Review of Merzdiscs  16/50

Dying Mepa Tapes 2-3

MA plays tapes,radio,ring moodulator,percussion,Noise,rhythm,junk electronics,TV,guitar,bass
Kiyoshi Mizutani plays violin,percussion
Recorded and mixed at Merz-Bau Tokyo 27 & 28 March 1982
Produced by Lowest music & Arts,1982

 (15)と同様に、アメリカのAEONレーベルのために録音された、カセットテープ3巻にわたる作品「Dying Mepa Tapes」の後半部分になる。
 マスターテープは秋田の手元になく、このCDはテープをリマスターして収録しているそうだ。

 テープの回転スピードをいじったことによる、音色の変調をベースとして、その上にさまざまなノイズを載せるのが、本作のコンセプト。
 当時の秋田が考える「インダストリアル・ノイズ」を実現した作品だそうだ。
 
 ノイズ音を前面に出した二曲目は面白いけど、現実のリアルな音が出る瞬間は苦痛に感じる。たとえその音色が、どんなに変質していても。
 退屈な現実のうっとうしい側面だけを、見せ付けられてる気がしていやだなあ。
 秋田はこの作品を作ってたときに、そこまで深読みしていたんだろうか。
 
 刺激的な金属音を聞くことだけでなく、聴きたくもない日常ノイズを延々と聴かされることすら、充分な「ノイズ」作品の表現手段になる。
 リスナー自身にとって「苦痛な音」を聴かされるのがノイズなら、どちらの方法論だって、ありだ。
 ぼくとしては、後者の「聴きたくもないノイズ」を聴いて、マゾヒスティックに楽しむ趣味はないけどね(苦笑)

<曲目紹介>

1.Sukha,chanda,tanno,kless (23:28)

 しょっぱなはテープの早回しから。甲高い音が祭囃子みたいに響く。
 サウンドはいつのまにか変化していき、ヴァイオリンのソロへとなだれ込む。
 音が優しいので、それほど刺激的じゃないのが残念。全体的に音像は薄い。
 テレビから取ったCMやドラマ、相撲中継の音が断続的に浮かび上がっては消えていく。
 ただ、これらの上物ノイズも、自己主張するほどではない。味付け程度かな。

 秋田はこういった作品は、リスナーが繰り返し聴き返すのを想定していたのだろうか。
 一発芸としては、面白いと思う。なぜなら、次に何が出てくるかわからない意外性を楽しめるから。
 ただ、何度も聞き返すならば、僕はもっと過激な音のほうがいい。

 それとも、こうして「メルツバウの音はかくあるべき」って思い込こむことが、そもそもまちがっているのかも。
 耳を揺さぶるハーシュノイズだけが、ノイズ作品じゃない。
 本作のように空間を浮かび上がっては消えていく、あやふやな音世界もちゃんとしたノイズの一側面なんだから。

 ノイズは予定調和になった瞬間に、ノイズではなくなる。
 予想外の展開をする局面や、聴き手がのぞむ音世界の逆を行ってこそ、「ノイズ=騒音」の意味合いにおいて、ノイズ作品が成立するといえる。
 
 となると、これも一つのメルツバウの、いい意味で「裏切った」傑作作品になるのかも。
 轟音でカタルシスを求めるか。それとも意外性を求めてノイズを聴くか。
 聴き手のスタンスによって、だいぶ評価は変わる。

 そんなのんきなことを考えながら聴いているくらい、この曲はほのぼのとしたノイズ作品だ。
 15分前後から現れるピアノの音は、ほんのりジャズ風味。
 やかましくひっぱたくのでなく、耳ざわりのいいフレーズは、ひなたぼっこしながら聴くと気持ちいいだろうな。

 そして、ちょうど20分くらいたったとき、いきなりカットインでリズムボックスに連れられて電気ノイズが軋み始める。
 やっぱり僕は、こういう音のほうが気持ちいいなあ。

2.Genetic erotic (22:57)

 前曲に引き続く感じで、金属的なノイズがいきなり身をよじりはじめる。
 発振音が絡みつき、ぐるぐる回って登っていく。
 何種類かの騒音が混ざり合って、一つの大きなノリを産み出していく瞬間が、とてもかっこいい。

 規則正しく、ジャッジャッジャッと刻む音色は、まるでスチールウール製の手袋で拍手しているかのようだ。
 ヴァイオリンの音が、これらの電気ノイズの合間を縫って、音楽的なメロディを無視し引っ掻き回す。

 9分弱たつと、音像はさらに迫力を増す。
 ヘリコプターのような低音をばりばり鳴らしながら、ヴァイオリンはさらに乱暴に弦を軋ませる。
 音がちょっとこもり気味だが、ためらいなくノイズをばら撒く姿勢が、すがすがしくも素敵だ。

 基本となるビートがゆったりめなので、どこかほのぼのした雰囲気が漂うのが面白い。

3.Rejet,ictus,connotation,accompagnement,penisersatz,stigmaindeliable,etc (23:14)

 演歌をテープ処理し、破壊したノイズから始まる。
 音は歪みまくって、何の唄だかわからないけれど。
 無機質なノイズに、耳慣れた演歌のフレーズがかぶさると、とても異様に聞こえる。

 いつのまにか演歌は消え去り、テレビから録音したノイズに変化する。
 その上をねじくれのたうちまわるのが、金属的なヴァイオリンの音。
 僕自身にとっては、この耳ざわりな金属音を聞いているほうが楽しい。
 この演歌のほうがよっぽど「騒音」で、聴いていて苦痛を感じる。
 考えようによっては、面白いけれど。

 どういう方法で音を加工しているのかな。
 高音をすぱっと切り裂いて、低周波のみ残された演歌の残骸が流れる。
 その音を聴いていると、しみじみ「メルツバウのノイズ」を欲しくなる。

 さまざまに加工してわかりにくくしているとはいえ、基本に使われているのは意味のある日本語。
 これらの言葉が瞬間的に飛び出すと、つい意味を確認しようとして苦笑する。
 英語のラジオをカットインさせる瞬間なら、たんなる「ノイズ」として楽しめているのに。

 まとめると「聴きたくもない日常のテレビやラジオの音」を、ゆがんだ音色で加工しながら、ノイズ作品に仕上げたもの・・・かな。
 日常生活の音も、ちょっといじくればこんなノイズになる・・・って言いたいのだろうか。
 ただ、BGMとしてテレビやラジオを流す習慣がない僕にとっては、皮肉なことにどうにも苦痛な作品になってしまった。
 そういう習慣があれば、意外性をもって楽しめたろうになあ。

(11/19記)

Let`s go to the Cruel World