LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/8/11  大泉学園  in-F

出演:小野麻衣子G
 (小野麻衣子:ds、John Beaty:as、Joe Beaty:tb、佐藤文子:p、座小田諒一:b)

 小野麻衣子は04年の大晦日、アケタの店で深夜セッションで聴いた記憶ある。
 唐突に現れ、さっと叩いて去った。ベテランぞろいのセッションの中、ぱっと若手が登場したのが珍しくて。いつかきちんと彼女の音楽を聴きたかった。

 それが、今夜。今はNYへ勉強に行っているようだ。ベース以外は向こうでのバンド仲間かな?ベースのみ、今夜のために参加したメンバーらしい。
 もっとも小野と佐藤文子(p)、座小田諒一(b)は、今週末に別のライブハウスをミニ・ツアーするとか。

 20時をまわったころ、無造作に始まる。ドラマーがリーダーなためか、上手ちょっと前にドラムを置き、ウッドベースは一歩さがった配置。
 おそらく全員が20代では。若手のジャズを聴くのは久しぶり。
 全編通して、真っ当なストレート・アヘッドのジャズだった。すなわちアドリブの後に、きちんと拍手が起こるかっこう。
 ちょっと予想違い。NYジャズなら、もう少し過激なフリーもあるかと思ってた。
 
 アルト・サックスが無伴奏で短いアドリブ。スパッとアンサンブルに入った。
 音楽学校で集まったメンバーかな。全員のテクニックはしっかり。安定してた。

 小野のドラミングは手首を利かせ、ライド・シンバルを叩く。ハイハットは踏むのみ、ほとんど叩かない。
 一枚置いたクラッシュも同様。でかい炸裂は、まず無い。たまにスティックで鳴らしても、クラッシュの上へ載せるよう。
 さらにライドは4ビートを刻んでも、しきりにアクセントが前後する。

 小刻みに叩き方を変え、ひねったビートを提示した。カップやエッジを叩きわけ、ライドの響きを頻繁に変えてメリハリつける。
 テンポはジャストで、フィルは少なめ。ときおり、タムを混ぜて拍の後ろを飾る。あれが彼女のスタイルかな。

 フロントに立った双子の2管が目立つ。ヒゲもじゃのジョン・ビーティ(as)は、力強くサックスを軋ませた。前半はさほどフリーク・トーンを使わず。
 ほんのり濁った音色を個性に、アグレッシブに吹いた。

 ジョンを動とすれば、ジョー・ビーティ(tb)は静か。マウスピースを左手人差し指で、きっちり押さえる癖が目にとまる。
 めまぐるしいフレーズ作りになると、ちょっと音の粒の輪郭が甘いが、こちらも早いアドリブを多用した。

 ソロはほとんどビーティ兄弟が取る。どれも長尺でつるべ打ちなフレーズを吹きさって、次へ譲る構成だった。ジョンが軽くハンドキューを送ってソロを受け継ぐシーンが多いか。

 1曲づつ小野がタイトル紹介するが、メモを取りそびれたためセットリストは割愛させてください。ごめん。
 冒頭はジャズメンの誰かの曲、佐藤(p)のオリジナル"Not yet"を挟み、ジョー・ヘンダーソンをやったと思う。
 2曲目と3曲目はメドレーでつながれ、ちょっとしたドラム・ソロ。ロールを元に、ひとひねりした。

 今夜はベースはアンプを通す。ほかは全て生だが、フロント二人のボリューム大きいため、ピアノは蓋を大きく開けても音量の不利は否めない。
 彼女も同じNYの学生なのかな。流麗なピアノだった。ときおり右手だけで鍵盤を叩てメリハリをつける。

 ソロは毎回取らない。かといって、伴奏に徹するようでもない。
 微妙に自己主張を織り込んだピアノ。後述もするが、もう少しインタープレイあったら、ぐっと魅力が増すと思う。他のメンバーがどう動いても、彼女のピアノは凛としたまま。かっちりと世界を作った。

 ベースはアンプを通しても埋もれ気味。座小田の指は素早く弦をはじき、ウォーキングを主体にしながら、着実にビートを刻んだ。小野がリズム・パターンをいじるぶん、彼のベースが底になってたかも。
 ソロの回数も少なく、トラで参加した印象だった。

