のピアノがそれに味わいを足す。
   上村と永田のリズム隊は、静かで着実だ。
   ピアニストの藤沢由二はちょっと気にかかる涼やかなサウンドを奏でる。

   99年のサックス・トリオのジャズ。1stアルバムらしい。
224・The Lost Trio:REmembrance Of Songs Past:☆☆
   バンド名からフリーと思いきや。オールドタイムのオーソドックスなジャズ。
   ひそやかなロマンティシズムを出し、ドラムはさほど目立たない。
   ビートでなく、ベースの震えにサックスが甘く絡む。時折、フリーっぽいところもあるな。
   寛げそうで、緊迫感を漂わすユニークなサウンド。

   Rob Burger(p), Trevor Dunn(b), Kenny Wollesen(ds)の演奏、ジョン・ゾーンのサントラ集14作目。10年の発売。
223・John Zorn:Filmworks XXIV - The Nobel Prizewinner:☆☆☆★
   静かなピアノ・トリオのジャズ。時折ひらめくノイズが良いアクセントだ。
   クレツマー的なムード香るメロディが、柔らかく、そっと響く。
   本盤のみで十分楽しめる、幻想的な音楽だ。
   ティノ・ベルトカンプ監督"The Nobel Prize Winner"(2010)に提供された。コメディらしい。
   ジョン・ゾーンのライナー曰く、元はヴァン・ダイク・パークスへのオファーが
   スケジュール合わず、ゾーンへ来たという。
   最初はSEのみの音楽を提案するも没、ピアノ・ソロで試したが合わず、ピアノ・トリオになったそう。
   今回の録音はほとんどワン・テイク。スムーズな雰囲気がキュートで、ほんのり大人っぽい。

   04年のドラマーがリーダー作のジャズ。基本はピアノ・トリオ+管。ds,p,bを固定し、曲ごとに上物の編成を変えた。
222・Neal Smith:Swingin' Is Believin':☆☆
   しょっぱなから滑らかなビバップが飛び出した。小刻みなビートが心地よい。
   アフリカンでおしゃれな雰囲気に期待したが・・・。どうも全体にきれいすぎ。
   うまいんだが、破綻やスリルとは無縁なジャズ。(3)のロマンティックなバラードは
   別の意味で、整った切なさが良かった。
   全般的に、頭でっかちのジャズって印象が残念ながら抜けなかった。

   クラシック。ラトヴィアの作曲家によるオルガン曲集で01年のアルバム。
221・Talivaldis Deksnis:Riga Vibrates In Organ Sound:☆★
   リガ大聖堂を筆頭にラトヴィアには多くの教会があり、パイプオルガン音楽が重要な位置を占めるらしい。
   本盤は20世紀の作曲家が作ったパイプオルガン曲のコンピのようだ。 
   どの曲も宗教要素あると思うが、バリエーションはさまざま。野太い音で
   ぶっ飛ばす迫力にやられた。逆にこの音楽は、生で聴いてこそ、かもしれない。

   ヒットした環境音楽の20周年盤。この発売が01年、今はもう30周年になるのか。
220・George Winston:December, Piano Solos: 20th Anniversary Edition:☆☆
   改めてじっくり聴き、クレジットを見てみた。けっこうカバーもあるんだな。
   即興要素無し、清冽にピアノを叩く。意外に硬質な音だ。
   ロマンティックでスマートなところが、アメリカっぽい。
   熱狂するタイプの音楽ではないが、確かに寛げる。

   アメリカのレーベルから出た長尺1本勝負、97年の発売。
219・灰野敬二:So, Black is Myself:☆☆☆
   オーバーダブやテープ操作なしという。無音から単調な電子ノイズが現れ、じわじわと剛腕に変化する。
   壮大な流れを表現した、ハード・アンビエントなコンセプト・アルバムともいえる。
   聴く簡便性に、間へトラックをいくつか切ってほしかったが。
   大まかな流れは、こんな感じ。
   しばらくはじわじわと流れるノイズ。静かだが、強烈な意志とまっすぐな加速性を感じた。
   ごつごつと鳴る音。ランダムに、重たく。電子音は続く。ときに軽やかに。
   27分が経過し、ようやく弦を爪弾く音。思い切り鈍い音だ。歪みつつもくっきり
   音程がわかる。全体では静かな音像。重厚な弦はいぶし銀。日本的フレーズも時たま出る。
   40分位立ったところで、灰野が声を絞り出した。唸る低音。
   電子のドローンは続き、弦は乾いたストロークに変わった。シンプルで、乾いた風景。
   やがてドローンのみに音が変わり、しずしずと音程を上げつつフェイド・アウト。

   91年発売、53~54年のザイール・ポップのコンピ盤。
218・Bowane:Roots Of Rumba Rock, Vol. 1:☆☆☆
   リンガラの原型が詰まったコンピ。フランコの指導者というBowaneを筆頭に貴重な音源
   と思うが、解説が読めず詳細は不明。サウンドはキラキラしたギターは控えめ、
   ゆったり弾む。どれもテンポが似通ってるのが興味深い。繰り返しを続けつつ、
   メロディはどこかのどかだ。ハッピーに舞いあがる。
   録音状態は時代なのかいまいちだが、ホノボノしたグルーヴを味わうのに不自由しない。

   70年代前半のエチオピア・ジャズのコンピ盤。
217・Mulatu Astatqe:Ethiopiques Vol. 4: Ethio Jazz & Musique Instrumentale 1969-1974:☆☆☆
   エチオピアの天才、Mulatu Astatqéムラトゥ・アスタツケの70年代初期作品集。ビブラフォンやピアノが
   彼の演奏だろうか。けだるいムードに揺られるグルーヴ。ちゃかぽこした
   ビートの中、鍵盤だけが強烈にタイトだ。ホーンのけだるいリフ、
   切ないメロディに心和む一方で、鍵盤がクールさを保つ。
   といっても全体プロデュースがしっかりしており、鍵盤のみ浮いたりしない。
   録音は少々しょぼいが、これは聴きものだ。

   ギニアのドラマーによるソロ。アヴァンから99年の発売。
216・Adbdulai Bangoura:Sigiri:☆☆☆★
   張りが強く威勢の良いパーカッション・ソロ。完全即興か、なんらかテーマあるのか
   よくわからない。けれども単なるパーカッションの響きだけで芳醇なひと時が味わえる。

   2010年発表、日本人ヒップホップ。EP三部作の第一弾だそう。
215・Ryutek:Kookyprotekt EP vol.1: Blossombud:☆☆
   上ずるようなラップが特徴なヒップホップ。ニコラップ的な明るさ有り。
   もうちょいビート効いてても良かったな。

   アメリカのポスト・ハードコアらしい。10年の3rd。
214・Circa Survive:Blue Sky Noise:☆★
   ざくざくノイジーと思ったらメロディアスな曲が多い。甲高いボーカルに馴染めず、
   いまいちのめり込めず。リズムが軽いのか迫力がいまいち。
   シューゲイザー風の(9)がもっとも印象に残った。

   03年の1st、エモコア・バンドらしい。
213・Across Five Aprils:A Tragedy In Progress:
   デスボイスだけでなく、クリーンなコーラスも。全体の印象は、意外に爽快なハードロックだ。
   ハネた感じが気持ちいい。デス要素が中途半端な感も否めないが。
   とはいえスピードやムードは、そのごった煮要素が魅力となっている。
   バンドの持ち味とは違うが、アコギに語りが加わる(11)が良かった。

2011/7/2   最近買ったCDをまとめて。

   メルツバウの新作。ミックスはメルツバウがノータッチのようだ。
   昨年9/26のライブ音源を収録した。
212・Merzbow + Balazs Pandi:Ducks: Live In NYC:☆☆
   ドラマーとメルツバウの共演。しょっぱなからハイテンションのため、導入は編集でカットか。
   パルスのごとく軽いブラスト・ビートへハーシュ・ノイズが混ざる。
   とはいえ叩き続けでなく、メルツバウへ存分にスペース与える構成だ。
   ジャケット裏には「修理したスティックや割れたシンバル」も使い、
   エンドースへは悪態をつく記載のあたり、パンク要素も持ったドラム奏者か。
   サウンドとしては、地味め。

   ボーカルに若き日のビヨークが参加したポストパンク・バンドの3rdで最終作、86年発表。
211・K.U.K.L.:Holidays In Europe (The Naughty Nought):☆★
   ほんのりヒステリックなニューウェーブ。リズムはキツくなく、どこか
   ゆったり夢心地。コラージュ要素や細々とオカズの楽器が入り、アレンジが複雑だ。
   ハイテンションのビヨークは、ちょっと疲れる。ファンなら気にならないはず。

   今、彼女の音楽に興味あり。96年の2nd。
210・Me'Shell Ndegeocello:Peace Beyond Passion:☆☆★
   オルガンにビリー・プレストン、サックスがジョシュア・レッドマンとオリバー・レイク、
   そんな大御所と思えばギターにデヴィッド・フュージンスキーやWah-Wah Watsonなど、マニアックな所も。
   ギター・アレンジのWendy Melvoinってリサ&ウェンディのウェンディ?
   とにかく豪華ゲストを招き、商業的にも全米63位とヒットした盤。
   全体に端正な仕上がりだ。アレンジもきっちり。
   むやみな低音ファンクでなく、メリハリ効いた丁寧な音楽にまとめた。

   ファンキーなヒップホップを聴かせる彼の、08年ソロ。邦盤は1曲ボートラあり。
209・Pete Rock:NY's Finest:☆☆☆
   多彩なゲストをほぼ全曲で招いてる割に、地味なのはミニマル要素が強いせいか。
   渋いループをきっちり分厚く重ねるスタイルはそのままに、どこか
   ストイックなムードが漂う。逆に最も聴きどころはゲストなしの(8)。つんのめるような
   ビート感覚と強烈なループ性に惹かれた。

   16枚目のアルバムで08年発表のソロ。未聴だった。
208・Chara:honey:☆☆★
   スペクター・サウンドをふんだんに取り入れた、メロウなポップス路線の作品。
   コケッティより切ない不安定さを強調した。CHARAのふわふわ飛ぶ歌い方が、
   がっちりトラックと溶ける。彼女の成長を感じる一枚。それでいて、このアレンジは凄い。

   米プログレメタルの1st、09年リリース。
207・Animals As Leaders:Animals As Leaders:☆☆☆★
   ヘビメタよりプログレっぽいアプローチ。クリーンな音色で猛烈高速な疾走を魅せる。
   かなり構成が決まっており、キメがびしばし決まるさまは凄まじく爽快だ。
   黒っぽいグルーヴとは無縁。メカニカルな正確さを強調したタイトなアンサンブル。

   ミシガン出身のプログレメタルバンドによる、92年発表の1st。
206・Thought Industry:Songs For Insects:☆★
   ドラムを中心にトリッキーなアレンジをビシバシ決めるテクニカル・メタル。
   速いブラストだけでなく重たい曲やアコースティックもありバラエティに富んだアルバムを狙った。
   基本アレンジはユニゾンの疾走。インタープレイはさほど重視せず、か。
   クリーンなシャウトの歌もので基本的には聴きやすい仕上がり。

   英女性シンガーの1st、07年リリース。英アルバムチャート1位だそう。
205・Kate Nash:Made Of Bricks :☆☆☆★
   ヒット曲の(2)はキャッチーだが、アルバム全体の印象はぼやけてる。すなわちアレンジのピントが絞れてない。
   彼女の持ち味はメロディに留まらぬ60年代風ポップスが持つ躍動感ではないか。
   なまじ地味なアレンジなだけに、魅力が減じられてる。むしろ思い切り派手なほうが映える。
   声域も低目なため、妙な薄暗さを感じてしまう。
   小編成ナイアガラ風の(6)を筆頭に、思い切り金かけてポップに仕上げたら、格別の盤になったと思う。
   メロディがちょっと弱めのため、普遍性出たかは不明だが。

   英"ブリテンズ・ゴット・タレント"で大喝采を浴びた素人歌手の1st、07年の発表。
204・Paul Potts:One Chance:
   カンツォーネなタイプの曲が気持ちいい。しかし根本の選曲センスが王道すぎ、途中でおなか一杯。
   アレンジもほとんどがフル・オーケストラがメインなのも熱い。
   打ち込みリズムや薄いバックなど、アレンジや音楽性にも目配り効けば、今後が楽しみだが・・・。

   メロディック・ハードメタルの07年1st、多分ドイツの出身。
203・Voices Of Rock:Mmvii:
   大味な産業ハードロックなおもむき。メロディに軸足置いており、むしろ雄大な(4)あたり、聴きやすい。
   バンドのメンバーは2人、曲ごとにシンガーを招いた企画の盤だ。
   メンバーはドイツ人だが、シンガーは北欧やアメリカ人を呼んでいる。
   どの曲も妙に切なげなムードを漂わせた。
   すかっと爽快な(7)、カントリー風味の(8)みたいに
   アメリカンなほうが、僕は耳に馴染む。
   マイケル・センベロの"マニアック"カバーは、ストレートな産業ロックに仕上げた。

   ドイツのメタルバンド、00年の4th。
202・Fair Warning:4:☆★
   大味メロディアス。実際の曲テンポは別にして、曲調はどれもスローで成立する構造だ。
   むしろアップテンポなリズムの分、スカスカに感じてしまう。
   曲はキャッチーなフレーズが頻出した。センチメンタルながら、カラッとした空気も。
   シンセをちょこちょこ入れるアレンジも含め、ハードさは形のみ。本質はポップさか。
   これは、という曲は無いが、どれも聴きやすい。いっそさらに曲を煮詰めたら、面白くなったのでは。

   マンチェスター出身、黒人シンガーの2nd、07年の盤。
201・Simon Webbe:Grace :☆☆☆★
   アイドル・グループBlue唯一の黒人メンバーが解散後、アーバン・フォークをキーワードにリリースの2ndだった。
   楽曲トーンのほとんどはマット・プライムの手による。前半とアルバム最後をつとめ
   お洒落で軽やかなフォーク・ポップを描いた。なお後半はさまざまなプロデューサーを招き
   バラエティさを狙ってる。メロディは小粒なとこもあるが、キャッチーさを
   意識して聴きやすいのも確か。歌がもうちょい粘っこいと好みだが。
   何度か聴いてるうちに、良くなってきた。アレンジが丁寧だなあ。

   委細不明だが、海外の有名トランス曲をミックスしたCDみたい。08年の盤。
200・Perfect Stream:EXIT TRANCE PRESENTS 作業用BGMトランス:☆★
   あっかるくて軽い4つ打ちトランスの連発。ミュージシャンを知らず、聴いた印象だけだと
   まさにBGM向。綺麗なシンセの音色を楽しむものか。ビートはシンプルで途中飽きてくるのが難点。
   妙にポップなPerfect Streamが耳を惹いた。E-Wokもかっこよかったな。


2011年6月

2011/6/18   最近買ったCDをまとめて。

   YMOを弦楽四重奏で演奏した企画盤。楽曲はソリッド・ステート・サバイバーの曲が中心。97年の盤。
199・Bălănescu Quartet:East meets East:☆☆
   オリジナルへ大幅にフレーズを付け加え、YMOの変奏曲な位置づけ。
   クレジットを見ると、ユキヒロのエージェントCON-SIPIOが企画みたいだ。
   アレンジは第二バイオリンのクレア・コナーズが努めた。監修にユキヒロの名前あり。
   オリジナル部分のミニマルさがユニークな(2)をはじめとした、
   (4)や(6)のように大胆な長尺編曲の作品に惹かれた。

   ブルガリアン・コーラスの盤かな。96年の発売。
198・Vassilka Spassova: Plovdov Academy Women's Folk Choir:Classical:☆☆☆★
   スパソブはブルガリアの作曲家。本盤は無伴奏女性コーラス隊による歌曲を集めた。
   ムードは幻想。多くの声が浮かんでは消え、絡み、切なく漂う。
   ブルガリアン・コーラスを踏まえた楽曲か、そもそも前衛的な曲かはわからない。
   しかし突飛なつかみどころ無い楽想だが、強靭な構築性と鮮やかなメロディ、
   しとやかに漂う空気が醸し出す、穏やかさは素晴らしい。

