LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

05/7/16  大泉学園 In-F

出演:黒田京子トリオ
 (黒田京子:p,acc、太田恵資:vln,vo、翠川敬基:vc)

 黒田京子トリオの月例ライブは、前回のから半月程度の短いスパンで行われた。
 太田恵資が「もう一ヶ月たってましたっけ?」でMCで言う。 
 この日はIn-Fの開店前夜祭にもあたり、多数の観客が訪れ立ち見も出る盛況だった。

<セット・リスト>
1.In harmonious (?)
2.link
3.All things Flow
4.Drum motion
(休憩)
5.Sketch Ⅱ~Ⅲ
6.Los Pajaros Perdidos(迷子の小鳥たち)
7.Haze
8.Check I
(アンコール)
9.Seul-B

 「レコ発パートⅡです」と太田が告げるも、冒頭からCDに収録されて無い曲がずっと続く。
 太田は寝不足らしくヘロヘロな様子で、黒田は凛とした雰囲気が漂う。翠川敬基も「二日酔いだ」と具合が悪そう。
 勝手にそんな思い込みで聴いたせいか、何だか全体的にぴりっと緊張した演奏と感じた。

 "In harmonious"は黒田が書き下ろした新曲。
 上手くタイトルが聴き取れず、自信ないです。「非協調性」という意味らしいので、タイトル聞き違えてそう。
 「・・・CD製作にあたって、役に立たなかった男メンバーへの歌ですか?」
 と、恐る恐る太田が尋ね、黒田が苦笑しながら手を振る。

 実際の演奏は極小音から始まった。
 ピアノは生音、チェロとバイオリンはアンプを通す。
 それでも、音が聴こえない。
 静まりかえった店内で耳をそばだてて、かすかに音が聴こえた。
 みりみりと音を震わせる太田。翠川はさすがにまったく音を揺らさず、極小音でチェロを奏でた。

 やがてピアノが強く鳴る。ドラマティックな演奏で、ブロック毎に印象が変わる。
 ピアノのインターミッションをはさみ、バイオリン、チェロ、そしてピアノへ。じっくりと3人のソロが回された。
 美しい音世界は、厳しく攻める3人のアンサンブルに移る。
 
 「・・・やっぱり、怒ってます?」
 コーダのあと、黒田へ恐る恐る尋ねる太田が可笑しかった。
 即興箇所があっても、音世界がブレないシビアな演奏だった。

 "link"は3月のライブで(たぶん)初演された、翠川の曲。
 とびきり美しい弦の響きが印象に残る。今回はピアノも含めたアンサンブルへ昇華された。
 冒頭がチェロとピアノの静かな音からだったと思う。
 メガホンを取り出した太田が、ドイツ語のような呟きを載せた。

 バイオリンを持った太田のソロが、高らかに膨らむ。
 ピアノもチェロも自由に弾きつつ、つねにテーマの存在がおぼろげに漂った。

 "All things Flow"は6月のライブで初演した、翠川の曲。鋭いリフでずばずば切り込む。
 複雑な構成らしく、譜面を睨む太田。演奏寸前に、進行を確認する。
 が、途中で太田がひっかかり、「ふりだしに戻る!」と演奏中にひとこと。頭からやり直す愉快なひとこまもあった。
 エンディングも似た感じ。
 チェロが単独でテーマを一度提示し、次にバイオリンがフェイクしたメロディで絡んだ。 

 前半はおよそ1時間弱。最後に持ってきたのは、富樫雅彦の"Drum motion"だった。たしかトリオでも何度か演奏してるはず。
 太田が手を滑らせ、譜面を取り落とす。 
 黒田はとっさに低音鍵盤を叩いてあわせた。
 
 散らばった譜面を整理するのに手間取う太田。それともパフォーマンスの一種かな?
 かまわずに翠川と黒田は、そのままイントロを始めた。フリージャズを思わせる、混沌とした強いインプロだ。
 バイオリンを構えた太田がいきなり、テーマの旋律で切り込んだ。フォルティシモで。

 やはり曲のイメージを生かした即興が続く。
 アドリブからテーマへ戻った。
 翠川が弾きながら指を一本、さりげなく立てる。
 テーマが繰り返され、コーダへ雪崩れた。

 後半はこのトリオで聴きなれないレパートリーが続く。"Sketch Ⅱ~Ⅲ"は富樫の、"Los Pajaros Perdidos"はピアソラの曲。
 ぼくはこのトリオではおろか、曲を聴くのすら初めてと思う。
 全員が譜面を置いて演奏。特にピアソラのほうは、途中で翠川や太田が途中で譜面をめくるシーンも。かなり長いテーマみたい。

