LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2007/04/07 西荻窪 アケタの店
出演:三上寛+石塚俊明
(三上寛:vo,g、石塚俊明:ds)
三上寛を聴きたくなり、いそいそアケタの店へ。石塚俊明とのデュオはほぼ毎月演奏してるはず。もっともぼくは01年の7月以来。5年ぶり。
そのときは明田川荘之の加わったトリオ編成だった。トシとのデュオは01年の4月以来か。
店内はぎっしり満員で、補助席も出るほど。20時を回る頃、客電が落ちて二人はステージへ向かった。
ネックの先にチューナーらしきものをクリップで留める三上。でかい音でチューニングを済ませ、かき鳴らし始める。そのまま滑らかにライブへ突入した。
三上は横に譜面台を置いた。どうやら前半は新曲か新しめの曲をやったようだ。一曲ごとに譜面(というか、歌詞カードみたい)を横のピアノへ片付ける。ときおりミネラル・ウォーターをがぶりと一口。
正直なところどの曲も、キーは似たような感触。まるでひとつながりの長い歌かのごとく。
長いもの、短いもの。バランスを考えた曲順。こぶしをまわす曲のあとは、朗読のようなごく短い曲。そしてまた、三上節でうなりだす。メリハリが利いていた。
ギターをざくざくかき鳴らし、独特のグルーヴを提示する。
MCは皆無で、立て続けに三上は歌をしぼりだした。
咆哮していた歌詞の記憶をたどると、"葉書・カード"、"時計・ウォッチ"、"首巻・マフラー"など、アルバム"吠える練習///白線"収録曲も演奏したか。
リバーブを効かせたマイクはかなり音が大きい。高音が強調され、言葉の破裂音がキンキン響いた。三上は表情豊かに歌詞をつぎつぎ歌い継ぐ。ナンセンスなストーリー、ありふれた言葉。それらを独特の熱情こめてばら撒く。
ときにポエトリー・リーディングのように。ときに独特の節回しに載せて。
喉をつぶすシャウトから、野太く吼えるように。さまざまなアプローチで三上は言葉をつむいだ。
ギターは単なるストロークの伴奏じゃない。歌と寄り添い、言葉の合間を継ぐかのように。無造作な弾きっぷり。ギター・ソロはほぼ皆無。イントロもアウトロもあって無しがごとく。すべてが歌に収斂した。譜割りすらも歌の従属物みたいだ。
基調は4/4。しかし興に任せる節回しは、しょっちゅう拍子が振れる。時に一拍、いや、半拍単位で前後。いわば5拍子や7拍子。
場面によっては9/8拍子や7/8拍子の挿入みたいな、テンポ感覚が痛快だ。
そんな奔放な三上へ無闇によりそわず。かといって独自に走らず。トシは自分のペースで強打。きっちりと2人だけのサウンドを構築した。
スティック、マレット、ブラシを場面ごとに使い分け。ほとんどはスティック。生音で叩きのめすリズムは、とびきりパーカッシヴだ。ビートを刻まないのに、グルーヴィに膨らみ持たせた。
曲順を知ってか、その場の即興か。譜面はまったく無い。三上を聴きながら次々と手数を変えた。
リズム・パターンは殆ど無視。無造作に大きく体を動かしながらスティックを振り下ろす。時折、拍の表裏を変えてリズムを揺らす。
歌の流れに、ギターのストロークに。ごく自然で自由なトシのドラミングで、びしっと締める場面が連発。三上独自の日本情緒ブルーズを、鋭くランダムなビートで骨太に固めた。
どんなに叩いても歌を邪魔しない。急き立てるように、ときにそっと支えるがごとく。
ドラム・ソロは皆無だが、トシの存在感は三上に負けぬ。2人の壮絶な個性がぶつかり、構築された。
三上は節の合間でときおりステージをうろつく。ネックの上を勢い良く掌ですべらせ、すっとステージ奥で両足をそろえてギターをかきむしる。
さりげないしぐさの一つ一つが貫禄たっぷり。マイクへ向かって叫ぶ三上の顔が、次第に赤く染まり、汗がにじんだ。
エンディングではストロークで盛り上げはしない。あっさりとコーダへ着地、一声うなる。すぐさま無造作に次の曲へ。ときおり無邪気な笑顔を見せ、客席へ軽く頭を下げた。
前半セットは35分程度。10曲ほどやったろうか。あっというまの濃密なひととき。
休憩時間も20分ほど。すぐに後半へ。譜面台は片付けて、後半セットは馴染みのレパートリーだったようす。
まずはいきなり“夢は夜ひらく”から。幾人かの観客が、サビで歓声をあげて拍手。
三上は軽く目を閉じ、いくどもマイクへ吠えかかった。
ちなみに今夜の観客はベテラン・ファンっぽい人から若い男女まで。どういう客層だろう。
後半セットもしゃべり無し。どしどし曲を続けた。後半も10曲ほど。“五百子先生と山羊”などをやった。
こんどは若干、ギターの役割が多い。しかしメロディは殆ど奏でず。勢い良く左手で音をグリサンドさせ、隙間多いフレーズをランダムに鳴らす。
中盤での“Thirteen”が嬉しかった。メロディラインがすっかり解体されており、驚いた。せわしなく言葉を続け、メロディは残骸のみ。全編が語りっぽくアレンジされていた。ずっしり粘っこい。ときに旋律も消え、ギターすら弾きやめる。性急に言葉だけが叩き込まれた。
後半はトシも知った曲が続くのか、よりビートが複合的に絡んだ。4曲目あたりではギターのリフと、ばっちりユニゾンでドラムが響く。
歌の合間に立て続けなロールが轟く。フロアタム横の小さな鉄板シンバルが厳しく鳴った。しかし叩きっぱなしじゃない。場面によってはじっと手を休め、静かに三上へ耳を傾けた。
ステージが進むにつれ、三上の歌声は力を増す。不条理でありふれた言葉の連なりが、散文詩となり空気を舞う。トシがいくどもドラムを激しく叩き、歌に負けじと音をばら撒いた。
2人の相乗効果が、ますますあたりを濃密に塗りつぶす。
最後まで怒涛のステージ。キャリアを重ねた者同士の凄みを見せつけた。
最後に軽く、CD手売りの紹介。もぐもぐとトシを紹介し、大きな拍手を背に笑顔でステージを去った。トシも三上へ向かって手を振り、にやりと笑って店内奥へ進む。
後半も約10曲。40分程度。全体的に時間はかなり短いライブだった。
しかし凝縮された歌たちと、猛烈な存在感が圧倒的。背中を押されるパワーがにじみ出る。ずぶずぶと三上節の沼へ踏みこむ、熱気のこもったライブだった。