   86~93年の音源をまとめた、サインホのソロ。93年リリース。
197・Sainkho Namtchylak:Traditional:☆☆☆☆
   オケやシンセなどアレンジは多彩だが、エキゾティックなムードは共通した。
   サインホの幅広い声質を生かした、ストレンジなポップスが詰まってる。
   ほとんどがトゥバの伝統曲だそう。ライナーに彼女のインタビュー抜粋が乗っており、
   ストンと定義が腑に落ちた。曰く「モンゴル音楽には二つの基本要素あり、
   ラマイズムとシャーマニズム。シャーマニズムは即興である」。
   緊張したメロディと耳慣れぬ曲調はリラックスとは程遠い。しかしその緊張が心地よい。

   日本人ドラマーによるソロ、05年作。
196・Jimanica:Electronica:☆☆★
   ストイックなビートがメカニカルなエフェクトで加工された。ドラム・ソロだが
   乱打やフィルのひけらかしでなく、強靭なパターンをじわじわ変化さす確かさの強調。
   ジャンルを突き抜けた、地味ながら渋いセンスの一枚。

2011/6/5   最近買ったCDをまとめて。いろいろ知らない音楽を聞きたく、ほとんどがジャケ買い。

   フランスのリシャール・ヴィナスと共演したライブ録音。2011年発売。
195・RICHARD PINHAS & MERZBOW:Rhizome:☆☆☆☆
   ピナスに敬意を払ったか、メルツバウにしてはハーシュ色が非常に薄い極上の電子音楽へ仕上げた。
   このライブ音源はピナス流の密やかで多層なミニマル・ドローンが組まれていく。
   メルツバウも穏やかにノイズを重ねた。鈍く、重たく。
   二人の積む音が野太く煌めいていく。
   現場だと敷き詰められた轟音だったのかも。だが使われる音は美しく、
   小音ならばしっとりした電子音の海が。音量上げると濃密な霧がスピーカーから滲んでくる。

   菊地によるキーボード・ソロ6部作の1枚。88年発売。
194・菊地雅章:六大 地 -EARTH-: ☆☆☆☆
   一曲目以外はアンビエント・テクノみたいな音像が続く。静かで混沌だが、無性に耳を引きつける。
   感性のまま無造作に弾いた音をミックスと思うが・・・素晴らしく刺激的。
   ミニマルな要素も、サウンドに刺激与える。シーケンサーを多用でも、手弾きな印象だ。

   07年の坂本龍一によるサウンドトラック。
193・O.S.T.:トニー滝谷:☆☆★
   エコーたっぷり、ピアノひとつ。抽象的なサウンドのアルバム。
   しかしロマンティックな旋律がさりげなく現れる瞬間は、鮮烈でいい。
   どういう映画かわからないが、音楽のストイックさから滲む情感は美しい。

   フルオケ中心のサントラだった本作を、作者がシンセで再アレンジの企画盤。81年発表。
192・東海林修:999 Synthesizer Fantasy: ☆★
   オリジナルの壮大なオーケストラ盤を聴きなれた身としては、シンセのアンサンブルは
   デジタルっぽいシンセの音色は妙に軽く、正直物足りない。
   しかし細部まで細かく聴き分けられるアレンジは、面白いかな。
   アルバムA面が映画のスコアを尊重、B面は楽想をモチーフとし再構成の趣向だ。
   当然、B面の方が興味深いシーンが多々。男性群唱をコミカルな音色に詰めた(7)が極端なアレンジで楽しい。

   マリ共和国出身、パリで活動するインナ・モジャの09年1st。米SSWのジェイソン・ムラーズと共演という。
191・Inna Modja:Everyday Is a New World:☆☆☆★
   キュートで親しみやすい(1)がまず耳を惹く。あとはぐっとシリアス度を増したSSW。
   アフリカンなグルーヴは節回しの奥にうっすら感じるのみ。サウンドもメロディ・ラインも
   きっちり西洋ポップスにのっとった。クールで穏やかなムードが好みだ。
   そしてどの曲も、柔らかいメロディがある。芯をしっかり、ソフトさを忘れずに。
   前半はアコースティックを生かしたアレンジで、ミドル~バラードのテンポが多い。しっとり聴ける。
   むしろ後半でじわじわファンクっぽいアレンジ。彼女の軸足はどっちだ。
   アルバム構成は、意識的に色合いを分けて前半/後半作った印象あり。

   90年発売のソロ作で、アンソニー・コールマン、ウェイン・ホーヴィッツなど
   多彩なゲストを迎えたアルバム。鍵盤楽器に着目した演奏のようだ。
190・Elliott Sharp:K!L!A!V!: ☆★
   コンセプト先行、あくまでファン向の盤。3曲入で、どれも20分前後の長めな即興。
   (1)はゲスト奏者含めた全員がキーボードを弾く。誰がどの音か不明だが、そうそうたる顔ぶれが、むやみに鍵盤をランダムに鳴らすさまがユニーク。
   (2)と(3)はE#のソロで、前者がサンプラーとコンピュータ、後者がピアノソロ。
   明確なコンセプトを追求しており、鍵盤テクニックが前提ではない。巧緻さは求めぬべき。
   (2)は組曲で、それぞれのブロックはとても短い。クラシック的なフレーズをぐるぐる回すかのよう。
   (3)はパーカッシブで抽象的な音の連なり。

   マサチューセッツ州での発売。即興ノイズ・ユニットで、トランペット、ドラム、
   ギターの編成とクレジットあり。05年の2ndアルバム。
189・Heathen Shame:Speed The Parting Guest:☆☆☆
   全編でひたすら電子ノイズが続く。バンド風のアレンジ(3)だけでなく30分もの長尺(1)でも、人間臭さを表現した。
   アナログな揺らぎと変化をもったノイズだ。
   エレキギターによるものか。リーダーの演奏するトランペットがどう
   サウンドに影響してるのか。電子変調したペットの音とも違うようだが。

   95年の露メロディア盤で、プーシキンをテーマのオケとコーラスの作品集みたい。75年と80年録音。
188・Большой симфонический оркестр Гостелерадио СССР, дир. Владимир Федосеев:Метель; Пушкинский венок: ☆☆☆★
   20世紀ソ連の作曲家、スヴィリードフの作品集。"「吹雪」~プーシキンの物語への音楽の挿絵~"と、
   "「プーシキンの詩による六つのロマンス」"を収録のようだ。
   前者はくっきりとキャッチーな情感いっぱいのメロディで、映画のサントラを聴いてるかのよう。
   とてもポップ。古典派とはまた違う、旋律の親しみやすさがある。
   録音はちょっとこもった印象で、そこが妙にロマンティックだ。本来の狙いではないが。
   ダンサブルでバレエや宮廷音楽にも合いそう。
   "「プーシキンの詩による六つのロマンス」"は荘厳な歌曲。讃美歌のようだ。
   どの曲も雰囲気は重厚でしずしずと声が広がる。その割に時折出る不協和音が刺激的。
   (14)の冒頭の響きは、テクノにもつながる斬新さで印象深かった。

   声とオルガン、なるタイトルに惹かれた。バッハやシューベルトなどを歌ってる。95年ロシア盤。
187・Tamara Kravtsova-Renik:Voice and organ:☆★
   女性歌手のソロな盤だった。ハイトーンで歌い上げるベルカントは趣味じゃないが、
   パワフルなのは認める。アベマリア3連発のうち、シューベルトのテイクに
   ぐっと来た。オルガンが静かにアルペジオを鳴らし、朗々と歌声が響く。
   楽曲ではGlazunov作曲の(8)が良い。でもつい、プログレ的な展開の魅力を聴きながら探してしまう。

   蘭のレーベルARSISが97年発表。Jesus Gonzalo Lopezはオルガン奏者で18世紀の楽曲を演奏か。
186・Jose Luis Gonzalez Uriol & Jesus Gonzalo Lopez:Musica De Organo Para Cuatro Manos: ☆☆☆
   オルガンが曲によってさまざまな音色を使う。バロックと古典の間くらいな曲想で
   音数は無暗に増えず柔らかい。なによりムードが穏やかで、くつろげて聴ける。
   奏でられるふくよかな響きに耳を傾けるのもいいな。予想以上によかった。

   バルセロナのレーベル、ARS HARMONICAの06年盤。フランセスク・タベルナ=ベック(1932-2010)の独奏作品集。
   楽曲ごとにピアノ、フルート、ギター、バイオリンなど。
185・Miquel Farré:Taverna-Bech: Música Instrumental A Solo:☆☆
   カタロニアの無調音楽の作曲家らしい。
   不安定に硬質な一方で、うっすらとメロディからロマンティシズムがにじむ。
   どの曲も静謐な美しさあり。ギター曲がいいな。情感がわかりやすい。

   弦楽四重奏とパーカッションによる作品で、オリジナルを演奏みたい。96年の盤。
184・Bălănescu Quartet:Luminitza: ☆☆☆
   乾いた弦カル。野太い響きでビブラートは控えた。鋭くくっきりしたメロディが飛び交い、
   マイケル・ナイマンとつながりあるミュージシャンだそう。旋律とミニマルが相まった音楽性だ。
   ルーマニアのチャウシェスク政権崩壊(1989)が主題のオリジナル曲という。
   鮮烈で力強く、凛としたムードだ。

   19世紀スペインの作曲家、エスラーバ=エリソンドの賛美歌集かな。08年発売。
183・Coral De Cámara De Pamplona:Motetes & Misa A 4 Voces: ☆☆
   冒頭の鐘の音が、風情あっていいなあ。
   楽曲は骨太、情熱を滲ませつつ、ストレートに迫る。楽曲の絡みもシンプル、
   和音の美しさを丁寧に表現した。賛美歌集なのか、穏やかなテンポが多い。
   オルガンを背負って、フォルテシモでぐわっと歌う瞬間の分厚さが心地よい。

   67~72年の録音で独グラモフォン音源を、英ブリリアントがリイシュー。
   ペンデレツキ、ケージ、黛、ルトスワフスキの作品を弦楽四重奏が演奏した。
182・Lasalle Quartet:Lutoslawski; Penderecki; Cage: String Quartets:☆☆☆★
   ビブラート控えめ、強靭な弦の響きが特徴だ。黛やケージの曲が特に素敵だ。
   まずポーランドのルトスワフスキ、1964年の作品。2楽章形式でメロディよりも
   唐突に飛び交う音の飛沫がまず耳に残った。ピチカートと弓を使い分け、凛とした風景。
   同じくポーランドのペンデレツキによる"弦楽四重奏曲第1番"(1960)は、パーカッシブな
   フレーズがあふれた。ちょっと抽象的で掴みどころ無く馴染めず。
   黛敏郎の"弦楽四重奏のためのプレリュード"は密やかなムードがたまらなく切ない。
   さりげないピチカートに東洋の香りを感じてしまった。じわじわと音が迫りくる凄みが美しい。
   ケージの弦楽四重奏(1950年作)は4楽章構成。各楽章が季節をイメージしてるらしい。
   響きはストレンジでも、メロディは柔らかく胸に届いた。

   男性四声によるロシア正教会の賛美歌集、かな。05年の作品。ロシアの盤。
181・Konevets Quartet:To The Glory Of God:☆☆
   17世紀の聖歌を初めとして、伝統賛美歌集だろうか。作曲者名は一人も知らない。
   一曲だけモーツァルトあるのが、かえって違和感あるほど。
   強烈なエコーに包まれ、荘厳な男性四声ハーモニーを聴かせる。
   あくまでキリスト教徒向けの盤かもしれないが、穏やかな空気を味わうのにはいい。
   ひそやかな低音を伸ばす響きが、じわじわきた。どの曲も短く、二八曲入り。
   冒頭に聴ける鐘の音も厳かでいい。

   3管クインテット。2枚組ライブ、09年盤。リーダーのバーニー・マクガン(as)は
   37年生まれのベテランで、豪で活動している。本盤もシドニーで録音。
180・Bern McGann:Solar: ☆★
   がつっと猥雑なノリが、中央線ジャズ風でもあり親しみやすい。
   ただ、ソロが手なりで演奏っぽく、フレーズにのめり込めず。
   個々のミュージシャンの個性がつかめたら、味わい変わると思うが。
   2枚組100分のボリュームだが、1枚にまとめたほうが集中力でたかも。
   モダン風の(2)が漂わす色気、ごつっとハードバップな(3)あたりが好み。

   ヴォーカリーズで活動するシェリー・ハーシュの02年TZADIK盤。
179・Shelley Hirsch:Far In, Far Out: ☆★
   ドラマティックな朗読および構成と推測するが、英語が分からず今一つのめり込めず。
   冒頭のケイト・ブッシュを連想する粘っこいラテン要素を漂わす古めかしい楽曲が
   幾度か現れては、ポエトリー・リーディングに埋もれてく。
   前衛音楽として聴くには、いくぶん言葉の要素が強い。

   ドラムレス、サックスにtbとp,bの変則コンボなジャズ。07年発売でNY録音。
178・Nyndk:Nordic Disruption:☆☆
   北欧メンバー主体のバンドと思いきや、リーダーシップはトロンボーンのクリス・ワッシュバーンみたい。
   ドラムレスの編成だが、ドラムがどの曲もきっちり刻むハード・バップ。
   どこか冷めたヨーロッパ調子なのは、涼やかなピアノのせいか。基本はタイトな
   ビートの上で、コロコロと雪崩れてく。綺麗だがファンクネスは控えた。
   サックスはソプラノを使った(3)の怜悧で暖かなフレーズに、ぐっと来た。
   基本は(4)みたいなストレート・ジャズへ馴染めるかで、本盤の評価が変わる。
   逆にドラムはクールさに滲む爽快な炸裂っぷりが味。丁寧にテクニックを踏まえた演奏だ。 
   NYNDKの他2作ではTony Morenoが叩いてるので、むしろ本盤のスコット・ニューマンがゲストな位置づけか。
   サックスは時にトリッキーな響きも出すが、完全フリーには向かわない。代表例が(6)。
   即興っぽい演奏でも、基本ビート感はキープしてる。

   06年のテナーサックス中心なコンボ・ジャズ。
177・Alan Glover:KingS of infinite space: ☆☆☆
   骨格は正統なハード・バップ。アドリブ・フレーズ聴いてると、コルトレーン・マナーを
   踏まえた、フリーな個所も。この点、現代ジャズと言えるか。
   サウンドそのもののスリルより、様式美の上で駆け抜ける爽快さが魅力。
   ときどき、すごく切ないムードを醸し出す。か細いテナーが特徴の(4)、
   ミニマルな(5)などが特に印象に残った。
   全編を覆う、もこっと粘っこいグルーヴも個性がある。
   がっつり70分の長尺なため、聴きとおすのに時間必要。LP時代だと、2枚組相当か。

   74年の録音で、サックスとビブラフォンのデュオを中心のジャズ。
176・East New York Ensemble De Music:At The Helm:☆☆★
   へなへなセンチメンタル・エキゾティック・ジャズ。アフリカや中東要素を混ぜたサウンドだ。
   サックスの音色や音楽性へ馴染めるかで、本盤の評価が変わる。ゲストも入り総勢7人編成中、4人が打楽器とリズム偏重スタイル。
   闇雲に吹きまくる頼りないフレーズのサックス、ビブラフォンはアラビックなムードを醸し出し力強さも。
   ジャケットのどこにも曲や作者のクレジットがない。全4曲中、一曲はフレディ・ハバードの"サンフラワー"。あとはオリジナルかな?
   2曲目で生々しく中空な響きな、ベースの音色が凄かった。

   85年のジスモンチ。ヴィラ・ロボスの作品集。CARMOからリリースされた。
175・Egberto Gismonti:Trem Caipira: ☆☆☆★
   ブラジル風バッハをはじめとし、大胆なアレンジでヴィラ=ロボスへのオマージュを表現した。
   前編シンセが飛び交うが、打ち込みな堅苦しさやよそよそしさはない。生演奏の味わいも残す。
   チェロにはジャキス・モレレンバウムの名も。ロマンティックさとスペイシーな味わいが混ざった快演奏にして奇盤。くっきりしたメロディが、美しい。


