LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

04/05/02  吉祥寺 Manda-la2

出演:ふちがみとふなと+桜井芳樹
 (渕上純子:vo ピアニカ他、船戸博史:b cho、桜井芳樹:g マンドリン cho)

 ふちふなの東京・横浜ツアー5daysの4日目。観客は立ち見も出る盛況だ。
 コステロの"North"がBGMで流れる。時間を10分ほど押し、まず船戸と桜井が登場。
 セッティングが終わった頃に渕上が現れた。

「ようこそおいで下さいました」
 ひとこと挨拶、ピアニカを加えて冒頭のメロディをゆっくり吹いた。
 素朴で優しいふちふなの世界へ、あっというまに誘われる。
 
 ふちふなのライブってタイミング合わず、ずっと行きそびれてた。聴くのは二年ぶり
 今夜はゲストに桜井芳樹が加わる格好で、冒頭から出ずっぱりだった。
 
 一曲目はぼくの好きな曲、"Heaven"。
 つぶやくように歌詞をメロディへ載せる。身体をわずかこごめ、ゆっくり渕上は身体を揺らせた。
 桜井のエレキギターが、付かず離れずオブリを入れる。3人のアンサンブルはごく自然に絡まった。

<セットリスト>
1.Heaven
2.さらばジャマイカ
3.  ?
4.  ?
5.Teach Your Children
6.ゴミの日
7.  ?
8.  ?
9.僕に宛てて
10.ガラスと夕焼け
 (休憩)
11.トラック野郎ジョン
12.耳国国家
13.帽子に注意!
14.(正調)古本屋の歌 
15."バイル・コン・トリステ"(?)
16.  ?
17.Fairytale of New York 
18.坂をのぼる
19.愛さずにいられない
20.At home
(アンコール)
21.お店やさん

 不完全なリストですが、ご容赦を。
 一曲ごとに渕上は大きく頭を下げる。「身体が柔らかいなー」ってのんきに眺めてた。
 全ての曲の合間に、二言三言MCを入れる。

 桜井と共演するのは京都に次いで2回目だそう。「ライブのたび(桜井に)歌ってもらう曲が増えます」と、渕上がにっこり。
 演奏されたのが"さらばジャマイカ"だった。なんか意外。
 桜井はぼそっとマイクに向かってコーラスを入れる。低音が渋かった。

 なおこの曲では思わぬSEあり。厨房で皿を洗う水音が、シンプルなサウンドへ乗っかった。
 普段はうるさいなーって思うことが多いけど。ジャマイカの河のほとりでしみじみ歌う光景が脳裏に浮かんで、心地よかった。

 "洗濯の歌"で、渕上は「桜井さんと演奏したら生活を覗かれてるみたいだー」と笑う。
 冒頭の演出が面白かった。ステージ最後方まで下がり、ゆっくり歌いながら前へ歩む。ようするに歌のフェイド・イン。
 腕を力強く降りながら歌ってたの、この辺からか。

 次はたしか"その一個だけは〜♪"みたいなリフレインで、曲名は不明。桜井のブルージーなギターがぴたりとはまった快演だった。
 しみじみ「ふちふなってブルーズなんだ」って考えてた。粘り強いパワーが似合う。

 「3人そろってやりたかった歌です」
 映画「小さな恋のメロディ」の主題歌だそう。"Teach Your Children"は渕上による日本語詞にて。
 二人のコーラスも加わる。家に帰って曲を調べて納得。これ、CSN&Yのカバーなんだ。それっぽくハモってた気が。

 "ゴミの日"は今夜も伸びやかに歌われる。
 ギターやピアニカのソロが比較的長めに挿入された。

 次の曲が、ぼくにとって今夜のベスト。
 タイトルは不明だが、"静かの夜"みたいな題名だったはず。
 照明がふっと落とされ、イントロはベースのみが伴奏する。
 渕上はこれまで振ってた手を後ろで組んで歌う。静かに、穏やかに。
 ストイックさに、ぞくっときた。

