LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2004/12/29 大泉学園 in F
出演:黒田京子トリオ
(黒田京子:p acc、翠川敬基:vc、太田惠資:vln.per
etc.)
今年の1月からin-Fの企画で始まった、ブラームス・プロジェクト。7月のライブを経て「黒田京子トリオ」となった。
2004年を締めくくるライブが、今夜。この冬の初雪ながら、満員の盛況だった。
司会役は最後に会場入りしたミュージシャン、が黒田京子トリオの掟だ。
これまで太田がほとんど司会を務めていた。しかし今夜は黒田が担当。太田が会場時間を一時間、勘違いしてたとか。
まず今年一年の礼を黒田が述べ、翠川の新曲でライブは幕を開けた。
<セットリスト>
1.(新曲)
2.パッション
3.200光年のかなたに
4.パラ・クルーシス(新曲)
(休憩)
5.バカな私〜Drinkin'
music(?)
6.あの日
7.ワルツ・ステップ
8.ヒンデ・ヒンデ
(アンコール)
9.ブラームス「ピアノ・トリオ1番:一楽章」(部分)〜「夢のあとに」
一曲づつMCが入る親切な構成。
セットリストは今ひとつ自信ないが、たぶんこんな感じ。
(1)は翠川の作曲で、タイトルは発表せず。(4)も同じく翠川の作。どちらも緑化計画で、一度だけ演奏したことあるらしい。残念だがぼくは緑化版は未聴。
翠川作の(6)は、黒田京子バンドとしては「新曲」で紹介された。
元はFMTのレパートリーで、緑化でもあまり演奏されていないと、以前にMCで翠川が言っていた。
03/3/1の音金で緑化バージョンを聴いたことある。メロディなど細かいことはさすがに覚えていませんが。
(8)はヒンデミットの曲をモチーフにしたもの。緑化では馴染み深い、翠川のレパートリー。
(2)と(7)は富樫雅彦の作曲。黒田京子トリオは、彼の曲を多く演奏してきた。
そして(3)と(5)の前半が黒田の曲だ。(3)が18年くらい前、(5)が14年ほど以前の作品だったかな?
「もうそんな経つの?」と黒田自身が驚いていた。
(5)の後半はカーラ・ブレイの曲らしい。
アンコールは前半がブラ・プロの「リベンジ(太田談)」。発端となったブラームスのピアノ・トリオ1番だ。
メドレーで演奏された曲は、「夢のあとに」と聴こえた。
もしタイトルがあたっていれば、フォーレの曲かな。
MCでいきなり、黒田がバンドのレコーディングを終わらせたと宣言。録音は一日で完了したらしい。
その効果が出たか、一年の総決算の想いが結集したか。
今夜のライブは、とびっきり集中した演奏だった。
まず(1)の完成度にぶっとぶ。
ユニゾンでテーマのフレーズをなぞった。自然発生のようにアンサンブルへ繋がるアレンジらしい。
テーマの後、軽くピアノのソロ。あとは三人の立ち位置がめまぐるしく交錯した。
小節どころじゃない。まるで拍ごとに音の主役が変わる。
三人が次々に音をやり取りし、主旋律を紡いでゆく。まるで全てが作曲のよう。
優雅に、美しく。くるりくるり音が即興で舞い、幾重にも絡む。
冒頭から集中したサウンドだった。
前半はどの曲も心地よい緊張感を保つ。
富樫の"パッション"は、翠川のリフがイントロ。バイオリンとピアノが合わさり、積み上げる。
チェロがソロを取ったときは、太田がさりげなくチェロのリフをなぞった。
太田も翠川もアルコを主に使う。
さらにピチカートも太田は多用していた。翠川がアクセント的に取り入れたのとは対照的。
ウクレレ風にバイオリンを爪弾くシーンも多数。
黒田トリオで太田は変化球をあまり使わぬ印象があったため、今夜の演奏は新鮮だった。
"200光年のかなたに"は黒田が新ピへ、自らのバンドで出た頃の曲という。
冒頭は黒田の繊細なトーン溢れる、フリーな無伴奏ソロ。
やがて6/4拍子のリフをピアノが奏で、弦が参加した。
この曲、きれいだった。すごく。
翠川のチェロがふくよかに鳴り、ピアノの音世界を広げた。
いくどもピアノのソロを挿入。
太田はつとバイオリンを置き、タールを構える。指先でそっとランダムなビートを重ねた。
前半最後の"パラ・クルーシス"は、中盤のブレイクが印象的。
バイオリンとチェロでフレーズ構築の上へ、ピアノがキュートに加わる。なんだかプログレっぽい感触だった。
そのちょっと前。太田が演奏中にふと、「イエ〜」と吐息を漏らす瞬間が記憶に残る。効果音でもなんでもない、本当に無造作な一声。
