LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

02/2/23   早稲田 ジェリージェフ

出演:灰野敬二
 (灰野敬二:vo,g,ブルガリー)


 最近の仕事でのストレスを、灰野のギターで吹き飛ばしたくって。
 ひさしぶりに彼の演奏を聴きに行った。もっとも、今日は予想と違う構成だったが。

 彼のソロは、3つの音楽性に大別できると思ってた。
・豪音ギターとシャウト
(「不失者」や「KNEAD」系。一番想像しやすい灰野の姿ですね)

・パーカッションのソロ
(中野のPLAN-Bでやってるライブ形態。アルバムで言えば「天使の擬人化」あたりか)

・エレキギターと民族楽器を組み合わせたソロ
(下北沢のレディー・ジェーンで演奏するときは、たいがいこのタイプ)

 上で言えば3番目の、民族楽器系ライブかなと想像してた。

 ところが今夜はどれともちがう。
 アコギ一本で古い歌謡曲を歌いまくる構成で来た。
 つまり「哀秘謡」をソロでやる形。こういうタイプのソロがあるとは知らなかった。

 たぶん店内の雰囲気に合わせたんだろう。
 ジェリー・ジェフは早稲田大学そばのロック喫茶(夜はバーになるみたい)。床は木で貼られ、店内全体にかなり年季が入ってる。

 当然ながら今夜も禁煙。開演前にはおなじみのお香が焚かれた。
 観客は20人くらい。黒尽くめな服装の熱心なファンが集まったようだ。

 灰野のライブにはいくつもかお約束がある。
 たとえば、灰野のMCは一切ないとか。禁煙だとか。
 そのほかに「拍手をしない」ってのもあったのかな。あんがい曲間の拍手が少なくて戸惑った。

 時計は20時くらい。無造作に灰野は椅子に座り、ライブが始まった。

 まずはブルガリー(オフィシャルHPの表紙にのってる楽器)を構えて、爪弾き始めた。
 コンタクトマイクをガムテープで貼り付けた、生のサウンド。
 この演奏が、ぼくが今日期待してた演奏形態に一番近かった。

 指先で弦が高速にかき鳴らされる。ほんのりリバーブを効かせた音色がストイックに響いた。
 4/4が基調だが、灰野の気分次第でリズムが不安定に変化する。
 猛烈なストロークの隙間から覗く、即興の旋律らしきものも耳に心地よかった。
 
 ときおり詩を高らかに唱える。メロディはあるかなしか。
 一文字一文字を言葉でなく「響き」としてとらえ、ゆったり咆えた。

 この演奏が約30分ノンストップ。ぼくは朦朧としながら聴いていた。
 
 そしてアコースティック・ギターへ持ち変え。以降は他の楽器を演奏しなかった。
 これもガムテでマイクを貼り付けて、音を増幅させる。エフェクターはほぼリバーブのみ。
 音色は多少鋭く強調されたが、シンプルなものだ。

 選曲はその場で灰野が決めたみたい。
 目の前に置いた譜面を、一曲終わるとあちこちめくる。
 この譜面台がやたらにでかい。演奏中の灰野の顔が、ほとんど見えなくなるくらいだった。

 灰野は前述のように、MCをまったくしない。
 だから灰野が歌う「日本語」へ、ちょっと違和感を覚える自分自身が面白かった。 
 灰野が「日本語を喋る」ってことそのものにインパクトを受けてしまったから。
 まぁ、こんな印象をもつのはぼくくらいだろうが・・・。

 とはいえ、どの曲もいわゆる「歌」とはほど遠い。
 あくまで「灰野節」にどの曲も変容していた。 
 アコギの弦がふきとばんばかりに、力強く指でギターを弾く。

 ときにタッピングを盛り込む演奏は、リズムもビートもあってなきがごとし。
 テンションの赴くまま、奔放に音を操る。日本的な「間」を意識した演奏だ。
 器楽よりも、パフォーマンス寄りな音展開といえる。
 
 ほとんどの曲では伸びやかな高音を操る、静か目なヴォイスだった。
 ときおり披露した、ひたすら声が伸びるロングトーンが凄い肺活量だ。
 全体的に音量は控えめ。
 たっぷりリバーブをまぶした声が店内に響き、なんとも心地よい。

 中盤、二曲ほど怒声で吼える。
 小林旭の「ダイナマイトが百五十屯」では、絶叫で歌詞を搾り出した。

 そのまま次曲でも、太い声で叫ぶヴォイスで続ける。
 空間へ轟くリバーブの多さを嫌ったか、演奏途中でいきなりエフェクターを叩き切る。
 そのまま襲い掛かる灰野の叫びは、抜き身の迫力があった。

 今夜は休憩なし。最後まで一気に灰野は駆け抜けた。
 一曲あたりの演奏は、ほとんどが10〜15分くらい。
 それぞれの曲でアレンジを変化させ、緊張感が切れない。
 スリリングな演奏が立て続けだった。 
 
 たいがいの唄は歌詞もメロディも解体され、単なる断片へ裂かれた。
 歌謡曲ジャンルには疎く、どんなセットリストだったか不明。
 ほかには「赤い靴」をうたってた。『歌を忘れたカナリヤは〜』という歌詞の曲もやってたな。
 
 エンディングが壮観だ。
 いままでのアバンギャルドな雰囲気を綺麗に拭い取り、繊細に切々とメロディを活かして、しみじみと一曲歌い上げる。
 フォークっぽいムードが、最も漂っていた。
 
 素朴で優しい空間を作り上げきったところで、「ありがとう」とぼそっとつぶやくと、灰野はギターを置いて店の外へ出て行ってしまう。
 象徴的な終わり方がすばらしい。

 実に2時間15分ぶっ通し。この手の音楽は、ぼく苦手なはずなのに。
 灰野のパワーに翻弄されたライブだった。

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