LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2008/11/24   大泉学園 In-"F"

出演:小森+蜂谷+壷井
 (小森慶子:cl,b-cl、蜂谷真紀:vo,p,etc.壷井彰久:vln)

 この3人でのセッションは初めて。仕切りは小森慶子かな。演奏は全てインプロ。お題やきっかけをある程度決める、薄い縛りのある即興を奏でた。
 小森はクラリネットのみ。数曲でバスクラへ持ち替える。マイク使いに工夫を凝らす一方で、そうとうにトリッキーでストイックなアプローチだった。

 壷井彰久はエレクトリック・バイオリンで、足元のエフェクターを使ってさまざまな音色を出す。メロディは抑え目、リフで拡がりを出す場面が目立った。
 ループやタッピングを使って、少ない音数でもしっかりと個性を際立たす。

 多彩だったのが蜂谷真紀。マイク2本を使い分け、ミキサーやカオス・パッドで操作。さらに鍵盤ハーモニカや小さな鉄琴、ベルなども持ち込む。足元にカリンバもあったが、これは使わず。数曲ではピアノも弾いた。
 ボイスをメインに披露し、両腕を頻繁に動かし表現した。

 まず、ミュージシャンそれぞれがきっかけの即興から。ステージは意識的なのか、スポットライトのみで若干薄暗い。

<セットリスト>
1.即興:小森きっかけ
2.即興:蜂谷きっかけ
3.即興:壷井きっかけ
4.即興:"秋と冬の間に"
5.即興:"夏と春の間に"
(休憩)
6.即興:"カラアゲ"
7.即興:絵画シリーズ:クレー「Glance out of red」(1937)
8.即興:絵画シリーズ:スーラ「パレード」(1888)
9.即興:絵画シリーズ:ダ・ヴィンチ
10.即興:絵画シリーズ:ゴッホ「鳥のいる麦畑」(1890)
(アンコール)
11.即興:"ジャコサラダ"
 
 どの曲も終わり方に特徴があった。明確なコーダへ向かわず、消え入るように音が少なく、薄まってゆく。そして互いが呼吸を合わせ、終わりにする場面が多かった気がする。

 (1)は小森の静かなロングトーンから。単音を静かに伸ばし、指穴を薄く開ける。寸断する響きが新鮮だった。そっと音を続ける。やがてさらに一音ふえた。
 蜂谷がリバーブを効かせた声を載せ、壷井が柔らかくバイオリンを響かせる。
 ノービートのアプローチで、小森はあくまでも抽象的なフレーズへこだわる。小刻みな蜂谷のヴォイスに壷井のリフが絡んだ。
 バイオリンの繰り返すフレーズがタイム感を残す。小森と蜂谷はどこまでも自由に奏でた。

 小森の演奏はさりげなく強烈だった。数曲を除き、メロディをかたくなに吹かない。音数も少なめで、時に強くクラリネットへ息を吹き込んだ。
 まるで指癖を回避するかのよう。ロングトーンやゆったりした音使いの合間に、崩したリフを積み重ねる。

 ソロで疾走するシーンもほぼ無し。あえて音像全体を紡ぎ上げ、存在感をアピールせずに、確実な自己存在をわずかな音で提示した。
 彼女の演奏はさまざまなライブで聴いてきたが、今日のアプローチはとても新鮮。さらなるステップへ向かう過程を見ているかのようだった。

 蜂谷は奔放なアプローチでサウンドを華麗に引っ張る。場面ごとにくっきりと方法論を替えた。
 (2)では矢継ぎ早の言葉から、カオスパッドでテープ早回しのように甲高い声に加工。エコー成分を操っていたのかな。ときおり素早く指を、カオスパッドの上で動かした。
 降り注ぐバイオリンが場面を鮮烈に彩る。

 暗黒プログレ風に盛り上がったのが、壷井のイントロによる(3)。確か小森はバスクラへ持ち替えた。前半でもっともスリリングだったのがこの曲。
 蜂谷の声が大きくエコーにまぶされ轟き、バイオリンと絡み合う。上のスピーカーから降り注ぐ音像は、バイオリンのループと絡んで真っ黒に染め上げられた。
 ここでバスクラがしっかりと旋律を奏でる。小森の存在感がボリューム・バランスを抜きにして、はっきりと前のめりに表された。

 いったんMC。急にコミカルなムードへ塗り替えられた。
 観客へテーマを軽く募ったあと、小森の発案で"秋と冬の間に"をテーマにインプロへ。 もっと奇抜なテーマを思いつきたい、とぼやく小森。

