LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

05/12/10  渋谷 duo MUSIC EXCHANGE

出演:ONJO/Otomo Yoshihide's New Jazz Orchestra
 (大友良英:g、カヒミ・カリィ:vo、アルフレート・ハルト:sax,b-cl、
  津上研太:sax、大蔵雅彦:sax,b-cl,tubes、青木タイセイ:tb、
  石川高:笙、Sachiko M:sine waves、宇波拓:computer with objects、    高良久美子:vib、水谷浩章:b、芳垣安洋:ds,tp、近藤祥昭:sound)

 ONJOの新譜"Out to lunch"のレコ発ライブ。ドルフィーの同名アルバムを忠実にカバーがコンセプトのアルバムだ。

 この会場ははじめて行ったが、ちょっと不満。中央にどどんと柱があるせいで、ステージを見るスペースに無駄がある。さらにステージが低く、今日みたいなスタンディングでは、ほとんどミュージシャンが見えない。
 そのうえ音も悪いよ。前座の演奏では低音が思いきりこもり、高音は物足りない。中音域はさっぱり。めちゃめちゃ不満だった。
 ONJOではGOKの近藤がPAをつとめたから、すっきり鳴った。といっても、ぼくは前で聴いてたからな。ほぼステージの生音が聴こえる距離。フロア後方での音響は良く分からない。

 ステージ開始直後は水谷や芳垣が苛立たしげに、ドラムやヴィブラフォンのモニター・バランスへ注文をつけていた。客席の出音も、最初はバランス悪い。次第にまとまってきたが・・・それでも後半の演奏で、トロンボーンが吹いてるのに、モニターから出てない瞬間もあり。(7)だったかな?

 ついでにもう一言。この手の音楽は、座って聴きたい。ぜひとも。観客が数百人、みっしり入ったスタンディング状態で数時間立ちっぱなしは腰に来る。ぜひ。だけど彼らの音楽って、これほど動員力あるんだ。改めてしみじみした。

 色々先に言いました。でも、これだけは胸を張って断言します。
 音楽は、素晴らしかった。

<セットリスト>
A面

1)Guiter Solo + SachikoM & Kahimi 
     ↓
   HAT&BEARD  
2)Something Sweet Something Tender
3)Gazzelloni 
幕間
4)闇打つ心臓 
5)Climbers Hight Opning 〜Lost in the Rain 
B面
6)Out to Lunch  
7)Straight Up and Down(含む「真夜中の静かな〜」)  
Encore
EUREKA 〜 Climbers High Ending

 セットリストは大友のブログより引用しました。
 ドルフィーのオリジナル盤へ忠実な構成で、中間へ大友のサントラを数曲挟む。今回は休憩無しで2時間ぶっ続けだった。ありがたい。
 この密集スタンディングで休憩あったら間が持たず、体力ボロボロになるとこ。

 4)は8ミリを再構成した来年封切り予定という映画のサントラらしい。 5)とアンコールの後半は、この日にNHKで放映されたドラマのサントラから。どちらも大友の作曲。

 前座のステージが終わったあと、手早くセットチェンジが行われた。
 中央にホーン隊が並び、大友は下手手前に腰掛ける。
 客電がいきなり落ち、ステージ後方へはOBJO"Out to lunch"のジャケットが映された。
 轟くギター・ノイズ。ライブの幕開けだ。

 スポットライトで照らされた大友は、俯いてギターを吼えさせる。
 ネックをわしづかみにしたギターをアンプへ押し付け、フィードバックを引き出す。ペグを緩めて鈍い音をばら撒いた。

 すっと静寂へ。カヒミが立ち上がり、フランス語で呟く。気づかなかったが、セットリストによれば後ろでサチコ・Mがサイン波をかぶせてたらしい。
 ホーン隊が、バンド全体が、むっくりと音を持ち上げる。青木は横笛を吹いた。
 馴染み深い"Hat and Beard"のテーマが寂しげに涼しげに響いた。

 ONJOになってから、ライブ見るのは初体験。アンサンブルを重視したことで、より大友の嗜好が強調された。ジャズではあるが、菊地が担ってたグルーヴィさが姿を消す。サイン波の超高音まで含めた音そのものの響きを、存分につかむアレンジが浄化されるように漂った。
 過去は退廃を感じた音楽が、繊細さとアグレッシブさに塗りかわる。張り詰めた大友の美意識は、幽玄に昇華した。

 最初にソロを取ったのはハルト。スッと立って、テナーサックスでフリーキーなアドリブを吹く。腿にベルをときおり押し付けて。
 彼に限らず、だれものソロがフラジオやハイトーンを強調した、メロディを廃するアプローチ。青木くらいかな、メロディを生かしたのは。
 全員が大友の嗜好に沿ったか、とても尖ったソロを取った。

 ハルトのソロは高良へ受け継がれる。すでにステージのライティングはオレンジ色だったろうか。
 宇波の出すパーカッシブな音がかすかに響く。
 かれはスピーカーのベルをいくつか置き、コーンの上にマッチ棒や豆みたいなものを山ほど起き、ノートのマックで制御する。たぶん極低音で振動させたんだろう。

 コーンの上に置かれたものは、みるみる動き溢れてく。
 カタカタ、コトコト。あまりにもたくさんの棒切れが沸き立ち、コーンから溢れて床へ落ちてゆく。かすかな音も綺麗だが、視覚でも斬新だった。
 
