LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
05/10/19 新宿 Pit-Inn
出演:黒田京子トリオ
(黒田京子:p,acc,etc.、翠川敬基:vc、太田恵資:vln,per,voice,etc.)
レコ発ライブで、ピットインに初出演。ふだんのin
Fより、当然ながらステージが遠い。待ってるあいだ、緊張してきたよ。
20時をまわった頃、メンバーがステージへ。拍手が飛ぶ。照れくさそうに翠川が手を振って、軽くとめた。
一曲目は"Para
cruces"。なんだかすごく肩に力が入ってた。
音が硬い。黒田京子はがっちり突っ込み、太田恵資もバイオリンの弓を次々ほつれさせる。自分のペースを保ったのは、翠川敬基だけでは。
それともなにか、違うアプローチだったのか。
明らかに違うのは、音質。これまでPAは通しても、生音をベースのアンサンブルだった。しかし今夜は全てPA。そのぶん、バランスや音色が明らかに違う。
翠川のpppも、最初はよく聴こえなかったもの。
しかしPAのリバーブのかけ方はすごいと思った。曲や場面でリバーブ量を変えていたのでは。
アンサンブルの響きもステージが進むにつれ、どんどん耳へ馴染んだ。
MCは全て黒田がつとめる。喋りもなんだか緊張してたな。ピアノは下手に置いたため、ちょっと奥まったところに黒田が立つ印象の絵面だ。
もっと黒田がガンガン前へ出て欲しい。
いっそピアノを中央に置き、二人で挟む配置も面白いのでは。今夜は太田が真ん中に立つセッティングだった。
ゴタクはやめて、ライブへ戻りましょう。まずはセットリストから。
<セットリスト>
1.Para cruces
2.Varencia
3.Gumbo
soup
4.Los Pajaros Perdidos(迷子の小鳥たち)
5.Hinde
Hinde
(休憩)
6.20億光年の孤独
7.Waltz step
8.All things
flow
9.Seul-B
10.Haze
11.Check
1
(アンコール)
12.Spleen
CD収録曲が半分あまり。最近のレパートリーも取り混ぜた、バランス良い選曲だった。
実際には2ndセットのレパートリーは、休憩時間に変更したもよう。その効果はばっちりだった。が、元のセットリスト予定も知りたい。どんな曲を予定してたんだろ。
"Para
cruces"は顔みせ代わりか、あっさりと終わる。バイオリンがソロからテーマの変奏へ行き、ピアノやチェロがさくっとアドリブをした。
ずいぶん堅苦しい響きで、なんだかステージが遠い。
けれども2曲目で、ふわっと演奏に馴染めた。曲は"Varencia"。素晴らしかった。
どんどんステージが近くなり、メンバーの姿が大きく膨らんで見える。われながら現金だが。
緊張したそぶりこそ漂うも、音楽はステージが進むにつれ尻上りに良くなった。ピークは2ndセットの中盤かな。
で、"Varencia"。まずはpppのピアノとチェロがテーマを奏でる。静かにじっくりと、フリーへ進んだ。
ステージの音はあまりにもかすか。エアコンの音がごうごうと店内に轟いた。
おもむろにバイオリンが、テーマをゆったりと提示。
薄暗く色づいたステージに、三人が浮かんだ。
溢れる音は端整で穏やか、そしてなめらかで自由に拡がった。
黒田京子トリオの独自性を、強烈に提示した瞬間だった。
チェロのアドリブへ、黒田がそっと絡む。やがて翠川と太田の組み合わせへシフトした。
太田のアドリブが、ほんのりアラブ風に色づく。
コーダへ。エンディングで、翠川は開放弦でじっくりと音を伸ばした。
"Gumbo
soup"で、わずかにコミカルさを出す。
イントロはウクレレ風にバイオリンを構えた、太田のグリオ色あるボイスから。タールにもちかえた。
チェロがフリーに絡み、二人でテーマへ進んだ。
その間、黒田は立ち上がって二人の音楽を聴く。身体を軽く叩きながら、揺らしてた。視線を足元へ。アコーディオンを掴むか考えていたのかも。
ついにアコーディオンを抱えた。彼女がアドリブを始めると、音世界はトラッドっぽく変わる。
アコーディオンの音は、ピアノ横のマイクで拾った。
前後に距離をとって音量を調節。演奏スペースが限られてしまうのがつらい。
"Gumbo
soup"では、くるりくるりと自由にめまぐるしく、しかもスムーズにソロが変わった。
太田のアドリブ比率は高いが、翠川や黒田も紡ぐようにアドリブを挿入した。
