Guided by Voices

DO THE COLLAPSE(1999:TVT)

Producer: Ric Ocasek
Engineer: Brian Sperber
Recorded: Electric Lady Studios, NYC, October-November 1998
Robert Pollard - vocals & guitar
Doug Gillard - guitar, vocals & keyboards
Greg Demos - bass
Jim MacPherson - drums
with
Ric Ocasek & Brian Sperber - keyboards
String arrangements by Dave Soldier, performed by the Solider String Quartet
Dave Solider - violin
Theresa Salomon - violin
Dylan Williams - viola
Ariane Lallemand - cello

 よそゆきGbV。
 誤解しないで欲しい。このアルバムの出来は決して悪くない。
 だけど、ここまでのアルバムと比較してみると、どうしても「かしこまった雰囲気」が音のそこかしこから漂ってくる。

 ここにきて、初めてGbVはメジャーと手を結んだ。
 マタドールと決別して、このTVTと契約するまでは、ずいぶん紆余曲折あったらしい。
 リリースまで冷や冷やしながら待たされたのを覚えている。

 もっともリリースに到った現在でも、契約が色々ややこしい。
 世界契約じゃなく、各国毎にちがうレーベルでディストリビュートさせてるらしいから。

 そんなビジネス上の話題は置くにしても。
 このアルバムはGbVが始めて「メジャー」を音としても意識したアルバムだった。
 プロデューサーは、元カーズのリック・オケイセック。
 「ハイ・ファイのリックと、ロー・ファイの僕ら。あわせてミドル・ファイくらいになったかな」って、ロバートがインタビューで言ってた気がする。

 リックの成果はばっちり。今までテープのヒスノイズで埋められていた演奏のバックを、ギターの多重録音やシンセできっちり埋め尽くした。
 さらっと流して聴くと、「お、今までのGbVより音がいいや」くらいで終わっちゃうけど。
 じっくり聴くにつれ、今までのGbVと違った違和感がある。

 練りこまれてるのは間違いない。曲のアレンジは緻密で隙がない。
 だけど、いままでのGbVにあったパワーがない。
 お行儀よく正座したロバートの姿が見えるようだ。

 2001年1月、このページを書いている現在では、本アルバムが最新のオリジナル・アルバム。
 だけどGbVはこれ以降も、何枚も新録音源をリリースしてきた。
 そのほとんどがアナログのみなので、僕は聴けていないけど。

 自由自在にリリースしてるところを見ると、TVTとはかなりフリーな契約をしてるんだろうなぁ。
 次の新録は2001年4月らしい。
 このアルバムが次のステップへのトランポリンになるのか。
 それとも、偉大なる反省材料になるのか。
 
 どっちに転んだとしても、「Do The Collapse」はGbVの歴史の中で、決して聞き逃せない重要なアルバムになるはずだ。

<各曲紹介>

1)Teenage FBI


 ドスの効いたリズムで、始まるロックンロール。
 第一弾のシングルにふさわしい、キャッチーなメロディだ。
 サビでオブリガードに使われるシンセのセンスが、いままでのGbVにはないパターン。
 リックがプロデューサーになったことによる、新要素だろう。

 サビのハーモニーが、とても心地よい。
 ちょっと加工したボーカルが、優しく響く。

2)Zoo Pie

 タムのメロディアスなフィルが、真っ先に耳に残る。
 エフェクターで上下をぶった切り、ひしゃげたボーカルが声を搾り出す。
 この曲はもしインディ時代なら、どしゃめしゃな音質で録音してたろうな。
 クリアなハーモニーで補完した構成に、リックのこだわりを感じる。

3)Things I Will Keep (for Jim Shepard)

 耳ざわりの良すぎるロックンロール。
 裏でキーボードが薄く鳴ってるせいかなぁ。
 厚みのある音像はきれいだけど・・・もう少し癖があるほうが、僕は好き。
 
4)Hold On Hope

 シングル第二弾。スローにとつとつと響く。
 この曲も裏にそっとキーボードをかぶせ、厚みを出している。
 なのにさらにストリングスまで・・・じっくり聴けば聴くほど、GbVの新機軸を痛感する。
 シカゴにデイビッド・フォスターが来たときみたいだなあ。
 あれほど露骨じゃないけど。

 丁寧にコーラス・アレンジをして、曲を真綿で包んで・・・ロバートがぶうたれたのも、わかる気がする。
 構築された曲も書くけど、根本的には一筆書きのやりっぱなしが好きなロバートには、こういうアレンジは辛かろう。
 
 ちなみに、曲自体は素晴らしいです。誤解なく。
 あくまで、過去のGbVの音作りと比較した場合のコメントですので。

5)In Stitches

 メロディがどこかひねくれている。
 ギターとドラムはそんな歌声をサポートしようとせず、まっすぐに音を鳴らすだけ。
 曲の構成パーツで、気持ちいい部分がいろいろある。
 中間部の多重録音ハーモニーとか、がつんとくるギター・ソロとか。
 どしん、どしんと鳴るアレンジそのものとか。

