今お気に入りのCD

最近買い込んで、気に入ったCDを中心に感想を書いてます。
したがって、特に新譜だけってわけじゃないですが、お許しを。

In his own sweet way/V.A(2000:DISK UNION)

 ジャズピアニスト、デイヴ・ブルーベックに捧げられたアルバム。変拍子を多用しながらも親しみやすい曲をつくる演奏者・・・とまとめたいところだが、僕自身はアルバムを数枚聞いたことがあるだけなので、ブルーベックについて偉そうには語れない。
 でも、「テイク・ファイブ」の作曲者といえば、「ああ」とうなづく人はおおいはず。CMでつかわれたこともある、不思議な魅力を持った5拍子の曲だ。
 
 なぜ今、ブルーベックへのトリビュート・アルバムを作る必然性があるのかは今ひとつわからない。日本製作だから、アメリカから原盤を売り込まれたってわけでもなさそうだし。
 演奏者はニューヨークで活躍しているアンダー・グラウンドの音楽家を集めた様子。エグゼクティブ・プロデューサーのジョン・ゾーン人脈で集められたのかも。日本からは、ルインズが参加している。
 とはいえ、僕が知ってるミュージシャンは、マサダのジョーイ・バロン・とデイヴ・ダグラス、ギターのビル・フリゼール、そしてジャム演奏で有名なメデスキ・マーティン&ウッドくらい。
 もともと、僕は1曲だけ演奏しているルインズ目当てで、この盤を買ったからな。

 演奏はインストルメンタルで、硬質なジャズからのアプローチだ。電気楽器をつかうミュージシャンも何人かはいるけども、アルバムを最後まで聞きとおすと生音の印象がとても強く残る。
 どの曲も懐古趣味やロマンチシズムにひたることなく、冷静に疾走感あふれた演奏が素晴らしい。素材として曲を扱っているのが明らかな曲もあり、頭でっかちな感触がちょっと気になるけども。いかにもニューヨーク的な演奏だ。
 でも、ちょっとアヴァンギャルド風味が効いた刺激的な演奏はとてもいい。
 僕の目当てのルインズも、高速ハイハットが心地よい演奏だ。
 
 このアルバムは、マスタリングの影響がとても強く感じる。あちこちのスタジオで録音されたのであろう音源を、統一感ある音像に仕上げた腕は素晴らしい(ちなみに、マスタリングエンジニアはアラン・タッカーだそう。くわしい経歴は知らない)。
 音自身も粒立ちのいい透明な音だ。
 ところが、音がとにかく硬い。一聴した時は突き放されるような気がするほど冷徹な音だ。
 この音になじめるかどうかで、このアルバムへの印象が変わるのでは。
 しかし、なんで「テイク・ファイブ」を入れてくれないのかなあ。

Survivor/Barry Mann(1975:Equinox/BMG)

 先日バリー・マンの20年ぶりソロアルバムを、喜びながらここで紹介したばかりなのに、今度はついにこの盤が、正式に再発された。山下達郎のラジオなどで「バリー・マンはいい!」と話を聞かされながら、ずっと廃盤で手に入らずに必要以上に神格化する、歪んだイメージが払拭されるのがなによりうれしい。
 ブート屋で盤起こしのリプロは見たことがあったが、さすがに高くて二の足を踏んでいただけに、今回の再発は実に喜ばしい。やはり、音源は聞きたいときに容易に手に入るのが一番だ。
 
 さて、この盤はバリー・マンの3枚目のソロアルバム。作曲家としてヒットを何曲も飛ばしながら、ソロとしては「フー・ブット・ザ・ポンプ(シビレさせたのは誰)」のヒット(1961年全米7位)以来、低迷していた様子。
 このアルバムを作るに至った経緯はいまいちわからない。とにかく、西海岸のブルース・ジョンストンとテリー・メルチャーとの共同プロデュースで、ミュージシャンは当時の名セッションマンがずらり。にもかかわらず、ピアノの演奏はゆずらずに、すべてバリー・マン自ら(たぶん)演奏して、プレイヤーとしての個性もアピールするのはさすが。

 歌声は60年代当時の透き通るような高音こそ衰えてしまっているが、まだまだいける。伸びやかな喉が利いていてわくわくしてくる。ときにふわっと響くファルセットもいい。
 演奏はタイトでいながら、ホーンや弦もときにかぶせられる豪華なもの。
 メロディはバリー・マンのちょっとくせのあるけれど、親しみやすい曲たち。
 悪いわけがない!歌・演奏・曲の3拍子が見事にそろってる。
 