2011年5月

2011/5/15   最近買ったCDをまとめて

   Merzbow関連。10/3/7の共演ライブが元らしい。邦盤で500枚限定の新譜。
174・Mamiffer:Lou Lou… In Tokyo:☆☆★
   "HOUSE OF LOW CULTURE"が一つのプロジェクトらしい。ピアノがゆっくり鳴り、メカニカルなノイズが
   間を埋める硬質なアンビエントが、MAMIFFERの音楽性。なぜメルツバウと共演を、と
   意外な感じだった。たしかに雄大なノイズっぽさはあるが。
   関連性の意味ではHOUSE OF LOW CULTURE名義で03年のアルバム"Merzbow "Frog" Remixed & Revisited"に参加は有り。
   メルツバウとの共演曲(5)は、HOUSE OF LOW CULTUREの(4)そのままな雰囲気から入る。
   沈鬱でループするがグルーヴなギター。その音色は次第に変調する。
   ハーシュノイズ一辺倒でなく、大きな流れを持った演奏だ。
   このライブ映像が同時収録のDVDで見られる(一曲、DVDはCDより多い)。

   元獏のエリーニョによる、2ndアルバムが出た。
173・エリーニョ:コンクリート下の水母について:☆☆☆☆
   舌足らずの歌声と切ないメロディが全開のセンチメンタル・ポップなアルバム。
   旋律がしとやかに耳へまとわりついてくる。アレンジもバンド・サウンド的で
   (5)みたいにアウトロのセッション風もかっこいい。
   さまざまなアプローチや音楽要素を上手くまとめた。

   日本人の若手ラップグループによる、新譜が二種。
172・Earth No Mad From SIMI LAB:Mud Day:☆☆☆★
   けだるいトラックへ上ずる声質のラップが乗る。ゆったりしたグルーヴを強調したトラックが多い。
   女性ラッパーの声も目立ってる。押し付けは最小限、自分のスペースをきっちり
   保った安全地帯を目指すかのようなヒップホップ。
   (5)で"先輩"シリーズの新作が聴けた。

   こちらはインスト、トラックのみを抽出した。
171・Earth No Mad From SIMI LAB:Mud Day Instrumentals:☆★
   "Mud day"の完全カラオケで時間も同じ、たぶんオーバーダブ無し。"Walkman"のアカペラ・テイクは逆パターン。
   本盤収録曲をもとにラップして楽しむもよし、インスト・ヒップホップとするもよし。
   ゆらゆら揺らぐ、独特のノリはサウンドだけでも楽しめる。ただ、家で聴くには
   退屈かな。ラップが乗ること前提のトラックなため。ラップが無い分、BGMにはぴったり。

2011/5/1   最近買ったCDをまとめて。

   邦題は"重力時計"。今まで聴きそびれてた。
170・I.S.O:Gravity Clock:☆☆☆
   ビートの効いたパターンも頻出。ひそやかな電子音の交錯は、肉体的な生々しさを持つ。
   I.S.O.流のダイナミックな展開を見せた。予想以上に派手な音像だ。
   ミニマルさと静寂な電子ノイズの交錯が刺激をばらまく。
   後半の長尺音源がもたらす、持続音による凄みも聴きもの。

   カークとラティーフ、それぞれの作品を2in 1にまとめた再発盤。
169・Rahsaan Roland Kirk:The Case Of The 3 Sided Dream In Audio Color/Part Of The Search:☆☆
   ロバータ・フラック"Killing me softly"のプロデュースでグラミー受賞の、ジョエル・ドーンが
   プロデュースの2作をまとめた。カークはジャケにクレジット無いが隠しトラック入り。
   カークの作品はLP2枚組3面の変則デザインだがCDだとありがたみ無いな・・・。
   豪勢なミュージシャンを集めて演奏はうまいが、雑然とした効果音と細切れコンセプト・アルバムな
   構成がうるさく、するっと聞き流してしまう。圧巻はやはり長尺作品。(14)がベストか。
   歌詞が分からないと、多分楽しめない。ちなみに僕は歌詞を理解しておらず。
   ユゼフもオーバー・プロデュース。スイング風の古めかしいジャズで、
   やたらミュージシャンが多い。コンボ形式っぽいアレンジだから楽曲ごとに
   レコーディングってことか。曲間に妙な小細工してサイケなムードをかもしだす。
   70年代の大仰なロック時代でいかにジャズを売るか、の工夫は分かる。だが両盤ともジャズのダイナミズムや
   即興性が失われ、形式のみ凝った頭でっかちの仕上がりは否めない。
   ファイブ・サテンズ"In the still of the night"のカバーの意味も分からん。なぜこの時代に、このアレンジで。ムード・ジャズっぽい。
   最終曲でのアルト・サックスは渋くてカッコいいのに。
   ジャズ・ファンには薦めない。それぞれの熱狂的マニアかジャズ・プログレの変則版で聴くならあり、っちゃありか。

   ドラムとピアノの即興デュオ。01年にNYのレーベルから出た。
168・Jerry Granelli And Jamie Saft:The Only Juan (The Meeting Of The Juans, Vol. I):☆☆☆★
   一定のテンポを保ったうえでランダムに叩くパーカッションの上に、キーボードを基本のさまざまな
   楽器やノイズが乗るセッション。フレーズやパターンは、わかりにくいがうっすらとあらわれる。
   プログレ、ジャズ、アヴァンギャルド、複数の音楽スタイルを曲ごとで軽やかに行き来した。
   (4)での猛烈な抽象性と静寂を前面に出すなど、コンセプトの焦点を絞ったら
   わかりやすいアルバムになったと思う。サウンド自体はスリリング。ライブだと、より楽しめそう。
   全般でTZADIK作品によくある、粘っこいグルーヴがにじんでる。

   柳原辰夫や立花秀輝によるカルテット。ピットインで03年のライブを収録した。
167・エスパソ:朝朗:☆☆★
   熱く切ないジャズ。サックスのきしみ音が胸に迫る。
   変拍子はあからさまに見せず、じわじわときた。全員が素晴らしくタイトで、
   むやみに突出させずグルーヴを作る。滑らかな耳触りが良い。

   これも聴きそびれの盤。ジョンのサックス・ソロらしい。96年のTZADIK盤を入手。
166・John Zorn:The Classic Guide To Strategy Vol. I & II:☆☆★
   マウスピースや鳥笛による独奏。サックスなどもマウスピースの増幅器と位置付けた。
   甲高い音が続き、聴感はエキセントリック。落ち着きとは無関係だ。
   基本的に独奏のため、アイディア一発の連発で、音の響きそのものを楽しむ音楽か。
   ただし録音時にテープは頻繁に止めてるようで、音の流れは小気味よい連続なのが救い。
   このおかげでノイズの連発が飽きない。楽曲の構成はあまり意識できない。ただ音が即興的に続き、終わる。
   メロディの音域がごく限られるだけに、旋律の概念はほとんどない。
   混沌と突出のイメージなサウンド・スケープとして聴くべきか。
   フリーク・トーンとタンギングにおける、ジョン・ゾーンの突出したテクニックを味わえる一枚。
   ただ、聴くには相当しんどい。

   有名盤のアレ。CDで持ってなく購入。ずいぶん久しぶりに聴く。
165・Miles Davis:'Round About Midnight:☆☆☆☆
   身もだえするカッコよさ。一曲目はたった二管でビッグバンドほどの凄みを見せる。
   じわじわと迫り、どこにも隙がない。抑えたマイルス、突き抜けるコルトレーン。
   すみずみまでコントロールされつつ、根本はアドリブだ。素晴らしい。
   ピアノやベースで隙間を埋めようとせず、ぽおんと空間を強調した。
   だからこそ、ソロの透徹さが引き立つ。
   ピアノが少々引っ込み、ひしゃげて感じる。

   マイルスが50年代前半の吹き込み。今まで聞いたことなかった。
164・Miles Davis:And Horns:☆☆★
   "Dig"(1951)と"Miles Davis"(1955)の間で、プレスティッジで51年と53年の録音音源を使用したアルバム。
   53年は2テナー、1トロンボーンの多めな管編成で、スインギーな味わい。"Floppy"の上品な感じが爽快だ。
   スピードや緊迫感は、ほかのマイルス盤より控えめ。どこか穏やかな印象を受けた。
   ソロのフレーズよりもアンサンブルの勢いに軸足を置いている。
   逆に"For Adules only"だけ、ひときわモダン・ジャズの色合い。テナーの野太いソロが聴きもの。
   51年録音はぐっと張りつめた、モダン・ジャズ色の強い演奏。ちなみに両セッションで共通する
   ミュージシャンはマイルスとジョン・ルイス(p)のみ。51年はtsとtb編成で、tsはソニー・ロリンズ。
   時代のせいか一曲はどれも3分程度の短いもので、ソロもあっという間がもどかしい。
   ダイナミックかつ、ロマンティックな演奏が続く。ペットのソロが綺麗な"Blue Room"が良いなあ。
   別テイク音源は盤起こしなのか、ノイズが目立つ。
   ロリンズのテナーは、豪放さは抑えた場面がぐっとくる。


2011年4月

2011/4/24   最近買ったCDをまとめて。

   GbVのボブが参加したトリオ編成バンドのアルバム。デビュー盤と言っていいのか。新譜。
163・Mars Classroom:New Theory of Everything:☆☆★
   甘酸っぱいロバートのミドル・テンポが詰まったアルバム。ほとんどの曲は
   シンプルにコードが上下する進行の、奇妙な味わいが多いけれど。
   "Wish you were young"はひときわ親しみやすい名曲だ。
   歌詞とメロディがロバート。歌も別の場所でロバートが録音する、得意の郵便録音な作品。

   別ミックスを集めたEP。こんなの出てたんだ。12曲約60分でEPを超えたボリューム。92年発売。
162・Miles Davis:The Doo-Bop Song EP:☆☆★
   基本はファン向け。さまざまな出し入れのバージョン違い。流して聴けるし、じっくり味わっても
   軽快なマイルスのソロがヒップホップと滑らかに溶け合ってるのがわかる。
   クラブ・ビートがわざとらしく聞こえる部分もあるが・・・マイルスが生きて、この路線追求を
   楽しみにしたかった一枚、と今更ながら思う。

   日本人ラッパーを集めたコンピのアメリカ版。2010年発売。こっちがオリジナルかな。
161・Ski Beatz:24 Hour Karate School:☆☆☆★
   日本人ver.を先に聴いたため、純粋に本場の凄みに惹かれるという非常に
   ミーハーな味わいかたをしてしまった。このずるっと引きずる重たさは
   ラップのテクニックと英語ならではの響きと、両方か。ラップの味わいを逆に考えてしまう。

   You tubeで見いだされ、デヴィッド・フォスターもバックアップしたアジアの女性シンガー、1st。2010年発表。
160・Charice:Charice:☆★
   歌は抜群にうまい。予算の関係か、デヴィッド・フォスターの参加も数曲にとどまり
   独特ののぺっとしたシンセ・サウンドに塗りつぶされもしない。
   楽曲は練られて、高らかにメロディが映える。しかし、根本でシャリースのこだわりが
   わからない。歌のうまさを披露するのは良いが、もっと音楽に個性が欲しかった。
   これからの活躍に期待か。歌い上げるさまを楽しむには良いアルバム。

   ちょっと気になった女性シンガーのシングルで2010年発表。一曲入りか・・・。
159・Rumer:Slow(Single):☆☆☆
   落ち着いたメロディとしっとり生演奏が心地よいアレンジ。カーペンターズあたりの
   影響をイメージする、丁寧に作り上げたポップスだ。1曲シングルなのは寂しいが
   じっくり曲を聴くにはこの形態もありかな。

   ライブ会場と通販のみで流通のライブ音源。08年発表。
158・Unbeltipo:Live2006:☆☆☆☆
   構築と生演奏のダイナミズムが詰まった傑作。ライブ音源をそのまま収録でなく、
   曲によっては複数日の公演を1曲に混ぜて編集してる。
   インプロ要素、どこまであるんだろう。緻密なアンサンブル、タイトにキメまくる疾走感が
   たまらない。猛スピードでくねりまくるメロディを、ベースとドラムがしっかり支える。

   発売してたの知らなかった。テクノドン・ツアーの音源。93年発表。
157・Yellow Magic Orchestra:TECHNODON LIVE:
   なんというか、とても残念な一枚。ライブ盤としての魅力は薄い。特に派手な
   リアレンジは無いから。かといって、演奏がつまらないかといえば、幸宏の
   ドラムを筆頭として、タイトな部分はすごい。といってもどこまでが打ち込みかわからぬ面もある。
   音楽が退屈かといえば、テクノドンを中心にミニマル・ポップなテクノは楽しい。
   かといって、新しさがあるわけでもない。つまり、素敵な奏者が手抜きまでいかずとも
   無造作にそつなくこなした一枚、と言える。

   女性DJによる日本人ラップのmix-CD、2010年発表。
156・DJ Chiemi:Rapzuki Japanese Hiphop Mix Vol.1:☆★
   穏やかな日本人ヒップホップのmix。DJのラップで個性を期待したが、それは無し。
   でも、ゆったり流れるパーティ・ラップの静かな爽快感は結構楽しめた。
   ラップの手法もバラエティに富んでて飽きない。

   93年発表、S.S.E.のサンプラー・コンピ。RUINS「Octopus」(Remix)目当てで購入。
155・V.A.:S.S.E.S.S.S. (SSE Solid State Samples):☆★
   パンクやサイケは今聴くと古めかしい曲も。演奏のつたなさも含めて、歴史の記録か。
   だからこそクレジットが皆無なインレイが惜しい。記録性が無い。
   逆に(9)のポコペンみたいな歌唱は、時代を超える。このテイクは少々拙いピッチだが。
   Jewelの(2)はサイケな色合いとさり気ないメロディが良かったな。

   95年アメリカのレーベルから発表の日本人アヴァンギャルドのコンピ。
   これもルインズ目当てで購入。ルインズは、既発音源の別編集みたいだ。
154・UFO Or Die:Bad Sun Rising:☆★
   顔ぶれから激しい展開を想像したのに、センチメンタルなイメージが全編に漂う。アルビニの趣味かな?
   吐き捨てる勢いなパンクのVolume Dealersがまず、印象に残った。奏者の年齢は
   ぐっと若いはずなのに、どこか老成さをどの曲も感じた。
   マリア観音もくっきりしたメロディを強調したミックスで聴きやすい。演歌に通じる切なさ。
   ルインズの楽曲は"Graviyaunosch"に収録。しかし本盤は1分ほどに短くエディットされたバージョンだ。
   ずいぶん軽いサウンドだが、オリジナル録音も同じ。本盤のテイクはエッセンスのみ抽出した印象だ。

   同上の第二弾、同じく95年発表。ルインズ目当てだが、既発と同じ音源かな。
153・UFO Or Die:Bad Sun Rising II:☆★
   ボアを中心の関西勢にVolume DealersやRuinsらを加えた選曲。高音強調の突き抜けた
   録音は、今だと時代を感じる。すっかすかだが勢いあるサウンドはアルビニの好みか。

   細野晴臣によるデイジーのコンピ、02年発表。
152・V.A.:Strange Flowers Vol.1:☆☆☆★
   マイナーなミュージシャンにもスポットを当てたコンピ。通底する
   細かなリズムのグルーヴと、ほのかなメロディ感覚が心地よい。
   アンビエントでも、ミニマルでも、グルーヴとメロディは失わない。これが細野の美学。
   それをどのミュージシャンもがっちり受け止めた。ヘアスタやスケッチ・ショウを入れるより
   (発表当初は貴重な音源だったが)、もっと若手ミュージシャンでまとめて欲しかった気も。

2011/4/17   最近買ったCDをまとめて。

   吉田達也のグループ。ようやく入手した。11年リリースの新譜で、スタジオ作。
151・是巨人:Tundra:☆☆☆☆
   耳を澄ますほど複雑な構成にめまいがする。軽々と疾走する三人の魅力が詰まった傑作。
   アルバムのバラエティを意識しつつ、曲はどんどんかっこよく鳴った。
   がっつり太い音色を保ちつつ、個々の楽器が分離良いミックスが嬉しい。
   ざっと聴きながらスピードに身を任せるもよし、細かい譜割をわくわく楽しむもよし。
   フレーズ毎に音色を変えるギター、がっしり頼もしいベース、
   そして弾け続けるドラミング。一枚で何層にも味わえる傑作。
   途中でスペイシーに突っ込むギター・ソロもいいなあ。

   これはスタジオの即興集と、ライブDVDのセット。09年の発売。
150・是巨人:Swan Dive:☆☆☆★
   CDは楽曲により内橋和久とホッピー神山を招いた。3公演のインプロをまとめてる。
   構築性高い是巨人だが、即興だと逆に是巨人要素をどこに探すか迷ってしまう。
   DVDがベスト盤的なラインナップのそろった楽曲群。ハイテクニックの嵐。

