LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2007/12/22 西荻窪 アケタの店
出演:緑化計画
(翠川敬基:vc、喜多直毅:vln、早川岳晴:b、石塚俊明:ds)
「2008年最後の緑化計画のライブです」
「2007年だろ」
冒頭で翠川敬基のMCへ、すぐさま早川岳晴がつっこむ。底冷えする土曜日の夜、緑化計画の月例ライブ。
早川は五弦のエレキベースを構え、全員がパイプ椅子に座って演奏した。喜多直毅と翠川は音をマイクで拾い、PAでバランスとって流す。チェロがアンプを使わぬセッティングは、しばらく前のライブから実施してるそう。
確かにバランスが良く隅々までアンサンブルを聴けた。軽くリバーブをチェロにかけてるのか、翠川のMCへかすかにエコーがのってる気がした。
「譜面は無いと思うけど、適当についてきて」
翠川が喜多へ、緑化の譜面が入ったクリアファイルを繰りながら曲を説明し、演奏が始まった。
<セットリスト>
1.Thousand
eyes
2.Bisque
3.Gumbo
soup
(休憩)
4.Go-hon
5.link
6.Mother Vol
フリーのテンポでチェロが無伴奏ソロ。ステージを通しほとんどの場面で、アルコ弾きだった。
ゆったりルバートしつつ、おもむろにテーマを提示した。たっぷりと旋律を歌わせたところで、静かにマレットで石塚俊明が入る。
最初はオブリで。曲の最後はメロディを覚えたのか、喜多もユニゾンでテーマを奏でた。一曲目からすでに、弓の毛がほつれる。
早川はベースを構える位置が気に食わないのか、身体を動かしながら弾いた。最終的にアンプへ半身を向けてしまう。細かなフレーズやグリサンドを多用し、ソロでは太いフレーズも。
バイオリンからチェロへ。アドリブ回しはけっこう明確に置かれた。翠川は右肩を前に出し胸を張るような姿勢で、ふくよかなメロディを続々と奏でた。
ひさしぶりに緑化を聴いたが、ぐんと張りあるアグレッシブなアンサンブルになっていた。5年ほど前、「脱力フリージャズ」って言葉が浮かんだときと、かなり違う気がする。当時の録音テープはなく、記憶頼りの印象ながら。
典型的なアレンジが、続く"Bisque"。テーマはスローで、美しい旋律の曲。
ところがアドリブではテンポががんがん上がり、高スピードで疾走した。
即興はもともとテーマのフェイクから自由に動く。思いが溢れ続けるようなライブだった。
"Bisque"はじんわりと幕開け。やはりルバート気味に音符を大切に弾いた。翠川の眉間へわずか皺が寄り、厳しい面持ちで。
場面毎に翠川が軽くアイコンタクトを送るが、目を伏せた喜多ははたして見てるのやら。早川はポイントで眺めてたみたい。
ともあれ縦の線はふうわりと融合し、盛り上がった。
むしろアドリブのほうがバラバラと縦線をずらしつつ、進んでゆく。トシがスティックへ持ち替え、溜めて叩く。
弦の三人はテンポはほぼ同一ながら、微妙にアクセントのポイントを変えあい、懐深い響きを見せた。
きっかけは喜多だったろうか。いつのまにかテンポはパンキッシュに変わり、トシがスネアを連打。早川が前のめりの低音でソロを取り、喜多が快調に飛ばした。
早川がコード弾きで高音部を鳴らし、ピックまで持ち出す。
そして最後は、再び静かにテーマを奏でた。
1stセット最後は"Gumbo
Soup"。黒田京子トリオで耳馴染んだ翠川のオリジナルだが、アンサンブルの違いが興味深かった。PA経由やバイオリンが違うから当然でも、緑化で聴くこの曲は重心が高く感じた。より華やかな感触。
弾きながらテーマの回数を、その場で翠川が指示する。
アドリブではさっそうとチェロが旋律中心に疾走した。特殊奏法は控え、メロディを存分に操る。
早川は弾きながらハミングも挿入。トシは隙あらば鋭くプラスチック・ブラシを振り落とす。激しく叩いても、暖かさが残る。シンバルを叩いて直後のミュートを連発し、スネアを叩きのめした。
喜多が8分音符が4+4+3で連なる音列を提示。軽やかに続ける。ベースが絡み、音列のパターンを膨らませた。
いつのまにかバイオリンのオスティナートを主体に、アンサンブルがうねった。
最後は賑やかに着地。約45分のステージ。
後半セットでメンバーがステージへ上がるとき、なぜか早川が店内の隅においてあったタムを持ってくる。叩くのかとトシがスティックを渡すが、「酒を置こうと思って」と惚ける早川。もっとも実際に、タムの上へ布を置き、コップを載せていた。
4ビートの曲"Go-Hon"で後半セットは幕開け。説明中にトシが刻み始め、演奏へ雪崩れた。
途中でテンポが幾度か変わったが、トシをはじめとした全員のグルーヴ感が心地よい。ときおりトシがリズムをストップさせ、すかさずアンサンブルが宙へ浮く。
続けてドラムから同じテンポで頭が出ても、ノリは崩れない。
ベースががっしりとアンサンブルを支えた。高音部分を使いつつ、ソロのようなベースラインを奏でる。
翠川はスペースが出来ると、柔らかい旋律でのソロ。後半セットのどこかでピチカート多用のソロは有ったが、それ以外は弓弾きが目立った。
チェロに不思議な存在感がある。ムリに指揮やコントロールをしない。
しかしどんな場面でも、仮にチェロが手を休めていても。緑化の、翠川のサウンドが流れる。あの強靭な一貫性が凄まじかった。
2曲目は早川の提案で"Link"を。難曲らしく、譜面を見た喜多が戸惑い顔。早川も譜割の解釈に戸惑い、テンポを翠川が口伝えした。
しばらく喜多も含めた3人で、公開リハーサルの面持ち。探り弾きから自然に曲へ向かった。
この曲も豊かなテーマが美しい。しかし即興では加速し、アップテンポにうねった。
テーマへ一度戻り、さらに崩されフリーに向かった。軽く翠川が手をふり、喜多へアドリブを促す。
喜多が活き活きとソロを取った。
ふっとバックが手を止め、チェロとバイオリンだけに。ここぞと二人は弓を激しく動かす。譜割の頭を微妙にずらした応酬の響きは、まるでバロック音楽を聴いてるようだった。
"Mother
Vol"はフロント2弦のアドリブが、かっちりとテーマへ繋がった箇所が特に気持ちいい。
アドリブへ入ると早川はベースを構えたまま、スティックで下に置いたタムを叩きだす。ついにはベースを横へ置いてしまい、抱え上げて手のひらでダラブッカのように鳴らしてた。
そのままパーカッションで終わるかと思いきや、後テーマではベースを構えなおした。
後半セットは35分くらい。曲が終わったところで、翠川が店の時計をちらりと。早川へ3曲やったことを確認して、改めてメンバー紹介をした。
ちなみに1月、2月は平松加奈(vln)がゲスト決定だそう。
「緑化はさまざまなメンバーがいた。これからもどうなるかわからない」
と、翠川はMCで無造作に告げる。十数年のキャリアを持ちながら、安住を求めない。まだまだ緑化は変化を続ける。
今夜も奔放な展開が刺激的で、味わい深く充実したライブだった。今後も楽しみ。