Merzbow Works

"Rando/7 Phases/Blowback" (Sub Rosa:2004)

 キム・キャスコーンとの共演盤。
 ネット情報によると、メルツバウとは1980年代にAsmus Tietchens名で作品を発表したことあるらしい(未聴)。

 アルバムタイトルは、収録曲名を列挙した身もふたもないもの。
 本盤は素材をメールでやり取りし、製品に纏め上げたという。

 クレジットから推察するに、"Rondo"だけメルツバウの主導権、あとはキャスコーンが最終mixじゃないか。
 知識不足で、リリースに至る前後の脈絡は分からない。レーベルからのオファーで、さくっと作品を提供したって程度かもしれない。

 ジャケットはシンプルなもので、黒が基調。
 ジャケットに使われたCGも、キムの手によるものらしい。となると、主導権はキムなのか。
 このジャケット、日本語らしきものもコラージュしてるようだが・・・なんて書いてあるんだろう。よく読めない。

 キム・キャスコーンをネットで調べたら経歴が見つかった。1955年のミシガン州生まれ。
 70年代初期にバークリー大学で音楽を学び、その後サンフランシスコでデヴィッド・リンチのアシスタントで"ツイン・ピークス"などの音楽編集アシスタントを務めたとあった。

 さらに1986年"Silent Records"レーベルを立ち上げ、自作を含む何枚かをリリース。
 他のミュージシャンはHeavenly Music Corporation PGR Thessalonians Spiced Baronsといった面子らしい。勉強不足でピンとこないが・・・。 
 そして96年にレーベルを売却、本格的に音楽の道へ進んだそう。

 テクノイズ系ミュージシャンかな。本作を聴く限り、さまざまな電子音楽が流れて、かなり聴きやすい。
 ビートよりもコラージュで作品を組み立ててるようだ。

 電子音楽好きなら、気軽に楽しめる一枚では。
 全体的な質感は"Nanoloop 1.0"に似ている。あれよりもっと、響きは複雑だけど。

1.Rondo (32:26)

 Recorded and mixed at bedroom tokyo 2003

 メルツバウが主導権を持ったとおぼしき作品は、いきなり一曲目に登場。長尺で、位置づけはかなり丁寧もの。
 録音のクレジットはいつもながら、かなりそっけない。試行錯誤した一曲を、さくっと提供した風情を感じた。

 鈍い地鳴りが次第に泡立つ。ループを基調のため、どこか表情は穏やか。
 明るい響きのノイズが、ぱっと地面を照らす。泡立ちは活発になり、生き生きしてきた。
 この賑やかめなノイズが、キャスコーンの素材か。

 突如、立ち上がったノイズ。幾本も表面をざらつかせたまま。
 歪ませながらときおり身体を揺らす。
 このあたりの音像は、メルツバウにしてはシンプルだ。

 前半では独特の空間を埋め尽くすハーシュは姿を見せず、ミニマルな電子音が浮かんでは消えた。
 極低音のかすかなそぶりが、メルツバウ特有の凄みを秘める。

 いつのまにか電気仕掛けのカエルが一面に広がった。
 鳴き声は次第に変調し、中央の電柱に寄り添う。

 そのあとにようやく、ハーシュっぽくサウンドが変化するけれど。
 唸りを上げるループ。背後には低音がそびえたつ。
 じわじわと侵食し、混沌の唸りが対話し始めたのに。
 ・・・でも、どこかおとなしい。

 激しくなるのを期待しても、どっかキュートなミニマルへ落ち着いてしまう。
 これはこれで楽しい音楽なんだが・・・強烈なハーシュを期待して買うと、当て外れなのが正直なところ。
 
 だいぶメルツバウはキャスコーンの素材を生かしてるのでは。
 ループ多用と幅広い帯域でのノイズはメルツバウっぽいが、根本的な表情はミニマル・テクノの要素が強い。

 ひとところに立ち止まることはないが、全体的なトーンは穏やかな地平か。
 ときおり鳴るふくよかなシンセの音に、往年のファミコンを思い出した。
 
2.7 Phases (16:28)

 Recorded and mixed at anechoic studios San Francisco 2004

 この曲はキャスコーンが主導権を持ってまとめられた。
 古めかしい電子音の重なりがイントロ。

 唐突にぶった切られ、不穏にたゆたう。この辺はメルツバウっぽさが仄見えた。
 この突然な寸断はこの後も聴ける。メドレー形式で繋げずに、極端な場面展開をするからこそ、表題をつけたのかも。

 それぞれの音世界に関連性はないが、前半は個々のブロックが短めで残念。馴染みかけた頃に、いきなりスパッと切り落とされてしまう。

 中盤は鈍いノイズがしばらく続く。キャスコーン流メルツバウの料理に聴こえた。

 曲としてはちょいと単調。ミニマル・テクノとして聴くと・・・逆に複雑気味。
 独特のポジションで作品を成立させた。

3.Blowback (1:48)

 Recorded and mixed at anechoic studios San Francisco 2004

 ミニマルな電子音の断片が浮遊する。ビートがあるように見えて、実際はランダム。
 こじんまりしたポップ要素が仄見える。
 性急に電子音が振りまかれ、中心を作らずに曲は終わる。

 これもキャスコーンのスタジオでまとめられた。

  (2002.12.15記)

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