LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

05/12/16  大泉学園 In-F

出演:早川+翠川
 (早川岳晴:b、翠川敬基:vc)

 完全アコースティック。ふくよかにルーム・リバーブが展開した夜だった。

 早川のソロアルバムにて、翠川とのデュオが聴ける。
 緑化計画やイースタシア・オーケストラでも共演と馴染み深い仲だが、デュオとしてのライブは初めてだそう。なんと。
 開演前は店のテレビでミュージシャンも観客もサッカーを観戦。前半が終ったところで、おもむろに二人はステージへ向かった。

<セットリスト> 
1.Tochi
2.Thousand eyes
3.Blue in green
4.手品師のルンバ
(休憩)
5.バリタコ
6.Seul-B
7.Tango
8.あの日

 てっきり翠川が主導権を握ると思ってた。実際はMCも含めて早川が進行した。
 (1)(4)(5)(7)が早川、(2)(6)(8)が翠川の曲。(3)はマイルスとエヴァンスの曲。翠川が提案したようだ。この曲も、ライブで初演奏とか。

 冒頭はインプロから。翠川はアルコでかすかに弦を擦り、早川はウッドベースを指で弾く。
 互いの音が次第にまとまり、"Tochi"のテーマへ繋がった。
 この曲、ぼくはHAYAKAWAでの轟音イメージが強い。"バリタコ"もそう。
 アンプも無しのチェロとベースのアコースティックなアレンジが、とっても新鮮だった。

 基本はフリー・ジャズか。しかしテンション揚げて切りあうシーンは皆無。
 あくまで端整で穏やかな世界が繰り広げられた。
 とにかく二人のタイム感が楽しい。インテンポでも、決してジャストな方向へ行かない。
 互いに4拍子ながらアクセントやタイミングが自在にズレ、ポリリズミックで絡んだ。

 早川はウッド・ベースを抱え込み、前後に大きく揺らしながら弦を弾く。女性とダンスを踊ってるよう。
 ほとんどは指弾き。強く弦をスラップさせ、激しくピチカートさせた。
 隣の弦を開放のまま一番右の弦をはじくプレイが、なんだか印象に残ってる。

 生音のため、時に耳をそばだてる。
 時に外の車の音や、店内の空調の音も聴こえるほど。
 しかし演奏は熱く、熱気がこもった。

 翠川はpppからffまで、幅広いダイナミクスをぞんぶんに提示した。
 アルコ弾きのチェロのほうが、ボリュームは大きめ。
 早川も弓を持ってソロを取ると、ぐんっと響きが増した。

 ソロ回しの概念はあまり無い。
 アドリブを弾いてた方がスッと引けば、相手へバトンが渡る。しかしその境界はあいまいで、互いにフリーに弾く場面が多かったと思う。
 翠川はさりげなく特殊奏法を繰り出し、きれいなフラジオもたっぷりと響かせた。

 互いの立ち位置を確かめるような"Tochi"から、緑化のレパートリー"Thousand eyes"へ。
 演奏曲は決めてたようだが、その場で曲順は相談した。
「緑化だと片山がテーマを吹くから、自分の曲をチェロで演奏できないんだよなー」
 ぼやいてみせる翠川。

 ボディの叩きあいがあったのはここか。
 早川がウッドでテンポを出すと、翠川がボディの叩きで応える。
 ついで早川もベースのボディをはじき始めた。
 二人して静かに淡々と叩く音のみで表現するさまが面白かった。
 口笛で翠川がソロを取ったのもここ?。記憶があいまいです。
 翠川はそのままテーマを口ずさみながら、おもむろにチェロを奏でた。

 "Blue in green"は「千一(曲集)でコード進行確かめちゃった」と翠川が演奏前のMCで笑う。
 ジャジーにいくかと思いきや。二人とも予定調和をあえて外す。浮遊感あるアプローチで、じわっと押した。

