LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/11/22   大泉学園 in-F

出演:翠川+早川+太田
 (翠川敬基:vc、早川岳晴:b、太田恵資:vln)

 生弦楽三重奏のセッション。この組合せは初だそう。意外。まったくリハ無しでライブへ臨んだという。
 "楽屋"から翠川と太田が帰ってきた。カウンターの隅で文庫本を読む早川が、本を閉じる。
 そして3人は、ステージへ向かった。

<セットリスト>
1.Izmir
2.Bisque
3.Tao(オータバカ)
(休憩)
4.Tango
5.Menou
6.Hinde2
7.アグリの風
(アンコール)
8.Seul-B

 早川の曲(4)を除き、すべて翠川の作品。緑化計画のレパートリーを並べた。
 まず、緑化の譜面集が太田へ渡される。
「これ、saxって書いてある。片山さん用の譜面ですか?」
「そそ。開くと酒臭いでしょ」
 そんなのんびりしたやりとりで、ライブは始まった。

 太田は過去に何度か緑化計画へ参加した。最新の参加が04年5月、アケタの店30周年の緑化特別編成以来か。しかし曲によっては譜面をじっくり見ながら弾く。
 ウッドベースのみで演奏した早川は、余裕綽々。
 (1)や(3)、(7)あたりでは譜面を後ろへ片付けて、何も見ずに弾いていた。

 まず、チューニングから。翠川が基音を出して二人がそろえる。ひとしきり調整が終わったところで、
「一曲目、"チューニング"をお届けしました」
 にやりと翠川が笑う。
「N響アワーみたいだな」
 早川がつっこみ、すかさず太田がクラシックを一節弾いて笑った。

 "Izmir"は探りあいな雰囲気で始まる。全員が弓弾きで土台を作り、バイオリンがテーマを奏でた。ソロ回しはせず、誰かがアドリブを取っては受け継ぎあう。
 太田と早川が互いを伺うように繰り出した。
 翠川は目を閉じ、泰然と自然体で奏でた。

 続く"Bisque"が今夜のベスト。とにかく、素晴らしかった。
「もともと弦楽三重奏をイメージして作曲しました。つまり、今夜の演奏がオリジナルになります」
 翠川が、ぽつりとつぶやく。

 呼吸を合わせ、ゆったりと弓弾きで音が重なる。静かに、ふくよかに。
 3つの弦が重なる緊張と寛ぎが提示された。
 太田がテーマを奏でる。翠川と早川はバックへ。翠川はひときわpppで弾いた。
 耳へ届くのは、バイオリンとコントラバス。しかし耳を澄ますと、たしかにチェロがいる。
 そんなバランスが、とても美しい。

 アドリブではフリーに展開、僅かにテンポが上がる。メロディアスな展開ながら、テーマの世界観を引きずり、上品さが残った。
 早川がリズムをぐいっと操る。勢い良く弦をはじくととたんにグルーヴが産まれた。
 最後にもう一度、テーマへ。10分以上演奏してたはず。とはいえ、もっともっと音世界に浸りたかった。

「"オータバカ"って曲をやろう」
「なんですか、それは・・・譜面に書いてある」
 翠川の提案に、太田が戸惑って譜面を覗き込んで苦笑する。
「これって書いたの、太田の字だろ?」
「・・・うーん、良く似てる」
 早川が筆跡を指摘した。真相は不明ですが。
 この"TAO"のサブ・タイトルは何年も前から、たまに使われる。何がきっかけなのやら。
 特に太田が弾きこんだ曲ではなさそう。譜面へぐっと視線を投げ、丁寧に音符を追っていた。

 緑化ではブルージーな4ビート・ジャズのイメージあるが、ここではぐっと内省的なアプローチをとった。
 リズミカルながら、根本でメロディを志向する。
 太田と早川が目線で音量を落とし、おもむろに翠川がチェロでアドリブを膨らませたのは・・・ここだったろうか。
 翠川は絶好調。フラジオをばら撒く一方で、ふくよかな旋律のソロもたんまり。

 前半は約45分。後半セットは早川のオリジナルから始まった。
 まずは早川と翠川でイントロを作る。奔放にわたりあう。
 早川はさりげなく、高速フレーズの即興でサウンドを引き締めた。

