LIVE レビュー
見に行って、楽しかったLIVEの感想です。
2004/10/3 西荻窪 アケタの店
出演:明田川+片山
(明田川荘之:p,オカリーナ、片山広明:ts)
"サンデー・アフタヌーン・ジャズ"と銘打つ、アケタの店"昼の部"のライブは、片山広明を迎えてのデュオ。
今年の8月末、国立ノートランクス以来の共演になるはず。
前回は奔放に盛り上がったライブだが、ホームグラウンドでどう加速するか楽しみだった。
そして、結果。いい意味で、裏切られた。
あいにくの雨で、かなり涼しい昼間。だけどステージは豆電球で熱されるらしく、二人とも「暑い〜」とこぼす。
昼の部なためか、アケタの店のスタッフは出勤せず。そのため今日のライブは録音されていなかった。惜しいなあ。
<セットリスト>
1.アイ・クローズド・マイ・アイズ
2.サムライ・ニッポン・ブルーズ
3.マイ・ワン・アンド・オンリー・ラブ
(休憩)
4.テイク・パスタン
5.レイディーズ・ブルーズ
6.クルーエル・デイズ・オブ・ライフ
7.セント・トーマス
(2),(4),(6)が明田川のオリジナル。
(3)と(5)は片山が持ち込んだレパートリーだろう。開演前に二人は(5)の入り方をリハーサルしてたっけ。
残るレパートリー、(1)と(7)は明田川のライブでは良く聴ける曲だ。
まずは明田川の定番(1)から。冒頭はピアノのソロ。
片山はステージ横のベンチに腰掛ける。
無骨な響きから、次第に音数が増えた。ペダルを控えめで、ゆったりとテンポを揺らがせながら明田川はピアノを弾いた。静かに、うなり声が聴こえる。
しばしピアノ・ソロのあと。おもむろに、片山は立ち上がった。ステージへ向かう。
ふっとアイ・コンタクト。
太い音で片山はソロを奏でた。わずかにディキシー・ランドの香りがした。
すごく落ち着いて、いかしたジャズ。
片山の太いテナーが、アケタの中で響いた。わずかな反響が心地よい。
エンディング間際ではピアノがフリー要素を含む、混沌としたソロへ雪崩れた。
続く(2)でも、片山はとびっきりのソロを聴かせた。
ちなみに余談です。この曲のタイトルは"侍一本ブルーズ"だと、何年も思い込んでた。でも今度出るCDの曲名見たら違うみたいね。
"サムライ・ニッポン・ブルーズ"が正式名称らしい。お詫びして訂正します。(過去のライブ日記の記述はたぶん直さないので、「間違ってらー」と笑って済ませてくださいませ)
さて、その"サムライ・ニッポン・ブルーズ"。このあたりから明田川のピアノが自由度を増した。
もともとソロではテンポを自在に変えるが、アンサンブルになるときっちりビートを守る。めちゃめちゃになるからだろう。
だけど今日はまったく気にしない。
自分のソロだろうと、片山が吹いてるときだろうと、かまわずにルバートさせる。
どんなに弾いても片山が反応できると信じてるんだろうな。
浮遊感がなんとも心地よかった。
テーマを一度弾き、明田川は足元のアフリカン・ベルをガラガラ鳴らす。
グランド・ピアノの中へ手を突っ込み、ピアノ線を爪弾く。そして低音部を平手打ち。
彼のライブで見慣れた奏法を、片山は面白そうに眺めてた。
(2)でのテナー・ソロもメロディアスで素晴らしい。
フリーキーさは控えめで、片山はじっくりと旋律を生かし野太く吼えた。
(3)が前半ではもっとも聴き応えあり。とことん演奏が盛り上がる。
ロマンティックな曲だが、あえて無骨なイントロをピアノが提示。
リードを片山が換えたのはこの前でだっけ?
