LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2006/3/24   入谷 なってるハウス

出演:川下直広トリオ
 (川下直広:ts,harm、不破大輔:b、岡村太:ds)

 メンバーがステージへあがり、照明が落とされる。ステージがうっすら照らされた。ウッドベースを構えた不破がチューニングを始める。
 かまわずに川下がテナー・サックスを、わずか軋ませ吹いた。

 フリーなイントロが膨らみ、ベースとドラムが加わる。
 そして、テーマへ。見る見るフェイクされ、果てしない川下のソロに展開した。

<セットリスト>(不完全)
1.梅六個
2.股旅
3.ナポリタン
(休憩)
4.ヨーロピアンズ〜?〜
5. ?
6.至上の愛(第二楽章)
7.ニュー・ジェネレーション

 岡村はドラムを叩きのめし、不破がじっくりベースを唸らせる。むわっと熱いグルーヴは厚く膨らみ、一気に音楽へ引き込まれた。
 リズムのテンションで曲調をがらりと変える。"梅六個"ではハイテンポでタムを中心、ハイハットはほとんど使わない。

 暖かいジャングル・ビートなドラムが、演奏へ親しみやすさとハイテンションを同居させた。グイグイ前のめりに走り、時に裏を食ってリズムの頭が三人三様に聴こえる。
 フリーだが、不破の確かなビート感がぐいっと演奏をわしづかむ。強固にまとめた。自由にベースはフレーズを動かしても、根本のリフはかっちり揺るがなかった。

 ひとしきり吹いて、川下はスッとステージを降りる。岡村がひときわ大きく叩きまくった。
 テーマのメロディを思わせるリズムで、連打なのに歌心溢れるかっこいいドラム・ソロだった。

 2曲目は唐突に川下が"股旅"を吹きだした。大編成で聴き慣れ、一管ではちと寂しい。不破はテーマの冒頭小節には少々捻ったフレーズで対応し、後の小節できっちりサックスと絡む。
 岡村はびしりとコーダを決めて、サックスをあおった。

 川下がやめない限り、ずっとソロを受け持つ。時に循環呼吸を使い吹き続けた。
 ベースのソロへ切り替わると、不破はじっくりとメロディを連ねる。ドラムがビートをキープする上で。
 やがて低音の白玉で次の場面を促す。ドラムがあわせ、ステージ袖で休んでた川下は、テナーを構える。
 そのまま細いロングトーンから再びテーマへ戻った。

 1stセットの最後は、たぶん"ナポリタン"。曲をきっちり決めずに川下が吹き始めたか。フリーなサックスのイントロを伺うように、岡村はマレットで静かにドラムを叩く。
 テーマが明確になると、ぐっと3人の演奏は味が濃くなる。マレットを使ってコミカルなリズムをキープする。川下のサックスは、テーマを行きつ戻りつ、みるみるフェイクした。

 舌を巻いたのがドラム・ソロ。マレットでタムを回し、時に打面をスティックでミュートしながら、もう一本でスティックそのものを叩く。
 とにかくメロディアス。ビートがきっちり歌って、べらぼうに小気味良いソロだった。

 ドラムソロの時に、不破はタバコへ火をつけた。アンサンブルに戻って走ったとき、ふっとタバコをアンプの上へ置いた灰皿に投げ入れる。
 目測誤り、吸殻が横へこぼれる。ウッドベースを弾きながら、強引にアンプを踏みつけ、タバコを消す。
 ガラムの匂いが、ほっと客席まで漂った。目ざとく見つけたか、岡村はにやり笑ってドラムを叩いてた。

 前半は約1時間。残念ながら客席は4人のみだったが、ものともせずに熱い演奏を繰り広げてくれた。
 短く休憩を挟んだ2ndセットは、おそらく全てカバーを演奏した。オリジナルでまとめた1stと対照的。そして2ndのほうがどちらかといえばしっとりしてた。

 大きなハーモニカを構え、しみじみと旋律を紡ぐ川下。無伴奏で切々と鳴る。ぐっと来た。
 テナーへ持ち替え、カークの"ヨーロピアンズ"。ごく滑らかにドラムとベースがかみ合った。
 岡村は最初にブラシ、途中でスティックと交互に使い分ける。冒頭はブラシでシンバル中心に刻んだ。クラッシュやライドをブラシで挟み、小刻みに揺らす。
 
 ハイハットはほとんど叩かず、足で鳴らした。サックスがアドリブを切なく吹く中、二枚のハイハットがじわじわ近づく。軽い音を立てて、重なった。
 サックスのメロディが寂しげに奏でられ、ぐっと来た。1stセットの昂揚はなだめられ、悲しいムードに包まれた。

 ベース・ソロも長めに演奏された。不破はがっちりとアンサンブルをまとめているが、ほとんどソロを取らない。テナーと絡むフレーズそのものが、すでにソロみたいだ。とはいえきっちりとソロの位置づけで、たんまりとソロを聴けるのは嬉しかった。

 最後は川下の無伴奏ソロ。おもむろに不破と岡村がタバコへ火をつける。
 曲名は不明だが、聴き覚えのあるスタンダード。メロディを熱く語り、アドリブで膨らませて、またメロディへ。
 飾りっけ無く、猛然と川下はテナーを吹いた。
 
 2曲目は聴き覚えあるが、タイトルが思い浮かばず。アップテンポのモダン・ジャズ風に捻ったメロディだ。マイルスかコルトレーンあたりの曲だろうか。
 軽やかにドラムとベースが弾み、サックスは複雑なテーマをフェイクさせつつ吹いた。

 演奏中に誰も何も喋らない。たまに視線が飛び交うくらい。
 しかし3曲目の前で、川下がなにやら不破へ話しかけた。笑いながら答える不破。
 鋭く川下がコルトレーンの"至上の愛(第二楽章)"を、高らかに吹いた。
 さらにバンドのテンションが上がる。川下は額に幾筋も汗を滴らせ、ひたむきにテナーを吹き倒した。
 3人のアンサンブルが緊密に決まり、ここぞとばかりに押し寄せる。

 最後はアイラーの"ニュー・ジェネレーション"。イントロをサックスが提示すると、不破も岡村もにやり笑って応酬した。
 ドラムが派手に鳴る。すでに岡村は汗みどろ。顔中を汗で光らせ、力強くスネアを高速連打した。
 アンサンブル全体と4バーズ・チェンジで切り替えしながら、どんどんドラムが強く鳴る。
 派手にコーダを決めて、びしっと2ndセットの幕を下ろした。

 3人のアンサンブルは強固に締まり、独特のほのぼのした味わいで滲み出す。岡村のドラミングへ、今日は特に耳が行った。
 ベースはどこか川下をたてるような、遠慮を感じた。もっと激しく、高速であおるベースも聴きたい。
 そしてサックスは今日もひたむきに響いた。軋む音は1曲目の途中からきれいに消え去り、野太く勇ましいアドリブにやられた。
 
 とにかく三人がアンサンブルで走ったときの空気が格別。たまに川下がフラジオを使うくらいで、基本は三人ともストレート。小細工無しに正統な奏法で迫る。
 余裕たっぷり、しかしスリルは常にある。
 明日の上野水上音楽堂でも、彼らは演奏するようだ。こじんまりしたクラブでのみ、彼らのライブを聴いてきた。あのでかい屋外スペースで、どう川下トリオは響くんだろう。楽しみ。

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