 タバコに火をつけた桜井が、途中から加わって演奏は進む。
 ラストは暗転。
 照明効果も含め、ベストだった。これ、CDになってるのかな。

 重ためな音楽世界が続き、"イワンは〜"って詩の頭に歌われる曲。CDで持ってなく確認できないが、"イワンの水"かなあ?
 照明はこの曲も暗め。重厚なアンサンブルだった。
 ここまでにこやかに素早くベースを操ってた船戸は、アルコでぶいぶい唸らせる。
 弓の毛が盛大にほつれるほど、力強く弾いていた。

「この3人で演奏するために作った曲です」
 そう前置きされた"僕に宛てて"は、渕上がちっちゃなハーモニカでソロを取った。
 ちょっと世界がホノボノに戻ったっけ。

 前半最後の"ガラスと夕焼け"は、テンポがブロックごとに変化するドラマティックな曲。
 ベースとギターのデュオが素晴らしかった。
 緩急を効かせ、絶妙のグルーヴが産まれる。二人だけの演奏とは思えぬ、情報量多いサウンドだった。

 いったん休憩を挟むが、ほんの10分ほど。あっというまに後半へ。
 
 「トラック野郎ジョン!」
 一声告げて、いきなり演奏。前半は控え気味だった、コミカルな音楽世界がほんのりした。
 あの歌詞を元気よく、大真面目に渕上は歌う。ギターが入るとC&Wっぽさが強調されて楽しいな。

 渕上がピアニカで車のホーンそっくりな音を出す。
 間奏ではオフマイクでピアニカのホーンを幾度も吹いた。最後は桜井の影へ隠れて吹いてたな。
 桜井はソロでエフェクタをいじり、ロングトーンにフィルターをかけて加工した音を飛ばした。

 「ゲストが来たら洗礼として、演奏する曲です」
 先日でたコンピに収録の"耳国国家"。
 船戸はアルコを使う。やっぱり曲が終わったときに、いっぱい弓の毛がほつれてた。すごいな。

 "帽子に注意!"は京都にいるトイレ詩人と、同タイトルで歌を作りあったとか。
 なんでも和服姿で客をトイレへ案内し、一対一で詩を聴かせるパフォーマーだそう。どんなんや。

 コーダの瞬間、天井からハムノイズが響いたのはここだっけ?
 いいタイミング。まるで車が走り去るSEのよう。
 桜井も似たこと考えたのかな。面白そうにその瞬間、天井を見上げてた。

 なお、桜井はこの日ほとんど喋らず。
 渕上がたまに喋りを降っても首を振るだけで済ませてたなあ。

 天井からのハムノイズは、次の曲が終わるあたりまでやまない。エアコンの音かな?
 「なんか音が大きくなってない?」と渕上が苦笑する。

 "古本屋の歌"は桜井が入った「正調」バージョン。何でも作曲したとき、渕上の頭でギターが鳴ってたそう。
 そもそも荻窪、西荻窪、吉祥寺の古本屋協会(?)によるミニコミ「おにきち」(それぞれ頭文字から)第一号のため、渕上が作った曲。
 ちなみに近刊の第二号は上野茂都による"古本屋節"だとか。

 拍の頭に言葉を載せるくっきりしたメロディだが、素朴な言葉に力がこもる。
 ギターソロも確か挿入されたはず。

 ここまで書きそびれたが、船戸の演奏って記憶以上にパワフルだった。
 リズム楽器も兼ねるかのごとく弦をスラップさせ、コード楽器のように弦を数本押さえかき鳴らすシーンも多数。
 指は素早く動き、高低音を使い分ける。

 そんな船戸がとりわけすごかったのは、続いて演奏されたサイツ(メンバーは船戸、大原裕、芳垣安洋)のレパートリー。
 大原の追悼"20曲ぶっつづけ"セッションで、渕上が歌詞をつけて歌ったという。

