LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
05/12/18 新宿 Pit-Inn
出演:Emergency!+板橋文夫
(芳垣安洋:Ds、大友良英;g、斉藤"社長"良一:g、水谷浩章:b+板橋文夫:p)
ピットインでの芳垣3daysの最終日。板橋文夫をゲストに迎えてEmergency!のライブが行われた。
板橋は最初から最後まで出ずっぱり。Emergency!単独でも聴きたいな、と最初は思ったが・・・板橋のあまりなはまり具合に、そんなことすっかり忘れてた。
客席は椅子がきれいに埋まって、後ろに立ち見もでるほど。
演奏が始まったのは20時をまわった頃。アンコールが終ったのは23時20分過ぎ。休憩を挟んだとはいえ、ゆうに2時間半。
とびっきりのグルーヴ大会となった。
<セットリスト>
1.Sing Sing Sing
2.Run &
Run
3.Better git hit in your soul
4.I saw a little
prayer
(休憩)
5.Re-boptism
6.Creole love call
7.The
infrated tear
8.Fables of faubus
(アンコール)
9.Good
night
「ベニー・グッドマンのバージョンへ忠実に演奏しました」
と紹介した(1)、オリジナルの(2)。両方とも20分くらいづつ。濃密なグルーヴがばら撒かれた。
最初はインプロから。芳垣は静かにタムの打面を擦る。
ぼくの席ではいまいちPAバランスのせいか、ピアノとベースが聴こえづらい。
しかし水谷のリフを軸に、次第に演奏が収斂していく。
斉藤が無造作に"Sing
Sing
Sing"のリフを一節奏でた。
がつん、とテーマへ。そしてアドリブに。シャープなビートはオリジナルの雰囲気を残すが、もちろん演奏はEmergency!流。ぐっとゴツく解体され、懐深いノリで迫った。
(2)では板橋も含めて、スタート&ストップをびしばし決める。
どの程度リハをやったか知らないが、板橋を奔放な立場へ置かず、アレンジに溶け込ませた位置づけは高く評価する。板橋がバンドの一員みたいだったもの。
もちろん板橋はフレーズも弾くが、ほとんどが鍵盤を殴りつけるようなプレイ。クラスターをふんだんに盛り込み、大迫力だった。
とにかく水谷と板橋のコンビがばっちり。ぶっとくしぶといジャズを聴かせる。シャープな芳垣のドラミングが、きゅっとサウンドを引き締めた。
アドリブでは大友や斉藤の、ディストーション効いたエレキギターをがっちり受け止めて、ピアノとベースでぐいぐいあおる。
最初から最後までひとつながり。ソロ回しもあるが、それ以前にアンサンブルの柔軟性にやられた。
「恒例なミンガスの曲を」
と紹介された"Better git hit in
your
soul"は、テーマでハンドマイクを使って、メンバー全員ががなりたてる。
社長はギターのネックをわしづかみに。もう一方の手でマイクを引っつかみ、すっくと身を起こして吼えた。
いったんチューニングをしたのはここだっけ?
社長のギターはべろべろにチューニングが狂っており、ぐいぐいペグをまわす。
「どうやって今まで、演奏してたんだっ」
メンバーは大うけだった。
静かにまとめたバカラックの"I saw a little
prayer"では、板橋のロマンティシズムが花開く。
ブラシで擦るドラムとベースをバックに、甘くソロを決めた。
どこか粘っこさが残るのが、Emergency!らしい。
軋む社長のギターに比べ、ブライトなトーンで弾く大友の音色が耳に残る。
最後はピアノのアドリブだったかな。水谷はウッドベースを弾かずに抱え込み、楽しそうに微笑んでいた。
休憩を挟んだ後半は強靭なビートにくわえ、アンサンブルの妙味が楽しめるシーン多し。
"Re-boptism"では、社長と大友のテーマの対話が聴きもの。
一音づつの交換を、大友がじらすようにタイミングずらした。幾度も、幾度も。
思いっきり調子っぱずれな音程で社長がぶつけたときは、笑いが漏れた。
セカンド・テーマへ一気に雪崩れる時は、テンポもガラガラ変えていた。全員の巧みなアンサンブルに引き込まれる。
エリントンの"Creole love
call"では、サウンドの豪快さがさらに増した。
ブルージーな世界を解体し、二本のギターが存分に唸る。
クラッシュがいつまでも静かに鳴り続けた。良く見なかったが、鋲つきシンバルを使ってたのかも。
アレンジでベストは、カークの"The infrated
tear"。
イントロでちょっと大友がカリンバを弾いたり、口に手を当てて音を出してたのもここ?
今日はオーソドックスなギターを弾いた大友だが、この曲で一気に音響的アプローチをみせた。
大友の手元は良く見えなかったが、音叉みたいなものでギターを弾いてたようだ。
超高音の響きが、ピットインを満たす。後半はPAバランスも改善し、聴いてて心地よい。
芳垣はスティックの腹でシンバルを擦る。音世界が次第に抽象化した。
切なく、鋭く。響く社長のエレキギター。
ドラムはビートを刻まない。大友のノイズを足がかりに、社長はテーマをかきむしる。
ベース一発。ピアノとドラムとウッドベース。
がらり、ジャジーな世界へ。
セカンド・テーマをピアノが静かに奏でた。この落差がすばらしくかっこよかった。
アドリブも聴きものだが、なにはさておきアレンジ。板橋がいてこそのアレンジだ。最高。
最後はミンガスの"Fables of
faubus"。演奏はどんどんヒートアップした。
芳垣はマレットとスティックを使い分け、まっすぐにリズムを刻む。もちろん、グルーヴはたんまり。
ピアノ・ソロで板橋節がついに炸裂する。メロウでパワフルなピアノが唸り続けた。
もちろんアンコールあり。すでに時間は23時を軽くまわってたためか、すぐにメンバーはステージへ戻った。
「板橋さんとここでやると、いっつもこの時間に演奏してるな・・・」
芳垣が笑う。社長はいまさらながら弦交換を始めてた。
ビートルズの"Good
night"は、優しく空気をなだめてゆく。
根底に熱いエネルギーをたぎらせたまま。
板橋のピアノが主にテーマを取ったかな。アドリブを挟んで、ギターへメロディを受け継いだ。フィード・バックを大友はきれいに響かせた。
甘く、そっとライブは幕を下ろした。
これで"Jelly
roll"やってくれたら言う事なしだったんだが・・・。
長丁場となったため、二部の終わり頃から慌てて店を去る観客が幾名も。無理もない・・・。日曜の夜に聴くにはつらいよね。翌日が休みの日に、たっぷりリラックスして味わいたいな。
ぐっと骨っぽいジャズを聴かせるEmergency!に、板橋のピアノがこんなに合うとは思わなかった。
いっそ正式メンバーになって欲しいほど。おなか一杯、彼らの男気ジャズを味わえた。