LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2006/1/4 大泉学園 in-F
出演:黒田+翠川+太田+吉見
(黒田京子:p、翠川敬基:vc、太田惠資:vln、吉見征樹:tabla)
in-Fの口開けは黒田京子トリオ+吉見征樹のライブ。もっとも黒田トリオでなく、全員がフラットな状態のセッションだそう。
網膜剥離で年末は入院した吉見だが、なんと退院後に初のライブ参加。店内へ彼が姿を見せたとたん、観客から思わず拍手が飛ぶ。太田の登場がギリギリだったのと、吉見をいたわるメンバーの会話が続き、ライブはかなり押して幕を開けた。
黒田が口火を切る。いきなり"高砂や〜♪"とうなり出した。
誰もが音を出さず、黒田を見つめる。とうとうアカペラで黒田はワンコーラス歌いきった。オモチャの笛を軽く吹き、静かにピアノを叩く。
まず翠川が音を重ね、次第に全員が一つにまとまった。吉見は金槌でタブラをミュートさせ、音程を変えながらもう一つの指先で静かに打面をはじく。
音が高まり方で、黒田京子トリオとは別物の音楽だと感じる。吉見は病み上がりのためか、抑え気味のプレイ。しかし強靭なリズムを提示し、全体をドライブさせた。明確なビートに乗せ、太田のソロがトラッド風味で駆け抜ける。
黒田はピアノでスイングさせた。時にクラスターを交え、フリーなアプローチも。黒田トリオでは無い音塊だ。そしてアドリブは黒田から翠川へ受け継がれた。
前半セットは40分弱の即興を一曲。翠川が音楽を引っ張る瞬間が多かった。
場面ごとに太田や黒田は弾きやめて様子を伺う。しかし吉見のビートをがっしり受け止め、常に翠川は弾き続けた。
中盤でいったん音像が静かに鳴る。翠川はベース風のピチカートで音を継続させ、がらりと雰囲気を変えて即興を促した。
音世界はビバップとアラブ、ヨーロッパを行き来する。太田のメロディがイメージを膨らませた。吉見は基本的に4拍子。ある場面ではバイオリンが3拍子に切り替える。
ゆったりと音が流れたとき。チェロだけがかすかに響く。
タブラへ屈みこんだ吉見が、唐突に喋り出した。
自覚症状から網膜剥離へ至る経緯を、笑いを交え語る。黒田と翠川が喋りにあわせ、ドラマティックなSEを入れた。一節、翠川がブラームスのピアノ・トリオ1番の冒頭旋律も弾く。
ゆったりと即興へ雪崩れた。太田を巻き込み、吉見が喋り続ける。観客は大笑い。
「5番病室の吉見さん。すぐに部屋へ戻ってください。演奏などもってのほかです」
太田がメガホンを持って突っ込み、さらに笑いを呼んだ。
吉見はタブラからレクへ持ちかえ、猛烈に打ち鳴らす。
一気にテンションが上がり、エンディングへ駆け抜けた。
ふっと漂う空白。静まり返り、全員が互いの動きを伺った。視線が黒田へ集まる。が、黒田は微笑んでピアノを弾かない。
太田が一声かけ、前半セットは幕を下ろした。
後半セットも1本勝負。やはり40分くらい。冒頭は、誰が音を出すか探りあいに。しばし誰もが音を出さず、互いをうかがう。
「4人もいると、『誰かが演奏するだろ』って皆が考えますな」
太田がぼやいてみせ、大笑いになった。
「さっきは"高砂"を歌ったのに〜」
黒田が小さく呟き、ピアノを鳴らした。翠川がブルージーなピチカートで世界を膨らます。太田はタールへ持ち替え。軽快にリズムを刻む。ホーメイが静かに響いた。
マイクへ屈みこんだ吉見が、口琴をずっと鳴らし続けたのはここか。
後半も翠川が引っ張った感あり。額にいつしか大粒の汗をいくつも滲ませ、アンプを通さずダイナミクスを広げる。指にアルコにチェロを奏でまくった。
ピチカートでアルペジオを。太田もピチカートであわせる。くしゃくしゃとビニールを丸める音で、吉見が加わった。
いったんはリズミカルに盛り上がる。吉見はダルブッカの打面へ紐をつけたような楽器(なんて名前だろ?)を持ち、バチで軽快にはじく。行き来する高速アルペジオを、吉見は単弦楽器でキッチリ弾ききった。
黒田がその音列をなぞり、淡々とした世界へ誘う。
チェロはピアノの展開に合わせ、自在に音量をかえた。フレーズはキープしたまま。シンプルなフレーズを、ダイナミクスの変化だけで翠川ががっちり聴かせた。
アコーディオンへ持ちかえる黒田。ゆったりと広げ、和音とメロディを交錯する。弓を構えた太田は、微分音でソロを取り始めた。
翠川はフラジオから大きなビブラートへ。太田のメロディを引き受け、これまた微分音で、堂々たるソロを展開。
アコーディオンでは微分音が出ないと思うが・・・黒田もアラブ風味のメロディを弾ききった。ぐっと聴き入る。強烈なひとときだった。アコーディオンからピアノに持ち替え、黒田がソロをぐんと響かせた。
エンディングはやあっけなかったと思う。終わりを告げる翠川。
が、太田が「終わり損ねた」と言い出し、そのままアンコールを宣言。
黒田のリクエストで、吉見の口タブラから始まった。
「ひさしぶりで間違えた」
苦笑しながら、吉見の口タブラが続く。「網膜」「剥離」と言葉を織り込む。
「そろそろ入ってくれ〜」
吉見のぼやきに笑い、太田が弓を持つ。鋭角的なソロで切り込んだ。
黒田のピアノはスケール大きく響く。力強いアドリブが進んだ。
「ディンディン♪」
翠川はチェロを爪弾きながら、口タブラのマネをする。
「バカにしとんですか〜」
笑いながらレクを叩く吉見。翠川は大笑いしてピチカートを降り幅大きくしぶかせる。
「ディンナ♪」
ラストも翠川の一声で、コミカルにしめた。
吉見の復帰を労ってか、ユーモアいっぱいの演奏。スリリングな部分もどこかゆとりあり。しかし集中力は素晴らしく、全員がタブラのビートに乗って駆け抜ける瞬間は痛快だった。
満員の店内いっぱいに、4人の演奏が広がる。互いのアイディアが多彩に展開する、興味深いセッションだった。