   オカリーナを演奏した98年の作品で、全13曲と短い作品を収録。
149・明田川荘之:風の人〜明田川 孝の思い出〜:☆☆☆☆
   基本は明田川の曲集。録音もほとんどがアケタの店。しかしプロデュースとアレンジを
   坂口博樹に任せ、明田川はオカリーナのみ。ジャズ要素は薄く、
   アンビエントでリラックスできる短い曲を集めた。アドリブがほとんどなし。
   あくまでもアケタの音世界をキュートにまとめた。ある意味、明田川の入門編に良いかも。
   明田川の深夜ライブで幾度か聴いた、"村時雨"が美しい。

   カリブのソカ、アロウの88年リリース。
148・Arrow:Knock Dem Dead:☆★
   打ち込みビートを基本にアッパーな雰囲気をたたきだす。
   ミニマルな展開に、だんだん聞いてて朦朧としてきた。
   どの曲も似たようなテンポで、ぐいぐい押していく。
   ボーカルがカラッと明るい。後半2曲のボートラ・ミックスはテクノっぽさを強調か。
   しかしバラードって概念無いのかな、こういう盤は。

   3人組ソウル・グループ。88年のリリース。
147・Surface:2nd Wave:☆☆☆★
   A面のバラードのほうが素直に聴けるが、B面アップのほうもシンセがブリブリ鳴る
   時代性を割り引いても楽しい。安っぽいアレンジに、いろいろとアイディアを盛り込んだ。

   現、仏サルコジの妻。当時、大ヒットしたそう。02年発売。
146・Carla Bruni:Quelqu'un M'a Dit:☆☆☆★
   語りかけるような歌。時にマイクへ息が生々しく響く。基本の作曲はカーラ自身。
   柔らかくアコースティックなアレンジで、ゆったり響いた。
   ギターなどで全面サポートのLouis Bertignacは仏ロックバンド、Téléphoneのメンバーという。
   セルジュ・ゲンズブールの"LA NOYEE"をカバー。切ないメロディをかすれ気味の声で語りかける。
   全体的に、しっとりと近づいてくるイメージの音楽だ。
   しかし1stでこの完成度はすごい。きっちりアルバムをしとやかな色合いに染めた。

   メロンと伊武がピテカンでライブの音源を編集した、83年のアルバム。
145・スネークマン・ショー:ピテカントロプスの逆襲:☆☆☆
   ライブの笑い声も生録音と思うが、妙におばさんくさいのに時代を感じた。
   軽躁なテンションで駆け抜ける、ニューウェーブなメロンの演奏も含めて。
   サウンドはライブにしては抜けがいい。
   編集は今の耳で聞くと煮詰め方が物足りないが・・・。貴重な記録と思う。

   ミシェル・ンデゲオチェロの4th。ラップでレッドマンが参加の02年盤。
144・Me'Shell Ndegéocello:Cookie: The Anthropological Mixtape:☆☆★
   ひそやかで静かなソウル。ヒップホップのクールネスが全体を覆い、
   しっとり沈んだビートが心をゆったり揺らす。メロディよりもビートがまず
   印象に残り、ミディアム・テンポの洒落たノリに惹かれた。
   思った以上に歌もの要素が薄いアルバムだ。

   ブラジルで97年発売。評判高かったが、聴きそびれてた。
143・Lenine:O Dia Em Que Faremos Contato:☆☆☆
   おおらかなメロディと緻密なアレンジ、締まったビートでスリリングな
   ブラジリアン・ロック。曲により多彩な色があり。古いSF風のジャケットから
   連想するスペイシーさは皆無、熱く細かいサウンドだ。うまくまだ、このサウンドを定義できない。

   黒人3人組のベスト。リアルタイムではピンとこなかったが、今聞いたらどうだろう。
142・Tony! Toni! Toné!:Hits:
   打ち込みの軽薄な盛り上がりに、どうも馴染めない。メロディもいまひとつぐっと来ないなあ。
   何がぼくの趣味と違うんだろう。歌はいまいち、カラオケ聴いてるみたい。
   低音効いたミックスだから、大音量をクラブで浴びたら感想変わるかも。
   バラードだと歌の節回しで、スティーヴィ・ワンダーの影響があからさまに滲んだ。

   英デスメタルで09年の5曲入EP盤。
141・Kill 'Em Dead Cowboy:Darkened Dreams:☆★
   デスメタルのボーカルを中心に歯切れ良いギター・リフが突き進む。
   単なる様式美を突き抜けた勢いが魅力か。ボイスを曲によっていきなり左右に振ったり、
   録音に凝りたい志向もありそう。わずかにメロディアス。

   イタリアのエレクトロ・ポップのデュオ、07年作。3曲ボートラ入りの邦盤を入手。
140・Gonzo48k:Hi-Fi Lovers:☆★
   ふにゃっとやわらかいボーカル、軽やかな打ち込みビート。エレクトロ・ポップ好きなら
   はまるかも。メロディも柔らかいし。ぼくの好みだと、ちょっとフカフカすぎるかな。
   曲によってはテクノなアレンジがひねられてて楽しい。

   自主制作で00年にリリースしたヒップホップのEP。
139・The Pharcyde:Chapter1- Testing The Waters:☆☆
   ケース裏の写真が本盤の印象を象徴してる。妙にもこっとしたサイケなラップ。
   ゆったりしたノリで気持ちいい。サンプリングが折り重なるトラックも良い。
   ラップは数人が無造作に語りつつ、グルーヴはしっかりあり。曲ごとに表情が違う。
   ほのぼのな(1)が一番好みかな。(4)も同じ印象だ。

   ケルト系の女性シンガーの91年ソロ・デビュー作。
   82年から94年まで活動し3枚のアルバムを残した、カンサスのケルト・バンドScartaglenでキャリアをスタート。
   91年リリースの本盤は、バンド活動解体の時期にあたる。録音はすべてエジンバラ、共同プロデュースは同地のPhil Cunningham。
138・Connie Dover:Somebody:☆☆☆★
   参加ミュージシャンもクレジットにバンド関係者の名前は見当たらない。
   コニーの気持ちは、既にケルトへ向かっていた。しかし単にケルト至上主義じゃない。
   "Jack of diamonds"は19世紀のミズーリ州の歌をスコティッシュへ置き換え、
   "Shenandoah"はミズーリ州の労働歌。アメリカ人のアイデンティティも
   きっちり提示したデビュー作とわかる。さらにオリジナル曲も数曲投入してる。
   歌声が美しい。一曲目から切ない歌声へ強烈に引っ張られた。
   リバーブがかかった録音は、奥行深い幻想性を演出する。しかしシンセのアレンジは判断に困る。綺麗だけど、きれいすぎる。
   のびのびと歌うコニーの魅力は、どんなアレンジでも揺るがないけれど。

   英黒人女性シンガーのアルバム。03年作。
137・Des'ree:Dream Soldier:☆☆
   穏やかなソウル。あからさまなグルーヴは無く、トラックの基調もかっちりした
   ビートだ。そこを漂うボーカルが、静かな揺らぎを産み出す。丁寧な
   メロディが一つの流れを作る。じわじわと。

   フュージョンのロベン・フォード(g)によるトリオ。ドラムのヴィニー・カリウタに惹かれ入手した。02年の発表。
136・Jing Chi:Jing Chi:☆☆☆
   個々のアレンジや演奏はすごい。テクニックをひけらかさないが、やってることは複雑。
   ひっかける複雑なビートをタイトに決めるドラムの上で、
   うねうねとベースが動く。ギターはサイケだ。ある程度テーマを決め、
   中間はギター・ソロの構成か。ただしドラムもベースも単なる伴奏にはもちろんとどまらない。
   とはいえプロデュースがいまいち。アレンジが散漫なところもいくつか。
   編集をもっと極端にするか、エンディングをかっちり決めれば、だいぶ印象変わったと思う。
   フリーの応酬ってわけでもないし。オルガンなどゲストも曲によって取り入れた。
   ハード・エッジでルーズなフュージョンってとこか。
   カリウタの変則ドラミングを堪能したい向きにはおすすめ。

   ノーインプット・ミキシング・ボードのインプロ。08年の作でイベント用に作曲したらしい。
135・中村としまる:Dance Music:☆☆★
   静寂を貫き、さまざまな周波数の音が立ち上がる。耳を澄ますほどに、日常の雑音と
   混ざりながら、突き抜ける。高周波を聴きとれていないはずなのに
   耳の奥へ何か詰まったような圧迫感が続く。鳴りつづけているのか、音が。
   ストーリーを探したくなる一方で、うっとりと眠りに誘われる。

   帯によるとヒップホップを通過したジャズ・ファンクらしい。04年の盤。
134・Plate Fork Knife Spoon:Plate Fork Knife Spoon:☆★
   シンプルなフレーズをそれぞれが演奏することでグルーヴを出すファンク。
   メロディはサックスやキーボードが受け持つ。かっこよくクールなコンセプト。
   これがぐっとボリュームを上げて聴きたい。小さい音量だと、つい聞き流してしまう。
   派手さは控え、ひたすらリフの積み重ねで追い詰める。

   帯によるとガムラン演奏にキーボードをダビング、とある。キッチュさを期待し入手。
   90年のインドネシア盤をオフィス・サンピーニャが帯をつけて日本発売した。
133・Sabilulungan, Suara Parahiangan Group:Campur Sari, Sudanese Instrumentalia:☆★
   揺蕩うガムランのリズムは勢いが穏やか。ゆったりとハマる。
   シンセもさほど極端にかぶさらず、むしろ代用品的なイメージが。
   したがってBGMにはいいが、毒の観点では物足りず。
   曲調はやたらめったら、ミニマル。

   ミニマル・ドローン作品。06年発表で300枚限定。小電力変圧器3個のノイズを、マイクのポジションを変えつつ録音した音源へ、
   Friedlの民族楽器シンバロンとGunterのエレクトリック・セロター等を加えて制作らしい。
132・Bernard Günter/Heribert Friedl:Trans:☆☆★
   メロディは無く、軋む音が全編を包む。むわっと低音が広がり、鋭い切り裂きは
   じわじわと空気をいたぶる。緊迫する音色な一方で、雰囲気は妙に寛ぐ場面も。
   金属の荒野で風がたゆたう様をイメージした。音像はほとんど変化せず、45分あまりを淡々と過ごす。
   後半は丸い金属音をリバーブ利かせた音像に変化した。ちょっと神経に触るアンビエント。

2011/4/3   最近買ったCDをまとめて。

   大ヒット作の30周年盤。今回はカラオケを収録した。
131・大滝詠一:Long Vacation(30th edition):☆☆☆☆☆
   ほぼリアルタイムで本盤と付き合い、何度のもリイシューを乗り越えた今。もはや、自分史に付き合うかを
   本格的に考えてきた。音楽は素晴らしい。それは、疑う余地はない。60年代ポップスを巧みに咀嚼し
   華やかでアグレッシブな傑作に仕留めた一枚だ。
   だが、磨きつつも新たなメディアで過去と同一の輝きを求めるさまに、そろそろ食傷かも。
   ハイエンドのオーディオで本盤を聴いたら、間違いなく惹かれ方は変わると思うが。

   達郎の新シングルはドラマの主題歌。カップリングは最新ツアーのライブ音源。
130・山下達郎:愛してるって言えなくたって(single):☆☆☆☆
   09年ライブ音源で最前線な現役アピールのカップリングが嬉しい。
   タイトル曲は基本、多重録音。そこへ弦を自然にかぶせた。粘っこい節回しを
   しみじみ聴かせるあたり、達郎のキャリアだ。

   Rovoの新譜。"Sino"は再アレンジかな。
129・Rovo:Ravo:☆☆☆☆
   がっつり骨太で、安定した仕上がり。スタジオのきれいな音で、ライブみたいな迫力がかっこいい。
   4曲の長さはちょうどよく、ミニマルさに浸りながら気持ちよくなれる。
   "BAAL"のスネア連打にストーンズの"アンダーカバー"を思い出した。

   YMO前夜のソロ。ちゃんと聴いてなかった。78年の録音。
128・坂本龍一:千のナイフ/ THOUSAND KNIVES:☆☆☆★
   柔らかなシンセの音色は肉体的だ。ギターなどにもふんだんにソロのスペースを与え、
   セッション的な要素も感じる。自らの音楽を多重録音で積み上げつつ、
   生演奏のダイナミズムを忘れない。小刻みなリズムで複雑さを出す手法は
   すでに存在し、メロディよりもビート志向のかっこよさを感じた。
   荒削りではあるが、後年の緻密さがうかがえる一枚。

   06年発売、"Chasm"(2004)のリミックス集。
127・坂本龍一:Bricolages:☆★
   発表に至る経緯を知らないが・・・ほとんどのリミックスは単調な沸き立つ電子音が中心。
   アジアの言葉をミックスしてるのも、なんだか気になった。
   全編を通して、とろっと退廃的なムードが漂う。

   これもYMO結成直後のソロ。80年の作品。
126・高橋幸宏:音楽殺人:☆☆☆★
   キャッチーなメロディ、フランジャーのかかった独特な歌声、威勢の良い
   ニュー・ウェーブなアレンジ、そして重たくタイトなドラミング。
   勢いあった当時の空気をポップに詰め込んだ。聞き漏らしてたのが残念。
   この軽みは好みと違うのに、ぐいぐいと惹かれる。
   YMOの繊細なとことユーモラスなとこ、双方が幸宏の要素だったと実感する一枚。

   KUWATA BANDやソロを集めた2枚組ベスト、02年発表。
125・桑田佳祐:Top of the pops:☆☆☆☆★
   まさにベストな、桑田ソロを集めた盤。珍しい曲やシングルのみの楽曲も見事に纏まった。
   サザンとは違う瑞々しさと内省さを、怒涛のポップぶりに込めた。
   敢えて色づけるならば、当時の最新曲まで見据えたヒット曲集のDisc1と、
   Kuwata Bandやソロのレア曲、アルバム収録の良曲を混ぜたDisc2。
   サザンの枠に収まらぬ下世話さと自由っぷりを堪能できる。


2011年3月

2011/3/6  最近買ったCDをまとめて

   ボブの最新スタジオ盤。
124・Robert Pollard:Space City Kicks:☆☆☆
   たぶん、デモを丁寧に磨いたんだろうな。あまりにも一貫性無く、淡々と短い曲が
   続く、ロバート独特のスタイルなソロ。アップよりも穏やかな楽曲が印象に残る。
   切なく、しかしセンチメンタルに流されず。ドップリとサイケなトバイアスのアレンジも良し。
   曲によってはギター・ストロークをぐっと生かし、オーバー・プロデュースを避けた。
 
   ボブ関係の新譜で、久しぶりのライフガーズが発表された。
123・The Lifeguards:Waving At The Astronauts:☆☆★
   歌詞だけ、とクレジット見る限りロバートはメロディも書かず歌詞と歌だけのようだ。
   楽曲と演奏のほとんどが、ダグ・ギラードの多重録音。そのせいか、けっこう大味な
   ロックのメロディが続く。サイケな風味はダグの味わいと思うが
   エコーのかかりかたなどで、ロバートっぽい出来な場面も。
   あくまでファン向けか。ロバート特有のしたたりおちるメロディとは違うスタンスだから。
   録音はNYのスタジオとある。ロバートもNYまで移動して録音したか。

   3インチシングル。マゾンナやメルツバウを収録。雑誌"Frieze"のオマケらしい。97年発。
122・V.A.:Frieze:☆☆
   絶叫とハーシュの海に溺れるマゾンナが一番インパクトすごい。メルツバウは脈動する電子ノイズ。
   各々がてんでに音源を持ちよった感あり。

   92年のコンピでジョン・ゾーンらの音源を収録した。
121・V.A.:Yearbook Volume 2:☆★
   無機質な即興で、力任せに突っ走るジャズ。今聞くとさすがに古臭さもあるが、
   当時のサウンドが好きな人なら応えられぬ人選だ。ライブ音源集で、希少さもあるかな。
   時代を超えた普遍性の観点では、いまいち。アイディア先行さが気になる。

   57年発表、西海岸ジャズ。アルト入りのカルテット。
120・Paul Togawa Quartet:Paul Togawa Quartet:☆☆★
   上品なジャズ。クールだが破綻無い。でも、じっくり聴くと微妙なリズムの
   アンサンブルに工夫あり。軽快なサックスとピアノに惑わされるが。
   とはいえ、全体はスムーズで頭を悩ませぬ、すかっとしたサウンドだ。

