LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2007/7/6   入谷 なってるハウス

出演:渋さチビーズ
 (立花秀輝:as、小森慶子:ss,as、不破大輔:b、磯部潤:ds、+山口コーイチ:p on set 2)

 朝顔市で駅前は人がびっしり。ライブハウスに到着すると、まだドアに「リハ中」の札が下がっていた。程なくドアが開き、中へ。
 立花秀輝が床へ座り、プラグをいじっている。ベースのピックアップが接触不良だろうか。やがて修理が終わり、不破大輔がアンプへ火を入れた。音あわせが始まる。軽くリハ。

 メンバーが音を無作為に出し始める。つっと音が集中し、サックスが"行方知れズ"のテーマから、アドリブへ。あっけなく終わったが、盛大に響いた。
 終わった後も、不破はベースをしばらく奏でる。小森慶子が軽くサックスを合わせた。
「チビーズは久しぶりっ」
「ウッドベース弾くの、2週間ぶりだよ」
 小森へ、不破が応える。

 20時を15分ごろ回った頃。客電が落ちる。チビーズでの恒例となった、立花の照明係。嬉々としてスイッチを操作した。
 ウッドベースの無伴奏ソロ。小森が単音でAをゆらゆらと吹く。不破のアイコンタクトで、磯辺潤がスティックを軽くハイハットへ落とした。

<セットリスト>
1.行方知れズ(?)〜股旅
(休憩)
2.行方知れズ(?)〜レイディズ・ブルーズ〜ナーダム
3.仙頭

 冒頭はフリーな"行方知れズ"。テーマは提示されず、混沌なアドリブへいきなり突入する。じきにテンポが速まった。不破は音列を執拗に繰り返す。ウッドベースを弾きながら、右足がせわしなくリズムを取った。

 サウンドが漂う。中心点を置かずに、サックスのソロへ。小森は冒頭こそアルトを吹いたが、すぐにソプラノへ変える。
 ソロの合間、鋭いフレーズにあわせて左右に、勢いよくサックスのベルを振り抜いた。
 アドリブはメロディアスさを保ちつつ、どこか上品に。"行方知れズ"のテーマが変奏され、アドリブと混在した。
 ドラムとベース、そしてホーンも。アクセントをわずかずらしあってるように聴こえた。
 濃密なグルーヴでぐいぐい押す。

 フロントが立花へ変わった。がっつりとフリーキーさ、そしてメロディ。音に力がこもる。
 "行方知れズ"で30分くらいか。ソロが交錯し、高まってはスローへ。奔放に展開した。たまたま寝不足でまぶたが重く、途中で朦朧としながら聴いていた。

 ベースが次の曲を促した。
 空気が変わる。"股旅へ"。
 小森はソプラノを持ったまま、テーマを変奏する。袖に立っていた立花が、ステージへ上がった。
 一気にテーマへ。冒頭はリズム隊が音量を潜め、後半部分で一気に爆発する。
 2管なのに分厚い空気が迫った。
 ホーンのアドリブが行きかう。
 
 フロント二人が袖へ去り、不破がくっと磯辺へ合図を送る。その拍子に、不破の顎から汗が一筋、したたった。既にシャツは汗まみれ。

 初めて、そして今日唯一のドラム・ソロ。
 ベースとファンクをかましつつ、次第にドラム・ソロの色合いが強まる。不破はフレーズを出し続けた。
 磯辺はタム回しのようなスティックさばきで、テンポを変えない。わずかにポリリズムっぽく展開した。
 
 ベースのノリを踏まえつつ、ドラムの手さばきが次第に多くなる。スネアがめまぐるしく打ち鳴らされ、空間を打音が埋め尽くす。ぐいぐいとテンション上がり、猛然と突き進む。
 がっしりビートを支えた磯辺のスピード感が、炸裂した。

 するりとホーン隊が戻って、テーマへ。45分くらいと、ちょっと短め。
 不破が休憩を告げる。汗みどろでへなへなな様子に、客席から微笑みが。水を入れたビール・ジョッキを、不破は一気に半分くらい飲み干した。

 後半セットはAASのメンバー、山口コーイチが飛び入りで加わった。演奏前にマイクがセットされたが、実際は生音かな?
 ピアノの蓋を大きく開けるが、ホーン隊が吹きまくると、さすがに音量は厳しかった。
 立花が照明を落とす。あっちこっちのつまみをいじって、照度の違いを試してた。

