LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
05/7/7 西荻窪 音や金時
〜回転木馬と三尺寝〜
出演:太田恵資+MaMa Kin
(MaMa Kin:即興俳句、太田恵資:vln他)
音金のママ(=MaMa
Kin)の俳句パフォーマンスと太田恵資の音楽が、一体となるイベントへ行った。
先日のフランス・ツアー凱旋公演もかねているようす。
サブタイトルの"三尺寝"は初夏の季語。回転木馬も季語なのかな?
店内へ入るとステージにはマイクが一本、ぽつりと置かれただけ。
上から日傘がつるされている。
すごくシンプルなステージだった。
客席は中央に寄せられ、ステージ背後と横の壁に半紙が並ぶ。
やがて太田恵資が店内へ登場。すばやくセッティングを始めた。
脚立を用意し、照明をつるした棒へ布を垂れ下げる。それが最後の舞台装置らしい。
太田は脚立にのぼり、布をガムテープで固定していた。
いきなり大きな音で流れる、ミッシェル・ポロナレフの「シェリーに口付け」。
予想外だったらしい。びくっ、と太田が身体を震わせた。
ポロナレフの音楽はアラブかアフリカの音楽と融けて、消えていった。
落ちる客電。スライドが投射され、フランスの風景をステージ背後に映した。
日傘の影が写真にかぶってアクセントをつくる。不思議な風景が生まれた。
太田は五弦エレクトリック・バイオリンを持つ。静かに、弾いた。
エフェクターで音を重ね、広がりあるループを作る。
アコースティック・バイオリンへ持ち替えた。
その間もスライドが幾度も切り替わる。
墨の匂い。ふと、ふりむく。
・・・すでに一つ、横の壁に俳句が描かれていた。
太田はメロディアスにアコースティック・バイオリンを弾き続ける。
バックにはループを載せたまま。
クラシカルで、メロディアスで、ヨーロッパ風味の即興。
基本はノービートだが、3拍子や6/8拍子を多用して聴こえた。
さらに複数弦を同時に弾く奏法も、ひんぱんに使っていたようだ。
Mama Kinは次々に俳句を横の壁へ書きしるす。幾ら書いても字を滲ませないのに、気がついた。
太田やMama
Kinが写るフランスの風景も、スライド映写される。
ステージに吊るされた日傘が、スライドに影を落とす。その位置が絶妙。
写真に写ったMama
Kinの頭の上を、きれいに日傘の影が覆っていた。
照明はあくまで横の壁を照らす。つまり太田にライトは当たらない。
むろん音金の空間を温かく埋め尽くしたのは、太田のバイオリンだった。
太田はたまに俳句を眺めつつ、ふんだんにメロディを溢れさせた。
ステージから動く太田。ゆったりと俳句が書かれた壁へ近づく。
去年見たときは一句一句に即興音楽をあわせたが、今回は全体像で俳句と相対した。
きっかけはなんだったろう。一呼吸置いて、バイオリンがアラブ風へくるりと変わる。
微分音を取り混ぜた即興になり、太田のボイスが空気を震わせた。
やがてバイオリンを弾きながら、太田はステージへ戻る。
Mama
Kinがテーブルをステージに準備し、花札を始めた。
太田はバイオリンを置き、メガホンを持って「ばくちはいけませんよ」と、茶々を入れる。
無言で花札へ誘うMama
Kin。太田は「ルール忘れたなあ」とぼやきながらテーブルへ座った。
しばしの花札パフォーマンス。
太田のほうが優勢に見えた。Mama
Kinは無言。太田は饒舌に花札をめくる。
すでにエレクトリック・バイオリンのループは消えている。スライドも消された。
無音の中、太田の呟きのみを音として、花札が続いた。
一段落ついて「ぼくの勝ちでしょ?」と太田がにんまり。
何も言わず、花札をかき集めてしまう、Mama
Kin。
暗転。
太田はタールを持った。かざして、二打ち、三打ち。
テーブルをMama
Kinが片付ける。
暗闇の中、太田はタールを捧げ、静かにこすり続けた。
BGM。流れたのは、サンタナの「ブラック・マジック・ウーマン」。
ほぼフル・コーラス流してた。
太田はサンプラーを押し、口琴のループを提示した。
Mama
Kinがステージ背後の半紙に薄墨で、文字ともつかぬ幾本かの線を弾く。
大田はウクレレ風にバイオリンを構え、ホーメイを響かせた。
薄墨の太線へかぶせて、スライドが投射された。
映されたスライドは、風景の接写だったかな?明るい色合いだった。
太田は素早くエフェクターを切り替え、ミニマル・アンビエントなループを作り上げた。
サンプラーを止め、ループへメロディをエレクトリックで載せる。
穏やかで純粋でひねった旋律が溢れた。
スライドも含めて、一つの世界が構築される。すごく良かった。
このあと、太田はエレクトリック・バイオリンのみを弾いた。
たしか、ボイスも無し。和太鼓っぽいループをサンプラーで出す。
みるみる音はゆがみ、汚れていった。太田の演奏も激しさを増した。
スライドは消され、Mama
Kinは背後の壁にも俳句を書く。三尺寝って言葉を織り込んで。
演奏はメロディとアバンギャルドを行き来する即興だった。
Mama
Kinは上から下げた布へ、最後に俳句を記す。
すでに全てのスペースへ、俳句が書かれていた。
壁がじわっと明るくなり、俳句を照らした。
ステージは暗いまま。闇の中で太田はバイオリンをかきむしる。
エフェクターがひとつひとつ、消されてゆく。ナチュラルな音色へ滑らかに戻っていった。ボウイングは激しいまま。
すべてのエフェクターが消され、電源すら落とされた。
かすかにバイオリンの弓が、きつくこすられる音が響く。
太田の手からバイオリンの弓が、すっぽ抜けるように取り落とされた。
鈍い音が大きく響き、床に落ちた。寸前のボウイングより、もっと大きな音で。
約一時間、ノンストップでのパフォーマンス。
緩急を効かせた充実さで、堪能できた。
もっとバイオリンを聴きたい・・・ってのは確かにあるけれど。
このステージの主役は、全てを成立させる音金の空間そのものみたい。そんな演劇的な演出が素敵だった。
次のライブは、秋口あたりを予定してるそう。