テーマのフレーズをテナーとピアノで分け合う。
たんまりとソロの交換をしたあとで。
いったん演奏は終わりかける。
ところが明田川が弾きやめない。またしてもコーダをぶっちぎって、弾き続けた。
片山も苦笑して、再びテナーを奏でる。
前半はだいたい50分くらい。(3)が終わったあとで「長いよ〜」と片山が漏らしてた。
休憩を告げる明田川へ「そういや、休憩ってものがあったっけ」とつぶやく。
結局、前半はオカリナへまったく手を伸ばさずじまい。
ほんとうはピアノがコーダをあいまいにしたのは、次の曲へつなげる布石だったらしい。
片山と明田川が幕間に笑いながら話してるのが、ふっと聴こえた。
明田川のオリジナル"テイク・パスタン"で幕を開けた後半。
「店のクーラーが効いて来た」と、後ろのドアを閉める。
前半はドアを開けっ放しで、たまに外の車の音が聴こえたっけ。
イントロはピアノのソロ。ここでも明田川はテンポを奔放に変化させる。
ワンコーラス、テーマが終わってわずかにアドリブが加わるころ。
すっと片山がテナーでテーマを吹いた。
このタイミングがすごくかっこよかった。
幾度もテーマを繰り返すのが、この曲で明田川のスタイル。
知ってか知らずか、たびたび顔を出す旋律へ片山がにやりと笑った。
不思議なほどに今夜の片山はフリーキーさを見せない。
一歩引いてるとは思わないが・・・とにかく男っぽい、ダンディなジャズだった。
ステージを照らすのは数個の電球のみ。
薄暗いステージで、ピアノとテナーが力強く対峙する。
(4)ではピアノのソロを膨らますようなオブリをテナーが入れた。
静かにロングトーンで和音へふくらみを与え、カウンターでテーマの旋律を吹く。
片山の持ち曲(5)では、ひときわテナーの音が艶を増した。
もっともテーマが終わったところでコーダへ飛びかけてしまう。
「これじゃ終わっちゃうじゃん」
と、片山が苦笑して方向転換する場面も。
さすがに慣れていない曲なのか、メガネをかけて明田川は譜面を見ながら伴奏を。
たっぷりとテナーのソロを堪能し、ピアノ・ソロへ。
すかさず眼鏡を横に置く明田川を見て、片山が吹き出した。
テナーのバッキングだと探り気味なピアノだが。ソロではがぜん音が前へ。
メロディを常に意識させながら、明田川らしい粘りのあるフレーズでソロを取る。
「(コーダへ)行くよ!」とマウスピースを咥えたまま、片山が明田川へ一声投げた。
(6)でも、とにかくテンポが次々に揺らぐ。
二人きりなのに音へ過不足無い。
力強い二人の音が絡み合い、存在感たっぷりの演奏だった。
最後の曲、(7)で、初めて明田川がオカリーナを取り出す。
数個を持ち替えて、イントロを。ときおりピアノを押さえ、和音感を出した。
オカリーナが"セント・トーマス"の断片を吹いたとき、片山がぴくっと反応する。
今日はほとんど暴れなかった明田川だが、ついにクラスターが飛び出した。
肘打ちを幾度も叩き付け、立ち上がって上から下まで鍵盤を弾きまわす。
最初はタイミングを計ってた片山だが、一呼吸置いて参入。
ロングトーンやスケールっぽいソロで対応する。
だけど寸前まで盛り上がってたとこで、この反応は惜しい。
せっかくなら明田川のクラスターをドラム代わりに、徹底的にソロを吹きまくって欲しかった。
クラスターはふだんより長め。タイミングを見計らって、明田川が最後の一打ち。
にっこり微笑んで終演を告げ・・・ようとした時。
ここぞとばかりに片山が、再度吹き始めた。
かすれたピアニッシモでテーマを奏でる。
さっそく明田川がピアノで加わった。"マイ・フーリッシュ・シングス"の一節を弾き、片山がコケるシーンも。
そして"セント・トーマス"をもうしばし。
最後はあんがいさくっと終わった気がする。
前回の奔放ぶりとは逆方向。がっぷりとジャズで噛みあった、味わいがたんまりのひと時だった。
充実のライブなだけに、録音して無しが惜しい。
しごくストレートに突き刺さるジャズを聴いた気分。
だからこそ。二人の楽器が奏でる"歌いっぷり"が素晴らしかった。