 今回再発に当たって、ボーナス曲が2曲追加。初回プレスにのみ収録されていた、当時のシングル曲「ナッシング・グッド・カムズ・イージー」と、そのB面曲「ウーマン・ウーマン・ウーマン」が収録される。
 マニア向けにも目配りした、この愛情あふれる再発が嬉しい。
 さ、次は71年のソロアルバム、「Lay it all out」だ!

a little more Haven Hamilton,please/June&the Exit Wounds(1998:parasol)

 以前ここで紹介したBIKERIDEと同じく、イリノイ州のインディレーベル、パラソルからのポップアルバム。日本盤もボーナストラック付で出たから、どちらかといえばそっちがお徳かも。僕は両方とも輸入盤で手に入れて、失敗した(^^;)。
 さて、このアルバムはバンド形式のクレジットだが、gとkeyを担当しているトッド・フレッチャーのソロユニットに聞こえて仕方がない。
 プロデュースはもちろん、ジャケットの写真やレイアウトまで手を出している入れ込みようはもちろんだが、音楽そのものも聴いてもとても内省的だ。

 ブライアン・ウィルソンの影響が透けて見えるポップ・ミュージックだけど、ビーチボーイズの開放感やハッピーさはここにない。きれいなメロディとふわんとするピアノやギターの心地よさこそあるが、どこかにためらいが残る。はじけるのを遠慮するように、おずおずと演奏が流れていく。
 
 トッドのファルセットはとてもいかしてる。なかなかこういう甘い裏声を聞かせる歌手はそういない。
 しかしハイ・ラマズ以来90年代後半頃から、ペット・サウンズからの影響を露骨に出す音楽が山ほどでてるけど。今までどこに隠れてたんだ?80年代にこういう音楽が一杯あったら、僕の音楽嗜好もだいぶ変わってた気がする。
 たぶん、ここまで趣味が無節操になってなかっただろうな。
 なにはともあれ、このアルバムの感想をまとめよう。
 ここで聞ける音楽の感触はあくまで柔らか。静かなポップスが好きな人はおすすめ。 

Look-ka Py Py/The Meters(1970:Josie/Sundazed)

 ミーターズが70年にリリースしたセカンドアルバム。ライノのライセンスを受けて、サンデイズドから2曲のボーナスをつけてリイシューされた。
 オルガンのアート・ネヴィル関係で、ネヴィル・ブラザースとひとくくりで語られがちなグループだ。僕は恥かしながら、今までミーターズは聞いたことなし。ネヴィルはそこそこ聞いてるんだけどね。
 
 このバンドはdr、g、b、orgのカルテット編成。自然とブッカー・T&MGズとの共通点を感じてしまったが、MGズがタイトな縦ノリとすれば、ミーターズは横ノリだ。しかもゴムのように柔軟にノリが伸び縮みする。
 ドラムのテクニックのせいもあるだろう。MGズのアル・ジャクソンJrのしゃきしゃきするハイハットと対照的に、ミーターズのドラマー、ジョセフ・モデリステは引きずるように太鼓を叩く。あからさまにいえば、テクニック的にはいまいち、かなぁ。フレーズはとてもメロディックなのに、タイミングがとてもばらつく。
 そういう意味では、ギターのレオ・ノセンテリも同様。リズムはもたつき、ソロフレーズも魅力的とはいえない、泥臭い演奏だ。アートのオルガンと、弾むジョージ・ポーターJrのベースがあってこそ、ミーターズの魅力を支えてるように聞こえる。少なくとも、このアルバムではね。
 
 ちなみに、このアルバムはミックスも妙。くっきり左右にリズム隊とメロディを振って味気ないミックスをするかと思えば、センターに楽器をぐちゃっと寄せて、ノリをあげたり。
 僕的には、センターに集めてたミックスが好き。個人的にはモノラルでもいいな、と思ったくらいだ。
 さらに曲により、一曲の中で楽器の定位がいきなり変化する。ギターくらいならまだしも、ドラムが右チャンからセンターにフレーズごとに移動するのには苦笑した。ドラムがセンターに来た瞬間、「よし、めだつぞ!」って、ドラマーが楽器抱えてステージの前に飛び出してきたような想像をしちゃってね。
 オリジナルミックスがこうなのか、CD化の時にいじったのかはよくわからないけども。アルバムの中で、曲によりエコー感もステレオ感もばらばらなのは、いい効果がでてるとは思えないけどなあ。
 アヴァンギャルドな音楽ならともかく、ミーターズの場合はダンス音楽なんだから。

