Guided by Voices

ISOLATION DRILLS(2001年:TVT)

Produced:Rob Schnapf
Recorded:Doug Boehm
Mixed:Rob Schnapf and Doug Boehm
Strings arrenged:Dabe Solide
<except>
(4) Recorded by Robert Pollard on 4-Track
(7) Recorded by Sohn Shough

Robert Pollard - vocals & guitar
Doug Gillard - guitar
Nate Farley - guitar
Tim tobias - bass
Jim MacPherson - drums

Elliott Smith - piano on (15),organ on (2),(13)
Tobin Sprout - piano on (13)
Todd Tobias - noise on (8),(12)
Arianne Lallemand - cello on (6)
The Solidier String Quartet - (8),(9),(16)

 21世紀初のオリジナルアルバムは、「Do The Collapse」同様にTVTから発売された。
 バンドのメンバーはまたしても、前作から変更しちゃってる。

 本アルバムの仮題は"Broadcaster House"。3月初旬にリリースされるはずだったが、ちょっと遅れて発売となった。
 ネットでは事前に「Chasing heather crazy」がMP3で公開。ぼくもさんざん聴きまくった口だ。
 また、プロモ音源(?)がナップスターへ流出し、公式発売前に音を楽しめた幸せな方々もいた様子。

 今回のプロデューサーはロブ・スキナフ。
 過去にフー・ファイターズのデビュー盤をミックスしたり、ベックの「メロウ・ゴールド」などをプロデュースした経歴の持ち主だ。
 エリオット・スミスの盤にも携わったことがあり、その関係か本盤にはエリオットがゲスト参加している。

 うれしいことに、トビンがひさびさにGbV音源に復帰。一曲だけの参加なのがさみしいけど。

 さらに初回輸入盤をPCに入れてネットにつなぐと、隠しページへ飛べるというオマケ付き。 
 そのサイトでは写真やレア音源のダウンロードなどができる。ふとっぱらさが嬉しいぞ。

 ということで、前置きがえらく長くなった。

 本盤の収録曲はすべてロバートの作。
 バラエティ豊かだけれど、作曲の癖がけっこう出てるみたい。
 ここぞというところでメロディを歌い上げる、あの癖だ。
 ちょっとGbVを聴いたことのある人なら、ピンとくるかな。

 録音レベルを全体的に、そうとう高くぶちこんでいる(米盤では)。
 マスタリングは分離をはっきりさせない、もこっとしたもの。
 だからでかい音で聴いてると、音がぐいぐいパワフルに迫ってくる。
 ボーカルと演奏の一体感が、ミックスのねらいかな。

 前作ほど「作りこんだ」ってわざとらしさはない。
 一方で、初期GbVのとっちらかった部分も、うまくオブラートがかかっている。
 メジャーとインディ、ふたつのカラーを絶妙のバランスで成立させた好盤だと思う。

<各曲紹介>
1)Fair touching


 ギターのストロークの合間を縫うように、ベースがメロディをつむぐイントロで、このアルバムは幕を開ける。
 軽快なロックンロールだけど、ロバートが押さえ気味に歌っているせいか、ちょっと物足りない。
 
 メロディはなめらか。演奏もタイトなバンド・サウンドに練りこまれている。
 曲の後半でハモりつつ歌うあたり、なめらかで気持ちいい。

2)Skills like this

 しょっぱなはザクっとしたギターで前置き。
 さりげなく何本もギターを重ねて、太い響きを作り上げている。

 くせのあるロバートの旋律作りが、炸裂した曲。
 あっというまに終わるかな・・・と思わせて、スローなブリッジをはさんで続くあたり、妙に違和感を感じる。
 昔のGbVなら、かまわず終わらせてたんじゃなかろうか。

 ロバートは終止、音符を確かめるかのようにじっくり歌う。

3)Chasing heather crazy

 1stシングル。
 この曲をネットで聴いて、本盤のリリースがしこたま楽しみだった。

 前作みたいにキーボードで厚みを出さず、ギターでふっくらした質感を作り上げていたから。
 前作のアレンジは、かなりリック・オケイセックの趣味が入っていたのかな。

 ギターのアルペジオでイントロは優しく始まり、すっとロバートの歌声が飛び込んできた。
 メロディはうきうきと楽しい。性急に音符を畳み込む。

 何度も重ねたリードボーカルは、ピッチの微妙なズレで響きがふくよかだ。
 まさにジャケットにあるとおり、飛行機に乗って空をふわっと滑空する心地よさを感じた。
 
4)Frostman

 この曲のみ、4チャンによる宅録。ロバート自らの録音だ。
 ギターの弾き語りスタイルで、しっとり歌う。
 さすがにボーカルはブーストされた音だけど、曲全体の感触は前後の曲と違和感はない。マスタリングの勝利でしょう。

 わずかにフラットする喉でメロディをつぶやいて、一分程度で終わってしまう。
 ここまで構築されたアルバムなのに、無造作にこういう荒っぽいテイクをぶち込むGbVのセンスが好き。 

5)Twilight campfighter

 なんともつかみどころのない曲。
 歌声はふわふわ動いて、妙に不安定だ。
 
 尻上がりにボーカルのアレンジは手が込んでくる。
 コーラスでハモったり、多重録音で厚みを出したり。
 手の込んだアレンジのすばらしさを堪能できる、美しい作品。

 バックの音をまとめてミックスし、アクセントはハイハットでつけた。
 チキチキいう金属音が、ビートを引っ張っている。

6)Sister I need wine

 前曲のサイケっぽさを引き継いでか、冒頭からアコギの多重録音で優しく音の壁が迫ってくる。
 オブリをおごそかに弾くチェロも聞き逃せない。

 一分半強の短い時間を、スリリングな雰囲気を漂わせながら一気に駆け抜ける。
 エンディング寸前で歌い上げるメロディが切ない。

7)Want one?