   今まで聴きそびれていた。86年のアルバム。
119・冨田勲:展覧会の絵:☆☆☆☆
   シンセの人工音で生オケに負けない質感と新鮮なアイディアを両立させた一作。
   今聞いても古びさを突き抜けた斬新さ、普遍的な音色のキュートさが残っている。
   膨大な手間を惜しみなくかけ、がっぷりシンセと向かい合った傑作。
   アナログ・シンセのぶっとい響き、今ではむしろ新鮮かもしれない。
   楽曲をスペイシーな音色へ、単純な置き換えが目的ではない。時にコミカル、時に深淵に。
   シンセの魅力を追求した。

   2枚組のラヴェルのピアノ作品集。67年の録音らしい。
118・Samson Francois:Ravel: Piano Works:☆☆☆☆
   ラヴェルによるピアノ独奏曲のほとんどを収録した2枚組。
   リバーブ利かせた録音で、ロマンティックに弾き連ねる。ダイナミズムをたっぷり、
   メロディの歌わせ方は、時に極端なほど。しかし、上品なクールネスを持った演奏だ。
   67年の録音で、時にテープヒスが入るけど、聴きごたえある素敵な音楽。

   84年の録音、ほかにシェーンベルクの弦楽三重奏(o.p.45)を収録。
117・Lasalle Quartet:Schoenberg: Verklarte Nacht, String Trio:☆☆☆☆
   ラサール四重奏団の活動は1946-87年、本音源が82年だから後期の収録になる。
   ピチカートも含め、柔らかな響きの解釈だ。滑らかに進む。ダイナミズムが
   薄いのは、録音のせいもあるんだろうか。新ウィーン楽派以降をレパートリーに
   していたカルテットだそうで、本盤などは面目躍如ということか。
   "浄夜"の鋭い響きも丸みを帯びさせ、ふくよかでロマンティックに仕上げた。
   歯切れよりも荘厳さや落ち着きを選んだ解釈だ。最後は消えるように、すっと閉じる。
   同じくシェーンヴェルクのop.45は、いくぶん硬質だ。ピチカートにも鋭さあり。
   楽曲は穏やかにメロディを積み重ねる、緻密な風景。前衛へ向かう過程の凛々しさを感じた。

   シェーンベルクの"浄夜"、弦楽四重奏を聴きたくて2種を購入。
   本盤は06年作。アルバン・ベルクとシュトラウスの作品も収録。
116・Artemis Quartet & Valentin Erben, Thomas Kakuska:Verklarte Nacht:☆☆☆★
   厳かなドイツの弦楽四重奏。コンサートのようなプログラムのCDだ。
   鋭く滑らかに弦がきしむ。さくさくと歯切れ良いムードと、重厚さを併せ持つ展開が素敵だ。

   ポッドキャスト"Cosmopolyphonic Radio"にも参加の日本人トラックメイカーのデビュー盤、2010年発表。
115・RLP:Works:☆☆☆
   短いフレーズを組合せたテクノ寄りのブレイクビーツ。ゆったりした曲でも
   ダンサブルさがしっかりあり、つねにフロアを意識させた。ミニマルなアレンジが
   多いが、耳触りは親しみやすい。浮遊感あるグルーヴに、カチッとエッジの立った
   音色やサンプリングでアクセントつけるのが特徴か。

   07年発表の日本人ラップのコンピ。
114・V.A.:DOPE CONNECTION VOL.1 ~8TH ANNIVERSARY~:☆☆★
   横浜のインディ・ヒップホップ。パーティ的なアプローチが多いかな。
   トラックはどの曲も凝っており、バラエティ富んだアレンジが続いて楽しめる。
   ラップのスキルは荒削りな魅力だ。層の厚さがすごい。

   02年の二人組日本人ラッパーの作品。
113・THA BLUE HERB:Sell Our Soul:☆☆☆★
   ひしゃげたサウンドは細かく複雑に絡む。若々しいラップへ老成したトラックがぶつかった。
   二つの要素がクールに昇華したカッコよさ。ぐいぐい刻むリズムのセンスがすごい。
   ラップでは、13分にもわたる作品の濃密さが圧巻。
   ググッとうねるサイケなトラックもいいな。

   日本人トラックメイカーかな。09年の作品。
112・Blu-Swing:Revision:☆☆☆☆
   ジャズを下敷きの涼やかなブレイクビーツ。隅々までアレンジされ、聴いてて素晴らしく心地よい。
   透き通る女性ボーカル、爽やかなギターのフレージング、うねるベース、軽く跳ねるキーボード。
   バンドのうねりが、打ち込みビートでもしっかり感じた。
   BGMでもよいが、くっきりしたリズムを基本のサウンドは細かく聴いても味わい深い。

   NMD関係の作品。S-WORD, BIG-O, DABOがゲスト参加した03年の盤。。
111・AQUARIUS Feat. :オボレタ街:☆★
   シンセののぺっとしたトラックが全編を覆う。ニトロらしいスピーディなラップは爽快だが、
   トラックとの相性がちょっとピンとこない。

   日本人ラップ。札幌が拠点で02年のデビュー盤。
110・MIC JACK PRODUCTION:Spiritual Bullet:
   スカスカのトラックの上でまくしたてる集団ラップ。スピーディだが
   どこか素朴なにおいもあり。サウンドがこもってるせいかもしれないが、
   もっと派手なアレンジにしたら、輝きがぐっと映えるかもしれない。

   日本のヒップホップユニット。09年の作品。
109・Stilla-mode:Lovexperience:☆☆★
   2人のMCに一人のトラックメイカー、三人組。洒落たムードとビートが軽やかなヒップホップ。
   サウンド全体に埋まったラップが、スピーディだがひそやかな雰囲気を漂わす。
   ループが中心ながら、どことなく生演奏っぽい肌触りも。
   アルバム全体に通じる、凛と涼やかさがとっても気持ちいい。
   リズムはソウルやブラジルあたりが中心かな。繋ぎも滑らか、良いなあ。

   3人組の日本人女性ラッパー。本作が1stで2010年作。
108・DERELLA:SHE'LL:☆★
   蓮っ葉な女性3人組のラップ。力任せなところあり、勢いに馴染めるかで
   本盤の評価が変わる。ちなみにトラックのミックスがえらく立体的。
   ぞくっと来るスリルあり。録音とミックスはDJ Show。
   このサウンドだけで、本盤を聴く価値が十二分にあり。

   マイアミのトラックメイカーによる06年のアルバム。
107・Induce:Cycle:☆☆☆
   チルに適した曲調、穏やかなテンポのヒップホップがクール。波打つグルーヴへもやもやと上物が絡む。
   ブックレットはポップな写真が幾葉も使われ、爽やかなムードを強調した。
   しかしくつろぎだけにとどまらぬ緊迫感もサウンドにはあり。
   つんのめるループによるビート・パターンが特徴か。
   ラップは控えめ、あくまでトラック主体の音楽。
   8分ほどの1曲を除くと、5分前後の短い尺で次々曲が変わる。全体の印象は
   どれも似通っているため、ぼおっと聴いてると曲の切れ目がわからない。

   レゲエっぽいセネガルのグループ。ポルトガル盤、97年。
106・Toure Kunda:Les Freres Griots:☆☆★
   最初はレゲエ風と思ったが聴きすすむにつれ、しぶといアフリカン・ビートが現れる。
   ミドル・テンポに良い曲が多い。しかしレゲエ風の曲が単調なだけに
   アルバム全体だと、散漫な印象も。でも"Mango"が良い曲。

   マリの黒人シンガー。打ち込みを取り入れてるらしい。99年の作品。
105・Issa Bagayogo:Sya:☆★
   たるっと穏やかなグルーヴ。打ち込みリズムを取り入れたアプローチは、逆に
   新鮮さをぬぐい、中途半端な行儀良さを産み出した。
   群唱と淡々なリフがかみ合うさまは、ゆったりと高揚する。
   いっそミニマルな感覚で聴いたら楽しいか。
   その割にアレンジは静かに変わるのだが。

   TZADIKの06年発表、女性バイオリニストの作品。
104・Carla Kihlstedt:Two Foot Yard:☆★
   基本はVlnとチェロ、そしてドラムの編成、2 Foot Yardがバンド名義だそう。これが1st。
   本名義では2008年に"Borrowed Arms"もしリリースしてる。
   。カーラは曲により弦をダビング、さらに歌ものも交え親しみやすいサウンドだ。
   時にポップ、時にブルージー。バスキングっぽいところも。
   きっちりしたテクニックを備え、丁重なアンサンブルを聴かす。
   中盤は抽象的な音楽も混ぜ、バラエティに富みつつ、とっ散らかった感も否めない。

   ショーターらが参加した65年のスタジオ作。未聴だった。
103・Miles Davis:E.S.P.:☆☆☆☆★
   躍動感あふれるアップの曲がすさまじい。マイルスのペットは鋭く切り裂き、
   トニーのハイハットが切れ味鮮やかな刻みっぷり。細かくハイハットを聴くと
   微妙にパターンを変えつつグルーヴを揺らしてるのがわかる。
   これはすごいジャズだ。ゆったりした曲でも、アンサンブルの緊迫が薄れない。

   エレクトロニカかな。日本のレーベル"涼音堂茶舗"のベスト盤、2005年発。
102・Various Artists:the best of ryoondo -tea "玉撰":☆☆☆
   静かなクリック音の積み重ねをトラックに構成するアレンジが気に入った。
   穏やかで落ち着いたテクノが詰まった好コンピ。明るい空気で寛ぐのにぴったり。
   それでいて、ほんのりリズミックなところもいい。

   マイアミのストリート・バンドらしい。2010年発表。
101・Rumberos De La 8:Rumberos De La 8:☆★
   基本はパーカッションと群唱。ラテン+アフロの臭いがプンプン漂う。
   タイトさよりゆらぎを強調したグルーヴだ。メロディはシンプル、むしろミニマルな
   楽しみが先に立つ。曲によってボーカルが変り、アルバム全体はバラエティに富んだ。
   ちょっと地味だが、くつろげる一枚。


2011年2月


2011/2/13   最近買ったCDをまとめて。

   ホロヴィッツの晩年録音をまとめた7枚組の廉価版ボックス。10年発売。
100・Horowitz:Complete recordings on Deutsche Grammophone:☆☆☆☆
   晩年のホロヴィッツを手軽に聴ける。オリジナル・シーケンスなため
   当時の雰囲気も味わえた上で。全体的に壮絶に指を回しながらロマンティシズムを失わぬ胸のすくピアノが味わえた。
   個々のディスクについても、簡単に感想を書いておこう。

Disc 1 "The Last Romantic"☆☆☆★
   乾燥と温かさが同居する、不思議な雰囲気。ホロヴィッツは80歳、映像作品のために
   自宅で収録された演奏。(1)のバッハにぐっと来た。全般的にふっくらしたムードだ。
   モーツアルトK.330、第二楽章のピアニッシモの暖かな響きが素敵。
   シューベルトの即興曲も情緒たっぷりに弾きぬいた。弱音からの立ち上がりが美しい。
   シューマン、ラフマニノフとロマンティシズムが空気を貫く。

Disc 2"The Studio Recordings - New York, 1985"☆☆
   煌めく高音の転がりが美しい。全体にもやっとした感じするが
   ダイナミックにテンポを動かしつつ、上品さを保つ見事さ。情感の出し入れが絶妙だ。
   クールに弾くところと、ロマンティシズムほとばしりな個所と。
   ただまあ、他の盤に比べたらぐっとくる魅力を捕まえられなかった。

Disc 3 "Horowitz In Moscow"☆☆★
   やたらに拍手の音がでかい。その割に演奏中は、ほとんどノイズ無い静けさ。
   柔らかく転がるタッチで、ピアノが歌う。スカルラッティやモーツァルトは
   クールだが、リストやシューマンでは思いっきりためた演奏。ふり幅大きさを楽しめるライブ盤だ。

Disc 4 "Horowitz plays Mozart"☆☆☆☆
   ピアノ協奏曲作品23番(K.488)と独奏ソナタ(K333:315c)を収録した。
   前者はカルロ・マリア・ジュリーニ指揮、ミラノ・スカラ座管弦楽団と共演だ。
   K.488はしゃっきりと爽快な演奏。ピアノも瑞々しく跳ねまわる。
   スピーディかつメカニカルなほどくっきりした輪郭のオケへ、ピアノがガップリハマる。
   それでいて、胸苦しく切ない。なんと素敵な演奏だ。
   ピアノ・ソナタもふっくらしたエコーが心地よい。滑らかにアクを消してキュートな響きだ。

Disc 5 "Horovitz at home"☆☆☆★
   モーツァルトのピアノ・ソナタ3番から始まる、穏やかな演奏。静かな空気が広がる。
   高音部はみずみずしい響きだが、なんとなくリバーブ成分が多い印象。録音のせいかな。
   寛ぎつつ、奔放な印象。やたら極端な表現を多用する場面もあり。

Disc 6 "The Poet"☆☆☆☆
   時代のせいか、上品で静かな録音。ぐいぐいとボリュームを上げて聴く。本盤はシューベルトとシューマンを収録した。
   まずシューベルトのピアノソナタ第21番(D 960)。フォルティシモでも音は柔らかい。
   幅広いダイナミズムと、フォルテとピアノが同居する音像へうっとり。
   主旋律をひときわくっきり鳴らす、左手などのタッチの絶妙さに圧倒された。
   シューマン"子供の情景/Kinderszenen Op.15"も譜面見ながら聴いたら、響かす音と
   下がる音の音量バランスがすさまじくてびっくり。本当に綺麗なコントロールだ。
   本盤ではタッチは強め、ロマンティックで凛とした響き。
   これをライブで聴けた観客は、さぞかし気持ち良かったろう。

Disc 7 "Horovitz in Hamburg The last concertat home"☆☆☆☆
   鋭利な美しさが炸裂する。録音は輪郭がくっきりして、ピアノのダイナミズムをたっぷり
   表現した。ドラマティックな表現を強調する。フレーズを存分に揺らして
   甘く歌わせつつ、一音一音がソフトにひろがった。
   パワーと構成力、双方がきっちり成立してる素晴らしさ。

   ようやく入手。Nyaaanoが率いるmetaphoricの2010年アルバム。
99・metaphoric:onfirmed lucky air:☆☆☆☆
   しとやかな酩酊。電子音がゆったり響くアンビエントだ。メロディは
   うっすら漂うのみ。しかしフレーズ感覚が強烈に残る。穏やかな寛ぎと同時に
   ひりひりした緊迫さがある。一曲を長尺にせぬのも、コンセプトか。
   CD一枚1曲でも成立しそうだが、本盤ではそこまで伸ばさない。
   これがバラエティ豊かな展開につながる。ストーリー性とは違ったベクトルで。

   SFをテーマに作ったらしい、日本ヒップホップの新譜。
98・Dotama:Holyland:
   猫撫で時々シャウトなラップの声質へ馴染むまで時間かかった。スムーズにすいすい滑るようなラップ。
   ライムはストーリー性は希薄で、言葉のイメージが世界を作る。
   集中しないと聞き取りづらいラップなため、ほんのりスペイシーな世界観を楽しめる。
   中途半端に尖ったビートは、ダンサブルさの合間を漂う。
   ストリングスのサンプリングが涼やかな(4)、抽象的なビート感な(7)、
   電子音とアコギが絡む(11)が印象に残った。

   Zeebraらをゲストに招いた新譜のシングル。
97・SEEDA x S.L.A.C.K. x ZEEBRA:White Out:
   明るいムードのトラックに、もじもじとラップが乗っていく。パーティ・ラップとは
   全く違うムードだが、軽くつぶやく印象が残った。

   佐野元春のリミックス集で"The Circle"から出た94年のEP盤。
96・佐野元春:Dance Expression of the circle:
   妙に明るいハウスのリズムが淡々と流れる。リラックスを狙ったのか。
   ロックのスピードさが欠落してしまい、物足りなさが。
   "Rain Girl"はゆったりレイドバックなムードを、ちょっと楽しめた。

