LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2008/4/18     西荻窪 アケタの店

出演:板橋文夫ミックスダイナマイト・トリオ
(板橋文夫:p、井野信義:b、小山彰太:ds)

 アケタの店で2daysの初日。20時ちょうどに3人が店内へ姿を現し、すかさず客電が落ちた。
 のっそりとステージへ上がった3人。井野信義はチューニングを始め、小山彰太はスティックをバスドラの上へ並べる。
 板橋文夫は無造作に立ったまま、ピアノを爪弾いた。

 おもむろにマイクを持った板橋がメンバーを紹介。
「"雨のアケタの夜"ということで。インプロです」
 そう挨拶して、ライブの幕が開いた。いきなり20分間ぶっ続けで。

 最初はちぐはぐな3人のリズムが、次第に重なり合う。井野は弦をしごくように鳴らし、アルコを持って強く揺さぶった。
 小山のビートは決して激しくない。隙間を残しつつも、ぐいぐいとリズムを響かせた。
 ドラム・セットは店置きか。浅胴のスネアと1タムに、ライドとクラッシュ1枚づつ。
 至極シンプルな編成。タムはスタンドが壊れてるのか、強引にガムテープで固定してた。

 ピアノへ2本マイクが立つが、録音でなくPA用か。最初はドラムの音に埋もれていた、ピアノのバランスがどんどん大きくなる。 
 板橋は椅子に腰掛け弾くうち、次第にテンションを高まらせる。鋭い表情で、次第に音数を増した。
 ほとんどペダルを踏まない。次々打ち鳴らす音が、連続した響きを紡ぐ。ひとつながりにフレーズが繋がり、うねりを呼んだ。

 やがてくっきりと、音が前のめりに。ぐんっと盛り上がった。
 板橋の姿勢は最初、腰を浮かす程度。ついに立ち上がる。鍵盤を叩きながら。上半身がぐいぐい弧を描く。のけぞり、前のめりにピアノへのしかかった。もちろん、弾きつづけたまま。

 クラスターっぽいフレーズは控えめ。しかしどんな音を、たとえクラスターでも、全てが美しくメロディアスに響いた。
 一曲目から充実したソロに、ピアノのアドリブが終わったとたん大きな拍手が飛ぶ。

 トリオ編成で聴くのは初めて。板橋が長尺で弾くのはもちろんだが、二人へアドリブのスペースも存分に渡した。
 板橋はテーマを幾度も繰り返し、アドリブをはさんではテーマを提示。積み重なる音列に、だんだん聴いてて朦朧としてきた。

 アケタに3人のハードでグルーヴィなジャズが充満した。

 冒頭のインプロ以外は全て曲。彼の作品はきちんと聴けておらず、どの曲をやったか不明。すみません。1stセットの2曲目が"コメットさん"、2ndセット最初の曲が"bird"と紹介したと思う。
 あとは拍手が続く間に板橋がメンバーへ二言三言告げ、演奏が始まった。

 2曲目は井野の無伴奏ソロをイントロに。中盤でドラムが無造作に強打で打ち鳴らすソロから、一気にアンサンブルが突っ込む。そこで盛大な拍手が沸いたのもここだったろうか。
 板橋はカウベルを持ち、無造作に鳴らした。

 熱く燃えるシーンがいくつもあり、ソロが終わったとたんに拍手が起こる場面も多数。
 しょっぱなから板橋のアドリブが凄まじかった。仁王立ちで振り下ろす指先は、右手が中心。めまぐるしくメロディを崩しつつも、ロマンティックさをふんだんに香らせる。

 井野はがっしりとアンサンブルを支えた。ピアノも打楽器と定義するならば、ステージ横で奔放なビートが飛び交う。
 その中で、フリーな要素も交えつつ貫禄ある低音フレーズを重厚に奏でた。
 アドリブでは指弾きを中心に、ときおりアルコを掴んで、せわしなくぎしぎしと弦を軋ませる。
 どの曲か失念したが、アルコで弦のみならず駒の横を静かにこするシーンが印象深い。

 ドラムは最初こそ遠慮がちだが、みるみる盛大に轟いた。一曲目ではマレットを。逆さの端も使って、軽快に叩きメリハリをつける。
 スティックでスネアのリムをロールする奏法で、アクセントをピアノが加えたのは2曲目だったか。
 アドリブではハイハットをシューシュー鳴らしテンポ・キープしつつ、前のめりにスネアとバスドラでパターンを組み立てた。

 およそ半分くらいの曲でドラム・ソロを取ったはず。ベースにしろドラムにしろ、かならず全曲でソロを回さない。
 そのかわりアドリブあるときは徹底的。後半の3曲目だったか。感覚的ながら、5分以上ものドラム・ソロが続いたと思う。
 ロールで組み立て連打し続ける、ありがちのテンションひけらかしのソロとは無縁。
 小山はあくまでビートとパターンの組合せでアドリブを構築した。

 前後半でアップ・テンポな曲が多かったと思う。バラード路線では1stセット3曲目が素晴らしい。
 朗々と男っぽいメロディを奏で、フリーキーな小節をはさむ。
 繰り返しで旋律に戻る。それを幾度も循環するパターンは、フリー要素でバラエティさを出す。テーマのメロディはときおり豪腕で崩された。
 アドリブも充実した、とてもいい曲。なんと言うタイトルだろう。

 1stセットは4曲で1時間15分。2ndは小山だけがまず現われ、ドラム・セットに座る。観客から「ドラム・ソロ!」の掛け声が飛んだ。
 やがて板橋と井野も現れて、後半セットが始まる。

 後半セットはほぼアップ・テンポだけで押した。
 1曲目と2曲目はメドレーで盛り上がり、4曲ほど演奏したと思う。

 約55分のステージで、アンコールは無し。
 2ndが終わってメンバーが去った後、拍手がちょっと続いたが。
 「今日は限界です!」
 板橋がドアから顔をのぞかせ叫び、アンコールなしで終わった。

 降り注ぐピアノがとにかく圧巻。パーカッシブにパターン繰り返しではなく、フレーズが奔放に展開しては、一気にテーマへ突き進む。
 果てしないアドリブの重戦車ぶりが痛快だ。フリーに動いてるときも、ロマンティックさが滲む。

 そんな板橋の熱演を、ドラムとベースは貫禄でいともあっさりと受けとめた。ばらばらなリズム感で動いていても、通低するノリは強靭に揺るがない。
 ベースやドラムのソロでは、ピアノもたまに鳴らす程度。隙間を多くし寛げるいっぽうで、音楽の濃密さは残してる。
 とにかくつるべ打ちの鍵盤がテーマを繰り返し、トリオががっぷり噛合って醸しだす充実感に酩酊した一夜だった。

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