 サイケな雰囲気は、まだまだ続く。
 テンポは多少速くなったものの、奇妙な印象の曲。
 「Want one?」を、カエルみたくコミカルに歌うコーラスのせいかな。

 終盤ギリギリに奏でられる、調子っぱずれな口笛隊のいかがわしさが、この曲のイメージを象徴している。

8)The enemy

 そうとうドラマティックな構成。演奏そのものも、5分近く続く。
 GbVにしては大作(?)といえる。

 初期GbVを思い出す、荒っぽい演奏がいきなり始まる。
 前半は、異様にヌケがいいミックスだ。ドラムの粒が生々しく響く。
 ザクっとしたギターの音色に、ぶっきらぼうなメロディも、以前のGbVにありがちなサウンド・スタイル。
 
 だけどトッド・トビアスによる、ひょろろんとしたノイズや、ストリングス・カルテットがからみ、アレンジはぐいぐい複雑になってくる。

 デビュー当初から現在まで、GbVの歴史を音でなぞってるみたいだ。
 
 そしてエンディング間近は、サイケなインストゥルメンタルが延々と続く。
 ちょっとしたオーケストラにも聴こえる。
 これが、次世代GbVのサウンド・スタイルってことはないだろうけどね。

9)Unspirited

 ひとり輪唱でフレーズを歌いつぎ、ダブルトラック・ボーカルへ変化。
 丁寧な歌声をバックの演奏が、がっちり支える。
 「〜lame,boy」と歌い上げるところのメロディが、かわいらしいぞ。

 ストリングスはさりげなくかぶせられ、深い音像を作り上げた。
 シンセ風にひしゃげた音は、弦なのかな。

 なにより何本も重ねられた、ギターの多彩な音色が楽しい。

10)Glad girls

 アナログではここからB面が始まる。
 この曲が本盤で、いっちばん好き!

 イントロ無しでいきなり始まるメロディがすばらしくかっこいい。
 体裁はシンプルなギターポップ。
 小技はほとんど使わず、勢い一発で突っ走る。

 ぽんぽん弾む元気なパワーが嬉しい。
 ブリッジに挟まるメロディも浮遊感があって、メインのメロディを引き立てている。

 ダブルトラックになるボーカルがタイトルを歌う瞬間の、甘酸っぱさがつぼにはまった。
 これこそシングルにぴったりだと思う。

11)Run wild

 ざっくりと重たく刻むギターが、この曲のイメージを象徴している。
 ロバートはサビで喉をパワフルに震わせるのに、その声がバックに埋もれてしまってて残念。

 ただ、ぼんやり部屋に流していると妙に心に残る。
 AORっぽく聴こえるせいだろう。
 この曲の魅力は、のっそりと身を起こすときの落ち着き感。
 そこをどう評価するかで、良し悪しが決まる。

 ・・・ぼくの場合?
 聴くたびに、評価がコロコロ変わる困った曲。
 ゆったりしてていいな、と思ったり。いまいち・・・と思ったり。

12)Pivotal film

 ひねくれたメロディが面白い曲。
 サビで響くコード感が心地よい。
 そこ以外でも、この曲は和音の鳴りが気に入った。

 調子っぱずれにオブリを入れるギターは、へたくそなのに味がある。
 ここらへんはアレンジの勝利でしょう。

 詳しい和声はわからないけど、どこか落ち着く。
 コードに詳しい方のご意見を、ぜひ伺ってみたいです。
 
 エンディングでトッド・トビアスのノイズが暴れる。
 もっとがんがん大爆発していいのに。ふっとメルツバウを思い出した。

13)How`s my drinking?

 一転して牧歌的な旋律の曲。
 リバーブを効かせて、ふっくらした耳ざわりのバンドサウンドに仕立てている。
 こういうアレンジは正直苦手。装飾過多に聴こえてしまう。

 カントリー風にノーエコーでアレンジするか、いっそのことアコギ一本であっさりと演奏して欲しかった。
 終盤のハミングまでひっくるめて、のどかできれいなメロディなのにな。

14)The brides have hit glass

 (13)の後だと、エコーがさっぱりと小粋に聴こえた。
 なぜこういうタッチで(13)をアレンジしないんだろう・・・。

 軽快に弾むアレンジはキレがいい。さっぱりと爽やかだ。
 メロディはあくまで優しく、するすると次の音符につながっていく。
 
 よけいな小細工をせず、旋律の美しさで最後まで聞かせる曲。
 あまりになめらか過ぎて、ぼんやりしてたら耳に引っかからずに流れていってしまうぞ。 

15)Fine to see you

 スローに甘く構えたロバートがいる。
 今までの大はしゃぎはどこへやら。しっとりと歌い上げる。
 だけど、そこはGbV。やたらめったら甘いほうへ流れない。
 
 エンディングではサイケ風のインストに引き継ぎ、一味違った夢の世界へ聴き手をいざなう。

16)Privately

 エンディングを飾るのは、ストリングスを引き連れた分厚いアレンジのポップ・ソング。
 ミドルテンポでぽんぽん進み、さりげなく幕を下ろす。
 
 弦はピッチが高いのか、シンセ風に響いて妙に不安定だ。
 シンバルを多用するドラミングで音を盛り上げる一方、ところどころにブレイクを挟み込み、メリハリの効いたアレンジにしている。

 ロバートの歌声は切り貼りしたみたい。妙なちぐはぐさを感じた。
 一音一音確かめるように歌いつつ、フェイドアウトして彼らは消えていく。

 この曲、エンディングにふさわしいのかなあ・・・。
 もっともっと続けてGbVの曲を聴きたくなってしまう。

GbVトップに戻る