Guided by Voices

Vampire on Titus(1993:Scat)

Robert Pollard - vocals, guitar & drums
Tobin Sprout - guitar, bass & vocals
Jim Pollard - guitar & amp noise

 GbV6枚目の本アルバムでは、毎度の事ながらまたもやメンバーチェンジあり。
 ポラード兄弟にトビン・スプラウトのみと、しごくシンプルな編成になっている。
 ここでロバートは初めてドラムを演奏。ヘタウマながら、味のある演奏をしている。弟のジム・ポラードは「ギターとアンプのノイズ」とクレジットされてることから、実質はロバートとトビンの二人で作り上げたといえる。

 録音関係はクレジットがないからよくわからないけども。
 4chか8chの機材でもって、トビンによってあっさり録音されたんじゃなかろうか。

 もうひとつ大きなGbVの変化点だけども。ここでついに、トビンの曲を採用している。5曲目と14曲目はトビン作だ。それ以外にも、トビンは全六曲をロバートらと共作とクレジットされている。
 これまでロバートのペンがどこかにからんでいたGbVワールドにおいて、作曲の領域に他の人の血がくっきりと入ったアルバムだ。

 全体的にはロバートとトビンによるデモテープの寄せ集めって感じかな。でも、たとえばGbVのファーストとはまったく感触が違う。
 このアルバムでは、あふれ出るアイディアとメロディをぶち込んでいる。
 次から次へと思いつくメロディをしっかり捕まえて、曲の形に練り上げる。
 普通のミュージシャンならば、それを取り捨て選択して膨らましていくのだろうが、ロバートは違う。
 片っ端からその曲のアイディアを、作品といえるぎりぎりのレベルまで形作ると、すぐさま次の曲に移ってしまう。 
 たとえるなら、一筆書きかな。そんな手触りの曲がこのアルバムには満載だ。

<曲目紹介>

1)"WISHD I WAS A GIANT"

 隙間を生かしたアレンジで演奏されるミドルテンポのロック。オーバーダブのせいか、ドラムはもこもこのエコーがかかってしまっている。
 ヴォーカルは喉を振り絞って叫ぶ。メロディは親しみやすいが、ほんのりした緊張感が漂う曲。ドタバタしたドラムがのんきな雰囲気をかもし出している。 

2)#2 IN THE MODEL HOME SERIES

 フェイドインするリズム・ボックスにのって歌がはじまる。神経質に語尾をひっぱる、少々強引な歌い方の小曲。ボンボン弾むべースが弾くフレーズがさりげなくメロディアスだ。

3)EXPECTING BRAINCHILD

 音像を埋め尽くすひずんだギターの単純なリフの合間に、語りのようにヴォーカルを入れた後、単純なメロディをギターに乗って歌う曲。ミックスはギターを前面に出し、ヴォーカルはうしろに隠れ気味。
 シンプルな構成の曲ながら、ひとひねりしたアレンジで印象に残る一曲。

4)SUPERIOR SECTOR JANIOR X

 デモテープ並みのがっさがさの音質。アコギの爪弾きと渦巻きのようなフレーズを弾くベースをバックに、ウナリ声を上げる。30秒強であっという間に終わってしまう。

5)DONKEY SCHOOL

 エレキギターでノイズを作り出し、ドローンのようにバックをうめる。一部はヒスノイズのようになってしまっているが。ヴォーカルが入ると、アコギ演奏を支える。つぶやくような歌声だが、メロディが暖かい。もっとも、この曲も一分強であっさりと終わって肩透かしをかまされる。

6)DUSTED

 いまひとつ突出した個性がなしに、もどかしいまま終わってしまう一曲。単純に「ドンッ、ドン」って叩いてるだけなのに、アレンジの中に溶け込んで効果的なドラムがいいな。メロディは浮き上がるかと思うと右肩下がりに下降していってしまう。

7)MARCHERS IN ORANGE

 バグパイプ(足踏みオルガンかな?)を、ぶかぶか鳴らしながら歌う小品。これもデモ録音のように、妙なノイズが聞こえる。
 ほんのり格調のあるメリハリの利いたきれいなメロディだ。中途半端な感じで曲が終わってしまうのが残念。
 こういう曲を聴いていると、つい一筆書きを想像してしまう。
 ぱっとアイディアを思いついたら、ひたすら録音。たまったらリリース。
 このアルバムは少人数なバンド形態をとっているだけに、なおさらそんな感じだったんじゃないかって思ってしまうんだけども。