 "手品師のルンバ"も、この編成ではセンチメンタルさが強調された。
 ぼくがこれ聴いたのは、CO2だったかな・・・?ぐいぐいとベースが押すテーマはホーン隊やドラムの熱いアレンジを、つい脳内で補完してしまう。
 ぐいっと早川が弓でアドリブを豪快に奏でると、翠川は静かなリフでさりげなくバックアップした。
 
 エンディング前のグリサンド合戦が、とびきりいかしてた。
 翠川がじわじわと音程を下げて音を伸ばす。
 早川がぐううっと弓で音程を上げる。
 互いのロング・トーンが、まっすぐに重なった。
 ふたりの長く響かす音の交錯が、シンプルに耳へ注がれた。

 後半一曲目、"バリタコ"も豪快さは影を潜め、無言の音の対話がじっくり続く。
 優しくて柔らかい音なのに、ごつっとしたスリルが常に流れた。
 互いの音へおもねらず、自分の音世界を追求する。ともすればバラバラに破綻しそう。でも、きっちりまとまるのが不思議。

 緑化計画や黒田京子トリオで演奏される"Seul-B"は、角ばった石のようなアレンジで演奏された。
 もともと美しい局面を持つ曲だが、あえてグルーヴィなイントロが付加される。
 がっちりとビートが強調され、おもむろにテーマがチェロで提示された。
 後半は一曲が長め。20分くらいづつやってたのでは。
 "Tango"の前に、早川のCD宣伝コーナーが入る。
 翠川と早川のデュオ、"Tango"が入ったソロCDを紹介したあと。
「曲はいいんだけど、今日の演奏はなあ・・・と思った人は、CD買ってください」
 早川のコミカルな曲紹介で、ステージはクライマックスを迎えた。

 たっぷり時間をかけて、演奏を深めてく。
 音構成はすこぶるシンプル。低音楽器二本で、落ち着いた雰囲気だ。
 しかし翠川の醸すふくよかな響き、早川の凄みある弦さばきは、一つところにとどまらない。
 チェロは存分にフレーズを膨らませ、超高音や軋ませる音も演奏へ取り込む。
 早川は底支えしつつ、スペースを見逃さずにアドリブへ踏み込んだ。

 "Tango"の演奏が終って、すでに1時間ほどたっていた。
 翠川はライブを終りたそうなそぶりだったが、早川がもう一曲、と翠川の前に置かれた譜面をめくる。

 アップ・テンポな翠川の曲がいくつか候補に上がったが、気分じゃないみたい。
 「普通に終ろうよ」
 翠川の提案で選ばれたのが"あの日"。

 演奏は熱がこもる。ベースとチェロの噛み合いがどんどん濃密に鳴り、うねった。
 最後にテーマを奏で、優雅にそっと着地する。充実したひとときだった。

 今日は早川が上手へ立ち、翠川が下手寄りのピアノ前。店内のスペースで言えば中央に座る。
 客席は埋まっていたが、翠川の前の席だけは開いたまま。

 そりゃあ、座れないよな、あそこ。30センチ前でミュージシャンが弾いてるんだもの。
 完全アコースティックだから、あの席ならばさぞかし音のニュアンスがギリギリまで聴こえたろう。しかし、さすがにそこへ座る勇気ありませんでした。

 この二人が組むと、早川の生真面目な繊細さがにじみ出る。ソロやバンドでは豪腕なプレイを強調する早川だが、別な魅力をたっぷり味わえた。
 翠川のチェロはテクニックとしてのフリー要素を押さえ、旋律をたっぷり歌わす趣向だった。
 だからこそこのデュオは味わい深くなった。
 力技で切りあうだけは、2ステージがあまりに息苦しいものとなってしまったろう。

 二人の歌心を、懐深い音楽で披露した一夜。
 あまりに静かで、あまりにストイック。そして素直なジャズの情感が店内を満たした。

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