LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2009/4/26 大泉学園 in“F”
出演:Sachiko M
(Sachiko M:Sine Wave)
開演時間。マスターが客電を落とした。スイッチを切る音が、やけに大きく響く。
空調なのか、ぶぉんと室内に鈍く響く低音。外を通る車の音。
静寂がふわり、広がる。耳を澄ます。
かすかなサイン波の音が、フェイドインでそっと鳴った・・・気がする。
Sachiko
Mのソロ・ライブは初めて聴く。I.S.O.などアンサンブルでなく、単独だとどんな演奏か、とても興味あった。
ひとつのサイン波だけを操るのか。複数を重ねるのか。他の電子音を使うのか。展開は。長尺で淡々と連ねるのか、短時間でくるくる音像を変えるのか。
どんなライブの構成だろう、と色々想像していた。結果は予想とさまざまな意味で異なる。濃密な空気の振動と、明確に電子音を提示するライブだった。
機材はミキサーらしきものと、なにやら箱が二つほど。どういう風に音を出してたか、いまひとつ理解できずじまい。
グランドピアノの上に、3つの機材を置いた。ピアノの中央にヘッドホンが置かれている。もしかしたら、そこからも音を出していたのかもしれない。
MCは一切無し。無言でステージに向かい、機材へ指を乗せた。
ステージの照明は暗い。薄闇の中、Sachiko
Mの演奏が始まった。
1stセットは椅子へ腰掛けたまま。
左手で注意深く、ツマミを操作する。やがて、小音のサイン波が出たのは冒頭に書いたとおり。
とても高い音だった。
かすかな響きに、やがてもう一本のサイン波が加わる。いくぶん、低い音程で。
右手で別の機材に触る。ガリッ、と異物音がした。
ゆったりと電子音が展開していく。伸びやかなサイン波が膨らみ、よじれてゆく。
とても小音のサイン波、いくぶん大きめなサイン波。ボリュームが大きい順にピッチが下がっていくようだ。
右手で軽く機材をはじいた。ガリ、ガリ、カタタタ、と連続した低い音。
ビートやグルーヴは皆無。Sachiko
Mは、ときおり無造作に機材をはじき、接触不良みたいな音を混ぜた。
左手はツマミをまわしてるようだ。しかし常に触れ続けているわけでもない。
冒頭のサイン波は、おそらく店内のスピーカーからは出ていない。
接触不良の音を出すたび、ピアノの奥にあるミキサーのランプが青く光り、店内のスピーカーから音が鳴る。
彼女の操作に伴って、青くまたたくランプ。
いつしか、太いサイン波も店内スピーカーから溶け出していた。
ふと、気づく。外を通る車の音も気にならない。流れる音は、とても小さいのに。
店内は静まり返っている。観客も音を立てぬ。ふっとぼくが足を組み替えるときに、椅子と洋服がこすれる音。それすら、はばかるほどの静けさ。
サイン波は止まず、鳴り続けている。3種類、いや4種類か。幾つかのノイズが重なり複合的に紡いだ。
もちろんメロディもテンポもない。淡々と音が漂う。
超高音サイン波をドローンで流し、わずかに低めのサイン波で膨らみを出すように感じた。アクセントが、ガリって音か。
Sachiko
Mは機材に手を覆いかぶせた。サイン波が収斂し、フェイドアウトしてゆく。
完全な静寂。そして、幕。
軽く彼女は一礼して、1stセットの終わりを無言で告げた。約30分。
後半はマスターが、ステージも含めていったんかなり照明を落とした。
ゆっくりと暗がりからSachiko
Mは、ほんのりと照らされた。
2ndセットは立って演奏。どちらのセットも即興のようだ。しかしコンセプトは明確に変えていた。
こんどはいきなり店内スピーカーからサイン波が流れる。空調の音も店外の音も、最初は耳に混ざっているが・・・彼女の音へ集中につれ、異物がそぎ落とされていると、不意に気づく。
2ndセットの音はいくぶん大きめとはいえ、他の音が聴こえぬほどではない。しかし耳が演奏以外の音を切り落としていた。
今度は野太いサイン波がまず出てきた。ドローンではなく、ときどきPA抜きでピアノ中央のヘッドホンからのみ、音が出てきた気がしてならない。
1stセットよりもさらにそぎ落とした音像。とはいえボリュームのなせるわざか、強い存在感を覚えた。
右手を機材に乗せる。スイッチを押すたび、赤いランプが二つほど、ついては消える。
サンプラーだろうか。押すのとほぼ同時のタイミングで、ブツッ、ブツッ、とアナログの針音みたいなノイズが鳴る。
しかも、左右に飛んで。
あえてパンさせてるのか、二つの電子音は左から右へ、規則正しく1音づつ鳴った。
けれども毎回、左から右じゃない。ときおり右から左。右だけ、左だけ。いくつかのパターンを持っている。
店内スピーカーを鳴らさず、ブツッと鳴ったときもあった気がする。
ランダムにSachiko
Mはこの音を出す。次はどんな風に鳴るだろう。その興味に集中力が行っちゃってた。
サイン波がどんな風に鳴ってたか、覚えてないしまつ。
Sachiko
Mの右指が動き、機材のランプが赤くついて消える。伴って鳴る、電子音。
それが強烈に印象づけられてしまった。
しだいにボリュームが上がっていく。もっとも轟音とは、ほど遠い。
ボリュームが高まった。
ブツッ。同時に2音が鳴る。そのまま、カットアウト。
約30分。同じようにSachiko
Mが一礼して、ライブは終わり。
終わった瞬間、耳鳴りのように余韻が残っていた。きいん、と静かに。
2ndセット構成とは思わなかった。集中力と静寂を要求するライブ。身じろぎもせず音へ耳を傾けるのは、リズムを取りながらライブ聴くのに慣れてるので、違和感ある。
もっとも賑やかなスペースでは、この余韻や音像は味わえないだろうな。
色々と考えが頭をめぐる、刺激的なライブだった。また聴きたい。