8)SOT

 ギターリフからいきなりキャッチー。甘いメロディがとても楽しい。もっこもこのミックスで、ヴォーカルが奥に沈んでるのがくやしいぞ。
 テンションは押さえ気味。盛り上がっていくかな?って期待をもたせたまま終わってしまう。

9)WORLD OF FUN

 アコギをバックに、調子っぱずれに歌う。独り言を言っているような内省的な曲。一分足らずで終了してしまう。

10)JAR OF CARDINALS

 歯切れのいいカッティングが始まるとともに、滑らかなメロディで歌いだす。途中で再びヴォーカルが割り込んできて、メロディの輪唱を楽しめるかな・・・と思いきや。この曲も、一分強であっさり終了。

11)UNSTABLE JOURNEY

 ばかでっかい音のギターの壁の前で、もう一本のギターがメロディアスなリフを弾く。ダブル・ヴォーカルはおずおずと探りを入れてくる。ノイジーなギターが目立つ曲だけど、歌のメロディはかなりきれいだ。ヴォーカルが演奏に遠慮せず、でっかい声で叫んだらもっとよくなるだろうな。

12)E-5

 エレキギターを数本重ねただけのシンプルな伴奏に、二人のヴォーカルが幻想的に絡み合う。奇妙なメロディを歌う声が微妙に絡まりあう、サイケな曲だ。

13)COOL OFF KID KILOWATT

 尺八のような電子ノイズがひょこひょこアクセント的に鳴っている。バリバリにエフェクターをかました一本と、シンプルなトーンの一本、二本のエレキギターで左右から演奏を聞かせる中、中心のヴォーカルが歌う。
 メロディはどこかもやもやしていて、発散しないままだ。
 そしてこの曲も、一分も立たずにエンディングを迎える。

14)GLEEMER(THE DEEDS OF FERTILE JIM)

 ヴォーカルをとるのはトビン。多重録音したハーモニーで、とてもキュートなメロディを歌う。バックの演奏はあくまでシンプル。ヴォーカルを前面に出して、メロディの確かさをたっぷり楽しめるミックスだ。
 ドラムが入らないせいか、トーンは全体的にほんわかしている。
 あふれるアイディアを抑えきれずに分裂した曲を並べ立てているポラードとは対照的に、完結した曲世界を聞かせるトビンの個性が現れた曲。

15)WONDERING BOY POET

 アコギの弾き語りで、起伏が少ないながらもきれいなメロディを歌う。飾りっけは相変わらずない、裸のアレンジだ。
 この曲の冒頭のメロディがとっても好き。牧歌的で、なおかつ切なさが同居している。一分くらいであっさり終わってしまうのがもったいない一曲。

16)WHAT ABOUT IT?

 ふっと気づいたが、このアルバムはドラムの入る曲が少ない。
 専任のドラマーをおかずに、ロバートが色気を出して自分で叩いてみたはいいけども、あんまり何曲も叩けなかったのかな。
 エレキギターの規則正しいストロークがリズムをとってはいるけども。この曲で微妙なリズムをかもしだしてのが、ぷわあんとした電子音。チャルメラにも聞こえるけど。不定期に入るこの音が、曲に浮遊感を与えている。
 エンディングにさりげなく入るコーラスがナイス。

17)PERHAPS NOE THE VULTURES

 もったりしたバンド・サウンドにアレンジされている。この曲でも、全曲同様のぷわあんとした音が、アレンジの要になっている。
 せっかくドラムやリズムギターがビートをしっかりとしたビート提示のに、「ぷわあん」って音がノリに思いっきり水を差している。もっとも、その重層に積みあがった感触が好きなんだけど。
 この電子音を出してる楽器だけれども、この曲ではエレキ・ギターに聞こえるなあ。
 
18)NON-ABSORBING

 盛りだくさんの本アルバムはこの曲で幕を下ろす。イントロなしで始まる、一分強の可愛らしい曲だ。一人二役のヴォーカルは絡まりあいながら歌う。
 シンプルなドラムの連打がとてつもなくかっこいい。ラフな演奏とあいまって、いい具合にひしゃげた音がなんとも僕の好みだ。
 アイディア・メロディが調和したいい曲だ。
 この曲も一分半程度で終わってしまうのがもったいない一曲。

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