LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2008/6/22   表参道 月光茶房

  ~月光茶房の音会 (第8回)/水月のふたり~
出演:鬼怒無月+土井徳浩
 (鬼怒無月:ag、土井徳浩:cl,as)

 音会の第8回目は、今日が初顔合わせのデュオ。リハなしでライブへ臨んだという。
 開演時間の15時ちょうど、いきなりドアが開いて二人が姿を見せた。アコギを持った鬼怒無月、ついで土井徳浩がステージのスペースへ向かう。
 無言で顔を見合わせたあと。いきなり、ライブが始まった。

 まず土井が静かにアルト・サックスを吹く。かすかにブレス・ノイズが聴こえた。
 ガット・ギターを構えて腰掛けた鬼怒はゆったりと弦をはじいた。やがて、ピックを1弦に強くあて、ぎしぎしと軋ませながら別の弦を爪弾く。
 土井の音が膨らんでは、消える。シンプルな音使いのロングトーンへ、アコギが絡む。
 やがて、即興が展開した。 

(セットリスト)
1.即興#1
2.ネズの木
3.即興#2
(休憩)
4.ロロ
5.Off Duty(非番)
6.即興#3

 土井は(1)と(3)、(6)の後半でアルト・サックスを吹いた以外は、クラリネット。鬼怒はガットギター一本。コンタクト・マイクをつけて、アンプで増幅かな。ループなどのエフェクターは使わぬ、シンプルな機材だった。
 
 いきなり即興から。手数がやがて多くなるが、対照的なプレイだった。鬼怒はバッキングのときも激しくかき鳴らし、ビートは明確。しかし小節感覚を曖昧にした。奇数拍子を連発のようにも聴こえた。
 土井はロングトーンや符割を大きい展開で、あえて拍を不明確にした。フリーク・トーンやフラジオもさりげなく轟かす。

 最初に10分ほどの即興、簡単にお互いを紹介するMCへ。(2)は土井のオリジナル。ビョークの出演した映画に、タイトルは関連付けたそう。
 ゆったりと陰のある旋律を、土井は丁寧に吹いた。鬼怒は譜面へ目を注ぎつつ、スケール大きく奏でる。
 この日の譜面台は、カウンターに載る小ぶりのもの。鬼怒は腰掛け弾いており、譜面台を正面に置くと、表情や指先がほぼ隠れてしまうのが残念。

 テーマが一巡すると、クラリネットのソロへ。穏やかな雰囲気を保ちつつ、流麗なフレーズをめまぐるしく。指はそうとうに回った。
 鬼怒へソロを委ねると、すっかり聴きに回ってしまうのが惜しい。このスタンスは今日のライブ全体を通じてだった。厳密には(6)で一瞬だけ崩れたが。
 
 すなわち常に音を出すの鬼怒のみ。テーマと自らのアドリブで土井が吹く。そのためセッションとは意味合い違う音像なのが否めない。
 始終バトルをするのが即興セッションのありようだ、とは決め付けまい。しかしソロのみで終わるのも、もどかしかった。
 
 再び即興で1曲。鬼怒がブギっぽいパターンのリフから始まり、土井はビバップ的な硬質で素早いフレーズをばら撒いた。
 二人が絡み合う場面ではスリリングかつ端正な仕上がり。拍の頭をぴったりと刻み、時に付点をつける符割で土井は吹きまくる。バック・ビートも存分に使い、小節線を跨ぐような鬼怒のアドリブと、タッチの違う音が絡み合う。

 鬼怒は即興になると、目を閉じて音へ耳を澄ます。アグレッシブさよりも知性的な雰囲気漂う即興だった。
 3曲で40分ほど。いったん、休憩を挟んだ。

 後半はまず曲から。エグベルト・ジスモンチの"ロロ"から。鬼怒がクラリネットを誘い、ボサノヴァ風のストロークでテーマを支える。複雑な音使いから、ごく滑らかに土井はソロへ向かった。

 土井は汗のにおいが皆無な、落ち着いたプレイ。指がどんなに回っても、常におっとりな風貌だ。軽やかに小刻みなフレーズを操り、長尺のソロを聴かせた。
 いったんテーマへ。一度まわした後、するりと鬼怒へアドリブを委ねた。
 
 鬼怒はアドリブのとたん、音像に奔放さを増す。時にピックをくわえ、指弾きと織り交ぜてフレーズを組み立てる。小指の強い動きが特徴だが、この日はフレットの素早い上下を中心に、弱いチョーキングでアクセントをつけた。
 1弦を軋ませながら、他の指で装飾を出す。(1)でも多用したが、白玉からハンマリングで音をかぶせ、倍音的に鳴らすテクニックもめだつ。時にボディを叩き、リズムをあおる。
 スマートな土井とは別の観点で、貫禄漂わす音楽だった。

 (5)も土井の作品。一曲くらいは鬼怒のレパートリーも聴きたかった。選曲に関しては土井に委ね、鬼怒は胸を貸した格好か。
 まず旋律が生まれ、後付で曲名をつけたという。なんとなく"非番らしい"という説明にふさわしい、切なく揺れるメロディだった。

 テーマのあと、再び土井が長いソロをじっくり聴かす。テーマの曲調を活かしつつ、バロック的に盛り上がった。
 いったんソロのあと、テーマをまわして鬼怒へ。今度は至極あっさりと鬼怒がアドリブを終わらせ、エンディングへ誘った。

 ここまでで20分強。MCも鬼怒は控えめで、土井が司会役を。
 初演で探り合う要素があったのかも。

 最期も即興。鬼怒がいくつかのフレーズを爪弾き、クラリネットで土井が旋律をかぶせる。そのスケールにすかさずギターがあわせ、涼やかに即興が始まった。
 テーマが無い分、二人の音が絡み合う。主導権をさりげなく鬼怒が土井へ譲った。
 ひとしきり吹いたあと、土井がリフっぽく数音を繰り返す。

 今日、もっとも耳に残ったのがこの場面。とたんに鬼怒が、アコギでメロディを弾き出した。土井は吹きやめない。クラリネットのリフを跨ぐように、鬼怒の指先は幅広く指板を動き、荒々しげかつ紳士的にソロをぶちまけた。
 ギター・ソロは、やがて収斂する。そしてクラリネットへソロが繋がった。
 
 即興、かつ二人のインタープレイ。(3)でも激しい音の交錯はあったが、あれは互いが疾走するかのよう。(1)では自己紹介か探りあい。それぞれ、そんな要素も頭に浮かべながら聴いていた。
 ところがこの瞬間は、二人のキャッチボールを感じた。土井がソロを取ったあと、また鬼怒へ音を戻す。しかし土井は、吹きやめてしまった。これが彼の個性なのかもしれないが。

 後半は50分くらい。比較的、あっさりとライブは幕を下ろした。土井と鬼怒は初顔合わせとは思えぬ、整合かつ破綻無いアンサンブルを聴かせた。二人とも余裕綽々な面持ち。
 土井曰く、今回をきっかけに鬼怒と共演したいという。音のアプローチが異なりそうな二人だけに、次なる展開が楽しみ。

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