 蜂谷がピアノを弾いたのはこの曲だったろうか。抽象的な即興から、後半はメロディアスかつ柔らかな空気に変わったと記憶する。ピアノは場面を作りながら、無造作にまったく違う世界感へジャンプした。
 壷井が丁寧にピアノのアイディアを拾って膨らませ、小森はクラリネットで付かず離れず音を漂わす。
 今夜の即興はどれもソロ回しは皆無。相手の音を聴きつつ、時に完全平行で進む。同時進行の緊迫感も興味深かった。

 前半最後は「短めに」と小森が宣言。そろそろ休憩時間じゃないか、と、カバンからわざわざ腕時計を取り出し確認する仕草の壷井が面白い。
 MCではヴィヴァルディの四季をサワリでつぎつぎ壷井が弾き、あげくに「いけね、間違いなく弾いちゃうよ、これ」と呟く。
 即興は明るい蜂谷のボイスと、鉄琴がイントロだったかな。終わりそうになると、新たなきっかけが産まれた。

 後半セットは観客がちょうど頼んでた、カラアゲをテーマに即興しよう、と小森がいきなり言い出す。
 冒頭は不条理な世界感で幕を開け、鍵盤ハーモニカを持った蜂谷が、吹く合間に「か、ら、あ、げ」と告げたとたん、音像はコミカルに変わった。

 4つ音からなる音列を蜂谷がふって、小森や壷井が変奏する。輪唱のようにフレーズが飛び交い、蜂谷は即興言葉で時に朗々と、時にスピーディに喉を震わす。
 "カラアゲ"って語感に繋がるフレーズはひっきりなしに鳴り、次第にサウンドの中心に。途中で壷井は笑いを堪えきれず、背中を向けて肩を震わせながらバイオリンを弾いていた。

 続いては小森の提案で絵画をテーマに即興を4つ続けて。アルバムにポストカードがいっぱい入ったアルバムを片手に、4枚を持っていた。
 まず自分がその絵を見つめ、次に壷井と蜂谷へ見せる。寸評しあったあと演奏が始まり、その間に観客へテーマの描かれたポストカードを回覧する趣向。

 クレーの抽象画を眺めて壷井があれこれ思案をめぐらす。断片的な音使いでバイオリンを弾き、やがて三人の音が絡んだ。
 メロディが曖昧に交錯し、野太くバイオリンが響いた。

 スーラでは描かれた男の一人が「フレディ・マーキュリーに見える」と蜂谷が呟き、即座にクイーンの"We will rock you"の地鳴りをバイオリンで壷井がタッピング、笑いを呼ぶ。
 か細いタッピングでバイオリンを紡いだのがここだったろうか。蜂谷はピアノへ向かい音楽を膨らませ、さりげなくアラビックな音列で、小森がメロディを吹き鳴らす。彼女のきれいなソロを堪能できた、貴重なひとときだった。

 全員がメロディ路線へ向かったのが、続くダ・ヴィンチ。手の素描をもとにしつつ、聴こえる音楽はスケール大きい雄大な展開だったと思う。
 どちらかといえば抽象的だったりダークな世界へのめりこみがちな今夜だったが、美しい風景がゆったりと広がった。

 最期のゴッホは重たく。蜂谷が両指に大小のベルを持ち、玄妙に響かす。さらにカオスパッドで小刻みなディレイをかませ、幻想的なバイブレーションを表現した。
 じっくりと3人の音が絡み合い。濃密に広がった。

 アンコールはそのまま続けて。壷井がメニューを見ながらあれこれ提案。結局、"ジャコサラダ"に決まった。いきなりバイオリンで似たアクセントのフレーズを弾き笑いを呼ぶ。
 その音列が小森と蜂谷へ伝わり、大真面目に即興が展開した。こんども壷井は噴出しながら演奏してる。
 "コガネムシは金持ちだ♪"って曲を連想さすフレーズを蜂谷が提示し、「ちがうっ、ちがうっ」と大笑いしながら突っ込む壷井。もちろんバイオリンを弾きながら。

 音のつくりは抽象的ながら、最期は和やかにライブは幕を下ろした。
 メンバーのまじめさが音に映える、真摯なサウンドだった。複数の要素が絡み合う。混沌と上品さ、メロディと浮遊感。スピードを抑え、そこかしこで鋭い即興が花開いた。また聴きたい。

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