Guided by Voices

King Shit and the Golden Boys(1995:Matador)

 95年に初期作品4作(アナログは5作)をまとめたボックス・セットがリリースされた。本作はそのボックス・セットにコンパイルされたボーナス・アルバムだ。
 中身はすべて未発表音源。大きく分けて、3つに分類できる。
 まずは、88年と91年というGbVの歴史で空白期間になっている年に録音された音源だ。
 これらの年はどちらも、多作なGbVには似合わず、作品を何もリリースしなかった年だ。だから、そのときのGbVの姿がわかる、貴重な音源だ。
 もうひとつは93年の音源だ。93年のほうは「Vampire on Titus」のアウトテイクかな。
 
 未発表録音とはいえ、きっちり構成された見事な曲が並ぶ。それぞれの曲の統一感がないから、雰囲気は編集盤そのものだけど、収録曲はオリジナルアルバムとくらべても、まったく遜色がない。
 いや、むしろアルバム収録曲よりも、きっちりアレンジされた曲すらある。
 GbVの底知れなさを窺い知ることができる、なかなか馬鹿にできないおもしろいアルバムだ。

<各曲紹介>

1)We've Got Airplanes

 しょっぱなは88年の未発表曲。いきなりこれがいい曲なんだな。リズムボックスかと思うような規則正しい8ビートにのって歌われる、シンプルなポップス。
 メロディは甘く、時たま挿入されるコーラスもかっこいい。アレンジだってシンプルながら、きっちりと構成されている。88年って1stと3edアルバムとの端境期で、デビュー早々なにも作品を発表しなかった時期。
 公式HPにも「88年は何も活動なし」って書かれてる。なのにしっかり、こういう素敵な曲を作ってるんだから。あなどりがたし、GbV。

2)Dust Devil

 こちらも88年の未発表曲。リズミカルにころころ転がるヴォーカルとリズムアレンジがかっこいい。このドラムはクレジットによれば、前曲同様ケビン・フェンネルのはず。なのに前曲とこの曲で、えらいうまさがちがうぞ。あっちは隊とそのものだったのに、こっちはなんかばらつく・・・どっちが実力なんだろう。
 なにはともあれ、この曲もキッチリ構成されて3分弱あるポップス。メロディだって耳をそばだてるポップさがある。
 GbV初期にこういう3分間ポップスが作れてるのにもかかわらず、彼らはなぜか1分間に全てを凝縮した小曲を大量生産する方向に進んでいく。
 ロバートの創作が溢れ出して、3分ポップスを練り上げるのがもどかしくなったのかな。そういう観点からインタビューした記事を読んでみたいな。

3)Squirmish Frontal Room

 91年作の未発表曲。このあとはしばらく91年作の曲が続く。この年も公式にはGbVは録音物を公式に発表していない。
 この曲は歪みまくったロック。ヴォーカルも潰れてしまい、カズーを通したような音色になってしまってる。
 指慣らしみたいなギターの音の後、性急なカウントで歌が始まる。
 音はヘビーなグランジを狙ったのかもしれないけど、どこか腰の軽さをうかがわせる。メロディのポップさのせいかな。 
 エンディングで拍手の音が入り、唐突に終わる。プライベートな録音って感じだ。

4)Tricyclic Looper

 裏拍を生かして軽快に駆け抜ける。疾走感が気持ちいい。
 効果的に曲に飾りをつける手拍子のアレンジもナイス。途中でちょっとリズムが走ってよれるけど。
 おまけに終わりが唐突で肩透かしをくらう。サイケ風味がぱらりとかかってるな。
 3分くらいのしっかりした曲なのに、なんでリリースしなかったんだろう。不思議だ。 

5)Crutch Came Slinking

 この曲はいい。シンプルなギター・ポップだけども、練られたハーモニーが効果的に挿入され、メロディはうきうきした親しみやすさがある。リズムアレンジを工夫して、アップテンポの勢いを付け加えてたら、とんでもない名曲になると思う。
 ちょっとためらいがちのこのテンポですら、心がわくわくしてくるんだから。
 コーラスとメロディの絡み合いが生み出す曲の雰囲気がたまらない。
 
6)Fantasy Creeps

 冒頭のノイズはわざとなんだろなあ。ぼすっと曲が始まったと思ったらぶつぎれる。テープに上から別の曲をダビングしたみたいに。次の瞬間に曲が始まっていく。
 この曲は、ちょっとピントがずれた感じがする。
 アイディア一発でなく、しっかりアレンジは練られてる。メロディはそこそこかっこいい。3分過ぎに出て来るギターソロの音色に、そのあとの展開を期待させといて、あっさり肩透かしで終わってしまう。

