LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2009/9/24 大泉学園 in-"F"
出演:黒田京子トリオ
(黒田京子:p、翠川敬基:vc、太田惠資:vln)
今夜はあまりやらない曲を、黒田京子の選曲で並べたという。無造作に一曲目が始まった。富樫雅彦の作品から。
近いうちに彼の作品集を録音する構想があり、その布石でもあるようだ。
<セットリスト>
1.Little
eyes
2.Beyond the frame
3.緑のゆりかご
4.May
3rd
(休憩)
5.ヒマワリのおわり
6.My wonderful life
7・Drum
motion
8・ホルトノキ
(アンコール)
9.清い気持ち
(1)、(6)、(7)が富樫の作品、(2)はボヤンZ。(3)と(5)、(8)が黒田で(4)が翠川敬基の曲。アンコールの(9)はチャイコフスキーを黒田がアレンジした作品だ。
(1)は初めてこのトリオでの演奏を聴いたかな。ミニマルな印象を受けた。
そもそも今夜は楽器の鳴りが抜群。ピアノの音は瑞々しく、丸く大きく響く。それでいてアンサンブルがくっきり聴こえた。特にチェロは、ひときわ豊かに。ルーム・リバーブが含まれてると思うほど。
太田惠資もアコースティック・バイオリンで乾いた音色からしっとりした味わいまで、多彩な音飾を表現した。
(1)は弦二挺のイントロから。途中でピアノが弾き休み、さらに弦を強調するアレンジ。このトリオの場合、全てが即興だが。
初めて聴く曲だから、メロディラインが良くわからぬまま聴いていた。
テーマのあとは三人が、あえて立ち位置を曖昧にする。リフのようなフレーズがいつしか旋律に変わり、再びリフに。
すぐさま別の奏者へバトンが渡される。それも、不明確に。互いにリフみたいな刻みがメロディに変わる。ソロ回しではなく、聴きあい、弾きあう過程を経て、滑らかに。
即興性がひときわ強調される、刺激的な演奏だった。
(2)は今年の5月ぶりに聴いた。太田も翠川も曲を良く知らない、とMCをはじめ、そのままフレーズを口ずさみあった。それがそのままイントロへ。ピアノが加わって雪崩れた。
強烈なリフを足がかりに、グルーヴィな演奏へ。ピアノのさりげないフレーズが、すごく魅力的だ。
一方の翠川はとてつもなく複雑な和音をチェロでぶつける。冒頭のコード感覚は浮遊ぶりがすごかった。
奔放な翠川、どっしり受け止める黒田の間で、太田が存分にソロを弾きまくった。
続く(3)はテーマのロマンティックさが最高。しっとりとふくよかなムードがテーマから滴り、即興へ繋がる。
この曲だったかな。中間部のテンポが、さまざまに変化した。誰かの旋律に反応し、即座にアンサンブルが変貌するスリルあり。それでいて、サウンドはとにかく美しい。
前半最後は(4)。翠川は「自分の曲は練習しないとできん」と呟き、太田がMCする横で左手で素早く指板を押さえていく。
始まったらすさまじい。ピアノの柔らかい和音をイントロに、CDの半分以下、すごく遅いテンポで重厚なムードを作った。
さすがに違和感を感じたか、冒頭の繰り返しですぐにテンポアップしたけれど。
即興を挟んで太田がテーマを高らかに奏でる。ピアノは連打で分厚い音を作り、チェロはフリーに続けた。
とてもダークなムードが吹き荒れるなか、バイオリンが力強いテーマを奏でるさまがかっこよかった。
演奏はさらに即興へもつれた。
前半は1時間弱か。後半もきれいなメロディの(5)から。聴きながら色々と考え込んでしまい、実は演奏のことをあまり覚えていない。
とにかくピアノの響きを筆頭に、聴いていて心地よい雰囲気がいっぱいだった。
富樫の(6)はジャズを強烈に感じた。しとやかで暖かなピアノが曲世界をぐいっと広げ、弦のソロがひきたつ。
この曲は比較的、ソロ回しっぽい展開になった。ピアノからチェロ、バイオリンへとアドリブが繋がっていった。
(8)はチェロが冒頭から弦を強くはじいた。ピチカートで。すかさず太田もボディを叩き、黒田はピアノのさまざまな箇所を叩いて応える。
豪腕のチェロのリフへバイオリンやピアノが絡み、アクセントをつける。そういえばこの曲、何拍子だろう。1拍だけ、がくっとと引っかかる刺激的なノリだった。
パーカッシブなチェロのイントロだが、中盤はメロディも存分に奏でた。
太田のバイオリンもひときわアグレッシブに突き進んだ。
翠川のロマンティシズムが炸裂したのが、(8)。演奏前は例によって、シャープが多い、難しい、とぼやいてみせる。
けれども中盤でメロディアスなソロで突き抜けた。バイオリンが、ピアノがすっと引き、ほぼ無伴奏状態で翠川は、音楽をひとしきり紡ぐ。スケール大きく、甘い旋律で。
このあと、ピアノが弾いたブロックもきれいで新鮮だったな。
大団円でステージが終わり、三人が挨拶する。拍手は止まず、そのままアンコールに。 (9)はバイオリンの切ない響きのソロが記憶に残る。
即興へ向かって、軽やかかつ上品に終わった。
骨太かつ、柔軟。音は強く、優しく。隙無い一方で優雅な間を持つ。ともすれば相反する要素をたやすく呑み込み、具現化する。
特に今回は、個々の楽器の音色が産むふくよかさも素晴らしい。ぞんぶんに音楽へのめりこめたライブだった。