6)Dragons Awake

 ライナーによれば、マタドール・ヴァージョンではこの曲が一曲目だったとか。
 数本のアコギをバックに、鼻歌風に歌われるささやかさが素敵。
 へんてこ音楽が好みの僕は、この曲で始まるさりげなさもいいかな、と思ってしまう。
 アコースティックにこだわり、さりげなくストリングスまでかぶさってくる。
 この手の曲は、ここまでしっかりアレンジしてこそ、魅力が引き立つ。

7)Surgical Focus

 アップテンポなギター・ポップ。
 ハーモニーがかぶさってきたあと、サビで喉をひねって歌い上げる瞬間が好き。

 単純なギターリフをメインとしたアレンジに見せかけて、サビのあたりで「キュオン、キュオン」と唸りを上げるシンセ(?)を入れている。
 ん〜。この小技の使い方が凝ってるなあ。
 聴けば聴くほど、何本もギターを重ねているのがわかる。

8)Optical Hopscotch

 前曲のエンディングに声がかぶさり、メドレー形式で始まった。
 この曲もサビになると、分厚いギターにがっしり守られ突き進んでくる。
 ドラムの音は、エコーをほんのりかけた深め気味。
 一曲一曲、楽器単位まで気を配って、きっちりアレンジされている。

 メロディは、もうちょっと凝ってたほうがいいかな。
 エンディングのさみしげなピアノの音・・・う〜む、こういうセンスは全てリックが導入したんだろうな。

9)Mushroom Art

 ギターをゆっくりかき鳴らすリフでスタート。
 サビでがらっと曲の風景が変わるところが好き。
 
 ギターは何本も重ねて丁寧に作ってるのに、なんでコーラスがないんだろう。
 サビのところで、白玉をふわっとかぶせるとかっこいいと思うけどなあ。

10)Much Better Mr. Buckles

 しょっぱなの感触は、前曲と同様にギターが全開。
 ほんのりボーカルにエフェクトをかけて、上下をぶった切っている。
 メロディそのものは、ちょっと単調。
 作りこみすぎずに、さらっと流したらよかったかも。

 いっぱいギターを重ねて滝のようにした音像は、けっこう快感。

11)Wormhole

 力を抜いて、さらっとメロディが滑り込んでくる。
 どこか頼りなげな雰囲気が、ずうっと漂う。
 
 メロディの二周目で、シンセがユニゾンでボーカルをなぞっていった。
 この芸の細かさが、なんとも・・・。
 ロバートがどんな表情で、このダビング作業を見てたんだろう。想像すると面白い。

12)Strumpet Eye

 エコーを深めにして、ざっくりギターが刻む。
 ボーカルは直球勝負。ストレートにシャウトする。
 ミックスはすっきりとして、隙間が多い。

 ここ何曲か、スピーカーを埋め尽くす曲が続いただけに、いいペース・チェンジになっている。
 リズミカルに元気よく跳ねて、わくわくしてきた。

13)Liquid Indian

 重たいベースにハイハットが絡むリフで始まる、スローぎみな曲。
 曲調がかわらずに、アレンジがころころ展開していき、サビでイントロの雰囲気を生かしたまま、きれいにポップになるアレンジがいい。

 この曲でも、バックでもごもごとシンセがうごめく。
 さりげなく分厚い音像をかもしだす、リックのセンスがしみじみ味わえる。
 ぐしゃっと狭い和音に集まった、コーラスもかっこいいなあ。

14)Wrecking Now

 牧歌的なメロディを、シンセ風にひしゃげたギターでカントリー風に盛り立てた。
 バイオリンは小さなミックスで、きいきい金切り声でわめく。
 もっともギターやシンセを細かく重ねて、単なるほのぼのソングには仕立ててやしない。 
 聴いててなんかコード進行に、ところどころ違和感がある・・・なんでだろう。

15)Picture Me Big Time

 暗めな雰囲気で、ギターが地面を引きずられる。
 サビやその他の部分で、ところどころ耳を弾くメロディがある。
 とはいえ、全体的には大味な曲になってしまったと思う。

 バックの演奏は、びっしりギターが重ねられてるけど、なんだか簡素なイメージ。
 4分くらいかけて、じっくり歌われる。

16)An Unmarketed Product

 オリジナル・アルバムでは、最後の曲。
 アップテンポのロックンロールで、威勢良く幕を下ろした。
 ギターもドラムもベースも、一丸となって疾走していく。

 しょっぱなのコードストロークから、勢い一発でGbVが跳ね回る。
 メロディがいまいち元気ないのが辛い。
 1分少々の小品。 

17)Avalanche Aminos

 日本盤のみのボーナス・トラック。
 (16)が終わった後に数秒ブランクをあけて始まる。
 なのでオリジナル・アルバムの終わりっぷリは、多少余韻を楽しめる。
 作り手側が、どこまで構成を意識してるか不明だけど。

 語りっぽいヴォーカルに、切れのいいバックの演奏が絡んでいく。
 どの楽器もひとくせ漂う。脳天気にロックンロールを表現したりはしない、明るく屈折したGbVのこだわりを感じた。 

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