LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2001/9/4 新宿 ピットイン
出演:大友良英New Jazz
Quintet
(大友良英:G、菊地成孔:ts、ss、津上研太:as・ss、水谷浩章:B、芳垣安洋:Ds、tp
ゲスト:Phew:Vo、SachikoM,益子樹:Electronics)
大友クインテットのライブは今年の二月ぶり。前回も同じピットインだった。
次のライブでは、大友がゲストvoの導入を示唆していたが・・・。
ふたをあけてみるとvoにはPhewを招き、歌伴スタイルを選択した。
初期ボンデージ・フルーツのように、スキャット中心のボーカルと想像してたので、かなり意外。
他のゲストに1stアルバムにも参加したSachiko M。さらに芳垣のROVOつながりか、益子樹が脇を固める編成となった。
場内はあいかわらずの満員。後方にも立ち見がずらりと並ぶ。
東京ザヴィヌルバッハの坪口や、DCPRGのメンバーも聴きに来てたらしい。
大友らは8時過ぎに、薄暗いライティングのステージへ現れた。
二月のライブとはメンバーの立ち位置が異なり、ステージ向かって左の場所に、大友がギターを抱えて座る。
前回見に行った時は座席の関係で、大友をまったく見えなかったので、単純に嬉しい。
逆に今回は、芳垣のドラミングがさっぱり見えなかったけど(笑)
演奏はいきなりアップテンポでスタートした。
ところがいきなり、5分くらいで演奏終了。メンバー紹介のMCが入る。
・・・大友流のファンファーレかな。
一応今日は「レコ発ライブ」だが、全て新曲で固めた構成とか。
いきなり前回のスタイルを捨て去る宣言をして、ステージが進行する。
二曲目は新曲「Y」。これがとびきりいかしてた。
ドラムとベースが高速にビートを刻む。
大友はポリリズミックに、7拍子のフレーズで応戦。
そこへ菊地や津上のサックスが踊る構成だった。
菊地は津上がソロを吹いている時、大友と同じフレーズを吹いて、重層的な音像を作り上げていた。
リズム隊はあいかわらずタイトだ。
芳垣のシンバルワークは着実に、繊細に鳴る。もっとも今夜は、ラフよりなプレイが多かった気もするが。
水谷はウッドベースを抱え込み、次々にビートをたたき出す。
時に目を閉じ、時に楽しそうに視線をドラムのほうへ投げ、ぐいんぐいんベースを振り回しながら演奏していた。
いっぽうサックス隊は、ノイジーかつ抑えた奏法が目立った。
菊地は顎でリズムを取りつつ、しょっぱなからサックスに悲鳴を上げさせる。
津上もメロディアスな演奏はあえて避けた様子。
二人とも、ピアニッシモでブレスを強調するような音色も多用していた。
1ステージの3曲目に益子樹が、4曲目にSachikoMがゲストで加わる。
二人ともあまり自己主張せず、そっとノイズで場を作るような演奏だった。
サイン波のみで勝負するSachikoMはともかく、益子樹はがんがん騒いでも面白かったのでは。
そういえばリズム隊+SachikoMのビートが作り出された時、菊池が哄笑しながらサックスを吹き始めたのが印象に残ってる。
たしかにすごく気持ちいい音像だったなぁ。
4曲目はオーネットの「ロンリー・ウーマン」。
5曲目はゲスト二人を迎えた構成で、ドルフィーの「帽子とひげ」をプレイした。
「ロンリー・ウーマン」はフリーで、かなりストレンジな耳ざわり。
オリジナルをよく知らないせいもあって、完全に大友の曲として聞いていた。
逆に「帽子とひげ」は、第一セットでは一番ジャズよりの演奏。
ユニゾンでサックス隊がテーマを奏でる瞬間は、ぞくぞくっとした。
けっきょく第一部は約1時間の演奏。
しばしの休憩をはさんで、今度はphewが登場する。
確か一曲目はSachikoMが引っ込み、益子樹がバックアップ。
2曲目あたりで益子樹がいったんステージを降り、SachikoMが加わる・・・と、こまかくメンバー変更があった気がする。
Phewがどすのきいた喉で朗々と、日本語の歌詞を歌い始めた。
オンマイクで、びりびり声を響かせる。
メロディはあまりジャズっぽくない。ステージが一気に場末のキャバレー風に変化した(笑)
第二セットはPhew作詞の曲を、5〜6曲披露。
MOSTのレパートリーなどを歌っていた。
まったくの歌伴だけで、後半が終わってしまう。
数曲だけボーカル入り、最後はクインテットで締めるかと思った。
ここまで伴奏に徹するとは。
とはいえクインテットによる伴奏も、見事にはまっていた。
イントロやバッキングはしっかり歌伴につとめ、ソロになると一気にフリーへ変化する。
一筋縄では行かない演奏は、どこの瞬間を切り取っても面白い。
Phewが歌うメロディが親しみやすいので、伴奏がフリーからメロディアスに急激なシフトをする瞬間が、とてもスリリング。
芳垣もトランペットを持ち、サックス二本と3管体制で不穏な空気を作るひとこまもあった。
大友は基本的にギターだけを演奏する。
ギターをアンプに近づけハウリングを響かせると、SachikoMのサイン波と音がきれいに溶け合う。
ピックを持っても早弾きは控えめで、明るいトーンでじっくりと弦を引っ掻いていた。
今夜はMCは控えめ。ときたま大友がもごもごと曲紹介をするくらい。
比較的長めに喋ったときでも、とっちらかって話がどうどう巡り。さんざんメンバーに突っ込まれまくるしまつ。
「菊地の芸風に似てきた」と大友がボケると、「俺はそんな芸風じゃない〜!」と、即座に菊池が突っ込んでたっけ。
てなわけで、第二部はあっというまに終了。それでも一時間弱演奏してたかな。
アンコールの拍手を送っていると、メンバーとSachikoMがステージに戻ってきた。
演奏したのは、1stアルバム収録の「Flutter」。
CDでぼくが耳慣れしてたせいか、若干リラックスした演奏に聴こえた。
アレンジもきっちりソロを回していく、オーソドックスなジャズのスタイル。
菊池や津上は今夜この曲ではじめて、ぞんぶんにサックスを吹き鳴らしたんじゃないか。
演奏が終了すると11時前。ボリュームたっぷりな演奏だった。
大友クインテットの演奏は、どこか停滞してる気がする。
いかにリズムが高速化しても小節感が希薄なせいか、けだるくもわもわ漂ってるみたい。
まるでゼリーの海をかきわけているかのよう。
そんな曖昧模糊とした雰囲気がいとおしい。
SachikoMのサイン波が、沈鬱な音像に拍車をかける。
爛れるようなリラックス・・・そんな感じかな。
ぜひ彼女は正式メンバーに加わって欲しいな。
今後大友クインテットは、9月にもう一度ライブをしたあとにレコーディングらしい。
しかもセカンドとサードの同時録音。その後フランスツアーに旅立つ。
次にピットインで演奏するのは12月頭とか。
こんどはどんな演奏で登場するのか。次回が楽しみだ。