   09年に出た3枚組なスカのコンピ。初期の音源集のようだ。
95・V.A.:Beginner's guide to SKA:☆☆☆★
   コンパクトなパッケージ、シンプルながら一曲ごとの解説も付ける丁寧な仕事。
   幅広い初期スカの選曲もすごい廉価版。値段の価値は十分にあり。
   音質は盤起こしかな?ちょっとこもってる。スカは詳しくなく、選曲へのコメントが
   できないけれど、手軽にスカへ親しむには素敵なコンピだと思う。
   ほんのりアグレッシブで、スマートなグルーヴが詰まった。
   各盤にも選曲コンセプトあるようだ。Disc1がジャマイカの初期ダンスホール・スカ、
   Disc2がロックステディや初期レゲエを通過したスカ、UKでのヒット曲を集めたらしい。
   Disc3が2トーンや80年代以降の作品。すなわちスペシャルズなど。
   最大でも同一ミュージシャンは3~4曲まで。多彩な音源収録を狙ったようだ。


2011/2/6 最近買ったCDをまとめて。

   Hunting Pigeonsの作品を、旧譜もまとめて入手した。
   09年発表、これが1st EPだったかな。5曲入り。
94・Hunting Pigeons:Haunted Visions(Single):☆☆☆
   シンバルが逆回転かジェットマシーンのように響き、サイケなムードを醸した。
   甘いメロディ・ラインは本作でも健在。バンド・アレンジだが疾走感はあえて抑えた感触だ。(2)でイッセキの弾く
   オルガンの寂しげな音色が、本盤のイメージを象徴した。
   裏ジャケにある"宅録は音楽を殺し、非合法だ"って反語的なキャッチフレーズが、妙に印象深い。
   もちろん本作は、宅録な仕上がり。
   楽曲では畳み掛けるフレーズの(3)が特にいい。

   2ndEP,これも5曲入り。
93・Hunting Pigeons:Bird Rock(Single):☆☆☆
   ギター・トリオ編成で、イッセキはオルガンもダビングしてる。
   ボーカルだけドライにして、くっきり浮かび上がらせたミックス。
   ざくざく刻むバンド・サウンドを後ろに控え、歌を強調した。
   ドラムのアレンジが絶妙で、曲中でもイメージをコロコロ変える。
   シームレスに流れる4曲だが、(3)と(4)は余韻を残して一呼吸つけた。
   バンドとソロ、立ち位置に迷うかのような一作。ただしイッセキのメロディは本作でも
   じっくり聴ける。特に(4)の旋律へ力を感じた。

   2011年発売、フルアルバムの最新作。
92・Hunting Pigeons:Honeycomb Jukebox:☆☆☆
   寛いだ印象。生演奏にこだわりつつ、性急さは減じた。穏やかなロック・アルバム。
   イッセキ特有のセンチメンタルな甘いメロディはそのままに、録音そのもので遊んでる印象だ。
   象徴的なのが(12)。セッションそのままのようすを、ひたすら長くつなげた
   エンディングが面白い。宅録の密室性とも、ガレージ的な乱暴さも、不思議とつながらない。
   デモテープっぽい荒っぽさもない。とはいえ緻密な整合性も狙ってなさそうだ。不思議な方向性。

   女性ソウル・シンガーの01年、2ndアルバム。
91・Angie Stone:Mahogany Soul:☆☆☆
   打ち込み中心のビートにかぶる、生演奏のギターやキーボードがグルーヴィ。
   シンプルなアレンジで、アンジーはのびのび歌った。多彩なプロデューサーを
   立てながら、サウンドに統一感あるのはマスタリングの技術か。
   ゆったり楽しめる、硬質ビートのソウル。

   ニトロ関係のラップ盤をいろいろ入手。
   02年のソロアルバム。
90・MACKA-CHIN:CHIN NEAR HERE:☆☆
   ハガキ付き観光ガイドを模したジャケットデザインが楽しい。
   テクノ要素強いバックトラックにラップを埋め込み、トータルでコミカルな
   イメージを漂わす、独特のラップ世界を産み出した。声の加工を頻繁に施し
   プラスティックな世界観を見せる。

   02年発売のシングル。
89・MACKA-CHIN Feat. SUIKEN:ORIENTAL MACKA(single):☆☆☆
   3曲入りシングル。客演にSUIKENとTWIGY。前1stシングル"BRASIL BRASIL"から7か月ぶりに発表した。
   ポコポコ鳴るビートでオリエンタルさを表現か。
   前のめりにまくしたてる(1)からゆったり寛ぎエスニックな(2)へ。広がりあるトラックへ
   3拍目をグイッと伸ばすラップがきれいにハマった。すごくいい。
   (3)は一拍がモタって、つんのめらすビート。ダブ風の構成で揺らす。三曲とも違うアプローチで
   バラエティに富んだ一枚。

   03年のソロアルバム。Macka-chinやSuikenも参加。
88・XBS:Exclusive Benefit Story:☆★
   ギャングスタなノリだがリズムやアレンジはパーティ・ラップ風の明るさが。
   じわじわとまとわりつくビートだ。XBSのラップは低音でたどたどしく、
   ソロ作品だと単調な場面も。ゲスト招いたトラックのほうが楽しめた。

   01年発売のシングル。アルバムのシークレット・トラックへラップ載せた曲という。
87・SUIKEN:Brasil Brasil(single):☆★
   リミックス2曲と同インスト2曲。実質は1曲だから、要するにバージョン違いのシングル盤。
   だが軽快なビートと明るいラップで押す賑やかさで、あんがい楽しめる。
   メイン・ミックスのサビ部分がキャッチーだ。

   Suikenが中心のユニット。05年のシングル。
86・blackCOFFEEZ:black COFFEEZ(single):☆★
   レゲエがスカスカな一曲目で拍子抜けしたが、ヒップホップ・ファンキーを
   ストレートに表現した(2)に惹かれた。大勢のラッパーが参加ゆえの混沌が楽しい。
   逆に(3)はヒップホップ・ファンクが表面的にするっと抜け落ちてしまう。
   「Yes×888」,「BUDZGOOD」,「SUGER BOOGIE」の3曲収録、当時TOWER RECORDと新星堂のみの
   限定発売というネット記事を見つけた。多数のラッパーによるマイクリレーを
   楽しむユニットか。スカスカのトラックへ乗るライムは言葉の響き重視のようだ。

   S-WORDによる、03年発売のシングル。
85・S-WORD:FIGHT FOR YOUR RIGHT(single):
   Beastie Boysのカバーがタイトル曲。ひねらず、あっさりカバーしてる。カップリング曲も
   重たさを狙ったか、淡々と進む。ちょっと地味。

   これも、03年発売のシングル。
84・S-WORD:WRAP MUZIK(single):☆★
   メロウなテンポに蓮っ葉なラップが、むしろ底の浅い拙さを感じてしまった。本盤では肉感的な奥山ミナコの
   歌声が、何よりの魅力。がつんと骨太かつのびやかな声を聴かせた。
   ラップ面では(3)のMUROをゲストに迎えた曲のほうが良かったな。これはトラックも
   軽やかな空虚感が心地よいし。

   04年発売、ミニアルバム。DELIらが参加した。DVDつき。
83・DABO:6 Bullets:☆☆
   ギャングスタ土台ながら本質はパーティ・ラップ。楽しさを意識した丁寧な作りで
   トラックとラップの溶け具合を楽しめる。

   02年発売、ソロアルバム。
82・DABO:HITMAN:☆☆
   B級っぽいジャケットと企画ながら、ラップそのものはドライブ感たっぷりの
   DABOらしい味わい有り。なぜこのテーマを選んだのやら。

   02年発売のソロ・アルバム。
81・DELI:DELTA EXPRESS LIKE ILLUSION:☆★
   サイレンのように甲高い声を投げるラップ。ほんのりリバーブかかったサウンドで響いた。
   スピーディではあるが、一本調子な気も。むしろマイクリレーでこそ
   彼の個性が際立つ。だから次々マイクリレーの(5)が特によかった。
   トラックはパーティ・ラップ的な明るさがある。

   02年発売のメジャー・デビューのミニ・アルバム。
80・DELI:口車-キミキミ注意キイロイドク-:☆☆☆
   マスタリングしたNYのMichael Sarsfieldはジャズ系の仕事もあるミキサー。
   トラックのプロデュースはDeliの楽曲で多くの担当というAquariusを中心に
   複数のプロデューサーを招いた。40分程度の尺に、熱いヒップホップが詰まった。
   まくしたてるハイテンションが心地よい。トラックの歯切れ良さもかっこいいな。
   (3)などで、高音一直線に突き進むラップの威勢良さが特徴。

   サービス精神旺盛な関西のラップに興味を持ち、バーゲンでいろいろ入手してみた。
   06年、DJ GeorgeのmixCD、シリーズ第6弾。ゲストはThe 9 far East
79・DJ George & Hi-A+Production:Focus Of Street's Attention Chapter.6:☆☆☆
   前半のミックス部分は滑らかで一曲をじっくり聴けて楽しい。何曲か、おっと思う曲あり。
   センス良いなあ。ちょっと下世話でしぶといヒップホップが続く。
   スクラッチや喋りもふんだんに入り、聴いてて飽きないのも嬉しい。
   ゲストのThe 9 Far Eastはフリースタイルが小気味よいラップ。

   06年のDJ GeorgeのmixCD。ゲストはGotham 3 a.k.a. West Head。
78・DJ George & Hi-A+Production:Focus Of Street's Attention Chapter.9:☆☆☆
   ラジオ仕立ての本盤は、すごくいい企画だと思う。
   前半20曲のチャートは、ラテン的なしぶとい作品が目立った気がする。
   さくさくと豪快に曲を繋いでく。曲間のスクラッチやMCも軽快でノリが良い。
   Twistaをフィーチュアした1位の曲はほんのりメロウな響きだ。
   後半のGOTHAM 3のチャートは勇ましいビートで突き進む。急き立てるスピーディさが魅力。

   06年のDJ GeorgeのmixCD。ゲストは女性ラッパーのYoungshim。
77・DJ George & Hi-A+Production:Focus Of Street's Attention Chapter.11:☆☆☆
   20曲のカウントダウンは、ちょっと好みと違うラップが多い。
   妙にアラブを連想するリズムで、したたかなビートだ。凄みとは違う。
   それにしても本盤では楽曲を聴かせることが主眼ではない。あくまで目的はビート。
   ダンサブルさを意識した。曲の途中でボリュームがうねるさまが新鮮だった。
   ゲストのYoungshimは歌ものよりか。インタビューの声はミュートされてる感じ。
   楽曲を聴いてたら、キャッチーさを繰り返し続けるインディ時代の様子が伺える。

   DJ GeorgeのmixCDで、ゲストはKILLERZのRED-REBORN。06年作。
76・DJ George & Hi-A+Production:Focus Of Street's Attention II Chapter.13:☆★
   歯切れ良いテンポで、すっきりと前半20曲がミックスで紹介。
   ゲスト・ラッパーは明るいトラックの漂う感じがきれいだ。
   ラップは前のめりに涼やかな印象だ。

   DJ GeorgeのmixCD、07年発表。ゲストは SHINGO☆西成、MISTA O.K.I.(WORD SWINGAZ)、YOSHI(餓鬼レンジャー)、
   446、DJ FUKUの5名によるUltra Naniwatic MC's。
75・DJ GEORGE:Focus Of Street's Attention Chapter.14:☆☆
   前半のチャート風ミックスは明るい曲調が続いてすんなり聴けた。NORISIAM-XがするっとゲストMC参加あり。
   後半のインタビュー部分はUltra Naniwatic MC's。Shingo☆西成の参加が肝か。
   ラップは独特の軽みが面白かったな。

   2周目のDJ GeorgeのmixCD、09年発表。ゲストはサイプレス上野。
74・DJ George & Hi-A+Production:Focus Of Street's Attention II Chapter.03:☆★
   なんとなく、メロウな感じのトーンあり。
   インタビューが長いので、ファン向ディスクかも。

   DJ GeorgeのmixCDで、韻踏合組合のメンバーERONEがゲスト。09年作。
73・DJ George & Hi-A+Production:Focus Of Street's Attention II Chapter.04:☆★
   カウントダウンは軽快なラップが多い。ウータン系も軽いノリ。
   Eroneの曲はぶわっとシンセが広がるテクノな感じ。べたつくラップがうまくハマった。

   練マザファッカーのBAY4Kの作品を、DJ GEORGEがMIX CDにしたようだ。
72・bay4k:Korean Warrior~DJ GEORGE MOST FOCUS ON bay4k~:☆☆★
   ほとんどの曲がゲスト入りでバラエティに富ませた。
   しかしサウンドは統一性を意識してる。ミックスがひとつながりの作品のよう。さすがのツナギだ。
   訥々としたラップだが、独特の熱っぽさやエネルギーを感じた。
   弾むループがむせび泣く、トラックづくりもひきこまれる。
   スリルや凄みとは違う、生々しい躍動するヒップホップ。

   08年発表。静岡のラッパー、Suger CruのEPに、Suger Cru作品をDJ GEORGEがMIX CD化のコンピレーション。
71・Suger Cru:Cold As Ice:☆☆★
   骨太なヤンキー系ヒップホップ。スローでも退屈させぬのは歌詞のおかげか。
   ほとんどを占めるDJ Gerogeのミックス集は、単なるメドレーでなく、ツナギや
   スクラッチなどの技も入れ、飽きさせない。
   多数ゲストを招き、アルバム一枚をクールにまとめあげた。

   メインはDVD。関西ラッパーとおぼしき作品を集めたmixCDがついている。
70・DJ NAOtheLAIZA:The Carnival 2009:☆☆★
   コンセプトを理解できてないが、一曲を結構じっくり聴けるミックス。
   DJ Georgeのスクラッチやジングルも入り、盛り上がるのは変わらず。
   でもあくまで本盤の主役はDVDかな。

   07年のイベント用に作られたmixCD、かな。
69・DJ George & Hi-A+Production:The Carnival:

   女性ラッパーの1stシングルで3曲入り。手作り感覚のジャケットだ。
68・Lil' Rudy Rul:始まり:☆★
   舌足らずなラップの印象。今後の活躍に期待か。
   シンセが妙に弾む、バックトラックは気持ちいい。特に(3)。

   DJ GEORGEのミックスで、Mc Moggyの作品集。08年作かな。
67・Mc Moggy:カトリーナ:☆★
   DJ Georgeのセンスが耳を惹く。既発音源をまとめたのか、
   本盤に合わせラップを重ねてるか、よくわからぬ場面もいくつか。
   いずれにせよ、単なる楽曲の羅列に終わらぬミックスで、一連の作品として聴ける。
   ラップそのものがダルな感じで、ちょっと好みと違う。

   二人のラッパーのコラボ作。一人はM.M.T.から。09年作かな。
66・Smoking-P & T-es:JUGAMEMAN & PIPEMAN:
   たるっと切ないトラックに乗るラップ。荒削りな印象だ。ミドル・テンポでゆったり。
   (4)みたいな群唱の勢いや、が魅力か。

   本作が1st、DVDつきの二枚組。桂三枝がゲスト参加の模様。
65・TERRY THE AKI-06:裏庭独走最前線:☆☆☆★
   ギャングスタとレゲエ。双方の要素を詰めた。スピーディで分厚いトラックの
   かっこよさと、歯切れよさとキャッチーなラップ。ギャングスタでありつつ
   どこかコミカルさを漂わすのは、大阪ラップゆえか。
   シークレット・トラックでの三枝によるラップは、なんともリズムのズレが奇妙で楽しい。
   予想以上に聴きごたえある、日本人ラップ作品だ。

   
   関西のクルーM.M.T.(MIGHTY MINORTY THREE)に所属。メンバーはT-es,SmoKing-P,4WD。
   そのT-esが2010年発売の、1stソロ。
64・T-es a.k.a. JUGAMEMAN:GRINDHOUSE:☆☆☆
   ライムのスピード感、トラック・アレンジのバラエティさ、どちらも素敵なヒップホップ。
   決してトータル・アルバムではないが、一気に聴かせる勢いあり。
   多くのゲストを招き単調さは無い。だが妙に性急な上ずる声質が、ちょっと好みに合わず。
   低音ボイスが似合うムードのラップなだけに。

   08年のミニアルバム。ボートラでタイガースの平野恵一選手の入場曲入り。
63・WOLF PACK:GOLD EXPERIENCE:☆★
   大阪のFocus興業でVAXIM & DJ NAOtheLAZAが全面バックアップ。ゲストで
   サイプレス上野らが参加した。ラップはどこか引っかかるしたたりを聴かせた。
   微妙なモタり感覚が、独特のノリを示してる。しかし捲し立てのテンポは
   トラックによって変え、バラエティさを演出した。
   トラックのムードもパーティさと胡散臭さを絶妙のバランスで混ぜた。ある意味、ポップな仕上がり。
   ちょっともっさりしたイメージあるのが、好みと違うかな。