 怒涛の充実さで圧巻だった、2セットが幕を開ける。

 フリーに始まる2セット目。完全即興かもしれない。中盤のアルト・ソロで、小森のフレーズに"行方知れズ"っぽさが、ほんの少し漂った。

 ベースのフレーズに重なり、小森がアルトを吹く。不破の指が激しく動いて、あおった。
 いきなり磯部が4ビートでしゃきしゃき刻み始めた。空気がいっきにビバップへ飛ぶ。
 山口は最初にさぐるような音使い。やがてクラスターも交えたフリーな演奏へ進んだ。
 冒頭こそフロントの二人も加わるが、すぐに袖へ。ピアノ・トリオでファンキーなフリー・ジャズが産まれた。
 不破が無造作にぐいぐいと、弦を弾き続ける。右指だけでなく、左指も勢いよく弦を弾いた。
 ピアノのテンションが高まる。4ビートが基調のオーソドックスなフリーが妙に新鮮だった。

 管の二人が袖に座ったまま、カウンターのフレーズを。ロング・トーンから一音づつの交換へ。ばっちりはまり、スケール感が広がる。
 ピアノのソロがたっぷり。ホーン隊が前のめりにカウンターを続ける。

 ついに小森がたまりかねたように、アルトサックスを引っつかんでステージへ飛び出した。
 中央でフラジオを取り混ぜたフリーキーなソロを吹きまくる。

 やがて立花もサックスを吹き出す。アドリブがクロス・フェイドするかのごとく交代した。

 体を大きく揺らし、時にしゃがみこむようなアクションで立花がアドリブ。すばらしかった。
 今日の立花は冴え渡っていたが、たしかこの箇所。アドリブが、とにかく秀逸だった。
 フラジオで高音をばら撒きながら、音が太く鮮烈。とめどなく吹き続けるフレーズに説得力あり、緊張した安定感をばっちり提示する。
 即興の奔流が高まり、活き活きと爆発した。

 幾度かフロント二人のソロが交換され、いきなり不破がリズムを変えたのが、ここかな。
 いっきに空気がディキシーへ。磯部が滑らかにビートを変える。
 ちょうど小森がソプラノを持って、クラリネットとサックスを取り混ぜたようなフレーズでアドリブを取った。
 ころころと音が弾む一方で、末広がりに音が膨らむ。今日はリズムの展開が面白い。

 やがてリズム隊がスイングしだし、ブルーズっぽい雰囲気へ小森のアドリブが変化した。
 すうっと音が収斂し、そのまま"レイディズ・ブルーズ"に。すごいな。まるで全部段取りあるみたいだ。ここまでで約15分くらい。

 冒頭こそスローだが、やがてテンポが速まったと思う。
 立花はメロディアスなソロへ。いっきに音が少なくなり、無伴奏に近くなった。
 動じずに立花はアドリブを続ける。リズム隊が戻ってきて、テンションは右肩上がりに。

 じわりコーダへ向かったが、不破は終わることを良しとしない。
 四分音符で単音を一人だけ、弾き続ける。小森がソプラノで加わった。"ナーダム"の変奏を軽やかに。
 磯辺の刻みも入る。山口は遠慮がちに鍵盤を叩いた。

 袖へ立ったままの立花を呼び込むかのごとく、ベルを持ち上げ小森は変奏を続ける。
 マウスピースを深くくわえた立花は、舌できつくリードを叩く。なかなか食いつかない。
 不破のベースは、ずっと単音を弾き続ける。

 幾度も変奏が高まり、変化した。立花が歩を進める。
 小森が吹きながらリズム隊をぐるりと見回し、"ナーダム"へ突入した。
 
 不破が同系の音列を猛烈に続け、怒涛で押す。ドラムもすでに4ビートから変化し、威勢よく鳴った。
 ホーンのアドリブはどれもこれも聴き応え満載だった。小森はステップを踏み、肩を左右に入れながら流麗にフレーズを紡ぐ。立花はハイテンションまっしぐら。サックスの鳴りが心地よい。
 アドリブのさなか、鋭く見つめる不破の視線が強く印象に残った。

 大きな拍手の中、メンバーを不破が紹介する。そして、カウントの吼え声。
 最後は"仙頭"。山口が強く鍵盤を叩く。
 フラジオ一辺倒で立花はテーマを吹ききった。
 
 後半セットも45分くらい。今夜は特に2ndセットが秀逸。スイングからフリーまでの自在に飛び交いつつ、集中したアンサンブルと極太のグルーヴが充満した。
 不破がシンプルなフレーズで、力強く牽引する。ホーン隊のアドリブも隙がなく、とにかく充実のライブだった。

目次に戻る

表紙に戻る