LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2008/11/7 丸の内 ケンウッド スクエア・丸の内
出演:shezoo
(shezoo:key)
会場はケンウッドのショールーム。ここで月に数度、イベントでライブをやってる。知らなかった。キャパは40人くらい。椅子がびっしり並べられた配置。スピーカーがいくつも並んでいる。今夜はshezooのソロ・ライブで、キャッチフレーズは『ソロピアノwithアート』。
アルバム"nature
circle"(2007)のコンセプトを踏まえ、霧島留美子の絵画を4枚会場に掲示する。さらに演奏中は後方の大画面モニターへも絵を映し、音楽と映像を同時に味わう趣向だ。
ステージにはキーボードが一台。中央の譜面台が一本。どっさりと譜面が載っている。
モニターへは横へ置いたマックのスクリーンセーバーとして、"nature
circle"に使われた絵画を順番に表示していた。
開演の19時をちょっと押し、まずスタッフの前説。そしてshezooが現れてキーボードの前へ腰掛けた。
<セットリスト>
1.A Picture Of The Sky Hung On The
Window
2.Lotus Flower
3.Fungi On Red
4.Sea Life With Blue
Background
5.Spawning Coral And A Full Moon
6.Nature Forms
7.Gray
Cactus
8.Memory Of India
(アンコール)
9.Anemone On Red And Roses With Sweet
Peas
"nature circle"のCD収録曲を曲順どおり、全曲演奏。曲ごとに、テーマとなった絵を後方モニターへ投影し、さながら"展覧会と絵"な気分。寛いで聴いていた。
ショールームのスピーカーは、高音を強調に聴こえた。あくまでぼくの好みだが、高音がもうちょっと柔らかいほうがいいな。それと音がすうっと消える感触が気持いい。
あとは(8)以降の2曲。リバーブをちょっと調整したあとの響きが、とっても素敵。
冒頭からピアノの音色でダイナミクスやタッチ豊かにshezooは奏でた。しかしこの2曲ではひときわ、鳴りが心地よかった。
数曲ごとにMCをじっくり挿入しつつ、ライブが進む。観客がしわぶきひとつたてぬムードで静かに耳を傾けた。予約ありのクローズド・スペースでライブをやったため、冷やかしの観客はいないようだ。
モニターへ一曲毎に映される霧島留美子の絵画をバックに、そっとshezooの音楽が広がる。ゆったりしたテンポの曲が多めか。
どの曲もほとんどが書き譜に感じた。前に彼女のライブを聴いたときも、似たように感じたっけ。実際はかなり即興要素が多かったそうだが。
(1)は左手でシンプルな3拍子リフを繰り返す。右手がゆったりとメロディを紡いだ。 ぴいんと薄くハウリングする幻聴が、一瞬耳を掠めた。
右手で奏でられる、いくつかのフレーズはアドリブかな。丁寧に、軽やかに。右手からの音が弾む。
おもむろに、コードが移る。瞬間、がらりと鮮やかに光景が変わる。その変化にぞくっときた。
曲調はあくまで柔らかい。けれどもぐいっと世界を描く力強さがあった。
同タイトルのshezooオリジナル曲を、霧島留美子が聴いて絵を描く。さらにshezooが作曲しなおす、二重構造の作曲と説明したのは、この曲だったろうか。
(2)は蓮の花の絵がモチーフ。厳かに鳴り、しずしずと音がきめ細かく広がってゆく。
ときおり身体を揺らしながら、鍵盤を押さえる。
畳み込む3拍子の曲調は、ポイントでぐわりとリズムを溜めてフレーズを歌わせる。そのスケール感が魅力。旋律の語りかけが、さらに高まった。
大きなキノコの周りに小さなキノコがいっぱい。
「上下はたぶん、これであってると思います」
ステージ横へ飾られた絵を指差し、笑いを誘うMCが(3)の前に。
軽やかなテンポで行進のように鋭くフレーズが立ち、中盤でゆっくりたゆたう。二面性を持った曲。
畳み掛ける旋律、ぱあんと跳ねる響き。冒頭2曲での穏やかなムードを、威勢よく吹き飛ばした。
冒頭一曲以外は、2~3曲を続けて弾く。そのたびにスタッフが後方の映像をわたわたと切り替えていた。マックの画像をスライドショーで見せず、別の機材から映してたみたい。映像は演奏中に加工されない。ぽおんとモニタへ映り、演奏を静かに見守る。
shezooが弾く指は、左手のみ良く見える。右手は譜面台の陰だった。
どの曲だか記憶があやふやだが、左手でリフを弾くとき、小指が連続して黒鍵を押さえる運指がとても印象深かった。
絵の中に絵。それを意識し作曲した、という(4)。たなびくフレーズを、青白い色合いの絵へイメージかぶせながら聴く。
中盤で爽やかに響きが変わり、開けた。
どの曲も、和音の響きや動きで作る音像が、とびきり心地よい。
詰まった響き、開放する鮮烈さ。場面を素早く、スケール大きく動かす。
瞬時に音像を変化させ、動きを持たせる。ピアノの音数ではなく、響きでさまざまな光景を表現した。
(5)も旋律の鳴りに引き込まれる。ぽんぽんと音が置かれ、いったん収斂。
すみやかに和音の連打で次のイメージが、すらりとそそり立つ。
満月の夜にのみ産卵する珊瑚がモチーフの絵。宇宙と海中。二つの拡がりが距離感をあえて狭めた画面の中で、引き寄せあう。
鍵盤は和音でニュアンスを切り替え、凛と音をたなびかせた。
(6)と(7)は夢見心地で聴いていて、イメージがごっちゃになっている。
ふうわりと弾み華やかに。音が、つぎつぎ丁寧に降り注ぐ。溌剌と。
最期の(8)は力強い。絵はインドをイメージして書いた小さな絵を、拡大したそう。
旅立ちのような歩みのフレーズが、いつしかテンポアップ。加速し、高く聳え立つ。
この曲の前で、shezooはリバーブをちょっと操作した。粒立ちのきれいなタッチ、ピアニッシモから強打へのダイナミクス。
いくつものニュアンスがぴしりと音へ現れ、とってもきれい。
拍手の中スタッフが現れて、しばしshezooと会話。間をおかずアンコールへ雪崩れる構成だった。
アンコールは優しく包み込む。ムードを穏やかに暖めた。重心軽く、じっくり歌わせて。これまでの曲が提示したさまざまなイメージで、沸き立った気持ちをそっと静めた。
ひとつながり。途切れることなく音楽は紡がれ、満遍なく空気をそよがせた。
最期の音が、すうっと消えてゆく。
拍手の中、shezooがにこやかにステージから去った。
アンコールも混ぜて、70分ほど。すっきりとイベントは幕を下ろす。
"nature
circle"の世界を丁寧に味わう、充実したひとときだった。