LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
05/10/24 大泉学園 in-F
出演:川下+太田+不破+岡村
(川下直広:ts,harm、太田惠資:vn,etc.、不破大輔:b、岡村太:ds)
川下トリオへゲストで太田恵資が加わったセッション。ありそうで、あんまりない。
ツイン・バイオリンを期待したが、残念ながら川下はテナー・サックスのみ。
今のトリオで"海"や"Toki"を聴きたいが、もう演奏しないのかなぁ。
太田は20時をまわったころに到着、セッティングが完了後すぐに演奏へ。まったくのリハなしで幕を開けた。
特に打ち合わせる様子なし。全員が楽器を構え、無造作にテナーを川下が振り上げ、音が出た。
川下はいつものように、惜しみなくひたすらアドリブを奏でる。ときおり循環奏法で、音の流れすら止めない。
最初は太田もオブリで絡もうとしたようだ。だが埋め尽くすサックスのアドリブと、なかなか交錯しない。
ついに太田は爪弾き程度に演奏を控え、サックスのソロをじっと聴き続けた。
テナーの音は止まらず、長尺ソロがずっと続いた。
一曲目からテンション高く、不破と岡村のリズムががっちり支える。
観客へ背を向けるようにウッドベースを抱えた不破は、極太のグルーヴで下地を作った。
シャープで明るい前のめりビートで、岡村が叩きのめす。
しょっぱなから熱い。サックスを上下に降りながら、川下が吹く。
ベースを弾く不破のうなじは、いつのまにか汗が滲んでた。
ついにサックスのソロが一山越えた。アイコンタクトで、川下は太田へソロを繋ぐ。
五弦エレクトリック・バイオリンを構えなおし、太田はアドリブへ。1曲目ではサックスと似たテイストで弾いた。
テーマを自在にフェイクさせる川下に対し、違うモチーフでソロをとるアプローチだった。
一曲目ではまだバイオリンが、おとなしめ。サックスに比べたら短めに不破へソロを渡す。
なお、この曲にかぎらず太田のソロでは川下が、鋭いまなざしでじっと太田の演奏を見つめてた。
ちなみに本編では、ずっとエレクトリック・バイオリンで通した。
いきなり20分以上の演奏。
こもり気味ながら低音が床を伝り、ぐいぐいあおる。一気に全員で駆け抜けた。
不破のソロはシンプルなフレーズを多用。ドラムの手数多いビートと対比させたか。
頭打ちで賑やかに鳴る、岡村のドラミングが情景を明るくしてくれた。しかしトリオの演奏風景は、絵になるね。
「"Lady's
Blus"やろう」
川下への不破の呟きが聴こえた。
すぐさま川下がアドリブ。がらりと景色がロマンティックに。
がっしり根強い、ゆったりしたノリが店内を満たす。不破のしぶといジャズの香りが、とびきりいかしてた。
基本アレンジは同じ。太田は演奏控えめで川下のソロを聴く。
アドリブがまわったら、音色はディストーションをわずか強調した音色で奏でた。
バスキングの要素を取り入れた、ほんのりコミカルなタッチのメロディが溢れる。
違う観点のソロで太田は、自分の世界へサウンドを引っぱった。
とたんにドラムが、倍テンのリズムで軽やかに風景を変えた。
不破はさほどアドリブを取らない。
全体のペース・メーカーの役割が多かった。この曲では、早弾きも披露したかな?
「あともう一曲・・・"ロックンロール"をやろうか」
川下が時間を確認しながら呟く。
素早いフレーズでサックスを吹き鳴らした。
サーフィン&ホットロッドなドラムが派手に鳴る。ベースがきっちり底支えし、R&Bの色を加えた。
バイオリンは指弾きでバッキング。ソロではエレキギターっぽいフレーズが、弓で次々飛び出した。ボウイングでのロックンロールな響きが、なんだかユニークな違和感あって楽しい。
圧巻はドラムのアドリブ。ハイハットを踏む連打だけで、ソロに説得力を持たせるのがすごい。
テクニックをひけらかさず、にこやかなドラミングががっちりと存在感をだした。上手い。
不破の合図で4バーズ・チェンジに。ドラムが叩く上で、ベース+サックスと、バイオリンのアドリブが交錯した。
これがとびきり、かっこいい。
短く休憩が入る。
後半は川下のハーモニカ・ソロから。メガホンを持った太田は、言葉をささやく。
タバコの銘柄を唐突に呟き、客席から笑いを誘った。
ハーモニカで静かにフレーズを重ね、テナーへ持ちかえる。
そのとき音がしないよう、そっとピアノの上へハーモニカを置く仕草が印象に残った。
曲は確か"Goodbye pork pie
hat"。
テーマへ行くと太田が「あ、あの曲ね」と言わんばかりに、にっこり微笑んだ。店の棚から楽譜集を取り出し、めくる。
徹底的にサックスのソロをフィーチュア。テーマの影を後ろに匂わせ、自由自在で奔放なソロをたんまり吹いた。
バイオリンのアドリブは全音符をループで流し、その上にメロディを乗せる。
この曲だけで、30分くらいやってたはず。
太田が強烈に存在をアピールしたのが、次の曲。
彼らのライブで聴き覚えあるテーマ旋律だが、曲名分からない。
アップテンポで激しく決める。サックスの長いアドリブから、ソロが渡された。
バイオリンを構えなおした太田は、アラブ風の言葉で歌いだした。
目を閉じ、手を降って声が伸びる。
熱い歌が川下トリオの演奏へ、ずっぽりとはまった。
はるか昔に暑く太陽が照る中、アラブの戦士たちが騎馬で駆け抜ける光景が脳裏に浮かぶ。圧巻だった。
最後はコルトレーンの"至上の愛(第二楽章)"。
サックスを上下に降り、タンギング控えめでつぎつぎフレーズを搾り出す。
さっそく太田はコルトレーンの譜面を棚から物色。もっとも見つからなかったみたい。譜面無しで弾いていた。
コーダを決めても、観客からの拍手はやまない。珍しく、アンコールに応えてくれた。
「キーはGで。ふだんとは違うと思うけど」
不破が一言説明し、太田が頷く。
イントロも控えめに、すぐにサックスは"平和に生きる権利"を奏でた。
すかさず太田は、アコースティック・バイオリンへ持ちかえる。
アンコールだけあって、川下のソロは短めで残念。
最後はゆったりとしたムードで幕を下ろした。
ひたむきに続くサックス、にこやかに叩きのめすドラム、そしてがっしりグルーヴを提示するベース。やっぱり何度聴いても気持ち良い。
川下のバイオリンも聴きたい・・・と思う一方で、ライブが終わるとサックス一本のシンプルなトリオ編成の説得力にやられてしまう。
もっと太田が絡むかと予想してたが、互いのソロを尊重しあう構成だった。
興味深い編成だから、ぜひ今後も聴きたい。次の機会があるといいな。あの太田の歌がはまった瞬間の、燃える凄みが忘れられないよ。