LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

05/8/26  大泉学園 in−F

出演:黒田京子トリオ
 (黒田京子:p,acc、太田恵資:vln,vo、翠川敬基:vc)

 さりげなく落ちる客電。無造作にライブは幕を開けた。
 リハを早い時間からやってたみたい。でも、今日のMCも太田恵資でした。

<セットリスト>
1.Bonfire〜It's Tune
2.ガンボ・スープ(新曲)
3.Spleen
(休憩)
4.二十億光年の孤独
5.あの日
6.イン・ハーモニシティ(?)
7.Para cruces
(アンコール)
8.Los Pajaros Perdidos(迷子の小鳥たち)

 前半は新たな曲が中心、後半が馴染みのレパートリーと分類できるかな?

 (1)はこのトリオで頻繁に取り上げる、富樫雅彦の曲。
 「たぶん、メドレーで演奏します」
 太田恵資が呟くように紹介した。
 奏者らはいったん視線を合わす。やがて、音が紡がれた。

 前半の曲って、たぶんぼくは聴くの初めて。三人の音の掛け合いをたどってた。 
 ソロ回しにこだわらず、あえて中心をおかない。三人が同時に音をかぶせ、膨らませた。
 高まったとき。わずか、音が途切れた。
 すかさずチェロを奏でる翠川敬基。アルペジオの爪弾き。あそこから、"It's Tune"かな。
 ゆったりバイオリンのメロディが高まり、ピアノが優しく支えた。

 "ガンボ・スープ"は翠川の曲。数日前の緑化計画でも披露されたそう。
 ブラック・ミュージック好きとしてつい、ニューオーリンズを連想した。実際は元の意味の、アフリカを想定した曲らしい。
 
 太田がバイオリンを横に構え、カリンバっぽい音使いで爪弾いた。本人のイメージは、コラだったそう。
 後ろで黒田京子が身体を揺らす。両手には小さなベルを持って。
 「がんぼ、がんぼ♪」
 呟きが、微かに聴こえた。 
 身を乗り出し、マレットでピアノの内部を叩くシーンも。
 
 アフリカンな太田の即興は発展し、声色を使い分けてアフリカ人の対話を一人二役で始めた。
 男女の会話に聴こえた。視線を役ごとにきっちり変えた、凝った作り。観客のみならず、奏者も大喜びで聴いていた。

 黒田がリコーダーで、ペニー・ホイッスルに通じるメロディを奏でた。
 タールへ持ちかえる太田。

 この曲では翠川がチェロの特殊奏法を次々披露し、刺激的な空間を作った。
 太田の爪弾きにあわせたか、チェロのピチカートで対抗。
 指板を押さえた上部分を弾いたり、コマの下をつまんだり。
 特に耳に残ったのが、オープンで弦を弾いたとたん、指で弦をミュートする奏法。丸い音が鈍くひしゃげる響きがユニークだ。
 ボディの叩きもとりまぜ、多彩な音をチェロから導き出した。

 主旋律は弦二本がユニゾンで進み、ピアノが膨らます。
 きっちりパワーを持ったメロディだった。

 前半最後の(3)はフランスのジャズ・アコーディオン奏者、リシャール・ガリアーノの曲だそう。
 アンサンブルが、ずっぽりはまった。

 なめらかなメロディからアドリブへ。太田が存分にアドリブを展開する。
 フレーズが収斂した刹那。
 黒田が転調して切り込んだ。

 ピアノへすぐに翠川も太田も反応。三人ががっぷり組んで、クラシカルでとろける音世界を、あっというまに構築した。
 この即興の親和度が、黒田京子の醍醐味の一つだろう。

 前半は40分くらいかな?ちょっと短め。
 休憩のあと、ミュージシャンがステージ・スペースへ移動したとたん、客電が落ちる。
 まだ譜面を整理してたため、黒田が司会役に早変わり。ライブスケジュールを紹介。ずいぶん準備されてて嬉しい。

 その黒田の曲(4)はシアトリカルで、聴き応えがどっぷり。
 片手で鍵盤を押さえつつ、高めのキュートな声で詩を朗読した。
 
 翠川はぼそっ、ぼそっ、と一つづつ声を出す。即興かと思ってた。実際には、詩を逆さから読んでたそう。
 黒田の朗読は、段落で太田へスイッチした。じっくり、コミカルに朗読する太田。
 音楽はそのまま、静かに続く。

 朗読が終わり、演奏が大きくうねった。
 CD録音版とアレンジを変えたそう。ぼくの耳では変わった場所は分からなかったが、雄大さはより強調されたと思う。
 エンディングがかっこよかった。急転直下でメロディはコーダへ雪崩れる。

 風景は優しげにかわった。翠川の曲、"あの日"へ。
 曲紹介が終わるいなや、チェロへ弓を滑らす。
 今夜もチェロのダイナミズムは激しい。pppからffまで、存分に音を揺らす。

 弦の絡み合いでは、この曲が良かった。
 太田はマイクを使っていたが、ときおりぐぐっとffでバイオリンを歌わせる。体の位置を変えて、音量を調節してるようだ。
 中盤は即興が、どんどんあふれた。

 (6)は黒田のアレンジ曲。先月の黒田京子トリオで演奏された曲とは別かな?
 オリジナルのミュージシャンも丁寧に説明していたが、覚えきれず。すんません。
 
 三人三様の音楽に対する姿勢がにじむ即興だった。
 アドリブのフレーズはどれも緊張に溢れ、凛と締まる。

 たとえば黒田は真面目にアプローチし、太田は真摯に音を引き出す。
 そして翠川は真剣に、音楽へ対峙した。厳格なほどに。
 三人がフラットな立場で弾いてるけれど、翠川が凄まじい気迫でぐいぐいと高みへ上げる。・・・そう聴こえてならなかった。

 「ストイックな演奏でしたね〜」
 曲が終わったとき、太田が呟く。黒田はアレンジをやり直す、と苦笑していた。

 最後はCDに収録、翠川の(1)で幕を下ろす。
 心持ちゆっくりめなテンポ。弦がふくよかに鳴った。

 中間部でテンポは速まる。三人が同時進行。だれかのソロでも、他のメンバーはカウンター・メロディをぶつけ合う。
 そしてテーマへ戻ったときの、グルーヴがたまらなく良かった。

 拍手が続く。アンコールは決めておらず、しばしの相談。
 選ばれたのは、ピアソラの曲。力強いアンサンブルが美しい。
 アドリブよりもテーマそのもので説得力を持たせた。かなりじっくりと演奏された。

 今日は中央で見てたため、視線があっちにこっちで忙しい。ちとくたびれた。今度は視界へ三人が、一度に入る場所で聞こうっと。
 テンション一発で押し通さない。あくまで三人が豊潤な音世界を紡ぐ。
 じわっと余韻が残る、良いライブだった。

 月例ライブを積み重ね、翠川と黒田がつぎつぎに新曲を投入する。 
 更なる高みへ。バンドが次のステップへ進んだ、そのときに産まれる即興は、どんな音楽だろう。本当に楽しみだ。
 
 これからこのバンドは、いろんな場所でライブをやる。機会があればぜひ、一度聴いてみてください。
 常に変化し続け、美しく構築する面白い演奏がじっくり聴けます。

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