今お気に入りのCD

最近買い込んで、気に入ったCDを中心に感想を書いてます。
したがって、特に新譜だけってわけじゃないですが、お許しを。

Hampton Comes Alive/PHISH(1999:ELECTRA)

 ライブが売りのバンドってのはタチが悪い。僕みたいにCDで音楽を聴くタイプのリスナーにとっては鬼門といってもいい。そういうバンドは、スタジオ盤はろくに出さないか、出しても単なる曲カタログであったりしがちだ。おまけにそのバンドの活動拠点が海の向こうじゃ、ライブだっておいそれとは見られない。
 このバンドは、頭の痛いことにそのひとつ。いや、アメリカのライブバンドの筆頭といってもいいかも。グレイトフル・デッド亡き後は数々の伝説のライブを繰り広げて確固たるファンをつかみ、アメリカでは第一線をひた走っている様子。
 実はフィッシュは去年来日して、とびきりのライブを繰り広げたらしい。苗場で3日間にわたったフジロックフェスでの演奏だ。サラリーマンには敷居が高いライブだし、泣く泣くあきらめた。あとで聞いた評判は、どれもこれも好評ばかり。くうう。
 ちなみに、フィッシュはデッドにならってか、観客によるライブ会場での録音をすべて許可しており、ライブ会場ではマイクが乱立するらしい。
 そのライブ音源は世界中のフィッシュ・マニアの間で取引(というか交換)されてる。日本でもテープ・ツリー(音源を他の人にシステマチックに流通させるシステム)のサイトを見たことがある。

 それほどフィッシュのライブがもてはやされるのは、毎回ライブの曲目をころころ変える柔軟性と、変幻自在にかわるジャム・セッションが魅力のひとつだからだ。デッドもザッパも存在しない今、こんなライブをしてるのは、有名どころじゃディランとプリンスくらいだろうか。
 だから彼らのライブテープを聞かなければ、フィッシュの魅力はさっぱり伝わらなかったりする。とはいえ、そのテーパー仲間に入るようなテンションもない僕は、こつこつブートを集めようかと思ってたところ。

 そこでお勧めがこれ。公式CDでは3回目のライブアルバムだ。しかも1998年11/20と11/21のライブを完全収録(らしい)。6枚組みの大作で、合計5時間以上にもわたるライブを陶然と楽しめる。
 選曲はフィッシュの代表的な曲がずらり。ある意味入門編にはピッタリかも。これが選曲的にはベスト盤であり、ライブの雰囲気がたっぷり味わえるから。6枚組みの割に値段は輸入盤屋で9千円くらい。お手ごろな価格設定もいいなあ。

 このライブ盤はヴァージニア州のハンプトン・コロシアムで行われたライブの、それぞれの日のファースト・セットとセカンド・セットを収録。なんか曲間がほとんどなく演奏してるけど、もしかしたら若干ハサミが入っている「完全収録」かも。
 なお、カバーとしてマンフレッド・マン「マイティ・クィン」、ビートルズ「クライ・ベイビー・クライ」、スティービー・ワンダー「ブギー・オン・レゲエ・ウーマン」、ジミヘン「ボールド・アズ・ラブ」他、カバーもいろいろ。あとはおはずかしながらオリジナルがわからない。どなたかご教示ください。

 正直言うと、まだ僕はこの6枚組みが完全に理解できたような気がしない。
 フィッシュはジャム・セッションが売り物なんだけど、その演奏のよさを頭でしか理解してないから。ほんとに理解した時は違う。びびびって胸にひびいてくるもの。その時を心待ちにして、何度も繰り返し聞いていきます。
 とにかく、とても素晴らしいアルバムだ。時に荒っぽい演奏になるところもあるけれど、つるべ打ちにタイトなプレイを繰り広げて最高です。一曲の演奏も数分から長くても15分程度とコンパクト。長い時には、一曲で40分くらい演奏するらしいから。そういう曲も、一度聞いてみたいな。

 ちなみに、このアルバム。ジャケットも小粋にこったデザインです。
 3枚ごとにマグネットを利用した小箱がかわいらしい。アイデア賞もあげたいな。

crimes of the mind/The Dude of Life and PHISH(1994:ELECTRA)