 後半2曲はショーターの曲。"ネフェルティティ"と"マスカレード"のはず。
 "ネフェルティティ"はドラムを前面に出したアレンジ。2管はソロを取らず、テーマを吹くのみ。ときおりテンポを変えて。
 ドラムが常にフィルを入れ続けた。あのアレンジは面白かったな。

 休憩後、最初はコルトレーンの"ジャイアント・ステップス"。ジャズ学校でどう評価されてるか知らないが、こういうコード進行が複雑(らしい)曲は、好んで取り上げられそう。
 テンポは速め。全員が涼しい顔でテーマからアドリブへ向かった。テーマの最後で2音ほど、音が付け加えられてた気がする。だれのアレンジかな。
 小節数の関係かテーマの最後で一瞬、つんのめるようにビートが止まるのが違和感あった。

 アドリブは全員が顔を真っ赤にして弾き倒し、手を休めない。2管はここぞとばかりにフレーズをばら撒く。アグレッシブに音で埋め尽くした。メロディよりもスピード優先か。かといってフリーク・トーンでノイジーな路線に行くわけでもない。
 後半こそサックスのフリーキーな音が増えたが、基本スタンスはあくまでストレートなビバップ・ジャズだった。60年代後半ってイメージがしたな。

 佐藤のピアノが軽やかに響く。和音と単音フレーズを使い分け、美しく駈けた。
 小野のシンバル・ワークは、むしろおとなしめなくらい。テンポは速かったが。

 続いてジョン・ビーティが書いた"マイコ"という曲。小野がテーマだという。
「だから可愛い曲だと思います・・・なぜ笑う」
 座小田を振り向き、口を尖らす小野。

 ほんのり日本風味が、最初のメロディ部分に漂う。複雑にメロディが2管で絡む。バラードといいつつ、けっこうテンポは速め。
 メロディを聞かせるよりも、コード進行の妙味を味わうような演奏だった。

 「誰でも知ってる映画の曲だから、タイトルは言いませんね。2曲続けてやります。最初は・・・『ハ』ふぐっ」
 思い切りタイトルを読み上げかけ、慌てて堪える小野の仕草がかわいかった。

 曲はダイナミックで、2管の響きが複雑に絡む。ピアノが大きく鳴り、スケール大きく展開した。ジャズに似合うなあ。
 「座小田くんは知らなかったそうです。こんな有名なのに。何で?」
 小野がからかっていた。まあ、有名なんだろなあ・・・"ハリー・ポッターのテーマ"って。すまん、ぼくも初めて聴きました。

 続けて演奏された佐藤の曲が、今日のクライマックスか。
 硬質で美しいフレーズが揺られ、構築する。センチメンタリズムに流れない、背筋の伸びた曲だった。

 最後はジョー・ビーティのオリジナル。ハード・バップに盛り上がった。
 アップ・テンポでガンガン突き進む。ホットなアドリブが連発され、観客から大きな拍手が飛ぶ。

 熱気に文句ないが、インタープレイも欲しかった。4バーズやチェイスとか。それだけのテクニックはあるはず。
 次々のソロ回しがもどかしい。ホーン隊はカウンターやオブリ無し。ドラムやピアノも誰かのソロに反応して、明確に演奏を変えるスタイルとは違った。

 セパレートされたブースでのレコーディングを見ているよう。ソロの途中でいきなり音を止めても、たぶんピアノやベースは演奏が止まらない。
 それぞれが個性を持った演奏で、単なるバッキングじゃないから。

 有機的に音が絡み変貌する即興スタイルが好みなぼくと、彼らの音楽志向が違うだけだろう。ぼくは理不尽な要求をしているんだろうな。
 念のために繰り返しますが、演奏はスピード感あって爽快でした。文句はありません。

 アンコールの拍手は止まない。ジョー・ヘンダーソンの曲を選んだ。
 これもけっこうなアップ・テンポだったと思う。しゃっきりとシャープに、テンションを落とさず突き進んだ。

 20代のミュージシャンがこういう音楽やるんだ。面白いな。
 ジョン・ビーティのパワフルさが強く印象に残る。彼はがんがん名を上げそう。
 小野らの活動は今、NYが中心のようだ。次の帰国は冬か夏の休暇時期らしい。これからキャリアを重ね、どう音楽が発展するのか、楽しみだ。

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