LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

00/1/14   中野 PlanB

出演:灰野敬二(per)

 ここんとこ、行くのは初めてのハコが多い。
 PlanBは中野からバスで10分強。ちょっと不便だなあ。
 行ってみたら開場が遅れている。リハが押したらしい。
 ステージとなりの控え室っぽいところで、客が待たされた。
 隣のステージから、かすかに金物をひっぱたく音が漏れ聴こえてくる。
 それにしても、さすが灰野のライブ。観客の服装も黒尽くめが目に付いた。
 
 といいつつ、僕は灰野のライブを見るのは初めて。
 灰野はタバコ嫌いと聞いていたので、開場前も吸うのをぐっとこらえる。
 もっとも風邪気味だったので、来る前に飲んだ薬が効いちゃって。
 待ってる間、ずっとうとうとしてたけど(笑)
 開場まで一時間以上待つ。寒い部屋に安っぽいパイプ椅子で待たされて、往生した。

 いいかげん待ちくたびれた頃に、開場。
 ハコに入ってみてびっくり。内装が何にもなし。まるで倉庫の中みたい。
 ここは劇場スペースらしい。かなり自由度が高そう。
 演技スペースは、たぶん20畳くらいあった。
 周辺の壁は、コンクリートの打ちっぱなし。観客席はおよそ20人も座れば満杯なくらい。
 観客席より圧倒的に、ステージのほうが広い。

 すでにステージの明かりは落とされ、暗闇状態。
 灯かりは白熱灯のピンスポットが二本のみ。
 うっすらと床を照らして、かろうじてあたりが見えるだけ。
 ステージ奥に、パーカッションがずらりと並んでいる。

 中にはお香が焚かれて、うっすら煙っていた。まるでスモークを焚いているみたい。
 観客がしいんと静まって席につき終えた頃、おもむろに灰野が登場した。

 灰野はトレードマークの黒ずくめな衣装にサングラス。さらに黒手袋までしていた。
 一言も喋らずに、ステージ隅にまとめて置かれたパーカッションのほうへ歩いていく。 
 そして・・・ライブが始まった。

 灰野は終止無言。それにつられて灰野が楽器を持ち帰る間も、観客からの拍手は一切なし。
 静まり返った雰囲気の中で、もくもくと灰野はパーカッションを叩きつづけた。

 基本的にはフリーな即興を楽器を変えながら演奏していた。

1)鋸みたいな形のアルミの板をひん曲げ、まずは床にぺたんと座り込み弓弾き。
  しばし金属的な音を響かせる。
  そして床にアルミ板をこすりつけ、耳ざわりな音を引きずり出す。

  その後、同じようなアルミ板をもう一枚引っ張り出し、両手に持った。
  静かに、静かに、金属板を震わせて音を出す。
  ときにはすっくと立ち上がり、舞うように身体を動かしながら、アルミ板を振り回す。
  金属板が微妙に震え、ゆよん、ゆよんと鳴った。

2)小さな鐘(ケンガリのようなもの)を五、六個床にほおりだした。
  鐘同士を叩きつけたり、床に鐘を投げ捨てる。
  かなづちをマレット代わりにしてひっぱたく。

  無造作にばら撒かれた鐘を、かなづちで的確に素早く叩くテクニックがすごい。
  ノイズを出すのが目的でなく、メロディにも配慮しているようだ。
  かなりメロディアスな演奏だった。

3)車のホイールのような鉄板を持ち出す。片手には金属製の鍋つかみ。
  軽く一発叩くと、コンクリ打ちっぱなしの部屋に打音が反響して、実に豊かな音が残る。
  何度も何度も殴打し、さらにホイールを微妙に体の周りで泳がせ、残響を変化させた。
  パントマイムをしているかのように、身体をきびきび動かしながら、金属音をふくよかに響かせる。

  鉄板の向きを変えるだけで、こんなに響きが変化するなんて。
  わくわくしながら耳を澄ましていた。
  
4)金網を真中で切り取ったような楽器。
  丸い鉄板の周りにずらっと垂直に金属棒が何十本も立っている。
  手作りなのか、それともちゃんとした楽器なのかは不明だ。
  そのオブジェをくるくる回しながら、弓で金属棒を弾きむしる。
  素晴らしくきれいな金属音が奏でられた。
  メロディをひくまでは行かないが、ちゃんと音階が発生していた。

