LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/12/28  大塚 グレコ

出演:黒田+小森
(黒田京子:p、小森慶子:cl,ss)

 今年2回目なデュオ。実は夏にも予定されたが黒田の体調不良で中止、吉野弘志がピンチヒッターとなった。
 1月のライブがとても興味深かったため、わくわくと聴きに行った。

 グレコは初体験。カウンターがメインで、他にテーブルがひとつ。民家の一部を改装か。サロンのような落ち着いた雰囲気だった。
 そっとグランドピアノの横へ小森は立つ。

 まずクラリネットの無伴奏ソロ。おっとりとライブが始まった。
 黒田は顔を伏せて聴き入る。クラのアドリブが高まって、黒田はふっと鍵盤に指を落とした。

<セットリスト>(不完全)
1.メモリーズ・オブ・ユー
2."?(ショーロ)"
3. "?"
4.ホルトノキ
5."?(ルイ・スクラヴィスの曲)
(休憩)
6.即興
7.チキン
8.おさんぽ
9."?(ショーロ)"
10."?黒田/小森の合作"
11.セルフ・ポートレート・イン・スリー・カラーズ(?)

 今夜は二人ともPA無しで臨んだ。
 (1)の冒頭はクラリネットを前面に立てる。ピアノのタッチが素晴らしく柔らかかった。綿でほっこりとくるむように、粒が丸く響く。音量もかなり抑え目。
 ピアノのソロへ切り替わると、ボリュームがくっと上がった。ころころ音が弾む。
 クラリネットはさりげなくオブリを吹いた。ラストは4バーズ・チェンジで締めたかな。

「有名なスタンダードで始めてみました。今日はようこそ」
 黒田が挨拶する。

 2曲目は小森が最近、親しんでいるというブラジルのショーロの曲。聴いたことある。ただ、タイトル失念。パーカッショニストの観客がいたため、二人はしきりに「ショーロらしくないけれども」と、照れていた。
 編成がピアノ+クラリネットとシンプルなせいか、よりアグレッシブなノリが提示。あわせてスパニッシュに通じる情熱も感じた。
 
 冒頭では複雑なアンサンブルが変拍子っぽく響く。
 やがて明確なメロディをクラがつかみ、くるくるとテーマを繰り返した。高速フレーズがスピーディに駆ける。鍵盤の上から下まで使い、軽快にころころと弾む音がきれい。
 ピアノはリフのアクセントやフレーズを滑らかに変え、音楽の表情に深みを持たせた。
 ビーッと一音伸ばし、くっとメロディへかぶりつくフレーズが心地よい。

 前髪をぱらりと左目にたらす小森は、ひときわステップを華やかかつ多彩に踏む。音像にあわせ体ごと前後左右に動いた。ヒールを履いた足が床を刻む。
 楽器がマイク位置に影響されぬ、生音ゆえの楽しいパフォーマンスだった。

 ソプラノサックスに持ち替えた3曲目。曲紹介したかな?即興にも聴こえた。
 音色はとてもメロディアス。おちついたフリーで、サックスが輪郭はっきりと旋律を吹く。
 甘い幻想風味のサウンドを二人は奏でた。とても聴き応えあり。

 黒田京子トリオ、ホール・ライブで初演の"ホルトノキ"を次に。クラでなくサックスを選んだのが意外。
 途中から加速するテーマが複雑な曲。確かなテクニックで華麗に奏でた。 
 中間で5拍子リフの繰り返しも、この曲かな?
 叙情性漂うムードのなか、ソプラノがぱあんと突き抜ける。ピアノは懐深く受け止め、繊細なタッチで響いた。この日はピアノの特殊奏法なし。たまにボディをリズミカルに叩く程度。どの旋律もスケール大きく穏やかで暖かく響いた。

