LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2011/2/26    西荻窪 アケタの店

出演:明田川荘之
 (明田川荘之:p,オカリーナ)

 恒例の月例深夜ライブ。春からの大学教鞭やその他の用事で今月はライブが少なく、指の動きに違和感あり、とMCで明田川荘之は漏らしていた。言われるまでよくわからなかった。
 今夜のライブでも、いろいろ普段と違うアプローチあり。この月例深夜ライブはこの10年でかなりの回数見ているはずだが、いまだに飽きない。

 一曲目は"I closed my eyes"。テンポは早め、くっきりしたタッチで演奏された。
 この曲に限らず、今夜はずいぶん鍵盤の鳴りが強かった記憶あり。
 ゆるやかなグルーヴは控え、歯切れ良い響きだった。アドリブもあっさり展開し、サクサクと一曲が終わる。

 すぐにオカリーナへ持ち替え。ライブでよく聴ける、バロック風のフレーズの曲を吹いた。小さなオカリーナへ途中で持ち替え。
 体を前のめりにしながら、つらそうにブレスを吹き込む。響く音は軽やか。
 ピアノの屋根に反響した音が、ふうわりと店内へ響いた。

 3曲目もオカリーナがイントロ。セットリストに書かれた字を、メモを明りにかざし苦労して読んでいた。
 "りんご追分"っぽいフレーズを、別のオカリーナで吹く。
 ピアノで2〜3音鳴らしたあと、足元から改めてオカリーナを探すように取り出した。

 この曲はタイトル不明。聴き覚えある気がするけれど・・・。センチメンタルなフレーズがいっぱいに広がった。唸り声を上げながら、明田川はピアノを奏でる。
 中間部では、せわしなくペダルを幾度も激しく踏み続けるプレイ。このアプローチは新鮮だった。
 残響を操るのが目的とは思うが、それとは違う次元でもどかしげにペダルを踏みまくった。

 ジャズではあるが、くっきりと輪郭が整った印象。続く曲もタイトルを忘れた。高音部のフレーズが、爽やかで素朴な響き。
 ここが古澤の"らっこ"だったかな。記憶があいまいだ。
 途中でクラスターも取り入れ、アグレッシブな演奏だったと思う。
 曲を覚えてない割に、いい演奏だったことだけは覚えてる。

 すぐさま雪崩れたのが、"アケタズ・グロテスク"。アップテンポな曲ながら、耳馴染みあるハイテンションは控えめ。
 クラスターもあまり無い。むしろ穏やかな風景を感じた。
 丁寧な左手の勢いが。着実に音楽を前へ進めた。

 そのまま"アローン・トゥギャザー"に。グルーヴィさがじんわり滲むけれど、どこかスマートなジャズだった。
 しかしこの曲ではテンポチェンジが、めまぐるしい。
 フレーズごとにテンポがぐるぐる変わり、存分に世界をニュアンスたっぷりに表現した。

 45分ほど演奏したここで、5分くらいの短い休憩。
 明田川は前半の途中で「暑い」とライトを消していたが、ついに耐えられなくなったようだ。
 すぐに戻って、後半セットへ。オカリーナを目当てで来てる観客がいるそうで、珍しくCD−Rをバックに一曲吹いた。
 本当は"村しぐれ"の予定だったが、CD−Rが見つからなかったそう。

 タイトルは紹介されたが失念。明田川のオリジナル曲だった。
 幻想的な郷愁を誘うバッキング・トラック。シンセが滑らかに舞う。打ち込み中心かな?
 小柄なオカリーナを構えた明田川は、しっとりとシンプルなフレーズを吹いた。

 アドリブや装飾メロディは入れない。丁寧に、主旋律のみをのびのび膨らませた。
 曲の後半ではピアノの中へ指を差し込み、高音ピアノ線をかすかにぱらぱらと爪弾いた。

 今夜のライブも録音されてはいたが、店内に響くスピーカーからのバック・トラックとオカリーナの生演奏が生む調和を、どこまで記録できているだろう。
 スピーカーのすぐ近くで聴いてたせいか、とてもサウンドが立体的に聴こえた。奥行ある響きが、気持ちよかった。

 続けてもう2曲、穏やかな曲を。聴き覚えあるが、タイトル失念。
 冒頭でちょっとオカリーナを吹いてから、ピアノに向かったかな。3曲目のピアノも、訥々とした音世界で和む。独特の世界観だった。
 
 ふいに明田川がリクエストを観客へ募った。ぼくが口にした"りぶるブルーズ"を、まず選んでくれる。
 「覚えてるかなー」とつぶやいていたが、あまり最近は弾いていないのか。ぼくは久しぶりにライブで聴けて、嬉しかった好きな曲。

 冒頭はオカリーナを少し。イントロの雰囲気はCDで聴けるアレンジとは異なり、ぐっとストレートだった。
 テーマが始まると、この曲特有のロマンティシズムがあふれる。もっとも今日はアバンギャルドな方向性にも軸足を置いた。
 冒頭からピアノの内部奏法をいくつも入れ、硬質に響かす。

 中間部ではクラスター的な場面もしばしば。アグレッシブな前のめりの力強いタッチな演奏だった。
 グルーヴィさもたっぷり。気持ちいいな。
 後半セット、ここか前後の曲で、前半でも聴けたペダルの連続踏みが飛び出したと記憶する。

 さらに観客のリクエスト。今度は"エアジン・ラプソディ"。ぐっとテンポを緩やかに、硬質な展開だった。
 アドリブは粘っこさを控え、爽快なほどにサクサク進むアレンジだった。

 最後にもう一曲。タイトルを告げずに弾きだした。"黒いオルフェ"だったかな?自信ない。
 聴き覚えある、親しみぶかいメロディだった。
 後半セットが進むにつれ、ピアノの音は熱を持った。グルーヴもフレーズも、勢いも。強く鳴る鍵盤は、空気をびりびり震わせた。
 
 だがこの曲では、雰囲気を幾分和らげた。今夜はクラスターではしめない。しっとりと、穏やかに。けれどもジャズの粘っこさは漂わせたまま。
 しみじみと、ライブは幕を下ろした。

 終わりは2時20分を回ろうという頃合い。およそ2時間近く演奏してた。明田川の深夜ライブで、ここまで長尺は記憶にない。
 いつになくボリュームたっぷりで、さまざまな表情が聴けた、良いライブだった。

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