 ところどころで即興らしき場面があるけれど、どこまで書き譜だろう。
 ほとんど区別つかないのが即興アンサンブルに長けた、このトリオのすごいとこだが。
 "Sketch Ⅱ~Ⅲ"はほんのり前衛さが漂い、"Los Pajaros Perdidos"は勇ましいフラメンコ(?)のリズムがすごい。
 特に後者はみりみり押すテーマのグルーヴに熱くなった。
 
 "Los Pajaros Perdidos"は冒頭、翠川の口笛からスタート。太田がしばらく聴きに入り、バイオリンで応える。
 翠川もチェロを構え、弦の二重奏に。
 後ろで静かに、黒田が口笛を吹いていた。

 ラスト2曲で、やっとCD収録曲が弾かれた。特に太田はCDでの"Haze"が気に入ったみたい。
 「いい曲ですよ」と熱弁をふるって、演奏を始めた。
 本日はCDとまったく違うアレンジを採用。黒田がピアノの蓋を閉じ気味に修正したのが、このあたりだったろうか。

 黒田はアコーディオンを弾く。チェロが極小音で下地を作り、ふわふわと危うげな世界を提示した。アコーディオンが涼しげに鳴る。
 根本では安定しているため、エッジの立った緊張感がたまらなくいい。
 途中でピアノに切り替えた黒田が、太田のアドリブへとっさにユニゾンで重ねるシーンもあった。

 今夜も聴きどころ多数のライブ。ぼくはこの"Haze"と"Check I"の演奏がとびきり良かった。
 "Check I"はカウントもなく、一声の合図のみ。ぴたり同じテンポでテーマが弾かれた。
 テーマの最後で高音を鋭く響かせる箇所が、かっこよくて好き。

 途中で翠川と太田のみのアンサンブルも。
 チェロがバックリフを繰り返し、たんまりとバイオリンが濃厚なアドリブをふんだんにあふれさす。

 最後までテンションは途切れない。
 テーマへ雪崩れ、一呼吸の空白。
 合図もなく、いっせいにユニゾンで最後の音を叩きつけた。

 今夜もめずらしくアンコールに応える。
 "Seul-B"は太田の選曲。緑化計画では馴染みの、翠川の曲だ。
「これが聴きたい気分なんですよ」
 と、太田は呟いた。

 準備も何もなかったようで、その場で三人とも譜面を探す。
 「俺の曲なんだけどな~」
 翠川もぼやきながら、やっぱり譜面を探してて面白かった。

 始まりはクラシカルに。やがてアドリブに行き、いつしかもろのジャズにサウンドが変貌していた。
 チェロは指弾きに切り替え、ランニングで低音を弾く。

 「マスター!」
 マスターを呼ぶ翠川。そのままベースでマスターが加わった。
 チェロを置いた翠川は、そのまま客席後ろへ移動してしまう。
 太田も退き、ピアノとベースの対話へ。
 
 バッキングするベースに、黒田はスタンダード(?)をいくつかぶつけた。
 茶目っ気たっぷりのキュートな微笑みに、マスターもニコニコしながらベースを弾く。
 どうぞ、と黒田の手合図でマスターのベース・ソロへ。
 ベースでやはりいくつかの曲を提示し返していたようだ。

 太田が加わる。たしかボイスも一節。
 サッチモよろしくしゃがれたスキャットが、ホーメイへ変わったのがここじゃなかったか。
 翠川もステージへ戻り、チェロを構えなおす。
 揃って、コーダへ。開店記念日にふさわしい光景だった。
 
 何よりも今夜はpppの響きが、まず心に残る。
 激しい応酬も無論あったが、それより音の響きを大切に扱うさまが素敵だった。
 CDを発表したばかりだが、すでに次のステップへ黒田トリオは進んでいるようだ。より繊細で緊密な世界へ。
 レパートリーも増え、引き出しがどんどん多くなる。

 最近何度か聴いて、完全即興をやらないのが残念かな。
 即興へ自在に飛んでも、今夜はどこか根底にテーマの存在が見え隠れしてた。
 奔放な即興ですら黒田トリオは、書き譜と見まがう親和度とアンサンブルを成立させる。それが魅力の一つだ。
 だからこそ極初期のライブで披露した、「どこへ行くか分からず、なおかつ構築されている」、恐るべき演奏もたまには聴きたいな。

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