   10年発売の3rdアルバム。
62・WOLF PACK:君たちがいて僕がいる:☆☆☆☆
   地味な仕上がりだが、言語感覚/スピード感/フレーズ選びとセンスに卓越したアルバム。
   ユーモアとスリルがいい湯加減を作り、独特の世界観を作った。おすすめ。

    日本現代音楽家のシンセ作品。1990年の発表。
61・森本浩正:カオス・ゾーン:☆☆☆
   シンプルで親しみやすいメロディの電子音楽。ポイントは位相をさまざまに変化さす
   録音手法。聴いてるとぐるぐる音楽がめぐり、酩酊してくる。
   むしろそちらの効果のほうが、気になってしまった。

   ピアノへさまざまな楽器をダビングした前衛音楽らしい。93年の録音。詳細不明。
60・S. Eric Scribner:Pianosphere:☆☆☆★
   これはアカデミックなアプローチ?メロディと内部奏法、残響の音響と揺蕩うメロディ。
   アンビエントな足場に前衛の手法を加えた。ぞわーんと鳴りわたる
   質感は、くつろげそうで耳をそばだてる。アコースティック・ピアノを
   きちんと引く音が基本なため、やみくもにノイジーなわけじゃ無い。ドローンな場面もあり。
   基調はダーク・アンビエント、かなあ。
   時にドラマティック、時に繊細に。バラエティに富んだ曲調だ。

   2010年にドロップの、N*E*R*Dの最新作。
59・N*E*R*D Feat. T.I.:Nothing [Deluxe]:☆☆★
   乾いたファンクネス。今回は歌もののイメージが強い。
   でも小刻みで不穏な上ずる感じのテンションとビートは変わらず。
   スリリングさとルーズさが絶妙に絡んでる。歌もうまくは無いけれど、妙に惹かれる。
   寸秒を惜しまぬ詰め込みっぷりなアレンジがまず、かっこいい。
   歌ものながら、ヒップホップ的な雰囲気だ。

   DJ HAZUのシングル。JERU THE DAMAJAの名前に惹かれ購入。02年作。
58・刃頭:Sowrd Heads(single):☆★
   ラップの線は細いが、トラックの粘っこさは確かなもの。特に(2)で時折あらわれる
   シンセの4つ打ちフレーズは格別かっこよかった。
   (1)のゲスト・ラップはそれほど凄み無いが、このトラックも華々しい勢いあり。
   どの曲もぎゅっとさまざまな要素を押し込めた巧みさがある。

   ニューオリンズ拠点のラッパーによる6thソロ、01年発売。
57・Mystikal:Tarantula: ☆☆☆
   KLCを中心に複数のプロデューサーを立てた。ネプチューンズによるジャジーな
   トラックで幕を開け、にぎやかに進む。JBみたいに喉をつぶすシャウトが聴きもの。
   ぷちぷちと弾むビート感も楽しい。小刻みなタッチ。複数プロデューサーを
   立てても統一感あるのは、だれの主導権だろう。


2011年1月

2010/1/31   最近買ったCDをまとめて。

    マサラが2010年になって、7年ぶりのアルバムを発表した。DVDとの2枚組。
   ジャケットの落ち着いたデザインがかっこいい。
56・Masara:オーチ・チョールヌィエ:☆☆☆☆★
   穏やかで静謐なタブラへ、クールで柔らかいギター。そこへ切なく熱いバイオリンが切り込む。
   三者三様の個性を混ぜ合わせたサウンドがいっぱいの傑作。フラメンコなど
   既存のジャンルの香りもうっすらあるが、基本は独特の世界観だ。胸を熱く焦がす
   バイオリンの響きが、とてつもなく美しい。
   ライブシーンを描いたDVDも短い時間で彼らのキャリアを概観できる選曲だ。
   欲を言えば、もっとオフステージ場面も見たかったが。

    グールドが81年に録音した盤。98年発売の日本版CDを入手した。
55・Glen Gould:Bach: The Goldberg Variations:☆☆☆☆★
   じわじわと、ゆっくり。音が丁寧につむがれ、一音一音がくっきり鳴る。柔らかく。
   ふわっと奥行あるサウンドで、グールドのピアノが響く。うっすらと唸り声。
   ダイナミックに雪崩れる音楽が、凛として美しい。

    ダーク・アンビエント系などをリリースするレーベル、Krankyの二枚組コンピ・サンプラー。04年発売かな。
54・V.A.:Kompilation:☆☆☆☆
   アンビエントのアイディアは多彩だと実感する良質コンピ。
   電子音楽やチル好きなら堪能できる。これを手がかりに、本レーベルのミュージシャンを
   いろいろ聞きたくなった。

   ニトロ・マイクロフォーン・アンダーグラウンドの関係盤を何枚か入手。
   多数MCを擁するニトロの04年アルバム。段ボールの特殊カバーなジャケットだ。
53・Nitro Microphone underground:STraight from the underground:☆☆☆★
   スピーディでごつっと頼もしいマイクリレーが、なにより魅力。
   声質が個々で異なり、バラエティあり。トラックはシンプルにとどめ、
   ラップを引き立てる。凄みきかせた声が、さほど違和感ないのが良い。

   S-Wordの02年ソロ・アルバム。
52・S-Word:One Piece:☆☆★
   ギャングスタ風味の明るいヒップホップ。細かいつくりがスピーディに流れる。
   ライムも景気良い言葉を並べ立て、滑らかなノリをスムーズに楽しめる。

   ビグザムによる05年ソロ・アルバム。
51・Big Z:Westside far Eastside:
   単調なラップと、シンセ中心の軽いトラックがいまいち馴染めない。
   ときおり妙にキャッチーなフレーズ出るのも、ちょっとなあ。
   ハードコア・ギャングスタなイメージだが、言葉に凄みは足りぬ。歯切れ良い(15)は良かった。

   二枚組のボリューム。05年発売。
50・SuikenxS-word:Hybrid Link:☆★
   二枚併せた収録時間は50分。あえて分ける必然性が無い。予算あるなあ。
    さまざまなプロデューサーを招き、ギャングスタとパーティの双方を行き来する
   浮遊するラップ・アルバムに仕上げた。ラップはきれいなフックを主軸に置きつつ、
   語り風からビート吸い付きまで、さまざまなテクニックを曲によって披露する。
   なんだかんだで、DABOとMacka-chin参加の2ー(4)がベストか。

   なんとなく面白そうで購入した、日本人女性ヒップホップ、NORISIAM-Xが05年発売。
49・ノリシャム・エックス:エヌ★エックス★アール★ツー:☆☆☆★
   蓮っ葉なふりして不器用な女性を描いた。大阪風なのかきっちり言葉が聴こえてユーモアある
   ラップが楽しい。この究極が(10)。4WDとのやりとりがすさまじく面白かった。
   一方でさかなの"Fan"をカバーなど、意外な嗜好も。味わい深い盤だ。

   ヒットしたのかな。黒人ソロ・シンガーの盤、05年発。
48・Bobby Valentino:Bobby Valentino:
   楽曲は耳ざわり良いメロディあるけれど、肝心のボーカルにイマイチ魅力無し。
   あんまり上手くない。BGMにはいいかも。

2011/1/16   最近買ったCDをまとめて。

   ピアノ・ソロ作。2010年発表のアルバム。
47・坪口昌恭:Abyssinian...Solo Piano:☆☆★
   坪口はフュージョンよりのピアニストと思い込んでいたが、本作ではストレートにジャズへ向かい合った。
   タッチはクリアで冷静、無骨さとは無縁のサウンド。
   綺麗な一方で、ジャズのもつ泥臭さに馴染まない。
   ダブ処理も行われるが、ごくわずか。
   アドリブ・フレーズの妙味より、演奏から醸し出される精練された空気の味に耳が行く。

   バスクラのソロで演歌を演奏した、異色のソロ。08年発表。
46・梅津和時:梅津和時、演歌を吹く。:☆☆☆
   一曲は短め、頻繁に聴きなれたメロディが空気をよぎる。
   演歌を題材のソロとひねった聴き方をしようとも、否が応でも演歌のムードにどっぷり。
   かといってフリージャズの香りは決して消えない。
   あくが強く軽やかにジャンルを横断する梅津らしいスタンスなコンセプトの一枚。
   根本で日本人の琴線に触れまくるサウンドだから、なんだかんだ言って
   胸にずぶずぶメロディが突き刺さる。無伴奏ソロゆえの寂しさも、ムード盛り上げて良し。

   
   参加は五十嵐一生(tp),林栄一(as,ts),片山広明(ts,bs),板谷博(tb),井野信義(b),小山彰太(ds)。
   凄腕日本人ジャズメンをずらり並べた、95年の盤。
45・高瀬アキSeptet:Oriental Express:☆☆☆
   予想以上にスインギー。大規模メンバーがてんでに演奏してる感あるが、
   単なるソロ回しに終わらぬバンドっぽさを生かしたアレンジが個性か。
   地味ながらじわじわと渋い一枚。

   91年に今はなきナツメグから発表したアルバム。 
44・Sakana:L'ete:☆☆☆★
   酩酊するような音像がきらきら漂う。素朴なさかなの世界が広がった。
   ミックスは高音をしゃっきり目立たせた。フレーズの繰り返しが、時に奇妙に響く。
   妙に不安定なメロディと、ミニマルな雰囲気もあり。

   仙波清彦が音楽を担当した、アニメのサントラ。08年作。
43・O.S.T.:バンブー・ブレイド:☆☆☆
   歌ものは仙波の作曲じゃないのが残念。そのためアニソンをはさんだカルガモーズという、
   いわゆるOSTな仕上がり。統一感は無い。だが、仙波の曲は
   異風を放った。鋭いビートと日本を基礎にした無国籍感覚。エキゾティックな
   リズムがいっぱいに広がる。アニメは見てないが、この音楽が炸裂って痛快。
   個々の楽曲はセッションを切り取ったような、勢いあり。

   作曲家としても活躍の彼が、91年に発表したソウル盤。
42・Harvey Scales:All In A Nights Work:☆★
   サザン・ソウル系か。ファンクやバラードなどバラエティに富んだ
   作品が詰まった。いまひとつ、歌のパンチ力が物足りぬ。むしろ(5)のように
   しとやかなバラードのほうがあってると思う。
   とはいえ本質は、オーティス・レディングかな。本作でも、3曲もレパートリーをカバーしてる。

   坂本龍一が音楽を担当。98年の盤。
41・O.S.T.:Snake Eyes:☆☆★
   ゴージャスなストリングスが吹き荒れる。気持ちよく心浮き立たせた。あくまでも、上品に。
   ダブ風のトラックへテナーが鈍く鳴る"Tyler and Serena"が
   本盤では異質でおもしろかった。そもそも坂本龍一の曲で、こういうジャズって
   あまり聴けないもの。ミュージシャンのクレジットは、残念ながら無し。

    聴きそびれてた。Enjaから92年リリースのピアノソロ。時にシンセも弾く。
40・Abdullah Ibrahim:Desert Flowers:☆☆☆★
   透き通るシンセの響きは驚くほどにクリーン、粘らない。
   ピアノもやたらきれいで、ダラー・ブランドの作品とは思えぬ洗練度。
   しかしその奥に秘めた熱さを求めて、妙に聴いてて惹かれたアルバム。

   日本のインディ・テクノらしい。詳細不明。08年の盤。
39・T.K.K.東北機械化学:音響聴覚改正案:☆☆☆★
   "BGM"あたりのYMOを連想する、野太くほんのり陰をまとったテクノがナイス。
   とはいえ古臭さはなく、数行の歌フレーズも巧みに混ぜ合わせる鋭いセンスがある。
   とにかくまず、シンセの響きが気持ちいい。
   それに付け加えた、シンプルながら練られた打ち込みアレンジ。
   素朴で音数少なく、クールさを演出する。これは良い。

   マーク・フェルドマン(vln)やエリック・フリードランダー(vc)の2弦をメンバーにした    デイヴの96年作品。
38・Dave Douglas:Five:☆☆
   浮遊感が抽象的なムードを醸し出す。ユダヤ的なメロディと複雑さを狙った
   アンサンブルの奏法がバランスよく立ち上った。弦が中心のアンサンブルで、
   涼やかさが先に立つ。むしろせわしなく急き立てるドラムが、サウンドを中途半端にした気も。
   ジョン・ゾーンのマサダ・コンセプトの派生みたいな耳ざわり。

   フュージョンは苦手だが、ガッドのドラムを聴きたく入手した。77年の作品。
37・Al Dimieola:Elegant gypsy:☆☆☆★
   検索すると、アル・ディミオラの代表作らしい。スピーディな展開と
   バラエティに富んだ曲調、すさまじいギターのフレーズは今でもスリリング。
   キーボードとベースの音色がフュージョンっぽいな。
   ジャズともプログレとも聞き分けづらい点が、この色調。
   楽曲はすごい。音色がいまいち、僕の好みと違う。
   ちなみにガッドのドラムも痛快だ。聴きどころがいっぱい。
   パコ・デ・ルシアとのアコギ共演にしびれた。

   大編成サックス・グループ。初めて聴く。91年の盤。
36・Urban sax:Spiral Gilbert Artman:☆☆★
   大勢の音を重ねてる一方で、ダイナミズムは控えめ。端正なミニマリズム。
   女性ハーモニーの響きは、賛美歌を連想する。キリスト教徒ならではの
   作品では、と感じてしまった。ダンサブルとは逆ベクトル。

   ソウルのコンピ。当時のヒット曲を収録かな。07年の盤。
35・V.A.:Sexy Love - Smooth& Luxury R&B:☆★
   セクシーなソウル・シンガーではなく、セクシーなソウルに着目したコンピ。
   最新曲の連発でなく、ある程度幅広い目配りでベテラン勢の曲も多数収録した。
   アップの曲も多いため、BGMでロマンティックな気分へ浸るには似合わない。
   ソウルに詳しくないが、ソウルを聴きたいって人向けか。

2011/1/10   最近買ったCDをまとめて。

   めちゃくちゃ複雑な楽曲を、ひらりとベースで操る濱瀬元彦の新譜。
34・濱瀬元彦 E.L.F Ensemble & 菊地成孔:The End of Legal Fiction Live at JZ BRAT:☆☆★
   抽象的で怒涛の複雑怪奇さ。2ベース、1キーボードのボトムも絡み合い。
   だれがどの音を出してるかよくわからず。時にスタジオ録音てきな整合性も。
   ロジカルさを巧みに提示できるテクニックを踏まえ、あふれんばかりの勢いを
   表現するさまがかっこいい。スクラッチを筆頭に、ヒップホップへの目配りも感じた。
   なまめかしく吼える、菊地のテナーの美しさよ。ときにズコズコとダーティに吹いた。
   ベース主体の音楽なため、音像がちょっとモコってるなあ。

   映画「乱暴と待機」をきっかけのコラボ・シングル。2010年発売。
33・相対性理論と大谷能生:乱暴と待機:☆☆★
   相対性理論にしては、やたらポップ。ちょっと方向性が違うかな・・・と
   馴染めなかった。しかし(2)の滑らかさは単純にいい。さらに(4)の
   ミニマルなサウンドも不気味なかっこよさあり。
   要するに、一ひねりしたアプローチがいい。

   03年発売、47枚目のシングル。(3)と(5)がオリジナル・アルバムに未収録。
32・サザンオールスターズ:涙の海で抱かれたい ~SEA OF LOVE~:☆☆☆
   甘酸っぱいサザン節が詰まったシングル。クレジットを見るとリズムも含め
   桑田がかなり多重録音してるとわかる。
   "雨上がりにもう一度キスをして"の軽やかな仕上がりが素敵だ。
   夏の海に似合いそうな楽曲集だ。(5)で歌謡曲風に落とすのも含めて。

   大編成の日本人ヒップホップ・グループによるミニアルバム,2nd。
31・NITRO MICROPHONE UNDERGROUND:UPRISING:☆☆★
   マイクリレーが何ともカッコいい。このスピーディさはトラックのノリや
   テンポを超えた躍動感あり。順番にラップをつなぐ展開より、同時多発みたいなシーンへ特に惹かれる。
   上ずるテンションが肝。(2)がベストかな。