 それでもなお、僕がこのアルバムを気に入ったのは。とてもきれいなメロディで印象に残るリフと、柔軟なグルーヴだ。このリフをいつまでもいつまでも聞いていたくなる。でもサンプリングでループさせただけでは、この気持ちよさは出ないと思う。
 あくまで人力で、微妙にリズムを変化させながら聞いていたいものだ。
 クラブバンドの底力が透けて見える好アルバム。
 だからこそ、もっと曲が長く聞きたい!どれもこれも2分台。アナログ時代とはいえ・・・もったいないよ。

The Secret of Comedy/Kramer(1994:simmy)

 ソロ名義では2作目のアルバム。発売当時にさっそく購入して、何度も聞き返したアルバムだ。
 このころがたぶん、クレイマーとしてはピークだったろう。
 僕が彼の名前を知ったのは1992年頃。雑誌「クロスビート」を読んでいて、大鷹俊一辺りが紹介しているアルバムのプロデューサーが、しょっちゅうクレイマーだった。「インディの隠れた実力派ミュージシャン」として僕の頭にインプットされ、ちょこちょこレコードを探してるうちに、いつのまにかクレイマーのファンになっていった。

 この90年代前半のクレイマーは、とにかく精力的だった。ニューヨーク(のちにニュージャージー)にスタジオを構え、ギャラクシー500やキングミサイルをはじめとする、ポップにノイズ風味をぱらりとふりかけた音像をトレードマークに、すさまじいペースでプロデュース作品をリリースしていた。
 クレイマーのレーベル、シミーからだけじゃないはず。ちょっと時代がずれるかもしれないが、ラフトレードや、ダリア、パーク&ライドといったレーベルから出たクレイマー印のアルバムを僕は持っている。
 そして、共演していたミュージシャンのほぼすべてと、喧嘩別れを繰り返していた。
 
 とにかくクレイマーは全貌がさっぱりわからない。ネットでもいろいろ探してみたが、かれのプロデューサー作品まで含めたディスコグラフィーは見つけられなかった。僕自身が作ってやる、といろいろ買い込んだときもあったが、それでも買い集められやしない。インディーズ中心で、情報がいまいちない。日本にすべて輸入されてるわけでもないし。
 それなりにクレイマーのファンがいることは間違いない。ファンのHPくらいあってもおかしくないのだが・・・。どなたかご存知の方は、ぜひご教示ください。

 さて、前置きがまたしても長くなった。
 このアルバムはアナログ3枚組(CD二枚組:最近ニッティング・ファクトリー・シミーから再発されてたっけ)のソロ一作目「The Guilt trip」(1993)の翌年、ぽこっとリリースされた。録音年度からみて、一枚目のソロのアウトテイクを集めたものかもしれない。
 僕はリリースの事前情報はなく、CD屋にぶらっといって目にとまり、慌てて買い込んだ記憶がある。とにかくこの辺りの盤は、一度買いのがすとなかなか手に入らなかったから。その数年後日本盤までリリースされた時は驚いたけど。

 この盤はランドルフ・ハドソン3世(g)とビル・ベイコン(dr)のサポートを受けた他は、すべてクレイマーの演奏。作詞・作曲・エンジニア・プロデューサーは、もちろんクレイマー。アシスタント・エンジニアにスティーヴ・ワトソンと、当時のノイズ・ニュージャージー・スタジオおなじみの面々だ。

 クレイマーの特徴は、ねじくれたポップなメロディに、もっこもこの煙の中にも似た音像で、ダビングを巧みに繰り返したオマケが多いアレンジだ。
 聞いていて心は休まらない。どこか不安になる居心地の悪さがある。その「異物」に触れている感覚がとてもおもしろい。ドラッグ・ミュージックの典型なのかも。当時のクレイマーはドラッグ中毒で、へろへろだったと言う噂もあるし。
 
 1曲目の「ナイン・マイナス・セブン・イズ・トゥー」は、翌年の日本公演でも演奏していた。甲高く絶叫するクレイマーがとても印象に残っている。
 ちなみに、このときの日本公演はCDになっている。いずれ紹介したい。

 3曲目の「ミッドナイト」は僕が大好きな曲。ぺこぺこのキーボードにあわせて、弾むようなクレイマーの歌声が楽しい。95年のライブを聞きに行った時、演奏前にクレイマーがライブハウスの客席をうろうろしていた。
 よっぽど「この曲をやってくれません?」ってリクエストしたかったが、つい気後れして話し掛けられなかったっけ。
 小品なので、このアルバムを象徴する曲とはいえないけども。僕にとってはとても魅力的な曲だ。

 アレンジのアイディアが次々あふれてきて、その創作欲をためらいもなくぐしゃっと盛り合わせた一枚。密室的という言葉が実にふさわしいアルバムだ。
 けっしてカーステレオでドライブには向かない。部屋で一人聞くのがもっともピッタリくるだろうな。

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