チェロが奔放に動く。自由で心地よい。聴き応えたんまりの曲だった。
(1)や(4)は黒田トリオのために、翠川が作曲したそう。
休憩はあっさり終わり、すぐさま二部へ。
(5)の二曲メドレーは、ずいぶん長く演奏された。
「バカになってくださいね〜」と冒頭に黒田が言ったが、演奏も次々に芸が飛び出すユニークな展開。
黒田はハーモニカをぷかぷか吹く。もちろんピアノを片手で弾きながら。
チェロの背中を叩き、犬の鳴き声(これ、太田が声を出してたのかな?)に対し、「ハウス!ハウス!」や「ステイ!ステイ!」と、厳しい声を出す翠川。
特殊奏法では手首を使って弦を押さえ、チェロを鈍く響かせたのを強烈に覚えてる。
太田がバイオリンの弓の留め金をはずしてしまい、ザンバラな弓で弦全体を挟み込む奏法を披露。ひさしぶりに見た。
黒田トリオの今年1月ライブで、太田がこの奏法をやっていた。
今回はクラシックの曲で、見事な一人四重奏を達成。すごい。この奏法はもっと、じっくり聴いてみたい。
それぞれが譜面を置いたり取ったりしていた。実際にはもっとメドレーをやっていたのかも。
太田は嗄れ声で"Drinkin'
mu〜sic♪"と歌う。
チェロとバイオリンで対話式にフレーズを交換。
翠川の提示するメロディを、太田がその場で軽くフェイクさせる。
さりげない音のキャッチボールが、小気味よい。
前半の緊張と対照的に、後半はまったりモードが多かった。
太田がメガホンで草笛をやったのは、(6)だったかな。
アコーディオンを黒田は抱え、滑らかなメロディでソロを取る。
ピアノとは一味違ったアンサンブルで、素朴な感触あり。
メガホンを持った太田は、身体の力を抜いて唇を震わせ、草笛を表現する。
演奏が進むのもかまわず、延々とやっていたのが面白かった。
二曲でおよそ30分弱やってたろうか。
「こういう雰囲気ならば、やっぱり"ワルツ"でしょう」
と、黒田が"ワルツ・ステップ"を選ぶ。
"ワルツ・ステップ"も美しいメロディが、ピアノ・トリオ編成に良く似合う。
心地よい緊張が蘇り、音楽の透明度がすっと増した。
本編最後の"ヒンデ・ヒンデ"は、緑化とはイメージが違う。がらりと。
フリージャズの要素を緑化では感じるが、黒田トリオではクラシックの要素がより鮮明に見えた。
そういえば、あれはどの曲だろう。
太田がバイオリンでソロを弾いていた。いかにもクラシカルな雰囲気で。
ところが黒田のピアノに素早く反応。まるでクロスフェイドのような自然さで、雰囲気がするりとジャズへ移行。
チェロも加わり、一気に風景を変えた瞬間があった。あのさりげなく容易に風景を塗り替えるテクニックに、舌を巻いた。
で、"ヒンデ・ヒンデ"。(1)のように、綿密に音が寄って構築された。
黒田京子トリオの演奏はハマると、一秒たりとも隙がない。
即興要素がほとんどのはずだが、あらゆる音が書き譜のような幻想に捕らわれる。
それほど音に説得力があり、三人の音がきめ細かく存在する。
さらにダイナミクスも凄まじい。弦はアンプを通しているが、それでも聴こえないほどのpppが頻繁に登場する。
クレッシェンドやデクレッシェンドがきれいに聴こえるのも、このバンドならでは。
どの曲でも、エンディングは余韻が大切。ふっと音が宙に消える。
観客も分かってる。コーダのとたんに、すぐさま拍手する無粋さはない。 音が宙に消え、奏者が緊張を緩める瞬間。その一瞬が大好きだ。
演奏が終わっても、拍手はやまない。
翠川が「この譜面があるもんね〜」と、ブラームスの譜面を振っておどけた。
「リベンジやりたかったんですよ」
と、太田がつぶやく。
「アンプを切った?」と確認する黒田へ頷く翠川。
音のバランスを考えたか、黒田はグランド・ピアノの蓋を小さく開くよう調整した。
52小節目まで、と翠川が言ったかな。
7月のブラ・プロで披露した、重層的なアンサンブルの片鱗が、冒頭だけ演奏された。
一区切りついて、すぱっと曲が変わる。
バイオリンを構えなおした太田は、朗々とメロディを奏でた。
今年の総決算にふさわしい快演だった。
実際は黒田が腱鞘炎に悩まされ、太田は体調不良でへろへろだったらしいが・・・。
音楽そのものは素晴らしく充実していた。
CDは年明けにマスタリングされ、3月くらいの発売を目指すそう。
リリースを皮切りに、さまざまな活動を計画している様子。
どんどんこの音楽を、それこそ世界中へ広めて欲しい。