5)両手におおきめのタンバリンを持つ。
  身体や床に叩きつけて大きな音を引き出す。
  タンバリン同士を打ち合わせて、「ばしんっ!」と深みのある音が響き渡った。
  興に乗るにつれ、あまりに激しく床に叩きつけるものだから、しまいにはタンバリンが破壊されていく。
  周りに飛び散る小さなシンバルを足で蹴り飛ばしながら、何度も灰野は床にタンバリンを叩きつけていた。

6)鉄琴風の楽器を床に二つ置いて、そっと叩く。
  音がみるみる反響して、耳に流れ込んできた。
  環境音楽風にシンプルなメロディを繰り返して、積み重ねる感じの演奏だった。
  ここでも鉄琴を持ち上げたり、振り回したり。
  エコーを微妙に支配していた。
  叩いた瞬間に鉄琴に手を近づけ、響いた音のミュートもしてたな。
  
7)仏壇に飾るような鐘を、大小とりまぜて床に並べる。
  このころになると漂うお香の匂いとあいまって、荘厳な雰囲気すら漂ってくる。
  ただ、あくまで灰野が強調しているのは音楽。

  だからパフォーマンスにありがちな押し付けがましさは、不思議と感じなかった。
  台の上へ盥みたいにデカい鐘をおき、無造作にひっぱたく。
  鐘同士がいん・・・いん・・・と共鳴して、複雑に響いていた。

8)両手に持ったのは小さめのシンバル。
  互いを打ち合わせながら、手を舞わせて余韻を空間に広げていく。
  たびたび打ち鳴らすうちに、残響が重なっていく。

  スペース一杯に音が響き渡り、僕の鼓膜が震えた。
  今夜の演奏は全て生音。だけどルーム・エコーがすごいので、かなり大きな音を味わっているようだった。

9)直径40センチくらいの、めちゃくちゃ大きいタンバリンを演奏。
  力任せに掌を皮に叩きつけ、音をフロアに響き渡らせていた。  

10)パフォーマンスとしては、この演奏がベスト。
  クラベスを持ち、まずはシンプルに打ち鳴らす。
  暗めの照明の中、灰野の動きがどんどん研ぎ澄まされていくような感触。
  そして灰野は、われわれ観客の前に跪く。

  灯かりがどんどん落とされていき、ついにフロアはピンスポ一本。
  灰野の手だけを、すぱっと照らしている。
  灰野は床にクラベスを置き、手を叩き合わせる。
  己の手だけをつかった、パーカッション。
  音色を変えられるわけじゃない。でも、すばらしく象徴的なパフォーマンスだった。

11)大小のシンバルを使い分ける。
   指で微妙にミュートしながら鳴りを変化させる。
   ステージの隅へ行ったり、中央で叩いたり。
   ルーム・エコーを自在に使って、多彩な響きで楽しめた。
   しまいには熱がこもってきて、かなり激しく音が散乱。

 混沌としてきたところで、唐突に演奏が終了。
 そのまま床に崩れ落ち「ありがとう」ともごもご言い、灰野はステージを去った。
 灰野が言葉を発したのは、とうとうこの瞬間のみ。
 せっかくだから灰野の叫び声も、ぜひ聴きたかったなぁ。

 最初から最後まで、灰野は観客にも緊張感を強いる。
 それを良しとする人もいるだろうが、僕はもうちょいリラックスした雰囲気が好き。
 ただし演劇性を伴った、トータル・イメージはすばらしく上等なものだと思う。

 誰にでも経験あるんじゃないかな?金物を叩いたときに、響きが面白くてしばらく熱中してしまったりすることが。僕は何回もあるけれど・・・。

 今夜のステージは、そんな無邪気さが感じられた。
 単純に「この響きって、きれいでしょ?」と、無言で灰野から問い掛けられた気がしてたんだ。
 今夜聴けた音は、どれもこれも神秘的で素晴らしかった。 

 今夜のステージは録音していた。CD化されるのかな。楽しみだ。

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