7)Sopor Joe

 (3)からここまでが91年に録音された音源だ。
 91年のトリを締めるのは脱力ギター・ポップ。なんかリズムとハーモニーが噛みあってない。ポイントをずらして歌うことで、ふぬけた雰囲気の曲になってる。
 2:45位から聞こえる「ディリリリ」ってコーラスが気に入った。
 ラストはギターノイズでキッチリ締める。

8)Crunch Pillow

 ここからは93年の音源になる。この曲はトビンが単独で作曲したもの。
 ぐしゃっとしたローファイなバンド・サウンド。エレキギターのコード・ストロークの音が潰れて、ぎざぎざになっている。
 トビンが落ち着いた声でそっと歌い上げる。メロディは今ひとつだけど、後半のさりげないコーラスによる盛り上げが心地よい。

9)Indian Was An Angel

 アコギを前面に出したアレンジ。うわずるロバートの歌声が淡々と響く。
 しっとりとした雰囲気の曲だけど、ラフな録音と調子っぱずれのコーラスが、ひりひりする味付けを付け加えている。 

10)Don't Stop Now

 この曲もアコギのアルペジオから始まる。かすれた歌声は録音のせいかな?
 シタールのように響く音がアクセントになった曲。
 ひたすら淡々と歌うヴォーカルだけで終わってしまうと思いきや、ラストでシタール風の音が盛り上がっていき、きれいにコーダを決めてくれた。

11)Bite

 ポラード兄弟とミッチの共作曲。ひずんだヴォーカルとギターが絡み合っていく。ちょっとつかみどころを見つけにくい曲だ。この曲は没ってもしかたないかなあ。

12)Greenface

 執拗に似たようなメロディを反復して歌う。ギターのノイズがバックトラックのムードメーカーになっている。この曲も、残念ながら魅力に欠けるなあ。全体的に単調なんだよね。

13)Deathtrot And Warlock Riding A Rooster

 ロバートとミッチの共作曲。ピアノの連弾が新鮮。GbVの曲でキーボードが前面に出る曲は、そんなにないから。輪唱風に歌っていくアレンジがそこそこ面白いかな。

14)2nd Moves To Twin

 お次はポラード兄弟とミッチの共作曲。ひしゃげたギターの音が気持ちよく響く。ヴォーカルとギターが絡み合って、ノイジーな雰囲気をかもし出す。
 メロディが今ひとつしっくり来ないけど、何本ものギターが絡み合うアレンジは楽しめる。 

15)At Odds With Dr. Genesis

 パルス状のギターノイズにのって、語るようにトビンが歌う。
 ぶりぶり揺れるギターとヴォーカルだけ。シンプルこの上ないアレンジだ。
 故意かどうかわからないけど、瞬間的にヴォーカルの録音が途切れて、すっと歪む。その瞬間途切れる部分が、不安定な雰囲気を植え付ける飾りになっている。

16)Please Freeze Me

 雰囲気は軽いけど、どこかぶっきらぼうに歌うアコギの弾き語り。基本的には単なるコード・ストロークだけど、ダイナミズムをつけた小技を見せるギターがかっこいい。
 歌のメロディも落ちつけるし。後半に音が割れるのが耳障りだけど、悪くない曲だ。

17)Scissors

 トビンのペンによる曲。長めのイントロのあと、引きずるように歌いだす。何声も重ねた、厚いヴォーカルがアレンジの中心だけど、微妙に音程が狂うのは果たしてアレンジなのだろうか。さて。
 あえてハーモニーを強調したいわけでもなさそうだけど、個人的にこういうコーラスが好きだから、どうも点が甘くなっちゃうなぁ。

18)Postal Blowfish

 スタート・ストップを使ってメリハリを出した、ロバートとミッチの共作だ。
 歯切れのよさはかっこいい。ヴォーカルが語り(と言って、ラップ風でもないけど)形式で、ちょっと魅力ないのが残念。
 このぶっといギターの音は評価したい。この曲は録音もタイトにとれている。

19)Crocker's Favorite Song

 アルバムのラストを締めるのは、アコギ二本によるアルペジオから始まるミドルテンポの佳曲。エコーを聞かせてさりげなくはいってくる歌声のメロディがとても魅力的だ。
 全体を通じて美しい雰囲気が漂う。強引なブリッジをはさんで、二曲を一曲にまとめ上げている。
 ひずんだ録音すら、アレンジの汚しに一役かっている。
 曲そのものは余韻を残さずあっさり終わってしまうが、このアルバムを締めるにふさわしい、落ち着いた曲だと思う。

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