LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

05/9/24   新所沢 スワン

出演:渋さチビズ
(片山広明;ts、不破大輔:b、倉持整:ds、立花秀輝:as)

 ごりっとした、渋さのジャズを味わえた。
 休日のためか、スワンは満席。
 片山が店へ姿を見せると、軽くサウンド・チェック。"行方知れズ"の後半をアドリブを交えて短く演奏し、メンバーは店の外へ消えていった。

<セットリスト>
1.バルタザール
2.行方知れズ
(休憩)
3.大沼ブルーズ
4.ナーダム
5.Pちゃん
(アンコール)
6.千頭

 20時を軽くまわった頃、メンバーがおもむろにステージへ上がってゆく。
 店内の明かりが落ち、ステージだけが照らされた。
 メンバーの視線が交錯。片山広明と立花秀輝による、インプロが始まった。

 長いヨーロッパ・ツアーから帰った渋さを、聴くのは今夜がはじめて。正直、倉持も立花も音のたたずまいが違って驚いた。
 ふたりとも音の芯が太くなり、しぶとい演奏になったと思う。

 不破大輔はウッドベースをステージの奥で黙々と弾く。ぼくの位置から少々見えづらく、音も小さめだったのが残念。
 しかしフレーズを巧みに変化させ、アンサンブルをきっちりと引っ張った。

 片山も即興のそこかしこで、倉持や立花を導く仕草を感じる。
 基本は存分にサックスを唸らせ、不破と別の方向性でアンサンブルを前へ前へ推した。
 とにかく今夜はソロが長い。それぞれの音世界がくっきり提示される。しこたま面白い。

 "バルタザール"冒頭のインプロはかなり長く続く。
 なんどか立花は演奏中にリードを替えていた。
 おもむろに片山が、キーを変えてテーマの一節を吹く。にやりと微笑む立花。
 しかしまだ即興は続く。リズムは三拍子。
 ほとんどテーマが吹かれることなく、またしても即興がずぶずぶと深まった。

 いつの間にか、4拍子にリズムが変わってる。
 サックスたちがソロを取る奥で、倉持は口を軽くあけて微笑むように、シンプルなリズムを叩き続けた。
 不破がアドリブとは別次元にフレーズを変えると、倉持もじわっとリズムを取り替える。

 片山は時にフリーキーな軋みを提示するも、朗々とフレーズを振りまく。堂々としたソロだ。
 わずか身体を前のめりにさせ、ぞんぶんに吹きぬく。
 立花はフラジオを循環呼吸で甲高く鳴らしこそすれ、テクニック頼りの比率がずいぶん下がった。ぐっとブルージーなフレーズが増え、片山とがっぷり噛合うシーンが幾度もあり。

 今夜は二管で自由度高く、一方のソロでも、互いにオブリを入れあう。粋なアンサンブルだった。
 アレンジはそれぞれのセンス次第。むろんリズム隊だけのワン・ホーン・ソロもあり。
 第一セットは2曲それぞれが、30分くらい演奏された。だけど、飽きない。

 サックス二人のソロ合戦から、テーマの旋律へ。
 たしか片山のアイ・コンタクトで、テンポは3拍子に戻った。
 幾度もテーマが提示され、次第にテンポが上がる。倍テンポにつぐ倍テンポ。
 ぐいぐいと走るメロディを、不破のベースががっしり支えた。
 駆け抜けて、勢い良く"バルタザール"が終わった。

 不破がなにやらメンバーへ呟き、"行方知れズ"に曲が変わる。
 店内は観客のタバコの煙が充満。ステージがうっすら煙って見えたのは気のせいか。目がしばしばしたよ。
 
 "行方知れズ"でも、もちろん存分なサックスふたりのソロ。
 シンプルなフレーズから、次第にどっぷり味の濃いアドリブへ変化させる、片山の凄みがひときわ良い。

 ここではリズム隊のソロも織り込まれた。
 倉持のあっけらかんとしたスタイルに、一本とられた。
 腕をひけらかさない。テンポも崩さない。ただただ、フロアタムを連打する。
 それまでのファンク・ビートを生かしたまま、ひたすらドラムが打ち鳴らされた。

 シンバルを派手に叩きもせず、ロールでリズムをバラけさせない。
 ときどきリズムの頭をひっくり返すくらい。頑固にリズム・キープだけでドラム・ソロを押し切った。
 不破がタバコに火をつけて、ドラムを聴く。香りが、ぼくの席まで漂った。

 片山が軽くサックスを吹いて、ドラム・ソロに彩りをつけた。
 すぐに吹きやめてしまう。あとを立花が繋ぐ。ベース無しのちょっとしたデュオが披露された。
 続いて不破のソロ。ふわふわとフリーでノービートなアドリブを弾いたと思う。

 今夜の"行方知れズ"はクロージング・テーマが控えめ。
 テーマに戻って奏者の吼えるシーンもあったが、あっさりと幕を下ろした。
 それでも二曲で、一時間経過。

 後半は不破の提案で"大沼ブルーズ"から。20分くらい演奏してたと思う。
 とにかくサックスのソロが止まらない。
 立花が長尺のアドリブをきめ、静かにフェイド・アウト。観客から拍手がとんだ。

 続く片山も飛び切りのソロ。とはいえ単に終わらせない。
 さりげなく立花のオブリを利用し、リズム隊のソロへ滑らかに誘導した。
 アンサンブルのみごとな取り扱いっぷりは、場数を踏んだ貫禄だった。

 不破が唸りながら、高速ベース・ソロを聴かせたのはここだった気がする。
 激しく弦が弾かれるたび、スネアの響き線が共鳴して、びりびり唸った。

 "ナーダム"では不破のベースが肝。アルペジオっぽいフレーズや単音ビートで、ドラムをあおる。
 とことんアップテンポなテーマから、フリーなアドリブへ。
 サックスを自由に吹かせる一方、がっしりドラムと組んでリズムを支えた。

 倉持はまくし立てるように裏打ちのリズムを叩く。
 わずか二管のシンプルなアレンジなのに、華やかなテーマ・アンサンブルだった。
 片山から立花、立花から片山へ。テーマを片方が吹き、もう片方がアドリブのオブリをぶつける。
 くるくると1コーラスごとに役割が交換され、ソロを競い合った。

 ライブはここで終わりそうな雰囲気だったが、不破の提案でもう一曲やることに。
 なにやら相談していたが、良く聴き取れず。"股旅"ってのが聴こえたな。
 ところが演奏されたのは"Pちゃん"。まさか、4人チビズでやるとは。賑やかテーマからアドリブへ。
 イントロで片山が「リンゴ追分」を一節吹いたのは、ここだっけ?
 ソロこそサックス二人がいっぱい吹くものの、構成はしごくあっさり。
 片山のソロがいったん途切れ、すぐにあとテーマへ雪崩れた。
 
 大きな拍手が店内に響く。メンバーはその場を去らない。
「ワンワンワンワン!」
 不破のカウントで、すかさず"仙頭"に。
 
 サックスがふたりともテーマをフェイクさせっぱなし。
 "仙頭"のテーマをぐるぐる回し、勢い良く着地した。

 チビズといえども人数の幅は広い。このくらいの少人数だと、それぞれのソロもアンサンブルも存分に楽しめる。
 渋さの楽しみの一つが、多彩なアンサンブル編成だと、あらためて実感した。
 これからまた、膨大なライブがあるだろう。いろんな場所で、いろんな編成で。
 ヨーロッパ・ツアーで一皮べろりと向けた渋さが、どんなジャズを奏でるのか。ああ、またライブ行きたい。

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