LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

 2010/12/19    吉祥寺 GOK Sound

 

出演:Blacksheep

 (吉田隆一:bs,b-cl, 後藤篤:tb, スガダイロー:p

 

 2ndアルバム収録を、ライブ形式で。GOKサウンドに数十人の限られた人を観客で集めた。男女比率は結構半々。客層は比較的若い人が目立った。

 GOKといえば、この手の音楽がしばしば録音される場所。一度、行ってみたかった。

 

 会場はL STUDIO。横に広く、PAブースは別の部屋だった。重たいドアをくぐると、中はベニヤ板打ちっぱなしな内装。無響室みたいなのを想定してただけに、意外だった。

 天井にミラーボールもある。ここでライブやることも想定か。

 

 スタジオ奥にグランドピアノ。横に吉田隆一と後藤篤が座る。吉田の横にはバリトンだけでなく、テナーやバスクラ、フルートも準備されていた。

 入り口付近に大きな机があり、レーベル元なDoubtmusicの沼田順が座る。PAルームとの連絡役をつとめるそう。

 キューボックスを横へ置き、ヘッドホンでモニターしていた。

 

 時間ぎりぎりまで、スガダイローはピアノのセッティングに注文を出す。最後に、マイクスタンドを使って、高々とピアノのふたを上げた。

 

「これを見ただけで、お金払った価値があるでしょう」

 と、笑う吉田。が、吉田が観客を意識したのは、ほぼここで最後。あとはレコーディングに集中した。

 

 そう、今夜はレコーディングに立ち会う、って雰囲気が強かった。ライブ形式ながら、同じ曲を幾度も繰り返す。気に食わないと、途中で止めてやり直す。そこに言い訳や演出はない。

 観客はただ、静かにそこで繰り広げられるBlacksheepのライブを見守った。

 

 録音中に曲順を、手早く吉田が沼田へ説明したが、曲名を聞き取りそびれた。

 マイクはピアノへ2本、バリサクとトロンボーンへ一本づつ。案外楽器から離されてた。

 さらにルーム・アンビエント用に、観客の間へ2本マイクが立った。

 

 最初に演奏したのは映画「博士の異常な愛情」の曲らしい。この部分から、すでに数テイク録る。

 途中で止めたり、やり直したり。静かなバリサクとトロンボーンのアンサンブルがきれいだ。そこへ、ダイナミックなピアノがかぶる。

 テイクを重ねるごとに、音がみずみずしくなった。

 

 うまくいかず、後でまた録ることになったかな。次の曲へ。ピアノのモニターで、後藤がキューボックスを横に置いた。帽子の上からヘッドホンを強引にかぶるさまが、なんだかおもしろい。

 

 ちなみに今夜のリーダーシップは、きっちりと吉田がとっていた。テイクのOKや曲進行、ハーモニーも吉田が決める。スガや後藤はアイディアを出すというより、進行を確認するパターンが多い。

 その割に、吉田の指示は「おまかせ」とか「〜くらい」とか、アバウトな場合も。がちがちに吉田が決めつけず、メンバーの意志入れスペースを残すためかも。

 

 次にやった曲は、間違ってるかも知れないが"切り取られた空と回転する断片"を強烈に連想した。

 しかしスガのイントロは、単音。どう弾いてるのか、豪快にリバーブをピアノから引出して。

 単音を歯切れよく、叩き付ける。途中でテイクをやり直しつつ、ついに最後まで突き進んだ。

 

 不思議だったのが、「今のテイク、消してもいいです」とか「テープ巻き戻してます」ってやりとりが、メンバーやスタッフの間でなされたこと。

 てっきりハードディスク録音と思ったら、デジタルかアナログ・テープ録音だったのかも。

 さらに「あと何分くらい残ってる」って会話があったので、マスターテープは限られた本数に絞られてたようだ。

 

 演奏中は観客が、息をひそめて音楽にのめりこむ。空気がぴいんと張りつめる。

 吉田も、スガも後藤も観客へのサービスは一切なし。ただ、音楽へ向かう。

 しだいに空気があったまった気がした。音楽はどんどん熱くグルーヴした。

 

 全部で5〜6曲、やったのかな。リズム楽器のいない編成だが、強烈にジャズを感じた。

 熱いバリサクのブロウ、ピアノの強打、そしてトロンボーンのふっくらした音色。

 ロマンティックなメロディがハードなテンションでかき混ぜられ、ぐいぐい前のめりに進む。

 1stではミニマルさも感じたが、今夜の録音ではむしろ怒涛の勢いが印象深い。

 

 録音は曲毎に短い休憩をはさむ。スガが観客に気を使ってるっぽい。

 途中で吉田はバスクラに持ち替えた。そのセッティングも、手早く進む。

 ちなみにフルートもバンド演奏では使わなかった。ダビングで使ったのかも。

 

 マイク・バランスを確認する音出し。テープが回ったのを確認して、きゅっと空気が緊張する。そして、演奏へ。

 途中で沼田がヘッドホンでモニターしてる音が漏れてきた。数メートル離れてるのに、くっきり音が。かなりでかい音で聴いてるみたい。

 

 もともとの予定では、一時間のバンド編成でレコーディング、さらに吉田がテナーをダビングだった。

 でも、結局はバンド編成だけで2時間。さらにダビング前にプレイバックをすることになり、かなり間が空くことに。

 

 ダビングは多分、吉田がキューボックスでモニターしながらテナーを吹くさまを見ることになったと思う。とても興味深かったが、ちょっと間が空きすぎるため、ダビングの見学は断念して帰った。

 

 そう、今夜はまさに「見学」って感じ。音楽に口は出さない。けれども、レコーディングの空気感覚を体感できる。とても、貴重なひととき。

 

 そして奏でられた音楽は、素晴らしく熱かった。

 発売はいつだろう。楽しみ。

目次に戻る

表紙に戻る