途中で黒田はアコーディオンを構えたまま、ピアノに向かって弾く。
「ピアソラの曲です」
と、黒田が曲紹介。たぶん、"Los Pajaros
Perdidos"だと思う。冒頭のインプロは、チェロとバイオリン。
地震があったのは、ちょうどこのあたり。
長く、揺れが続く。太田のマイク・スタンドが、ゆらゆら動いた。
客席のざわめきを受けて、演奏はいったん止まる。が、太田の強い励ましに、観客の笑い声がもれた。
揺れがわずか残る中、かまわずに翠川は演奏を再開。すぐに太田もバイオリンを構えなおす。
そしてテーマに。音楽はまた変わる。黒田は二人の音をピアノでしっかり支えた。
こんどはタンゴ。太田は弓をザンバラに力をこめて、情熱的なメロディを溢れさす。とびっきりのアドリブだった。
ラストはピアニッシシモ。余韻が消え、奏者が体の力を抜いたとき。
大きな拍手が飛んだ。
1stセット最後は"Hinde
Hinde"。断続する即興フレーズを各自が提示し、次第にアンサンブルが収斂する。
テンポはぐるぐる変わり、3人の音が寄り添って膨らんだ。
翠川は勘所をぴたりとチェロで押さえる。黒田が弾きやめて聴きに入るときも、アルコ弾きで厚みを出した。
太田がここでもアドリブを弾きまくり。前へ前へひっぱった。
休憩を挟み、後半セットは黒田の"20億光年の孤独"から。
20年前の誕生日に作った、と黒田が紹介のとたん、
「誕生日に"孤独"ですか?」
「ありえねえよなあ」
って、太田や翠川がすかさず茶々を入れる。
ピットインのスペースと音の響きに、もっとも似合ったのがこの曲。
拡がりある幻想世界が、きんっと締まって広がった。
太田はメガホンで低く呟く。すっと空白の瞬間。
すかさずピアノとチェロがフリーに進んだ。翠川は強烈なピチカートを幾度も繰りだす。
黒田のピアノが綺麗に自在に鳴った。コーダはとてもダイナミックだった。
さて。背筋がぞくぞくきたのが、"Waltz
step"。
最初は曲紹介を、しなかった。富樫の曲、って言っただけ。
まずはインプロ。黒田はまず鳩笛で、身体をキュートに揺らしながら吹く。
次にリコーダーへ持ち替えた。か細く音を出す。
バイオリンとチェロが絡み、インプロへ。どの曲だろう、と考えながら聴いていた。
ピアノも加わって即興が盛り上がり・・・一瞬の空白。
バイオリンが"Waltz
step"のテーマを、ゆっくりと弾いた。
タイミング、演出、そして演奏。すべてがばっちり。
空気が透き通る名演だった。
繊細な"Waltz step"から、翠川の曲"All things
flow"へ。
バイオリン・ソロの後ろで、翠川はすっとテンポを上げる。するすると滑らかに音が転がった。
黒田京子トリオの音色、を感じたのがこのあたり。黒田がピアノでぐいっと押したとき、かっちりとまとまるひとときがある。
即興の親和度は、別に珍しくない。さらに黒田のピアノが音の芯を掴み、確かな一体感を産んでるように聴こえた。
品の良い響きと、したたかな即興のパワーが溶け合ったような・・・。
緑化計画のレパートリー"Seul-B"は、一転してジャズの匂いをぷんぷん漂わす。
イントロはフリーで、翠川の指弾きががっしりベースを受け持つ。
ぐいぐいグルーヴィに揺れた。こういうのも好き。
ピアノは重厚なソロで対抗し、バイオリンはたんまり弾きまくった。
ピットインの風景に、ジャズらしさでハマッたのがこの曲だった。
富樫の"Haze"は三人ともリラックス、穏やかで自由なアンサンブルを。
ピアノのソロはゆらり、ゆらり、さざなみのように揺れる。
バイオリンとチェロが奔放にアドリブを展開させた。
それまで口を結んでいた黒田が、ふっと微笑む。
美しい音が、どこまでもどこまでも積みあがる。ピアノが礎となった。
最後は"Check
I"。バイオリンにぶつかる不思議なピッチを使い、翠川がチェロで挑発した。
けっこう短めの演奏。ここでも独自のグルーヴを感じた。
2ndセットは1時間以上と長め。だが、客電はつかない。
アンコールは、先日のライブでも披露した"Spleen"。ロマンティックな快演だった。
ソロはさすがに短い。バイオリンからピアノへ、さくっと繋ぐ。
演奏はどの曲もほとんどが即興。しかし曲を意識した流れは常に頭のどこかに残る。
端整で柔らかな響きが拘束されず、みるみる変化するスリルを存分に味わえた。
PAを通した聴きなれぬ出音の響きも、ありだと思う。
いろいろな可能性の片鱗を見せまくる、刺激に満ちたライブ。
めちゃめちゃ充実した演奏だったよ。無理してでも、行ってよかった。