   日本人の女性シンガーによる2nd、2001年。ネットで歌を聴き、なんか気になり購入。
30・Tyler:my name is...:
   アレンジの妙味を楽しむ盤。メロディは歌謡曲めいても、アレンジひとつでぐっと
   ヒップホップ的な展開を見せた。歌はのびのび、水っぽい。
   若々しい大人っぽさを演出した。アレンジは特に、リズムの響きが心地よい。

2011/1/3   今日はサザンの旧譜を購入。

   00年発売、46枚目のシングル。今のところ全曲、アルバム未収録。
29・サザンオールスターズ:この青い空、みどり ~Blue In Green~:☆☆☆★
   タイトル曲が好き。サビでいきなり、メロディを絞り上げる斬新だが
   キャッチーな展開にぐっと来た。爽やかな草原をイメージした。
   (2)は原のボーカル。綺麗だけど、滑らかすぎてちょっと好みと会わぬ。
   (3)のライブテイクはファン向けかな。消えてく残響が、会場の広さを窺わせた。

   78年発表の1stシングル。
28・サザンオールスターズ:勝手にシンドバッド:

   98年、13枚目のアルバム。
27・サザンオールスターズ:さくら:☆☆☆
   とにかくこだわって録音した一作。耳触りはメロウでオールディーズ風に聴こえた。
   シングル曲のキャッチーさと、アルバム曲の自由さの落差がすごい。
   桑田が歌謡曲をがっぷり消化して、独特の世界を作り上げた。

   96年、12枚目のアルバム。
26・サザンオールスターズ:Young Love:☆☆☆☆
   ある意味、円熟したサザンか。
   アップテンポの強烈なキャッチーさは控え、アレンジや旋律の美しさで耳をわしづかみにする傑作。
   じわじわと良さに惹かれた。奥行深いアンサンブルの響きが、桑田の軽やかなボーカルと絡む。
   甘酸っぱいサザンの味を堪能できる。派手さは無いが、良い曲がいっぱい。
   とっ散らかったアレンジのため、好みと違う曲もあるけれど。全方位にアイディアをまき散らした。

   04年、50枚目のシングル。2曲のライブ音源は本盤のみで聴ける。
25・サザンオールスターズ:愛と欲望の日々 / LONELY WOMAN:☆☆
   タイトル曲はドラマ『大奥~第一章~』の主題歌。もうちょいテンポアップしたほうがカッコいいと思うが。
   (2)はTOYOTA『MORE THAN BEST』のタイアップ。桑田節の語りかける譜割が心地よいミディアム。
   サビでクルクル舞いながら、ゆったりと歌い上げる楽想が柔らかく響く。ぼくはこの曲のほうが好き。
   のこり2曲はファンクラブ限定「海の日ライブ」より。寛いだ印象だ。

   08年、53枚目のシングル。今のところ、アルバム未収録。
24・サザンオールスターズ:I AM YOUR SINGER:☆☆☆☆
   多彩な桑田の表現をアピールした、隙のないシングル。
   タイトル曲は打ち込み風ビートと、電気加工した桑田の歌声が印象深い。
   バンドながら妙にソロっぽいアプローチだ。メロディそのものは甘い桑田節で
   切なく盛り上がる名曲。サザンを桑田はどうとらえているのか、いろいろ考えたくなる。
  (2)は歌謡ロックを追求した楽曲。好みとはちょっと違うが、日本人の琴線をかき鳴らす
   ごとくのメロディ・ラインだ。バンドっぽいアレンジは、ぐっと温かく響く。
   (3)はピュアな原の声を主旋律に置いた。ひねった和音感や展開がスマートで素敵だ。

   サザンの曲をカバーした、01年のソロ。
23・関口和之 & 砂山オールスターズ:World Hits!? of Southern All Stars:
   世界各国のアレンジを桑田の曲へ施したイージー・リスニングがコンセプトか。
   本作のオリジナリティとは?確かに耳触りは良いが、サザンのメンバーである
   ことを免罪符に他人の褌で相撲を取ってる気がぬぐえない。
   選曲もメロウな作品ばかりなため、ちょっと聴いてて物足りぬ。

   01年、6枚目のシングル。全曲、オリジナル・アルバムに未収録。
22・桑田佳祐:波乗りジョニー:☆☆★
   スタジオ録音の(1)~(3)すべてで桑田がベース演奏も担当、楽曲のグルーヴへ細かく気を配ってる。
   全曲がシングルのみ(当時)の発表で、いかに力を入れたEPだったか明らかだ。
   キャッチーな(1)を筆頭に切なげでコミカルな(2)、(3)と(4)はおまけっぽい色合い。
   つまりファンサービスを十分に考えつつ、(1)を猛プッシュ。この明確なコンセプトもさすが。

   01年、7枚目のシングル。全曲、オリジナル・アルバムに未収録。
21・桑田佳祐:白い恋人達:☆☆★
   タイトル曲は桑田らしい、甘酸っぱいメロディのミドル・テンポ。サビの
   なまめかしいスムーズさも、さすが。鉄琴やフルートが華やかに楽曲を飾った。
   カップリングの(2)は60年代風アップテンポなロックとみなせる
   明るいキャッチーな作品。(3)はちょっとなあ。フォークなアプローチは馴染めない。
   桑田がライブでカバーする必然線もいまいち分かっておらず。
   全体的には、(1)の素晴らしさを超えるカップリングでなく、タイトル曲に合わせ
   ぱぱっと作った印象を受けてしまった。

   02年、8枚目のシングル。3,4曲目がアルバムへは未収録。
20・桑田佳祐:東京:☆☆★
   (1)は演歌やロマンチカ歌謡へのオマージュか。マーチ風のスネアがいなたいビートを表現した。
   丁寧に作られた曲と思うが、曲調的に好みとちょっと違う・・・。
   ただしサビのファルセットにはぐっと来た。さりげないファンキーさ。
   明るいアップテンポな(2)は悪くないが、どことなくシンプル。桑田らしい
   キャッチーさは控えめ。
   (4)が本盤の中で、最も好き。トロピカルなポップスで、ストリングスが甘くかぶる。
   冒頭から桑田らしいフレーズが前回のミドル・テンポ。原由子のハーモニーも軽やかだ。

   07年、10枚目のシングル。全曲、オリジナル・アルバムへは未収録。
19・桑田佳祐:風の詩を聴かせて:☆☆☆★
   すべての曲のコーラスに原由子が参加。サザン自身の音が多彩であるだけに
   本番がソロ名義の曲である個別感覚はさほど無し。
   タイトル曲は切なげな側面が強調された、滑らかなメロディできれいな名曲。
   トライアングルをアクセントに、静かなノリが心地よい。
   (2)はサンタナ的なラテン要素漂うアップテンポ。耳触りの良いメロディーだが、桑田らしい
   強烈に耳を惹きこむメロディはない。さらっと作った印象の曲。
   (3)もレゲエ・ビートに嗄れ声の歌声を載せる、軽やかな感じ。ホーン隊がにぎやかで
   ほんのりコミカル要素も混ぜた。サビの引き込みは独特の個性を感じた。


2011/1/2   今日買ったCDをまとめて。

   高橋悠治と富樫雅彦らの即興セッション。坂本龍一が参加、76年録音。
18・高橋悠治+富樫雅彦:Twiligh:
   ルールに基づいた即興集。ジョン・ゾーンのゲーム・ピースほどの混雑差はなく、
   すっきり整理された音像が続く。ある意味、アカデミックな仕上がり。
   躍動感は薄いだけに、ファン向けの音源かも。

   81~83年のスタジオ盤に、ライブ音源をまとめたコンピ。
17・After Dinner:Editions:☆☆☆★
   ふわふわ漂う幻想的な歌世界にまず耳は惹かれるが、真髄は音楽性。
   玄妙な録音が、今聞いても刺激的だ。電子音楽に通じるテープ操作がすごい。
   高くはるボーカルとつかず離れず、にぎやかにバックが鳴る。
   ライブのほうは当時の様子を追体験、がメインかな。ちょっと音が悪い。

   95年にリリースの、7インチ音源をまとめた盤。
16・Jeff Mills:Contact Special:☆☆★
   ミニマルなシンセ曲だが、初期作品よりぐっと明るくポップ。重心が軽くなった印象あり。
   前のめりの軽快な雰囲気で、どこか楽しげだ。耳障り良いサウンド。

   04年発表、シカゴで録音の自作中心なMix音源。
15・Jeff Mills:Exhibitionist:☆☆★
   クールでミニマルなmix作品。スピード感がたまらない。音数少なく
   ぐるぐる突き進む疾走っぷりは格別だ。なまじミルズのコンセプトが前面に出ずシンプルに楽しめた。

   15人編成のために作曲の"室内交響曲第一番"を聴きたく購入。
   ほかには同2番と、"浄夜"(1943改訂版)を収録のシェーンベルク作品集。
   ハインツ・ホリガー指揮で、02年のワーナー盤を入手した。
14・Chamber Orchestra of Europe, Heinz Holliger:Schoenberg: Chamber Symphonies:☆☆☆☆
   きびきびした演奏で、くっきりと美しさを描いた。滑らかでしとやかなムードは
   保ったまま、緊迫感をあおる。どの曲も繊細かつ、大胆。輪郭鮮やかな演奏が素敵だ。

   中国のクラシック音楽、オーケストラ曲。50~60年代の作曲か。
13・石叔诚:黄河钢琴协奏曲:☆★
   雄大な響き。西洋楽器のオーケストラながら、中国っぽい響きは故意か無意識か。
   さまざまな意味で、オリジナリティを強調する音楽だ。
   スケール大きく広々した風景が特徴。センチメンタルさもジワリ。
   重厚な深みを感じないのが不思議だ。低音部が妙にあっさりな印象。オケの解釈かな。
   コミカルさも匂わす爽快っぷりはハリウッド映画のOSTにも似合いそう。

   尼崎のMCによるアルバム。09年リリース。
12・Dark Resident:Monologue:☆☆★
   ポエムをラップの形式取って表現するかのよう。独特の凄みと涼しさがある。
   ヒップホップとは別ベクトルのアプローチ。よく考えれば、ありうる手法なのに
   あまりこういうラップを聴いたことがなかった。尾崎豊をふと連想した。
   トラックは静かなテクノと打ち込みビート。クールで闇をまとった、かっこよさ。
   ほぼすべてのトラックづくりを自作しており、トータル性も良い。
   メッセージ性が強いラップのため、むしろ日本語であるがゆえに音楽へ意識が引き寄せられる。
   独特の世界観に馴染めたら、素敵な作品だと思う。

   EW&Fのボーカリスト、94年リリースのソロ。初めて聴く。
11・Philip Bailey:Philip Bailey:☆☆☆★
   ファルセットだけじゃない、ヒップホップ系も行ける。意外な芸の広さを
   見せつけた傑作。思わぬ拾い物のアルバムだった。すでにキャリアを積んだ
   ベテランとは思えぬ、みずみずしい茶目っ気も含んだ歌ものアルバム。


2011/1/1 初買い。日本のヒップホップ中心に漁ってみた。
   
   00年に日本のレーベルから発表のノイズ系コンピ。収録は大友良英からメルツバウ、
   インキャパにハナタラシ、波動砲など。
10・V.A.:Masters of Japanese Electronic Music:☆☆☆★
   そうそうたるメンツを概観できる良コンピ。
   大友良英の短パルスで幕を開け、太い単音断続から派生してくシンプルな永田一直に。Nerve Net Noiseも
   奥まったパルス音がインダストリアル風。密やかに続けた。
   つづくインキャパでがっつりハードに。湯浅学は音数少ないサウンドで受け、
   メルツバウもきめ細かなハーシュで応えた。途中でアナログシンセ風の音に切り替わる。スケール大きく多彩で良い曲だ。
   ハナタラシはシンセと遊ぶ面持ち。ビートは無いが。
   締めでありオーガナイザーの波動砲はぐっとリズミック。ダイナミックで、彼だけ世代の違いを感じた。
   インキャパは細かく記載の操作機材も興味深かった。

   中西部出身のラッパーによる09年の盤。
9・Pryslezz:DEATH OF A MAN, REBIRTH OF A KING:☆☆
   冒頭は硬質なエレクトロビートと、浮遊するシンセのフレーズに乗ってのラップ。
   口調は固く、着実に。ヒップホップだが、耳触りは歌ものの雰囲気がたっぷり。
   中盤からビートの比重が増え、じんわりダンサブルになっていく。
   しかし安易なアップテンポへ向かわぬ点が個性か。エレクトロ色の強いトラックはそのまま。
   どことなく雰囲気は、ロマンティック。

   日本人DJ、D.O.Z.の2nd、2010年の夏に発表した。
8・D.O.Z.:GOOD MORNING:
   妙に青春めいたライムなラップ。サンプリングを大幅に織り込んだトラックは
   複数のつくり手による。歌謡曲ほど下世話にならず、不穏な要素もない。
   立ち位置をつかみにくい作品だ。

   日本人、兄弟。MCのSTEELOWDJのD-TRACKによるユニット、08年のアルバム。
7・BROSTARR:Right Place Right Time:
   大ネタをたっぷりループさせる。流れるサウンドは滑らか、ラップは素朴な
   日常をにじませる。音楽好きのグルーヴィなラップ。

   日本のユニットBrooklynによるShaman Worksの音源を使った、05年のmixCD。
6・Jazzy Sport Brooklyn:Shaman Work Recordings Synergy:☆☆☆☆
   これはカッコいい!好みのサウンド。レーベル所属の5人ほどを、NYで活躍する日本人DJがミックスCDにまとめた。
   ほとんどの曲がメロウなノリを強調したトラックで、聴いてて心地よい。
   ビブラフォンの音色が良いなあ。ラップもリズミカルながら、むやみに凄まない。
   強靭な主張が、すっきりしたグルーヴで包まれた。
   本盤のDJミックスはカットアップでさくっと決まる場面が良い。
   各曲は数分程度と長めに回され、曲の印象をきっちりイメージできる。
   レーベルの盤をあれこれ聴きたくなる、良質なサンプラーだ。

   日本のユニット、MCのWISEと、DJ SONPUB。05年の作品。
5・WISE'N'SONPUB:DAKID:☆☆☆
   ヒップホップ+テクノ。統一感のなさがむしろ楽しい。ダンス性を意識した
   サウンドで、どこまでも軽快に進む。スクラッチも含むトラックのスピード感が
   本盤の魅力だ。ラップは軽やかなまくしたてが続いた。
   m-floファンにはぜひ聞いてほしい一枚。

   デビュー作のミニアルバム。08年発表のヒップホップ。
4・MC完児:八つの仮面:☆☆
   ループのつくり方が、酩酊感を軽く誘った。
   急き立てる前のめりなビートに、音頭を連想する妙に日本的な風味。
   ラップは小気味よく、ほんのりコミカルなムードも。
   独特の世界観を楽しめるかで、本盤の価値観は変わる。
   ある意味、日本独特のラップを志向する独自性は評価できる。

   日本の4人DJによる仙台出身のユニット、1st。09年の発表。
3・SOUND MARKET CREW:SUPER CIRCLE:☆☆☆
   すかっと明るいパーティ・ラップ。コミカルさとメロウさが良いバランスだ。
   ラップは少々素朴だが、聴いてるうちに慣れてきた。照れ笑いのような
   スピード感が個性。4人MCを生かしたマイク・リレーだが、結構声質が似てる。

   ワシントンDC出身の黒人シンガー、03年の盤。4曲入りのデビューEP。
2・Ricky Fante:Introducing...Ricky Fante:☆★
   まんま60年代サザン・ソウル。打ち込みに逃げず、生演奏できっちり組み立てた
   録音なのは評価する。ライブならまだしも、スタジオ録音で。
   当時の音楽への愛情は伝わるが、なぜ今、の疑問も。
   詳しく彼の音楽を聴けば、わかるのかもしれない。

   橋本徹が選曲でP-Vineから07年発表のコンピ。メロウなヒップホップ集らしい。
1・V.A.:Mellow Beats: Rhymes & Vibes:☆★
   淡々とファンキーでしとやかなラップが詰まった。うおっと耳を惹く
   トラックはなかったが、これを手がかりにいろいろと深く行けそう。
   一曲づつのライナーが欲しかった。ネットにアップでもいいから。

表紙に戻る