 曲は初めて聴いた。場面展開でがらっと雰囲気を変え、伸びやかなラブソングに仕立てた渕上の詩がきれい。
 トロンボーンに見立てたカズーを準備し、たんまりとソロもあった。
 
 そして船戸は大熱演。今日は風邪気味だったらしいが、ウッドベースへかがみこんで猛烈に煽り立てる。
 ギターとカズーのトロンボーンを向こうに廻し、高速フレーズをばら撒いた。
 それでいて渕上へさりげなくアドバイス。オフ気味だったカズーを、マイクでくっきり拾わせた。

 次も曲名不明。"くそったれ〜!"って大きく腕を振るジェスチャーで、桜井へ次の曲を知らせる。すごいキーワードだな。
 実際の歌詞も、この言葉をサビで歌い上げる曲ですが。前に聴いたことあるような・・・思い出せないや。

 そしてポーグスのカバー、"Fairytale of New York"へ。
 この顔ぶれに似合うと思ってたから、演奏してくれて嬉しかった。
 なんでも飲んでるときに桜井がポーグス好きと知り、渕上がライブで演奏を約束したとか。覚えてなさげに喋る。

 この曲だけ、桜井はマンドリンへ持ちかえ。
 「季節がぜんぜん違うやろ」と渕上がためらってたが、演奏はもちろんばっちり。
 終わったとたん「季節を気にしなくてもいけるね」と、180度意見は変わってました。

 "坂を上る"をしっとり決めて、近作"愛さずにはいられない"へ。「アルバムリリース10年計画の2曲目」とおどける。
 穏やかないい曲だった。

 2ndセットの最後は"At home"。アルバムで聴いてたが、つくづく良さを実感。帰ってから何度もCDで聴きかえしたよ。
 サビでアルコがかき鳴らす音像が、とっても雰囲気あって暖かかった。
 へんな言い方だが、サビのラストでふいっと揺らぐ歌声が好き。

 一通り歌ったところで、渕上がぺこっと一礼。
 すっと桜井を指して、ギター・ソロをうながした。
 ラストはぐっと盛り上がり、朗々と渕上はロングトーン。延々と伸ばし続けた。

 アンコールにはすぐさま応えてくれた。
「今回はアンコールを準備してます」と一言。どっかでアンコールをやりそびれたのかな。
 
 披露したのは、大好きな曲の"お店屋さん"。今夜はやらないのかとガッカリしてただけに、すごい嬉しい。
 風邪気味という船戸はコーラスを入れづらそうだったな。

 渕上は両腕をすっと振って、サビのフレーズを誘う。
 桜井と船戸がつぶやいてハモる。透明感あって好きなんだ。
 CMソングになったら、大ヒットすると思うがな。どっかの企業が使わないもんか。って、前も書いたか、これ。

 ハミングしながら、渕上は桜井へギターソロを誘う。
 ところが桜井が気づかない。いや、気づいても入りそびれたみたい。
 しつこく渕上がハミングを繰りかえし、幾度も桜井をあおる。

 ところが桜井は完全にタイミングのがし、リフを繰り返すのみ。
 渕上は苦笑して座り込む。呆れた表情で、やけっぱちにハミングしてた。
 エンディングはサビを繰り返す。
 いくども渕上が両腕を持ち上げ、合図。
 最後は手のひらを伸ばす合図で、アカペラにて。
 で、今夜のライブが終わった。
 
 2度目のアンコールは残念ながらなし。
 桜井が入ったせいか、ふちふなの魅力のひとつ、コミカル要素は抑え目。アンサンブル重視の充実したステージだった。
 "I can't turn you loose"って、桜井が入った編成でも面白そうだけどなぁ。

 ブルーズとふちふなが素晴らしく相性いいと分かったのも興味深い。
 ふちふなの魅力に、あらためて夢中になった。

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