LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2009/3/21   西荻窪 音や金時

出演:太田惠資+シャルル・ヴァニエ
(太田惠資:vln,voice、シャルル・ヴァニエ:dance)

 このデュオ・パフォーマンスは、昨年1月ぶりに聴く。
 ステージの背後に2.5m四方くらいの大きな白布が吊り下げられていた。横には大きな木の箱らしきもの。
 20時ちょっと前にバイオリン3挺を持って現れた太田は、手早くセッティングを始めた。
 シャルルは霧吹きを持って、背後の布を丹念に湿らせていた。

 開演は20時15分ごろ。セッティングが終わって弦を調整していた太田が、すっと立ち上がる。
 そのまま客電が溶暗し、闇に。
 スポットがあたった太田は、無言でエレクトリック・バイオリンを奏でた。
 すぐにバイオリンはディレイ・ループで包まれ、金属質に軋む。
 オクターバーで爪弾き、ベース・ラインも作る。あっというまの多重アンサンブル。
 
 ステージ背後の扉が開き、パンツ一枚の姿でシャルルが登場した。
 太田は視線を投げるでもなく、無造作にバイオリンを弾く。ループにのってメロディが流れた。
 シャルルは吊るされた布と壁の間へ身体を滑り込ませた。湿った布がぴたり張り付き、体のラインを伺わせる。
 例えばクリスチャニティのバックボーンを踏まえるなど、物語性あるパフォーマンスなのか、シンプルにアイディアを表現か、今回も見ていてよくわからなかった。

 バイオリンの冷徹な響き。シャルルは身体をゆっくり動かす。布の向こうで、いつかポーズを変えていた。
 太田はリズム・ボックスとループを場面ごとに切り替える。ときにループを止め、またリズムを呼び出した。
 足が見える。シャルルが布から這い出し始めた。
 メガホンを持って抽象的な言葉を、太田は連ねる。背後にループは回ったまま。

 ふっと音が止む。太田はバイオリンを持って、床へ腰掛けた。
 無言でシャルルを見つめる。
 身体を全て見せたシャルルは床でゆっくり動く。肩、頭、足、時には手。体の3点で床を支持し、もうひとつがじわじわと新たな支持点を探し動く。
 次のポイントを探るかのように。

 立ち上がり、シャルルはゆっくり身体を舞わせた。武術的な動きを、なんとなく連想。
 かなりの時間、音楽は無し。身体を動かすシャルルが出す、床の軋みや空気の揺れだけが、静まり返ったフロアに響いた。

 太田は立ち上がり、アコースティックに切り替えた。たしか、ここでもループが現れた気がする。
 シンプルなリフの上で、バイオリンが鳴った。
 ほんのり切なく、ほんのりトラッドの風味を漂わせて。

 シャルルは身体を動かし続けた。台を中央に持ってきて、その上に立ち上がる。
 さらに台を壁のごとく扱い、身体を跨がすように床へ身体をすべり落とす。あくまで、じっくりと。
 台を舞台に見立て、身体をゆっくり回転させた。

 太田はエレクトリックに持ちかえる。ぎしぎしと軋むロング・トーン。なんだろう、と太田を見る。
 弓を逆さに持つ、コル・レーニョでバイオリンを奏でていた。弓の背が音を出しながら、弦を軋ませる。
 ノイズの切れ目から聴こえる、ロング・トーン。
 ディレイ・ループの渦に飲み込まれそうなバランスが美しかった。

 基本的に太田はパフォーマンスに関与せず、バイオリンを奏でる。シャルルも音楽にリンクした動きは意識してないようだ。
 互いの世界感を提示し合い、緩やかな関係性が調和を生む。
 太田は演奏へ寄り添わぬが、無茶に音楽を転換はしない。シャルルは音楽の切れ目や変化で舞踏のコンセプトを変えないが、太田のストーリー性を崩さぬ動きを見せた。
 互いのパフォーマンスへのバランス感覚が興味深い。

 そして、終盤。
 アコースティックを持った太田が、ついにシャルルの世界へ踏み出した。弾きながら、台の上に身体を載せたシャルルに近づく。
 シャルルは床に寝そべらせた身体を、力技でたっぷり時間をかけ、台に戻ってきたところ。
 台の隅で太田は弾く。大陸的なフレーズを。ソロを奔放に展開ではなく、リフを意識したかのごとく。
 腰掛けるそぶりな太田へ、シャルルがゆっくりとまとわりつく。台の上を寝そべったまま、身体をまきとり、寄り添うように。
 太田は弾きやめない。音楽が続き、シャルルの体が太田へ覆いかぶさり、巻きついた。
 音楽はやまない。太田もぐるり身体をシャルルに沿わせ、ゆっくりとシャルルが身体を離していった。
 音楽は続く。

 立ち上がった太田は弾きやめた。台の上で身体を曲げるシャルルに、アラビックなボイスで歌い声がけをする。
 見世物小屋でとても珍しい何かを紹介する口上を聴いているかのようだ。
 力強く、激しく。太田はシャルルを指差して、野太くボイスを提示した。

 エレクトリック・バイオリンに切り替わったか。音楽が再び現れた。
 シャルルは台の中へ身体をじわじわと滑り込ます。首だけ出して横たわる。
 いきなり、小さな明かりがついた。台の中に明かりを仕込んでいた。

 舞台の照明が落ちて、台の明かりが強調される。
 シャルルは台の向きを変え、明かりを客席に見せた。目潰しになるほど強い光ではない。しかし暗闇中心の舞台で、その明かりは着実に輝いた。
 台枠の端に明かりがついている。シャルルは身体を曲げ、むりやり台に滑り込ませる。
 足を曲げ、首をねじり、身体をひねる。
 さまざまなポーズを取りつつ、静かなペースでシャルルは台と格闘した。
 バイオリンは着かず離れず、響き渡った。

 牢獄に台枠を見立てたか。しかしシャルルはそこから抜け出そうとしない。安住を求めているわけでもない。
 身体を曲げると存在が可能なスペースがあり、いかにして位置を成立させるか。意味性を剥ぎ取り、ただシャルルはパフォーマンスをした。

 バイオリンがふっと止む。明かりが落ちた。静寂。シャルルは身動きをしない。
 かなりの時間が立って太田が弓を持ち上げ、弾きかけたとき。シャルルがゆっくりと台から身体を引っ張り出し、終演を表現した。

 1時間強のステージ。太田のボイス以外はMCも台詞も無し。今回も1セット構成だった。
 音楽と、舞踏によるストイックなパフォーマンス。ぽおんと無造作に内容を象徴的に提示する。
 ある一定の時間、太田がどのように音楽世界を作るか。ソロとは違う、魅力。
 ステージでどのようにシャルルが舞踏世界を紡ぐか。BGMや照明を煮詰めたステージングと違う発想が求められる。
 互いの即興センスをむきだしにする、興味深いステージだった。

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