 もう一枚フィッシュ関連の音楽を。スティーブ・ポラックのプロジェクト、デュード・オブ・ライフにフィッシュが合流。ポラックはフィッシュのアマチュア時代からの友達らしい。
 全11曲、すべてポラックの作曲で、アレンジと演奏をフィッシュが担当している。
 とはいえ、フィッシュお得意のジャムはとっても控えめ。バックバンドに徹してひたすらタイトに演奏する。もっともそこはライブで鍛えたバンドで、唄ととても微妙に絡み合う演奏が素敵だ。歌のうしろで微妙に変化するメロディがたまらない。

 曲はどれも落ち着いたロックになっている。アップテンポの曲があるにはあるが、なぜかゆったりとしてしまう。体が動いてウキウキしてくるのは10曲目の「Revolution's Over」かな。
 のほほんとした「dahlia」でアルバムの幕を開け、音の流れにたゆたうところを10曲目で締める。そして最後の11曲目「King of Nothing」でさらに昇華させる構成もいい。ある日のライブを切り取った演出なんだろうな。
 この最後の曲の透き通ったギターソロのかっこよさと来たら。このギターを30分くらい延々と聞いていたいもの。
 ポラックの書くメロディは、へんてこな部分もあるのに、妙に耳に心地よく引っかかる。歌声は、少々線が細いけど、きれいに伸びていく。
 アレンジは特に奇をてらわないロック。時にプログレっぽい感触もあるけれど。
 夏の日に、ごろんと寝っころがってビール飲みながら聞きたいアルバムだ。

Life is Splendid/Sun Ra&His Solar Myth Arkestra(1999:Alive!/Total)

 いったい、サン・ラのアルバムは何枚でてるのか。前にネットでアメリカのマニアが作ったディスコグラフィーを見たことはあるけど、えんえんと続くアルバムのデータは圧巻だった。ジョン・ゾーンのディスコグラフィーもすごいけど、ゾーンはツァディックで自分の音楽の再構築を図ってるように見える。
 ところが、サン・ラはまったく違う。サン・ラのすごさは、その無秩序さ。本人が意識していたかどうかは別にしてね。
 存命中もサターン・レーベルでアルバムをボロボロ出すわ、平行してメジャーレーベルでリリースも欠かさないわ。大所帯のアーケストラを維持する経済的理由もそのひとつらしいけど。
 とにかくレコードが多い人だ。僕は全貌を把握してないけれど。サン・ラのすべてのリリース作品を把握してる人は世界中に誰もいない、てな伝説すらあるくらい。
 
 おまけにサン・ラが天に戻ったあとがすごい。契約関係がめちゃくちゃなんだろうな。 エビデンスがやってた一連のサターン原盤のリイシューが一段落ついたと思ったら。レオが次々にライブ盤をリリースし、もちろん平行してESPやらのメジャー盤もリイシューされて。最近レコード屋を覗くと、またもやぽろぽろ見かけない盤が出ている。
 ザッパは遺族が完全に権利を握り締めて、いまいちリリースが続いてもどかしくも腹立たしい。クリムゾンはフリップがファンをいたぶるように、絶妙のタイミングで音源を放出するが。デッドはこれもつぎつぎにライブ盤を発表して楽しいけど、まだ管理がまともなので把握しやすい。もっとも、ぼくはまだデッドは追っかけてないけど。これら三者の音楽は、程度の差こそあれしっかりと統一管理がされている。
 さてこそサン・ラ。いったいどれほど音源が残ってるのか。いったいだれがリリース可否の取り捨て選択をして、今後どんな音源が世にだされるのか。混乱のきわみのリリース状況が、サン・ラの音楽っぽくておもしろい。

 さて、この音源は1972年のミシガン州でひらかれたアン・アーバー・ブルース&ジャズ・フェスでの、アーケストラの演奏を収録したもの。とにかく音が悪い。もっこもこ。ブート並だ。総収録時間は40分足らず。メドレー形式で9曲くらいが演奏されている。CDの曲分割は一曲のみ。このいい加減なところがなかなか素敵。
 このライブで聞ける演奏は、メンバー20人前後による、複雑に絡まりあい混沌とした演奏がひたすら続く。中間部でのサン・ラによるキーボード・ソロは、まさにノイズそのものだ。魔術の儀式みたいな、圧倒的なステージだったんだろうな。
 演奏は荒っぽいところもあるし、音だけでは何がなんだかわからない瞬間もたしかにある。だけどここで聞けるのは、騒音だけじゃない。練習とステージのくりかえしでしか身につかない、アーケストラのメンバーによる確実な演奏だってしっかり聞ける。無秩序と秩序。その対比を楽しむのがこのアルバムでの真の魅力だ。 

