LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2006/1/17 大泉学園 in-F
出演:黒田+小森
(黒田京子:p,acc、小森慶子:ss,cl,b-cl)
約一年半ぶりに演奏するというダブルKK・デュオ。フリージャズを漠然と予想したが、かなり違う。もっと物語性を持った、器楽アンサンブル志向だった。黒田京子と小森慶子、どちらの嗜好だろう。
MCはほぼ全て小森がとるが、立場は対等なセッションに聴こえた。
この日は全曲が、奏者のオリジナル。小森の作品ははじめて聴いたが、管のが心地よく鳴るメロディが素晴らしかった。
音色も素敵。硬いリードなのか、音がぱあんと前へ出る。硬質なサックスが小気味良い。クラリネットも含め滑らかな音色が基調。さらにバスクラでは、ワイルドに音飾を軋ませた。
1stセットは「森シリーズ」と銘打ち、小森の曲から幕を開けた。先日、芝居向に書き下ろし曲だそう。センチメンタルなメロディが店内へ広がる。
黒田は惜しみなくアドリブの時間を小森に与える。実際は中盤がアドリブだろう。しかしひとつながりの印象が強い。
テーマからエンディングまで、スムーズに音が紡がれる。まるで全てが書き譜みたい。
バッキングっぽく弾いてても、黒田のピアノは一筋縄じゃ行かない。どこか、ひねる。
中盤で小森は小節線をまたいだアドリブをクラで次々と展開。黒田もテンポは一定ながらアクセントの位置をずらし、幻想的な世界を作った。
続く黒田の曲"おきな草"では、黒田のロマンティックな世界へ一転。小森はソプラノ・サックスへ持ち替えた。今夜は全て座って吹いた。身体をぐるぐる回し、メロディへ想いを込める。
左手を泳がしオープンで吹く得意の奏法も、もちろん登場した。
ピアノの音世界が、優雅にみるみる広がる。デュオのためか、黒田が聴きに回る場面は少ない。ほぼピアノは鳴り続ける。小森はアドリブを黒田へ渡したときは、静かなオスティナートで支えたたと思う。
中盤でバスクラに持ち替えた小森は、とたんにワイルドな展開に。ここまでダウンビートを意識しない音楽だった。ところが小森がバスクラを豪快に吹くと、とたんにジャズっぽく塗り変わる。
黒田京子トリオで聴いた黒田の曲、"おさんぽ"も演奏された。
冒頭は3拍子、アドリブで4拍子へ変わる。柔らかなクラリネットの演奏は、穏やかな柔らかさを演奏へ与えた。
前半は5〜6曲やったろうか。どの曲だか失念したが、黒田が聴きに入ったとき。ペダルを踏みっぱなしなのか、クラがピアノのリバーブ使ってしみじみと響くのは、極上のひとときだった。
前半最後の曲は、小森と黒田の作品をメドレーで。
発見の会へ小森が書き下ろした曲と、トランクシアターへ黒田が書いた曲を繋げた。アップテンポで盛りあがった。
どの曲もテンポはほぼ一定。間を取ってリズムを揺らがせても、がむしゃらに突っ込まない。互いの演奏に反応はするが、破壊しない。
ピアノが世界を広げ、管が羽を伸ばす。おっとりと上品なサウンドがたおやかに築かれた。
後半セットはギアが一段上がった感覚。音の色合いは変わらないが、熱気が一味濃くなった。
イントロはクラの無伴奏ソロ。聴いていた黒田は鼻歌を歌いながら、おもむろに立ち上がる。アコーディオンを構え、ふくよかに蛇腹を広げた。
和音からメロディへ一体となって動く。すっと小森が一歩引き、クラで支えた。
バスクラの大活躍が、続く"ちょっとビバップ"。昨年末の黒田京子トリオで披露された曲。最初のサックスはパーカー風に。そしてバスクラへ持ち替えたとき、ばりばりと低音で強烈に突き進んだ。
豪快なフレーズを微妙にフェイクさせながら、バスクラが突進する。
ピアノも前のめりになって駆け抜けた。
テンションの高さと爽快感ではこれがベスト。アドリブの時間をたっぷりとり、存分にバスクラを堪能できた。
黒田もピアノをドラマティックに展開させる。ベース・ラインをバスクラが唸り倒す上で、めまぐるしく鍵盤が打ち鳴らされた。
新井田耕造バンド時代の、小森の作品も演奏された。タブラのリズム・パターンへメロディを載せた、って言ったろうか。テーマは変拍子なのか、鈍いフラジオが数音挿入され、拍子が途中でくきくきウネる。
アラブあたりのメロディをイメージした。これも疾走感溢れる快演だった。
最後は未発表な小森の曲に、黒田がメロディを付け加えたという新曲。
タイトルは"天国の階段"と言ったとたん、客席から笑いが漏れる。
「何でここで笑うかなぁ・・・。ツェッペリンじゃないですよ」
と、小森が苦笑した。
今日聴けたライブの集大成のような曲。とにかく和音の響きと乗っかるメロディの絡みが心地よい。
ピアノがクラスターのようなコードをゆったり乗せ、旋律とぶつかる。コード進行だけでなく、管のピアノ一音一音のからみかたが、とびっきり快感だった。
サックスとピアノのフレーズが、常にひとひねり。そのたびに複雑な響きが耳をくすぐる。どちらの旋律も器楽的に動く、極上の室内楽だった。
時間も押したため、残念ながらアンコールは無し。"20億光年の孤独"を、このデュオで聴いてみたかったな。クラリネットでピアノと切なげにからんだら、すごくいい演奏になりそう。
アレンジや演奏の細部まで神経のゆき届いた、丁寧なつくりの音楽だった。その上で即興の自由度は確保されている。
しなやかなアンサンブルを、たんまりと堪能した。またぜひ、やって欲しい。