LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2013/4/29 大泉学園 in-F
出演:黒田京子+柴田奈穂
(黒田京子:p,柴田奈穂:vln,vo)
12年3月から始まった"月刊くろの日"。黒田京子が主宰でデュオ演奏のライブ企画だ。今夜はバイオリン奏者の柴田菜穂を招く。2回ほどリハも行い、作りこんだそう。共演のきっかけを黒田さんに伺うと、黒田+喜多ライブに柴田が観客で来たことが始まりという。
柴田の演奏を聴くのは初めて。軽くリバーブかけたマイクを一本立て、生バイオリンを拾うセッティング。だが彼女の演奏は、はるかにダイナミックだった。
まず、バイオリンの音色が多彩だ。弦を弓でこする音が、生々しく響く。音量の幅も広く、ピアニッシモからフォルテまで滑らかに使い分ける。さらに姿勢も前のめり。ほとんどマイクを意識せず、音を拾わない範囲まで使って、大きく身体を動かしながらバイオリンを操った。
まず柴田のレパートリーを2曲続ける。最初は大阪で活動してた時代に、ある人が書いた曲(名前をMCで言ってたが聴き取りそびれた)。
小音量で弓を引いたとき倍音がかすかに、きれいに響いた。アドリブ部分がどの程度か、初聴きで分からない。だがフリーキーなフレーズは控え、メロディに軸足を置いてると感じた。そう、細かな旋律を積み上げるかのよう。
柔らかくピアノが支える。今夜のピアノは、ひときわバイオリンをそっと盛り立てた。
2曲目が柴田のオリジナルで、フラメンコのリズム。軽くバイオリンのリフがビートを提示し、テーマに突っ込む。黒田が歯切れよく鍵盤を叩いた。
いきなり、クライマックス。体を大胆に揺らしながら疾走するバイオリンへ、残響を巧みに操るピアノが骨太にかぶさる。
ソロ回しよりも相互に音を絡み合わせるかのよう。この瞬間、ライブならではの魅力にふれた。
生音ゆえのボリューム幅が心地よい。小さな音ではめまぐるしいフレーズの隅で響く弦のきしみが味わえる。フォルテとピアニッシモの振れ幅大きいピアノも、細部まで繊細に味わえた。
一転して黒田の曲、"Inharmonisity
I"。テーマのユニゾンからピアノが和音を不協に拡大していく瞬間が、スリリングだ。小節線をまたぐフレーズが交錯する。バイオリンは落ち着いた面持ち、しかし大胆に抽象的で短いフレーズを連発。
ピアノのふくよかなタッチが幻想的なムードを作った。
柴田は歌ってもいるらしい。続いて、彼女のオリジナル曲。バイオリンをウクレレ風に抱え、爪弾きながら声を伸ばす。マイクはむしろ、このときのために立ててたっぽい。
喋りと違う声質。メロディは抒情的。小品だがしみじみと彼女の世界を作った。
そして前半最後が黒田の"ホルトノキ"。黒田京子トリオなどで聴き重ねたときと異なる、微妙にフレーズをつなげるバイオリンの旋律解釈が新鮮だった。
最初こそピチカート部分にバイオリンがばらけたが、いつしかピアノとテンポ併せてパチンと縦線が合う。
このバイオリン・ソロが圧巻だった。敢えて黒田が手を離し、無伴奏でバイオリンがソロを取る。ほんのり店外の車の音が聴こえる中、ぴんっと筋を通した旋律を提示した。
ピアノのソロへ。一転して、ロマンティシズムが花開く。柴田の情感とはベクトルの違う、リリカルな黒田の世界が溢れる。けれんみの薄い二人ゆえに、個性がしっかりと現れた。
短い休憩はさんだ後半は、二人のソロから。柴田は即興。硬質で短フレーズを重ね、和音感を浮かび上がらせつつ抽象な音像を作る。途中でバイオリンを爪弾きつつ、いくつか声を載せた。
エフェクタ処理で一人オーケストラを狙うアプローチとは真逆。空気を削るストイックさながら、優しさがにじむ穏やかな音楽だった。
黒田は「短く、ね」と前置きし、この日に先行発売してた新アルバムから"ろうそく"を披露。しっとりと空気を色づけた。ほわりと柔らかなタッチ。
デュオに戻ったステージは黒田の"ゼフィルス"、"緑のゆりかご"と続く。"ゼフィルス"ではバイオリンを生き生きと強調した。黒田は包み込むようなフレーズで空間を華やかに彩る。
一転して"緑のゆりかご"はピアノの多彩なタッチを楽しめた。今夜の黒田はトリッキーな特殊奏法は無い。ピアノへすっと対峙し、クルクルと転がるタッチを表出させた。
もう一曲、柴田の唄をはさむ。こちらもセンチメンタルな旋律。歌の終わった時、爪弾くバイオリンをすっと首へはさみ、弓で力強く鳴らした。
本当のクライマックスが、最後の曲。柴田のオリジナルで"アンモナイトと月"、ってタイトルだったろうか。
大曲で譜面は3面。さらに即興部分も入る。プログレ的ではないが、シンフォニックな展開だった。冒頭で黒田がクラスターを混ぜつつ低音を響かせ、バイオリンが進行をつとめる。
場面展開が幾度も入りつつ、二人ともソロで見せ場を作る。聴き応えあったなあ。
拍手がやまず、歌モノを一曲。武満?軽く曲紹介してたが、聞き取れず。イントロを軽く黒田が撫ぜ、しとやかに演奏が終わった。
まったく新しいミュージシャンを聴くのは、繰り返し足を運んだミュージシャンのライブを聴くのと違う魅力がある。好奇心と耳の着地点を探るスリル。
意外にライブハウス界隈で、バイオリン奏者は多い。彼女がいわゆる即興シーンに軸足置いていくかは不明だが、魅力的な音楽をこれからも作っていく期待を感じさせるライブ。丁寧なバイオリンだったよ。