LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2001/02/11  新宿 ピットイン

出演:大友良英NEW Jazz Quintet
 (大友良英:electronics,g、菊地成孔:ts、津山研太:as,ss、
  水谷浩章:b、芳垣安洋:ds,tp)

 入場してびっくり。ぎっしり満員だった。
 席についたあとも観客がつぎつぎ来場し、最終的には立ち見が鈴なり。
 150人くらい入ったのかな。客席には福岡ユタカの顔も見えた。
 正直、この面子でここまで込むとは・・・過去に大友が菊地プーさんとライブしたとき(ドラムが吉田達也!)の、いまいちな客入りを記憶してただけに、すごく予想外だった。

 余談ながら芳垣は、この盛況をまったく予想してなかったそうな。
 一方でしっかり読んで、フライヤーを山ほどもってきた菊地はさすが。

 さて、込んでいるせいで席は思うように取れない。
 座った席は右手奥の壁際。
 なのに大友の位置はステージ一番右で死角となり、まったく彼の姿が見えぬ。無念。

 演奏開始は8時頃。
 まずはもこもことしたギターで大友が軽くあおり、芳垣がそっとハイハットをかぶせた。
 ロール気味にせわしなく、スティックがシンバルの上を上下する。
 水谷がゆったりとベースを合わせて、一曲目が始まった。

 一部の演奏は全4曲。一曲あたり15分の演奏時間をほぼきっちり守っていた。
 中盤の二曲は、ドルフィーの曲。
 全般的に音量は控えめ。低いボリュームで、混沌としたジャズだった。
 
 僕にはかなり、オーソドックスなフリージャズに聴こえた。
 二曲目では4ビート風のリズムまで飛び出す。
 大友も暴れることなく、クリアなトーンで演奏に絡んでいた。

 メインはサックスの二人。フレーズを吹き鳴らすよりも、サックスを軋ませてノイジーな音を搾り出す。
 あのキイキイいってサックスをいじめる音が苦手な僕は、ちょっと辛かった(苦笑)

 すばらしかったのは芳垣のドラム。
 高速なスティックさばきで、残像が扇のように広がった。
 ハイスピードのシンバルワークにもかかわらず、ボリュームを巧みにコントロールする。

 静かに、繊細に。
 身体をくねらせながら、手首を絶妙にひねってシンバル群をあやつるさまが、しこたまかっこよかった。
 音色もタイトでいうこと無し。
 視覚と聴覚と、両方で楽しめた。
 ハイハットに小さな鎖をのせ、じゃらじゃらとサワリを作り出す小技が新鮮だったな。 

 第一部で僕が一番のめりこめたのは、4曲目。
 かなりメロディアスで、素直に聞けた。

 しみじみ感じたのは、菊地の確かなテクニック。
 ビブラートを効かせたふくよかなサックス本来の音色を響かせ、さらにフリーキーな金属音も自由自在に操る。
 ときに粗が見えるプレイの津山とは、好対照の演奏だった。
 
 30分ほどの休憩をはさんみ、第二部スタート。
 客電がついているのに、ノイジーなギターが鳴る。
 どたばたと客電が叩き落され、そのまま大友のギター・ソロに突入した。

 曲はオーネットの「ブラック・ウーマン」。
 電子音を取り混ぜながら、エフェクターをかました太い音で5分くらいのプレイ。
 短くフレーズを切り刻み、ワイルドなソロがピットインのフロアに響く。
 躍動感のあるギターがかっこよかった。

 二曲目は「スピン」。オリジナル・・・なのかな。
 全員そろって、ハイテンションでつっぱしる。
 水谷のウッドベースはうねり、ドラムと絡み合う。
 ギターもかなり前面に出て、サウンドを作り上げていた。
 音量もいきなりでかくなり、わくわくもの。

 三曲目もオーネットの曲。
 ドラムのスピードは果てしなくあがり、無拍子で絶え間なく叩きまくる。
 ベースもひたすらランニング。つるべ打ちでリズムが踊る。
 わずかに大友の電子音が、ゆったりしたビートでループ。

 そして、サックスの二人が自力でリズムを確保し、曲を展開させる。
 ユニゾンで高らかにメロディを歌い上げた。
 雄大な景色が広がっていく。
 この曲が、今夜のベスト・トラックかな。

 四曲目では、またもやトーンが急展開。
 ゆったりとしたテンションで、それぞれのミュージシャンが思い思いにフレーズを積み重ねていく。
 ミニマルなジャズだった。

 芳垣は途中で、トランペットも使い分けていた。
 あちこちを向いて吹いたり、タムの皮に押し付けて吹いてみたり。
 いろいろ技をつかってたっけ。

 この曲を30分近く続けていたんじゃないかな。
 エンディングには勢いをつけてなだれ込むかと期待していた僕は、拍子抜けしてしまった。
 やがて静かにフェイドアウトしていき、最後に残ったのは芳垣と大友だけ。

 芳垣がかすかに、かすかにハイハットを叩く。
 そっとスティックをおろし、残るはハムノイズだけ。
 いつのまにかドローン的に響いていたエレクトロノイズを大友が止めて、ステージが終わった。 

 ちなみにアンコールはジョビンの曲。
 大友がいきなりボサノヴァ・リズムのギターをきめ、オーソドックスで優しいタッチの演奏だ。
 菊地のサックスが、きれいなソロをとってたなあ。
 
 終わってみると、かなりセットごとに表情を変えたライブ。
 緩急を効かせた選曲にして、メリハリを効かせて欲しかった。
 終了時間は11時ちょいまえ。
 休憩を抜いても、正味で二時間半弱の長丁場なステージだ。

 大友がこのクインテットでやりたい音楽テーマを、今ひとつ掴めない。
 だからボケた聴き方になったかもしれない。
 ドルフィーやオーネットあたりのフリージャズを、ノイズ風味を混ぜて真正面から取り組みたいってことなのかな。

 リズム隊のセンスは、かなり黒っぽさを薄めていたと思う。
 だけど頭でっかちなジャズじゃない。
 肉体と頭脳がせめぎあい、微妙なバランスで成立していた。
 
 彼らのファーストアルバムが、今年春頃にTZADIKから出る。
 (録音は一年前くらいとか。紆余曲折あったが、やっとこさ・・・!)
 それを聴きこめば、大友のねらいがピンとくるだろうか。
 
 と思いきや。彼らの次回ライブは夏ごろとか。
 しかもボーカルが1〜2名加わる可能性あり。
 まだまだ彼らの音は進歩しそう。

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