 1stセット最後はルイ・スクラヴィスの曲で、タイトル不明。アップテンポで複雑な構成だ。小森はクラを吹いたっけ?
 いずれにせよチューニングやリードのコンディションにかなり気を配っていた。この曲じゃないかもだが、演奏途中でリードを素早く取り替える姿が記憶に残ってる。
 吹きながら左手をふわりと宙に広げ、オープンで吹く奏法もそこかしこで見れた。
 黒田も鍵盤を叩いた指を、優雅に舞わす。約1時間のセット。


「あ、暗くなった」
「そろそろやりなさいってことね」
 休憩時間がしばらくたち、客電が無造作に落ちた。二人は微笑みながらステージへ戻る。

 後半一曲目は決めてたようだが、気分じゃないらしい。逡巡する。黒田の提案で、フリーから始まった。
「何で今日は、こんな気分かな」
 つぶやいて、黒田はそっとピアノへ指を落とす。小節感を希薄にした、ミドル・テンポだったろうか。
 前半は静かにメロディがつむがれた。小森がきっちりとメロディを提示し、次第に変奏へ。クラとソプラノを持ち替えたのがこの曲かな?
 中間でブレイク、アップテンポで押した。フリーキーなバトルまで行かない。あくまでも優美さを保って二人の音が対峙、アンサンブルとしてまとまった。

 続いてカーラ・ブレイの"チキン"。これが2ndセット最初の予定だったらしい。
 ソプラノでフレーズを小森は次々叩き込む。鶏の鳴き声をさまざまな音階やフレーズで表現。さらに片足立ちで吹いた。
 テンポは速め。この曲は初めて聴いたが、ディキシー調なフレーズやアレンジがユニーク。ぐいぐい押しても、どこか軽やか。フラジオもちらりと小森が見せたが、上品さは常に残った。
 ピアノがさりげなく取ったソロがきれい。テーマでは勇ましく左手が鍵盤を叩き、グリサンドも差し込む。

 黒田の曲"おさんぽ"は、静かにピアノを響かせながら、黒田が散歩の様子を幻想的に語る。合間にクラのカウンターがはいる。たまたま譜面台にぶつけてしまい、
「楽器は大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
 と、語りの世界観そのままな、やり取りが面白かった。
 やがて二人のアンサンブルが深まる。低音やリズム楽器が無いゆえの、重心軽いアンサンブルが見事にはまった。

 ショーロをもう一曲。こっちは聞き覚えない。やはりアグレッシブに。複雑ながら滑らかな旋律を、くるくると小森が奏でる。
 ピアノはユニゾンから変奏、カウンターからバッキングと、多彩な表情を見せた。
 小森のステップがますます激しくなる。もはや踊りながら吹いてるようだ。体を大きく曲げると、イヤリングがはらりと揺れた。

 クライマックスは黒田と小森の合作。1月のin-Fでも演奏されたはず。一曲が"天国への階段"ってのは覚えてるが、もう一曲のタイトルがうろ覚え。
 きらびやかなタイトルのためか、「タイトル言うのやめましょうよー」と小森が苦笑。

 厳かな響きから、勇ましく。たらしてた前髪を上げ、小森は両目を見せて譜面を眺めた。下から斜め上へ、吹きながらぶんぶんサックスを振り上げた。
 音位置がパンニングのようにスライドするのが効果的。最後にぽんっと、小森は両足をそろえて吹き終える。

 ここで終わりと思ったら、アンコール風にもう一曲。たぶん、ミンガスの"セルフ・ポートレート・イン・スリー・カラーズ"。
 ピアノの響きが優しくあたりを包む。ロマンティックさが圧巻だった。前曲のドラマティックな世界観をそっとなだめ、幕を下ろすように。

 前回のライブでは構成力強い展開の印象あったが、今夜はバラエティに跳んだ選曲。
 さらに次への一歩を意識する緊張や実験も伺わせた。先鋭と優雅さを併せ持つ、意欲的なステージ。
 年に数回、デュオは続くという。アンサンブルはさらに多彩になりそう。次も楽しみ。

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