 曲は"Something Sweet Something Tender"へ。カヒミがすっとステージ袖へ消える。
 ハルトのバスクラ・ソロと交錯するように、宇波のパーカッションが鳴った。
 立ち上がったハルトはときおり吹きやめ、コミカルに宇波を伺う。その仕草にフロアへ笑いが広がった。
 彼のサックスは始めて生で聴いたが、暖かくてノイジーなフラジオを吹くね。

 ここでも音楽は、陰をまとったダンディさが健在。ソロがまわされていても、全体コンセプトの響きは強固だった。
 サウンド・イメージはまったくぶれず、全員の発する音を吸い込む。

 高良の音はステージを通し、かなり控えめ。上手奥に位置した彼女は、マレットを4本持ちで、ときに弦楽器の弓でヴィブラフォンの鍵盤を擦る。
 他の楽器は使わず、ヴィブラフォンだけでステージを通した。
 ソロも特に目立たず。ひっきりなしに叩いてたのに、音がかなり抑え目だった。PAバランスの関係とは思うが。

 石川の出す笙はサイン・ウエーブのように響いたか。ソロめいたことはしない。マイクへ笙を捧げるように、高音を静かに奏でた。
 大蔵はチューブを持ち込んだが、ぼくの位置からは良く見えず。トリッキーなことをやってたのかも。後半でサックスを吹いたとき、思い切り口の端で咥えるトリッキーなアンブッシアが印象に残る。

 いきなりアップテンポで押したのが"Gazzelloni"。アルバムに忠実な進行だが、ぼくはドルフィーの"Out tto lunch"を聴かずに本ライブへ臨んだため、流れはどれもが新鮮だった。
 当日買ったと言う1964年製のドラム・セットを激しくひっぱたく芳垣。猛烈なドラムソロを、アンサンブルを相手にぶちこんだ。
 
 A面が終ったよ、と告げる大友。後半へ行く前に、自作曲を演奏する。
 "闇打つ心臓"はたしか、大友のギター・ソロから。ノイズ成分を廃し、弦を爪弾く。
 柔らかな世界が提示され、やがてオーケストラが加わった。

 続く"Claimbers Hight Opning"も似たアプローチか。
 曲調はわずかにアグレッシブさを増す。いったんブレイクし、そのまま"Lost in the Rain"へ繋がった。
 "Out to lunch"の世界とは、明らかに違う。当然ながら。すっと霧が晴れたよう。
 大友のセンチメンタリズムがにじみ出る快演だった。

 "B面"冒頭の"Out to Lunch"は、演奏直後後のMCで「オリジナルへ忠実に演奏しました」と大友が笑って言う。そうなの?あとでドルフィーの"Out to lunch"を聴いてみよう。
 ジョン・ゾーン・コブラにも通じるアレンジ。大友のハンドキューが頻繁に飛んだ。
 ここでは大友が演奏をしない。立ち上がって、メンバーへサインを送る。
 眉間に一本指を当て、もう一方でいくつかの数字を指で示す。譜面を分割したブロック・サインか。時にコブシを突き出し、混沌を呼び出す。
 ソロ回しは手招きでミュージシャンを示す。柔らかく手のひらで演奏を促した。
 一人、そして一人。次々に大友はミュージシャンの音を呼び寄せる。
 指が一閃。
 新たなブロックへ移る。

 あんがい長くやってたが、視覚的に面白いので飽きない。この頃はかなり、足元がへろへろでしたが。

 そして最後は"Straight Up and Down"。セットリストによれば大友のオリジナル"真夜中の静かな黒い河の上に浮かび上がる白い百合の花"をインサートしてたそう。気がつかなかった。
 終盤でカヒミがステージに現れ、フランス語の詩を朗読した部分だろうか。
 てっきりぼくはあの朗読って、ドルフィーのオリジナルにあるのかと思って聴いていた。

 コーダへ。大きな拍手が沸き起こる。
「待ってるのつらいでしょ。さくさくアンコールやりましょう」
 大友が笑って、手をかざしてステージ上手を眺める。
「誰がいるんだ・・・見えない。ビールは後回し。アンコールだよ!」
 現れたメンバーを、次々に大友が紹介する。芳垣のシャツは噴出した汗が盛大ににじみ、身体へ張り付いていた。

「会場へ来ているかも。日本語を勉強してる、ジム・オルークの曲をやります」
 歓声がステージから飛んだ。
 ギターの爪弾きと、カヒミの呟き。
 "Eurika"の切ないテーマを、ホーン隊が幾度も繰り返す。
 水谷が、ここぞとウッドベースを唸らせた。
 激烈なアドリブを、フリーにキメまくる。弦がはじきとばんばかりに、低音がぐいぐいと唸った。

 立ち上がるハルト。オフマイクでアドリブを奏でた。津上も、大蔵も、青木も。それぞれがフリーに吹きだす。
 きっちり聴こえてた"Eurika"のリフレインがフェイクされ、残骸だけとなる。
 "Eurika"の空気だけがステージへ漂った。

 そして音が途切れる。どこか陰をまとった、ファンファーレが響いた。
 
 曲が分からなかったが、同じくNHKドラマ"クライマーズ・ハイ"のエンディング・テーマなんだ。
 いい曲だったよ。音盤化してほしい。

 霧を音楽で晴らし、盛大な拍手の中でメンバーは袖へ消えていく。
 身体はへとへと。しかし耳は思いきり満足していた。
 大友良英の音楽に包まれて、融けていく。また聴きたいよ。出来ればゆったり、腰掛けて。
 ホールでやって欲しい。音響のいいところで。音符だけじゃない。音そのものの超高音から低音まで行き渡った"響き"。それを咀嚼し、味わうほどに大友の音楽は魅力を増すと思う、

目次に戻る

表紙に戻る