 テーマは太田と翠川が同時に奏でる。早川のリズミカルなバッキングを踏まえ、オクターブ違えた音域で二人が弾くテーマが、しみじみきれい。
 アドリブは自在に動く。バイオリンだけでなく、3人が次々に即興を展開。
 この1曲だけで20分近く演奏な気が。

 続いて"メノウ"。この編成で聴きたかった一曲のひとつ。嬉しい。
 白玉で3人がアルコ弾き。この曲では早川も、ほぼ全て弓で演奏したと思う。
 早川と翠川のボウイングが同期するシーンもしばしば。スケール大きく音符を連ねた。

 今夜は翠川や太田もほぼ、アルコで弾く。たっぷりと響く弦の音色に、うっとり浸った。
 アドリブの途中で翠川がなんとなくグリサンド。太田があわせてグリサンド。そのまま掛け合いに。
 しまいに早川も加わって、3人の愉快なグリサンド合戦が始まったのもここか。
 
 なお今夜はアンプを使わず。それでも早川の音は、大きく響いた。
 太田はマイクでアコースティック・バイオリンを拾う。リバーブは大きいが、マイクの位置が遠め。したがって、より生楽器三重奏感が強調された。
 前半はバイオリンに弱音器をあて、後半でははずして演奏。
 アコースティック・バイオリンのみで弾き、ボイスやパーカッションも一切無し。後半でちょっとボディを叩いた以外は、ピチカート奏法も控えめ。ひたむきに弦を弓で奏でた。

 翠川は旋律に軸足を置いたアプローチ。ボディを叩くシーンが僅かにあった程度。
 額に汗がにじむ。目を軽く閉じ、どっしりと構えて旋律を駆使する。
 ときおり指や目線で展開を軽く指示した。

 しっとりと"メノウ"が終わる。次の曲選びで、翠川はじっくりと譜面を繰った。

 最初は"Hinde Hinde"を告げた。ピアノがいないとつらいかな、とつぶやきながら。ところが早川が譜面を見て首をひねる。
 弾き覚えが無いそぶりで、そのまま試し弾きを始めた。
 苦笑した翠川が譜面集で隣のページにあるらしい、"Hinde 2"を提案。早川は"Hinde Hinde"の演奏を提案したが、流れで"Hinde 2"が選ばれた。

 イントロはバイオリンとチェロのデュオから。
 ヒンデミットのモチーフで翠川が作曲した。和音が奇妙な響きで成立し、弦が三様に動く。不安定な音像が優雅に漂った。
 この曲でもほぼ全て、早川はアルコ弾き。
 中盤のアドリブでは太田がクラシックを弾き出す。笑みを見せつつ、翠川はチェロを弾きまくった。

 最後は"アグリの風"。譜面が見つからないらしく、太田は繰りながら百面相。
 早川がすでにイントロを弾き出す。
 やっと見つけた太田が満面の笑みを浮かべ、笑いを呼んだ。
 
 ベースを基調にチェロが小刻みにリフを取る。バイオリンは譜面を見つつも、譜割はゆったりと。フレーズ冒頭は軽やかに切らず、スラーでつなげた。
 パーカッションのいない編成なため、キメは鋭さの中に穏やかさも。
 翠川がたっぷりとアドリブをとったのもここか。
 最後はにぎやかに幕を下ろした。

 アンコールの拍手が続き、選ばれた曲が"Seul-b"。これもこの編成で、ぜひとも聴きたい曲。嬉しかった。
 黒田京子トリオで、緑化計画でなじみのレパートリー。
 翠川を媒介に、それぞれのバンドで演奏してきた早川と太田が、この曲を3人でどう料理するのか、とても楽しみだった。

 音がぐっとリラックスして聴こえたのは気のせいか。
 即興がゆったりと動く。
 3人のアドリブも存分にあり、アンコールにもかかわらず10分くらいかけ、たんまりと演奏してくれた。堂々たる幕引きでライブを飾る。

 自由闊達な音世界が、がっしりとまとまった。中央で悠揚とかまえた翠川の存在感も欠かせない。
 次のライブが早速決まった・・・のかな?
 さまざまなアプローチが可能な3人なだけに、このユニットもぜひ継続して欲しい。

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