Drugstore/Drugstore(1995:honey/Go!Discs)

 音楽を聴いていて、理屈じゃないけど気に入ってしまう瞬間、ってのが確かにある。これはうまく説明することなんてできやしない。とにかく、びびっときてしまうんだから。
 僕にとってのそういうツボにはまる音楽のひとつがこういうタイプ。
 少人数でサイケっぽい感触でゆったりしたリズムのロックにかぶって、ぎゃんぎゃんにエフェクターをかまして歪みまくるか、つきささるように尖らせているか。そんなギターがソロを奏でる音楽が大好きだ。
 たとえば、ギャラクシー500一派。ルナとかマジック・アワーも含めてね。僕がクレイマーのファンなのも、彼がそういう音作りを好むせいかもしれない。
 そして、このアルバム。ジャケットは凡庸なんだけど、安かったせいか何となく買ってきてしまった。メンバーはトリオ編成で、女2に男1かな?といっても、多重録音をしてるんで、薄っぺらい感触はなし。
 ヴォーカルは女性。ちょっと鼻にかかった歌声でうなる。陰鬱な感じの曲調が全体をおおう。まさに、好き嫌いが分かれる音楽かも。僕はこういうアレンジ大好きだけど。この切ない感じがいいんだよね。
 クレジットを見る限りイギリスのバンドのよう。予備知識なんもなし。でも、音楽はいい。

Wave to make friends/The Comas(1999:Plastique)

 さて、上のドラッグストアに引き続き、ぼくのツボCDをもう一枚紹介します。
 今度もろくに予備知識なし。出身は(たぶん)ノースキャロライナ州。ジャケットにHPのurlがのってたんで行ってみたけど、そこにも情報なし。何のためのHPなんだあ!あ。でも1/15にライブをアメリカでやってることはわかった。それだけね。
 たぶんこれがデビューアルバム。4人編成で女1男3.ヴォーカルは女性。楽器の割り振りもよくわからない。HPにライブ写真が載ってて、そこではギターを女性が弾いてたけど。
 音楽はやっぱりしっとりとしたサイケ風ロック。多重録音のヴォーカルは、めちゃくちゃ音程が不安定だけど、おかしなことに気持ちいい。なぜかリズムにリズムボックスをつかったものあり。ライブでは、リズムボックスをバックにコーラスをきかせるのであろうか。シンセもひこひこ妙な感じで乗っかってくる。
 でも、こうして並べてみるとドラッグストアとは感触が違うなあ。
 コーマスの音像は、サイケと言えども若干ピントが合っている。
 コーマスは若干フォークやトラッド風味。牧歌的な印象があります。
 上のドラッグストアがしっとりとした感じなら、こっちのコーマスはのんびりした感じかな。

Thirty-Seven Secrets I Only Told America/BIKERIDE(1999:Hidden Agenda)

 元気のいいギターのカッティングから始まる、軽やかなポップアルバム。爽やかさが魅力のひとつ。これもHPがあったんで行って見たけど、いまいちバンドのプロフィールがわからず。でも、ゲストブックを見たら、日本人が書いた賛辞がいくつかあったっけ。
 たぶんこれがデビューアルバム。デビューEPとLPをあわせたCDじゃないかな。
 メンバーはいろいろクレジットされてるけど、ギター関係をメインに演奏しているトニー・カルボーンと、キーボード関係のシーン・ハウ?が主要メンバーのよう。
 曲もほぼすべてがトニーとシーンの手で書かれ、録音もトニーの自室で行われたらしい。でもこのアルバム、録音がとてもいい。はじけるような魅力的な音が飛び出してくる。
 メロディも魅力的で、ほのぼのできるアルバム。60代や80年代のポップスセンスがつまっている。
 難点は、ちょっと構成に懲りすぎのところ。中間部の卓球台のやり取りがちょっと冗長。遊び心の現われだろうけど。今の僕が、このアルバムに単純なポップスを求めちゃってるからかな。僕的には、もうちょっと煮詰めたら、とんでもない傑作アルバムになったろうになあ、と残念。
 ちなみに、シークレットトラックは、アントニオ・カルロス・ジョビンの「ウエイブ」。かっこいいボサノバ・ポップが聞けます。

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